多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十二話 挑戦をした 4

控室での休憩中、端末でSNSを見てみた。

小型パワードスーツの展示会、トレンドに上がっていたけど、話題はやはりマハタリ社のことが圧倒的に多かった。

絶対王者、強い!

そんな中、二刃工業の新作を画像付きで上げている人たちもいた。

女性型の上乳とハイレグデザインが、画像や動画で見るより叡智だとか、えっっっっ! とか言っている。

つまりエッチ。

やっぱそう見られるかー。

恥ずかしいなー。

でも慣れないとなー。

そしてグリードが、個人ブースに出没していることを話題にしている人もそこそこにいた。

グリード、人の多いところじゃなくて個人出展の人たちに興味がいってるんだ?

ちょっと意外。

そして休憩時間が終わった。

ヘッドパーツを装着し、リンケージすると視界が大きく広がる。

パフォーマンスの時間まで、ブースの前でモデルのお仕事ですよ。

イメージの芯にカスティタスを置いて、暁の王に、明けの明星の化身にジョブチェンジ!

カールソンさんは休憩中でしばらく私一人だけだから、頑張ってアピールしないと。

皆さんに行ってきますと挨拶をして、ブースの前に立った。

ん? 人が心なしか多くなったか?

マハタリヘの流れが落ち着いたのか、前半のパフォーマンスが好評だったのか。

ブースの前には一般の人たちがそこそこに集まっていた。

やはりスーツのデザインがアレのせいか、男性の見学者が圧倒的に多い。

画像や動画もバンバン撮られる。

正直恥ずい!

だからこそ背筋を伸ばして胸を張れ。

外面だけでも威厳のある王になれ。

そうしてブースの前で見学者を呼び寄せを頑張っていたら、午後のパフォーマンスの三十分前となり、私はブースの袖に引っ込んだ。

人、来てくれるといいなー。

ステージに視線を移したら、見慣れた白銀の多脚ロボットが滑るようにしてステージの最前列に居座ったところだった。

グリード、一番手に来た。

早いよ、どんだけ使命に忠実なんだよ。

その異質な外見で見学者の視線を集めてくれるのはありがたいんだけど、ん?!

私はその時見てしまった。

ステージへやって来たレーナさん、グリードを見て固まっている。

顔認識のフォーカスが、レーナさんの顔を拡大表示させた。

瞳を潤ませ、形の良い口がわなないている。

あ! これ、ヤバいやつがくる!!

 

「ううにゃああああああああああっ! グリードさああああああああああああんっっ!! カッコイイいいいいいいい!!」

 

ステージ前で大声で叫ぶレーナさんに、周囲の視線が一斉にレーナさんとグリードに向けられた。

私は思うよりも先にレーナさんの元へ飛び出した。

感極まって床にへたり込もうとするレーナさんを抱えて、ササッとブースの袖へと飛び込む。

 

「レーナ!」

 

そしてフル装備状態のカールソンさんに、レーナさんを預けた。

 

「イルマリいいいゴメンねゴメンねえええ、私いいいい」

「うんうん、グリードさん、今日もカッコイイもんな。とりあえず奥で休ませてもらおう」

「ううううああああゴメンねゴメンねえええええ」

 

泣きじゃくるレーナさんにタオルを渡すと、カールソンさんはその肩を抱いて控室へと戻っていった。

私はそれを半ば呆然と見送ったが、我にかえって再びステージ前へと足を向ける。

グリードに謝らないと。

呼びかけるより前に、グリードは私の方に体を向けた。

 

「ナナミ、彼女は大丈夫か?」

「今、カールソンさんに預けました。ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」

 

仕事中なので敬語で話す。

グリードは軽く右手を上げた。

 

「君が謝る必要はまったくない。ただ先程の騒ぎで、ステージ前の人の流れが遠巻きになっている。君の晴れの舞台、多くの人に見てほしいのだが」

「……パフォーマンスの時間ギリギリまでここにいます。人を呼び込みたいですし」

 

と、背後から人の気配がやってくるのを感じた。

 

「カリヤさん、グリードさん」

「ミスター・カールソン」

 

カールソンさんが私達の前に立った。

カールソンさんがレーナさんの件を丁重にお詫びし、後で本人からも謝罪をしたい旨を伝えた。

 

「ナナミにも伝えたが、謝罪の必要はない。それよりも、ステージ前に人を呼び込むことが肝要だ」

「僕もカリヤさんさんと一緒に呼び込みをやります」

「では提案だ。先程、君たちと私が並んで撮影をした時に見学者が多くやって来た。時間が許すまで私とコラボレーションをしてはどうだろう」

「いいんですか」

「私は構わない。私はナナミの晴れの舞台を多くの人に見てもらいたいのだ」

「ありがとうございます!」

 

グリードの提案で、ステージ前でグリードを挟んで私達は並び立った。

と、ステージがピカリと光った。

 

「はい! 皆さんご注目でーす!」

 

背後を見れば、MCさんがステージに立ちスポットライトを浴びていた。

大きな身振りとともに陽気な調子で周囲に呼びかける。

 

「一鍔重機のグリードさんのご厚意で、二刃工業の新型とグリードさんとで写真撮影が行われていまーす! ネットの噂ではグリードさんと遭遇した人には小さなラッキーがあるとかないとか?! 真偽はともかく、またとない機会ですよー! 記念にいかがですかー!?」

 

誰の判断かは知らないが、ナイスタイミングだ。

このアナウンスに人々がゾロゾロとやって来た。

こうして撮影大会が行われ、ステージ前には多くの人が集まった。

そしてパフォーマンス開始五分前になり、私達はグリードを残してブースの袖へと下がった。

 

「どうにか人を集められたようだね」

 

出迎えたウォンさんが笑顔で言う。

 

「あれ、ウォンさんがやったんですね」

「チャンスだと思ったからね。いい方向に転んでよかった」

 

ウォンさん、ナイス判断!

 

「カリヤさん、カールソンさん、パフォーマンス、頼んだよ!」

「はい!」

 

私とカールソンさんは揃って頷く。

今度はカールソンさんが腕と手と足にシールドの装置を取り付ける横で、私は目を閉じ、今日何回目かの深呼吸を行った。

さあ、私なりのやり方で、トラウィスカルパンテクトリ、暁の王を表現しよう。

 

「それではおまたせしました! 二刃工業の午後のパフォーマンスを開始しまーす!!」

 

午前と同じく朗々とMCさんが宣言すると、ステージ前に拍手が沸き起こった。

カールソンさんに続いて、私もステージへと上がる。

 

「それでは女性型のスパーリングをお楽しみ下さい!」

 

その言葉を皮切りに、カールソンさんがシールドを展開して構えた。

やるぞやるぞやるぞ!

軽くジャンプをして、早速パンチを繰り出した。

立て続けにパンチを浴びせ続ける。

……あれっ? 何か遅い?

いや、リハーサルどおりの反応速度だ。

視界の端に表示される数値もリハーサルどおりのものだった。

でもまだまだ私はイケる!

パンチに混じえてキックも叩き込む。

くっ! やっぱ遅い!

スーツと身体(ボディ)が噛み合ってない。

私は絶好調なのに、機体がそれに追いついていない。

それでも頑張って攻撃のラッシュを続ける。

ステージに集まっていた人たちは歓声をあげていた。

トラウィスさん、もっと頑張れ!!

私は腰を落とすと、渾身の回し蹴りを放った。

カールソンさんはしっかり耐えている。

もどかしい思いをしながら、さらに攻撃の手を加え続けた。

そしてあっという間にスパーリングの時間は終了。

歓声と拍手と共にカールソンさんはステージから退場した。

次は私一人での演武だ。

皆が私を注目している。

機体とボディは噛み合ってないけど、リハーサルどおりにやれば大丈夫だ。

……でも見る目のある人は、気付くんじゃないか?

例えば、ラーションさんとか、オタクな人たちとか。

でも、今はできることを精一杯やろう!

私は音楽にあわせて演武を始めた。

動けば動くほど、スーツが置いてけぼりになる感覚はあったが、私は集中して体を動かした。

過酷で苛烈な金星の王に、カールソンさんとは違う、暁の王になれているだろうか。

フィニッシュを決め、私の演武は終わった。

歓声と大きな拍手がステージの周囲に沸き起こった。

私は丁寧にお辞儀をし、ブースの袖へと戻った。

成功だ!

気になる点は多々あったけど、どうにかやり遂げた!

ヘッドパーツを外して控室に入ると、関係者の皆が大きな拍手で出迎えてくれて、口々に褒めてくれた。

マリーさんが満面の笑みで私の肩に触れる。

 

「素晴らしいパフォーマンスでしたよ。リハーサルよりもずっと良かったです。お疲れ様でした」

「ありがとうございます!」

 

満足してもらえて何よりだ。

ヘッドパーツを取ったカールソンさんも笑顔で拍手していた。

 

「やっぱりカリヤさんは動くと映える人なんだね。すごい攻撃でびっくりしたよ」

「はい、頑張りました。ありがとうございます」

 

カールソンさんからお水をいただいて一口飲む。

そして気づいた。

みんなが笑顔の中、ラーションさんと数名の技術者さんたちの顔が恐ろしく強張っている。

深刻な雰囲気を纏わせて、ラーションさんたちが私のもとにやって来た。

 

「カリヤさん、正直に答えて欲しいんだけど、機体、追いついてなかったでしょ」

 

ラーションさんが真剣な表情でたずねてくる。

……やっぱり見抜いていたか。

皆が驚く中、私は頷いた。

 

「やっぱりそうか。……まずデータ取らしてくれるかな」

「はい」

 

そしてデータを取得する間、ラーションさんから質問をいくつか受けた。

今朝起きてからの動向とか食事の内容とか。

もちろん、変なものは食べていないし飲んでない。

 

「データの取得、完了しました」

「よし、すぐ解析に回して」

 

技術者さんたちが素早く作業するのを見守る。

マリーさんが厳しい目線でラーションさんの方を向いた。

 

「ドクター、これはどういうことですか?」

「はい、実は──」

 

ラーションさんはマリーさんを始めとしたみんなに、私の着ているスーツの説明を始めた。

私のコンディションが昨日のリハーサルよりも好調で、機体とのリンケージが噛み合っていないこと。

もっと機体の処理速度を上げないと私に機体が追いつかず、本来の力を発揮できない、ということだった。

 

「カリヤさんは本番に強いタイプだったんだね」

 

笑顔で言うカールソンさんだが、ラーションさんは額に手をあてた。

 

「多分、目の肥えてる人ならこの状況を見抜かれてます。不具合だと勘違いされたら、二刃(ここ)の技術力を疑問視する声も出てくるかと」

「カリヤさんの頑張りが引き起こした嬉しい誤算ということですか。解決策はありますか」

「今すぐラボに持ち帰り、リンケージを含めた全パーツの再調整をしたいです。ここでは専用の機材がなく調整ができないので」

「わかりました。ではそうしてください」

 

マリーさんの決断は早かった。

そして私に視線を向ける。

 

「カリヤさんのお仕事は今日はここまでですね。後の時間はカールソンさん一人に任せましょう」

「えっ、終わりですか?」

 

戸惑う私にマリーさんは笑顔で頷く。

 

「ええ。だって、スーツがなければお仕事になりませんからね。明日の予定を確認したらあがって頂いて構いません」

「せっかくだからグリードさんと会場内を見学してみたらどうかな? マハタリ、見たかったんでしょ」

「……そうですね」

 

私はカールソンさんの提案に頷いた。

こうして私の今日のお仕事は、スーツの調整のため予定よりも早く終わりとなった。

更衣室でスーツを脱ぎ、体を拭いていつものカジュアルな私服に着替える。

スーツは迅速に回収され、ラーションさんたちが大急ぎで研究所に持ち帰ったようだった。

あ、そうだ。

私は控室に入りぐるりと見渡したが、レーナさんがいない。

聞けば、レーナさんは今さきほど部屋から出て行き会場へと戻ったらしい。

入れ違っちゃったか。

……グリードを探しに行ったのかな?

謝りたいって言ってたらしいし。

私はグリードに、仕事が早上がりになったことをメッセで伝えた。

 

「では一緒に会場を見て回ろう。二刃のブース前にこれから行く」

「わかった。それでさ、レーナさんなんだけど、そっちに来た?」

「柱の影に隠れて私を見ている。様子をうかがっているようだが」

 

レーナさん……やっぱグリードを前にすると挙動不審になっちゃうらしい。

 

「さっきのこと、謝りたいって言ってたらしくて」

「謝罪の必要はない。今伝えてこよう」

「待って!」

 

思わず口に出して言ってしまい、控室の注目を集めてしまったが、構わず取り急ぎメッセを送る。

 

「待って! グリードと一対一で会ったら、レーナさん、またパニクるから!」

 

……すぐに返信がない。

グリード、行っちゃったか!

と、メッセが届く。

 

「ナナミ、今すぐ来てくれ。レモーネ社のブースの近くにいる。ミズ・カールソンに声をかけたら泣いてへたり込んでしまったのだ」

「わかった!」

 

私は控室にいる皆さんに、今日のお礼と挨拶をしてブースの袖を飛び出した。

グリードは……あ! いた!

目立つ造形でホント助かる。

ていうか、また人が遠巻きにグリードとレーナさんを見ていた。

あーあー、こんなことになっちゃって。

私はレーナさんに駆け寄った。

 

「レーナさん」

「ああああカリヤさん。私、私、グリードさんにいいい」

「大丈夫ですよ。グリード、レーナさんのこと怒っても嫌ってもないですから」

「そもそも(AI)に──」

「グリード黙って」

 

例の定型文を言おうとするロボを軽く睨み、レーナさんの背中をさすった。

 

「今日はもう帰りましょう。謝る必要はないってグリードは言ってますけど、気が済まないならメールを送ったらどうですか?」

「……ふぁい、そうしますう」

 

涙をハンカチで拭うレーナさんを支えて立ち上がり、私はグリードを見た。

 

「レーナさんを会場の出入り口まで送ってくるね」

「わかった。私は二刃のブース前で待っている」

 

私はレーナさんを支えて出入り口へ向かった。

 

「カリヤさん、本当にごめんなさい。私、どうしてもグリードさんを前にするとああなっちゃって。自分でも制御できなくて」

「そうですか。でもグリードのファンになっていただけてとても嬉しいです」

 

制御できなくなるのは困ったもんだけど、でもそれだけグリードのファンになってくれたのは、グリードの友達として嬉しいことだ。

 

「グリード、大きな使命を持っていて、その使命を果たしたいってとっても頑張っています」

「……使命?」

 

グリードの使命のこと、言っちゃっていいかな?

前、隠していないって言ってたし。

だから話すことにした。

 

「『人を救い、幸福へと導く』という使命だそうです。大変な使命ですよね。だから、応援してくれる人が増えたらいいなって私は思っていて」

 

するとレーナさんは顔を上げた。

泣いて化粧が崩れて悲惨なことになっているが、本人はお構いなしで私を見つめる。

 

「あの、それ、私も一緒に応援してもいいですか?!」

「もちろんです!」

 

私が笑顔で頷くと、レーナさんの青い目がキラキラと輝いた。

花が開いたような笑顔が整った顔に浮かぶ。

 

「ありがとうございます! 私にできる限りの応援をさせてもらいます!!」

 

ちゃらりーん。

グリードの支援者が増えた!

なんてね。

レーナさんは何度もお辞儀をしながら、私に背を向け会場を後にした。

その足取りはしっかりしていて、私はホッとしながら会場の出入り口から見送った。

レーナさんが見えなくなったところで、私は会場へと戻ると、二刃のブース前に律儀に待っていたグリードと合流した。

そして一緒に会場を見て回り、最後に絶対王者、マハタリ社のブースへとやって来た。

ブースもステージは本当に大きくて、しかも華やかだ。

ステージではちょうど格闘のパフォーマンスをやっていた。

その迫力たるや、他の会社の追随を許さないほどだった。

 

「マハタリがスポンサーになっているプロ格闘家(プレイヤー)たちのパフォーマンスだ。他社とは比較にならないクオリティだな」

「そだね」

 

完璧な造形美と高性能の力を持ったスーツ。

それをまとったプロプレイヤーたちの戦いに、会場は沸きに沸いて大盛り上がりだった。

凄いな、レベルが違いすぎる。

だが、それでもプレイヤーの動きに私の目は余裕でついていけた。

……比較してはダメだ。

街の外のプレイヤーと比較してはいけない。

 

「個人ブースの技術者やフリーのプレイヤーに話を聞いてきた」

 

唐突にグリードは言った。

 

「基本何でもありの街の外に出ようと思ったことはないのかと。そしたら彼らは口を揃えて言った。たしかに魅力はあると。しかし街の厳しいレギュレーションの中で、いかに力を発揮するかにプレイヤーも技術者も創意工夫を凝らしている。だから面白いのだと。生活とともに続けられるのだと言っていた」

 

私がグリードを見ると、グリードも私を見ていた。

 

「続けられることは幸せなことだとミズ・カールソンは言っていたが、こういうことなのだな」

「……うん、そうだね。そのとおりだね」

 

私は再びステージに目をやる。

パフォーマンスは佳境に入り、激しい攻防がプレイヤー同士で行われた。

ルールがあるからこその駆け引きと楽しさがその戦いに凝縮されていて、私はそれに魅入られた。

そしてパフォーマンスは終わり、盛大な拍手喝采が会場を揺るがせるかのようだった。

私も大きく拍手をする。

負けた。

何もかもが完敗だった。

だが胸に沸き起こるのは、燃えるようなやる気だった。

明日がある。

明日、このパフォーマンスに負けないような仕事をしよう。

法律の中で誇りを持って働き、戦う人々の姿を見て、私の中に揺るぎない何かが芽生えてくるのを感じていた。

 

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