多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十三話 パワードスーツを買った 5

早いもので週も半ばに差しかかった。

今日の街の外の天気はただの曇り。

風の強さもそよ風程度で、結構珍しい天気だ。

この見通しの良さ、動きやすさ、感動的ですらある。

だから私はロイさんとアイちゃんと一緒に少しばかり遠出して、最近浄化された場所で資源回収に勤しんでいた。

ていうか、今まさに佳境だった。

この地面の下に、レアメタルの反応があったからだ。

三機で一心不乱に土砂をかき分け、地面を掘りすすめる。

レアメタルの反応が強くなった。

そしてついに、埋もれた大型パワードスーツの一部を発見した!

 

「ヨッシャキタコレ!」

「やたー!」

 

ロイさんとアイちゃんが歓声をあげる。

私も気持ち悪いほど顔がニヤけるのがわかった。

迅速かつ丁寧に掘り進め、ついにパワードスーツの全貌が明らかになった。

これはまた、珍しい機体だ。

てか、実物は初めて見る。

 

「おお! こいつはアムステラ重工のエシュ・エレグバ! グレートスリー! 正真正銘のエース機だ!!」

「やったあああ!!」

 

ロイさんの鑑定に、私は我慢できずに声を上げた。

やったー! やたやたやったー!!

今日、すっごくついてるじゃん!!

超嬉しいんですけど!!

 

「アイラ、すぐにトラックを呼べ」

「了解です!」

 

アイちゃんの声も弾んでいた。

 

「状態も悪くねーし、こいつはとんだ掘り出しモンだぜ」

「早く引き上げてやりましょう!」

「OKOK。あと少しで引き上げられる。慎重にいくぞ」

 

慎重に手早く土砂をどかし、グレートスリーに選ばれた機体の上半身をロイさんと一緒に持ち上げた。

ああ、もう、感動で涙ぐみそう。

機体にほぼ損傷はなく、きれいな形で残されたそれは、ファースト・スター同様に物語の主人公機のようなデザインだった。

てか、見れば見るほど素材の質がいい!

レアメタルがなくても、ガワだけで十分な価値があるのは明白だった。

 

「さすがグレートスリーの一機。何もかもが完璧だ。しかもレアメタル付きだろ? 明日世界が滅ぶんじゃないか?」

「そんなこと言わないで下さいよ。……てか、戦った形跡がないですね」

 

上半身はロイさんに任せて、私は話しながら下半身を掘り下げ始めた。

細かい傷ができているのは、経年劣化と土砂によるものだ。

 

「AI側で機能不全でもおこしたか、それとも終戦直前に投入されて、大した戦いもせずに捨てられたかのどちらかだろうな」

「もったいない。宇宙空間でも活動可能な機体ですよね」

「ああ。素材がモロにそれ仕様だからな。打ち上げにコストは確かにかかるが、こんないい機体、一緒に連れてってやりゃいいだろうに。宇宙に行った連中の考え、ちっともわからん」

 

話している間に下半身も無事に土砂から引き上げることができた。

そしてアイちゃんが呼んでくれた自動運搬トラックに最大限の注意を払って乗せる。

私たち以外の作業員も、エシュ・エレグバの姿に見入っているようだった。

後はトラックと一緒に基地を中継して会社に戻るだけだ。

 

「じゃあ出発しますねー」

「あいよ……って、ちょい待て」

 

ロイさんが何故か作業を止めた。

見れば、ロイさんの機体が空を見上げている。

 

「……何だあれ」

 

私はロイさんと同じ方向にカメラを向ける。

灰色の空を背景に、はっきりとした白い点が見えた。

念の為カメラを洗浄したが、白い点は消えない。

 

「どうしました?」

「アイちゃん、これ共有するね」

 

私はカメラの映像をアイちゃんに共有する。

 

「ありがとう。でも、何です? あれ」

「わからん。ドローン飛ばして確認頼めるか」

「了解です」

 

アイちゃんのカペラの背中から偵察ドローンが飛び出し、白い点に向かって飛び去って行くのを見届けた。

私達の様子に、他の会社の作業員たちも不審に思ったのだろう。

次々と機体の視線を空に向けている。

すると、パブリックの通信が届いた。

ヘルメットとマスクをつけて顔ははっきりと見えないが、顔の骨格からして女性だろう。

 

「私はウーヴァ社のノエミ・ルッソだ。いきなりで恐縮だが、東の空の白いものが何かわかるか?」

「俺はナノ社のロイ・アロンソだ。俺達も今気づいて確認しようとしているところだ」

 

……何だろ、やな感じ。

それに何かさっきよりも白いの大きくなってない?

 

「ドローンからの映像が届きました。共有します」

 

アイちゃんの報告と共に目の前のモニターに画像が表示される。

画面は少し荒れているが形はわかった。

一言で言えば、パラシュートをつけた白い蕾の形をした物体。

としか、私の語彙では表現できない。

 

「これは……コンテナか?!」

「ああ。しかもあのロゴマーク、荒れているが俺の目は誤魔化せねーぞ。ラインアトラスだ!」

「は?」

 

えっ? ラインアトラスってあのラインアトラスのこと?

 

「何故、ラインアトラスのコンテナが地上に来ているんだ? そもそもどこへ向かっているんだ?」

「アイラ、基地に連絡。アレの地表への到達地点と時間を算出させろ」

「了解です」

 

ロイさんとアイちゃん、ノエミさんがやり取りしている中、私の脳裏に落ち着きのある男性の声が響いた。

 

『私はラインアトラスグループの代表にして、電脳都市アタラクシアの管理をしているAIの一機、プライドです』

『また今度、時間を作ってゆっくりお会い──』

 

……まさか、ね。

だって、会う理由がないよ?

さすがに自意識過剰でしょ、恥ずいぞ私。

 

「算出完了。該当の物体の地上到達時刻は約三分後。到達地点はこの基地から半径五百メートル以内と推定します」

「何だと?!」

「基地のすぐ近くじゃねーか!」

 

基地を管理するオペレーターAIの報告に、ノエミさんとロイさんが声を上げた。

私達が混乱している間にも、白いものはどんどん大きくなっていき、轟音とともに私達の頭上を通過した。

パラシュートで減速しているが、そのスピードはまだ早く、中継基地の方角へ真っ直ぐに飛んでいくのを見送った。

 

「どうする?」

「基地へ向かう」

 

ノエミさんの問いかけにロイさんは即答した。

 

「いずれにしても立ち寄る場所だからな。ナナミ、そこの荷物は任せたぞ」

「了解です」

 

せっかく掘り当てたレアメタル付きの状態の良いエース機だ。

絶対に手放すわけにはいかない。

 

「あんたらはどうする?」

「無論、基地へ向かう。宇宙からきた立派なお宝だ。見過ごすことはできない」

 

どうやらノエミさんたちの会社も基地へ向かうようだ。

こうしてみんなが一斉にブースターで基地へと急行する中、私は自動運搬トラックの横について基地へと向かうことになった。

履帯(クローラー)を履いたトラックは荒れ地でもグイグイと力強く進んでいくが、ブースターをきかせたパワードスーツの速度には敵わない。

瞬く間にみんなの姿は見えなくなった。

 

「基地にいた職員とロボットの避難は全て完了。緊急事態宣言を発令し、傭兵部隊に基地防衛のための派遣を正式に要請しました」

「ラインアトラスの技術力なら、基地に直撃するようなヘマはしないだろうが、万が一もあるからなあ」

「妥当な判断だが、ライバルが増えたか。急ぐぞ!」

 

先行する人たちのやり取りを聞きながら、私はトラックに固定されているエシュ・エレグバを見る。

思わず現状を忘れてニンマリした。

……やっぱグレートスリーの機体は格別だなあ。

会社に戻ったらまずキレイにしてもらおう。

でもって、一緒に記念撮影をしたいなー、できるかなー。

私は一つ頭を振る。

そんなことよりも、コンテナ、無事に着陸できたのかな?

しばらくすると基地からの通信が入った。

 

「該当物体の着陸を確認」

 

そしてモニターにその状況が映し出される。

画面には、パラシュートがついたままになっているコンテナが地面にしっかりと着地していた。

こうしてみると、本当にお花の蕾みたいだ。

 

「街の外で作業をしている皆さん、こんにちは。お仕事お疲れ様です」

 

突然、パブリック通信に声だけが届いた。

低く落ち着いた男の人の美声。

聞いたことのある声にレバーを持つ手が震えた。

え、本当にまさか、なの?

 

「私はラインアトラスグループの代表にして、電脳都市アタラクシアの管理をしているAIの一機、プライドです」

「ラインアトラスの管理AI?!」

 

声を上げるノエミさん。

いよいよ嫌な予感が確信へと変わった。

や! まだわからない!

小娘には関係ないない! 絶対にない!

私は直感を頑なに否定する。

 

「本日は我が社が新たに製造した大型パワードスーツを試乗していただきたく、地表へ参上した次第です」

「じゃあ、そのコンテナの中身は」

 

ロイさんの言葉の途中でお花の蕾が一瞬光った。

そして四方へパッカリと割れる。

花が咲いたようなコンテナの中央に、鮮やかな赤の大型パードスーツが立っていた。

カメラの画面からでもわかる威風堂々としたたたずまい。

漫画で見かけるスマートな鎧甲冑を身につけたような騎士のような姿。

知ってる。

たまーに発掘することがあるレアなエース機。

 

「アルビオン?!」

「いや違う!」

 

皆がその名を言う中で、一人だけ、ロイさんはそれを否定した。

 

「確かにデザインはアルビオンそのものだが、装甲の素材と厚みが違う。特徴だった胴回りも簡略化して見える。本物はもっと全体的に無駄がなくて重厚で、一目でお高そうに見えるんだ。これ、もしかしなくても廉価版か?!」

「我が社の機体をよく知る慧眼なパイロットがいらっしゃるようですね」

 

プライドさんの声に少しばかりの喜びと楽しみを感じた。

どうやらこのAIも演技派のようだ。

 

「この機体はアルビオンを簡易軽量化したアルビオン改。宇宙空間及び戦闘以外での活動を目的に製造された機体です」

「マジかよ……冗談がホントになるなんて、なんてこった!」

 

ラインアトラス信者のロイさんは本気で驚いているようだった。

そして私はと言えばようやく基地へと到着した。

コンテナを中心に少し離れて続々とパワードスーツと防護服を着た人々が集結し始めている。

めったに見ないすごい絵面だ。

私はそれを横目で見ながら、ひとまずトラックを検査機のある建物へと誘導した。

本来ならばここで機体や素材のチェックと鑑定、諸々の手続きを行うんだけど、今はみんな避難しちゃって作業はできない。

仕方ない。

私はエシュ・エレグバを見つめる。

ごめんね、ちょっと待っててね。

外の様子、見てくるよ。

私が軽く手を振って外に出た時、ノエミさんの通信の声が聞こえた。

 

「それでこの機体をわざわざ地上へ持ち込んだ理由は何だ? 試乗をしてもらうとか言っていたが」

「はい。今ここにいらっしゃる方々の中に、先日から試乗のために候補になっている企業に足を運んでおられる方がいらっしゃいます」

 

……私じゃん。

いや、他にも試乗を頑張ってるパイロットが──。

 

「あの、それって」

「ナナミのことじゃね?」

 

アイちゃんとロイさんが言うと、直立不動だったアルビオンが体ごとこちらを向き、真っ直ぐに私を見た。

一瞬、息が詰まった。

 

「ナナミ・カリヤ様。貴方に是非このアルビオン改を試乗していただきたく、地表へ持ち込ませていただきました」

 

プライドさんのその言葉に、この場にいる全員の視線が私の方に、乗っているミモザに向いた。

私はその視線の圧力を受け、完全に硬直をした。

 

「持ち込みについては街の管理AIたちには無断で行っています。何故ならここは街の外。治外法権のこの場所なら問題はないと判断したからです」

 

アルビオン改はコンテナから出ると、私に向かってきた。

そして硬直する私の前に立つと、右手を胸にあてた。

 

「カリヤ様が望むマニュアル操縦も可能ですし、一番ご心配されている価格につきましてもAHIさんより抑えることができました。後は実際に試乗していただき、乗り心地や操縦感覚をご体験いただければと思います」

「……あ、う、そうですか」

 

私はあまりのことに混乱し、そう答えるのが精一杯だった。

何てこった!

また面倒事に巻き込まれちゃったよ!

私はヘルメットの上から頭を手で押さえた。

いやさ、確かにアルビオンの廉価版が出たら絶対に試乗したい、なんて言ったよ、言いました。

でも、まさか本当に試乗できるなんて思わないじゃん。

ロイさんも言ってたけど、冗談が本当になるなんて。

 

「ナナちゃん……」

「おい、どうするよこれ」

 

チームの通信からアイちゃんとロイさんが声をかけてくる。

ゴーグルを取ったロイさんのその目は、怖いほど真剣だった。

 

「いや、何か突然そう言われても、正直困るというか」

「うん、そうだよね。気持ちはわかるよ」

「ああ。だが、管理AI直々のご指名だ。んなの知らん、じゃ済まされねーぞ」

「信者のロイさんがご指名されれば良かったのに」

「冗談でもやめろ。コクピット乗っただけで狂喜乱舞して試乗どころじゃなくなる」

 

きっぱりと言うロイさんに私はため息をついた。

 

「街の法律的には大丈夫なんだよね」

「プライドさん? も言ってたけど、ここ、治外法権だからね。表向きは問題なさそうだけど……」

「でも街の管理AIは間違いなく事態をリアルタイムで把握してる。街のお前に対する信頼度にどう影響するかは未知数だな」

「そですよねー」

 

プライドさんがいる低軌道上の電脳都市アタラクシアと、私達の住むアパテイアは、戦後の取り決めで八十年以上断交状態にある。

それを侵してプライドさんが街に接触したのが私の誕生日だった。

そしてまた、治外法権の場所とはいえこの地に接触をしてきている。

……プライドさんの本当の目的なんだろう。

それと今気づいたんだけど──。

 

「何でプライドさん、私が試乗のために企業に足を運んでいるの、知ってるんだろう」

 

私の言葉にアイちゃんとロイさんが揃って一瞬固まったが、アイちゃんがポンと手を打った。

 

「それはあれだよ。SNSでナナちゃん、試乗のこと投稿してたからじゃない?」

「いやまて。だとしたら宇宙にいる連中に街の情報が筒抜けってことになる。街の安全保障と信頼に関わる一大事だぞ」

「街の擁護するつもりは無いけど、その部分は完璧だよ。だからそこは古典的な方法でやったんでしょ」

 

突然チーム通信に入ってきたのは、これまた意外な存在だった。

ダウナーでパンクな出で立ちの性別不詳な、でも街の管理AIに匹敵する大物AI。

 

「スロウスさん!?」

「おまえ、また突然現れやがって。何なんだよ」

「三人よればモンジュの知恵になってなかったら、見かねてお邪魔したんだよ」

 

相変わらずの辛口コメント。

今日も絶好調のようで何よりだ。

 

「それより、アレ、放置プレイ状態になってるから、ちょっと待ってもらうように言ったら?」

「おい、仮にもアタラクシアとラインアトラスの管理AIをアレ呼ばわりかよ」

「アレで十分だよ」

 

呆れるロイさんに、スロウスさんは素っ気なく言った。

でもスロウスさんの言うように、ろくに返事をせずに待たせるのは失礼だ。

私はレバーを操作し両手を広げた。

 

「あの、試乗について同僚と相談しているので、少しお待ちいただけますか」

「どうやら、好奇心よりも警戒心のほうが勝っていらっしゃるようですね」

「企業が絡む事柄には常に注意を払って下さいって、街の管理AIから言われてますから」

「仰るとおりです。カリヤ様の納得がいくまでお話し合いをされるとよろしいでしょう」

 

あ、良かった。

了承を得られてホッとする。

 

「ただあまり時間がかかると、騒ぎが大きくなると予想します。そうしますと試乗の時間が取れなくなる可能性もありますので、お早目のご決断をお願いします」

「わかりました」

 

よし、少し時間稼ぎができたぞ。

私は画面に目を戻した。

 

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