多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十八話 パワードスーツの聖地巡礼をした 1

今日は一月十四日。

街の外は今日も灰色の嵐だった。

会社から貸与されている大型強化外骨格(パワードスーツ)ミモザで私は今日も仕事をしていた。

ミモザは、全身黄色のずんぐりむっくりとしたデザインで、アニメや漫画ならモブ機体に分類されるだろう。

お世辞にもかっこいいとは言えない。

でも、そのずんぐりさ加減が、この悪環境に耐え堅実に性能を発揮できるデザインとも言えるのだ。

私は好きだ!

で、そのミモザの探知機で発見した、土砂に半分埋もれている昔のパワードスーツを私は掘り進めていた。

レアメタルはないのはわかっている。

でも、機体のあらゆるパーツは街を維持する資源としてとても有用なのだ。

私はコクピットで操縦しながら黙々と土をどかし続け、そして機体の正体に軽く目を見張った。

お! 珍しい。

今日一番目の機体はシンハイ重工のバイヤンか。

八十年ほど前、人が参加しなかった戦争でずっと優勢にいた超大企業(スーパーメジャー)シンハイグループの代表機。

信頼性はちょっと首を傾げるけど、安価で普段遣いには丁度いいというのが当時の評価だった、とのこと。

スーパーメジャーでも目立っていた八剱(ヤツルギ)グループ、ラインアトラスグループに追いつけ追い越せと頑張っていたらしいけど、今は灰色の空の向こう、低軌道上にある電脳都市アタラクシアを管理している企業の一つになっている。

つまり、私にとっては縁もゆかりもない企業だ。

それを言ったらラインアトラスもないけどな。

そんなことを思いながら地面を掘り下げていき、仕事の先輩でもあり相棒でもあるロイさんも手伝ってくれて無事に発掘することができた。

 

「この辺の状況を見るに威力偵察にでも来ていたんかねえ。この周辺の地面を掘ってけば、同機体が見つかるかもな」

 

機体をコンテナに詰める作業をしながらロイさんが言う。

 

「珍しいから、少しは値がつくでしょうか」

「今はな。シンハイの支配地域だった場所の浄化が進めば、元々は安かろう、そこそこだろう、で大量生産されていた機体だ。レアメタルがなきゃ二束三文で落ち着くだろうよ」

 

ロイさんの評価は中々手厳しい。

 

「ま、オタクにとってはちょい眼福な機体ってこったな」

「そうですね」

 

機体をコンテナに詰め終え、街へと去っていく無人トラックを見送ると、私達は再び嵐の大地の探索を続行するのだった。

そして夕方になった。

本日の収穫は三体。

ロイさんの言うとおりバイヤンを掘り当てた周辺を探ったら、バイヤンをもう一機、そしてラインアトラスのネフィリムを発掘した。

稼ぎはボチボチといったところだ。

 

「そういや、お前さん、明日誕生日で休みだったよな。何か予定立てているのか?」

 

街にある会社に戻る道すがら、ロイさんが話しかけてきた。

 

「ええ。新しいパワードスーツを買いたいなと思っていて、明日は展示場で下調べをしようかと」

「お! やっぱ自分の機体が欲しくなったか」

「はい。ミモザも悪くないんですけど」

「OKOK、皆まで言うな。借りるんじゃなくて、自分で所有して好き勝手にカスタムしてえよな」

「そういうことです」

 

私は笑顔で頷く。

自他ともに認めるパワードスーツオタクのロイさんにとって興味深い話題のようで、声の雰囲気がノリノリなのがわかった。

 

「やっぱ、ノーザンライツ一択か」

「いえ。せっかくなので各社の展示場を見て回る予定です。後、中古展示場へも行ってみようかと」

「いいねえ。パワードスーツ三昧じゃねえか。でも中古は生命維持装置(LSS)付きでもオススメしねーぞ。わかってるとは思うが」

「はい。単純に色んな機体を見てみたいだけです」

「そうか。……ということなら、俺のオススメの中古展示場があるぜ。時間があったら行ってみな」

 

ロイさんは言うと、私の端末にアドレスを送ってくれた。

 

「ありがとうございます!」

「感想、聞かせろよ」

「はい!」

 

と、ロイさんとはこんな調子で話が盛り上がったんだけど。

 

「うーん、ナナちゃんらしいけどさ、せっかくの誕生日にパワードスーツの聖地巡礼なの? 前、サイバーシティ・オオエドに行きたいって言ってなかった?」

 

無事に会社に戻り、同時に戻っていたアイちゃんと更衣室で着替えながら、明日の話題が持ち上がった。

そして、私の予定を聞いたアイちゃんは呆れた様子だった。

 

「そのつもりだったんだけど、パワードスーツの購買欲が最近盛り上がってきていて、その波に乗ろうかなって」

「ナナちゃんの誕生日だからどう過ごすかはナナちゃん次第だからいいけどね」

「あ、でもでも、予約する時マハタリとアップグルント重工は、お祝いするからぜひ来てくださいって言ってたよ」

「ノベルティのプレゼントじゃない?」

「私はそれでも嬉しいよ」

「もー、オタクさんなんだから」

 

アイちゃんは上着を着ながらため息をつく。

アイちゃんも決してパワードスーツに興味がないわけじゃないけど、私やロイさんとは温度差があるってことだ。

私達は着替え終えると、打刻して一緒に会社を出た。

今夜は商業施設にあるアイちゃんオススメの居酒屋で、私の誕生日パーティをささやかに開くことになっていた。

後で後輩のハンナちゃんと、アイちゃんの彼氏のユーゴさんが合流することになっている。

 

「明日はグリちゃんと一緒なんだよね」

 

地下鉄の駅に向かっていると、アイちゃんが話しかけてきた。

 

「うん。ぜひ連れて行って欲しいって。前もって有給まで取っていたみたいだし、断る理由もないしね」

「グリちゃん、ナナちゃんのこと、本当にお気に入りだよね。というか、去年のあの事件からじゃない? 目に見えて積極的になったの」

「うん。私が無鉄砲なトコあるの、事件で知って大分心配しているみたい」

 

するとアイちゃんは両腕を組んだ。

 

「……元々AIってさ、人に気遣うように設計されているって聞いたことあるけど、グリちゃんのナナちゃんに対するお気に入りさとか、心配とか、その範疇なのかな」

「そうじゃないの。てか、それ以外にないでしょ。ロボットやAIに心はないんだから」

 

この街の常識である。

だからアイちゃんも頷いた。

 

「そうだよねえ。だとしたらグリちゃんを作った会社、その辺りチューニングに結構力入れているってことかな?」

「そゆことになるね」

「目的があってやってるんだろうけど、その目的がわかんないから何か不安にならない?」

 

私はその目的を知っている。

グリードの存在理由。

 

『人を救い、幸福へと導く』

 

アイちゃんやユーゴさんたちはそれを知らない。

話してもいいかもだけど、このことはグリードから話すべきことだと思っている。

だから、微妙に話をそらすことにした。

 

「ていうか、グリードはともかく、顔も名前も知らない、話したこともない一鍔(ヒトツバ)の人たちに観察されてると思うと、あんまいい気分はしない」

「だよね。私もユーゴもそう思っていて、一鍔重機の人たち、ナナちゃんの前に出て挨拶と説明をしたらいいのにって話してたの」

 

そうか。

グリードの観察対象は私だけではない。

私に関わる人々も立派な観察対象だ。

一度や二度ならまだしも、アイちゃんとユーゴさんはグリードと接する時間が長くなっている。

それはつまり、グリードを観測する人たちにも、アイちゃんたちの情報が知れているということだ。

悪意のある見方をすれば、盗み見されているとも言えるわけで、そんな状況は当然嬉しくも楽しくもない。

私はこめかみを手で押さえた。

 

「……うん、そうだね。このこと、明日グリードに話すよ」

「ナナちゃん」

「一鍔さんの個人情報の取り扱い、しっかり確認取ったほうがいいよね。人とAIは違うわけだし」

「うん。私達も疑心暗鬼の気持ちでグリちゃんと接したくないの。それにナナちゃん、才能あるのにお人好しで危なっかしいから、企業さんにいいように利用されないかちょっと心配なんだよ」

 

うう、心配されてしまっている。

おっとりほんわかした見かけによらず、しっかりとした性格のアイちゃんのこういう部分に私はいつも助けられている。

申し訳ない反面、とてもありがたい。

私はアイちゃんに頭を下げた。

 

「いつも心配してくれてありがとう。ゴメンね」

「謝らないで。私が勝手にやってるだけだから、杞憂ならそれでいいんだよ」

「うん。でもありがとう」

 

私達は笑顔を浮かべる。

アイちゃんという友達がいて良かった。

心からそう思う。

その時、端末が震えてメッセが着信したことを知らせた。

上着のポケットから端末を取り出して確認すると、意外なことにメッセの相手はこの街の管理AIの一機だった。

 

「こんばんは、カリヤ様。失礼ながらタクル様との会話を聞かせてもらいました。良いご友人をお持ちになりましたね。タクル様の仰るとおり、企業が絡む事柄には私も含めて常に注意を払って下さいませ。明日の訪問、楽しみにしております。それでは素敵な夜を」

 

ラストさん、私達の会話を聞いていたのか。

驚くことではない。

この街の安心安全のため、街を管理する超大物AIによって二十四時間年中無休で監視されている。

それをどう思うかは人それぞれだけど、この街に住むならこの事実は受け入れなければならない。

そして人という種は、この街なくして存続はできないことも、受け入れなければならない事実だ。

 

「ナナちゃん?」

 

アイちゃんに声をかけられ、慌てて目線を上げる。

 

「……マハタリからだった。明日の訪問、楽しみにしております、だって」

 

ちなみにマタハリとはラストさんが経営するスーパーメジャー、サージュテックの傘下の会社である。

アイちゃんは軽く目を見張った。

 

「へー、丁寧だね。……どこかの会社さんとは大違い」

「アイちゃん……」

 

私達は笑いあった。

その後、私達は商業区画にあるオシャレ居酒屋で誕生日パーティをしたのだった。

楽しかった♡

 

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