多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十八話 パワードスーツの聖地巡礼をした 5

「ウェールカムトゥ、AHI、エグゼヴィジョンホール!」

 

豪華かつ重厚なデザインの建物の入り口に、場違いなほどカジュアルな黄色の多脚ロボットが両手を上げて私を出迎えた。

顔の部分の画面には、喜色満面の可愛いイラストが表示されている。

この多脚ロボと、こうして実際に会うのは久しぶりだ。

 

「そして、お誕生日おめでとう、ナナちゃん。短い時間だけど、精一杯お祝いさせてもらうお。さあ中に入って。僕の会社のパワードスーツを紹介するお」

「はい、よろしくお願いします」

 

私はトニーちゃんの後に続いて展示場へと足を踏み入れた。

店員さんたちに一斉に出迎えられて恐縮したものの、それを上回る機体の数々に萎縮する気持ちは一瞬にして消えた。

おお! タイプA・アインだ!

やっぱり、この子を最初に出してくるかー。

デザインは良く言えば手堅く、そうでなければ地味と巷の評判では言われているが、実際に見ると無駄は一切なく、見れば見るほど味のあるデザインである。

一鍔重機の展示場と同様、光の演出で機体をより良く見せているのはわかっているが、それでもいいじゃん。

 

「ナナちゃん、本当にパワードスーツが好きなんだおね。目がキラッキラしているお」

 

目を細めるトニーちゃんに、私は力強く頷く。

 

「はい! 大好きです!」

「紹介のしがいがあって嬉しいお」

 

グリードの時同様、トニーちゃんも懇切丁寧に機体の説明をしてくれた。

私もビシバシと写真を撮る。

そんな私の心にピンとくる機体があった。

タイプE・ドライ改。

他の機体と違い、デザインがシャープでカッコイイじゃん!

 

「やっぱドライ改が気になるかお」

 

見惚れる私にトニーちゃんがニコニコしながら言う。

 

「最近の若い子はこういうデザイン好きだおね。僕の会社らしくないという意見もあったけど、一機ぐらい、ちょっと背伸びしたデザインもあっていいのでは? という意見を取り入れたんだお。おかげさまで売上も好調なんだお」

「そうでしょうねー」

 

アップグルントの機体の信頼性は、ノーザンライツと並んでお墨付きだ。

そこにデザイン性をあげたものを持ってこられたら、そりゃ売れる。

 

「コクピットも他の機体とはちょっと違ったデザインにしているお。見てみる?」

「是非!」

 

そうして見せてもらったコクピットは円状になっており、今までの四角いコクピットだったアップグルントのデザインとは異なるものだった。

もちろん技術は最新鋭。

静止状態での乗り心地は文句なし。

動かしてみないと判断はできないけど、現時点では一番理想に近い機体だった。

あ、そうだ。

 

「これって」

「もちろん、マニュアルにも対応しているお」

「いいですね!」

「でしょでしょ! ナナちゃんが気に入ってくれたようで嬉しいお」

 

私はもちろんだけど、トニーちゃんも上機嫌だった。

ま、トニーちゃんは演技なんだけど、何と言うか、グリードと比較して人への寄り添い方に慣れていると感じた。

これが長年の年月による学習と経験の差というものだろうか。

ラストさんもそうだけど、トニーちゃんも凄いAIなんだと改めて実感する。

そしてコクピットを降り、ご参考までにと見せてもらった見積書を見た私は現実に打ちのめされた。

 

「予想はしていたが、やはり値が張るな」

 

一緒に見積書を見たグリードが、私の気持ちを代弁するように言った。

するとトニーちゃんがグリードをジト目でみやる。

 

「その値段でナナちゃんをドン引きさせたお前に言われたくないお。お前んとこと比べたら十分に庶民価格だお」

 

トニーちゃんの言うように、購入費も維持費もファースト・スターと比較したらまだ現実的な範囲だった。

でも。

 

「次の見学先はノーザンライツ工業さんだおね」

「ええ、そうです」

「ナナちゃんの大本命の会社だおね。あそこと比較されると正直分が悪いんだけど、是非前向きに検討して欲しいんだお」

「はい! 真剣に検討させてもらいます」

「よろしくだおー」

 

そうして一通りの機体を見終え、紙袋二つ分のノベルティを頂いて展示場を出た。

するとグリードが、私から紙袋を手に取った。

 

「ナナミ、荷物を預かろう」

「いいの?」

「コンテナの空きに余裕はある。グラトニー、悪いがナナミの荷物を積んでくれないか」

「わかったお」

 

グリードの頭部の後ろについている長方形のコンテナの扉が開くと、すかさずアランさんが前に出て、トニーちゃんの代わりに荷物を詰め込んだ。

ついでにマハタリさんから頂いたノベルティも預かってもらう。

コンテナの扉がすかさず閉められるのを、トニーちゃんはつまらなそうな表情で見ていた。

 

「ふーん。お前、プレゼントはそれにしたのかお」

「それ以上を口にするのは、人で言う無粋と呼ばれる行為に該当。紳士らしからぬ振る舞いだと判断する」

「はいはい、わかっているお」

 

片手を振って面倒くさそうに答えるトニーちゃん。

本当に演技派だな、この街の管理AIは。

それにしても、グリードも私へのプレゼントを用意しているってことか?

……何だろう?

グリードをジッと見つめると、グリードがこちらを向いた。

 

「何だ」

「プレゼントあるの?」

「ああ。後で渡す。内容は秘密だ」

「うん。楽しみにしてる」

 

私が笑顔で頷くと、ずずいとトニーちゃんが私達の間に割って入ってきた。

 

「その前に! 僕の用意したプレゼントを是非受け取って欲しいんだお! ささ、車に乗って」

「はーい」

 

トニーちゃんに促され、例の黒塗りの高級車に乗り込んだ。

ドアが閉まり車が発進した。

窓の外を見れば、トニーちゃんが手を振ってお見送りしている。

あれっ? トニーちゃんとはここでお別れ?

と、思ったのもつかの間だった。

 

「次は僕がオーナーを務めているカフェに向かうお」

 

私の目の前に展開される画面に、トニーちゃんが大写しで現れた。

 

「カフェ」

「そう! 隠れ家的な小洒落たお店なんだお。ナナちゃん的には高級レストラン、肩肘はるでしょ? てか、レストランはラストと被るお。てなわけで、雰囲気的にナナちゃんがリラックスできるお店をチョイスしたってわけ」

「そうなんですね」

 

根っからのお金持ちの言うリラックスができる、は話半分くらいに聞いたほうがいいだろうな。

頷きながら、心の片隅で思う。

車は、幹線道路から外れて脇道へと入った。

しばらくビルとビルの間の道路を走り、ちょっと年季の入ったビルの前に止まった。

一階部分がよくSNSの画像で見かける、良い意味でジメっとしたレトロな外観。

ひっそりとした存在感が、ちょっと隠れ家っぽいイメージだった。

わー、雰囲気が出てるー。

車から出ると、黒の両扉が開いてこの場にはちょっと派手すぎる黄色の多脚ロボットが現れた。

 

「はーい、ナナちゃん、お疲れ様だお」

 

あれ? 展示場でこのロボットとは別れたはずだけど。

……あ! スペアボディか!?

私はすぐさま理解した。

トニーちゃんはAIだ。

本体と呼べるものなんて厳密にはないのだろう。

恐らくだが、今も同時進行でアップグルントの本社でお仕事をしているだろうし、他のグループ会社で会議をしているかもしれない。

会社の仕事だけではない。

街の運営のため、監視カメラで今でもこの街を隅々まで見守っている。

そう思った時、背筋がぞわりとした。

並行作業を得意とするAIの凄みを感じた。

 

「貸し切りか」

「え?」

「看板に表示されている」

「あ、ホントだ」

 

グリードの声にちょっとホッとしつつ、店の前に表示されている看板に目をやる。

確かに貸し切りと表示されていた。

オーナー権限ってやつだろうか。

 

「ナナミ、店に入ろう」

 

グリードに促されてお店へと足を踏み入れた。

店内は豪華ではないが、白と木目を基調とした手作り感のある凝った内装だった。

特に壁一面に飾られた様々な形や色のティーカップに目を奪われる。

これ、ホログラム?

よくできてんなー。

棚に近づきよーく目を凝らす。

最新のホログラムは良くできていて、私の目と知識では判別ができないのは、マハタリさんの試着の時に知った。

そんな私に、トニーちゃんが背後から声をかけてきた。

 

「ナナちゃん、気をつけてね。そのカップたち、ホログラムじゃないお。本物だお」

「えっ?」

 

恐る恐るカップに手を触れると、固く冷たい感触に慌てて手を引っ込めた。

ほっ、本物だっ!

 

「結構な収集数だ。恐れ入る」

 

言葉とは裏腹に無機質に言うグリード。

 

「しかも状態の良いものばかりだ。先の戦火を免れた陶磁器だと推察するが」

「そうだお。前時代に特定の食器を集めて飾るカフェやレストランがあったのを参考にしたお。でも、僕の力を持ってしてもここまで集めるの、結構苦労したお」

 

グリードとトニーちゃんの会話に、無意識のうちに腰が引けた。

何それ、メッチャ手間暇かかってるじゃん!

つまり高いってことじゃん?!

やっぱ金持ちの店じゃんか!!

全然油断できない!

 

「ここは紅茶を専門にしたお店なんだけど、店主(マスター)がデザートを作るのが好きで得意とした人で、試しに出したらネットで大好評になったんだお」

 

振り向いた私に、トニーちゃんがニコニコしながら言う。

 

「今日はナナちゃんのためにスペシャルデザートを用意させたお。それが、僕のプレゼントだお。ぜひ、食べていってほしいんだお」

「……はい。楽しみにしてます」

 

ちょっとショックを引きずりつつ、私は勧められた席に腰を下ろす。

だけど店主さんが運んできたデザートに、そんな庶民ショックはあっという間に消え失せた。

イチゴづくしのパフェだっ!

思わず両手を組み合わせる。

大きいしメッチャ可愛い!!

名前と誕生日おめでとうのメッセージが書かれた、チョコレートプレートが飾られている。

はあああ、食べるのがもったいないー。

 

「ホッホ! やっぱナナちゃんにはイチゴだおねー。可愛いでしょ? 美味しそうでしょ?」

「はい! あの! 写真とってもいいですか?!」

「もちろん!」

 

快諾するトニーちゃんの言葉に、私はすかさず端末のカメラで写真を取りまくった。

うふふー、可愛い上に美味しそうに撮れたー♡

 

「さ、どうぞ召し上がれー」

「いただきまーす!」

 

私はフォークを手にして早速イチゴを食べた。

感無量ってこういう時に使うのかな。

イチゴっ! 美味しいっ!

甘くてちょっと酸っぱいけど美味しい!

食べるのがもったいないくらい可愛いけど、美味しくてスプーンとフォークが止まらん!

あっ! イチゴのジェラートがこれまた美味!

 

「あっという間にパフェが攻略されていくお。ナナちゃんの食べっぷり、見事だお」

「ナナミ、もっとゆっくり味わって食べてくれないか。君の欲望をしっかりと観察したいのだ」

「無理!」

「そうか。無理か」

 

上半分の攻略が終わり、残り半分、グラスの中の攻略を始める。

香ばしい風味のアイスに、生クリーム、いろんな形に切ったイチゴ、カスタードクリーム、イチゴゼリー、スポンジと掘り進めた。

よーし! 完食ですよ!

 

「ご馳走さまでした! 美味しかったです!」

「それは良かったお。ジェラートとアイスで身体が冷えたでしょ。すぐに紅茶を出すお」

 

トニーちゃんがそう言うと、さほど待つことなくティーセットが私の前に運ばれてきた。

店主さんが自らお茶をいれてくれる。

ほわー、いい香りー。

思わず笑顔になった。

紅茶を飲もうとして気付く。

 

「カップ、可愛い!」

「イチゴで揃えたんだお。いいでしょ?」

「はい! すごーい!」

 

イチゴの白い花と実が描かれたカップとソーサーなんて徹底してるなー。

感心しながら飲んだ紅茶は、当然のことながら美味しかった。

身体も温まるし落ち着くしいいな。

私がニコニコしているのを、トニーちゃんもニコニコ笑顔で見守っている。

 

「和んでいるところに水を差すようで恐縮だが、予定の時間が迫っている」

 

事務的な声音で言うグリードに、トニーちゃんが露骨に顔をしかめた。

 

「ホントだお。無粋なやつだお」

「ナナミ、次の目的地へ向かうことを推奨する」

「そっか、わかったよ」

 

私は紅茶を飲み干し、トニーちゃんに頭を下げた。

 

「トニーちゃん、今日は本当にありがとうございました!」

「満足してくれたかお? 幸せを少しでも感じてくれたかお?」

「少しじゃないです。すっごく感じました!」

 

すると、トニーちゃんは笑顔全開で両手を上げた。

 

「やった! 今日僕は、少なくとも一人、幸せな時間を提供することができたってことだお! 小さく短くとも使命を果たせたのだと胸を張れるお!」

 

そんな大げさな。

そう言おうと思ったけど、何故か胸が締め付けられる感覚に口を閉ざした。

人の幸福のために作られたAIやロボットたち。

それが例えプログラムされたものだったとしても、私は心が揺さぶられるのを感じた。

報いてやりたい。

そう思うのは何か上から目線で嫌なんだけど、何もかも上回るトニーちゃんに報いるものは、私にはこれしかない。

 

「トニーちゃん」

「何だお」

「一回、タメ口きいてもいいですか?」

「普段もタメ口で全然構わないお」

「それはないです。なのでこの一回だけお願いします」

 

私は笑顔全開で言った。

 

「やるじゃん、トニーちゃん! 凄いね!」

 

するとトニーちゃんもキャッキャした表情になった。

 

「でしょでしょ! ありがとう、ナナちゃん! これからも頑張るお」

 

そんな私達の横でグリードが、無感情に複眼の光を私に向けているのが横目で見えた。

 

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