多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十八話 パワードスーツの聖地巡礼をした 3

カフェを出て歩くこと十五分。

キタキタキタキタ来ましたよー!

私は自分でも自覚できるほどの笑顔で、目の前の展示場の光景を見つめた。

ここが、この街最大の中古パワードスーツ展示場『ハベリーム』だ!

ずらりと並ぶ大型パワードスーツの数々に心が踊った。

サイトの画像や映像では体験できない、この空気と迫力ときたら。

ゲートをくぐって受付を済ませると、私達は展示されているパワードスーツたちに足を向けた。

外光に照らされた大型パワードスーツたちは、外見だけ見たら中古とは思えないほどピッカピカに磨かれている。

私の贔屓するノーザンライツ工業はもちろん、シャマイム重機、アンサーズ重機械工業、ドゥヴァー重機、ウェグナー重工の代表機も数多く置いてある。

はああああ、素晴らしいっ!

これぞ絶景っ!

まさしく聖地っ!

ここだけで半日いられるっ!

私は上機嫌でパワードスーツを一つ一つ見て回りながら写真を撮っていると、背後から気配を感じた。

 

「いらっしゃいませ、カリヤ様、グリード様。何かお手伝いできることはございますか」

 

その声に私はくるりとステップを踏んで振り向いた。

スーツを着た女性の人型ロボット(アンドロイド)

この展示場の店員だろう。

百点満点の笑顔と滑らかな美声でたずねてくる店員にグリードが近づく。

 

「いや、今日は見学に来ただけですので、お構いなく」

「かしこまりました。何かありましたらいつでもお申し付け下さいませ」

 

綺麗に一礼をし、案内係は去っていった。

私は姿勢のよい後ろ姿を見送る。

 

「どうだ、ナナミ。何か気になる機体はあったか」

「全部!」

「全部か。もう少し的を絞れないか」

「うーん……そう言われちゃうと、やっぱノーザンライツかなー。中古でさらにお手軽値段になっているし、外に出しても頑張れそうな腰と関節しているし」

 

人もそうだけど、大型パワードスーツも腰と関節は極めて重要な部位である。

グリードは片手を上げた。

 

「この展示場にある機体で、外での活動に適した機体はノーザンライツとシャマイムのみ。他の機体は街中の活動を想定したものがほとんどだ」

「うん、知ってる」

「その上でLSSが装備された機体は十二体。この先にあるが、私としてはここでの購入は反対だ」

「わかってるよ」

 

街の外で活動するにあたりLSSの装備は必須である。

じゃあその十二体のパワードスーツから選べばいいじゃんという話になるが、命を預けるLSSはいくらでも金をかけろ、最新のものにしろというのが、街の外に出るパワードスーツ乗りの常識だ。

ならば中古の機体に最新のLSSを積めばいいかもだけど、それなら新型を買ったほうが安いし早い。

 

「アンサーズさん、デザインはメッチャかっこいいんだけどなー」

「デザイン性は頭一つ抜けているとネットでの評価も高い。だが値段と性能は君の眼鏡にかなわないのではないか」

「そんな上から目線の気持ちはないけどね」

 

私は肩をすくめる。

デザインはアニメや漫画に出てくるロボのようなカッコよさがあるのだが、カッコイイだけでは私の心は動かないのだ。

 

「次の予定もある。ここで見学を切り上げて移動することを提案する」

 

グリードの時間管理はAIだけあって完璧であり、この提案は正しいものだろう。

でも、時間をかけてここまで来たのだ。

隅々までちゃんと見たい。

 

「せっかくだから、一通り見て回りたいな」

「君の要望は叶えたい。しかし、先程のように丁寧に見て回ることは時間的に難しいと判断する」

「うん。だから時間がきたら教えてね」

「了解した」

 

そして私達はまた歩き出し、先程よりは手短にパワードスーツたちを観察した

奥へ行くほどシャマイムの機体が多く並んでいる。

シャマイム重機も八剱重工同様、先の戦争責任をとって凍結され、新型が出回ることはない。

でもまだ中古として根強く残っていることに驚きと少しばかりの恐怖を憶えた。

その流線型のスマートなフォルムは天使のようだと言われているが、華奢なデザインに騙されることなかれ。

街の外で戦えるほど精密かつ緻密で頑丈な機体が揃っている。

それは去年まきこまれた事件で恐怖とともに身をもって知った。

当然ながら乗る気になれない。

うん、君たちのせいじゃないんだよ。

概ね人が悪いんだ。

片膝で立つシェムハザやペネムを、複雑な思いで見つめた。

結局、時間ギリギリまで展示場に居座り、地下鉄で次の目的地へ向かうことになった。

 

「次はグリードの会社の展示場だよ」

「君の今日のスケジュールは把握している。現時点でスケジュールの進捗に問題はない」

 

カチコチの堅物ぶりを発揮するグリードに、私は少しだけ眉をひそめた。

 

「……楽しみだねって意味も込めたんだけど」

「そうだったのか。人の言外の気持ちについては学習が足りていないようだ。展示場の内容については自信をもって勧められる機体を揃えている。楽しみにしていてくれ」

「うん」

 

私は気を取り直して笑顔で頷いた。

で、十分ほどで目的の駅に到着。

歩いて五分ほどの距離にある一鍔重機の展示場にやって来た。

キレイだけど独特のデザインの展示場の入り口がお出迎え。

正面はガラス張りで中を伺うことができた。

……すっご! どこもかしこもツヤツヤのピッカピカだー。

気圧されつつも、私は両腕を組む。

さあ、グリードの勤め先の機体を見せてもらおうか!

いや、前に企業イベントで実物を見たことあるけど、今回は心構えが違う。

もしかしたら購入を検討をするかもしれないのだ。

ちゃんと向き合わないとね!

グリードが先に展示場に入り、私もその後に続いた。

スーツ姿の男性アンドロイドが上品な笑顔と声音でお出迎え。

でも案内はグリードがやる段取りになっていたようで、私は引き続きグリードについていった。

 

「はわー」

 

目の前に立つ一鍔重機の代表機、ファースト・スターに思わず間抜けな声が漏れた。

身近でファースト・スターを見るのはこれで二度目だが、企業イベントの時の時と雰囲気がまた違っていた。

恐らくだが、展示場内の光の演出によるものだろう。

造形の美しさが外より際立っているように見えた。

本当にカッコイイし造りがしっかりしている。

さっすが、グレートスリーに選ばれるだけのことはあるなあ。

そして、展示されている機体はファースト・スターだけじゃない。

初めて実物を見た、エクリプス、キロノヴァ、グラン・シャリオも、一癖も二癖もあるデザインのくせに造りは完璧そのものだ。

一部の傭兵たちからも絶大な人気があるのも理解できる。

 

「……悔しい」

「ナナミ、何か言ったか?」

「ううん。何でもないよ」

 

私の複雑なオタク心を知らず、グリードは丁寧に機体の説明を続けた。

その説明とその場の雰囲気に心は動く。

だがそこに急ブレーキをかける現実があった。

ひと通りの機体を見て、年の為にと見せてもらったファースト・スターの見積書に私は息を飲む。

高い。

高い高い高い高い!

購入費はもちろんだが、維持費がメッチャ高い!

さすがは稼ぎの良い傭兵の専用機と呼ばれるだけのことはある。

うん! 無理!

庶民には無理だよ、この維持費。

私は見積書から顔を上げると、見守るグリードと店員さんに向かってニッコリと笑った。

 

「持ち帰って参考にさせてもらいますー」

 

見送る店員さんたちを背に、私とグリードは展示場を出た。

次の目的地へ向かうべく歩道を歩き出す。

 

「ナナミ」

 

黙々と歩いているとグリードが声をかけてきた。

言いたいことは何となく予想はつく。

だから先回りをして応じた。

 

「……ゴメンね、グリード。この維持費は私には現実的じゃないよ。無理だよ」

「やはりそうか」

 

グリードは明らかにガッカリした様子で言った。

……むう、こしゃくな演技をしおる。

でも無理なものは無理!

私は演技をするグリードをあえて無視し、笑顔を作った。

 

「じゃ、次はマハタリの展示場だね」

「ああ。見学のあとはラストとランチの予定が入っている。しかし疑問がある」

「何?」

「マハタリ社は小型パワードスーツを主力としており、大型の取り扱いはない。君は小型の購入も視野に入れているのか」

 

グリードの問いかけに私は首を横に振った。

 

「ううん。ただ見てみたいってだけ。ラストさんからも、興味本位でいいから見に来てくださいって勧められたし」

「そうだったのか」

 

グリードは納得したようだった。

マハタリはここから歩いて十分ほどの所にある。

歩きながら、私達の話題は自然と小型パワードスーツのことになった。

小型パワードスーツは、簡単に言うと体に直接装着する機械スーツのことを指す。

そもそも小型パワードスーツは、人の筋力を増強して体に負荷のかかる作業を軽減する目的で作られた。

でも技術は大幅に進化して、今ではロボティクスによる神経接続によって筋力だけでなく、スピード、バランス、反射神経等も向上させるに至り、大型にはできない作業に欠かせない存在となっている。

ついでに言えば大型よりも製造しやすいこともあって、メジャーはもちろん、中小企業や個人の市場参入も著しい。

数多くある機能やデザインのパーツを好きなように組み合わせたり、パーツを自作したりして、自分の考える最強かつ美しいパワードスーツを作り上げる。

その夢というか野望というか、とにかく強い思いが一つの娯楽を生み出した。

小型パワードスーツによる格闘競技である。

この格闘競技大会は、この街の人々の最高の娯楽の一つになっていた。

私は格闘よりもデザインを見るのが好きで、ライブ中継をよく見ている。

 

「大型のほうが好きだし得意だけど、小型に興味がないわけじゃないよ。免許も持ってるし、いろんなデザインを見るのも楽しいし。ただ、選択肢が多すぎてついていけないところもあって」

「確かに現存するパーツの数は夥しいものになっている上に、玉石混交の世界だと聞き及んでいる。こだわろうとすれば、時間などいくらあっても足りないだろう」

「そうなんだよねー」

 

それが敷居を高く感じるというか。

 

「小型パワードスーツ業界は、ここ数十年、ずっと群雄割拠とも言える状態が続いている。その中でもマハタリ社は業界でも頭一つ抜けた存在だ。この見聞が君にとって良い経験になるといいな」

「うん」

 

マハタリのデザイン、特に女性型はきらびやかで華やかなデザインが特徴的だ。

セクシーなのもあるけど、どこまでも上品で女性受けもいい、と聞いている。

実際、私も好きだ。

実物を見るのは初めてだから、今日も行くのを楽しみにしていた。

そんな話をしていたらマハタリの展示場に到着した。

まるでお高いブティックのような外観と、流行を取り入れた造形のショーウィンドウに目を奪われる。

 

「凄いなあ」

「実作業に向いているかはともかく、デザイン性は群を抜いている。女性受けも良いと評判だがナナミも好きか」

「うん。見ているだけで満足だけどね」

「そこは、メイクの時と同じなのだな」

「まあね。実際に街の外で着るなら、レモーネさんか二刃(フタバ)さんかなあ」

「ニ刃か。八剱のグループ会社を選択肢に入れてもらえて光栄だ」

「ニ刃さん、独特デザインで一式装備じゃないとパーツが浮くけどね」

「小型に特化する目的で一鍔から分離した会社だ。デザインの特異性は否定しない」

 

そして展示場に入ると、店員さんがすかさず私達の元へやって来た。

今度は人の女の人だ。

 

「いらっしゃいませ」

「あの、予約していたカリヤですけど」

「はい。承っております。本日案内をさせて頂くリウと申します。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

美人さんに爽やかかつ、にこやかに応じてもらってたちまち緊張と警戒心が溶けた。

私、ホント、チョロい。

リウさんの案内で小型パワードスーツを見て回った。

男性型も女性型もデザインがとにかく凝っている。

と、ひときわ豪華な一角があった。

うわあ、この女性型のスーツ、スーツっていうよりドレスじゃん!

デザイン、メッチャ凝ってるけどどこで着ることを想定したものなんだ?

……ふむふむ、プトゥリシリーズっていうのか。

本当に前時代のお貴族様のお人形のようで、見れば見るほど引き込まれる。

が、写真を撮っている時にさり気に見えた値段に現実に引き戻された。

何じゃ、このお値段! たっか!!

脚部のパーツだけで私の生活費、何ヶ月分になるんだ?!

デザインも値段も異次元すぎて、庶民の私は立ち尽くした。

 

「ナナミ、このデザインが気になるのか?」

「え? ……そうだね。もう見ているだけで胸いっぱいお腹いっぱいだよ」

 

たずねてきたグリードに、私は正直に答えた。

すると、店員さんがニコニコ笑顔で提案してきた。

 

「よろしければ試着してみますか」

「ありがとうございます。でも今日はインナースーツを持っていないですし、見ているだけで大丈夫です」

 

インナースーツとは雑な言い方をすれば、小型パワードスーツ用のとっても大切な下着のことだ。

なので本当に小型を買うなら、インナースーツを持参するか、その場で買うのが常識だったりする。

丁重に断る私に、グリードは店員さんに向けて片手を上げた。

 

「ホログラムでの試着は対応していますか」

「もちろんでございます」

「とのことだ。ナナミ、せっかくだから試着してみてはどうだ」

 

グリートの提案に、私は首を横に振りながらたじろいだ。

キレイなものも可愛いものも大好きだ。

でも、見るだけならともかく、自分が着るとなったら話は別だ。

 

「いいよ。私の趣味じゃないし恥ずかしいよ」

「見ているのは私と私の観測者、そして彼女と街の管理AIだけだ。恥ずかしいことは何もない。それに君ならどんなスーツでも似合うだろう」

 

その根拠はどこからくるのさ!

と言おうとした時、ニコニコ笑顔のリウさんがズイッとグリードの前に出る。

 

「カリヤ様は本日お誕生日と伺っております。この一時、特別な装いになってみてはいかがでしょう。きっとラストさんも喜ぶと思いますよ」

 

ラストさんはAIで心はないから、喜ぶも何もないけどな!

さすがにそれを口にすることはしなかったけど。

善意でグイグイくる二人の圧に負けて、私はホログラムで試着することになった。

店員さんが手持ちの端末を操作すると、私の周りに光が取り巻き、一瞬にして着せ替えが完了する。

さすがは光のサージュテックのグループ会社。

ホログラムの質は完璧なものだ。

故に、着せられてる感が凄い出る。

うわあ、落ち着かないよ、この格好。

私は恥ずかしくて顔を熱くしていたが、店員さんは手放しで褒めてくれた。

 

「なるほど。このような状態をカワイイというのか。君といると学習が捗るな」

 

……グリードは相変わらずのノリだった。

まあグリードに、その辺は期待してないからいいけど。

その後、時間までいろんなデザインのパワードスーツを試着して回り、最後はたくさんのノベルティをお土産に貰って展示場を出たのだった。

 

「ナナミ、小型パワードスーツの世界に触れた感想を聞きたい」

 

早速感想をたずねるグリードに私は笑顔で答えた。

 

「大型パワードスーツとは世界が全然違うね。いい刺激になったよ。来ることができて良かったと思う」

「それは何よりだ」

 

着せ替え人形にさせられちょっと疲れたけど、面白かったのも偽りのない気持ちだった。

 

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