多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第十九話 友人に会いに行った 2

そして報告会の当日を迎えた。

仕事を終えて一度家に戻り、レンタルしてきた服に着替える。

私は検討の末、パンツスタイルのコーデにした。

オフホワイトのズボンと紺色のジャケット。

ジャケットの金色のボタンがちょっとリッチで華やかな印象だ。

で、普段なら絶対に使わないツヤピカの小さな白いバックに荷物を移し替える。

……物がたくさん入らなくて不便だな。

て、これは庶民感覚ってやつだろう。

メイクは、いつもどおりの必要最低限。

そんな凝ったメイクは私にはできない。

髪はネットの動画で見つけた超簡単かつ華やかなお団子ヘアにした。

そしてパールのアクセサリを身に着け、ツヤツヤに磨いた手持ちの黒いパンプスを履いて準備完了。

ホログラムで全身を映し出して確認をする。

……悪くはない、と思う。

そもそも無縁のコーデだから良し悪しは正直わからない。

ただレンタルのお店で試着した時、店員さんもアイちゃんも褒めてくれたから、間違いはないだろう。

端末の時計を見れば、待ち合わせの時間一時間前だ。

少し早いけど私は家を出て、待ち合わせの場所へ向かうことにした。

靴ずれ対策はしてあってパンプスの履き心地に違和感はない。

去年、対策をせずに文字通り痛い思いをした。

人は学習する生き物なのですよ。

地下鉄に乗り、何の問題もなく目的の駅に到着。

商業施設の中でも高級なお店が立ち並ぶ一角で、待ち合わせの場所はお高めのカフェの前だった。

見たところ二人とも来ていない。

そりゃそうだ、待ち合わせの時間まで三十分以上ある。

一週間前に作ったアイちゃんとロイさんのグループに向けてメッセを送った。

 

「待ち合わせのカフェの前に到着しました。お茶して待ってまーす」

 

お茶しているカワウソさんのスタンプを送信する。

そして店に入り、一番安いコーヒーを頼み──それでもいつものカフェの倍以上の値段だった──席で待つことにした。

端末を見るとロイさんからメッセが届いていた。

 

「早ぇな。こちらは時間通りになりそうだ」

「了解です。安全第一で来てくだい」

「OK」

「ナナちゃん、私は十分前に着く予定だよ。待たせてゴメンね」

 

ゴメンネしているネコのスタンプが送られてくる。

 

「私が勝手に早く来ただけだから問題ないよ。気をつけて来てね」

 

アイちゃんにメッセを送り、私はコーヒーを飲んだ。

……いつも飲んでいるカフェより流石に美味しいな。

てか、こんだけお金取ってんだから美味しくなきゃダメでしょ。

一息つき、ふとグリードのことが思い浮かんだ。

そうだ、写真送ってみよう。

上半身が見えるように自撮りをして、グリードにメッセを送る。

 

「グリード、お仕事お疲れ様。私は今から、アイちゃんとロイさんと一緒にスロウスさんに会いに行ってくるね」

 

そして先程撮った画像を続けて送った。

しばらくして既読マークが付いた。

 

「ナナミ、こんばんは。今日はスロウスと会う日だったな。アイラとロイがいるから大丈夫だとは思うが、くれぐれも気をつけて応対してくれ」

 

相変わらずの堅物のテキスト。

にしても、最近のグリードはちょっと過保護というか心配性になっていると思う。

心当たりがあるとすれば、私の誕生日にあまりよろしくない事件があってからだ。

私はパワードスーツの中古展示場でスーパーメジャー、ラインアトラスのAIであるプライドさんと接触をした。

で、お祝いの言葉と新型のパワードスーツの電子パンフレットを貰った。

これだけだ。

これだけなんだけど、プライドさんは低軌道上にある電脳都市『アタラクシア』の管理AIでもあり、実は地上との接触は終戦時から禁止されていたのである。

それを破って地上にいる私と接触したことが大問題となっているのだった。

もちろん、このことも箝口令で誰にも言えない。

何故、よりによって私と接触したのかは不明だけど、グリードは私を守れなかったと責任を感じているようで今に至るのだった。

グリードのせいじゃないのに。

 

「大丈夫だよ。今から行くお店、セキュリティはかなりしっかりしているって、グリードも言っていたじゃん」

「万が一ということもある。やはり私も一緒に行くべきではないだろうか」

「大丈夫だから! いざとなったらお店の人とスロウスさんを頼るから! ね」

 

安心させようとメッセを送った時だった。

 

「ナナちゃん、お待たせー」

 

顔を上げるとキレイめのレースなワンピースを着て、清楚でちょっぴり華やかなコーデのアイちゃんが、コーヒーを乗せたトレーを手にやって来た。

私は自然と笑顔になる。

 

「アイちゃん、コーデ凄くイイね。てか、メイク、メッチャかわいい!」

「ふふふ、ちょっと気合い入れてきたんだー。時間に間に合って良かった」

 

言いながらアイちゃんは私の向かいの席に座った。

そして私の手元に目をやる。

 

「誰かとメッセしてた? グリちゃん?」

「うん。心配して『私も行くべきか』とか言い出してるから、なだめてるとこ」

「……グリちゃん、性格設定に心配性が追加されたの?」

「そんな話は聞いてないんだけどなあ」

 

苦笑するアイちゃんに、私はため息をつく。

 

「ロイさんが来たら、三人で写真を撮って送ってあげよ。少しは安心するかもよ」

「うん」

「てか、AIを安心させるって変な話だけどね」

「ね」

 

私達は笑いあった。

私は再び端末に目を落とし、グリードに向けてテキストを打ち込む。

 

「アイちゃんが来たよ。ロイさんも来たら、後で皆で撮った画像を送るね」

 

そしてしばらくお互いのコーデの話をしていたら、

 

「よお。待たせたな」

 

来たのは、しっかりしつつもカジュアルなコーデのロイさんだった。

レンタルのお店で試着したのを見たけど、環境の違いか印象が少し違って見えた。

 

「わあ、ロイさん、よくお似合いですよ」

「お世辞はいい。嫁にはホスト崩れみたいだと笑われ、娘には似合わないとキッパリ言われた」

 

アイちゃんの褒め言葉に不貞腐れた表情で言うロイさん。

ロイさんは私以上にカジュアルな外見と中身をしている。

娘さんの言う似合わないというのは、見慣れていないせいだろう。

 

「見慣れていないせいですよ。大丈夫。スマートカジュアルしてますから」

「そうですよ! イケてます!」

 

なだめるアイちゃんと私に、ロイさんは照れた様子で頬をかいた。

あ、そうだ。

 

「ご家族にはこの件、どう説明したんですか」

「ん? 仕事の守秘義務ってことで通した。嫁は俺の前の仕事知ってるから、すんなり納得した」

「そうでしたか」

 

私の問いかけに、ロイさんはあっさりと答える。

ロイさんは元傭兵だ。

だからルシフェル暴走事件の時も大活躍をした。

で、前の報告会の時、ロイさんの活躍に目をつけた傭兵の斡旋会社から復帰の要請が殺到したという話を聞いた。

だけど、ロイさんは全部断ったらしい。

 

「そろそろ時間だ。行こうぜ」

「はーい」

 

そのロイさんに促されて私達はお店を出た。

そして渋るロイさんに頼み込んで、三人で写真を撮り、私はグリードへ送った。

 

「それじゃ行ってくるね。終わったらまた連絡するよ」

「わかった」

 

グリードとのメッセを終え、私達はスロウスさんの指定したお店へと足を運んだ。

歩いて三分。

一階は高級なレストランになっている小綺麗なビル。

この五階にお店があるらしい。

ビルに入ろうとして、しっかりとした黒服さんが入り口にいた。

恐らくは警備の人型ロボット(アンドロイド)

 

「何だよ。もうここから選別が始まってんのか」

「みたいですね」

 

しかめっ面をして言うロイさんに、応じるアイちゃんの表情も少し引きつっている。

……メンドクセー。

正直な気持ちだが、さすがにもう引き返せない。

私達が近づくと、黒服さんはにっこり笑ってドアを開けた。

お! 第一段階はクリアできたようだ。

 

「よし。後は店の前だな」

「ですね。大丈夫ですよ」

「でも、ドキドキしました」

 

私達はエレベーターに乗り五階に到着。

ドアが開いた途端、きらびやかで華やかな異世界が広がっていた。

何っ、じゃ、この店内は!

私の持つ語彙じゃ追いつかないほど高級でキラキラしてるんですけど。

 

「いらっしゃいませ」

 

出迎えた男性の店員は人だ。

アンドロイドに勝るとも劣らない美貌と所作。

すげーな、おい。

呆気にとられる庶民三人。

だが先に我に返ったアイちゃんが勇気ある一歩を踏み出した。

 

「あの、スロウスさんに呼ばれて来た者ですが」

「お話はうかがっております。大変恐縮ですが、身分を証明できるもののご提示とお荷物のチェックにご協力をお願いいたします」

 

こうして身分証明と手荷物検査を行い、私達は問題なくクリア。

ようやく店内へ誘導された。

 

「何か俺のチェックが長かったような気がするのは気のせいか?」

「気のせいですよ。多分」

 

眉をしかめて小声で言うロイさんに、私も小声で応じる。

それにしても、どこもかしこもキラキラしてるなー。

なのに全然下品じゃない。

絶妙なバランス感覚の意匠設計だ。

で、店員さんのあとに続いて店の奥へと向かっていく。

そして一番奥の部屋に通された。

 

「スロウス様、お連れの方が参りました」

「通して下さい」

 

そして部屋のドアが開かれた。

キラキラとは一転、薄暗く重厚そうな室内が私達の前に現れる。

あ、上の吊り下がっているの、漫画で見たことある。

シャンデリアだ!

すっごく優しくて繊細な光が天井に煌めいている。

その光の下、スロウスさんが立っていた。

今宵のスロウスさんは、アクセサリーの類は控えめのスマートカジュアルな格好をしている。

……マニッシュ、と呼ぶのだろうか。

わかるのは、私と同じパンツスタイルということと、様になって見えるのは、上質なものを身に着けることに慣れているということだった。

 

「こんばんは。仕事終わりに呼び出してすまない。ここまで来てくれてありがとう。お疲れ様」

「ホントにな」

 

ダウナーかつ砕けた口調で言うスロウスさんに、皮肉っぽく応じるロイさん。

この一人と一機の相性はあまりよろしくないのだが、AIのスロウスさんは気にも止めていないだろう。

 

「じゃ、とりあえず適当なとこに座って。早速報告するから」

「わかりました」

 

頷き答える私だが、こんなに礼儀のないテンションの低い報告会があっていいのだろうか。

私達が高そうなソファに腰を下ろすと、すかさずウェイターがやってきて水を持ってきた。

あ、この水、きっと高いやつだ。

そもそもこの街では、お酒よりも真水のほうがお値段が高い。

そしてウェイターが部屋から出ると、私達の目の前に電子資料が展開される。

ダウナーなスロウスさんだが、報告するその言動は真面目で真剣なものだった。

報告の内容は端的に言えば、街とロボットやAIに叛意をもつ過激組織が、厳重に封じていた地下施設に何故侵入できたのか、その詳細が判明したということだった。

大型のパワードスーツによる武力行使もさることながら、小型パワードスーツによる侵入作業が予想を超える精密さで行われたことも大きかったという。

 

「街では違法なパーツを使って作業が行われていたことがほぼ確定している。終戦後と比較して小型の性能は段違いで進歩しているからね。その性能にセキュリティが耐えられなかったんだ」

「小型の技術進化もそうだが、それを操る人、正確にはサイバネを施した人も進化してっからな。遺体の確認はできたのか」

 

先程までの不機嫌な態度はどこへやら、ロイさんは真面目な表情でスロウスさんにたずねる。

 

「遺体の損傷が激しくて回収も難儀したけど、調べた感じ、サイバネティクスが施されたと確信している。そうでなければ動かせないであろう小型のパーツを確認したからね」

「最悪じゃねえか」

 

ロイさんの表情が険しくなった。

アイちゃんも神妙な表情となり、私も似たようなものだろう。

街の外は治外法権だ。

だから、街では禁止されている違法なパーツや技術が大量に出回っている。

もちろん、出る杭は傭兵によって確実に打たれるが、正直なところイタチゴッコと言っていい。

街への脅威は決してなくなることはないのだ。

 

「この事は街の管理AIにも報告済みで、近々大規模な取り締まりを実行するんじゃないかと予想する」

「なるはやで頼みてぇとこだな。真面目に法律守ってる俺等みたいのがバカを見るのだけはゴメンだぜ」

「君の意見に同意する。今回の報告は以上だよ」

 

スロウスさんは言い、報告会は終わった。

後は帰るだけなのだが、ロイさんは胡乱な表情をスロウスさんに向けた。

 

「て、これだけなら前回みてえにお前の会社の会議室でも良かったんじゃねぇか。何で今回はメンドクセー場所に呼んだんだよ」

 

ごもっともな質問に私も思わず頷く。

するとスロウスさんが私とアイちゃんを見た。

 

「ここに呼んだのは、この件とは別にカリヤさんとタクルさんに警告をしに来たからだ」

「警告?」

 

何それ。

するとスロウスさんはロイさんに視線を移す。

 

「アロンソさんはここで帰ってもらってもいいよ。でも、付き合うんだったら箝口令を敷く内容だってこと肝に銘じて欲しい」

「何だよそれ」

「箝口令を敷く内容だと言った。現時点では言えない」

 

再びスロウスさんとロイさんの間の空気が不穏なものになるが、私はそれどころじゃなかった。

思わず隣のアイちゃんを見ると、アイちゃんも私を見ていてハッキリと困惑の表情を浮かべている。

……また秘密を抱え持つことになるの?

何か私、知らぬ間に街の不穏な沼にズブズブと浸かってない?

ロイさんはそんな私達の方をチラリと見、そしてソファに座り直すと腕を組んだ。

 

「いいぜ。秘密は必ず守る。箝口令にも従う。だから俺にも話を聞かせろ」

「ロイさん」

 

アイちゃんの呼びかけに、ロイさんはニッと歯を見せて笑った。

 

「小娘二人を放って一人で帰れるかっての。それに、知ってる顔が混じってたほうがお前らも安心だろ」

「……ありがとうございます!」

 

私とアイちゃんは揃って頭を下げた。

正直なところ、秘密を一人でいくつも抱え持つのは少ししんどい。

それを一つでも元傭兵の大人であるロイさんにも共有できることは、とても心強いことだった。

 

「そ。じゃ、あとで契約書にサインしてもらうから」

 

スロウスさんの態度はどこまでもドライだった。

 

「まずこれを見てほしい。一ヶ月前に撮ったものだよ」

 

スロウスさんが言うやいなや、私達の目の前の空間に動画が展開された。

 

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