多脚ロボットに告白されまして   作:小栗チカ

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第二十三話 パワードスーツを買った 6

「それで、まず結論から出したいんだけど、君はあのアルビオン改に乗ってみたいの?」

 

……乗ってみたい。

これでもパイロットの端くれだ。

廉価版とはいえ、グレートスリーを元にした機体。

どんなものか乗ってみたいという好奇心はある。

スロウスさんの問いかけに、私は正直な気持ちを伝えることにした。

 

「今後の生活に影響がないなら乗ってみたいです。ラインアトラスの機体、見たことはあっても乗ったことないので」

「パワードスーツのオタなら誰もが乗りたがるだろうさ。俺だって気持ちの整理がついたら乗ってみてえし」

「うん、じゃあ乗ってみたらいいんじゃない?」

「えっ?! 大丈夫なんですか?!」

 

スロウスさんの言葉に私は驚く。

 

「まあ後で、街からじっくりガッツリ事情聴取を受けることになることは覚悟したほうがいいと思うけど」

「ですよね」

 

やっぱそういうオチになるよね。

気分が萎えるのを感じた。

面倒なんだよ、事情聴取。

 

「で、話の途中になってたカリヤさんの情報が、アレに筒抜け状態になってる話だけど」

「古典的な手法って言ってたな」

「うん。カリヤさんの情報をアレに売り渡している存在がいる。スパイってやつだね」

「街の中じゃ無理だよな」

「間違いなく無理だね。でも街の外は違う。あらゆる情報が集積して売買されてる状態だ。恐らくだけどアレもそれに紛れて、念入りに偽装した上で情報収集していたと思う」

「てことは……街の中にいて、かつ街の外とも繋がっている存在がナナミの側にいるってことか?」

 

ロイさんの言葉に私は思わず声を上げる。

 

「そんな人、私の側にいませんよ!」

「いるよ」

 

無感情に言うスロウスさんに、私は反射的に身を乗り出した。

 

「えっ?! 誰ですかそれ?!」

 

すると、今まで黙っていたアイちゃんが、今まで見たことないほど厳しい目線で言った。

 

「……エリちゃん、ですね」

「ご名答」

 

私は絶句した。

エリちゃん……。

私の友達で、小型ではライバルだった女の子。

恋人のために違法行為をしながら、街の外の闘技場で戦うプロ格闘家(プレイヤー)

つい最近、グリードと一緒に、エリちゃんたちに幸せについてもう一度考える機会を与えようって話してたのに……。

 

「確かにエリちゃんとやらは、街に目をつけられているとはいえ、まだ街の住人だからな。ナナミの情報を見ることくらいわけないわな。で、それを利用してプライドに情報を売ることで、外での生活費や研究費用の足しにしてたってことか」

「そういうこと」

 

唸るような声で言うロイさんに、スロウスさんは無感情に肯定する。

何それ……。

何それ、酷いよ、エリちゃん。

私は打ちのめされ、ガックリとうなだれた。

 

「でもスロウスさん、なぜあなたがそれをご存知なんですか」

 

真剣な口調のアイちゃんの問いかけに、スロウスさんは冷淡な表情で口を開いた。

 

「前に君も気にしてたでしょ。彼女のお金の出どころ。ボクも気になったから改めて追跡調査をしたんだよ。そしたらその事実がでてきたってわけ」

 

そしてスロウスさんは私を見た。

 

「でさ、もう一度聞くけど、それを知った上でアレの機体に試乗してみたいの?」

 

スロウスさんの問いかけに、私はうなだれたまま即答できなかった。

 

『金がからむと狂うのは人のデフォルトなんでしょ』

 

とは、スロウスさんが前に言っていたことだ。

でもまさか、私の身近で実際に起こることになろうとは思いもしなかった。

対岸の火事どころか火種を放り投げられて私の心は炎上中だ。

くっそ!

私は歯を食いしばる。

そんなにお金に困ってるんだったら、真っ先に犯罪まがいのことせずに言えよ!

言ってくれれば、少しくらいなら力になれたかもしれないのに!

黙り込む私に、アイちゃんが気遣うような視線を向けた。

 

「ナナちゃん……やめてもいいんじゃないかな。ここまでのことされて、相手の手のひらで踊るような真似、しなくてもいいと思うよ」

 

……踊る。

 

「俺は信者だが今回の件、ラインアトラス側の筋が通ってなくてイメージ悪い。アイラの言うとおり、やめたほうがいいんじゃねーか」

 

ロイさんもアイちゃんに同意する。

だけど、私の心の中の火は燃え盛ったままだった。

やられたままでいいのか。

否だ!

少しでも相手を見返してやりたい。

だから私は言った。

 

「……乗るよ。そんで踊る」

「え? 踊るって──」

「ここにいるみんなの前で『Universe Party』を踊る! そんで、アルビオンの超高級ブランドのイメージを、平和で庶民的でダサかっこいいものに書き換えてやる!!」

 

私の宣言に、みんなは呆気にとられ沈黙した。

『Universe Party』とは、この街の男性アイドルグループ『キングスマン』のデビュー曲のこと。

街の住人なら誰もが一度は見聞きしたことのある超人気曲で、特筆すべきはその振り付け、ダサかっこいいと評されるダンスだ。

そのダンスはすごく特徴的ではあるものの、難易度はそれほど高くなく、練習をすれば子どもから大人まで誰もが踊れる、この街では鉄板のダンスとしても知られている。

 

「……悪くない考えだね」

 

スロウスさんが腕を組む。

私はスロウスさんをまじまじと見つめた。

 

「え?」

「君の望みも叶うし、アレの目的、多分君とアルビオン改のデータ取得だからそれも叶う。傷つくのはアレのブランドだけなのがとてもいい。やってみたら?」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

やった!

やったやった!

あのスロウスさんに認められた!

その勢いに乗って、私は機体ごとアイちゃんの方を向いた。

 

「アイちゃん、お願いがあるんだけど」

「……皆まで言わなくていいよ。一緒に踊ってほしいんだよね」

 

以心伝心とはまさにこのこと。

私が深く頷くと、アイちゃんは目元に笑みを浮かべた。

 

「いいよ。そういうことなら協力する」

「ありがとう!!」

 

私は本当にいい友達をもった!

感動している私をよそに、ロイさんの呆気にとられた声が聞こえた。

 

「おいおいアイラ、お前マジか。踊れるんか」

「養成学校時代にナナちゃんとエリちゃんと三人で踊ったとき以来ですけど、多分、踊れます」

「てか、何で学校で踊ってんの」

「養成学校の卒業試験の自由課題で踊ったんです。先生たちには大受けしました。だから、お客さん受けはいいと思います」

 

呆れた様子で聞くスロウスさんに、アイちゃんは生真面目に答えた。

私は今度はロイさんの方を向いた。

 

「ロイさんも一緒に踊りましょう!」

「は?! 何でだよ!?」

「ロイさんも踊れますよね。私達の歓迎会の時に踊ってましたもんね?!」

「……余計なこと覚えていやがる」

「アルビオンの真横で踊れるんですよ?! 信者として操縦以外にこれ以上の栄誉がありますか?! ないです! エンゲージなら余裕余裕! だから踊りましょう!!」

「そうだよ。踊ったらいいじゃん」

 

押せ押せモードの私に珍しくたじろぐロイさんに、スロウスさんが無感情に追撃してくれた。

ロイさんが睨みつける。

 

「スロウス、テメエ、他人事だと思って」

「後輩が大物AI相手に頑張ろうとしているんだよ。ここは先輩として力を貸してやるのが人としての筋ってもんじゃないの」

「AIが人の筋とか語ってんじゃねーよ!」

「お生憎様。AIの言論の自由は基本保証されている。そんなことも知らないの」

「あああああ! コイツううあああああ!」

 

とことん相性悪いな、この一人と一機。

でも今はそれどころじゃない。

私は機体ごとロイさんに頭を下げた。

 

「お願いします! 私達と一緒に踊って下さい! 力を貸してください!」

「私からもお願いします!」

 

頭を下げる私達に、ロイさんはヘルメットを脱ぐと頭をかいた。

 

「……あーもー、わかったわかった! だから頭上げろ!」

「じゃあ!」

「踊るよ! 踊りゃいいんだろ! やってやるわ!」

 

ヤケクソ気味に言うロイさん。

こんな大勢の人の前で踊るなんて恥ずかしいことだし、しかも本番一発勝負だ。

それなのに、本当にいい先輩だ!

 

「ありがとうございます!」

 

異口同音にアイちゃんと再び頭を下げる横で、スロウスさんは無表情に頷いた。

 

「じゃ、ボクは諸々のセッティングをしてくるよ。基地の施設、少し借りるね」

 

平然と言ってスロウスさんの通信は切れた。

スロウスさん、本っ当に自由だなー。

そして改めてアルビオン改に、プライドさんに向き直った時だった。

 

「街から傭兵部隊が出撃したのを確認しました。カリヤ様、あまりお時間が──」

「お待たせしました! 乗ります!!」

 

私はプライドさんの言葉を遮り、機体の右手を大きく上げて宣言した。

 

「乗ります乗ります今すぐ乗ります! すぐ乗れる状態にしてくださいますか!」

「ご決断、感謝いたします。了解しました」

 

よおし! やってやるぞ!

アルビオン改が膝まずき、コックピットが開くのを確認した。

私も急いで膝まずき、改めてヘルメットとマスク、防護服のチェックをしてコックピットを開いた。

外は有害物質で汚染されていて、LSSなしでの環境は命の危機に関わる。

私は機体から飛び降りると急いでアルビオン改に走り寄った。

パッと見、たまに土の中で見かける本物のアルビオンと見分けがつかない。

しかしロイさんが指摘したとおり、全体的に装甲が薄く質も落ちているように見えた。

ああ、見学している場合じゃない。

急いで乗らないと!

私がコックピットに取り付くと、アルビオン改が私の搭乗の手助けをしてくれた。

座席に座るとコックピットが閉まり、LSSと全方位カメラが作動した。

私はコックピット内を見渡す。

今まで試乗してきた機体と同じく円形デザインだが、レバーやフットペダルの位置や形が微妙に違った。

 

「ようこそ、カリヤ様。こちらがアルビオン改の操縦席となります。戦前のアルビオンの操縦席のデザインを完全に刷新し、パイロットの五感と機体を同期することを目的にしたデザインとなっております」

「前に乗ったネフィリムはとにかく狭かった印象なので、ちょっと驚きです」

 

私は誕生日に乗ったネフィリムのことを思い出しながら言った。

私は平気だったけど、狭いところや暗いところが苦手な人は、あのコクピットには乗れないだろうな。

 

「該当のネフィリムを調査したところ、百五年前の機体であることが判明しました。当時とは機体のコンセプトも技術力も違います」

「戦争はあっても確実に進化してるんですね」

「皮肉な話ですが、戦争があったからこそ技術革新が速まったとも言えます。そして安全保障のためにも、兵器や兵装を含めた技術の進化は今後もなくてはならないものなのです」

 

プライドさんの言っていること、理屈ではわかるんだけど、被験者になってる私としては、とてもとても複雑な気持ちになった。

甘っちょろいのは百も承知だ。

でも、やっぱり不安とか不信とか恐怖とかをぬぐい去ることができない。

私は頭を軽く振って、沈みそうになる気持ちを振り払った。

 

「あの、そろそろ操縦をしてみたいです」

「はい。マニュアル操作に切り替えます。…………切り替え完了しました。まずは立ち上がるところから始めましょう」

「了解です」

 

私は座席の位置を調整し、レバーに手をかけフットペダルに足を乗せた。

そして慎重に操作する。

あ、少し軽すぎるかな。

でも、大丈夫大丈夫。

そうしてゆっくりと立ち上がった。

よしっ、第一段階クリアだ。

周囲を見渡すと、うわっ! 改めて見ると凄い人とパワードスーツの数だ。

緊張するなー。

 

「レバーとフットペダルの調子はどうですか?」

「少し軽いですね。私はもう少し重くてもいいかなと」

「一般女性の平均的な筋力を元に調整しましたが、了解しました」

 

何やら聞き慣れない音がする。

どうやら調整をしてくれているらしい。

へー、すげーな。

 

「こちらでいかがでしょう」

「じゃ、歩いてみます」

 

私はゆっくりと機体の右足を上げる。

お! 今度はいい感じ!

そして記念すべき第一歩を踏み出した。

最初はゆっくりゆっくり、そして徐々に速度を上げて歩いた。

 

「マニュアルでこの順応力。素晴らしいですね」

「ありがとうございます」

 

褒められたけど、喜ぶところじゃない。

最終目標は、ここにいる全員の前で踊ることだ!

そのためにも、なるべく早く機体に慣れないといけない。

私は真剣に試乗に取り組んだ。

試乗をするいつもの操作に集中する。

そして気付く。

これ、完全にエンゲージ前提の造りでしょ?

そうだよね。

だって、何をしても揺れるもん。

普通の人、絶対にスーツ酔いするもん、これ。

電脳都市アタラクシアでは肉体(ボディ)は遺伝子保存されているけど、基本はデータの存在として生きてるって習った。

だからエンゲージが当たり前なんじゃないの?

じゃあ、マニュアルをくっつける意味って何?

……あれだ、電脳都市にも私みたいな変わり者がいるんだな、きっと。

さあ、雑念退散! 集中!

 

「ご同僚の方から通信が届いています」

「繋いでもらっていいですか」

「もちろんです」

 

するとロイさんが画面に現れた。

 

「おう、どうだ調子は?」

「ぼちぼちです」

「そうか、絶好調ってこったな」

 

なぜその解釈になるのかな?

私はプライドさんに向けて言った。

 

「ブースター使います」

「了解しました」

 

ブースター、オン!

おお! いい音ですなー。

滑るように地上を走る。

細かく波型に動いたり、数字の八の字を描いたりした後、地面を蹴って空に飛んだ。

しばし垂直に飛び、そして空中静止状態に。

あ、これ、凄いぞ!

 

「ブースターでの動きが傍から見ても全然違う! これは期待できるぞ!」

 

ロイさんは興奮したように言った。

まるで子どものような喜び方だ。

 

「このご同僚、先程この機体の正体を見抜いた方ですね」

「はい、私の先輩です」

「そうですか。今までの発言から随分と我が社をひいきしてくれているようですが」

「信者を自称しています」

「そうでしたか。地上にもまだ我が社のファンがいると知り、とても嬉しく思います」

 

プライドさんは機嫌がよい感じで言った。

言葉選びといい表現の仕方といい自然な演技といい、ケチのつけようがないほどのレベルだ。

そう考えると、グリード、まだまだ伸びしろはあるんだな。

空を飛びながらグリードのことを思う。

きっと連絡いってるよね。

また心配かけちゃってるかな。

でも大丈夫だよ!

この試乗をやり遂げるからね!

私はしっかりと正面を見据え、曲技飛行を披露した。

ああ! すごい! すごいぞ!!

空飛ぶの、すんごく楽しい!!

こんな感覚、ファースト・スターと同じかそれ以上だ!

産業機のはずなのに、この空中機動のレベルの高さ。

根っこはやっぱりグレートスリーのアルビオンなんだなー。

 

「マニュアルでこの曲技飛行、まだまだお若いのに凄いですね。同乗できたこと大変に光栄です」

「ありがとうございます」

 

持ち上げるの上手いな、このAI。

私は冷静にお礼を言う。

 

「空飛ぶ姿はグレートスリーの貫禄が漂ってんな。お前の技術もさることながら、それに安定してついてけるの産業機としては相当レベル高えぞ」

「空を飛ぶのが楽しいと思える機体は本当に稀ですから驚いています」

「だよなー」

 

曲技飛行を終えて水平に飛ぶ私に、ロイさんが嬉々として声をかけてくる。

信者としては嬉しいだろうな。

でも忘れちゃいけない。

これからが本番だ。

私は集まっている人やロボットの前に静かに降り立った。

 

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