多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十五話 事件に巻き込まれた 6

怒りと悲嘆で我を忘れるロイさんと、それを必死で宥めようとするアイちゃん。

そして、表向きはどこまでも冷徹に受け答えをするスロウスさん。

ダメだ!

私はヘルメットのシールドを上げると目を手で覆った。

絶望し悲嘆にくれるためではなかった。

ボンヤリするな!

今すぐ考えろ!

私は自らを叱責する。

私達は、今日この日この場所で資源を集めていた資源調達員、民間人だ。

乗っている機体は軍事仕様じゃないし武装も所持してない。

私とアイちゃんは実戦経験もない。

しかし不運にも、制御不能の大型兵器ルシフェルと遭遇してしまった。

本当なら多くの傭兵たちが相手をするはずだった現時点での街の最大の脅威であり、私たちの手に負える相手でないことは火を見るより明らかだった。

それでも足止めのためにこの場に待機してほしいというスロウスさんの要請は、街を守るためとはいえ私達に死の宣告をしているのに等しい。

……ロイさんとアイちゃんには家族がいる。

二人の帰りを待つ人たちがいる。

どんな理由があっても死んじゃダメな人たちだ。

でも、私には帰りを待つ家族はいない。

私が死んでも、特に悲しむ人も困る人もいるわけではない。

そう思った瞬間、脳裏に白銀の多脚ロボットの姿がよぎった。

でも一瞬のことで、私の頭には数日前にスロウスさんに聞かされた作戦が思い浮かんでいた。

…………やるしかないのか?

だが、即座に心の奥から声が上がった。

嫌だよ!

怖いよ、やりたくないよ、死にたくないよ!

それに、シリウスが壊れちゃうのも嫌だよ!

……父さん。

なんでこんな目に合わなきゃいけないの?

そもそもこんな大事になったのは、外部の過激派のせいだし、管理ができていなかったスロウスさんのせいだ。

私達がかぶる泥じゃないのに。

私は涙目になるのを自覚し、目元を急いで拭った。

でも、これしかないのだ。

 

「スロウスさん」

 

口から出た声は、自分でも驚くほど低く強ばっていた。

私は目の前の画面に映し出される性別不詳のアンドロイドに、街の管理AIにも匹敵するAIを睨むように見つめる。

 

「あの作戦を実行しましょう」

「作戦って……君、正気で言ってるのか」

「私はシリウスが好きなだけのバカなパイロットです! そんなの知りません!」

 

私はピシャリと言い切った。

 

「私がルシフェルのヘイトをとって街から引き離すよう誘導します。誘導先は作戦にもあった元港湾地区の埋立地です。傭兵が来るまでの時間稼ぎになるし、アイちゃんとロイさんは街へ逃げることができます。問題は傭兵が来る間、私がもつかどうかですが」

「おい、お前?!」

「まって! ナナちゃん一人でやるの?!」

 

ロイさんとアイちゃんが揃って声を上げる。

 

「私には街に待つ人いないし、それに」

 

私はうつむき、泣きそうになりながら言った。

 

「私が責任取れるのは、私の命と私の乗るシリウスだけですから」

 

私の暮らすアパテイアの命。

それは人だけではない。

この一年近くで水族館、動物園、植物園にも命があることをこの目で見てきた。

間違いなく生きていて、その命の輝きに私は感動したのだ。

彼らの存在もまた無視できない命たちだった。

もし、私がスロウスさんの指示を振り切って街に逃げ帰り、ルシフェルの戦術核の脅威に街が曝されたとしたら──。

私には数多の命を危機にさらした責任を背負うことは絶対にできないし、背負ったとしても確実に心が潰れる。

私は、自分の命とシリウスしか責任を持てないちっぽけな存在なのだ。

 

「バカ野郎! お前一人で何とかなる相手かよ!」

 

怒鳴るロイさんに、私は顔を上げ声を荒らげる。

 

「でも! 誰かがやらなきゃいけないことなんです! それが私だったという話です!」

「ナナちゃんをおいて私達だけで逃げられないよ! 三人で生き残る方法を考えようよ」

「アイちゃん、その時間はなさそうだよ」

 

こうして言い合っている間にも、ルシフェルは轟音と地響きを連れて私達に向かってきている。

もう本当に時間はなかった。

 

「そんな……」

「クソが!!」

 

言って二人はついに黙った。

私はシリウスの状態を急いで確認する。

シリウス自体のエネルギーは半分以上残っていて、ブースターの出力も問題はない。

つまり、今のシリウスはバッチリ健康体ということだ。

武装はないけど、両腕についた電磁ワイヤーと、どんな素材も切り裂くカリュプス社製の大型のナイフ二本が役に立ちそうではあった。

というか、それで何とかするしかない。

問題はどうやって気を引くか、ヘイトを取るかということだ。

 

「スロウスさん」

「何」

「ルシフェルで一番柔い部分はどこですか」

「君、本気でやるんだね」

「一番柔い部分はどこですか?!」

 

八つ当たりだと自覚していても、スロウスさんへのあたりが強くなってしまうのは止められない。

漫画やアニメ、映画の登場人物たちのようにスマートにできれば良かった。

明るくおおらかで、気持ちの良い心の持ち主なら良かった。

でも、私のメンタルではこれが精一杯なのだ。

 

「頭部だよ。ただレーザーが」

「わかりました。頭部を狙いに行きます!」

「最後まで話を聞きなよ」

「そんな時間ないです! それと、私達を生かす気があるなら、私達がここを離脱するまでサポートをして下さい!」

 

言い捨て、私はヘルメットのシールドを下げた。

機体を動かして徐々に輪郭をはっきりさせてくるルシフェルの頭部を睨みつける。

シリウス、父さん、ごめんなさい。

でも、この二人と街を守るため、私のワガママに付き合って。

 

「ナナちゃん!」

「アイちゃん」

 

悲痛な声を上げるアイちゃんに胸が痛んだ。

我ながら正気じゃない。

その胸の痛みも火にくべて、無謀な作戦へと突き進もうとする力にするなんて。

 

「じゃあ、行ってくる。街に帰ったら夕飯一緒に食べよ。話したいこといっぱいできると思うから。ロイさん、アイちゃんのことよろしくです!」

 

ロイさんの返事はなかった。

だが今は気にしている時間すら今は惜しい。

行こう、シリウス!

私はブースターの出力を全開にし、地面を蹴って前へと飛び出した。

見る見るうちにルシフェルに近づいていき、その巨大さに改めて息を飲んだ。

……大きいな。

……早まったかな。

操縦桿を握る手が震えたが、もう後戻りはできない。

腕を前に突き出し電磁ワイヤーをルシフェルに向かって射出。

引っかかった手応えと共に、ワイヤーに引っ張られるように前へと取り付く。

ちょうどルシフェルの脛の部分だろうか。

ブースターと電磁ワイヤーを使って頭部を目指し、部位破壊がひとまずの目標だ。

 

「ルシフェルが君の存在を探知した。コンテナから武装ドローンが出現。数は五」

「了解!」

 

スロウスさんのアナウンスに顔をしかめる。

やっぱ出てきたか。

自分に向けてビームは撃てないもんね。

急いで登らなきゃいけないけど、ドローンも邪魔だ。

私は例のナイフを取り出すと、早速やってきたドローンに向かってワイヤーを外して飛び込んだ。

ブースターをふかせて、一瞬の空中戦に挑む。

ドローンが射撃を仕掛ける前に私はナイフを素早く振るった。

手応えがあった。

どんな素材でも切り裂くと言われるナイフは、ドローンを真っ二つに切り裂くことができた。

小さく爆発しながらドローンの残骸が地面へと落下していく。

だが休む暇はない。

ドローンたちの隙間をついて、再びワイヤーをルシフェルにむけて発射し、シリウスは前へと引っ張られる。

その間にも体の赴くままにナイフを振り回した。

ナイフの刃はことごとくドローンに当たって、バランスを崩したり、機体を切り裂いて撃墜させることができた。

よしよしよしよし!

この調子で登っていこう!

 

「武装ドローン、さらに五機出現」

「了解」

 

いいよ! 全部捌いてやるわ!!

闘志に火がついた。

ブースターと電磁ワイヤーを使ってルシフェルの頭部を目指す巨大兵器登りは、ドローンの邪魔は入ったけど順調だった。

シリウスの運動性能の高さを見よ!

二十年以上前の型落ちの機体なのに、こんなに私の意のままに動いてくれる。

私のシリウスは健気な働き者なのだ!

そしてある意味超近接武器の最強と謳われるナイフの威力の高さときたら!

整備士さんたちと共に毎日メンテしているからこその切れ味。

ありがとう! 整備士さんたち!

そうして難関とも言える胸部付近まで登ってきた。

このバンクを乗り越えたら、あとはブースターを使って頭部まで登りきってやる予定だ。

しかし、ルシフェルもやられっぱなしではなかった。

武装ドローンだけでなく、腕も振り回して私を叩き落とそうとしてくる。

私は防戦一方になった。

 

「武装ドローン、さらに五機出現。これでドローンは打ち止めだけど」

「ここで増えるのはマズイ!」

 

状況は更に悪化した。

ううううう!

こんなところで足止めされている場合じゃないのに!!

……頑張れ、私!

私はめげそうになる心に活を入れる。

シリウスは頑張っている!

私のワガママについてきてくれている!

私が頑張らなくて、誰が頑張るのか!

 

「おおおおおお!!」

 

雄叫びが聞こえた。

それと同時に見慣れた大型パワードスーツが一気に二機のドローンをナイフで切り落とす。

 

「ロイさん?!」

「ああ、そうだよ! ここで仲間を見捨てたら家族から出禁を食らっちまうからな!」

「アイちゃんは?!」

「アイツは足元の雑魚担当してるよ」

「ナナちゃん! 私もやるよ!」

 

アイちゃんの勇ましい声。

 

「ドローンがいなくなれば、少しは誘導が楽になるでしょ。三人で助け合って頑張ろ、ね」

 

……バカだ。

せっかく逃げるチャンスを作ったのに何をやってるんだ、この二人は!

でも嬉しかった。

本当に嬉しかった。

私は一人じゃないんだ。

その気持ちが体に力を漲らせる。

私は必死でナイフを振り、一機のドローンを落とした瞬間、意識せずに体と指が動いた。

 

「飛べ! シリウス!!」

 

電磁ワイヤーを切り離し、ブースターを全開にして開けた空間に突っ込んだ。

体に一気にかかる重圧に耐えながらも操縦桿とパネルを素早く操作する。

攻撃しながら付いてくるドローンを素早く姿勢制御で躱しながら胸部を越え、ついに頭部を間近に見える位置まで来た。

しかし私は更に高度を上げる。

その後ろにはしつこくドローンが攻撃を仕掛けてくるが、その全てを躱し続けた。

 

「そんなに若ぇ女のケツが好きかテメエら! 無機物のくせにいい趣味してんな!!」

 

私に追随していたロイさんがドローンを叩き落としていくが、やはり数が多い。

でも、こいつらを振り切らないと頭部への攻撃ができない。

でもブースターも長く持たない。

少し早いけど、攻撃をするしかない!

 

「六時の方角からミサイル急速接近中」

 

は?! ミサイル?!

 

「躱して!」

 

言われた瞬間にはブースターを止め、シリウスは自由落下を始めていた。

その足元には、おあつらえのようにルシフェルの頭部がある。

もういいや、やっちゃえ!!

頭上で派手に爆発がおこり、その爆風の煽り受けてシリウスの落下速度はさらに上がった。

内臓が持ち上がる感覚に抗うように私は叫んだ。

 

「刺されえええええええっ!!」

 

逆手に持ちなおしたナイフが、火花を散らしながらルシフェルの頭部にすんなりと突き刺さった。

いける!!

そのまま刃を振り下ろし、巨大な一つの目玉──これがレーザー口だろう──も切り裂いた。

瞬間、私の心臓が掴まれたような感覚があった。

ルシフェルは完全に私だけを見ている。

息が詰まる。

呼吸ができない。

全身が拗じられ握りつぶされるような圧力を感じ取りながら、私は口角が上がるのを感じた。

来た!

取った!!

私は頭部を蹴りつけて、ルシフェルから離れた。

早速誘導をしよう。

そう思った時、

 

「ミサイルを放った可変型パワードスーツが音速で接近。あと十秒で到達」

 

スロウスさんの意味不明なアナウンス。

え? 何?!

 

「可変型だあ? 今の時代にそんな機体に乗る傭兵がいんのかよ」

「傭兵じゃない。無人だ」

 

パワードスーツオタクのロイさんも戸惑いの声を上げるが、スロウスさんは無機質に応じる。

 

「五、四、三、ニ、一、到達」

 

衝撃波に続いてドンという轟音が辺りに響いた。

私は慌ててブースターをふかせて姿勢を整える。

ルシフェルの頭上を通り過ぎたのは白銀の戦闘機だった。

戦闘機は減速しつつ向きを変えながら、人型のパワードスーツへと変化する。

……えっ、えええええ?!

何これ?!

 

「ナナミ、無事か?」

 

…………この声。

まさか?!

 

「グリード、来たのか」

「ああ」

 

スロウスさんの呼びかけに、グリードはいつもどおりの事務的な声で応じた。

 

「私は傭兵が来るまでの間、ここにいる三人の民間人を守る。そして傭兵が来た後は街まで送り届ける。それが今回の私の目的だ」

 

そして銃を取り出すと、ドローンに向けて素早く掃射した。

瞬く間に撃墜していくドローンたち。

 

「君は君のやり方で使命を果たそうとした。最大多数の幸福のためにごく少数の不幸を生み出そうとした。ならば私は私のやり方でその不幸を潰す。『人を救い、幸福へと導く』ために」

 

グリード。

グリードだ!

グリードが来てくれた!

まるで漫画やアニメのヒーローのようだ!

私は思わず破顔した。

 

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