多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十七話 一緒に年越しをした 1

今日は大晦日で、現在の時刻は二十一時三十分をまわったところだ。

私は副業先で仕事に勤しんでいた。

 

「ありがとうございました! 良いお年を!」

 

心地よいエンジン音を響かせて走り去る自動車に向かって、私は声を上げ頭を下げる。

電子系の異常があって急遽、このメンテナンスステーションに駆け込んだお客様だったけど、一時間ほどメンテナンスをして元の調子を取り戻した。

ドライバーの女性の話では、彼氏と一緒にこの街では超有名な遊園地フェリキタスランドまでドライブがてら向かう途中だったらしい。

フェリキタスランドで年越しですかー、いいですね、羨ましいですー、とかお話をしたり聞いたり。

女性はいかにもバリキャリでしっかりしてそうな性格で、男性は明るく前向きなハンサムさんなんだけど、だいぶチャラい性格だと話していてわかった。

正反対な性格の二人だけど、何だかんだで上手くいっているのだろう。

そう思いたい。

その後も年越し関係なく仕事をする人々やロボットが訪れ、ハンガーや充電スタンドへ誘導したり、お見送りをしたりしていた。

 

「ナナちゃん、そろそろ上がりの時間だよ」

 

充電を済ませた大型輸送車のお見送りを済ませると、店長のリヒトさんが声をかけてきた。

道路状況を表示した電子パネルを見れば、二十二時五分前だ。

 

「あ、もうこんな時間なんですね」

「二十二時きっかりに打刻してね。上がうるさいからさ」

「はーい」

 

私は駆け足でドリンクバーのバックヤードへと向かい、着替えをして支度を済ませた。

そして二十二時丁度に勤怠管理のメカに顔を映して打刻完了。

ドリンクバーに今はお客さんはおらず、店内の清掃をしている同僚で人型ロボット(アンドロイド)のサヤネさんに声をかけた。

 

「サヤネさん、お先に上がります。お疲れ様です」

「ナナミさん、お疲れ様でした。良いお年をお迎え下さい」

「ありがとうございます。サヤネさんも、良いお年を!」

 

頭を下げるサヤネさんに、私も頭を下げる。

そしてお店を出ると、出入り口付近で立っているリヒトさんに声をかけた。

 

「リヒトさん、お先に失礼します。今年はありがとうございました。良いお年を」

 

するとリヒトさんは人好きする笑顔をむけた。

 

「ナナちゃん、お疲れ様。こちらこそありがとうね。助かったよ。来年は確か三日からだったかな。来年もよろしくね」

「はい! よろしくお願いします!」

 

私はリヒトさんに頭を下げると、メンテナンスステーションを後にした。

AIによって制御された大きな道路は、この時間になっても様々な自動車や強化外骨格(パワードスーツ)が走っていた。

ほとんどの企業がホリデーシーズンに入る中、その間も街の生活を支えるべく働き続ける人々やロボットがいる。

それは前時代から変わらない。

私は今宵の目的地、最寄りの地下鉄の駅前に向かって歩きながら、忙しない道路状況を眺めていた。

今日の予定はこれで終わりではない。

今宵は私の家でグリードと一緒に年越しをして、初日の出を見に行くことになっていた。

最初は自分の家に上げることに抵抗があったから断わった。

でも、

 

「友達の家で一緒に年越しをして、初日の出を見に行ってみたい」

「私は君のことを友達と認識しているが、君は違ったのか?」

「私の存在は不快か?」

 

などと低い美声で悲しそうに言われて心が折れかけた私だが、やっぱり簡単には頷けなかった。

抵抗がある理由は、グリードを観測している一鍔(ヒトツバ)重機の人たちの存在だ。

ただ観測しているだけで、悪気は全く無いのはわかっている。

だけど、一度も会ったこともない人たちにプライベートな空間を覗き見される抵抗感は払拭できず、グリードにそれを伝えた。

すると、家にいる間はリアルタイムの情報を遮断することを提案し、観測している人たちもあっさりそれを了承したという。

しかも電子書面でそれを見せられ、そこまでされてはさすがに断れずについに折れたのだった。

グリードが嬉しそうにしているのを見て、悪い気もしなかったのも事実だ。

ロボやAIに心はない。

だから演技なのはわかっているんだけど、つくづく甘くてチョロいよな、私。

思わずため息をつく。

そして駅前に近づいた時、一台の自動車が私の横につくように止まった。

お、アビームモーターズのティガーだ。

流線型でどこか丸っこい形の自動車が多い中、旧時代のスポーツカーのような形はちょっと珍しくて目を引く上に、安全性や操作性、燃費等も優秀らしい。

名車と名高い自動車の一つだそうで、ネームドの傭兵ユーゴさんもお気に入りの自動車だ。

改めて見ると、やっぱかっこいいイケメンカーだなあ。

一度は乗ってみたいな、ていうか、運転してみたい♡

と、ドアが開いて中からカジュアルな装いのすんごいイケオジが現れた。

輝く街を背景にイケメンカーとイケオジのコラボレーション!

うわー、絵になる!

早速駅前の人々の注目を浴びちゃってるし。

私も思わず足を止め、見惚れそうになって気付く。

……あっ、このイケオジって。

するとイケオジと視線がバチリとあった。

途端、イケオジは物柔らかな微笑みを浮かべる。

 

「こんばんは、ナナミ。夜遅くまで副業お疲れ様だ」

「グリード!」

 

おお、そうだった。

私と一緒に年越しをしたいと希望していたグリードだけど、私の住む社宅にいつもの多脚ロボットは物理的に入れない。

だからアンドロイドの姿になり車で迎えにくることを予告していた。

イケオジグリードの姿を見るのはハロウィンの時以来のことだ。

オジは私のストライクゾーンから外れているから、半分忘れかけていたとは言わないでおこう。

 

「その車、レンタル?」

「ああ。グラトニーから借りた。君がユーゴの家でこの車に興味を持ったことを伝えたら無償で貸してくれた」

 

グラトニーとはこの街の管理AIにして超大企業(スーパーメジャー)アップグルントグループのトップ、そしてグリードの知り合いである。

てか、レンタカー会社のものじゃないんかい。

 

「人目を引いている上に時間が惜しい。乗ってくれ」

 

確かに周囲の目線がこちらに集中している。

グリードのすすめに従って私は車に乗り込むと速やかにドアは閉まり、グリードは車を発進させた。

……おお、これがティガーの車内か。

車高が低く、いつも見る街の風景が違って見えるのが新鮮だ。

そして運転席に目をやれば、イケオジグリードが表情なく運転をしている。

ん? 運転?

 

「あのさ、この車、半自動(セミオート)で動いてんの?」

「私はAIだから自動(オート)で動かしているようなものだ」

 

言われてみればその通りだ。

見かけに騙されてるぞ、私。

 

「それと、女性は車の運転をする男性の姿に高い関心を示すとデータにある。だから君に私への関心を上げて欲しくて運転する姿を見せている」

「正直すぎるよ、グリード」

 

話さなくてもいいことまで話しちゃうのがらしいと言えばらしい。

いや、事実確かにカッコイイけどさ。

私は意識してすました表情をした。

 

「私は自分で運転をしてみたいと思ってるんだけどなー」

「君は自動車の運転免許は」

「あるよ。養成学校時代についでに取った。重機の免許もある」

 

取っていないのは傭兵絡みの特殊免許くらいだ。

 

「重機か」

 

グリードは片手を顎に当てる。

 

「実は重機にも関心のある君を驚かせるべく、弊社の象徴的な重機の一つ、双腕二脚履帯(クローラー)の『カンケル』で迎えに来ようとも考えたのだが」

「……は?」

「それはさすがの君も引くだろう、他社にはなるが自動車のほうが遥かにマシだ、という周囲の意見を聞き入れた」

「正しい判断だよ」

 

そのカンケルがどんな重機かは見たことないけど、双腕二脚履帯という単語の時点で相当のイロモノだということは想像できた。

本当にそれで来られたら、全力で走って地下鉄の駅に逃げ込んでたわ。

てか、重機は基本無人か一人乗り。

二人乗りできんのか? そのカンケルとやらは。

 

八剱(ヤツルギ)グループ、自動車も作ってたよね。

「八剱モータースだな」

「うん。その車じゃないんだ? カーネリアン・ホールディングスと並んでオフロード車が人気だったって、ユーゴさんも言ってたよね」

 

グリードの勤め先の一鍔重機は八剱グループの傘下の会社だ。

そしてカーネリアン・ホールディングスは自動車メーカーの大企業(メジャー)である。

クリスマスパーティの時に、ユーゴさんから延々と車の話を聞かされたことを忘れていない。

 

「会社が現時点でも凍結されている上に八十年以上経っている。中古車市場に出回ることもなくなり、公式に把握している限り所有しているのは自動車博物館にある三台のみだ」

「そっかー」

 

私は視線を下げた。

八剱モータースの他にも、八剱グループの会社の半分以上は凍結されている。

前時代はスーパーメジャーの中でも一二を争う規模で、すっごい技術を持っていた花形企業だったと聞く。

それが時間とともに抵抗もできずに廃れていくのを見聞きするのはさすがに寂しく思った。

というか、人類にとって大きな損失だと思うけど、先の戦争のやらかしを思えば相応のペナルティなのだろう。

……でも、やっぱ寂しい。

 

「交通量は普段よりも多いが流れは順調だ。後十分ほどでナナミの自宅の最寄り駅に到着する」

 

グリードの言葉に我に返った。

グリードはロボらしく機械的な正確さで運転をしている。

楽しそうでもつまらなそうでもない。

先程の話題に感慨深くなることもない。

心がないから当然だ。

 

「あのさ」

「何だ」

「……いつも地下鉄使ってるからわからないんだけど、今日は特別に交通量が多いの?」

「ああ。特に一般車両が多くなっている。この街の各地で様々な新年のイベントが催されており、それに向かっている人々だと予想される」

 

八剱グループの話をもっと聞こうかと思ったけど、結局やめにした。

これ以上おセンチな気分を引きずっても仕方ない。

私は視線を街並みへと戻す。

 

「地下鉄で行こうとは思わなかったのかな。安いしアクセスもしやすいじゃん」

「それが地下鉄のメリットだな。それに対し自動車は周囲に気遣いをすることなく、プライベートな空間を楽しむことができることが大きなメリットと捉える人が多い。私が今回の移動手段を自動車にしたのもそこに理由がある」

「そうなの?」

「ああ。ハロウィンの時にこの姿で地下鉄に乗ったところ衆目を集めただけでなく絡まれもした。そのため今日もそうなるだろう、そうすれば君にとって落ち着かない時間になるだろうと予想し自動車を利用することを決めた」

「そうだったんだ」

 

四脚の姿の時も十分に注目を集めたけど、今の姿も注目を集めていたのか。

それは当然だと思うけど、絡まれたって。

 

「ハロウィンの時、そのこと言わなかったよね」

「言わなかった。君に報告するような内容ではないからな」

「……まあ、そうだけどさ」

 

私にできることは、悪質だったら通報するぐらいだろう。

それだって大したペナルティにはならない。

アンドロイドは人に比べると立場が弱い。

それはアンドロイド=ロボットに心がないからだ。

それはこの街の常識であり、実際、グリードの言動を見るに注目を集めることも絡まれることも何とも思っていない様子だった。

ここでグリードに私以外に好き嫌いがあれば、ちょっとは違ってくるだろうに。

それがちょっともどかしかった。

 

「君にそういう表情をさせたくなかったから言わなかった、というのもある」

 

グリードは私を見て言った。

よそ見運転、禁止!

口に出そうになって、並行作業はAIにとってはお手の物だったことに思い至り口をつぐんだ。

人の姿、厄介だ。

 

「君はロボットに対しても人のように思い入れをする。それは君の美徳だと私は理解しているが、君には笑顔でいてほしいのだ」

「そうかもだけど、嬉しい時や楽しい時だけじゃなくて、辛かったり悲しかったりした時も寄り添いたいって思うのが人だと思う。少なくとも私はそう思うよ」

「なるほど。人への気遣いというのも加減が難しいものなのだな」

 

私は小さく笑った。

 

「人同士でも難しいことだよ。失敗しながら学習することだと思う」

「観察だけでは学習し得ないことだな。私は君や君の友人たち相手に、人への理解をより深めることにしよう。今日のこの時間も有意義なものになることを願っている」

 

堅苦しいなあ。

でもその理由を私は知っている。

だからにっこり笑って言った。

 

「使命のためだもんね。良い時間にしよ」

「ああ」

 

頷き微笑んだグリードの表情は、ロボットとは思えないほど自然で誰が見てもステキなものだと思った。

 

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