多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十四話 ハロウィンを一緒に過ごした 5

デザートも食べ終わり、テーブルの上には今しがた持ってきてくれた食後のコーヒーだけになった。

いつものカフェで飲んでいるコーヒーも美味しいけど、ここは高いだけあって香りも味も格別だ。

この香り、落ち着くー。

そんな私の向かいで、グリードはテーブルの上で両手を軽く握った。

 

「今更だと言う自覚はあるが聞いてもいいか」

「ん? 何?」

「君の服装のことだ。ナナミもハロウィンを意識したのか?」

 

お! よく気付きましたな!

私はニッコリと笑った。

 

「そだよー。せっかくだからそれっぽい色にしてみた」

「そうか」

 

言ってグリードは小さく微笑んだ。

うっ! ちょっと微笑んだだけでもこの威力。

フルの笑顔を向けられたら蒸発するんじゃないのか?

 

「特にそのオレンジ色、工事現場の重機のような視認性のある良い色だ」

「え」

 

……こっ、工事現場?!

重機?!

……初めてだ。

服装の感想で工事現場やら重機やらを絡めてくる存在、二次元でも三次元でも見たことも聞いたこともない。

 

「……グリードさんや」

「何だ」

「それは褒め言葉と捉えていいのかな?」

「ああ。……何かおかしかったか」

 

かなりな。

即、心では突っ込むが口には出さなかった。

グリードが私の服装に関心を持ち、褒めてくれたことに目を向けよう。

 

「褒めてくれてありがとう。気付いてくれて嬉しいよ」

 

まずはお礼。

 

「でもね、私はともかく、女の子の服装を褒めるときは、工事現場とか重機とかの例えはやめた方がいいよ」

「何故だ」

 

やっぱり何故と聞くのか、このロボ。

 

「多くの女の子たちはそういうのに興味なくて、褒め言葉だと思わないからだよ」

「視認性の良さは褒め言葉にならないのか」

「うーん、……時と場合によるんじゃない?」

「そうか。服装を褒めるのも中々難しいものだな」

「これから少しずつでも学習していけばいいよ。ナイスチャレンジだったよ」

 

こういうやり取りをしていると、ああ、やっぱり中身はいつものグリードだなって改めて思う。

コーヒーを飲み終えた私は、トイレに行くため席を離れた。

そして席に戻ろうとした時、出入り口前にあるカウンターに何か置かれていることに気づいた。

それは、トリック・オア・トリートと書かれたポップと、ハロウィン仕様のクッキーが入った袋だった。

……そうだ! 今のグリードならお菓子を食べられる!

これと一緒にカードを渡そう!

私は店員さんを呼び、クッキーを購入した。

 

「お帰り、ナナミ。何を買ってきた?」

 

目敏いな。

 

「グリードへのお土産だよ」

 

私はバックからホログラムのカードを取り出し、クッキーと一緒にグリードに渡した。

グリードは真顔で手にしたものを見つめる。

 

「これは」

「お菓子買ってきたからイタズラはしないでね。なーんて」

「トリック・オア・トリート。イタズラ防止策か」

「違うよ。グリード、サプライズしてくれたでしょ。そのお礼をしたかったの」

 

私はグリードに笑顔を向けた。

 

「今日はありがとう。ご飯も美味しかったよ。ごちそうさま」

 

グリードはプレゼントを手にしたまま、私を見つめた。

そして、形のいい口を開く。

 

「……今日こそはナナミの私への好感度を上げようと思っていた。いつも私ばかり上げられているから」

「えっ? そうなの?」

「そうだ」

 

グリードは生真面目な表情で頷いた。

 

「だが今日も、私の君に対する好感度がより上がった結果に終わった。私はいつになったら君の私に対する好感度を上げられるのだろう」

「友達としての好感度と信頼度は上がっているよ。大丈夫だから」

 

グリードは信頼のできる大切な友達だ。

例えばこの先、もう二度と会えないことになったとしたら、どんな理由であれきっと寂しく思うだろう。

それくらいには、グリードは身近な存在となっている。

 

「私はね、友達としてグリードともっと仲良くしたいと思っているよ」

 

ずっと思っていたことがある。

心云々はひとまず置いておいて、グリードは私のことが好きだと言っている。

そこは否定しない。

でもその好きって、どんな種類のものだろうかと。

まあ、普通に考えれば恋愛だと思うだろう。

でも、人の恋愛の多くは性欲に繋がっているけど、グリードにはそれがない。

それって本当に恋愛って言えるのか。

えっちなことが全てではないけど、それが密接に繋がっているのは事実だ。

恋愛は心だけでなく体も一緒にするものだと青年漫画で学んだ。

そもそもだ。

人の恋愛感情とAIやロボの恋愛感情は同じものなのだろうか。

こんなに何もかもが違うのに。

 

「グリード」

「何だ」

「グリードの好きなもの、私以外にある?」

「……興味のあるものはあるが、明確に好きだと言えるものは君しかない」

「それ!」

 

私はテーブルに少し身を乗り出した。

真剣な表情を作ってグリードを見つめる。

 

「私ね、グリードに好きなものが増えたらいいなって思っているの。私以外にも好きなものができれば、私への気持ちの解析や整理ができるし、この街や人やモノへの愛着が増して使命へのやる気も上がるんじゃないかって」

 

私を見つめるグリードに、私は笑顔を浮かべた。

グリードを大切にしたいと思ったら、自然とそんな態度になった。

 

「グリードの気持ちは嬉しいよ。でも、好きなものが私だけっていうの、ちょっと危ういなって。私がいなくなったら、グリードどうなっちゃうんだろうって不安になるんだよ」

「ナナミ」

「だから、好きなものを増やして、使命を果たす拠り所をいっぱい作ってほしいなって思ったの。私はグリードに使命を果たして、幸せになってほしいと思っているから」

「幸せ。……君は私の幸福を願っているのか?」

「もちろんだよ。大切な友達だもん」

「そうか」

 

言ってグリードは微笑みではなく、ハッキリとした笑顔を見せた。

心のどこかで、ジュッと蒸発するような音が聞こえ、目の前が真っ白になった。

 

「そう言ってくれたのは君が初めてだ。ありがとう」

 

声が聞こえて我に返った。

顔が熱く、まともにグリードを見ることができない。

……本当に、グリードには心はないのだろうか。

これが調整されたものなのだとしたら、どれだけの技術力なのだろう。

しかもまだ発展途上ときた。

恐るべし、アンドロイド姿のグリード。

いつもの四脚だったらこうはならなかっただろう。

 

「ナナミ」

「え?!」

「君の買ってきてくれたこのクッキーだが、今一緒に食べよう」

「え、でも」

「君と一緒に食べたいんだ」

 

優しい笑顔で言われ、私はグリードを直視することができず、空のコーヒーカップに視線を落とした。

 

「でも、コーヒー飲んじゃったし」

「おかわりはいけそうか?」

「いけるけど、でも」

「お金のことは心配する必要ない。喜んで出そう」

 

言って、グリードはすかさず店員さんを呼ぶと二人分のコーヒーを頼んだ。

またたく間にコーヒーが運ばれてきた上に、クッキーの袋を開けようとするグリードを見て受け皿も用意してくれた。

気が利くなー。

クッキーは紫と黄色と焦げ茶色のチェック柄になっている。

そして、コーヒーに合いそうないい香りがした。

 

「じゃあ、いただきます」

 

私はクッキーをつまみ一口かじった。

ん?! 何かいろんな味と香りを感じる。

コーヒーを飲むと、その香りのせいかさっきとは違った印象になった。

うん、美味しい!

グリードも続いていて一口食べた。

咀嚼し飲み込んで私を見る。

 

「紫色は紫イモ、黄色はカボチャ、焦げ茶色はココアをベースにしているようだ。風味付けにバニラビーンズ、シナモン、オールスパイスを使用している。エネルギーは五十ニキロカロリー。タンパク質〇・六グラム。脂質ニ・五グラム。炭水」

「解析はもういいよ。お味はいかが?」

 

私の言葉にグリードは目を伏せた。

 

「甘く苦いと一般的には言われる味だろう。だがそれが美味しいか不味いかは、私にはわからない」

「そっか」

 

急にわかるわけないよね。

気にしなくていいよ、って言おうとして、グリードが微笑んでいるのを見た。

マトモに見ることができず、すかさず視線をクッキーへと移す。

 

「でも、君と一緒に同じものを食べることができたことは大切な経験だ。きっとこの味は、忘れることはないだろう」

「うん」

 

私は顔を上げた。

グリードの笑顔に負けじと、ニッコリと笑う。

 

「これからもいろんな経験積んでいこうよ。私も、お手伝いできることはするから」

「ああ。これからもよろしく頼む」

 

私の今年のハロウィンは、例年になく楽しくて美味しくて、でもどこか落ち着かないものになったのだった。

 

<ハロウィンを一緒に過ごした 完>

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