多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十二話 挑戦をした 3

カールソンさんたちとお茶してから二週間。

一言で言えば地獄だった。

絞る時も厳しかったが、維持するのはさらに気を使った。

ちょっとの数字の増減に神経をすり減らす日々。

本業だけは支障をきたしてはならないと無心で頑張ったけど、お昼休憩中、皆がお昼ご飯をモリモリ食べるのを見るのが本当に辛かった。

心配していた月一のイベントは、医者から処方された薬で肌荒れやら痛みやら不快な症状はほぼなかった。

しかし、食欲増加は薬を持ってしても抑えきれずに私を苦しめた。

とにかく何かを食べたくて食べたくて仕方なくて、そんな私の様子がよほど酷かったのだろう、見かねたトレーナーのリーさんが急遽チートデーを一日設けてくれた。

 

「心までダイエットする必要はないからね。カリヤさんは若いから、トレーニングを頑張れば増えても元に戻るのもすぐだから大丈夫だよ」

 

慈悲深き神の言葉かと思った。

で、ジム帰りにグリードに急遽チートデーになったことを伝えると、アンドロイドの姿で私の前に現れた。

そして、バレンタインの時に買った例のストロベリーチョコレートを公園のベンチで一緒に食べた。

 

「約束したからな。果たせてよかった」

 

そう言って嬉しそうに微笑むグリードの表情が、イベントで弱々になっている心にしみた。

本当に演技力が上がったなあ。

私はストロベリーチョコレートを涙目で食べながら思った。

すでにチョコを食べ終わったグリードが片手を軽く上げた。

 

「提案だが、展示会が終わったら、またあの展望公園に行って食事をとるのはどうだろう」

「いつもみたいにレストランとかじゃないんだ?」

「ああ。ナナミの好物を買い、ナナミのお気に入りの場所で食事をとる。それはレストランに勝るとも劣らない体験だと推測する」

 

おなじみの四角四面の言葉遣い。

だが、間違いなくグリードなりに励ましてくれているのだと感じた。

 

「……うん。行く」

 

だから私は、チョコをしっかり噛みしめて食べながら深く頷いた。

本業で事情をわかっているアイちゃんを始めとした人たちも、副業で融通をきかせてくれたリヒトさんやサヤネさんも応援してくれている。

頑張ろう。

本当にあともう少しだから。

私は自分の心にあえてムチをうち、苦行とも呼べる日々を過ごした。

そして展示会の前日となった。

設営の手伝いとリハーサルをやった時、私の様子を話しに聞いていたのだろう、関係者のみんなが心配してくれたけど、私はラストスパートとばかりに頑張った。

その努力は報われ、リハーサルは一発でOKがでた。

感極まってベソをかく私に、カールソンさんが真面目な表情を向けた。

 

「カリヤさん、本番は明日からの二日間だよ。泣くのは全て終わってからだ。今日はまっすぐ家に帰ってしっかり休んでね」

「はい!」

 

私は涙を拭いながら返事をした。

カールソンさんの言葉に従い、私は寄り道せずに自宅へと戻った。

機械的に例の食事を取り、端末を確認する。

いよいよ明日が本番ということもあり、アイちゃんやグリードの他にも事情を知る人たちが応援のメッセをくれた。

嬉しさ半分プレッシャー半分。

みんなの期待に応えたい。

そのためにも心身ともに万全にせねば。

私はシャワーを浴び、肌の手入れを念入りに行ってベッドに横になった。

おやすみなさい。

緊張で眠れなくなるかと思ったけど、設営とリハーサルで相当気力も体力も使っていたらしく、あっという間に眠りに落ちた。

 

ついに本番一日目が始まった。

アパテイアで一番大きな展示場での展示会は、大小の企業はもちろん個人での参加もあり、会場はイベント開始前から準備で賑わっていた。

体調もお肌の調子もバッチリになった私は、予定通りの時間で入場し関係者と最終的な打ち合わせを行った。

通常はプレス関係者や見学者向けのアピール。

そしてパフォーマンスは午前と午後の二回行われる。

更衣室ですっかり馴染んだパワードスーツを着た。

更衣室を出てヘッドパーツを装着し、リンケージ完了。

担当のラーションさんに最終確認をしてもらう。

全てオールグリーン。

既にフル装備となり準備万端のカールソンさんがブースの袖で私を待っていた。

凄いな。

さすがは場慣れしたスーパーモデル。

立っているだけで人を圧倒する雰囲気を放っている。

それも悪い意味じゃなくて良い意味でだ。

表情はヘッドパーツのせいで見えないが、いつもの素敵な笑顔を向けているのを感じた。

 

「カリヤさん、じゃ行こうか。少しの緊張とリラックスだよ。楽しんでいこう」

「はい!」

 

表情を出せない分、私は大きく頷いた。

私は目を閉じ深呼吸をする。

脳裏に威厳をたたえたカスティタスをイメージし、それを私の中で金星の王として再構築をする。

暁の王に。

無慈悲な太陽神に歯向かった邪神に。

展示会開始のアナウンスが流れ、会場が拍手に包まれた。

私はカールソンさんに続いてブースへと足を踏み入れる。

人の流れは圧倒的に小型パワードスーツ業界の王であるマハタリ社ヘと流れていた。

ま、これは当たり前なんだよねー。

でも、数名のプレスさんと共に白銀の多脚ロボットがブースの前に待ち構えていた。

グリード!

真っ先に来たか!

 

「グリードさんがいるね」

 

隣に立つカールソンさんがひっそりと言う。

 

「私の晴れ姿を撮るのが使命だって言ってたので、それで」

「そうか。後でレーナも来ることになってるけど大丈夫かな」

 

言いながらカールソンさんは早速ポーズを決める。

私もそれにならってポーズを取った。

そして見えぬとわかっていても、私ははっきりと笑顔を浮かべる。

 

先見の明のある人の子らとロボットよ。

よくぞここまで来てくれた。

大いに歓迎しよう。

 

イメージの芯にカスティタスがいるせいか、そんな台詞が思い浮かんだ。

我ながら影響されまくりでキモーい。

でも、厳密にはカスティタスじゃない。

カスティタスはゲーム中、上機嫌になることなどなかった。

喜ぶことなど一度たりともなかった。

そう思うと少し悲しかったが、今は思いを馳せるときではない。

少しでも気を抜けば、カールソンさんの暁の王にすべてを持っていかれる。

それではダメで、カールソンさんと対等に並び立たなければならない。

カールソンさんは仲間でもあるが、強力なライバルでもあるのだと実感した。

と、ブースの裾から社長のマリーさんと副社長のウォンさんが登場した。

あれっ? マリーさんたちの登場はまだ先では?

そう思っていたら、真っ直ぐにグリードの元へと向かっていた。

……あ、そうか。

グリード、同じ八剱グループである一鍔重機の重役だもんね。

ご挨拶に行ったのだろう。

でも、普通はグリードの方が挨拶にうかがうもんじゃないの?

立場はマリーさんたちの方が上だし。

……ま、いっか。

今は目の前のことに集中!

マハタリ社の見学を終えた人たちがボチボチとこちらへやって来る。

そして必ず私達に目を止めてくれて、内心ガッツポーズだ。

すると、挨拶を終えたグリードがこちらへとやって来た。

 

「おはよう、ナナミ、そしてミスター・カールソン。今日この日を無事に迎えることができて本当に良かったな。おめでとう」

「ありがとうございます」

 

私とカールソンさんは異口同音に言った。

 

「差し支えなければ、私と一緒に撮影をしてもらえないだろうか」

「はい、喜んで」

 

カールソンさんが応じると、周囲が少しどよめいた。

ん? 何で?

疑問に思ったけど、すぐに察した。

あ、そうか!

一鍔重機の多脚ロボットとのコラボするようなもんだもんね。

で、グリードを中央にして、私達は左右に並び立った。

グリードに搭載されている最新鋭のカメラで撮影が行われ、その周囲の人々も私達の姿を撮りまくっている。

二刃の広報さんもそれに混じっているのを確認した。

プレス打つときに良い宣伝材料になりそうだしね。

グリードの撮影は程なくして終わり、周囲の状況などどこ吹く風のグリードは私達の方を向いた。

 

「ありがとう。素晴らしい記録を残せた。君たちのパフォーマンスの時間まで、私は周囲を少し見て回ってくることにしよう」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

今は仕事中だ。

私は丁寧に対応した。

ブースを去っていくグリードを見送り、それ以降も写真や動画をバシバシ撮られ続けて時間は経過した。

パフォーマンスの時間が近づき、私達は一度ブースの袖へと戻る。

短いけど休憩時間だ。

リンケージを切ってヘッドパーツを脱ぎ水分補給。

あー、水、美味し!

同じくヘッドパーツを取ったカールソンさんも水分補給をしながら、ブースの袖からの外をうかがっていた。

 

「まずまずの人の集まりかな。さすがに業界の王者マハタリ社には敵わないか」

「私も許されるなら見に行きたいです」

「だよね」

 

私の言葉にカールソンさんは苦笑した。

再び視線を外へ戻したカールソンさんが、目を少し見開いた。

 

「あ、レーナだ。ステージの最前列にいる」

 

一般の人に紛れるようなカジュアルで控えめな装いとメイクだけど、立って待っている姿からしてキレイめな雰囲気が漏れ出ている。

さすがは元スーパーモデルだ。

 

「いい場所取れてよかったですね」

「素直に喜びたいところだけど、グリードさんも見に来ることになっているでしょ。出会って喜びのあまり取り乱さなきゃいいけど……」

「……あー、そういうことですか」

 

パフォーマンスの時間が近づくにつれて、人が少しずつ増えてきた。

私はヘッドパーツを装着して深呼吸をしながら、パフォーマンスの段取りを頭の中で整理しイメージを定着させる。

マリーさんやラーションさんの挨拶の後、午前のパフォーマンスが始まる。

カールソンさんが着ている男性型のパフォーマンスがメインだ。

私は手と腕と足にトレーニング用のシールドを装着して、カールソンさんの攻撃をひたすら受け続けることになっている。

それが終わったら、カールソンさん一人で演武をやって終了という流れだ。

カールソンさんなら問題ないだろう。

リハーサルも完璧だったしね。

私は改めてブースに集まっている人々を見渡す。

そして最後の列で人目を引いている多脚ロボットを見つけた。

 

「あ! いた!」

「え?」

「グリード、後ろの列にいます」

「……ホントだ。レーナ、気づかなきゃいいけど」

 

……珍しくカールソンさんが落ち着かない様子だ。

マリーさんたちの挨拶の間に、集中したほうがいいと思うんだけど、どう声をかけたら良いのかな?

結局思いつかないまま、挨拶を終えたマリーさんとウォンさんがこちらにやって来た。

私達の前で足を止め、マリーさんがにっこりと笑顔を浮かべる。

 

「カールソンさん、カリヤさん、いよいよお披露目の時間です。リハーサルと同じかそれ以上の成果を期待していますからね」

「社長、少々強欲では?」

「昨日の結果を見ていたからこそ言っています。必ずいいパフォーマンスを見せてくれますよ」

 

自信を持って言い切るマリーさん。

……ふっ、ふふふふふ。

マリーさん、とんでもねープレッシャーかけてくるじゃねーか。

私は冷や汗が出る思いだったが、隣にいるカールソンさんの雰囲気が変わった。

あ、プロモードに戻った。

てか、テンションが上がったように感じた。

 

「はい。必ず成果をお出します。お任せを」

「ええ。よろしくお願いしますね」

 

私はプレッシャーをかけると腰が引けてガチガチなっちゃうタイプだけど、カールソンさんはやる気が出るタイプらしい。

心臓も逞しいんだな。

ステキだね。

改めて尊敬の念を深めていると、ウォンさんが私に向かって安心させるように笑顔を向けた。

 

「カリヤさん、社長が変な圧をかけてるけど、君はまずリラックスだよ。緊張はほんの少しだけでいいからね」

「はい!」

 

そして時間が来て、MCさんがパフォーマンスの披露を宣言した。

カールソンさんに続いて私もブースの袖からステージへと上がる。

周囲の見学者さんから拍手がおこった。

あ、結構人いるな?

私は緊張し、カールソンさんの余裕のある佇まいに精神的にすがりつく。

……甘えなのはわかってるけど、今この瞬間だけは許してほしい!

そしてスパーリングが始まった。

私はシールドを展開し、カールソンさんの攻撃を受け続ける。

やっぱり私は脳筋だ。

体を動かしていたほうがリラックスできる。

私はカールソンさんの鋭いパンチと素早いキックをシールドで受け止める。

……本音を言っちゃうと、カールソンさんの攻撃、どれも余裕で全部かわせちゃうんだけどね。

でもそれでは製品のアピールにならない。

カールソンさんを更なる暁の王にすべく、私はシールドで攻撃に耐え続けた。

そしてスパーリングの時間は終了。

私は拍手をする見学者さんに一礼をし、ブースの袖に戻ってきた。

ステージではカールソンさんの演武が始まっている。

リンケージを切ってヘッドパーツを取ると、素早く私のもとへやってくる人が横目で見えた。

タオルを持ったラーションさんだ。

 

「カリヤさん、お疲れ様。スーツの調子はどう?」

「昨日と同じで調子いいですよ」

 

私はラーションさんからタオルを受け取りながら彼を見つめる。

何か探るような目をしてる。

……スーツの心配してんのかな?

だから安心させるように笑顔で言った。

 

「午後のパフォーマンスで気付いたことがあったら言いますね」

「OK! 控室でデータを取ったら一時間休憩ね」

「はーい」

 

私は素直に控室へと戻った。

控室で作業をしていた人たちが、私を笑顔で出迎え、スパーリングのことを褒めてくれた。

良かった。

少なくとも関係者の人たちの合格点は取れたようだ。

私は空いていた椅子に座ると、汗を拭き、お昼ご飯代わりのBCAAと呼ばれる飲み物を飲む。

運動前や運動中に飲むと、集中力と持久力を上げる効果があるらしい。

その合間に技術者さんの一人が来て、私のスーツのデータを取り始めた。

備え付けの大型ディスプレイには、ステージで演武を披露するカールソンさんが映し出されている。

 

「データ取得完了です。お疲れ様。午後のパフォーマンス、期待してますからね」

「はい、頑張ります」

 

私は笑顔で応え、すぐにディスプレイに目を戻した。

カールソンさんは完璧に演武をこなし、お客さんの拍手の中ブースの袖へと姿を消した。

 

「次のパフォーマンスは午後二時からになります! 女性型がメインのパフォーマンスになりますので是非お越しくださーい!」

 

MCさんが朗々と告げると、ステージのお客さんから再び拍手が沸き起こった。

カールソンさんが控室に戻ってくると、関係者さんたちから大いに絶賛された。

ヘッドパーツを取ったカールソンさんの笑顔は達成感に満ちていて、それを見て私はとても嬉しい気持ちになった。

良かった。

ほのぼのしていると、カールソンさんが私のもとにやって来たので私は即座に立ち上がった。

 

「カリヤさん、お疲れ様。さっきはありがとうね」

「とんでもないです! パフォーマンス、完璧でしたね! 凄かったです!」

「カリヤさんに負けじと練習した甲斐があったよ。……今度はカリヤさんの番だね」

「はい! 頑張ります!」

 

そう、午後のパフォーマンスは私がメインになる。

やることはスパーリングと演武で、カールソンさんと立場が逆になるだけだ。

頑張っていいパフォーマンスをするぞ!

拳を固め気合を入れて答える私に、カールソンさんは苦笑した。

 

「気合の入れ過ぎは程々に。さっきも言ったけど楽しくやろう」

「はい」

 

こうして一日目の午前の部は、無事に終わったのだった。

 

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