多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十七話 一緒に年越しをした 5

「この道を君と歩くのはほぼ一年ぶりだな。私が君に告白して、友達になったとき以来だ」

「そうだね」

 

グリードの言葉に私は笑う。

あの時、こんなことになるとは全然! 全く! 想像すらしていなかった。

 

「去年の君の誕生日は友達にすらなれていなかった。今年は去年の分も含めて祝わせてほしい」

「あんま気合を入れなくてもいいよ。メッセージだけでも嬉しいよ」

「そういうわけにはいかない。君とより親密になるための重大イベントだと認識している。人で言うところの気合の入れどころだ。予定は入っているのか?」

 

グリードの問いかけに私は首を振った。

 

「誕生日は勉強も仕事もお休みにするの、この街の決まりでしょ。だからまだ予定は立ててないけど、どこかに出かけようかなって」

「どこか行きたい場所はあるのか?」

「うーん、サイバーシティ・オオエドがいいかなーって思っていたけど」

「良い選択だと思われる」

「うん。でも、大型パワードスーツの中古展示場へ行ってパワードスーツを見て回るのもありかなって」

 

会社のデフォルトの機体、ミモザも決して悪くない。

さすが民間用パワードスーツの雄、ノーザンライツ工業製だけあって私の愛機だったシリウスに勝るとも劣らない性能の高さだ。

でも、自分だけの機体が欲しいと思った。

シリウスのように自分でカスタマイズして、愛着を持って使いたいなと思ったのだ。

シリウスが全損した損害賠償のあれやこれで、お金を結構もらっていて、中古なら余裕で買える額はある。

というか、新型すら買える。

すると、グリードが目に見えて真剣な表情になったのがわかった。

 

「君とっては初めての大きな買い物だ」

「まだ行くと決めたわけじゃないけどね」

「行くならぜひ立ち会わせてほしいし、その前に相談をしてほしい」

 

毅然と言うグリードに私は少し呆れた。

 

「グリード、その日仕事でしょ」

「君の誕生日にあわせて去年有給申請を出した。問題はない」

「早!」

「それだけ私にとっては大切な日なのだ」

 

するとグリードは私の手を取った。

歩きながら体と顔を私に近づける。

 

「君の誕生日、どうか私を側に置いてくれ」

 

どこか切なげな表情で言うグリードに、心臓が跳ね上がったような気がした。

ついでに顔がやけに熱くなり、ドキドキと胸の音がうるさく聞こえた。

グリードは首を傾げる。

 

「ナナミ、君のバイタルに変化が」

「手を繋いでいたかったらそれ以上は言わないで」

「わかった」

 

早口で言うとグリードは素直に従った。

私は歯を食いしばる。

くううう!

オジの趣味はないのに!

これが四脚の姿だったらこんなことにはなっていないはずで、本当に人というか、私のチョロさが極まっているような気がする。

 

「先程も言ったが、パワードスーツの購入を検討しているようならぜひ私に相談をしてほしい」

「わかったよ」

 

私は頷き、ふと気付く。

 

「そうだ。グリードの誕生日はいつなの?」

「さて、いつになるのだろう」

 

ふざけたような物言いだが、グリードの表情にそんな様子はない。

私は首を傾げる。

 

「誕生日だよ。や、グリードの場合は製造年月日になるのかな? ないわけないよね」

「もちろんだ。だが、どの私の製造年月日をさしているのだろうか」

 

……ああ! そっか!

四脚の姿も今の姿も、グリードにとっては仮初めの姿だ。

 

「グリードはAIだから、稼働を始めた日になるのかな?」

「それは初代だろうか。それとも今の私だろうか」

 

今のグリードだよ!

と、言おうとして思わず口を噤む。

バージョンアップを重ねてきたから、初代のグリードと今のグリードでは違いがあるのは明らかだ。

でも、ずっと稼働を続けているんだよね?

今のグリードって……何?

……あれっ? 何か混乱してきたぞ?!

 

「すまない、ナナミ」

 

グリードを見上げると、グリードはすまなそうな表情をしていた。

 

「君の反応を見たくて、情報を制限して問いかけた」

「え?」

「バージョンアップの日は、歴代からずっと同じ日にしている」

「そうなの?!」

「ああ。十一月二十二日が稼働開始日であり、バージョンアップの日でもある」

「そっかー、って、過ぎちゃってるじゃん! 言ってくれれば良かったのに!」

「去年のこの日、君は事件に巻き込まれて入院をしていた」

 

……そうでした。

 

「ゴメン」

「謝る必要はない。それに私は私自身の記念日にこだわりはない」

「だけど! 今年はやろうね!」

 

手を強く握って言うと、グリードは目を細めた。

 

「わかった。君がそう言うならそうしよう」

 

そうしてしばらく手を繋いで歩いていたけど、坂が急勾配になったので私は手を離し、大きく手を振って坂道を登る。

汗をかかないように気を使って歩き、ケーブルカーの駅前を通過。

そこで人がドッと増えた。

一気に周囲が賑やかになる中、私は無言で坂道の攻略に集中した。

グリードも特に話しかけることなく私と並んで歩いている。

そして、目の前が少しずつ開けてきた。

あ、展望台だ!

 

「結構いるなー」

「夜明けまで後一時間程だ。人出は例年並みだと観測している」

 

独りごちると、グリードが事務的に応じた。

そして展望台へと到着した。

いつもはそこそこの人出かつ、街を一望できる私のお気に入りの場所だけど、今日に限ってはそうではないようだ。

商売の匂いを嗅ぎつけ、いつもはない飲食の屋台も出ていた。

アマザケ、タルザケ、ビール、唐揚げ、その他諸々ある中、とある屋台の屋根に『名物 焼きごま団子』の文字。

いやまて、どこの名物だよ、お前いつもここにいないだろ。

でも美味しそうだなー。

ショウユの焼ける香りって食欲そそるよね。

屋台は十人ほど人が並んでいたが、作業の手際がいいようで人がどんどんはけていく。

 

「ナナミ、ここで待っていてくれ」

「? うん、わかった」

 

グリードは私のそばを離れると、器用に人をかき分けて屋台の列に並んだ。

え? え?

そして五分とかからず、ポカンとしている私のもとへ戻ってきた。

手には焼き団子を手にしている。

グリードは微笑みながらそれを差し出した。

 

「お疲れ様だ。食べてくれ」

「……ありがと。後でお金」

「奢りだ。これくらいは出させてくれ。それとも、私の奢りはやはり嫌か」

 

イケオジにわかりやすく悲しげに言われて、私はそれ以上強くでることはできず、こうして新年から奢られるのであった。

悔しい。

今年もこの調子で奢られ続けるのか?

それってどうなんだ?

私は眉をしかめながら団子にかぶりつく。

 

「ナナミ、口に合わなかったか」

「ううん! 美味しいよ!」

 

私は半ばヤケになって言った。

熱くてモチモチで、ショウユだれが思った以上に香ばしくて美味しい。

……あ、そうだ。

 

「はい。グリードも食べなよ」

 

私は串を差し出す。

さあ、この串を手にとって食べるんだよ。

グリードは一瞬固まった、ように見えた。

いつものように即断らなかったのは、去年の食事に関しての発言があるからだろう。

しばらく私を見つめるグリードに、ドキドキが復活して落ち着かなかったが、私はめげることなく串を差し出し続ける。

そうしてグリードは私を見つめたまま、串を手に取ることなく私に顔を近づけるようにして団子を一口食べた。

しばしの咀嚼からの嚥下、問題なし。

 

「この食感はモチモチしていると言うのだろうか、興味深い」

 

良かったね。

でも、こっちはちょっと意識が吹き飛びそうだったよ。

何で団子を一口食べるのになんと言うかこう、変な雰囲気をだすのかな? このロボ。

こしゃくな小技を出してくる。

 

「ナナミ?」

「だいじょぶだよっ!」

「それは知っているが、またバイタルの変化が」

「それ以上言ったら、私走って帰るからね」

「わかった。言わない」

 

グリードは素直に黙った。

私は変な雰囲気を吹き飛ばすべく、無理やり笑顔を作る。

主導権を我が手に!

 

「モチモチ食感、気に入った?」

「今まで食べたことのない食感ではあった。しかし好悪の判断をするにはデータが足りない」

「それもそうか」

「ナナミは好きなのか?」

「そだね。好きな方だよ。でも、モチモチも、フワフワも、サクサクも、美味しければ何でも好きだよ」

 

グリードは小さく微笑んだ。

 

「君の食への関心の高さはよく知っている。今後も私の食に対する興味を引くべく私を指導してくれ」

「わかった!」

 

私が頷くとグリードは笑みを深くした。

……今年はこの笑顔に慣れたいね!

団子を食べきると──グリードが食べかけた団子は私が食べた。できる限り意識しないようにした──初日の出を見える位置を探すことにした。

ベンチや東屋はさすがに全部埋まっていて、立って一時間近く待つことは確定している。

ならばせめて、居心地良く見通しのいい場所を見つけたい。

 

「ナナミ、少し歩くがいいか?」

「いいけど、いい場所見つけたの?」

「ああ」

 

グリードは頷き、私の腕を取るとスタスタと歩き始めた。

あ! あの辺り、まだ人気が少ない。

 

「グリード」

「この辺りなら落ち着いて見れるだろう」

 

私達の目の前に、この星一番の夜景と言われているアパテイアの夜景が広がっていた。

いつ見てもすごいな!

私は嬉しくなって自然と笑顔になった。

でも何でここ、人気がないんだろ?

改めて周囲を見渡すと、公園の奥の方にあたるが、ベンチも東屋もないし屋台からも距離が離れている。

そしてトイレからも距離があった。

要は、いろんな意味で便利な場所ではないということだった。

……わかりやすいな。

 

「こちらへ来るよう誘導はしているようだが、利便性から入口と展望台のある付近はどうしても人が集中しがちになる。私達への視線も気になる頃合いだと推測し、心身ともに落ち着ける場所はこの辺りが妥当だと判断した」

「ここにも展望台作れば良かったのに」

「ここはいわゆる芝生のエリアで、ベンチやガゼポの設置の予定はなかったのだ」

「そうなの? てかなんで知ってんの?」

 

いつものように検索したのかな?

 

「この周辺は元々八剱グループの所有地かつ所有施設だったのだ。だから知っている」

「えっ? そうだったの?」

「そうだ。今は街の管理下にある」

 

グリードの勤め先の一鍔重機は、八剱グループの傘下にある。

今はメインの企業がほとんど凍結しちゃっていて、傘下も何もないんだけど、でもそういう位置づけだ。

だからグリードが、八剱グループを重要視しているのは不思議なことではない。

 

「君がこの場所を気に入ってくれているのを知った時、私を観測している人たちはそのことを嬉しく思っているようだった。私も今ならわかる。君のお気に入りの場所としてこの公園が認識されていることに、私は人で言う喜びと表現するものを感じている」

「喜び」

「そうだ。八剱は巨大構造物(ハコモノ)をつくらせたら太陽系一とまで謳われたが、それは街作りをするための一つの技術に過ぎない。それは八剱の夢の達成のために必要な技術だった。競合は手強く、競り負けることも多々あったようだがな」

 

八剱の強力なライバルと言えば、ラインアトラス、シンハイ辺りだろうか。

今はアタラクシアに居を構えるスーパーメジャーだ。

 

「ここは、八剱グループの夢の跡の一つだ。それを他ならぬ君が気に入ってくれて、私に伝えてくれてありがとう」

「……どういたしまして」

 

だから、そんな笑顔を向けないでよ。

本当に嬉しそうな笑顔を作るなっつーの。

他の人はともかく、私はコロッと騙されるんだからさ、やめてよ、もー。

挙動不審をごまかすべく、私はグリードに断ってアマザケを買いに行くことにした。

グリードが行こうとしたが、私が買いにいくと言い張り、急いでその場を離れた。

ふー、この時間で冷静にならねば。

屋台に並び、アマザケを一つ購入する。

サービスだよー、と屋台のおばちゃんがカップになみなみとアマザケを注いでくれたおかげで、ちょっとでも歩いたらこぼしそうになった。

ここで少し飲んでいこう。

うん! 甘い、温かい、美味しい!

ちびちびと飲んで時間稼ぎだ。

でもあんまりのんびりしていると、グリードが心配するかもしれないから、そこそこにだ。

……や、心がないから心配はしないか。

グリードもキッパリと心はないと断言することは想像にかたくない。

でも私は、今の人型のグリードをそうとはっきりと断言できるかは、正直怪しい。

やっぱ視覚情報、厄介だよ。

こんなにも振り回されるんだもん。

私は一つため息をつき、グリードの元へ戻ることにした。

四脚にしても人型にしても、いつもなら遠巻きに人が集うグリードだが、周囲がほんのり暗いせいか、グリードの異質さに気付く人は少ない。

でも私はわかる。

素晴らしい街の夜景を背景にして立つ背姿。

人にはない完璧な美がそこにはあった。

それともこれも、私の贔屓目だろうか。

……気を引き締めていこう!

グリードに声をかけようとして、グリードが振り向いて私に微笑んだ。

 

「お帰り」

「ただいま。待たせてごめんね」

「問題はない」

 

私はグリードの横に並び立った。

そしてアマザケを飲みながらグリードとお話をして初日の出を待つ。

空が濃紺から薄い青紫色へと変わっていく。

先程とは目に見えて周囲が明るくなり、周囲に人もだいぶ集まってきていた。

端末の時計を見ようとして、グリードがすかさず時計を私の前に表示する。

 

「後十五分でここでの日の出だ」

「後十五分かー」

 

毎年そうだけど、この街の初日の出の時刻は六時五十三分だ。

ちなみにエウダイモニアの日の出は六時五十分。

高さの分だけ地平線が下がるので、ここよりも早くなるらしい。

更に空が明るくなる。

青紫色から青色へ、そして地平へ近づくにつれてオレンジの色がつき始めるのを、私達は黙って見守った。

 

「現地点の初日の出まであと五分」

 

気の早い人たちが端末のカメラを早速構え始めている。

すっかり冷めたアマザケを飲み干した時、グリードが手を握ってきた。

グリードを見上げると、グリードが顔を近づける。

 

「しばらくこのままでいてほしい」

 

その言葉に、私は周囲を素早く見渡す。

みんな初日の出の方に集中していて、私達に目を向けている人はいない。

……これを見越してのことか。

私は頷いた。

 

「いいよ。でも距離が近い。距離をバグるのは直してよ」

「わかった」

 

グリードは微笑んで頷き、ほんの少しだけ距離を取った。

本当にわかってんのかな。

これから先、もっともっと学習が進み経験を積んだら、どんなAIになるのだろう。

相当な人たらしになるんじゃないのか?

それってどうなんだ?

何か心配になっていると、空気をの色が変わったような錯覚。

見れば空のオレンジ色がより濃くなっていた。

 

「エウダイモニアでは初日の出を迎えた」

「つまり後二分だね」

 

カウントダウンの声が聞こえてくる。

ドキドキしてきたー。

 

「現地点の日の出まで後一分」

 

グリードが告げるまでもなく、周囲のカウントダウンの声が大きくなった。

そして残り十秒。

私も周囲にあわせて唱和する。

 

「七、六、五、四、三、ニ、一!」

 

太陽の上辺が地平線の上に現れた!

周囲は拍手と歓声に包まれる。

私も拍手をしたかったけど、グリードと手を繋いでいる上に片方の手にはからのカップを手にしていたので、口で小さくパチパチと唱えた。

そして太陽の周辺の雲が形を変えていく。

太陽の周囲をウサギの形をした雲が取り囲み、好き勝手に跳ねまわっていた。

現実ではありえない光景で、この演出は毎年賛否両論なんだけど、私はちょっとコミカルで可愛いと思っている。

あ、そうだ、お参りしなきゃ。

前時代からの儀式らしいからね。

 

「グリード、お参りしたいから手を離すよ」

「わかった。カップを預かろう」

「ありがと」

 

私はカップをグリードに預けると、ドームに映し出された太陽に向かって両手を合わせ拝んだ。

今年は安心安全にお金を稼げますように。

みんなと仲良くできますように。

グリードの使命が達成に向けて前進できますように。

これでよし!

私は顔を上げた。

 

「グリードはお参りしないの?」

「しない。願い事なら、太陽よりも君のほうが確実に叶えてくれる」

「? 何それ?」

 

首を傾げるとグリードは再び私の手を取った。

顔を近づけると同時に私の手をを持ち上げると、唇に触れるか触れないかの位置に持ってきた。

うわっ! だから近いってば!

声を上げようとしたけど、グリードの真剣で切実としか言いようのない視線に射抜かれて、身動きが取れなくなった。

 

「今年も私を導いてくれ、ナナミ」

「……導くって?」

 

何を?

顔が思わず強張るが、グリードは小さく笑った。

 

「そこまで構える必要はない。私の使命を引き続き応援してほしい、という意味だ」

 

なーんだ、そんなことか。

思わせぶりに言いやがって。

私はホッとして笑顔で頷く。

 

「それなら任せてよ! 私も頑張っていろいろなこと、考えるからね」

「よろしく頼む」

 

グリードは本当に嬉しそうな笑顔を見せる。

……だからその笑顔はやめーや。

私はまた顔が熱くなるのを感じたけど、無理やり笑顔を作ってごまかしたのだった。

 

<一緒に年越しをした 完>

 

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