多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十五話 事件に巻き込まれた 1

その日は一泊二日の遠征に出ていた。

午前中はアパテイアの大企業(メジャー)が共有で管理する補給基地へ向かうことに費やし、午後から作業に入った。

朝から珍しく天気が良くて、本当に久しぶりに太陽の光を浴びての作業となった。

ただしその日の成果は不調に終わり、補給基地へ戻ろうとして異変に気づいた。

遠くにある砂山らしきものが動いているように見えたのだ。

私は立ち止まって画面に目を凝らす。

 

「ナナちゃん、どうしたの?」

 

情報収集等のサポートを担当するアイちゃんが私の状態に気づき声をかけてきた。

 

「うん、ちょっと気になるものがあって」

 

言いながらアイちゃんと、今日の仕事のバディでもある先輩のロイさんにデータリンクでその映像を共有する。

 

「……ん? 何だこの砂山、動いてなくね?」

「はい。あそこ、戦闘エリアでしたっけ?」

「いや、あそこらも浄化エリアで間違いねぇけど」

 

二人も異変に気づいたようだ。

怪訝に思った私は映像を拡大表示をして、その光景に我が目を疑った。

夕日を浴びて逆光になったそれは、最初は歪な形の砂の山が動いているのかと思った。

だがそれの輪郭がはっきりするにつれて体が震えて動悸が激しくなった。

 

「……あ、これ夢だ」

 

やはり拡大表示で映像を見たであろうロイさんが、どこか間の抜けた声で言う。

 

「だってあれ先の大戦の骨董品だろ? 俺、昔の強化外骨格(パワードスーツ)のこと結構知ってんだ。自分で言うのもなんだが俺オタクだからな。しかも何アイツ動いてんじゃん。ハハッ、これ絶対ぇ夢だって!」

 

ロイさんは半笑いかつ早口でまくし立て、現実逃避をする始末。

それは大きな荷物を背負う人型のロボットだった。

私達の乗る大型パワードスーツは十メートルを超えるが、それがおもちゃに見えるほどの巨大な姿。

それどころか、右手に握るバズーカ砲? も、背負っている六角形の箱──武装が詰まっているだろう──も、パワードスーツの背丈を優に超える。

話に聞いたことはあった。

先の戦争で各超大企業(スーパーメジャー)は、自社の技術を結集させて抑止力となりうる巨大な自律型ロボットを作ったのだと。

その力は絶大で、その巨体から繰り出される武装の一部は、地形が変わるほどの威力だったとされている。

 

「アイちゃん、アレの解析お願い!」

「う、うん、わかった!」

 

私の指示にアイちゃんは慌てた様子で応えた。

恐らく私同様、呆気にとられていたに違いない。

てか、驚かない人がいようか。

あんなに大きなロボットが動いているなんて、目の当たりにしていなければ絶対に信じなかったと思う。

しかも八十年以上前のロボットだ。

何で動けるの?!

と、その時、巨大ロボットの頭部がピカリとまばゆく輝いた。

続けて西の方角に轟音と共に大爆発がおこる。

……えっ。

え、え、な、何あれ。

てか、何で攻撃してんの、あのロボ。

 

「ナナちゃん! ロイさん! あの巨大ロボの解析できた! シャマイムの決戦兵器『ルシフェル』だよ!」

「やっぱそうかよ! てか何でそんな骨董品が動いて、しかも攻撃してんだ!?」

 

ロイさんも私と同じ疑問にたどり着く。

そこに、救援信号を受信したアラーム音が鳴った。

 

「救援信号?!」

「……あの骨董品に攻撃されている人がいんのか?」

「……います。ルシフェルを中心に半径百メートルの範囲で人の生体反応を確認。数、十七」

 

続けてアイちゃんからの報告に、私は戦慄した。

え、何で人がいるの?

その時、脳裏に閃くものがあった。

……アレにちょっかいを出したのか。

何てバカなことを!

私は数日前に知った、この街の危機について思い出す。

だがそれをアイちゃんたちに言うことはできなかった。

話してくれた存在とそういう約束をしたからだ。

 

「救援信号ったって、あんなの相手にどうやって助けりゃいいんだよ」

 

途方に暮れた様子のロイさんの語尾に、再びロボの頭部が輝いた。

再び起こる大爆発。

しかも一発どころじゃない。

頭部は何度も光り輝き、その都度大爆発が起こっていた。

攻撃を受けた周辺は真っ黒な煙が勢い良く立ち上り、地面が真っ赤に燃えているのが見えた。

 

「ル、ルシフェル周辺の人の生体反応、消失」

 

アイちゃんからの震えた声の報告に全身が震えた。

恐らくは部隊を率いての作戦行動だっただろう。

それが、たった数分で全滅って。

怖い。

はっきりとそう思った。

 

「……ここから離れよう」

 

私の心の声を代弁するかのように、ロイさんが硬い声で言った。

 

「アイツのお相手は俺達には荷が重すぎる。さっさとずらかるぞ。アイラ、補給基地と会社に報告!」

「了解です」

「ナナミ、しっかりしろ。動けるな?」

「は、はい!」

 

私の状態を把握したであろうロイさんの問いかけに、私はどうにか返事をした。

私は深呼吸を繰り返す。

……うん、大丈夫!

シリウス、今日は帰ろうね。

仕事は明日また頑張ろう。

私は愛機に心のうちで呼びかけ、悪夢のような巨大ロボに背を向けた。

しかし、先に進むことができなかった。

不吉な地響きが立て続けに聞こえた。

それを聞きのがすことができず、恐る恐る振り返ると、人型がゆっくりと動いているのがわかった。

 

「嘘」

 

アイちゃんの呆然とした様子の声が聞こえてきた。

 

「ルシフェルがこっちに来てる。近づいている!」

「えっ?!」

 

私とロイさんは同時に声を上げた。

 

「何だよ。こっちに気付いたってか?!」

「それはわからないけど、でも、間違いなくこっちに来てます!」

 

私はユラユラと揺れているように見える巨大ロボットを見、そして背後を見やった。

私達のはるか後方には、私達の住む街がある。

頭に閃いた最悪の予想に、私は再び動悸に襲われ胸に手を当てた。

嫌な予感がした。

すっごく嫌な予感がした。

 

「とにかく逃げるぞ。俺達じゃひとたまりもねえ!」

 

切羽詰まった声でロイさんが言った時だった。

 

「それは待ってもらおう」

 

突然通信に割り込む男とも女ともつかない声音。

続いて目の前の画面にやっぱり性別不詳の、しかし整然とした美貌の人が現れた。

思わず顔が引きつる。

見たことのある顔だった。

つい最近知り合ったAIだった。

 

「あ! ナナちゃん、このロボット──」

「スロウスさん……」

「あ? お前らの知り合いか? てか何だよ、待てって。俺達の状況を知っててそれ言ってんのか?!」

「そうだ。君たちはそこで待機してほしい」

 

スロウスさんは端正な顔に何の表情も浮かべず肯定する。

私は思わず絶句した。

えっ、何それ。

 

「ど、どうして……」

 

私同様、困惑した様子のアイちゃんがたずねるが、スロウスさんの表情は微動だにしない。

 

「まだルシフェルは君たちを探知していないが、それも時間の問題だ。君たちに気付いたら、確実に攻撃を仕掛けてくる」

「だから、その前にさっさと街へ逃げようぜって話だろ。てか、誰だよお前は」

「ボクはルシフェルの持ち主、スロウスだ」

 

その言葉に、アイちゃんとロイさんはビックリしていることだろう。

でも私は知っていた。

つい先日会って、街の危機の話を聞かせたAIだったからだ。

 

「……貴方は、凍結されているシャマイムの管理AIだったんですね」

「そうだ」

「それで、どうして私達はここで待機しなきゃならないんですか?」

 

ほんわかした容姿とは裏腹に、グロとゴア以外では肝が座っているアイちゃん。

努めて冷静に話を聞き出そうとしているようだった。

 

「ルシフェルをこれ以上街へ近づかせないためだ」

 

スロウスさんは語り始める。

元々ルシフェルは自律型の決戦兵器だった。

シャマイムの軍事工場は凍結され隠されていたが先日、過激派組織が工場を発見し襲撃した。

そして発見されたルシフェルを無理やり起動した結果、プログラムに異常が発生しルシフェルは暴走。

その過激派とアジトは暴走したルシフェルによって全滅したという。

事態を重く見たスロウスさんは干渉を試みたけど、自律型が仇となってそれができなかった。

今ではパワードスーツと見れば、どんなものであれ──たとえ人が乗っていようとも──攻撃をするようになっているのだと。

そして何より。

 

「右手に持つ戦術核のキャノンを街へ向けさせることは絶対に阻止しなければならない」

「かっ、核?!」

 

アイちゃんが声を上げるのも無理はない。

この星を汚し、あらゆる生物がアパテイアへ閉じこもることになった最大の要因があの右手に握られている。

 

「だからどうした」

 

苛立った様子でロイさんが言った。

 

「俺達は民間人だぞ。しかも乗っている機体は武装も何もねえただの産業パワードスーツだ。どうやってあいつとやりあえってんだよ!」

「やりあえとは言っていない」

 

感情が昂ぶるロイさんと反比例して、今のスロウスさんは感情を持たないロボットらしく冷たく無機質な声で応答をする。

 

「ただ傭兵たちが来るまで、そこで待機してほしい。今君たちが街に戻れば、その熱源を追ってルシフェルが街に近づくことになるだろう。戦術核の射程内に街を入れることは絶対に阻止しなければならない」

 

言いたいことはわかった。

もし私が街にいてこのことを知ったのなら、スロウスさんに同調したことだろう。

でも……こんなことって。

落ち着こうと深呼吸をするけど、身を苛む悪寒も動悸もおさまらない。

口の中が乾いて、どうにか唾液を飲み込んだけど、それで気が休まるわけでもない。

 

「……街を守るために俺達に犠牲になれってか」

 

地を這うようなロイさんの声にスロウスさんは答えなかった。

その沈黙が、ロイさんの言葉を肯定しているのだと絶望と共に悟った。

アイちゃんの息を呑む声が聞こえた。

 

『人を救い、幸福へと導く』

 

私の友達のグリードが、この街の管理AIであるグラトニーさんとラストさんが、そしてスロウスさんが製造元より受けた使命だ。

私達は人だ。

その使命のもと、私達はAI達に救われ幸せになるはずだった。

なのに、いつの間にそこからこぼれ落ちてしまったらしい。

私達はいつも通り仕事をしていただけなのに。

……シリウス……どうしよう。

私は震える手で操縦桿を握りしめる。

私、まだ死にたくないよ。

冷たい現実から目を背けたくて、私は固く目を閉じた。

 

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