多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十八話 パワードスーツの聖地巡礼をした 7

計器の光だけが灯ったコクピット内。

私は呆然としていたが、目の前の画面が光り輝き我にかえった。

ラインアトラス重工のロゴマークが表示され、ソフトウェアが起動するのを見つめる。

……古っ。

しかも起動、おっそ。

八十年以上前の機体だ。

動くだけでも立派だと褒めるべきか。

メンテナンスしっかりしてるんだな、などと考えている内に外部カメラが起動し、外の様子が表示された。

周囲は真っ赤だった。

というのも、空中を飛ぶ警備ドローンも周囲の電子看板も何もかもが赤の警告文が表示され、自動AIによるアナウンスも流れていた。

 

『警告:街の一部で異常を探知し現在調査中。該当区域への立ち入りを禁止します』

『避難勧告:該当区域の住民の皆様は、至急所定の場所へ速やかに避難を開始して下さい』

 

そしておじさん店員が店舗へと走っていき、グリードがこちらを見ているのが映し出されていた。

そうだ、外に出なきゃ!

えっと……手動のコクピット開閉レバーってどこにあるかな。

有人の機体だ。

必ずあるはず。

私がレバーを探し始めた時だった。

 

「初めまして。ナナミ・カリヤ様」

 

突如聞こえてきた声に顔を上げると、前方の画面に白く発光する球体が表示されていた。

 

「私はラインアトラスグループの代表にして、電脳都市アタラクシアの管理をしているAIの一機、プライドです」

 

ラインアトラスグループ。

電脳都市アタラクシア。

そして、プライドさん。

私は呆気にとられて座ることしかできない。

その姿は白くて丸く光るものでしかないが、その声は穏やかで低く上品な男の人のものだった。

それは人を安心させるために調整されたであろう声音であり、私にも十分に効果を発揮していた。

 

「本日は弊社の機体に興味をもっていただき、ありがとうございます。この地上にある機体は既に生産を終了した機体ばかりですが、貴方がお望みならば、弊社の最新鋭の機体をご用意することができます」

 

私の目の前に、電子パンフレットが表示された。

 

「どうぞお受け取り下さい。貴方が注目している価格については、アップグルント重工さんよりは手の届きやすい設定となっております」

「はあ」

 

私は言われるがまま、パンフレットを受け取る。

グレートスリーに選ばれているアルビオンの頭部が映し出されている、カッコいい表紙のデザインだ。

ロイさんが見たら、狂喜乱舞すること間違い無しだろう。

と、プライドさんの映像が乱れ始めた。

ん? 何?

 

「あ、あの?」

「カリヤ様とゆっくりお話をしたかったのですが、この街のAIたちが私をここから追い出そうと頑張っているようで、時間はあまりなさそうです」

 

プライドさんの背後では、展示場の店員さんたちとグリードが慌ただしく作業をしているのが見えた。

……他のAIが追い出そうとしてるって、え? このAI、もしかして無断でこの街に接触しているの?

悪いことしてるの?!

だが、プライドさんの声に特段焦りも悪びれた調子もなかった。

 

「カリヤ様、お誕生日、おめでとうございます。貴方にとってこの一年が充実したものとなり、幸せを得られる機会が増えますように。また今度、時間を作ってゆっくりお会い──」

 

プライドさんが突然消えたのと、機体のエンジンが止まったのは同時だった。

そしてコクピットが開かれる。

 

「ナナミ、動けるか?」

 

グリードが急いでやってくる。

私は事態についていけずにいたが、ひとまず手足を動かしてみた。

特に問題なし。

コクピットから出て地上に降りると、グリードがやって来て私の手を取った。

 

「大丈夫か? プライドに傷つけられるようなことを言われなかったか?」

「大丈夫だよ。ラインアトラス重工のパンフレットをもらった」

 

私は電子パンフレットをグリードに見せる。

 

「後、お誕生日おめでとうってお祝いされた。それとまた会いましょうだって」

「……そうか」

 

グリードは私の手を握る力を少し込めたようだった。

 

「君が無事ならそれでいいのだが──」

「いいわけないお」

 

言いながらやってきたのは、一台の見慣れた警備ロボットだった。

だが、その独特な言葉の調子はただの警備ロボットではなかった。

 

「トニーちゃん?」

「そうだお。ナナちゃん、悪いけど関係者として事情聴取に協力してもらいたいお」

「協力も何も、事が事だけに強制だろう」

 

私のときとはうって変わって無機質な声音で言うグリード。

 

「この案件はこの街の安全保障に関わる一大事。僕はナナちゃんに、この街に住む住人として自発的に協力をしてほしいと思っているんだお」

「もちろん、協力します」

 

真剣な声で言うトニーちゃんに私は反射的にうなずいたが、ちょっと怖い。

大丈夫だよね?

薬を飲んだり打ったり、頭の中を弄ったりしないよね?

 

「ナナミのバイタルの変動を確認。怯えていると判断」

「大丈夫だよ、ナナちゃん! 前の事件の時と同じようにお話を聞くだけだから!」

「……はい」

 

だったらいいけど。

 

「せっかくのナナミの誕生日に無粋なことをする」

「文句があるならアレに言えお」

「今の私に、かのAIに接触する権限は持っていない。故に権限を持つ君に伝えている。この件は厳重に処理してほしい」

「わかっているお。……あの性悪せいで、今日という日が何もかも台無しだお」

「性悪。根性が悪いこと。もしくはそういう性質。その点においては君の性格設定にも該当すると判断。己のことを棚に上げて他のAIを卑下するのは紳士らしからぬ──」

「お前、そろそろ黙るお」

 

……一大事なんでしょ。

仲良くしようよ。

協力し合おうよ。

背後で立ち尽くす店員さんたちの気配を感じながら、私は深くため息をついたのだった。

取り調べは展示場近くの警備部の詰め所で行われ、終わったのは夜の八時過ぎだった。

詰め所から出ると、ドームの天井は通常営業を取り戻し、穏やかな夜空の風景を映し出している。

 

「ナナミ」

 

事情聴取を一足先に終えたグリードが、私のもとへやってきた。

 

「お疲れ様だったな。大丈夫か」

「疲れたよ」

 

私は正直に打ち明けた。

 

「最後の最後でケチがついた感じ」

「全てルール違反をしたプライドのせいだ。君は何一つ悪くない」

「うん、わかってるけどね」

 

聞いた話によれば、低軌道上にある電脳都市アタラクシアと、このアパテイアは不可侵かつ不干渉の決めごとがあり、今回のプライドさんの行いはそれに違反するものだった。

戦争が終わりこの約束が決まってから八十年以上守られてきたことが今日破られたのだ。

これを重く受け止めた街の管理AIたちは、私やグリード、展示場の店員さんたちへの取り調べを綿密に行った。

実際、根掘り葉掘り、そんな細かいことまで聞くのかということまで聞かれた。

もちろん、プライドさんからもらった電子パンフレットは証拠品として押収された。

多分だけど、二度と手元に戻ることはないと思う。

まともに見たのは表紙だけだった。

中身も見たかったな。

そしてこの件に関しては、先日の事件同様口止めをお願いされ、街の人たちには『古いパワードスーツが異常により小火が出た』ということでお知らせするとのことだった。

そりゃ、街の鉄壁なセキュリティを外部の大物AIによって破られたなど公言できないけど、この店の人たちにとってはとばっちりもいいところだ。

あーあ。

テンションがすっかり落ちちゃった。

肩を落とす私に、グリードが再び私の片手を握った。

 

「予定も変更せざるを得ない状況になっている。これからどうする? 君の望みをできることなら叶えてやりたい」

「……まずはこの場を離れたい」

「わかった。ではいつものカフェに行くことを提案する。そこでコーヒーを飲みながら休憩を取ろう」

「そうする」

 

てなわけで、地下鉄でいつもの駅へと向かった。

駅の改札を出て、見慣れている駅前の風景を見て気分が落ち着くのを感じた。

ちょっと元気が出て、いつものカフェに行こうとした時だった。

 

「あれ? ナナミちゃんとグリードじゃん」

 

声をかけてきたのは褐色の肌にゆるい天パのチャラそうな男の人。

見知った顔だった。

 

「フラヴィオさん」

「おお! やっぱりナナミちゃんだ! こんばんは。グリードと何してんの?」

 

私達の前にやって来たのは、アイちゃんの彼氏の部下の一人、フラヴィオさんだった。

すかさずグリードが私の前へ進み出る。

 

「こんばんは、フラヴィオ。今日はナナミの誕生日でこれからカフェに向かうところだ」

「えっ?! マジか?!」

 

声を上げるフラヴィオに、周囲の人の視線が一斉にこちらを向く。

声がでかいよ、フラヴィオさん。

 

「なんだ、言ってくれれば俺もプレゼント用意したのに……や、まて。まだチャンスはあるぞ、俺」

 

フラヴィオさんは思案顔となったが、すぐに私に笑顔を向けた。

 

「ナナミちゃんはさ、夕飯は食べた?」

「まだです。これから食べようかと思っていて」

「そっかー、もっと早ければ俺と飯食えたのに! ……じゃあさ『グラットン』の今日出た新作バーガーとチキン食べた?」

「いえ、まだです」

 

グラットンとは、この街のハンバーガーチェーン店のことで、毎月変わったハンバーガーと風変わりなチキンを提供することで人気がある。

お値段は少しばかりお高めかつハイカロリー。

でも王道のハンバーガーとポテトは美味しい。

私も何気にチェックしていて、心にピンときたものは食べていたりする。

私の答えにフラヴィオさんは破顔した。

 

「わかった! じゃあ、そこで待ってて! ……待っててよ! どっか行かないでよ、絶対だよ!」

「あの、フラヴィオさん?!」

 

呼び止めようとしたが、フラヴィオさんは猛然とダッシュして人混みの中に消えてしまった。

私は何となく立ち尽くす。

 

「……どうしよう」

「フラヴィオは立派な傭兵だが、ナナミに良からぬ考えを持つ警戒度の高い人物だ。しかし、彼はナナミへのプレゼントを買いにいったのだと予想する。人で言うところの情けだ。彼が帰ってくるのを待つことを提案する」

 

この後の予定はカフェでお茶することだけだ。

特に急いでいないし、無視して行っちゃうのも失礼だし可哀想だし、グリードの提案に乗ることにした。

そして待つこと五分、フラヴィオさんは行った時と同じ猛烈なスピードでこちらに戻ってきた。

 

「ナナミちゃーん、お待たせー!」

 

満面の笑顔で手提げ袋を掲げて戻ってくるフラヴィオさんに、私は内心焦った。

声がでかい上にリアクションも大きいから目立つのだ。

目立つのはグリードだけで十分だよ。

そんな私の思いを知らないフラヴィオさんは、紙袋を私に差し出した。

 

「簡単で悪いけど、はい、夕飯兼プレゼント! グラットン新作のニンジャバーガーと、ゴクドーチキンだよ!」

「あ、ありがとうございます」

 

勢い良く渡されたそれを、私はとっさに受け取った。

断る暇もないほどだった。

 

「ハッピーバースデー、ナナミちゃーん! 最っ高! の一年になりますように! んじゃ、また遊ぼうな!!」

 

そうしてフラヴィオさんは、ナイススマイルを残して私達の前から立ち去った。

最後まで声もテンションもボリュームマックスだった。

嵐のようだった。

さっきまでの重苦しい出来事を吹き飛ばすかのように。

 

「騒がしい男だったな」

「うん。でも何か、落ちてた気分がちょっと上がったよ」

 

人混みへと消えていくフラヴィオさんの後ろ姿を見送りながら、私は小さく微笑んだ。

フラヴィオさん、チャラいけどいい人だ。

 

「君のフラヴィオへの好感度が上がったと推測した」

 

ポツリとグリードが言う。

 

「現時刻よりフラヴィオへの警戒レベルを引き上げる」

「何でよ。いい人じゃん」

「それは否定しない。だが去年のナンパの件もあるし、アイラの人物評も無視できない。故に警戒レベルを引き上げる」

「グリード、お友達じゃなくて過保護なお父さんになってるよ」

 

私は呆れて言うが、グリードの四角四面な態度は変わらない。

 

「君の父親になるつもりはない。私は君の幸せを一番に願う友達でありたい。そのためならどんな誹りも受けよう」

「……幸せって、何だろう」

 

無意識にこぼれた言葉に、グリードは再び私の手を取った。

 

「それを私と一緒に考えていこう。それは間違いなく有意義な時間だ」

「……ん、わかったよ」

 

私はフラヴィオさんから受け取った紙袋をグリードに見せる。

 

「これ、せっかくだから夕飯にしようと思うんだけど」

「ここから歩いて五分ほどの場所に公園がある」

「あるね。確かベンチもあったね」

「そこで食べることを提案する」

「じゃ、そうしよ」

 

私達は予定を変更して公園へ向かうことにした。

ビル街に囲まれた公園は街灯も程よくついていて、良い雰囲気になっている。

街頭の下にあるベンチに座り、早速夕飯を食べることにした。

 

「おお、ニンジャバーガー、こうなってるのか」

 

包まれた紙には手裏剣を投げるニンジャが描かれている。

紙を開けるとパンズが真っ黒でショウユの良い香りが漂って来た。

和風って感じ。

いただきますをしてガブリと一口。

うん! 美味い!

食べ慣れたジャンクな合成肉の味に安心感を覚える。

ああ、庶民の肉も十分に美味しい。

一方のゴクドーチキンは、見た目と匂いからしてかなりスパイシーなのを察した。

一口食べて途端にむせた。

かっら!!

メッチャ辛っ!!

すぐに飲み物に口をつけるが、飲み物の中身はウーロン茶で良かった。

炭酸だったら口の中がハチャメチャになってたところだった。

 

「ナナミ」

「だいじょぶ。メチャ辛いけど食べられないわけじゃないから」

「そうか。ネットで公開されているゴクドーチキンの成分表を確認したが、辛味成分が多く使用されており、子どもには与えぬようにとの注意書きがあった。私が知りうる限りの君の食生活は、辛味よりは甘味の方に偏っているようだが」

「ウーロン茶もあるしだいじょぶ。食べきるよ」

 

せっかく厚意で頂いたものだ。

ちゃんと食べきりたい。

ニンジャバーガーは難なくクリアしたが、ゴクドーチキンに汗をかきながら挑み続けた。

ウーロン茶がこんなに美味しく感じられたのは初めてかも。

そして、無事に完食した。

よしっ! ごちそうさまでしたっと!

途端、私の目の前に電子の画面が展開された。

 

『本日の摂取カロリーが、一日の基準値をオーバーしました。また、過度の辛味成分の摂取は舌の味蕾を麻痺させ、胃腸の粘膜を傷つけ炎症を起こす可能性があります。十分に注意して摂取して下さい』

 

街の健康管理システムの注意だった。

……はいはい、わかりましたよーだ。

私はわかりましたのボタンを押し、画面は消えた。

 

「確かに今日は食べすぎたかな」

「今日は君の誕生日だ。多少のオーバーは気にすることではない。明日からまた、規則正しい食生活を送ればいい」

 

その言葉に私は思わずグリードを見つめる。

 

「どうした?」

「や、何かいつも規則正しいグリードらしからぬ言葉だなって。いつものならコレが出る前に注意しそうだなって思ったけど」

「……君もフラヴィオも楽しそうに見えたし、プライドの件もあったので大目に見ていた」

 

……グリード。

もしかして落ち込んでるのかな?

いや、心はないんだから落ち込むも何もないけど、何かそういうふうに見えた。

 

「プライドさんのことは、グリードのせいじゃないよ」

「わかっている。しかし君をとっさに守れなかったのは私の落ち度だ。反省すべき案件である」

 

プライドさんの件、私以上にグリードは気にしているようだった。

私には断片的にしかわからないけど、事情を私より把握しているグリードは深刻に受け止めているのだろう。

でも、やっぱり。

 

「グリードが元気ないと寂しいよ」

 

私は今の気持ちを正直に話した。

ロボットやAIの知識が足りない私は、こんな言葉をかけることしかできない。

だが、グリードは膝においた私の手に、その硬い手を重ねた。

 

「ナナミを寂しがらせるつもりはない。すまなかった」

「グリード」

「今日は君が家に帰るまで、ちゃんとエスコートをしよう。それと、私からもプレゼントがある。受け取って欲しい」

 

手を離すとグリードのコンテナの扉が空いた。

中の棚が自動的に出てきて、光学迷彩のラッピングが施された、いかにもなプレゼントが出てきた。

 

「いいの?」

「ああ、受け取ってくれ」

 

私は立ち上がり、棚から出されたプレゼントを丁寧に手にする。

すると光学迷彩が光の粒子を残して消えて、現れたのは、おおおっ! 薄いピンクのメンダコさんのぬいぐるみだ!

欲しかったやつだ!!

 

「可愛い!! メッチャいい!!」

「去年、君が欲しがっていて諦めていたものだ。気に入ってくれるといいのだが」

「気に入った! ありがとう、グリード!」

 

私はメンダコさんを抱きしめる。

フワモコ感覚、最高♡

 

「良かった。君の眠りの友として側に置いてやってくれ」

「もちろん!」

 

よしよし、今日から君は私の仲間だよ。

大切にするからね!

私は心ゆくまでぬいぐるみの感触を堪能し、そして顔を上げた。

 

「今日は本当にありがとうね。グリード」

「君の誕生日を一緒に過ごすことができて良かった。看過できぬトラブルはあったが、君の様々な姿を見ることができ、私の学習も捗った。互いに良い一日になって良かった」

「うん」

 

プライドさんのことはもちろん気になる。

だけど、そのために私にできることは何もない。

 

「ナナミ、そろそろ帰ろう。家まで送る」

「うん」

 

私達は公園を後にし、地下鉄の駅へと向かう。

そうだ。

グリードに元気を出してもらう方法があった。

 

「グリード」

「何だろう」

「パワードスーツの試乗なんだけどさ、時間があったらついて来てくれる?」

「もちろんだ」

 

即答だった。

予想はしていたけど食いつきがいいな。

 

「時間は合わせる。ぜひ同行させてほしい」

「いいよ。一緒に行こ」

 

私は笑顔で頷いた。

こうして私の十九回目の誕生日、パワードスーツの聖地巡礼は、不穏な影を残しながらも、概ね平和に終えたのだった。

 

<パワードスーツの聖地巡礼をした 完>

 

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