多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十五話 事件に巻き込まれた 7

私は電磁ワイヤーを使ってルシフェルの右腕に取り付く。

その間にもグリードの白銀のパワードスーツは、瞬く間にドローンたちを切り伏せていった。

さすがは武装を積んだ戦闘用パワードスーツ。

攻撃力が全然違った。

 

「スロウス、ナナミに誘導の指示を。ナナミ、ルシフェルの敵視は君が持っている。私に構わず先に進んでくれ。君たちは私が守る」

「了解した」

「了解!」

 

すごい安心感だ。

私は涙ぐみそうになったが、辛うじてこらえた。

スロウスさんがすかさず私に誘導経路を教えてくれる。

新たにやる気が全身に満ちた。

よし、頑張るぞ!

私は電磁ワイヤーを使って地面へと着地すると、ブースターで地面を滑るように移動を始めた。

レーザーをなくしたルシフェルは、物理的に私を踏み潰そうとするが、お生憎様、当たってはやらない。

 

「戦闘ドローン、全て撃墜を確認」

 

スロウスさんのアナウンスに、ロイさんが口笛を一つ吹いた。

 

「さっすが一鍔重機の変態機体の一つ『スーパー・ノヴァ』! すげぇ! 強ぇ!」

「褒めてもらい恐縮だが、ここから先は戦闘エリアだ。君たちには最大限の注意を払って行動することを要請する」

「了解だ」

 

いつもどおりの生真面目でお硬い言動。

こんなに切羽詰まった状況なのに顔がにやけそうになった。

 

「ナナちゃん、日没を過ぎたよ。暗くなってきたから気をつけて!」

「うん!」

 

アイちゃんからの注意に私は顔を引き締める。

そうだ、気を引き締めないと!

私はハイビームを点灯し、照らされた前方の景色に集中する。

 

「戦闘エリアに侵入」

 

ついに私達が本来なら立ち入れないエリアへとやって来た。

ここから先は未知の領域になる。

 

「コンテナから大型パワードスーツ『アズラーイール』二機出現」

「え?!」

「アズラーイール?! また懐かしい骨董品を出してきやがったな?!」

 

スロウスさんの報告に声を上げるロイさんとアイちゃん。

ちなみにアズラーイールとは、八十年の大戦の時にシャマイム重工が製造した当時は最新鋭の無人パワードスーツである。

ロイさん風に言えば骨董品なんだけど、八十年以上も前の機体が動けること自体が夢のようなのに、それが敵対行動をとるとは悪夢としか言えない。

さすがのグリードも二機の相手は難しいんじゃないか?

が、上空から射撃音と打撃音がしたかと思うと、パワードスーツが辛うじて残されていた建物の残骸へ叩き落とされるのを見た。

早っ!

 

「ええっ?!」

「出落ちかよ?!」

「さすがに八十年以上放置され、一機は不具合を起こしていたようだ。残り一機は私が相手をする。君たちは引き続き誘導を続けてくれ」

「了解!」

 

私は操縦桿を握り直した。

頭上では戦いが繰り広げられているようだが、それを見る余裕など私にはない。

お願い、このままスムーズに進みますように!

せめて、傭兵が来るまでは何事もなく終わりますように!

後ろから追いかけてくるルシフェルの巨体の攻撃躱しつつ、行く先々にある障害物を越えていく。

大忙しだ。

と、左前方に嫌な予感を覚えた。

 

「十一時の方角に敵対生物の反応を確認。距離約二百メートル」

 

やっぱり来たか!

 

「了解だ」

 

ロイさんが低い声で応えた。

 

「グリードが来るまで敵対生物の処理は俺がやる。アイラ、お前は引き続きナナミのサポートだ」

「ロイさん」

「……俺は多少の実戦経験があるの知ってんだろ。心配すんな」

「……わかりました」

 

やり取りをする二人を横目に、私はさらにブースターと電磁ワイヤーを使いながら移動を続ける。

そして、ロイさんの機体が私の横に並んだ。

 

「んじゃ、行ってくっから、後ろの骨董品は任せたぜ」

「はい! お気をつけて!」

 

ロイさんの機体が右腕を振り、ブースターで私より先に進み始めた。

敵対生物のいる方向に向けて真っ直ぐに突き進む。

ああ、どうかロイさんが無事でありますように!

そしてロイさんの機体が豆粒くらいに小さくなった頃、轟音とともに長細くて足が無数にある生物が飛び出した。

パイロットの養成学校の映像で見たことがある。

オオムカデだ。

学校で習った記憶では、突然変異で巨大化──長さは平均して五メートル近くあるらしい──している上に、元々肉食かつ攻撃性も高く顎に猛毒を持っている危険な虫である。

もちろん、ナマで見るのは初めてだ。

 

「ひっ、気持ち悪っ!」

 

アイちゃんが嫌悪をあらわにして言った。

この世には無足のものがダメな人と、多足のものがダメな人と、そのどちらもダメな人で大きく分かれるらしい。

アイちゃんはどうやら多足のものが苦手なようだ。

 

「アイちゃん、大丈夫?」

「う、うん、大丈夫」

「無理しないでね。いざとなったら離脱していいからね」

「ありがとう、慣れてみせるから」

 

気丈にアイちゃんは言ったけど、私は心に引っかかりを覚えた。

とはいえ、今の私に深く気遣う余裕はない。

 

「君は大丈夫なのか」

 

スロウスさんが聞いてきたので私は頷く。

 

「無足も多足も平気です」

「……つくづく君、外での作業に高い適性をもっているね。ただの資源調達員にしておくには本当に惜しい才能だよ」

「……私は現状に満足してますから」

「そう」

 

スロウスさんとの話はそれでお終いだった。

さあ! 集中!

私は電磁ワイヤーを斜め左にあった障害物に向かって飛ばし、一気に跳躍をする。

障害物に着地し、今度はブースターを使って宙を飛ぶ。

ブースターの出力が切れる前に電磁ワイヤーを飛ばし、牽引の力でさらに前進をする。

その時、頭上が明るく輝き爆発音があたりに轟いた。

そして、アズラーイールと思しき機体がバラバラになって前方の地面へと落ちるのを見た。

 

「『スーパー・ノヴァ』、『アズラーイール』を撃破」

「やった!」

「グリちゃん凄い!」

 

私達が歓声を上げる中、スーパー・ノヴァが私の前を通り過ぎる。

ああ、後ろ姿がカッコイイな!

 

「ロイが相手をしている外敵の駆除に向かう」

「了解。最終目標地点に傭兵の部隊が向かっている。第一陣は後三分で到着」

「了解」

 

グリードとスロウスさんが事務的に応対した。

本来なら言葉をかわすこともなくやり取りができるんだろうけど、私達への情報共有の為なんだろうな。

あと三分か。

そしたら、こっちに来てくれるってことだよね。

 

「目的地到着が後三分なら、こっちに来るのは後五分はかかるってことかな」

「ああ」

「長ぇ五分になりそうだなっと!」

 

スロウスさんの応答する声に、巨大なオオムカデと対峙しているロイさんが言った。

普段の生活なら五分なんてあっという間だろうに。

私はすっかり闇夜に包まれた前方を見据えた時、またしても嫌な予感がした。

しかも今度は数が多い!

 

「前方に敵対生物の反応有り。数は三。オオムカデと予想」

 

やっぱり!

そしてあることが閃き、反射的に口走る。

 

「もしかして、ここって奴らの縄張りとか?」

「その可能性が高い」

 

無機質に応じるスロウスさんに、私は歯噛みをした。

スロウスさんの作戦を思い出す。

こういうことがあるからこそ、先に調査を出す必要があったわけだ。

私はその後方支援に当たる予定だったわけだけど、グリードの言うとおり十分すぎるほどに危険なことだと肌身を持って知ることになった。

安易に請け負わなくてよかった!

はずなのに、結局こんなことになっちゃってるけどね!

 

「よっしゃ! グリード、サンキューな」

「こちらのオオムカデを駆除した。すぐにそちらの援護に向かう」

「了解。数が多い。早めに来てくれ」

 

その時、全身が総毛立った。

今までの嫌な予感の比じゃない。

右前方から突如出現した巨大なオオムカデが、アイちゃんの乗る機体に襲いかかろうとしているのを見た。

私は無意識のうちに動いた。

アイちゃんも気付いたであろう、とっさにその突撃を躱したが、続いて現れたオオムカデにまで対処できない。

私は後ろで暴れながら迫るルシフェルのことを忘れ、アイちゃんの機体を突き飛ばす。

そして、凄まじい衝撃が機体を襲った。

 

「ナナちゃん!!」

 

前方の画面に砂嵐が一瞬走り、次に映ったのは大写しになったオオムカデの顔だった。

と、さらに背後から大きな衝撃が襲った。

続いて警告音が機体内に響き渡る。

 

「背面ブースター、一番二番共に損傷。使用不能」

 

シリウスからの警告メッセージ。

くっそ! ルシフェルめ!!

 

生命維持装置(LSS)損傷。機能停止まで後一分」

 

LSSも!

本気でマズイ!

ていうか! このムカデ邪魔だっ!!

動けねぇだろうがよ!!

 

「ナナミ、頭だ! 頭狙え!!」

 

ロイさんの声に私は手にしていた右手のナイフを即座にムカデの頭に突き立てた。

黒っぽい緑の体液が派手に飛び散り、カメラを汚したのだろう、視界が見えづらくなった。

私は構わず、さらに左手のナイフもムカデに突き刺す。

頭部を切り裂きながら、腕を伸ばしてムカデを引き剥がした。

 

「おおおおおおお!!」

 

私は知らず雄叫びを上げてナイフを振るった。

立て続けに来たオオムカデの頭部にナイフをねじり込む。

本能と体が赴くまま、私はムカデに向かってナイフを振るい続けた。

倒さなきゃ!

動かなきゃ!

死ぬ!!

 

「LSS機能停止まで後三十秒」

「シリウスううううう!!」

 

お願い!

頑張れ!

私も頑張るから!!

 

「グリード、カリヤさんに代わってルシフェルのヘイトを取るよう要請する」

「その要請は却下。既に要請内容の行動を開始中。後十秒で敵視を取る」

「了解。撤退ルートを算出した。君たちは撤退してくれ」

「了解だ! アイラ、しっかりしろ!! 退路を開くぞ!」

「……はい!!」

 

スロウスさんたちがやり取りしている声は聞こえてきたけど、私はそれを無視してムカデの討伐をし、暴れるルシフェルの攻撃をどうにか躱し続けていた。

でも、ブースターがないからどうしても動きが遅くなる。

被弾し、その度にコクピット内に衝撃が走った。

立て続けに鳴り響く警告音が、シリウスの悲鳴のように聞こえた。

それが私を煽り立てた。

よくも、よくもやってくれたな!!

 

「LSS機能停止まで後十秒」

 

知るか!!

動けえっ!!

支離滅裂な思考の中、向かってきた三匹目のムカデの突撃とルシフェルの攻撃を躱して、ムカデの背後に回り込んだ。

 

「くたばれえええっ!!」

「LSS機能停止。人体の保護不能。現環境からの速やかな脱出を推奨」

 

ムカデの頭を両腕のナイフで突き刺すのと、LSSの機能停止は同時だった。

LSSが停止し、コクピット内の空気が途端に淀むのを感じた。

街の中の清浄な空気の元でずっと過ごしてきた私達にとって、外の汚染された空気は猛毒に等しい。

LSSは、そんな汚染された外気を浄化し、コクピット内へ清浄な空気を送り込む重要な役割を果たす。

街の外の活動に欠かすことのできない生命線だ。

それをなくし、汚染された外気がダイレクトにコクピット内へと入ってきたことを悟った。

私はムカデを切り裂きながら咳き込んだ。

あ、ヤバイ!

頭に上っていた血の気が引くのを感じた。

息が、できない!

 

「敵視は取った。ナナミを連れてすぐに離脱してくれ」

 

グリードの声がする。

 

「了解!」

「ナナちゃん! しっかり!」

 

二人の機体が私のそばにやってくると、両脇をそれぞれ支えてくれた。

その時だった。

 

「おおっ! 話に違わずでけぇ上にご機嫌斜めのようだな!」

「そりゃそうでしょ」

「民間人に引っ掻き回されちゃって、プライドあったらズタボロだろ」

「おーい、民間人、無事かー?!」

「傭兵部隊の第一陣がルシフェルにむけて移動開始。現着まで約九十秒」

 

傭兵部隊だ!

やっと来た!

 

「おっせえわ! ボケ! さっさと来てコイツと戦えや!」

 

怒鳴るロイさんに、傭兵たちは笑った。

 

「ひょー、おっかねー!」

「随分とイキのいい民間人がいるじゃん」

「待たせて本当に悪かった。後は俺らに任せてあんたらは逃げろ」

 

明るく軽快に呼びかけるこの声。

どこかで聞いたことのあるような。

 

「ユーゴ? ユーゴなの?!」

「……えっ?! その声、アイラ? アイラなのか?!」

 

アイちゃんの呼びかけに、心底驚いた様子で傭兵が、ユーゴさんが問いかける。

 

「まさか、民間人って」

「私とナナちゃんとロイさんのことなの! それでナナちゃんがやられちゃったの! 早く来て! 助けて!!」

「……わかった! お前たちはすぐに逃げろ!」

 

動けない私を、アイちゃんとロイさんが支えてその場から離脱を始める。

清浄な空気が足りない。

苦しい。

苦しいよ。

もはや役に立たない酸素マスクを外したが、当然改善されるものではない。

 

「ナナミ、しっかりしろ!」

「ナナちゃん!」

 

二人の呼びかける声が随分と遠くに聞こえた。

意識が遠のく。

涙と鼻水を流しながら、私は前へと倒れ込んだ。

視界が暗くなり、懐かしい男の人の後ろ姿を見た。

父さん。

私の呼びかけに、暗闇に立つ父がこちらを振り向いた。

憂いに満ちた表情で私を見つめる。

私はその表情に胸の痛みを覚えた。

父さん、ごめんなさい。

私、父さんのシリウス、壊しちゃったよ。

父は悲しそうな笑顔を浮かべて頷き、そして私に手を伸ばす。

私はその手にすがろうとして。

 

「ナナミ!」

 

強く呼びかける声に意識が浮上するのを感じた。

ヤバ、気絶してたか。

全身に感じる硬い感触。

いつの間にかシリウスのコクピットが開かれており、大きな手が私を丁寧に抱え、見たことがないコクピットに今まさに乗せられようとしていた。

 

「ナナミ、もう大丈夫だ。あとは傭兵に任せて街に帰ろう。それまで私が君たちを守る」

「グリード……」

 

大きな手が私を座席に乗せると、コクピットが自動的に閉められた。

呼吸が途端に楽になるのを感じた。

LSSが働いている環境だと察し、安堵に再び意識が遠のいた。

 

「ナナミ!」

 

グリードが呼びかけるが、ダメだ、意識が保てない。

 

「ゴメン。後は、お願い」

 

言い残し、私は今度こそ意識を手放した。

 

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