多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十六話 充実したクリスマス・イブを過ごした 1

クリスマスまで後二週間になった。

街は夜になるとクリスマスのイルミネーションやホログラムでど派手に飾られ、否が応でもクリスマスを盛り上げてやろうとする心意気みたいなものが感じられる。

私はそれらを見ながら駅へと向かい改札を抜け、電車を待っていた。

副業を終えてこれから家に帰るのだ。

私の副業先のメンテナンスステーションは年中無休で、クリスマスだろうが正月だろうが営業をしている。

事実、クリスマスの夜に私はシフトに入っていた。

特に不満はない。

むしろ歓迎すらしていた。

仕事に集中している間は、心に空いた穴を意識せずにすむからだった。

 

先月まで私はある事件に巻き込まれて入院していたけど、今月から本格的に社会復帰を果たした。

本業はもちろん、副業の方も迷惑をかけてしまいクビも覚悟していたけど、街の管理AIたちや関係者が色々調整してくれたようで、元の日常へとすんなりと戻れた。

もちろん、全てが元通りというわけではなかった。

父の形見のシリウスが解体、廃棄処分となり、私の手元にはそのマスターキーだけが残された。

会社の整備士長が私を気遣って、そのように計らうようお願いしたのだという。

その気遣いは心底ありがたかった。

おかげで足元から崩れ落ちるような喪失感に耐えることができたから。

でも、それにいつまでもすがり続けることはできないこともわかっていた。

私はこれを機に、精神的にも独り立ちすると決めたのだ。

だから今できること、仕事と副業に専念することにした。

会社から借り受けた強化外骨格(パワードスーツ)ミモザの操縦にも慣れてきたし、昨日はレアメタルも拾うことができた。

副業も調子を取り戻せてきたし、いろんなパワードスーツに乗ることができていい経験になっている。

いい波に乗っているのを感じた。

それでも一人で家にいる時は、暗く冷たい空間に一人で放り出されたような、どうしようもない心細さに苛まれる時がある。

でもそんな時はグリードやアイちゃん、ハンナちゃんがメッセやビデオコールをくれて、私はそれにしがみつき、感情の荒波をどうにか乗り越えていた。

つくづくありがたい話だし、そのためにも早く元気にならなくてはいけない。

両脇に降ろされた手が自然と拳を作る。

と、電車到着のアナウンスに続いて電車がやってきた。

週末の夜ということもあり人が多い。

電車に乗り込み、SNSを見ようと端末を取り出した時だった。

メッセが着信。

アイちゃんからだった。

 

「ナナちゃん、副業お疲れ様だよー」

 

最近流行っている犬と猫とウサギのゆるキャラが、そろってお疲れ様をしているイラストもテキストと共に表示される。

私はすぐさまそれに答えた。

 

「お疲れありがとう! 今帰ってるとこ。アイちゃんは何してるの?」

「さっきまで、ユーゴとグリちゃんとでクリスマス・イブにパーティやろうって相談してたとこ」

「パーティ?」

「うん!」

 

そして先程のイラストのメリークリスマススタンプが表示された。

……このイラストのキャラ、今この街でめちゃくちゃ流行っているんだけど、私は特に可愛いとは思っていない。

でも、妙に気になる絵柄ではある。

にしても、ユーゴさんはともかくグリードも交えてのパーティとは?

 

「ナナちゃん、クリスマス・イブの夜は時間空いてるんだったよね?」

「空いてるよ。クリスマス当日はダメだけど」

「良かった! じゃあ、今年はみんなでクリスマスパーティをしよう!」

「みんな?」

 

アイちゃんとユーゴさん、そしてグリードが幹事になって、前にゲームで遊んだメンツを集めてパーティをする計画をしているという。

ゲームで遊んでいたメンツは、傭兵のジョンにニコラさん、フラヴィオさん、そして私の後輩でガチゲーマーのハンナちゃんのことだ。

 

「ハンナちゃん、よくOKとれたね。クリスマスもゲームのイベントをやり込むかと思っていたよ」

「私もそう思ってダメもとで誘ってみたら、OKしてくれた。リア充のクリスマスパーティなんて初参加でドキドキでっす! だって」

「それを言ったら私も初めてだよ」

「私も家族以外の男の人と一緒のクリスマスは初めてだよ」

「そだよね」

 

去年までは、ユーゴさんと付き合う前のアイちゃんと養成学校時代の女友達エリちゃんとで、ささやかにパーティしてたのだった。

……そういやエリちゃん、最近メッセで話しかけても反応が鈍くて疎遠になってきたな。

卒業後に別の資源調達会社に就職したけど、今年の初めに退職したと聞いた。

もっと稼ぎたいと言っていたし、きっと公私ともに忙しいのだろう。

 

「じゃあ、クリスマス・イブの夜は空けておいてね。それと、プレゼント交換するからプレゼントも考えておいて」

「プレゼント交換」

「うん。予算はこれくらい」

 

そう言って提示された金額は、私でも余裕で手が届く範囲だ。

とはいえクリスマスパーティの鉄板にして難問が来た!

自分で言うものなんだけど、私はこういうのセンスないんだよなー。

女の子同士ならまだわかるけど、今回は稼ぎのいい傭兵とロボがいる。

 

「難しいな」

「あまり難しく考えなくていいよ。ネットで調べれば定番の商品出てくるし」

「でも、グリードがいるよ。ロボへのプレゼントってネットに上がってるかな」

「……言われてみればそうだね」

 

考え込む猫のスタンプが表示される。

メッセの向こうでアイちゃんも考えているようだった。

ハロウィンの時にグリードへのプレゼントでさんざん悩んだことを私は忘れていない。

 

「まだ時間あるし、いざとなったらグリちゃんに聞けばいいよ」

 

とりなすように言うアイちゃんに、私はジト目のペンギンさんのスタンプを送信した。

 

「何でもいいって言いそうだよ」

「それが一番困るんだけど、言いそうだねー」

 

ロボットやAIに心はない。

好き嫌いもない。

だからこういう時に選択肢の幅が広すぎて非常に悩ましいのだ。

私は小さく息を吐いた。

 

「当日にはちゃんと持ってくるようにするよ」

「うん。困ったことがあったら相談してね」

 

こうしてこの話題は終わり、私はエリちゃんのことをアイちゃんにふってみることにした。

 

「あのさ、突然だけど、エリちゃんと最近連絡取ってる?」

「エリちゃん? うん、クリスマスパーティに誘おうと思ってさっきメッセしたよ」

 

おお! さすがアイちゃん、ぬかりがない!

 

「でも、仕事忙しいのと彼氏と過ごすからって断られた」

 

えっ!?

思わず声が出そうになり、慌てて口をふさぐ。

そして驚くカワウソさんのスタンプを送った。

なるほど、連絡が途絶えがちなのもこのせいか!

 

「エリちゃん、彼氏できてたんか?!」

「みたいね。最近連絡が取れないから心配してたけど、大丈夫みたいよ」

「そっかー。ならいいんだけど」

「直接会ってないから断言できないけどね」

「うん。それでも連絡が取れただけでも良かったよ。ちょっと心配だったからさ」

「最近疎遠だったもんね」

 

養成学校時代は三人いつも一緒だったのに、時間とともに変わっていっちゃうものなんだな。

私はしんみりとした気持ちになった。

 

「また三人で会う時間が作れるといいね」

「そだね。エリちゃんが落ち着いた頃にまた会いたいね」

 

そうしてエリちゃんとの思い出話をしている間に、電車は自宅の最寄り駅についた。

アイちゃんとのメッセを切り上げ、私は家路を急いだのだった。

 

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