多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

58 / 128
第十六話 充実したクリスマス・イブを過ごした 4

海のプラネタリウムをエリアを出ると、この水族館の主役であるシーラカンスがお出迎え。

想像よりずっと大きくて不気味だったダイオウグソクムシ。

木の根っこにしか見えないけど、れっきとした生物だというトリノアシ。

貝っぽい外見なのに、イカやタコの仲間だというオウムガイ。

ただでさえ厳つくて怖い外見なのに、口を開けたら怖さ倍増しのラブカ。

そしてこの水族館で最大の生物であるリュウグウノツカイ。

前半の生物たちよりもディープで癖強(くせつよ)な深海生物を観察し、最後はお土産屋さんへ立ち寄った。

真っ先に目に飛び込んでくるのはやはりぬいぐるみだ。

それも一筋縄ではいかない深海生物ばかりのラインナップ。

前の水族館でもあった、リュウグウノツカイとダイオウイカの二分の一スケールのぬいぐるみもあった。

売れるのか? と勝手に心配になったけど、メンダコを発見!

可愛いじゃん! 超欲しい!

私は思わず手に取った。

お値段は!? ……全然可愛くねえっ!

素直に棚に戻しながら目の端に、タブレットで無音で動画を流しているコーナーを見つけた。

視線をそちらに向けると『深海はいいぞ! 深海名作コーナー』とある。

私は足早にそちらへと向かった。

間違いない、この映像とリアル模型は!

すると、グリードが私の横にやって来た。

 

「ナナミ、慌ててどうした? ……このアニメは」

「『碧海の英雄ブライニクル』だよ」

 

碧海の英雄ブライニクル。

それは、深宇宙から地球侵略にやってきたロボット軍団に対し、深海に沈んだ古代文明のロボットが地球を守るために戦う、前時代のロボアニメだ。

人間そっちのけで熱血ロボット大戦をするロボたちに振り回される人の悲喜劇を描いており、表向きは子供向けっぽいけど実際は大人向けという内容。

そしてこのアニメの最大の欠点は未完、正確には続きが発掘されず続きが見れないということだ。

人気になる要素はいくらでもあるのに、そのせいでメジャーになりきれず不遇のロボットアニメとも言われている。

と、その隣に置いてあるホログラムとタブレットに表示している表紙を見て硬直した。

こ、この二人は!!

 

「金波銀波?! こんな罪深(つみぶか)漫画も置いてあんのか?!」

 

比喩でもなく声が震える。

金波銀波、正式名称は『金波のリュカと銀波のクリスティ』。

前時代の海洋ラブロマンスものだ。

絵柄はちょっと古いけど、骨太のストーリーが漫画マニアの間で人気を博している。

が、興味本位で見ちゃいけない漫画の筆頭に挙げられてもいる。

それは、碧海のブライニクル同様、発掘されずに未完で終わっているからだ。

ホログラムで寄り添う二人は恋人にして主人公であり、漫画はそんな二人が紆余曲折を経て災厄に立ち向かうところで止まっている。

続きを見たい!

リュカとクリスティが種族の壁を超えて幸せになるところを見たい!

でも発掘されない限り、どうあがいても見れないのだ!!

うわあああん!!

私はガックリとうなだれた。

 

「ナナミ、どうした? 先程からいわゆる情緒不安定のようだが」

「うん、ちょっと待って。いま精神を再起動している最中だから」

「そうか。では待っている」

 

律儀に黙って待つグリード。

精神を再起動した──つまり気を取り直した──私は、改めてグリードに金波銀波のことを教えた。

 

「なるほど。このコーナーは深海つながりの名作を展示販売しているということか」

「うん。どちらも未完だけどね」

 

間違いなくいい作品なんだよ。

だから普及したい気持ちはよくわかるけど、罪深いことをしやがって。

 

「でもナナミは閲覧をしているのだろう」

「まあね」

 

好奇心には抗えませんでした。

そして、顔も姿も知らぬ同好の士たちと待ちぼうけ状態です。

するとグリードは左側のアームを上げた。

 

「私も後でこの二作品を閲覧してみることにしよう」

「後悔しても知らないよ」

「私は心がない。故に後悔をすることもない。それに」

 

グリードは私との距離を詰めた。

鮮やかな水色の目が私をひたりと見つめる。

 

「君と共通の話題を持つことができる。君とこの二作品について語りながら続報を待つ時間も、きっと有意義なものだろう」

 

声だけ聞けばかなり雰囲気のある声音で、心臓が跳ね上がるのを感じたが、その声の主を見て冷静さを取り戻す。

ツヤピカでクリスマスカラーの多脚ロボット。

深海生物に負けず劣らずの、ちょっと不気味な姿の私の友達だ。

私は肩の力を抜き、大事な友達に笑って言った。

 

「じゃあ観たら教えて? 感想聞きたい」

「了解した」

 

言うやいなや、グリードは早速レジに向かい二作品をお買い上げしていた。

相変わらずの行動力と財力。

羨ましい。

私はその間に店内の探索を続けることにした。

深海生物のグッズも賑やかに棚に陳列されている。

あ、アイピローだ。

私はその中の一つ、可愛いくデフォルメされたメンダコのアイピローを手に取った。

……これ、可愛くね?

可愛い上に実用的。

しかも値段もお手頃。

つまり最高ってことじゃん。

そして閃いた。

これをクリスマスプレゼントにしようか。

一応他のアイピローも手に取って比較する。

デフォルメ化されてもダイオウグソクムシはやっぱり不気味で、シーラカンスは目を含めた白い部分が蓄光するようで白に近いグリーンに光る。

普通で可愛いメンダコにしよう!

レジに向かおうとしてはたと気付いた。

……グリードに当たったらどうしようか。

どう考えてもつけられないぞ。

その時思い浮かんだのは、人型ロボット(アンドロイド)になったグリードだった。

アンドロイドなグリードは、性別年齢問わず誰もが見惚れるだろうナイスでミドルなイケオジなのだ。

そのイケオジグリードにメンダコのアイピローを付けてみた。

思わず吹き出しそうになり、口を押さえる。

ヤバッ! すんごいシュールで笑える上に可愛い!

よし、これにしよう!

 

「ナナミ、何か楽しいことでもあったのか?」

 

レジから戻ってきたグリードが私の表情の変化に目敏く気付き声をかけてきた。

私はニッコリ笑ってごまかす。

 

「クリスマスプレゼントが決まったんだよ」

 

嘘はついていない。

グリードはアームを組んだ。

 

「そうか。私はこの後に行く予定のデパートでの購入を検討していたのだが、ここでも問題はないのか」

「まあそうだけど」

「いや、ここで買えばデパートで買ったものより話題性がついてくる。私もここで買おう」

 

言ってグリードは早速グッズの並んでいる棚に向かった。

私はレジに向かおうとして、クリスマスカードが売られているのを見つけた。

可愛いイラストで描かれた海の生物のホログラムで、クリスマスツリーをゆったりと巡っている。

これも合わせよう。

そしてレジに向かい、光学迷彩できっちりと包装してもらうとカバンにしまった。

すんなり決まって良かった!

と、グリードもあっさりと決まったようで品物をレジへと持っていく。

ん?! ちょっと待て!

 

「グリード、待って。それ」

「ああ。クリスマスプレゼントだ」

「いやいやいや、それ予算オーバーでしょ?!」

「確かに予算は決められていたが、オーバーをしてはいけないという決まりはない」

 

確かにそうだけど、屁理屈でしょ、それ。

グリードが手にしていたのは、あろうことか私が欲しがってたメンダコのぬいぐるみだった。

グリードはレジ台にぬいぐるみを乗せ、私の方を見た。

 

「この店のぬいぐるみの中で一番人気かつ、ナナミも熱心に見入っていた品だ。ハズレではないだろう」

「私はハズレじゃないよ、間違いなくね! でもユーゴさんや傭兵のみんなに当たったらどうするの?」

「確かにぬいぐるみは彼らの趣味にはないものだろう。故に、このぬいぐるみを受け取った彼らの反応を観察してみたい」

 

このロボ、こんなところで使命に熱意を向けなくてもいいのに。

……ちょっと悪趣味じゃね?

そうしている間にもグリードはぬいぐるみをお買上げし、光学迷彩でラッピングされたそれを後部についているコンテナにしまった。

あーあ、どうなっても知ーらない。

グリードはこちらを向いた。

 

「時間に余裕ができたな。この近くにカフェがあり、深海にちなんだデザートを提供しているそうだ」

「そうなの?」

「ああ」

 

グリードはネットの画面を空中に表示し私に見せた。

 

「おお! すごいじゃん」

 

それはカフェのSNSサイトで、たくさんの画像には海や深海生物をモチーフにしたデザートが載っていた。

素直にきれいと思えたのは、深海のパフェとよばれるグラデーションがキレイなデザートだ。

プリンやジェルなど幾層も重ね、可愛いシーラカンスとメンダコのビスケットが飾られている。

他にもシーラカンスやメンダコ、ミドリフサアンコウのケーキがあった。

可愛いじゃん♡

自然と笑顔になったのも束の間、ダイオウグソクムシやラブカ、リュウグウノツカイのケーキも見つけて素に戻った。

ここに載ってるってことは売り物にしていて、かつ注文した人がいるってことだ。

……世の中、いろんな趣味の人がいるんだな。

 

「寄ってみてはどうだ?」

「そうだね」

 

パフェの値段は少し高いけど、副業で稼いだお金がある!

こういう時に使わずにいつ使うのか!

私達は水族館を出て、歩いて五分ほどの所にあったカフェに入った。

店内はクリスマスの飾り付けがされていて華やかだったけど、来ている人は少数だった。

出入り口の電子ボードでは、夜はこの周辺の学生さんたちで貸し切りになるとのこと。

狙いの深海のパフェを食べながら──パフェは普通に美味しかった♡──予定の時間まで時間を潰した。

パフェとコーヒー代の支払いは、間一髪の差で私がすることができた!

 

「君は私に奢られるのが嫌なのか」

 

小癪にも寂しそうに言うグリードに、私はニンマリ笑った。

 

「いつまでも奢られてばかりの私ではないのだよ。いつかグリードの手からも離れて自立するんだから」

 

そしてグリードと対等の友達になるのだ。

こうしてカフェを出た私達は、地下鉄でユーゴさんの自宅へと向かったのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告