多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十五話 事件に巻き込まれた 2

先日の日曜日のことだ。

私はグリードとアイちゃんと一緒に、アパテイアの植物園を訪れていた。

先日ラストさんのお茶会で植物園の話が出た。

その際に秋バラがそろそろ見頃をむかえると聞き、せっかくだから見に行こうと思い立ったのだ。

私がその話をすると、グリードも一緒に行くと名乗りを上げた。

これは毎度のことだ。

人の集うところにグリードの姿あり。

使命を果たすために、人の観察に熱心で真面目な多脚ロボットなのである。

で、その話を友人のアイちゃんにもすると、一緒に行ってもいいかとたずねてきた。

 

「ユーゴさんと一緒に来るの?」

「ううん。ユーゴね、先週から外部組織の調査で休日返上で働いているの。だから今回は私一人で行くよ」

「そっか。もちろん歓迎だよ」

 

私は笑顔で答える。

にしてもユーゴさん、休日返上か、珍しいな。

 

「外部組織の調査って、そんなに時間のかかるものなの」

「守秘義務があるから詳しくは聞けなかったけど、何か今回は特別な事情があるみたい」

「そうなんだ」

 

傭兵の仕事は、街の外に蔓延する有害物質とナノマシンによって異形化かつ凶暴化した生物の排除だけではない。

街の外は治外法権だ。

その状態を利用して、街の外にいて過激な思想をもってアパテイアを攻撃しようとする外部組織の調査や討伐も傭兵の立派なお仕事である。

つくづく傭兵のお仕事は大変だなと思う。

だからこそ、民間人とは比較にならないほどの稼ぎを得ることができるのだけど。

そうして、グリードとアイちゃんとで植物園に出かけて広い園内を見て回った。

人以外興味ないと思っていたグリードだけど、何故か大温室のどこか不気味な熱帯植物を観察していた。

 

「グリちゃん、食虫植物に興味あるの?」

「食虫植物に限ったことではない。熱帯の植物は普段は見ることのない生態と形をもっている。中々興味深い」

「……そっかー」

 

片手を上げて答えるグリードに、アイちゃんはちょっぴり引いているようだった。

私は首を傾げる。

 

「グリード、前に水族館に行った時も深海魚のぬいぐるみに興味持ってたよね。もしかして、ちょっぴり不気味なものが好きなの?」

 

すると、グリードはドラ焼きのように見えなくもない頭の下に手をやった。

 

「熱帯植物にしても深海生物にしても人への興味と比較したらまだ低いほうだ。好きと決定付けるには検証が必要だろう」

 

そりゃそうか。

グリードの好きを見つける旅は始まったばかり。

私同様、たくさんの経験が必要なんだろう。

そんな中で、私のこと好きって言ってくれたの、本当に特別なことなんだと思わずにはいられない。

そんな私の横で、アイちゃんは頬に手を当てた。

 

「グリちゃん、人型ロボット(アンドロイド)の姿は非の打ち所がなくてあだ名で呼ぶのためらっちゃうほどだけど、でも中身はグリちゃんなんだよね」

「アンドロイドの姿もこの姿も私であると言えるし、どれもが違うと言える。私はAIだからな」

「特定の形がないんだね」

「そうだ」

 

グリードの態度はいつもどおり淡白だった。

ハロウィンの時に超イケオジになったグリードの画像を、アイちゃんと後輩のハンナちゃんに見せたことがある。

二人とも職場であることを忘れ声を上げて驚き、ハンナちゃんは腰を抜かしたほどだった。

 

「待って待ってヤバイヤバイヤバイ! ナナミ先輩、よくこれ直視できますね!? 私、無理でっす! 何ですかこの超新星爆発! 消して! いや消さないで! ああっ! 拝みたいのに拝めない!!」

 

腰を抜かしながらも喚き散らし、父である整備士長の怒りの雷が落ちたのだった。

私はそんなことを思い出しながら、最後のフロアへと足を進める。

入った瞬間、アイちゃんが声を上げた。

 

「わあ、キレイ!」

「香りもすごい。華やかだねえ」

「この白くて連なってるの、私好きかも。何ていうのかな?」

「洋ランの一種、コチョウランだ。学名はファレノプシスアフロディテ。ランの中でも非常に人気の高い種だ」

 

棚にビッシリと並べられたコチョウランに、アイちゃんはカメラで写真を撮りまくっていた。

アイちゃんの趣味の一つが写真撮影で、今日もボーナスで買ったカメラを持参していた。

楽しそうで何よりだ。

そしてコチョウランの他にも、様々な洋ランが飾られていて、色も様々だった。

と、赤紫色の花に目が止まった。

コチョウランが清楚なイメージがあるのに対し、こちらはゴージャスなイメージだ。

 

「グリード、これは?」

「これはカトレアだ。学名もカトレア。ランの女王と呼ばれており、こちらも前時代から非常に人気の高い種とされている」

「色々あるんだね」

「ここでは人気の高い二十種を展示しているようだが、前時代では二万六千種ほどあったらしい」

「……にまんろくせん」

 

数が大きすぎてピンとこない。

周囲を見れば女性を中心に、アイちゃん同様写真を撮っている人が多かった。

 

「ね、ナナちゃん、グリちゃん。ここで一緒に写真撮ろ?」

「いいよー」

「では、私が撮ろう」

 

グリードは内蔵された独自のカメラで写真を撮り、すぐに共有をしてくれた。

コチョウランをバックに笑顔を浮かべる私とアイちゃん、そしてキメラなデザインの多脚ロボが写っている。

……不思議な組み合わせだなー。

アイちゃんはニコニコしながら早速ユーゴさんへと送ったようだ。

満足して大温室を出て、張り切ってバラ園へと向かった。

まず気付いたのは香りだ。

さっきの洋ランとはまた違った芳香が、屋外だというのにはっきりとわかるほどに漂っている。

そして大きなバラ園の光景に、私とアイちゃんは声を上げた。

 

「うわー、すっごいね!」

「ね。バラもたくさん咲いてるけど人も多いよ」

「今が一番の見頃のようだからな」

 

私の横に並んだグリードが冷静に言う。

 

「このバラ園は二百三十品種、一万五千株を展示しているそうだ」

「さっきのランの十倍以上あんじゃん」

「バラの品種数、正確に言えば園芸種と呼ばれるものは前時代では少なくとも四万以上、この星の最盛期には十万以上あったとされている。人の手による進化と淘汰が著しく、正確な数は不明とのことだ」

「ほえー」

「さすが、花の女王と呼ばれるだけあるんだね」

 

アイちゃんが眼前の光景を見ながら感心したように言った。

そして、人混みにめげることなく私達はツル状のバラが咲く門をくぐり、バラ園へと足を踏み入れた。

グリードの説明を裏付けるように、様々な形、色、香りのあるバラが瑞々しく咲いていて、見ていて飽きることはない。

アイちゃんは私達のそばを離れ、手持ちのカメラで熱心に写真を撮っている。

撮影のしがいがあるだろうな。

私はのんびり観察しながら歩いていたが、ピンとくるバラがあった。

中心は濃いピンクだけど外側に向かって白くなっていて、いい香りがする。

説明の電子ボードを立ち上げると、マイガーデンという名前らしかった。

私は端末をマイガーデンに向けて構えた。

花もそうだが画角にも苦労しつつも写真を数枚撮る。

お、我ながら上手く撮れたんじゃね?

満足して端末から顔を上げると、グリードが人ではなく一つのバラを観察していた。

これだけの種類があるのだ。

グリードの興味を引くバラがあったのかもしれない。

私はグリードの横に並んでそのバラをのぞき込んだ。

澄んだピンク色に凛とした形が可愛らしくもキレイな印象だ。

 

「グリード、このバラ気に入ったの?」

 

すると複眼に宿る鮮やかな水色の光がこちらを向いた。

 

「気に入ったかどうかはまだ判断はできない」

 

やっぱり慎重。

 

「だが、君のようだと思った」

 

へっ?!

思わず顔が赤くなるのを感じた。

 

「いやいや! 私、こんなにキレイでも可愛くもないよ」

「私に綺麗や可愛いという主観は存在しない」

 

……気持ちが瞬時に落ち着いた。

うん、そうでした。

うっかりさんでした。

この街の常識、頭からすっぽ抜けていました。

思わずうつむく。

うわあああああ!

先走った自分、超恥ずかしいんですけど!!

内心もだえる私に構わず、グリードは体をこちらに向ける。

 

「花の形や色はともかく、香りの強さがほどほどなことが君のシャイな部分に、棘が少ないところは君の素直さと偏見の少なさに結びついた。なぜそう結びつけたかは帰ってから調査をすることにする」

「そっか」

 

動揺を隠したくて、私はこのバラの電子ボードを立ち上げた。

 

「マイガールか」

 

このバラの名前を言いながらグリードが再び花に目をやった時だった。

 

「ナナちゃん、グリちゃん。ここで写真撮ろうよ!」

 

声がした方に目を向ければ、アイちゃんがバラに囲まれたベンチの前に立っていた。

よく見れば、人が並んでいる。

どうやら人気の写真スポットらしい。

グリードもアイちゃんに目を向けた。

 

「どうやら並んでいてくれたようだな。せっかくだから行こう」

「うん」

 

私は頷き、グリードの後に続いて歩きだそうとして、手の中の端末が震えた。

画面を立ち上げるとメールが届いたらしい。

件名は、大型パワードスーツのパイロットを募集しています、とのこと。

ん? アルバイト募集メール?

私はメールを開いた。

 

『ナナミ・カリヤ様

突然のメールにて失礼いたします。

私はAIのスロウスと申します。

今日は貴方様のパイロットとしての腕を見込み、ある仕事をお願いしたくご連絡をいたしました。

この街に貢献できる、極めて重要なお仕事です。

明日、貴方の仕事が終わり次第、詳細なお話をさせて頂きたくお迎えに上がる所存です。

ご都合が取れないようでしたら、こちらのメールにご返信をいただきたく、よろしくお願いいたします』

 

…………何これ?

私は眉をひそめる。

てか、AIのスロウスって誰?

と、ふいに脳裏に閃くものがあった。

まさかと思うけど、グリードの知り合いなのかな?

だが理性はそれを否定する。

いやいや、だったら何故グリードを通さず私に直接メールをよこすの?

トニーちゃんの会社に訪問した時は勤め先の社長を通してきたし、ラストさんのお茶会の時は本人が直接出向いてきた。

……怪しい。

てか、迎えに来るって怖いんだけど。

私の心に疑心と後悔が生まれた。

迂闊にメール開いちゃったけど、質の悪い迷惑メールだったらどうしよう。

 

「ナナちゃーん?」

「ナナミ、どうした?」

 

私を呼ぶ声に顔を上げた。

……放置しよっと。

私は即決断し、心の中で頷いた。

こういうメールに下手に反応するのは悪手だと聞いた。

放置して干からびさせるのが一番だ。

私は端末をポケットにしまうと、一人と一機に笑顔を向けた。

 

「ゴメン! すぐ行く!」

 

私は駆け足でベンチへと向かった。

写真を撮りバラ園を堪能した私達は、園内のレストランでお昼を食べた。

お昼ご飯を奢ると言い張るグリードに、割り勘を主張する私とアイちゃんとで揉めたけど──結論から言えば割り勘になった──その後は平和そのもので、植物園を出たあとはいつものカフェでお茶をし、夕方には解散となったのだった。

 

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