多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十九話 友人に会いに行った 1

何回それを繰り返してきただろう。

でも、見たくなかった。

聞きたくなかった。

事実を受け入れたくなかった。

だから空中に表示される再測定のボタンを押した。

数秒の後、空中に具体的な数字が表示され、女性AIの自動音声が流れる。

 

「ナナミ・カリヤ様の身体測定の結果です。具体的な数字はこちらになります。身長、百六十五センチ、体重は五十──」

 

私は無理やり身体測定のアプリを切った。

…………増えている。

体重がっ!

増えているっ!

学生時代より五キロも増えていやがるっ!!

その事実に素っ裸の私は膝の力が抜け、床に座り込んだ。

嘘でしょ。

だって五キロだよ。

ヤベェよ。

シャレにならねえ数字だって。

何でだよ!

私は床についた手を握りしめる。

私が何をしたって言うんだよ!!

よく働き、よく食べ、よく寝てるだけじゃん!

街が推奨する健全な生活そのものじゃん!

だが、頭の片隅の冷静な部分がある光景を思い出させる。

白銀の双腕四脚のロボット。

私の友達グリードが、私の誕生日以降、私にお高くて珍しいお菓子をくれることが増えた。

 

「この一年、ナナミは甘いものを食べている時は幸せになっていると推測した。ならば私は君を幸せにするための努力を惜しまない」

 

とか言って、カフェに行けば断るのにデザートの類を奢ってくれることもあった。

それと副業後、小腹が空いたからと買い食いすることがあったっけ。

副業で収入が増えたから、SNSで気になった食べ物もパクパクと食べていた。

何より、学生時代に比べれば運動量も確実に落ちている。

ハハッ! そりゃ、太るわな。

私はガクリとうなだれた。

……どうしよう。

いや、やることはもう一つしかねえだろ。

ダイエットだっ!!

特にこのプニプニ腹肉とプヨプヨ太もも肉を削り落とすのだ!

よし! とりあえず着替えよう。

裸で寒いし。

それから具体的なダイエット方法を考えよう。

私はさっさと普段着に着替えて椅子に座る。

さあてね、検索検索っと。

ブラウザを立ち上げてキーワードを入力しようとした時だった。

軽快な電子音とともにメーラーが立ち上がる。

ん? 何だ?

タイトルを見て、顔と体が強張るのがわかった。

 

「巨大兵器『ルシフェル』暴走事件の調査に関する続報について」

 

送信先のメールアドレスも見知ったものだった。

スロウスさんからだ。

私と同い年くらいの、性別不明でダウナーな容姿と言動が脳裏に浮かぶ。

街の管理AIに勝るとも劣らない性能を持ち、いくつかの会社を経営している超優秀なAI。

それもそのはず。

元は超大企業(スーパーメジャー)のシャマイムの管理AIだったのだから。

そんなスロウスさんとの出会いは、決して楽しいものでも幸せなものでもなかった。

メールのタイトル通り、街を平和を脅かす大事件に巻き込まれたのをきっかけにして出会い、私はとても痛い目を見たのだ。

それに、元々ダウナーかつドライでシビアな性格設定のスロウスさんには、ちょっぴり苦手意識があった。

この街のAIやロボットは人に寄り添う性格設定であることが多い中、一線を引く性格はだいぶ珍しいと思う。

それはともかく、メールの内容はパスワードと生体認証を必要とする書類が添付されている簡素なものだった。

続いて複雑かつ長いパスワードが記載されたメールが送られてきた。

面倒だけど、街の安全保障に関わる重要かつ機密事項だもんね。

苦労して打ち込み、さらに生体認証をクリアして添付ファイルを開く。

そこには、定例の調査報告をしたいから指定された日時と場所に来てほしい、ということだった。

……まあ、被害を受けた身としては行くしかない。

日時は一週間後の十九時。

仕事終わりかつ副業がない日を選ぶあたり、本当に抜け目がない。

で、場所は知らない場所だった。

ハイドアウェイ・アパテイア?

いつものスロウスさんの会社じゃないんだ?

ネットで調べてみると、どうやら高級なバーらしかった。

サイトのデザインも店内の画像もキラキラしてて豪華なものだ。

何、このいかにも非日常感満載の高そうなバーは。

サイトのテキストを読み進めて気付く。

 

『スマートカジュアルでお越しください』

 

え? ドレスコードあんのかよ。

メンドクセー。

添付ファイルを改めて確認すると、確かにドレスコードがある店だと書いてあった。

別窓で検索すると、しっかりしつつも堅苦しくもない服装、というのがスマートカジュアルらしい。

……何それ。

メッチャセンス必要な服装じゃん。

そんな服持ってねーよ!

そもそもセンスもねーよ!

カジュアルオンリーな庶民にそんなもん求めんな!

だからといって、そんな理由で欠席をするのはどうかと思った。

思わず頭を抱えるが、その時、友人のアイちゃんの顔が思い浮かんだ。

そうだ、ファッション強者のアイちゃんに相談してみようそうしよう。

早速チャットにテキストを打ち込む。

 

「アイちゃーん、突然ゴメンね。ドレスコードのことで聞きたいことあるんだけど今大丈夫?」

 

待つこと数分。

既読マークがつき、ビデオコールの着信があった。

 

「アイちゃん」

「ナナちゃん、こんばんは」

「こんばんは。ゴメンね、突然連絡しちゃって」

「ううん、大丈夫だよ」

 

私達は一瞬沈黙をする。

沈黙を破ったのはアイちゃんだった。

 

「ねえ、ナナちゃん。ドレスコードのことだけど、もしかしてスロウスさんからのメールのこと?」

「あ! アイちゃんのとこにもきてたんだ?」

「うん。そっかー。ということは、ロイさんのとこにも来てるよね」

「そういうことになるね」

 

事件に巻き込まれたのは、私とアイちゃんと仕事の先輩のロイさんだ。

当然、アイちゃんとロイさんのとこにも同様のメールが送られたのだろう。

 

「この件、家族にも箝口令が敷かれているから私はともかく、ロイさんは理由付けも悩みそうだよね」

「……そうだね」

 

私は家族も親戚もいない天涯孤独だからその辺は大丈夫だけど、家族がいる人は大変だ。

特に一家の長であるロイさん、どうやって家族に説明するんだろ。

いきなりスマートカジュアルな服着て、ちょっと出かけてくっから! じゃ家族は怪しまないか?

 

「それでドレスコードの件だけど、スマートカジュアルだったよね」

 

アイちゃんが話を戻した。

 

「そうそう。調べてみたら、ビジネスカジュアルと違うみたいで超難しそうじゃん。センスが必要っていうかさー」

「わかるよ。普段、着る機会がない服だからね」

 

言って、アイちゃんは真剣な表情になった。

 

「そういうドレスコードのお店って、服だけじゃなくて、身につけるアクセサリーやバック、靴も全部チェックされるんだよ」

「身分証明なだけじゃダメなん?」

「お店の雰囲気やブランドを崩さないようにするためだからね。嫌なら来なくていいよってスタンスだと思う」

「メンドクセ」

 

思わず本音が漏れる。

するとアイちゃんが苦笑した。

 

「ナナちゃんらしいけど、私は結構好きなファッションだよ。レンタルで着たことあるけど、ちょっと気分が上がったもん」

 

……え?

 

「着たことあんの?!」

「レンタルでね」

「どこで?!」

「ユーゴとデートの時に、ドレスコードにスマートカジュアルを指定されたお店に行ったことがあって」

 

……なるほど。

この街でもネームドな傭兵でお金もちなユーゴさんを彼氏にしているアイちゃんは、そういう経験もしていたのか。

私も会社の重役のAIと友達だけど、そんな経験はしたことはない。

まあ、私がその類のお店を避けてきたのが一番の原因だけど。

 

「買っても高い上に多分クローゼットの肥やしになっちゃうと思うから、レンタルで一式を借りるといいよ。私はそうするつもり」

「ホログラムは」

「多分、すぐに見抜かれるんじゃないかな」

「だよねー」

 

そんなに甘くないよな。

……はあ、余計な出費だけど、行かないわけにはいかない。

 

「ねえアイちゃん、私もそのレンタルのお店、一緒に行っていい? コーデよくわからなくて」

「もちろんだよ! 一緒に行こう!」

 

アイちゃんが笑顔で快諾してくれた。

私も安堵で笑顔になる。

アイちゃんと一緒なら失敗することはないだろう。

と、その時、ビデオコールが鳴った。

発信元は、

 

「ロイさんからだ」

「……多分、ナナちゃんと同じでスマートカジュアルで躓いたんじゃないかな」

「出ていい?」

「いいよ。私にも繋いで」

「OK」

 

ロイさんとビデオコールを繋いだ途端、渋面を刻むロイさんが画面に現れた。

 

「ナナミ、夜遅くに突然悪い。聞きてぇことがあんだけどさ」

「スマートカジュアルの件ですか」

「何だお前エスパーか?! ってあれ、アイラもいんのか」

「こんばんは、お邪魔しています」

「ちょうどいい。スマートカジュアルって何だ? 強化外骨格(パワードスーツ)の新しいデザインじゃねーよな?」

「違います」

 

私とアイちゃんは同時に答えた。

事情を聞くと、ロイさんのところにもスロウスさんからメールが届き、アイちゃんの予想通り、ドレスコードで困っているとのこと。

で、急遽明日、仕事帰りに三人でレンタルのお店に行くことになったのだった。

 

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