多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十二話 挑戦をした 7

私の挑戦が終わった後の次の日曜日。

私はアンドロイド姿のグリードと、展望公園へピクニックにやって来た。

グリードが用意してくれたランチを持って、私達は山道をゆっくりと登る。

 

「歩きで良かったのか? ケーブルカーも利用できたが」

「うん。モデルの仕事は終わったけど、運動は続けるつもりだから。せっかくいい感じの体形になったし、できれば無理なく維持したいんだよね」

「そうか。ナナミのジム通いは続くのだな」

「だって楽しいし。ダメ?」

「いや、君が楽しんでいるのならそれでいい」

 

話しながら私達は展望公園を目指す。

ケーブルカーの駅を過ぎ、急な坂道になった。

汗をかかないよう、ペースを守って歩き続ける。

そして、展望公園に到着した。

日曜日ということもあり、ベンチはもちろん、芝生の広場も人が結構来ていて賑やかだった。

街を見渡せる場所のベンチが運良く空いて、私達はすかさずそこに座った。

ドームの空は快晴で雲一つ流れていない。

限りのある青い空が広がり、映像の太陽がそれでも目を焼き尽くすような光を投げかけている。

私は眼下に広がるアパテイアの街を見つめた。

今日もアパテイアは、街の中は平和だった。

 

「ナナミ、食事にしよう」

「うん!」

 

グリードの提案に私は反射的に頷く。

グリードはランチボックスの蓋を開いた。

中身はオシャレな前菜が彩り豊かに並び、こんがりと焼いたお肉、そして野菜のキッシュと丸っこいパンが二つ入っていた。

どう見てもお高そうだけど、今日は値段に触れないことにした。

これはモデルの仕事を頑張った私へのご褒美なのだ。

ありがたく奢られよう。

 

「食べていい?」

「もちろんだ。残さず食べてくれ」

「うん! あ、グリードも食べるんだよ」

「わかっている」

 

いただきますをして、私は早速前菜に手を付けた。

私は喜びとともに豆のサラダを噛みしめる。

豆もドレッシングも、キノコのマリネも美味しいなあ!

そしてこんがり肉!

問答無用で美味し!!

合成肉なのはわかってるけど、それでも力が体中にみなぎるのを感じた。

かたまり肉はやはりいいですな!

 

「ナナミはやはり楽しく食事を取っている姿が好ましい。モデルの仕事中は、死んだ目をして食事をしていたと周囲の人も言っていた。私の目から見ても幸せだと判断できなかった」

「そうなの?」

「ああ。君はわかりやすいからな。そして美味しそうに食事をする君の姿を見るのが私は好きだ」

 

グリードは微笑んだ。

久しぶりに見るその笑顔が心にじんわりとしみた。

でも私の食べる姿を見ているだけで、食事を積極的に口にすることはない。

自分が食べることに、やっぱり興味がないのだろう。

そんなグリードを促して食事をとらせ、ランチボックスはあっという間に空になった。

 

「ごちそうさまでしたー。美味しかったー」

「それは良かった」

 

グリードは満足そうに言った。

そして食後のコーヒー。

いつものカフェで淹れたものを水筒で持ってきた。

用意した二人分のカップに入れてグリードに差し出す。

好きな風景を眺めながらのティータイムは、いつものカフェとはまた違った良さがある。

平和だな、幸せだな。

しみじみと思っていたら、グリードがコーヒーを置いて私をじっと見つめた。

 

「ん? どうしたの?」

「君に話したいことがある。大事な話だ」

「え? 何?」

 

グリードは口調同様、表情も真面目なものになっていた。

 

「私は君のモデルの仕事を観察し、それに関わる人々接することで、決意を固めた」

「決意?」

「ああ。『人を救い、幸福へと導く』という使命を果たす決意だ」

 

ん?

それは知っているぞ。

 

「改まってどうしたの?」

「私には救いたい人がいるのだ」

「え? 誰?」

「君の友人、エリザベートとその恋人のシンヤだ。街の手からこぼれてしまった彼らを救い、幸福へと導きたい」

 

その二人の名前に、胸がギュッと詰まったような感じがした。

私にとっての暗い影。

二人の未来は破滅に違いないのに、私とアイちゃんの声に二人は応えることはなく、私達はなす術もなく立ち尽くすことしかできない。

 

「私も、そうできればいいなって思ってるよ」

 

私は視線を落としながら言った。

 

「でもアイちゃんとも話してたけど、二人ともハンパない覚悟で自分たちの世界に閉じこもっちゃってるから、外から開けるの、すごく大変だろうなって」

「ああ。何もしなければそのままだったろう。しかし君の今回の挑戦で、その扉が少し開いたと私は推測している」

「え?」

「君のパフォーマンスは業界に少なからぬインパクトを与えた。あのマハタリ専属のプレイヤーにも勝るとも劣らない動きは、街の中だけでなく、外でも注目を集めている」

「……そうなの?」

「スロウスと街の外の様子をできる範囲で調査をした。間違いない」

 

グリードは真面目な表情のまま続ける。

 

「業界に関わるエリザベートとシンヤも見ただろう。美しく苛烈な明けの明星、暁の王の姿を。君がゲッカビジンをエリザベートと見抜いたように、エリザベートもまた暁の王を君だと見抜いたはずだ」

 

私は頷く。

私達は友人で小型の操縦ではライバルだった。

何度も授業で戦った。

私の動きをエリちゃんが見抜けないはずがない。

 

「私はあの二人に示したいのだ。二人で本当に幸せになる道はあるのだと。時間はかかるだろうが、生涯をかけてやるにふさわしい環境が街の中にもあることを示したい。彼らは結果に固執するあまり、いわゆる生き急いでいる状態にある。だがその状態は長くは続かない。それは君もわかっているだろう」

 

私は再び頷いた。

カールソンさんとレーナさんが言っていた。

満たされたら今度は維持することに腐心することになる。

その上で続けられることが幸せなのだと。

挑戦をした今の私はそれを心から理解できる。

……人の幸せは他人が判断できるものじゃないし、どうこう言えるものじゃない。

わかってる。

でも、今のエリちゃんとシンヤさんは、決して幸せではないと私は断言できる。

グリードの目つきが鋭くなった。

 

「今はまだ時期ではないが、時間もあまりないことも事実だ」

「エリちゃんの違法薬物のことだね」

「ああ。彼女が摂取しているであろう薬物を調べたが、副作用として性格の凶暴化があげられる。このまま摂取を続けていれば、取り返しのつかないことを引き起こす可能性が極めて高い」

「じゃあ急がないと」

「だが無理強いをすれば、せっかく開いた扉は再び閉ざされ、二人は更に固く閉じこもってしまうだろう。……必ず機会は訪れる。それは破滅の瀬戸際になるかもしれないが」

 

私は思わず身を乗り出した。

 

「私も! 私も協力する! だから!」

「ああ。君たちの協力は必要だ。必ず声をかける。だから待っていてほしい」

「わかった」

 

グリードは安心させるような笑顔を見せ、私の右手を優しくとった。

 

「次こそあの二人をすくい上げよう。そして本当に幸福になる道を、今一度考える機会を与えよう」

「うん!」

 

私はグリードの手を両手で握った。

私の短くも小さな挑戦は、予想外の形でエリちゃんたちを救う機会を与えたのかもしれない。

エリちゃん、シンヤさん、私もグリードも諦めないよ。

必ず、二人が本当に幸せになる道を見つけ出そうね。

私の胸の中に闘志が燃えるのを感じた。

 

<挑戦をした 完>

 

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