多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十二話 挑戦をした 6

一時間の休憩後、私はブースの前で一人で立った。

カールソンさんがいなくて不安な気持ちはもちろんある。

緊張もする。

だけど休憩時間中に見たSNSの評判は上々だった。

エロ目線で見てくるのは、これはもうどうしようもない。

そういうデザインだし。

でも、パフォーマンスを褒めてくれるコメントもいくつか見かけた。

それが自信になって、私は一人でも堂々と立ち続けていた。

通りすがる人たちが足を止め、カメラを構えて私を撮っていく。

つまり、魅力的に見えているということだろう。

よしよし!

 

「あ! もしかしてあれが?!」

「そうだ。ナナミだ」

 

聞き慣れた声に視線を向ければ、グリードとアイちゃんたちがこちらにやって来るところだった。

来てくれたんだ!

私は思わず笑顔になって駆け寄りたくなったが、そこは仕事中、駆け寄るのは踏みとどまった。

私はみんなに声をかける。

 

「いらっしゃいませ」

「来たよ、ナナちゃん! 早速だけど写真撮ってもいい?」

「もちろんです」

 

こうして、私はアイちゃんたちみんなと写真を撮った。

ジョンがポカーンと私を見つめ、ニコラさんとフラヴィオさんが私に詰め寄るとグルグルと見て回る。

 

「すげぇ! 何がすげぇってこの場では言えないけどすげぇ!」

「広告見たけど、ナマはやっぱ迫力あんなー!」

「ナナミちゃん、やっぱスタイルいいのな。とにかくすげぇ!」

「ありがとうございます」

 

お褒めの言葉だ。

素直に受け取っておこう。

 

「ニコラ、フラヴィオ、ナナミとの距離が近すぎる。他の見学者のためにも、もう少し距離を置くことを強く推奨する」

「大変に申し訳ありませんが、モデルから距離を置いていただけますか」

 

グリードと二刃の警備員さんに丁寧につまみ出される二人を放置して、ユーゴさんは腰に手をあて私を見た。

 

「あの二人の言うとおり、見た目は間違いなく合格。後はパフォーマンスか。ま、俺の記憶と目に狂いがないなら、間違いなく盛り上がると思うけどな」

「そうっすか?」

 

怪訝そうに言うジョンに、ユーゴさんはニヤリと笑った。

 

「俺の目を疑うのか?」

「そういうわけじゃないっすけど」

「俺は養成学校時代のナナちゃんを知ってるからな。大型は言うまでもないが、小型もかなり凄えぞ。養成学校創設以来の天才の一人って言われてたんだからな」

「私が生き証人です。ナナちゃんの実力は保証します!」

 

アイちゃんが我が事のように胸を張って言ってくれる。

嬉しいじゃないか。

胸が熱くなるのを感じた、

ユーゴさんがジョンの肩に手を置いた。

 

「ま、この後のパフォーマンスを見りゃわかる。絶対にいい刺激になるからよく見ておけよ」

「うっす!」

 

ユーゴさんの私に対する信頼度の高さが嬉しい反面、プレッシャーにもなる。

でも、カールソンさんに誓ったのだ。

この後のパフォーマンスで全力を出すと。

私は見えないとはわかっていても、四人と一機に笑顔を向けた。

 

「ぜひ、パフォーマンスを見に来てください。頑張りますので」

「うん! 昨日グリちゃんと作ったウチワで応援するね」

 

言って、アイちゃんは黒い電子ウチワを取り出した。

 

『ナナちゃん、頑張って!』

『ナナちゃん、やっちゃって!!』

 

ピカピカ光りながら賑やかにメッセージを出すウチワを振るアイちゃんに、私とユーゴさんは苦笑した。

でも応援してくれるのは本当に嬉しいしありがたく思った。

 

「すみません、撮影いいですか?」

「はい!」

 

腕に電子腕章をつけている。

プレスの人だ。

 

「ナナミ、また後でな」

 

そうしてアイちゃんたちはブースから離れていき、私はプレスの人の対応をした。

そんな感じで見学者の対応をしていたら、あっという間にパフォーマンスの時間が近づいてきた。

私は控室に戻ってヘッドパーツを取ると水分補給をする。

そしてカールソンさんはといえば、フル装備で最終調整を行っていた。

 

「カリヤさん対策として、だいぶ反応を早くしたから、半端な動きだとスーツに振り回されるよ。くれぐれも気をつけて」

「OK!」

 

カールソンさんはしっかりとラーションさんに頷いた。

みんな本気だ。

そりゃそうだ。

このパフォーマンスが、公式が見せる最後の技術のお披露目なのだ。

控室は今までになく殺気だっていた。

 

「それじゃあお二人とも、ブース袖まで移動お願いします」

「はい!」

 

私とカールソンさんは同時に返事をし、私はヘッドパーツを装着した。

問題なくリンケージされ、私は暁の王のイメージを固めながらブースの袖へと向かった。

既にステージは明るく華やかにライトが照らされ、期待を高めるような音楽が流れている。

ステージ前の最前列にグリードとアイちゃんたちが陣取っていた。

 

「最前列のウチワを持った子、カリヤさんのお友達?」

「はい」

 

同じくステージを覗き見ていたカールソンさんが声をかけてくる。

 

「グリードさんもそうだけど、君のお友達も中々気合を入れてきてるね。いいね。嬉しいね」

「はい。でも、プレッシャーにもなります。失敗するの、怖いですし」

 

うつむく私にカールソンさんは、私の肩をポンと一回軽く叩いた。

 

「プレッシャーに対する対応は人それぞれだけど、君の場合は少しの緊張とリラックスで乗り切れることは実証済みでしょ。最後のステージ、本気で楽しもう」

「はい!」

 

私はまだカールソンさんに支えられている。

パフォーマンスはともかく、人として並び立てるのは流石に無理だ。

でも、泣いても笑ってもこれが最後。

頑張ろうね、私。

そうしてステージをうかがっている間にも、人がどんどんステージ前に集まってくる。

 

「これは……今までで一番人が多いんじゃないかな?」

 

カールソンさんが言うと、ラーションさんがひょっこりと現れた。

 

「午前中のパフォーマンス、SNSでも話題になっていたからね。ましてやデザインで人気の女性型がメインのパフォーマンスだしそりゃ集まるさ」

「……僕の責任、重大だな」

「そうだよ。モデルの実力は間違いなく君が上だけど、操縦の実力はカリヤさんに軍配が上がる。何度も言うけど、スーツに振り回されることがないように、ちゃんと乗りこなしてね!」

「OKです」

「で、カリヤさんは何も考えず本気でやっちゃっていいから! そういうふうに僕たち調整したから! 楽しんできて!」

「了解です」

 

ラーションさんは言うだけ言って、控室へと戻っていった。

 

「それではおまたせしました! 二刃工業、二日目午後のパフォーマンスを開催します!!」

 

ステージ上のMCさんの宣言にステージ周辺の見学者がドッと湧いた。

万雷の拍手に私は体が震え、口の中にたまった唾を飲み込んだ。

これは……、どうしたものか。

 

「カリヤさん、深呼吸」

「はい!」

 

雰囲気にのまれる私を察したカールソンさんが声をかけてくれた。

言われるがまま、私は目を閉じて深呼吸をする。

もう一度イメージの芯にカスティタスを作り上げ、暁の王へと再構成をする。

 

「ここまで来て焦らすような真似はしません! 早速お呼びしましょう! 二刃工業の暁の王、トラウィスカルパンテクトリです!!」

 

その言葉に私はステージへと上がった。

カールソンさんも続いて上がってくる。

ステージ周辺は、袖で見るよりも遥かに多くの人が集まっていて、人の誘導を警備ロボが行っているほどだった。

アイちゃんとグリードが例の電子ウチワを掲げている。

……頑張らなくては!

私達は見学者に向かって一礼をした。

 

「それではスパーリングを始めてもらいましょう! よろしくお願いします!!」

 

その言葉に対峙した私達。

カールソンさんはシールドを展開し、防御姿勢を取る。

私はゆっくりと構えた。

さあ、これが最後のお披露目だ。

言われたとおり全力でいって悔いが残らないようにしよう!

 

では行くぞ、暁の王。

王として、私の全てを受け止めてみせるがいい。

 

私は最初のパンチを繰り出した。

うん! いい調子だ!

身体とスーツが抜群に噛み合っている。

軽い攻撃を続けて身体が完全にほぐれるのを待ち、ついその時がきた。

容赦のない蹴りをカールソンさんに浴びせる。

連続の蹴りから猛然とパンチを何回も叩き込んだ。

 

耐えろよ、王よ。

まだ始まったばかりだぞ。

 

その思いに応えるように、カールソンさんは、否、暁の王はしっかりとした調子で防御姿勢を取り続ける。

 

王として、決して膝はつかぬ。

 

そんな思いが伝わってきた。

私の中の暁の王が満足そうに笑う。

私は再び攻撃のラッシュを暁の王に繰り出した。

見学者たちは皆、固唾を飲んで私達のパフォーマンスを見守っている。

 

さあ、ついて来い、暁の王!

 

私はさらに素早いパンチとキックの連打を繰り出した。

一通りの攻撃を終え、私は距離をおくとカールソンさんの様子を観察した。

よく耐えている!

カールソンさん、頑張っている!

でも、脚に来始めたか。

ほんの僅かだけど防御姿勢が崩れているのが見て取れた。

 

『午後のパフォーマンス、遠慮はいらないからね。この会社のためにも、そして僕のためにも、本気でぶつかってきてほしい』

 

カールソンさんはそう言っていた。

ならば、遠慮なくいかせてもらう!

私は間合いを一気に詰めると、腰を落として必殺の回し蹴りを太腿へ叩き込んだ。

シールドを展開しているにも関わらず、カールソンさんは体勢を大きく崩した。

もちろんこんな大きなスキを逃すわけがない。

私は、さらに攻撃の速度と強度を上げた。

だが、カールソンさんは、暁の王は倒れない。

たたらを踏みながらも、防御姿勢を取り続けている。

素晴らしいプライドと根性だ。

 

「頑張れ! 暁の王! 耐えろおっ!!」

 

ジョンの声。

アイツ、カールソンさんを応援しちゃってるのか。

そのジョンの声を皮切りに、ステージがドッと湧いた。

 

「ナナちゃん、やっちゃえ!!」

「王様たち頑張れえっ!!」

 

応援の声がステージに響きわたった。

もしかして、昨日のマハタリのパフォーマンスレベルになってる?!

だったら嬉しいな。

私は、カールソンさんの呼吸が整ったのを見て再び構えた。

さあ、時間的にこれが最後の攻撃だ。

いくぞ!!

瞬時に間合いを詰め、攻撃のラストスパートをかけた。

スーツは、ギリギリ私についてきている。

カールソンさんの方も問題はなさそうだ。

ラーションさん、ちょっと変人だけど技術者としては間違いなく本物だった。

私は息つく間もなく攻撃のラッシュを暁の王に与え続けた。

弱点となった脚に攻撃を仕掛けて転倒を試みるが、カールソンさん、しっかりと耐えきった。

 

「はい!! そこまで! そこまででーす!!」

 

MCさんの声に、私は攻撃をピタリと止めた。

割れんばかりの拍手喝采。

カールソンさんは姿勢を正すと一礼をし、しっかりとした足取りでステージから去っていった。

プロとして、暁の王としての高い意識を見た。

やっぱり、カールソンさんは凄い!

 

「それでは女性型の演武をお楽しみ下さい!」

 

おっと、私の仕事はまだ続いている。

私は呼吸を整えると、おもむろに演武を始めた。

私が見せる最後の暁の王。

夜の終わりを告げる明けの明星。

誰かの心に残ってくれるといいな。

苛烈で過酷な金星のことをイメージしながら、素早く、鋭く、重く演武をし、フィニッシュを決めた。

再び会場を揺るがすような拍手が沸き起こる。

私はステージへ見学者に深く一礼をした。

来てくれて、最後まで見てくれて、本当にありがとうございました!

そうして、頭を上げるとブースの袖へと引き返した。

控室へと入ると、皆が今までで一番の笑顔で迎えてくれた。

 

「お疲れ様です、カリヤさん! 弊社の技術力をアピールできた本当に素晴らしいパフォーマンスでした」

 

マリーさんが大喜びしている横で、ウォンさんが涙ぐんでいた。

 

「カリヤさん、カールソンさん、本当にありがとう! マハタリのパフォーマンスに勝るとも劣らないものだったよ」

「ありがとうございます」

 

私はヘッドパーツを取ると、ラーションさんが素早く水とタオルを持ってやって来た。

 

「カリヤさん、お疲れ様! メッチャ良かったよ! 本当に全力でやってくれてありがとう! あ、データは取らせてね!」

「はい」

 

そしてデータを取り終わると、座っているカールソンさんと目があった。

ヘッドパーツを外したカールソンさんは笑顔を見せた。

 

「お疲れ様」

「カールソンさんもお疲れ様でした」

「うん。……最後の最後で根性論にすがることになるとは思わなかった。足にあそこまで攻撃受けてここまで歩けたの、我ながら褒めてやりたいよ」

 

カールソンさんは苦笑したが、すぐに私を真っ直ぐに見つめた。

 

「本気で相手をしてくれてありがとう。君の暁の王の相手ができて光栄だった」

 

その言葉に、私は涙腺が緩むのを感じた。

憧れのカールソンさんにお礼を言われるなんて、なんて光栄なことなんだろう!

私、頑張れたんだ。

私は目を拭いながら頭を下げた。

 

「こちらこそ、ここまで導いてくれてありがとうございます! 暁の王になれたの、間違いなくカールソンさんのおかげです!」

「カリヤさん、泣くのは展示会が終わってからだよ。まだ見学者への対応の仕事が残っているからね」

「あい」

 

私達はしばらく休憩をし、閉会まで一時間を切ったところで揃ってブースの前に立った。

正直なところだいぶ疲れていたけど、最後の力を振り絞って仕事をこなすことにした。

私達が出てきて、見学者から拍手される。

そして見学者に混じって、プレスの人やプロの格闘家(プレイヤー)の関係者たちが続々とやってきて、私に名刺を渡していった。

私は疲れで頭が回らないこともあり、差し出されるまま名刺を受け取り続けた。

 

「すっかり人気者だね」

 

楽しげにいうカールソンさんに、私は小さく頭を振った。

 

「何か疲れて頭回んなくて。これでいいんですかね?」

「いいんだよ。その名刺が将来、カリヤさんの可能性を広げることになるかもしれないからね。ありがたく受け取っておきなさい」

「はい」

 

対応が一段落したところでグリードとアイちゃんたちがやって来た。

 

「ナナちゃん、凄かったよ! カッコ良かった!」

「ミスター・カールソンも、ナナミのあの攻撃をよく耐え抜いたな。皆が喜んでいたのを確認した。SNSでも素晴らしいパフォーマンスだったと評判になっている」

「ありがとうございます」

 

私とカールソンさんは頭を下げた。

するとユーゴさんが真面目な表情で私の前に立った。

 

「ナナちゃん」

「はい」

「傭兵になろう!」

「なりません!」

 

ユーゴさんのいつものスカウトをキッパリ断る私。

疲れていてもそこは譲らないが、ユーゴさんもめげない。

 

「大型も小型もハイレベルに乗りこなせる傭兵は本っ当に貴重なんだ。傭兵はこの街のすべてを守り支えるやりがいのある仕事で、ナナちゃんの才能を存分に発揮できる仕事だと断言できる! 本気で考えてほしい!」

「ナナミちゃんなら大歓迎だよ!」

「来て来て! 傭兵、シフト制で死ぬほど忙しいけどお金稼げるよ! 楽しいよ!」

 

ユーゴさんに続いてニコラさんとフラヴィオさんも笑顔で勧誘してくる。

その横でジョンはそっぽを向いていた。

これはまあいつものことだ。

私は見えないとわかっていても、力を振り絞って笑顔を作った。

 

「やらないです」

 

すると、ユーゴさんは悔しそうな表情をして私を睨んだ。

 

「疲れて判断力が鈍っている今ならと思ったがやっぱダメか!」

「ユーゴさん、ここは一度引きましょう。まだチャンスはあります!」

「俺たち、また援護しますから!」

「いや、俺は別にコイツのことなんか──」

「ああ。俺達は諦めないからな!」

 

そうしてユーゴさんとニコラさん、フラヴィオさんは去っていく。

ジョンも慌ててその後に続くのを、アイちゃんは呆れたように見つめた。

 

「もー、いい加減諦めればいいのに」

「ナナミの実力を垣間見て、改めてスカウトへの意欲が増したのだろう。実際、傭兵としての素質は間違いなくあるからな」

「でも、私はやりませんよ」

 

私が断言すると、アイちゃんはわかってるといった表情で頷いた。

 

「うん。素質はあってもやる気がなきゃ意味ないからね」

「ああ。力をどう使うかはナナミの好きなようにすればいい」

「ふふ、カリヤさんの将来が本当に楽しみだね」

 

カールソンさんが笑って言った。

そしてグリードとアイちゃんも、ユーゴさんたちを追いかけるようにしてブースを後にした。

その後、会場のアナウンスがあり展示会の閉会を告げた。

会場を揺るがすような拍手。

私も立場を忘れて力いっぱい拍手した。

 

「お疲れ様!」

「お疲れ様でした!!」

 

私とカールソンさんは力強く握手をする。

こうして、私の挑戦は大成功のうちに幕を閉じたのだった。

 

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