多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十六話 充実したクリスマス・イブを過ごした 5

傭兵。

それはこの街の花形の職業だ。

街の外でのあらゆる厄介事を一手に引き受け、その稼ぎは街の中のあらゆる職業よりも高いと言われている。

だが、稼ぎと比例した相応のリスクも当然ある。

街の外は放射線を始めとした危険な物質で汚染されており、防護服か生命維持装置(LSS)の付いたパワードスーツがないと数時間と持たず死に至るとされている。

さらに、暴走したナノマシンによる既存の生物の異常進化と凶暴化も街の外の危険を助長していた。

先月の事件で入院し、街の外の激ヤバさを身をもって知った私は、傭兵の凄さを改めて知ることになったのだった。

で、そんな傭兵でもネームドと呼ばれる実力のある名の知れた売れっ子の傭兵が存在する。

友人のアイちゃんの彼氏、ユーゴ・エルヴェシウスさんもその一人だ。

今宵のクリスマスパーティは、そのユーゴさんの自宅で行われることになっていた。

夕暮れを過ぎたアパテイアの造られた空は、夜の闇を背景にクリスマスのモチーフのプロジェクションマッピングとドローンによって華やかに彩られている。

そんな空の下、グリードの案内で高級住宅街にやってきた私は、そのあまりに静謐で圧迫感のない開放的な空間と肌身に感じる警備の厳重さに圧倒されていた。

お祭り大好きのアパテイアに例外はなく、この区画の家々も門にクリスマスの飾りつけはしてあるが、そのどれもがささやかで上品と呼んでいいものだ。

そしてユーゴさんの家の前に来た私は、ポカンとその外観を見つめた。

周囲の建物に負けないくらいモダンで上品で立派な平屋のお家。

これが、アパテイアで売れっ子傭兵の自宅!

この街において土地は非常に限られたものだから建物は高層化するのが普通である。

そこにあえて平屋という選択ができるのは、土地代と建築費用、防犯費用をまかなえる余裕のあるお金持ちであることの証なのだとグリードが教えてくれた。

この区画が広々としていて開放的に感じたのは、全ての建物に高さがないせいだったのだ。

どんだけだよ!

私は内心ドン引きながら口を開いた。

 

「多脚ロボットのグリードがユーゴさんのお家に入れること自体疑問だったけど、実物を見て余計な心配だったことがわかったよ」

「この機体の横幅と重量のことか。私も最初は懸念していたのだが全く問題はなかった。立派なものだ」

 

無感情に言いながら、グリードは立派な門に設置されているインターホンを押した。

一瞬の間をおいて、空中に笑顔のユーゴさんの映像が映し出された。

 

「こんばんは、ユーゴ。ナナミを連れてきた」

「こんばんは。おお、宣言通りクリスマスの浮かれカラーになっちまって」

「パーティを盛り上げるためだ」

「はいはい。みんなお待ちかねだ。今開ける」

 

すると門がゆっくりと横へスライドして開いた。

グリードに続いて門をくぐり玄関を目指す。

家までのアプローチも余裕があるし、庭も立派だなー。

前時代の漫画でたまに見かけるバーベキューできちゃいそうじゃん?

しかもあれって車庫じゃね?

シャッターが下りていて中は見えないけど、絶対に自動車が格納されている。

……自動車、見てみたいな。

すっかりお上りさん状態になる私に、グリードがこちらを振り向いた。

 

「ナナミ、車庫を見学したい気持ちは推測できるが皆が待っている。今は家に行こう」

「あ、ゴメン。そだね」

 

促されて私は慌てて家へと向かった。

玄関前にはシンボルツリーが植えられていて、ぴっちりと焦げ茶色の扉が閉まっている。

建物外観に似合わず玄関はそこまで大きくない。

そして赤く光る防犯カメラの存在に気付き、私はそれに向かってサムズアップをした。

 

「ナナミ?」

「あ、や、何となく、ね」

 

目敏いグリードが声をかけてきたので私は慌てて手を振って答えると同時に、玄関のドアが開いて見慣れた家主が現れた。

 

「君らは玄関前で何やってんだ?」

「君の家にナナミの好奇心が強く働いているようで、それを観察していた。特に車庫に強く心惹かれている様子だった」

「グリード!」

 

暴露すんなし!

私はごまかすように頭を下げた。

 

「こんばんは! 今日はお招きいただきありがとうございます!」

 

すると家主のユーゴさんは笑顔を見せた。

 

「はい、こんばんは。車庫に真っ先に目をつけるあたりナナちゃんらしいな。後でいくらでも見せてやるから今は中に入って。もう何か勝手に始まっちゃってるから」

「まだ開始時刻十分前だが」

「家に来て早々に酒を入れちまった阿呆どもがいてな」

 

ユーゴさんは肩をすくめ、私達を招き入れた。

おお! 玄関ホールが広い! 明るい!

圧倒されつつも私は靴を脱ごうとして気付いた。

グリードの脚、キレイにしなきゃ!

グリードがコンテナからウエスを取り出して足を拭こうとしている。

 

「グリード、手伝うよ」

「ナナミ」

「前脚はグリードがやって。後脚は私がやる。ウエス借りるよ」

「ありがとう」

 

コンテナに入っていた予備のウエスを取り出し、私は右後脚を拭いた。

やっぱ汚れるよなー。

汚れたウエスを見て、私はやる気に燃えた。

文句なしにピカピカにしてやろうではないか!

 

「ナナちゃん、ホントマジでメカやロボが好きなんだな」

「それでこそナナちゃんでしょ」

 

私の様子を見て面白そうに言うユーゴさんに、背後からひょっこりとアイちゃんが現れた。

アイちゃんもクリスマスを意識したのか、シックな赤がちょっと大人っぽいワンピースを着ている。

アイちゃんは屈託なく笑った。

 

「アイちゃん」

「こんばんは、ナナちゃん、グリちゃん。グリちゃん、ナナちゃんのエスコートは上手くできた?」

「五割ほどといったところだ」

 

前脚を拭きながらグリードが言う。

え? 評価厳しくね?

 

「私は全然問題ないように思えたけど」

「カフェでナナミに奢りそこねた」

 

そこかい。

するとアイちゃんとユーゴさんは揃って笑った。

 

「そりゃ、心のないお前さんにとっては一大事だな」

「一瞬の隙をつかれたのだ。ナナミの反射神経については高く見積もっていたのだが、予想以上の速さだった。帰投したらデータを修正しなくてはならない」

「ナナちゃん、イザとなったらスゴイんだよー。メカにだって負けないんだから」

 

何故か嬉しそうに言うアイちゃん。

ちょっと面映くて、私はそれを紛らすべくグリードの後脚をゴシゴシと拭く。

右脚終わり! 次は左脚だ!

 

「あ! ナナミ先輩とグリードさんだ! しかも赤い! こんばんはでっす!」

 

奥の部屋から出てきたのは、後輩のハンナちゃんだった。

やはりクリスマスを意識したのだろう、赤いトップスと白いズボン姿だ。

モコモコの赤いニット、可愛いな。

さらにそこに更に人影が続々と現れ、ドカドカと玄関へと向かってきた。

 

「おお! ナナミちゃーん、いらっしゃーい!」

「元気そうで何よりだよ、ナナミちゃん。広い家で申し訳ないけどまずは上がって!」

「お前ら来るの遅すぎ。もう始めちまってんぞ」

 

お酒の力でいい感じにエンジンがかかっている傭兵三人組、フラヴィオさん、ニコラさん、そして天敵のジョンだ。

するとユーゴさんは眉をしかめて手を振った。

 

「酔っ払いどもはリビングへ戻れ」

「え?! 何故っすか?!」

「俺達酔ってないっすよ!?」

「まだボトル一本開けただけです! 俺、まだいけます! やれます! 大丈夫です!!」

「うるせえ。いいから戻れ」

 

そうしてユーゴさんが部下三人をリビングへと押し戻していく。

相変わらずの賑やかな人たちだな。

私はグリードの左後脚を拭きながら小さくため息をついた。

 

「ナナミ、そろそろいいだろうか」

「うん! これで大丈夫だよ」

 

左後脚を拭き終わり、私達は揃ってリビングへとやって来た。

そして、私はまたしても度肝を抜かれることとなった。

広っ!

私の部屋、何個分あるんだよ!

それにめっちゃクリスマスしてる。

飾り付けも実物とホログラムを混じえた気合いが入ったものだし、古今東西のクリスマスソングもかかっているし、並ぶ料理もお酒もクリスマスにちなんだものになってる。

別世界だ。

立ち尽くす私に、アイちゃんが怪訝な表情で私を見た。

 

「ナナちゃん?」

「あのさ、これ、本当に会費払わなくていいの?」

「うん。ユーゴとグリちゃんの奢りだから心配しないで?」

「それは知ってるんだけどさ」

 

気前が良すぎじゃね?

すると私の横でハンナちゃんが深く頷いた。

 

「ナナミ先輩、気持ち、超わかるでっす。普通にビビリますよね。これ」

「だよね」

 

私とハンナちゃんは握手を交わした。

良かった! 庶民感覚をわかってくれる人がいた!

そんな私達にアイちゃんは苦笑した。

 

「本当に大丈夫だよー。だから中に入って」

 

促されて私はリビングへと足を踏み入れた。

見れば見るほど凄いな。

グリードがユーゴさんへ体を向けた。

 

「ユーゴ、予定通り進行は君に任せる」

「OK! それじゃ、メンツが揃ったことだし、改めて乾杯をしようか」

 

傭兵三人組が上機嫌で元気よく返事をした。

下戸の私と未成年のハンナちゃんは赤紫色のぶどうジュース、他のメンツはワインを手にした。

ぶどうジュース、美味しいことが確定しているいい香りだ。

早く飲んでみたい。

ふとグリードを見ると、グラスを持っていたけど中身は空だった。

グリードは人が飲食する姿には興味津々なのに、自身の飲食には興味がない。

ロボでAIだから当たり前と言えば当たり前なんだけど、ちょっぴり寂しく感じた。

私が食べることへの関心が高いせいもあるけど、何というか、やっぱり同じものを飲んで食べる感覚を共有したいと思ってしまうのだ。

ま、そもそも多脚ロボットに口はないから、それ以前の問題かもだけど。

 

「はい! 注目!」

 

ユーゴさんの声に我にかえる。

 

「今日は貴重な時間を割いて来てくれて本当にありがとう。今夜は楽しんでいってくれ。それでは、乾杯!」

「乾杯!!」

 

みんなと一緒に唱和して、グラスのぶどうジュースに口をつけた。

 

「うまっ!」

 

思わず声が出た。

香りに違わぬ美味しさ! 優勝です!

こうして、クリスマスパーティは始まった。

 

まず色とりどりの料理を食べた。

成型肉や代替肉ではない、本当のチキンを初めて食べた。

ジューシーで美味しくて、自分でも自覚できるほど顔がニヤけた。

夢中で食べていたらみんなに笑われた。

 

「そんなにがっついて普段何食ってんだよ? 欠食児童か?」

 

口の悪いジョンの指摘に一触即発の事態になりそうだったけど、ユーゴさんの一睨みで免れた。

色々と気をつけようと思った。

胃袋が落ち着いたあとは、ペアを組んでホログラムのボードゲームをした。

少ない資産から一族と会社を大きくして超大企業(スーパーメジャー)を目指すというゲームだ。

グリードと組んでやってみたものの、私の出目の悪さが足を引っ張った。

 

「ゴメン、グリード。また子供ができちゃったよ。せっかく生活が安定したと思ったのに……」

「これで十二人目か」

「すっげー仲いいじゃん? 良かったな!」

「そうだな」

 

ニヤニヤと絡んでくるジョンに対し、グリードは大真面目に答える。

 

「実に幸せにしがいのある生活状況だ。狭くとも賑やかで楽しい我が家を当面の目標とし、最終的には幸せな大一族へと成り上がってみせよう」

「……お、おう」

「そのポジティブさ、見習いたい」

 

ジョンが苦虫を噛み潰したような表情をする横で、ペアのニコラさんが苦笑した。

終盤まで生活は苦労はしたものの、結果は二位に終わってみんなをびっくりさせた。

お金や地位をめぐる醜い争いが奇跡的に起こらず、グリードの隙のない資産運用も功を奏して、仲良し一族でそこそこに繁栄できたのだった。

そしてプレゼント交換。

私のプレゼントはハンナちゃんが、グリードのプレゼントはユーゴさんが受け取ることになった。

可愛いメンダコのぬいぐるみを受け取ったユーゴさんの表情は、正直ちょっと面白かった。

 

「グリード、お前ぇ……」

「なるほど。君はぬいぐるみを受け取るとそういう反応をするのか」

「なあ、何が目的でこのぬいぐるみを選んだんだ? しかもこれ予算以上のもんだろ?」

「ぬいぐるみとは縁遠いであろう君、ジョン、ニコラ、フラヴィオの反応をぜひ観察したかったからだ」

「正直!」

「趣味悪ぃぞ! この悪魔もどき!」

「でもさ、あれ可愛くね?」

「お前は黙っとけ」

 

男たちが口々に言うのを見て、私とアイちゃん、ハンナちゃんは顔を見合わせ笑ってしまった。

で、私が受け取ったプレゼントはアイちゃんからのラベンダーの香りのボディソープだった。

実用的だ。

帰ったら早速使ってみよう。

そして、グリードの受け取ったプレゼントは、フラヴィオさんからの魚へんの漢字がいっぱい書かれている取っ手のないコップだった。

 

「前の休暇の時にサイバーシティ・オオエドへ行ってきたんだよ。その時にスシ屋でそのコップを見かけてさ、カッコイイって思って買った!」

 

意気揚々と言うフラヴィオさんに、ジョンが呆れたマナコを向けた。

 

「お前のカッコイイの基準がわからん」

「お湯を注ぐとその漢字が青く光るんだよ! ピッカーってさ。それってサイバーじゃん! カッコイイじゃん!」

「ガキかよ」

「お前の感性、やっぱわからん」

 

私にもフラヴィオさんのカッコイイの基準はわからなかったけど、グリードはコップをジッと観察しているようだった。

 

「これはサーモクロミズムという技術を使った『湯のみ』というコップの一種だ。前時代のスシ屋で人気のあったコップらしい。ありがとう、フラヴィオ。使い途は周囲の人と考える」

「おう! 好きに使っていいからな!」

 

気持ちの良い笑顔で言うフラヴィオさん。

感性はともかく、いい人なんだろうな。

ちょっとほっこりした。

その後はグリードが予約していた豪華なブッシュドノエルというケーキをみんなで食べた。

生クリームたっぷり、スポンジもフワフワですんごく美味しくてニコニコしてたら、またみんなに笑われた。

 

「ナナミちゃん、餌付けのし甲斐がありそうだなー。ますますいいねー」

「ニコラ、君は今、ナナミに対して良からぬことを考えていると推測する」

「邪推だよ、グリード」

「君の顔の表情を不審なものだと判断した。現時刻より注意レベルを引き上げる」

「……あんた、前より過保護になったな」

「褒め言葉として受容する」

「この多脚ロボめ」

 

……何か仲良しだな?

ニコラさんとグリードが話している横で、私とハンナちゃんとフラヴィオさんはケーキをおかわりした。

 

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