多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十三話 お茶会に招かれた 2

「いきなり質問をぶつけてくるなんて、礼儀がなっていませんよ、グリード」

 

甘く涼やかで上品なその声は、その容姿にふさわしいものだ。

しかし、グリードの事務的な態度は崩れない。

 

「前回の君の所業を忘れたわけではない。警戒が先立つのは道理と言える」

「もう三ヶ月以上前のことじゃありませんか」

「君の性格設定は、その程度の月日で変わるものではないだろう。そもそも変わるものなら、君の側近たちの苦労はとうの昔に解消されているはずだ」

「久しぶりに会ったというのに手厳しいですね」

 

会話をする二機──美少女はひと目で人型ロボット(アンドロイド)だと気づいた──に、私は何故か混乱した。

……あれっ?

頭の中に何かが思い浮かぼうとしているけど、理性がそれを懸命に打ち消そうとしている。

え? 何これ?

私はその美少女を観察しようとするが、またしても理性がそれを阻止しようとしていた。

私は思わず額を押さえる。

……私、このアンドロイドを知っている?

と、そのすんごい美少女アンドロイドと目があった。

青空色のカメラアイがキラリと輝き、周囲に花が咲き誇るような笑顔がその小さく繊細な顔に作られる。

 

「お久しぶりですね、カリヤ様。ラストです」

 

その声に、言葉に、表情に、私は一瞬気が遠くなりよろめいた。

 

「ナナミ?!」

 

グリードがとっさに私の体を支える。

何から何までケチのつけようがない言動に、脳裏に白い不吉なものがよぎった。

ついでに、何故かこの美少女の首が宙を飛んでいる光景も呼び起こされる。

待って。

待って待って待って。

ダメだ! これ以上思い出しちゃいけない!

 

「カリヤ様?! ご気分が悪いんですか?!」

 

身を乗り出し、真剣に気遣う美少女アンドロイドの表情はプログラムで設定されたものだろうに、人と遜色がないほどの表現力だった。

遠目から見たら人と勘違いすること間違いなしだろう。

……私、知ってる。

こんなに凄い表現力を持つAIは、この街の管理AIの一機グラトニーことトニーちゃんと……あ、あああああ!!

体の力が抜け私は道路に跪いた。

 

「ナナミ、大丈夫か?!」

「……思い出しちゃった」

 

私は顔を上げてグリードを見つめる。

 

「グリード、私、思い出しちゃったよ。あの時のこと。ちゃんと忘れようとしてたんだよ。だけど──」

「……君は本気でラストの件を忘れようとしていたのか」

「だって、そう言ったし」

「そうか」

 

すると、車の助手席のドアが開いてブラックスーツを着た女性が私の前にやって来た。

恐らく警備の人だろう。

 

「お身体の具合は大丈夫ですか?」

「はい。ちょっとショックなことを思い出しただけなので大丈夫です」

「そうですか」

 

その女の人は全てを理解したような目で私を見、そして深く頷いた。

あ、この人、事情を知っているな?

女の人は鋭い視線で周囲を見た。

 

「……衆目を集めていますし、ひとまず移動しましょう。グリードさん、よろしいですか」

「わかりました。私も同行しますがよろしいですか」

「はい、もちろんです」

 

確かに、私達の周りに人だかりができつつあった。

とっても珍しい黒塗りの高級車に超がつく美少女、独特のデザインの多脚ロボットと目立つものが勢揃いしている。

これで注目を集めないわけがない。

私は勧められるまま車に乗り、車はすぐに発進した。

グリードはどうするんだろう。

 

「グリードならこの車を追走していますよ。あの機体、普通に車の速度まで出せますからね」

「あ、そうですか」

 

私の考えを見透かしたかのようにラストさんが言った。

そして、私を気遣わしげに見つめる。

 

「それより、本当にお体の具合はよろしいんですか?」

「え、あ、はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「良かった」

 

安堵の表情を浮かべるラストさんに、私の心は小さな痛みを訴えた。

ラストさんに悪気はないのだ。

AI、ロボットだから良心もないし、頭のネジが何本か外れているっぽいけど。

……やっぱちょっとヤバいか?

いや、それよりもだ。

 

「あの、この車はどちらに向かっているのでしょう?」

「お茶会の会場ですよ」

「お茶会」

「はい」

 

ラストさんは上品な笑顔を浮かべる。

 

「今日は午後から時間が空いたので、かねてより計画していたお茶会にカリヤ様をお誘いしようと参上したのです。この前のお詫びもしたかったですし」

 

あ、前回のこと、失敗だったという自覚があったんだ。

少しは性格設定を調整したのだろうか。

さすがにあの騒ぎになったのだから、学習をしたに違いない。

だって、この街を管理する大物AIなのだ。

学習能力だって、そこらのAIよりもはるかに優秀だろう。

 

「本当はタクル様もお招きする予定でしたけど、彼氏のエルヴェシウス様とのデートを優先したいとのことで、今回はキャンセルとなりました」

「そうでしたか」

 

アイちゃん、ユーゴさんを使って上手く逃げたな。

 

「カリヤ様は、グラトニーともお茶をしてお話もされたのでしょう? 今もやり取りをされていると聞いています」

「ええ。でも、トニーちゃん、忙しくて中々お話できる機会はないです」

 

ていうか、物凄く多忙と聞いているから、こちらから連絡することはないけど。

と、ラストさんがキョトンとした表情をした。

そんな表情もいちいち可愛らしい。

 

「トニーちゃん」

「あ! グラトニーさんのことです。そう呼んでほしいと言われまして」

 

慌てて補足すると、ラストさんは口を手で押さえた。

 

「まあ! グラトニーったらカリヤ様にそんなふうに呼ばせていたのですね」

「え、えっと、はい。私はそれはどうかと言ったんですけど」

「ズルいです!」

「え」

 

ズルい?

 

「私も愛称で呼ばれたいです!」

「……えーと」

 

どう答えたらいいのか迷っていると、ラストさんは考え込むように顎に指をあてた。

 

「そうですね。例えば……」

 

ラストさんは会心の笑みとともにポンと手を打った。

 

「そう! インラン♡とか」

 

………は?

 

「ビッチ♡とか、バイタ♡とか、メスブタキャン♡」

 

金色の光がラストさんのオレンジの頭に直撃した。

ピコンという気の抜けた音が車内に響く。

助手席に座る先程の警備の人がこちらを向き、今まさに金色に輝くピコピコハンマーを振るったところだった。

心なしかこめかみがひくついている。

 

「ラストさん、自重してください。オルブライトさんとキスリングさんからもキツく申し渡されたでしょう」

「えっ?! これもダメなんですの?!」

「ダメに決まっているでしょう! というか、わかって仰っていますよね?!」

「そんなことはないですよ。これでもだいぶブレーキをかけています」

「だいぶ、ではなく、全力でかけてください」

 

私は口をぽかんと開けて成り行きを見守ることしかできない。

ラストさんは不服そうに唇を尖らせた。

 

「息苦しくて服を脱ぎたくなりますわ。ねえ、カリヤ様もそう思いません?」

「えっ?!」

「カリヤ様に無茶振りはおやめください」

 

金のピコハンを見せながら、警備の女の人は窘めた。

……グリードの言うとおりだった。

ラストさんのアレな性格は変わっていなかった。

私の見込みの甘さ、ここに極まっている。

うう、大丈夫かな。

私は手にしているぬいぐるみの袋を抱きしめる。

グリード、不安だよ。

反射的にラストさんに失礼なツッコミを入れちゃって、この街での人生が終わりになるのは嫌だよ。

私は後ろを振り向いた。

ラストさんの言うとおり、グリードが追走している。

その独特なデザインの多脚ロボットを見て、私は少しだけホッとした。

 

「カリヤ様、ご安心ください」

 

ラストさんが声をかけてきた。

多分、今この世界で一番説得力のない言葉だと思う。

 

「先日のことは私も反省しております。純朴なお二人には刺激が強すぎましたね」

 

いや、誰に対しても刺激が強かったと思いますよ。

そう言いたかったけど我慢した。

ラストさんは胸に手をあてる。

 

「ですから今日は、皆様の手本になる淑女として振る舞いたいと思っております。そう、これは挑戦なのです」

「挑戦」

「ええ、そうです!」

 

ラストさんは胸の前で両手を組み、青い目をキラキラさせた。

その豊かな感情表現に私は目を奪われる。

本当に凄い演技力と表現力だ。

中身がアレでなければ、素直に賞賛できたのに。

 

「洋服と礼儀作法は、見えない縄であり型枠でもあります。人という形を作り、どのような存在なのかを外部に認識してもらう行為。それらに縛られ、嵌め込まれながら人として女主人としてお茶会を催す。これは紛れもない縛りプレイ! 私の挑戦なのです! ああ、考えただけでも身体が熱く」

「自重っ!」

「アアン!♡」

 

何故か胸のリボンをいそいそと外すラストさんの頭に、再び金色の光が直撃した。

気の抜けた直撃音を聞き流し、私は無意識に背後に目をやる。

友達の多脚ロボットが相変わらずしっかりと追走していたが、当然その表情も考えもわからない。

グリード、ここは魔境だよ。

ここにいるだけで気力がゴリゴリすり減っていくよ。

帰りたいよ。

声に出すことなく訴えるが、返事は当然なかった。

 

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