多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十六話 充実したクリスマス・イブを過ごした 6

その後は二次会という名の自由時間となった。

みんなはまたボードゲームをやることになったけど、私はグリードと一緒にユーゴさんの案内で車庫を見せてもらうことになった。

 

「おお!」

 

私は思わず声を上げた。

自動車だ!

しかも三台もあって、色も形も違うけど、どれもが有名なものばかり。

アビームモーターズのティガー!

カーネリアン・ホールディングスのレヴナント!

さらには今では販売されてないラインアトラスのヨトゥンもある!

凄いぞ、ネームド傭兵!

 

「ナナミは車も好きなのか?」

「普通に好きだよ」

 

グリードの問いかけに、半ば上の空で私は頷く。

はわー。

ちゃんと手入れされてるなー。

ツヤピカじゃん!

普段使いしてるの、やっぱティガーかな?

乗りやすい名車だって聞いたことがある。

 

「ナナちゃん、本当にメカものが好きなのな」

 

笑顔で言うユーゴさんに、私は顔が熱くなるのを感じた。

 

「そんなに分かりやすかったですか?」

「うん。目の輝きが違う。でも、嬉しいよ。アイラは車に興味なくてな」

「あー、洋服やコスメと比べたらそうですね」

 

そして気付く。

さすがに旧式自動車(マニュアル車)はないか。

そだよねー。

 

「マニュアルはないのだな」

 

グリードの言葉にユーゴさんは苦笑した。

 

「自動車はほぼリンケージ一択で、マニュアルなんて骨董品かつ観賞用じゃねーか。博物館に行かなきゃ見かけねーレベルだぞ」

「ナナミはマニュアルに興味があると予想したからたずねたまでだ」

 

このロボ、何故見抜いているし。

 

「あー、なるほど。すまんね、ナナちゃん。さすがにマニュアルは手が出せんわ」

「いえ! 何かすみません!」

「いや、前から思ってたんだけど、何でマニュアルなんだ? こだわりあるのか?」

 

ユーゴさんの問いかけに、私は何となく照れを感じながら答えた。

 

「えっと、リンケージよりもAIのサポートも最低限で、自分で機械やロボを動かしているんだって感覚がリンケージよりも強くあって、それが面白くてやりがいみたいのがあって好きなんです。操縦桿やレバーをガチャガチャするの楽しいし」

 

我ながら子どもっぽい理由だな、とは思うけど正直な気持ちだ。

すると、ずずいとグリードが私との距離を詰めた。

 

「ナナミはAIのサポートは嫌なのか?」

「や、そうじゃなくて──」

「グリード、お前わかって聞いてんよな?」

「質問の意図が不明」

「誤魔化すんじゃねーよ」

「発言の意図が不明」

「急にロボっぽくなるな」

「私はロボットにしてAIだ。問題はない(オールグリーン)

「この浮かれ多脚ロボ」

 

……何かこの一人と一機、仲良いな?

さっきはニコラさんともやり取りしてたし。

私は自然と笑顔になった。

良いことだ。

アイちゃんと仲良いのはわかっていたけど、そっか、他の人とも仲良くなれているんだね。

この調子で、グリードの交友関係がもっと広がればいいな。

すると、ユーゴさんが眉をひそめて私を見た。

 

「何かナナちゃんが母性あふれる目で俺達を見ている。絶対に何か勘違いしてるぞ」

「母性。子供を守り育てようとする人の本能の一つ。私と君のここまでのやり取りに、そう感じさせる何かがあっただろうか?」

「知らねーよ」

 

良いんだよ。

その調子で仲良くね。

私はニコニコしつつ手を上げた。

 

「はい、ユーゴさん」

「ん? 何だ?」

「この自動車たちを選んだ理由を教えてほしいです」

「いいけど、話長くなるかもだぞ」

 

どこか弾んだ声で言うユーゴさんに、グリードは複眼の光をユーゴさんに向けた。

 

「構わない。語ってくれ」

「お前に言ってねーよ」

 

ユーゴさんは言って一つ咳払いをし、そして語り始めた。

一台一台、懇切丁寧に、熱意を持って語ってくれた。

……よっぽど語りたかったんだな。

自動車を本気で好きな気持ちは十分に理解できたけど、話は本当に長かった。

三台目のヨトゥンを語ろうとしてくれたところで、様子を見に来たアイちゃんに止められたのだった。

心から残念そうなユーゴさんがちょっと哀れでもあり少し面白かった。

 

「ユーゴ、明日は皆仕事だ。そろそろ閉会をすることを推奨する」

 

グリードは言って時計を私達の目の前に表示した。

もう少しで二十二時になろうとしていた。

げ、長居しすぎた!

 

「おっと、もうそんな時間か。そんじゃ、お開きにしますか」

 

私達はリビングへと戻り、パーティはつつがなく閉会したのだった。

まだ飲み足りない傭兵たちはユーゴさん宅へ居残ることになったが、女性陣とグリードはお暇することになった。

ハンナちゃんとアイちゃんはタクシーで帰ることになり──代金はユーゴさんが払ってくれるという太っ腹っぷり──私はグリードと地下鉄で帰ることになった。

 

「ナナちゃん、いいのか? タクシー代は気にすることないぞ」

「大丈夫です。少し歩きたい気分なので」

 

門の外まで見送りに来たユーゴさんの申し出に首を横に振ると、グリードが私の横に並んだ。

 

「ナナミは責任を持って私が送る」

「そうか」

「ナナちゃん、気をつけて帰ってね。グリちゃん、ナナちゃんをよろしくね」

「了解した」

 

私はアイちゃんとユーゴさんを見つめ、頭を下げた。

 

「アイちゃん、ユーゴさん、今日はありがとう」

「ナナちゃん?」

「どうした急に」

 

不思議そうな二人に私はニッコリと笑う。

 

「うん、とても楽しかったからちゃんとお礼言いたくて」

「そっか、良かったー」

「次は来年の新年会だな」

「年越しのイベントはやらないのか?」

 

たずねるグリードに、ユーゴさんは肩をすくめる。

 

「俺ら傭兵組は全員仕事だよ」

「私も年越しは家族と過ごすことになってるの」

「ナナミも仕事か?」

「大晦日は二十二時までね。その後はお家でのんびり過ごす予定」

「そうか」

 

私は二人に手を振った。

 

「それじゃ、失礼します」

「ああ、くれぐれも気をつけてな。良いお年を」

 

こうして私とグリードはユーゴさん宅を後にした。

区画は行き同様、人影はない。

時折高そうな車が横を通っていくくらいだ。

街灯がこれでもかと明るく輝いている。

そして監視カメラの存在。

本当に警備がしっかりしてんだなー。

なんて思ってたら、またグリードが手を繋いできた。

 

「駅までいいか?」

「……いいよ」

 

本当に今日は積極的だな。

グリードのカメラの向こうにいる人たち、どう思っているんだろう。

……気にしても仕方がない。

それよりも言うべきことがある。

 

「グリード」

「何だ? 手を繋ぐのはやはり嫌か?」

「違うよ。今日はありがとうって言いたかったの。すごい気分転換になったから」

 

私はグリードの複眼を見て言った。

グリードがマニアな水族館へ連れて行ってくれたのも、アイちゃんとユーゴさんとグリードでクリスマスパーティを開いてくれたのも、私のことを少し気にかけてくれたのではないか思ったからだ。

自意識過剰かもしんないから、口に出さないけど。

 

「ならば良かった。私も君たちをより知る機会を得られ、充実した時間を過ごせた。また機会があれば皆で集まれるといいな」

「うん! そうだね」

 

私は頷き、そしてグリードの手を少しだけ強く握った。

 

「グリードと出会ってそろそろ一年になるね」

「そうだな。あの時のことは明確に覚えている。初期化されない限り、決して忘れることはないだろう」

「……初期化されるような予定あるの?」

「今はない。だが未来は不確定だ。先代の私も先々代から役割を引き継いだ当初は、そのような結末を迎える確率はかなり低く見積もっていただろう。しかし結果は君も知ってのとおりだ」

 

グリードは淡々と冷たい現実を語り続ける。

 

「君も、あのような事件に巻き込まれるとは想像すらしていなかっただろう。街の外と同じく、未来もまた不確定性に満ちている。だからこそ、今という時間を大事にしたい」

「……そだね」

 

グリードはすごいスピードで成長と変化を遂げている。

私も、知らず知らずのうちに変わっていくのかもしれない。

結果、私とグリードとの関係も変わってくるのだろう。

それがいいものであればいいなと思っている。

話題が途切れて黙って歩いた。

でも嫌な沈黙じゃない。

温かくて心地よいものだった。

 

「ナナミ」

「ん?」

「君と一緒に年越しをしたい」

 

その言葉に私は嫌な予感がした。

眉をしかめてたずねる。

 

「もしかして、エウダイモニアのカウントダウンイベントに行きたいとか?」

 

エウダイモニアとは、高さ六百メートルほどの電波塔で、アパテイアのランドマークの一つである。

そこでは年末に大々的なカウントダウンイベントが行われているのだ。

その熱狂たるや、ハロウィンの時の商業・興行区画のレベルに匹敵すると言われている。

想像して背筋がゾッとした。

 

「君が行きたいのなら行くが」

「え、やだよ。あのどんちゃん騒ぎには付き合えないよ」

「そう予想はしていたので、エウダイモニアのイベントは街の管理AIに許可を取ってドローンを飛ばすことにした」

「さすが抜かりないね」

「フェリキタスランド、アグレアブル・ワールド、サイバーシティ・オオエド、ハウオリ・パールパレス・リゾートにもドローンを飛ばすことにしている」

「飛ばしすぎじゃね?」

 

この街の有名な観光施設にもドローンを飛ばすとは、本っ当に熱心だな。

 

「君の応援に応えたい。使命を果たしたい」

「そっか」

「それと同時に君と一緒にまったりとした年越しというものを経験してみたいのだ」

 

全部一気にまとめて経験したいとは。

 

「……強欲さんめ」

 

思わずそう言うと、グリードの複眼の光が一瞬ピカリと強く光った。

 

「私の名がそうだからな」

 

どこか済ましたような、でも微笑んでいるような雰囲気に、私は何故か気恥ずかしくなって視線を逸しつつ言った。

 

「いいよ。でもどこでどうやって過ごすの?」

「それはこれから考えよう」

 

そうして話していうるうちに、地下鉄の駅へとたどり着いたのだった。

 

<充実したクリスマス・イブを過ごした 完>

 

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