多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十三話 パワードスーツを買った 4

AHIのロゴマークとOSのロゴマークが表示される。

 

「タイプE・ドライ改、システムスタンバイ」

 

お、女性の声のアナウンスだ。

落ち着いているけど、どこか無機質な声はAI独特のもの。

そうしてカメラやらセンサーやらLSSやらが次々とセッティングされていく。

最後にリンケージからマニュアルに移行完了してすべての準備が整った。

 

「ナーナちゃーん、機体の準備は整ったお」

 

正面の画面にトニーちゃんが現れた。

 

「まずは普通に動かして様子を見てね」

「了解です」

 

足元を見れば、お偉方を乗せたカーゴが機体から離れていくのが見えた。

十分に離れたのを確認して、私はドライ改を立ち上げた。

視界が高くなり、改めて安全確認のため周囲を目視する。

センサーからの異常もない。

よし! 歩こう!

私はフットレバーを動かし記念すべき第一歩を踏み出した。

ん、ロイさんのよりちょっとレバーが重いかな。

でも最初はこんなもんか。

私は慎重に歩を進める。

……うん、揺れについては問題なし。

さすが、マニュアルでの操縦を想定してあるだけある。

いいじゃん!

少し慣れてきたので、腕を振り、歩行速度を上げた。

しばし歩き、そして走ることにした。

うんうん、いいよいいよー。

ガワは、ロイさん風に言えば浮かれデザインだけど、中身はやっぱりAHIさんだ。

実に堅実。

ギャップがそそりますね!

その時、警告が鳴った。

画面に赤い警告文が表示される。

おっと壁が近づいてきているのか。

風景が灰色のまんまだから目視だと遠近感がわかりづらい。

私はくるりとUターンし、ガシガシと走り続けた。

……そろそろいいかな。

 

「ブースター使います」

「どうぞだお」

 

ブースター、オン!

レッツゴー!

まずは地面を滑るようにして進み、ファースト・スターの時と同じように細かく波型に動いたり、数字の八の字を描いたりした。

そして地面を蹴り、空を飛ぶ。

しばし垂直に飛び、そして空中静止状態に。

あー……空中での安定感はファースト・スターやシリウスの方が上かなー。

まあ、空中での作業なんて普段の仕事ではほとんどないからいいけどさ。

無理のない程度で曲技飛行をやってみよう。

インサイドループ。

ハンマーヘッド。

キューバンエイト。

……やっぱこの機体、空中には向いてないかも。

 

「ナナちゃん、ホントにマニュアル操縦上手いおね。見学者たちが驚いているお」

「ありがとうございます!」

 

トニーちゃんの褒め言葉に自然と笑顔になった。

よし、そろそろ地面に着地しよう。

ゆっくりと着地した瞬間、灰色の空間が街の外の風景に切り替わった。

荒天となり、視界も悪く風も強く吹き付けて、実際に動かす場面に近い状況になる。

思わず動きを止めて見入った。

うわっ、すげえな!

 

「今日の街の外の状況に近づけたお」

 

トニーちゃんから通信。

 

「凄いですね!」

「実際に働く場所を想定したほうが、イメージ掴みやすいでしょ?」

「はい! ありがとうございます!」

 

ホロだけど障害物も見え隠れしている。

再現度、凄いなー。

私は気分が引き締まるのを感じた。

よし! やるぞ!

と、マップの一部にキラリと光が灯った。

ん? 何これ?

 

「そこにお宝があると想定して動いてみて」

「わかりました!」

 

本当に仕事を想定したステージにしたようだ。

ありがたし。

私はマップを確認し、まずはブースターで荒れた道を進んだ。

ホロとはいえ、障害物にあたらないようにレバーを丁寧に動かしながら目的地を目指す。

障害物が多くなり、ブースターで進むのをやめて歩きで進むことにした。

この荒天の中での移動や動作の安定感!

素晴らしい!

いくつかの障害物を乗り越え、程なくして目的地に到着するとピカリと光るものを手にした。

拡大表示すると、あっ! グラットン──街のハンバーガーチェーン店のこと──の優待券だ!!

 

「トニーちゃんこれ!?」

「おめでとう! ノーミスでたどり着いたご褒美だお。また今度食べに行くといいお」

 

わあ、試乗させてもらった上にご褒美までもらっちゃったよ。

太っ腹ー。

さて試乗の時間は……あと七分四十秒かー。

後もう一動きできるな。

 

「あのー」

「踊りたいかお?」

 

さすが察しがいい。

 

「ダメなら止めますけど」

「いいお。残り時間、好きなように動かしてみて」

 

トニーちゃんが言うと、風が唐突に止み、周囲の風景がガラリと変わった。

オレンジと青のライトが試験場を照らす。

今度はイベントやコンサート会場のようなステージになった。

ホント、凄いなー。

 

「どの曲をやるんだお? 僕が把握する限り、十曲はストックあるおね」

 

本当によく見てんな、このAI。

 

「うーん……どうしようかな」

 

何踊ろう。

女性ダンスユニットの『アズール☆ライト』か、男性ボーカルダンスグループの『ライジング』か。

はたまた誰もが知る鉄板のパーティダンスか。

……足回りの確認をかねて、アレにしよう!

 

「決めました! アズール☆ライトの『Go to Paradise』でいきます!」

「OK! 曲を用意するお。準備ができたら声かけてね」

「はーい」

 

『Go to Paradise』は前奏と間奏に独特の軽快なステップがはいっていて、それが難易度を上げている。

あと、全身の動きがとても物柔らく、ちょっと色っぽいと評判だ。

大型パワードスーツで、もの柔らかさを表現するのは至難の技だけど、だからこそやり甲斐があるというもの!

私はフットペダルとレバーで、ステップの確認をする。

……元々フットペダルがチョイ重だから、難易度爆上げだけど、できないことはなさそう。

 

「準備OKです!」

「じゃ、ミュージックスタート! だお」

 

私が最初のポーズを取ると、すぐさま音楽が流れた。

両腕を動かしてお花が咲くさまを表現。

そして例のステップ開始。

いきなり操縦が忙しくなる。

前奏クリア!

前半戦の開始だ。

難しい動きはないけど、しなやかな動きが始終続く。

……正しく動けているけど、ちょっと硬いかな。

サビに入ってまた操作が忙しくなった。

無我夢中で操縦をしサビ終了、前半戦はあっという間に終わった。

操縦が忙しく、音楽についていくのに必死だった。

そして後半戦。

前半戦ではできなかった、しなやかさの表現に注力する。

踊って気づいたけど、この機体、地上での姿勢制御が本当に優秀だ。

リンケージだったら、どれほどのポテンシャルを発揮できるだろう。

でもマニュアル、やっぱ楽しい!

好きだ!

操縦しながら顔がニヤけた。

後半は操縦の忙しさに慣れて、思うように期待を動かすことができた。

最後のサビに入り、私は張り切って操縦をこなす。

ポーズを決めて、終了!

お疲れ様、ドライ改。

そして私。

 

「お見事だお。見学者のみんな、すんごく盛り上がってたお!」

 

トニーちゃんから上機嫌な通信が入った。

私は心地よい疲れを感じながらニッコリそれに答える。

 

「良い機体と見学者に恵まれたおかげです。ありがとうございました」

 

私はドライ改の両腕を大きく上げ、そして深々とお辞儀をさせた。

時間はまだ少し余っていたけど、試乗はここで切り上げることにした。

社長さんの指示に従って機体を降りると、再びお偉方を乗せたカーゴがこちらにやって来る。

真っ先にイケオジグリードがカーゴから降りて私の目の前に立った。

 

「午前に引き続き、素晴らしい操縦技術だった。どうだ? 楽しかったか?」

「うん! すっごく楽しかった!」

「それは良かったお」

 

グリードを押しのけるようにトニーちゃんが私の前にやってくる。

 

「エヴァンス君が口ポカーンしてたの、初めて見たお。というか、見学者のみんな驚いていたお」

「マニュアルでもあそこまで動かせるものなんですね。パイロットの技量次第であそこまで表現力を出せるなんて驚きました」

 

社長さんが嬉しそうに言うのを見て、私も嬉しくなった。

 

「御社の機体がマニュアルにもしっかり力を入れているのがわかったのが収穫でした」

「他に何か気づいた点などありますか?」

「地上での堅実さと安定性はさすがでした。踊っていて安定感がすごかったです」

「ドライ改の元になっているドライ自体が地上での活動に特化した機体です。デザインは変わっても機体のコンセプトは変わらないように製作しているんですよ」

「そうだったんですね」

 

社長さんの説明に私は納得し頷いた。

空中での作業に弱いのではなく、地上での作業に能力を極フリした結果の機体なのだ。

すると、トニーちゃんがニンマリと笑った。

 

「ナナちゃん、ドライ改の弱点に気付いているようだおね」

「弱点じゃなくて、社長さんが言うように、そういうコンセプトなんですよね」

「そう言ってくれるナナちゃんの優しさよ」

 

言って、ホロリとひとつぶ涙を流すトニーちゃん。

目元を押さえるトニーちゃんを、グリードは無機質に見下ろす。

 

「しかし、それで絶対王者とタメを張れるのか?」

「お前に血も涙もないことはわかっているけど、今ここで言うことかお」

 

ギロリとグリードを睨むトニーちゃんだが、当のグリードはどこ吹く風といった感じだ。

社長さんが苦笑いを浮かべる。

 

「正直、厳しい戦いになりそうですね。ノーザンライツさんというか、シリウスが比較対象ですからね」

「シリウス」

 

座った目をして低い声で言うトニーちゃん。

 

「ガワのデザインはともかく、能力値はどこをとっても高水準。なのにあの価格設定。バケモノだお。……来週行くんだったおね?」

 

トニーちゃんにたずねられ私は笑顔で頷く。

 

「はい、来週の午前中に行く予定です」

「あー、この一週間、落ち着かない日々になりそうだお」

「そうですね」

 

顔を手で覆うトニーちゃんに、社長さんも深く頷いて同意した。

グリードがやんわりとトニーちゃんを押しのけて、私に微笑みかける。

 

「来週が楽しみだな。ナナミ」

「うん! めっちゃ楽しみ!」

「エヴァンス君、この人の皮をかぶったAI、高みの見物決め込んでるお。ムカつかないかお」

「……はあ」

 

そんな感じでAHIさんでの試乗は終わった。

ドライ改の感触も良かったし、来週のシリウスの試乗がすごく楽しみになった。

私はトニーちゃんと社長さんに改めてお礼をして、グリードとともに家路についたのだった。

 

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