多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十三話 パワードスーツを買った 3

試乗を終え、一鍔さんの本社ビルから出たのはお昼すぎだった。

お昼ご飯、どうしようかと迷っていたら、バルマさんがラーメンを熱烈にオススメしてきたけど、ラーメンはダイエット継続中の私には、チートデー以外は食べることを避ける料理だ。

今度のチートデーで食べることを伝えると、いくつかのお店をオススメしてくれた。

そして、私と一緒に食べたらどうだというバルマさんの提案にグリードがのっかり、イケオジにフォームチェンジ。

私達はお昼ご飯を求め駅前を目指した。

グリードは私のダイエットの状況を把握している。

なので、駅前にある皐月軒という定食屋に行くことにした。

 

「本当は弊社の社員に好評の定食屋が二店あり、そこに君を連れて行きたかったのだが、日曜日は休みだ」

「何で? 珍しくない?」

「ここはビジネス区画で、土日祝日は人口が減少する傾向にある。そのため定休日としている店が多い」

「あー、そっか」

 

納得の理由。

で、第三候補の皐月軒はアップグルント系列のチェーン店で、味については保証するとのことなので、そこに行くことにしたのだった。

休日出勤をしている人の受け皿となっているお店はそこそこ混んでいたけど、無事に空いてる席に着席。

鶏肉の照り焼き定食──鶏肉はもちろん合成肉だ──は普通に美味しかったし、お店の接客も元気と愛想があって印象も良い感じだった。

グリードは一番安い牛丼を頼んだけど、やっぱり自分の食には興味がない様子で、牛丼に全く手を付けず私の食べる様子ばかりを観察する有様だった。

グリードが食べ終わるのを待って店を出ると、時間もあったし、腹ごなしと運動も兼ねて私たちは歩いてAHIさんの本社へと向かった。

 

「AHIさんの試験場も地下にあるのかな」

「間違いなくそうだろう。弊社同様、戦前から利用されている場所だと推測する」

 

私はグリードに顔を向けた。

 

「今更だけどさ、グリードも中に入れるんだよね?」

「グラトニーから許可は得ている。問題ない」

「なら良かった」

 

去年、アップグルントグループの本拠地に招かれたけど、その時もグリードがついて来てくれた。

一人でも平気で行けるようになれればいいんだけど、こればかりは経験が必要な気がする。

でも、そんな経験なんて滅多にできない。

ならばこの貴重な経験を忘れずに活かせるようにしよう。

グリードと対等の友達になるために。

私たちは言葉少なくビル街を歩き続けた。

でも居心地が悪いとか全然なくて、一緒に歩いているだけでも心地よかった。

それに、タイプE・ドライ改に試乗することができる。

そのことで頭と胸が一杯だった。

そうしてAHIさんの本社ビルに到着した。

アップグルントグループ本社のビルには流石にかなわないけど、威厳をもってそびえ立つビルに私は緊張感を持った。

時間は……予定の二十分前だ。

 

「中途半端な時間についちゃったね」

「遅刻するよりはいい。ロビーで待たせてもらおう」

 

そうして正面玄関へ向かおうとした時、入り口から黄色くて縦長の多脚ロボットが出てきた。

赤い蝶リボンがチャームポイントだ。

 

「やっほー! ナナちゃん、いらっしゃーい!」

 

両手をパタパタ動かしながらやって来たのは、この街の管理AIにしてアップグルントグループの代表、グラトニーさんことトニーちゃんだ。

顔の液晶画面には愛嬌のあるイラスト調の顔が満面の笑顔で表示されていた。

私は立ち止まって会釈をする。

 

「こんにちは、トニーちゃん。早く来ちゃってごめんなさい」

「全然気にしなくていいお! ランチは皐月軒の鶏肉の照り焼き定食にしてたけど、美味しかったかお?」

 

やっぱり見てたのね。

それがお仕事だからなー。

私はそんな気持ちを胸の内へ押し込め、笑顔で頷いた。

 

「はい。味も美味しかったし店の雰囲気も良かったです」

「それは良かったお。ぜひ、お店にコメントをしてほしいお。きっとお店の人も喜ぶお」

「はい、そうします」

 

すると私の横にいたグリードが一歩前に出た。

 

「こんにちは、グラトニー。今日は施設への立ち入りを許可してもらったこと、感謝している」

 

言葉とは裏腹に無表情で言うグリードに、トニーちゃんは面倒くさそうな表情をした。

グリードがダイコン役者のAIなら、トニーちゃんは超演技派俳優のAIなのだ。

 

「……はい、こんちはー。お前の立ち入りを許可をしたのはナナちゃんを安心させるためだお。そこんとこ、間違えるなお」

「承知している」

 

この二機のAI、決して不仲ではないけど、わかりやすく仲良しというわけでもなさそう。

いや、AIだから良いも悪いも感情もないけどさ。

トニーちゃんが私にキュートな笑顔を見せた。

 

「じゃ、ちょっと早いけど施設へ案内するお! みんな楽しみに待っているんだお」

「みんな?」

「コイツの会社でも研究者や技術者が見学に来てたでしょ? ナナちゃんは大型パワードスーツ業界で注目されているパイロットなんだお。そのナナちゃんが来ると知って、この会社の関係者も楽しみに待っているんだお」

「……そうなんですか」

「そうなんだお」

 

何か私の知らないところで話が大きくなっているような。

……ちょっと怖い。

内心で腰が引ける私に、トニーちゃんはパッと両手を広げニコニコ笑顔になった。

 

「でもナナちゃんはそんなことは気にせず、試乗に集中してほしいんだお。街の外の仕事で、君のパートナーにふさわしい機体どうか、しっかり吟味してほしいんだお」

 

トニーちゃんの言葉に、私はハッとさせられた。

そうだ。

ファースト・スターと違って、タイプE・ドライ改は購入検討に入っている機体だ。

そのためにAHIさんから貴重な時間を頂いた。

真剣にやらなきゃ!

私たちは正面玄関からロビーへと入ると、スーツ姿のおじさんが走ってこちらにやって来た。

そしてトニーちゃんの前に立ち止まり頭を下げる。

 

「グラトニーさん、すみません。出遅れまして」

「構わないお。ナナちゃんが早く来るのを予測したから先に迎えに行っただけだお」

 

街の定番スーツじゃなくて、お高いクラシカルなデザインのスーツだ。

ということは、このおじさんも偉い人だろうけど……誰?

すると、トニーちゃんが体ごと私の方を向いた。

 

「紹介するお。彼はAHIの取締役社長のエヴァンス君だお」

「カリヤ様、初めまして。エヴァンスです。本日はご足労いただき、ありがとうございます」

 

そう言っておじさんは名刺を空中に展開した。

マイロ・エヴァンスさん。

……社長だ。

AHIの社長だ!

庶民の小娘の試乗にスーパーメジャーの社長が出てきたよ!?

……あ! グリードがいるからか!

 

「お久しぶりです。ミスター・エヴァンス。こうしてお会いするのは去年の九月の会議以来ですね。本日はよろしくお願いします」

「お久しぶりです、グリードさん。こちらこそよろしくお願いします」

 

お偉方の挨拶をポカーンと見ていると、一人と二機の視線が私に集中した。

あ! そだ、挨拶、私も挨拶しないと!

 

「初めまして。今日の十四時半に試乗の予約をしましたカリヤです。時間より早く来てしまいすみません。今日はよろしくお願いします」

 

言って頭を下げる。

自分でもわかるくらいガチガチの声だった。

 

「ナナちゃん、そこまで緊張しなくてもいいお」

 

そんな私にトニーちゃんが片手をパタパタと振る。

 

「エヴァンス君、カラオケとゴルフが大好きな優しいおじさんだお。だから大丈夫だお」

「グラトニーさん」

「昨日、お子さんたちと一緒にゴルフに行ったおね。君のあんなに楽しそうな笑顔、久しぶりに見たお。スコアも父の面子を保てたし、いい休日だったんじゃないかお」

「はあ……」

 

わあ、バッチリ監視されてますなー。

恐縮しまくっている社長さんがちょっと気の毒になり、話題を変えてあげたくて、私はとっさに口を開いた。

 

「えと、あの、今日はタイプE・ドライ改に試乗できるとのことで、とても楽しみにしてました。同僚がタイプC・フィーアに乗っていて、マニュアルで少し操縦させてもらったんですけど、良い感触だったので」

「前は静止状態だったからね。僕らもナナちゃんの反応を楽しみにしているんだお。じゃあ、ちょっと早いけど試験場へ行こうかお」

「はい、ご案内します」

 

こうして社長さんを先頭に、私たちはエレベーターへと向かった。

社長さんが話すには試験場はここから少し距離があり、エレベーターで降りた先に専用の地下鉄があるらしい。

さすがはスーパーメジャー。

何でもありだ。

で、街で走ってるような立派な地下鉄に乗ること五分ほどで広々とした灰色の円形の空間に出た。

広っ!

高っ!

天井眩しっ!

雰囲気は一鍔さんの試験場と変わりはない。

社長さんがニコリと笑顔を見せた。

 

「こちらが試験場になります。直径は十キロ、高さは三キロになります」

 

へー、一鍔さんよりも広くて高いんだな。

灰色の空間を見渡すと、全身赤の中に緑のラインライトが目立つ物体を見つけた。

私は正体を知り即座に笑顔になった。

タイプE・ドライ改だあっ!!

思わず駆け出しそうになったが、周囲にお偉方がいたので自制した。

 

「フフフフフ。ナナちゃん、僕の目は誤魔化せないお。アレに駆けつけたかったんでしょ」

 

キランとアニメのように目を輝かせ、ニヤリと笑うトニーちゃん。

バレてらー。

私は観念して頷いた。

 

「はい」

「いいお。行っておいで」

「いいんですか」

「もちろん」

 

見れば、社長さんもグリードも温かい目で私を見て微笑んでいる。

……何か、小さな子ども扱いされてないか? 私。

でも、すぐに見に行きたい!

私は一人と二機に頭を下げた。

 

「見てきます! 行ってきます!」

「えっ?! 早っ!」

 

私は踵を返し全力で真っ直ぐに駆け出した。

走って走って……意外に遠いなっ!

でも頑張って走って、機体のもとにやって来た。

タイプE・ドライ改!

久しぶりだね、元気してた?

私は呼吸を整えながら、機体の周りをグルグルと見て回る。

あああ! 本当に姿形はカッコイイなー。

ファースト・スターにはそりゃ負けるよ。

でも産業用で、しかも街の外で活動する機体にここまでのデザインは中々お目にかかれない。

つくづく、今までのAHIさんの機体からは外れたデザインだけど、いいなー、好きだなー。

 

「ナナちゃーん、待ってー」

 

声のした方を見ればカーゴに乗ったお偉方がこちらにやって来た。

カーゴを降りたトニーちゃんが、びっくりした表情を見せた。

 

「すごいスタートダッシュだったお。エヴァンス君もビックリしていたお」

「まさか走っていくとは思わず……」

「ナナミのスタートダッシュは時に我々(AI)の予想を超えるんですよ」

 

グリードがどこか自慢げにそして嬉しそうに社長さんに言う。

これって、よくネットで見る後方彼氏面ってやつ?

トニーちゃんが私を見て言った。

 

「じゃ、本人が待ちきれないみたいだし、早速乗ってもらおうかお」

「わかりました。最終確認を取ります」

 

社長さんが端末を取り出して、確認を取るのをソワソワしながら見ていた。

早く乗りたいな!

 

「ナナちゃん、どうどう」

 

トニーちゃんが私をなだめる。

そして最終確認がとれて、ついに機体に乗る許可がおりた。

私は髪の毛をまとめ直し、背負っていたバックからヘルメットを取り出して装着。

既に開いていたコックピットに乗り込んだ。

うはー! 上がるうっ!

社長さん自らがマニュアルでの操作方法を簡単に説明をしてくれた。

リンケージに特化してない限り、操縦席のデザインってそう変わらないけど、念の為ってことで。

説明が終わってコクピットが閉まると、一瞬の暗闇の後、全方向の画面が光り輝いた。

 

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