多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十四話 ハロウィンを一緒に過ごした 2

ハロウィン当日になった。

ネットのニュースでは、早速商業区画と興行区画の賑わいを伝えていたし、SNSでもそのニュースに対する反応がトレンドにあがっていた。

昼間でもこの賑わいかー。

私は薄ら寒いものを感じていた。

これが夜になると、更に混沌の度合いが加速して危険な状態になる。

ニュースの解説では、夜で見通しが悪くなる上に仮装で匿名性が上がることと、群集心理が作用してあの混沌が出来上がるのだと言っていた。

グリードも言っていたオーバーツーリズムは毎年問題になっているのだけど、今の時代でもすっぱりキッパリ解決というわけにはいかないようだ。

トニーちゃんやラストさんのような凄いAIの叡智をもってしても、その対応には苦慮しているんだと想像できた。

恐るべし群集心理。

そりゃグリードも現地で体験したいと言い出すわけだ。

私は絶っ対に行かないけどなっ!

私はネットのニュースを閉じると、好きな音楽をかけながら着替えることにした。

ハロウィンにちなんで、オレンジをメインにした服をチョイス。

目に鮮やかなオレンジのパーカーと黒のワークパンツに艶のあるジャケット、黒のスニーカーの紐をオレンジにして色をまとめてみた。

今日は髪を下ろして黒のキャップを被る。

そして全身をホログラフィに映し出して眺めてみた。

……髪、三つ編みの二つ結びにしようかな。

今のままだと辛口すぎるかも。

髪をいじって簡単にメイクをしていたら、出かける時間になった。

グリードとの待ち合わせの時間には十分に余裕はあったが、ちょっとお店を見て回りたいと思ったのだ。

 

家を出ると、ドームの空は私の着ているパーカーの色のようなオレンジ色が広がっていた。

映し出される雲の流れはのんびりしていて平和そのものだ。

今は平和なドームの空も、夜になったらハロウィン仕様に様変わりすることだろう。

これもまた毎年恒例なことだ。

地下鉄の駅の人出はいつも通りだったが、ぼちぼちとハロウィンの仮装をしている人たちを見かけた。

恐るべきあの混沌の世界へとむかうのだろうか。

電車に乗り、学術区画へと向かう。

その途中の商業区画のターミナル駅は結構な人混み状態になっていて、私は顔をしかめた。

えー……、もうこんなになってんの?

夜になった時のことは想像したくない。

そして、学術区画へと着いた。

駅もその外も人はいつもよりも多めに見えたが、人々は落ち着いて様々な施設のハロウィン仕様を楽しんでいるように思えた。

平和だ。

私は心からホッとした。

道や施設のハロウィンのお飾りを楽しみながら、ネットで気になっていたショップへと足を運ぶ。

学術施設とはいえ、商業のお店が全くないわけではない。

ハロウィン仕様でありながら上品に飾り付けられた小さなお店に入ると、ハロウィンにちなんだ商品が所狭しと売られていた。

が、人も多い。

……なーに、この程度の人の多さ、あの商業区画の混雑に比べれば実に可愛いものである。

お店に入ったのはハロウィンの有名なフレーズ『トリック・オア・トリート』にちなんで、グリードにお土産を買おうと思ったからだ。

とはいえ、グリードは多脚ロボット。

定番中の定番であるお菓子は選択から真っ先に外れることになり、私の頭を悩ませることとなった。

グリードに心はなく、好き嫌いもない。

私のことを好きだと言ってくれたけど、それが人と同じものである保証はどこにもない。

だから、どんなものを渡しても受け入れてくれるだろうけど、それでもなんかこう、喜んでくれるものを考えてしまうのだった。

喜ぶも何もないのに。

このハッピーハロウィンで可愛いホログラフィのカードとあともう一品、何か付け足したい。

……店の混み方が結構なことになったので、カードだけを買って外に出た。

やっぱりハロウィン当日の人出は大したものだ。

私は買ったカードをバックに入れ、目的もなく歩き出そうとした時、ジャケットのポケットに入れていた端末が震えて何かしらの着信があることを告げた。

端末を見ればグリードからのメッセだ。

 

「ハッピーハロウィン、ナナミ。いよいよハロウィン当日だな。約束の時間は三時間後だが、予定に変更はないだろうか」

 

ハッピーとは思えないいつものお硬い文面。

私はハロウィンのスタンプを早速送り、それから画面をタップした。

 

「ハッピーハロウィン、グリード! 私は全く問題ないよ。そろそろ出発するの? 本当に洒落にならない人出だから気をつけてね!」

「わかった。また連絡をする」

「はいはーい」

 

はしゃいでいるオバケたちのスタンプを送信し、既読マークがついたところで端末をポケットへとしまった。

さて、グリードと合流する前にお土産を探さないとね!

私は暗闇の迫り街灯が灯りだす道を歩き始めた。

そして収穫はゼロのまま、グリードと合う予定になっているビジネス区画へとやって来た。

ドームの空は暗闇を背景に、お化けや魔女が賑やかに飛び交っている。

タイムリミットだ。

私の脳裏に昨日のアイちゃんとのやり取りが思い出された。

昨日、友人のアイちゃんにこの件を相談をして、ホログラフィのカードを送るところまでは思いついた。

だが、もう一品となるとさすがのアイちゃんも腕を組んで首を傾げた。

 

「難しいね」

「でしょ」

「そもそもハロウィンって、収穫のお祝いとご先祖様をお迎えして、悪い霊を追い払うお祭りって聞いたことがあるよ。ぶっちゃけ、ロボットとは縁遠いお祭りだよね」

「だねー」

 

それを言ったら、他のお祭りもロボットとは縁遠いものだろう。

『トリック・オア・トリート』をシカトすればいいのか。

でもグリードは私にサプライズすると言っていた。

ならば私もできる範囲で、そのサプライズに応えたいと思ったのだ。

しかし妙案は思いつかない。

 

「こうなったら通販で、トウモロコシとサトウキビを手に入れるしかないんじゃ」

 

半ばヤケになって言う私に、アイちゃんは眉を下げた。

 

「ナナちゃん、もしかしてバイオマス燃料を意識してる? 古典的で滑っている上に、グリちゃんの燃料はバイオマスじゃないでしょ。無理があるよ」

「やっぱダメかー」

「まだ時間はあるよ。落ち着いて考えよ。いざとなったら、グリちゃんと一緒にショッピングしながら探すのも手だよ」

「……うん、そだね。考えとく」

 

……多脚ロボットへの贈り物、難しいな。

私は肩を落とし、ため息をついた。

これはもう最終手段、グリードと一緒にショッピングをしながら探す、にするしかない。

それも難航しそうな気がするけど。

普段の土日は人気の少ないビジネス区画も、今日だけは人が多めのような気がする。

例の混沌を避けて、落ち着いてこのお祭りを楽しみたい人たちだろうか。

パッと見コーデも落ち着いていたし、人は多めとはいっても好きなように歩ける余裕があった。

私はグリードとの待ち合わせの駅へとのんびり向かいながら、ふと、一つのお店に目が止まった。

メンズブランドのショーウィンドウ。

そこには、この街では珍しい前時代のスーツ姿のマネキンがホログラフィで映し出されていた。

一定時間ごとにポーズを変え、これからの季節にふさわしい装いを演出している。

店の出入り口も高そうな雰囲気を醸し出していた。

実際にこういうお店は高い。

前時代のデザインのスーツを着こなせるのは、お金持ちの証である。

ホワイトカラーの庶民のビジネス的な服装は、余分な布地を排除しつつ、露出の少ない、特殊な布地を使った服だ。

洗濯やアイロンに気を使わず取り扱いが楽だし、みんな同じデザインなら当たらずとも外れることもない。

カラバリは多様だが、ビジネスともなれば定番の黒や紺、灰色に人気が集まる。

そこに差し色を取り込んだりする人もいるけど少数派だろう。

無個性だが、ま、遊びじゃなくて仕事だしね、と思わなくもない。

私は様変わりするホログラフィを見つめる。

……いいよね、スーツ。

男性の前時代のスーツ姿を見るのが好きだ。

お金持ちだからとかじゃなくて、前時代の漫画を見てから興味を持ち、そして好きになった。

いろんな形があるけど、どれもストイックなデザインでステキだと思う。

現実ではお目にかかることは中々なく、私が実際に目にしたのは、この街の管理AIであるトニーちゃんことグラトニーさんの職場へ行った時だ。

アップグルント本社に向かう地下鉄と本社ビルにいるビジネスマンに、スーツを着ている人をチラホラ見かけた。

それと、案内してくれた人型ロボット(アンドロイド)も着ていたっけ。

前時代はみんなが当たり前のように着ていたと言うけど、にわかに信じがたかった。

……そろそろ待ち合わせの場所に向かおう。

程なくして待ち合わせの駅前に到着したが、多脚ロボットの姿は見当たらない。

と、駅のインフォメーションに、商業区画の路線が混雑の影響で遅延が発生しているお知らせが流れていた。

ふふ、やはりそうなったか。

苦笑して気付く。

グリードからの連絡がないな?

ポケットから端末を取り出し確認するが、グリードからの着信はない。

歩行者の邪魔にならない場所に移動し、グリードに向けてメッセを送る。

 

「グリード、待ち合わせの場所についたよ。安全第一で来てね」

 

手を振るカワウソさんのスタンプと一緒に送信。

最初は気楽な気持ちで待っていたが、連絡がないまま十分、二十分と経つうちに不安が募ってきた。

生真面目で堅物であるが故に、連絡もマメなグリードからの連絡がないのはだいぶ珍しいことである。

そんなグリードからの連絡がない理由として可能性が高いのは、人の大混雑によって通信障害が起きていることだ。

通信障害なんて普段なら絶対にあり得ないんだけど、このイベントに関してはそれが起こっちゃうとこが怖いところである。

前に一度行った時も、アイちゃんと連絡が取れなくなってもどかしく心細い思いをした。

で、可能性は低くともありえるのはロボット嫌いの人たちに絡まれていることだ。

多脚なんて作業現場以外で見かけることは少ないのに、グリードは一鍔(ヒトツバ)さんの珍しいデザイン。

嫌でも目立つことはこれまでの経験から分かりきっていた。

そして今までは、ロボットに好意的な人たちと接することができたという幸運にあやかれていたが、今回はそうはいかなかったのだろうか。

待ち合わせの時間から三十分が過ぎた。

SNSの情報では、いよいよ件の区画の混沌ぶりが本格化してきたと報じていたが、暴力沙汰が起こったとかの物騒な話はなかった。

多分大丈夫なんだろうけど。

もう一度メッセを送ろうか悩んでいると、手の中で端末が震えた。

画面を見て笑顔になる。

グリードからだ!

 

「ナナミ、通信障害で連絡が取れなかった。すまない。駅が入場規制がかかっていて今電車に乗ったところだ。もう少しで着くから待っていてくれ」

 

私は即座に画面をタップした。

 

「OKOK! 無事でよかったよ。ちゃんと待ってるから気をつけて来てね」

 

OKしているカワウソさんのスタンプと共に送信し、思わず安堵の吐息がこぼれた。

ひとまず無事なことは確認できた。

良かった良かった。

私は端末をポケットにしまった。

ダイヤは乱れているようだけど、後十分くらいで着くかな。

私は改札の見える場所に移動する。

ここからなら、グリードの姿もすぐにわかるだろう。

そして、電車の到着を告げるアナウンスが流れ、エスカレーターを上がってきた人々が次々と改札を抜けていくのを見た。

だがそこに、見慣れた多脚ロボットの姿はなかった。

……次の電車かな?

と思った時、人々が一人の人物に目を向けていることに気づいた。

その視線を追い、目を見開く。

うっわっ! 何だ、あのメッチャオーラ漂わせているイケオジは?!

ナイスミドルを体現したかのような容姿。

高そうな前時代のスーツを難なく着こなし、姿勢良く歩く姿はモデルか俳優のよう。

すごいなっ!?

イケオジ好きのアイちゃんとハンナちゃんが見たら腰を抜かしていただろう。

でも! 私は! セーフ!

内心で両腕を大きく横へ広げる。

あと十年若かったらヤバかったけどね!

さ、引き続きグリードを待つとしますか。

 

「ナナミ」

 

聞き慣れた声がして目を向ければ、そのイケオジの鮮やかな水色の目がこちらを見ていた。

……え?

イケオジはまっすぐにこちらにやってきて改札を抜けると、私の前に立ち表情を少し歪めた。

 

「ナナミ、待たせてすまない。あの区画の混沌ぶりを、人の群集心理を完全に見誤っていた。私のミスだ。本当にすまなかった」

 

イケオジは謝罪をするが、私はそれどころではなかった。

……あ、あれ?

声は聞き慣れたものだ。

私と週に一回は会っている、多脚ロボットの声。

しかし姿が一度たりともお目にかかったことのないアンドロイドだった。

そもそもお目にかかっていたら、そうやすやすと忘れはしないだろう。

…………まさか、そんなことがある?!

すると、私の様子に気づいたイケオジが怪訝そうに私に視線を合わせた。

 

「ナナミ?」

「え、あ、いや、その」

「……もしかして、私が誰か気付いていないのか?」

「えーと、気づいているような、そうでないような。確信が持てないというか」

「そうか」

 

すると、イケオジは姿勢を正して胸に手を当てた。

 

「私はグリードだ。君の友達にして、君のことが好きなグリードだよ」

 

そう言って、グリードを名乗るイケオジは小さく静かに微笑んだ。

 

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