少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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この方達が出てるのは見かけなかったので多分珍しいと思います。
知らない人はそんないないんじゃないかな?

ではどうぞ〜。


二話 『前日譚』

 

 

 

 

 

「昨日は色々とあったなぁ…」

 

 

 眠気の残る瞼を擦りながら珈琲を啜ると、程よい熱で体に温もりをくれる。しかし、未だに寝起きの気怠さは残っており、欠伸がまだ出てくる。

 窓から見える青空を見つめながら、消えそうな独り言を呟きながら昨日の出来事を思い出す。

 

 ゆったりと目的の無い…という訳ではないのだが、静かな日常を過ごしていて昨日のような出来事は初めてかもしれない。

 出掛ければヴィランと出会し、そこでかの有名な煌星学園の生徒である白上 フブキと出会い、連絡先を交換して別れた。

 

 ヴィランの事件は大体は彼女のとこの在籍する煌星学園の生徒達が解決してくれるのだが、俺が時たま人知れずヴィランを倒してる時もあった。

 しかし、それは偶々遭遇した時のみくらいだ。

 

 まぁそれはいいとして、休める日の筈だったのにとんでもない騒動に巻き込まれたものだ。仕方ないとは言え、少し損をした気分になってしまう。

 そんなマイナスな思考的気分に、朝から小さな鬱を感じてしまったが、深呼吸を一つして気分を入れ替える。

 

 

「取り敢えず、今日は朝からバイトだし…準備でもしとくか」

 

 

 そう、今日はバイトの日である。

 時間までは余裕はあるものの、早々に準備を済ましておけば少しの間は時間が空く。その空いた時間はどうするかと言われれば、別にどうもしない。

 特別何かをする訳でもないし、スマホを弄っているか、本とか読んでいることが基本的な習慣である。

 

 時間がやってくれば余裕を持ってバイト先へと向かう。場所はそれなりに人が通る所で、商店街に並んでいる訳ではなく、ポツンと一軒家のように少し孤立している。

 所謂知る人ぞ知る隠れ有名店的なものだと思えばいい。

 

 家から歩いて少し時間は掛かるが問題なく着いた。その店の名は珈琲店『静甘(せいか)』、静かな雰囲気を大事にしながら憩いの一時を楽しむ為の場所である。

 珈琲店だが、なにも珈琲だけでなく一品料理やデザートも揃えている。その料理の味も評判は良く、噂を聞き付けてやってくる人が最近多くいる。

 ただまぁ、問題なのが従業員が俺と店主の二人しかいないんだけどね。

 

 そんなこんなで、店の裏口から入って自分の荷物を置いて仕事服である制服に着替える。

 しかし、毎度この制服の着心地には中々なれないものだ。なんせ燕尾服に近付けたデザインだからだ。堅苦しいと言うか、着苦しいと言うか、普段は着ない服装なのでやはり違和感がどうしても残る。

 

 だが仕事の為にも着崩す訳にもいかないので、鏡で自分を照らし合わせて違和感な所がないか確認をしてから厨房へ向かう。

 

 

「おはようございます。お疲れ様です」

 

 

「お〜おはよっす、紫黒ちゃん。今日は朝から悪いね、基本は厨房になるけど偶に料理運んでって貰うかも」

 

 

「分かりました」

 

 

 この友好的な雰囲気を醸し出しているこの人が、この店の店主である″御矼 啓次(おがた けいじ)″さん。

 金色に近い茶色の短髪で渋い顔をしているが少しおちゃらけた口調ではある。が、根は真面目で丁寧な性格をしている。

 

 そして、俺の″恩人″でもあり、信頼の出来る人である。なぜそう言った関係なのかは、説明するととても長くなってしまうので今はお預け(閑話休題)

 兎に角、言えることはこの人にはとても頭が上がらないということだ。

 

 

「さて、やるかな」

 

 

 ネクタイを締め直し、一息ついて仕事モードへと切り替える。厨房からホールへ少し頭を出してお客さんの人数をパッと見で確認をしてみれば、それなりの数がやって来ていた。戻って注文が来ていないか即座に確認し、何個か注文票があったので急いで作り始める。

 

 

(相変わらず人気店だな、ここは。っとあぶねぇ…力み過ぎた。そろそろ力加減に慣れないと)

 

 

 料理は思っているよりも割と繊細な作業なので、気を抜いていたら失敗は勿論、自分が怪我をしてしまうことだってある。初めての時も、加減が慣れずに色々と失敗して迷惑を掛けたものだ。

 力の入れ過ぎでまな板が切れるわ、卵を少し握っただけで弾けるわ、炒め物でフライパンを振るっていたら何故か天井に飛んで行くわで散々だった。

 

 

「紫黒ちゃん悪い!これ三番テーブルに持ってってくれ!」

 

 

「あ、はい」

 

 

 料理に手を動かしながら過去の苦い修行時代を思い出しながら耽っていると、啓次さんから配膳を頼まれた。

 あの人も慌ただしくあっちこっちに移動してるのを見て、流石に無理だとは言える訳がない。料理を一旦止めて、言われた通りに行動する。

 

 出来上がった料理を手に持ち、ホールへ出て行く。三番テーブルは何処だったかなと一度見渡してから思い出し、さっさと渡して戻ろうと急ぎ気味で向かう。

 

 

(…?あの人…)

 

 

 向かった三番テーブルは、木材で出来ている円形テーブルで二人用の席である。そこには、二人の女性がいる。それもただの人ではない、隠す気も無い角を生やし、先端が独特なモデルの尻尾を揺らしていた。

 見るからに彼女らは魔界出身である魔族だろう。それに、容姿はこれまた端麗な人達だ。

 

 しかし、二人の内の片方の女性を一目見た時、咄嗟に違和感を感じ取れた。それは悪い意味ではなく、かと言って良い意味でもない。純粋な気持ちから生まれた違和感、既視感に近いようなものだ。その女性は高嶺の華で可愛の雰囲気が強く伝わる。

 桃色と混ざっている白銀の長髪だが、左右にアポロチョコみたいに髪を束ねていた。もう一人の女性は薄紫色の長髪で、もう雰囲気でお姉さん感が伝わる。

 

 もしや、二人はモデルでもやっていそうだな…そんな事を考えてはいたが仕事に集中し直し、紳士を崩さずに丁寧な対応をして料理をテーブルに置く。

 

 

「お待たせしました、オムライスと蟹チャーハンです」

 

 

「あっ、ありがとうございまーす!」

 

 

「わぁ、凄く美味しそう…」

 

 

 二人からは待ってましたと言った雰囲気が伝わり、料理に釘付けとなったその姿に思わずクスッとしてしまった。

 確かに、俺も初めてメニューから実物を見た時はやっぱり違うなと、感心していた。何時までもここにいる訳にはいかず、二人に会釈をしてからその場から立ち去って厨房へと戻る。

 

 

「ホントだよね、パトラ達のハニストも負けられないね!特にカニカマ料理を増やしたい!」

 

 

「パトラって何時も言ってるわよね。そう言うのは、ななしに聞いてみないと分からないよ?まぁ多分、無理だと思うけどね」

 

 

「うぐっ…いいと思うんだけどなぁ、カニカマ料理。あむっ…美味しい♪」

 

 

「…ねぇ、それにしてもさっきの店員さん凄く様になってたよね。まるで漫画に出てくる執事さんみたいだったよね」

 

 

「そうだね、パトラも見た瞬間ちょっとドキッとしちゃった!」

 

 

 彼を話題にされているのに気付く筈もなく、二人の会話はどんどん発展していっていた。厨房に戻った龍成は止めていた料理作業を再開させ、先程の二人の内の一人の女性のことを考えていた。

 

 

(今の人…やっぱどっかで見たことあるような、ないような…)

 

 

 このもどかしい気持ちがチラついてて、何だか執拗い。遠い昔に会ったことでもあっただろうか、だが記憶を辿ってもあの女性と出会った出来事は思い出せないし、ただの気の所為だろうか。

 

 

「紫黒ちゃんごめん、またいっぱい注文来ちゃった!頼める?」

 

 

「あ、はい。大丈夫です、今やります」

 

(やっぱ気の所為かな、取り敢えず今は仕事に集中するか)

 

 

 あの女性のことは一旦忘れて、やるべき仕事に集中しようと意識を変える。その後は、ただただ無心に注文された料理を作りまくっていた。偶に運んで行くこともあったが、お客さんが一向に減るどころか増えている気がしていた。

 それで、改めて分かったことがある。

 

 やはりこの店は、従業員を増やした方がいいと。今度、啓次さんにその話を持ち掛けてみようかな。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 それからというものの、特に問題もなく時間は過ぎて行き、お客さんが入って来ては出て行き、満足した表情で食欲を満たし、疲れを癒し、良い一時を過ごせていたようだ。

 そろそろ閉店になる時間なので、ラストオーダーを聞きに行く為に一度ホールへ向かう。

 

 この店は朝と昼しかやっておらず、夕方から夜の営業は基本的にやっていないのだ。だから人が沢山来る理由の一つでもあるのだが、なんでやっていないかと言うと、それは単純な理由で人手不足だからだ。

 

 

「ふぁ〜…お疲れ〜紫黒ちゃあん…食器の後片付けと掃除だけやったら上がっていいよ。俺もまたあの人らの付き合いで疲れちゃったし、後はほっといても明日やればいいから」

 

 

「ラストオーダーしてからやりますね。それで…また例の人達の愚痴でも聞かされてたんですか?」

 

 

 ホールへ向かうその途中で、眠そうに欠伸をしながら伸びをしている啓次さんとすれ違った。どうやら今日もとある常連客の話を長々と聞いていたようで、少しげんなりとしていた。

 

 あの人達と言うのは、俺がこの店で働く前から来ているらしいとある常連客のことを示す。

 俺もまだ見たことはないのだが、確か…やたら一人称が船長と呼んでいるらしい女性と、酔ったら面倒臭いハーフエルフの女性とか、清楚と言いつつ下ネタが激しい女性だとか、この時点で俺は只者ではないなと察したと同時に同情した。

 

 この店には珈琲以外にもお酒や子供用のジュースも提供しているので、恐らく酔って愚痴でも聞かされているのだろうか。

 今度、またその人達が来たら啓次さんの代わりに俺が行ってあげようかな。

 

 

「あぁ、毎回毎回聞かされる側の奴にでもなってみて欲しいもんだよ。同じ愚痴とか何度も聞いたし、変に相談事持ち掛けられたりなぁ。俺は相談屋じゃねぇっての…」

 

 

「…もしだったら俺が代わりますよ」

 

 

「え?いや、ありがたいけど…別にそこまでしなくていいんだよ?なんだかんだ言って悪い気はしてないからさ」

 

 

「啓次さんがそう言うなら良いですけど、偶には俺が代わりになりますから、何時でも言って下さい」

 

 

「ありがとねぇ〜紫黒ちゃん。ほんと出来た子だぜ!俺にもこんな息子が欲しかったもんだよ、はははっ!」

 

 

 少し豪快に笑いながら裏に行く啓次さんを見て、少しだけ俺も微笑む。

 確かに啓次さんはそろそろいい歳で、結婚しても可笑しくはないが、まだその気はないと何となく雰囲気で伝わる。

 でも啓次さんなら、意外と直ぐに恋人とかは出来そうだけどな。あの人、結構いい人柄を持っているし。っと、忘れる所だったがホールに行ってラストオーダーをしないと。

 

 

(…あっ、あの人達まだ居たんだ)

 

 

 ホールに着いて真っ先に目にしたのは、俺が配膳しに行った三番テーブルのお客さん、二人の魔族の女性が未だに楽しそうに会話を繰り広げていた。周りをみればもう彼女達しかおらず、二人の会話が店内の音楽と混ざってよく聞こえていた。

 

 

「それでね!この前にこのゲームをやったんだけどね」

 

 

「そのゲームって昔のよね?パトラって意外と昔のものとか遊んでるの?」

 

 

「うん、偶には昔にあった人気のゲームとか遊んでるの!シナリオとかもしっかりとしてるし、意外と難しい所もあるからやり甲斐はあるよ!」

 

 

「へぇ〜、私もやってみようかな」

 

 

 女性のトークはやはり盛り上がるのか、時間を忘れるくらいに話し込んでいるようだった。まぁ、ここはそういう所だから見てて微笑ましい。だが、横槍を入れて少し申し訳ないが聞かなければ。

 

 

「お話の中、申し訳ありません。当店はそろそろ閉店を迎えますので、ラストオーダーの方をお聞きしたいのですが…何かご注文の方はありますか?」

 

 

「あっ、もうそんな時間だったんだ。パトラは何かいる?」

 

 

「えーとねぇ…じゃあ、プリンをお願いします!」

 

 

 パトラと呼ばれた彼女は、無難にこの店の人気デザートのプリンに決まった。それを跪きながら注文票にメモをする。

 

 

「はい、其方のお姉さんはどうします?」

 

 

「それじゃあ、カルピスで」

 

 

「畏まりました、直ぐにお持ちしますね」

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

「はい?」

 

 

 二人のメニューが決まったことで早速取り掛かろうとして立ち上がった時、パトラと呼ばれた女性に呼び止められた。どうしたかと思って目を丸くしながら、彼女の次の言葉を待つ。

 

 

「あの…もしだったら、そのぉ…プリンにカニカマ…とかって、付けれたり出来ます…?」

 

 

「カニカマ…ですか?」

 

 

「ちょ、ちょっと何言ってんのパトラ!流石にそれは無理よ、すいません!気にしないで下さい。」

 

 

「えぇ〜、でもこの間に乗せて食べたら美味しかったんだもん!」

 

 

 カニカマとプリンの組み合わせなど聞いたことがない。俺が少し放心していると、隣にいたお姉さんが慌てて止めに入り、素早い謝罪を伝えてきた。

 しかし、パトラさんはどうやらそれでも食べたいらしい。

 

 確かにちょっと無理な要望なのかもしれないが、俺からすれば特に問題はない。ただプリンにカニカマを乗せればいいだけなんだ…何を悟り開いているんだろう俺は。まぁ、兎に角できないことはない。

 

 

「それは自分でやればいいでしょ、もう…店員さんを困らせたらダメでしょ?」

 

 

「いえ、お客様のご要望ならやりますよ」

 

 

「「え?」」

 

 

 俺の意外な返答に、二人は同時に固まって鳩が豆鉄砲を食らったような視線でこちらに注目する。そんな反応をした美少女二人の姿に、少し笑いそうになるのを堪え、説明を続ける。

 

 

「カニカマを乗せるだけなら別に問題はありませんし、カニカマ自体もありますので。全然大丈夫ですよ」

 

 

「ほんとですか!やったー!」

 

 

 子供のように喜び燥ぐ彼女の姿を見て、何だか心が癒される感覚になった。無意識に笑みが零れ、彼女達の為にも早く作ろうとその場から颯爽と離れる。

 

 

「ふふっ…では、失礼します」

 

 

「……もうあれって執事よね」

 

 

 何か言っていた気がしたが、気にする必要はなさそうだ。

 彼女のわくわくが冷めない内に、厨房へ戻って素早く手馴れた動きでプリンを作っていきカニカマを上に添えるように乗せて、カルピスを注ぐ。

 

 …こうやってカニカマを乗せたプリンを見てみれば実にシュールだ。美味しそうかと聞かれれば、正直にそうでもない。取り敢えず持って行こう。

 

 

「お待たせしました。カルピスと、カニカマプリンになります。」

 

 

 パトラさんの前へプリンを置けば、彼女は遊園地を初めて見た幼子のように瞳を輝かせ、感嘆の声を上げていた。それを横目に、カルピスを紫のお姉さんの付近に置いておく。

 

 

「わぁーすごぉーい!見て見てメアリ!プリンにカニカマが乗ってるよ!」

 

 

「それだけで感動できるのが逆に疑問なんだけど…すいません、態々こんなことさせて」

 

 

 それには同感できる。ただプリンの上にカニカマが乗ってるだけ、ただそれだけ、本当にそれだけ。そんな彼女の様子を見たお姉さんは申し訳なさそうに頭を下げて謝ってきた。

 しかし、こうしたのは俺の独断なので謝られる必要はない。

 

 

「いえ、お気になさらず。閉店を迎えても気にせずにごゆっくりとしていって下さい」

 

 

「……もう紳士よね、あれ」

 

 

 まだ他のテーブルに残っている食器やら、片付けや補充もやらなければならないのでこの場を離れる。また何か聞こえた気がするが、気の所為と受け取っておこう。

 

 せっせと食器を運んでは食洗機に突っ込んでは、カウンターと全てのテーブルを拭いて行き、横目で彼女達の様子をチラ見にして調味料やお冷と手拭きの補充。

 その作業を続けて行っていれば、紫のお姉さんから会計の声が掛かって来たのでレジに向かう。

 そして、無心で会計をしている最中に、またお姉さんが謝罪の言葉を伝えてきた。だが、俺はまたそれを否定して悪くないことだと伝える。

 

 

「長い時間滞在してすいません。お店の時間も過ぎちゃったし、迷惑でしたよね…」

 

 

「全然大丈夫ですよ、ここはそういったのが趣旨ですので、満足頂ければ結構です」

 

 

「…あの、じゃあ最後に一つだけいいですか?」

 

 

 すると再びパトラさんが俺に向けて口を開き、何やらお願い事があるようでソワソワしているのが分かる。俺は何を伝えたいのかは分からないので首を傾げるが、勧めるように頷いて返す。

 

 

「パトラのこと…″お嬢様″って呼んでみてもらってもいいですか!?」

 

 

「もうっ!パトラったら!幾ら店員さんが優しいからって調子に乗りすぎよ!」

 

 

 これは…驚いた。思ったよりハードな頼み事だけど、それをして彼女にメリットはあるのだろうか。凄く期待を込められた視線を突き付けて来るが、俺が軽く唖然と固まっていれば、代わりに紫のお姉さんが強く言い返してくれた。

 

 

「ははは…流石にそれは…」

 

 

「あぅ…」

 

 

 愛想笑いでやり過ごそうと思ったが、思ったより苦笑いが強く出てしまった。俺も紫のお姉さんに便乗してやんわりとお断りの旨を伝えようとしたが、彼女のしょぼくれた表情を目の当たりにして言葉が詰まった。

 

 申し訳ない気持ちがあるものの、レジを長引かせ訳にはいかずにせっせと会計の遣り取りを行い、紫のお姉さんにレシートとお釣りを渡す。

 

 

「はい、こちらレシートとお釣りが361円となります」

 

 

「ご馳走様です、どうもご迷惑を掛けました。とても美味しかったし、また来ますね。行くよ、パトラ」

 

 

「は〜い…あ、ご馳走様でした」

 

 

 不貞腐れ気味ながらもこちらに食後の挨拶を交わし、項垂れながらとぼとぼ哀愁漂う背中を見せ、出口へと向かって行った。

 俺は彼女のその姿にふっと小さく口角を上げて口を開いた。

 

 

「えぇ、またのご来店お待ちしております……お嬢様」

 

 

「っ!ぅえへへ〜…」

 

 

「もう…ふふっ」

 

 

 パトラさんが驚いて一瞬だけこちらに視線を移すと、直ぐににへらっと顔を綻ばせながらくねくねと体を揺らしながら店を出て行き、お姉さんも呆れる始末。

 しかし、何処か可笑しそうに微笑みながら彼女も続いて帰って行った。

 

 扉に付いている鈴の音が鳴り止んでから、深い溜息を吐いてから両腕を上へと伸びをする。

 するとそこへ、啓次さんがにやにやとしながら寄ってくる。

 

 

「やるねぇ〜?紫黒ちゃあ〜ん。中々の神対応だったよ?こりゃあまたこの店の株が上がっちゃったなぁ!」

 

 

「…見てたんですか」

 

 

 別に恥を感じている訳ではなかったが、人が悪いと言うかなんと言うか。特別どうしたという思いはないが、陰でコソコソと様子を見られていたと思うと少しいい気はしない。

 

 

「まぁまぁ、″昔″と比べて大分良くなってるよ。今じゃ気軽に対応できてるし、問題はなさそうかな?」

 

 

「……」

 

 

 昔…その単語を聞いた時、俺は一瞬だけ動きを固めた。そして、反射的に啓次さんから少しだけ顔を背けてしまう。

 

 

「…何かあったら遠慮なく言っていいからな?お前は俺の息子みたいなもんだ。どんな小さい問題だろうと、来て欲しかったら営業中だろうと投げ出して駆け付けてやるよ」

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

「おいおい〜!そこは″義父さん″って言えよぉ〜!」

 

 

 陰気な空気感を消し飛ばすように、啓次さんは声のトーンを上げてふざけたようにケラケラと笑いながら冗談を言って、俺に気を使ってくれた。

 そんな様子を見せた彼に、俺は少しだけ微笑み…。

 

 

「…ありがとう、義父さん」

 

 

「っ!お、おぅ…急だな」

 

 

 してやった。実は啓次さんは前から俺にそう呼ばせようとしていたが、それをやんわりと何かと断っていた。

 けど、この時は何だか言いたくなったし、感謝も伝えたかった。まぁ結局、俺は気恥ずかしくなって視線を合わせられなくなったが、伝えることはちゃんと伝えれた。

 

 

「実際…俺はあんたには感謝し切れないくらいに恩誼を受けてる。もしもあの時、啓次さんが俺のことを見掛けてくれなかったら…俺は…きっと今の自分には戻れなかったと思ってる」

 

 

 俺には既に血の繋がった家族はいない。訳あって俺は襲われていた。俺だけが生き残り、何日も掛けて長距離移動して彷徨っていた。

 たが、体も心も満身創痍状態で限界を迎えかえようとして、路地裏でゴミのように力無く壁に凭れながら、ゆっくりと迫ってくる自分の死を覚悟をしていた時、啓次さんが救ってくれた。

 

 必死に俺を心配してくれて治療を施し、匿ってくれたお陰で変な後遺症もなく正常な体に戻ったのだが、その頃は無気力状態に陥り、感情も心もただただ虚無に侵されて、時々にふと思い出して体が震えて怯えることもあった。

 

 そういう事で一人になりたかったことが酷く多かった為、啓次さんはそんな俺に気遣って、なんと一軒家を提供してくれた。それが今住んでいる所である。

 そんな俺はとても扱いづらい筈なのに、啓次さんはそれでも見捨てることなく、父親のように接し続けてくれたお陰で、何とかここまで戻れたのだ。

 

 俯いた俺の頭に何かが乗っかる。それは見ずとも理解出来ていた。彼の手が添えられているのだった。暖かくて何だか心がホッとして落ち着ける。

 

 

「いいんだよ、困った時こそお互い様だろ?俺も紫黒ちゃんがここで働いてくれてるだけで凄い助かってるんだ。それに、お前が俺と出会う前に何があったのかなんて無闇に聞かない。とにかく前を向け。今を生きろ」

 

 

「…うん」

 

 

 そう、俺はまだ啓次さんには事情を説明していない。と言うより、できなかった。

 この事だけは誰にも伝えられる気がしない。しようとは思ったがどうしても発作のように動悸が起こり、自分に悪い視線になるのが怖かいから。どうしても言い出せずにそのままになっていた。

 

 

(……いつの日か、話せる時が来るかな。俺の全てを伝えられる時が…)

 

 

 だけど、いつかこの人には知ってもらいたい。真実を知る権利もあるし、何より今の俺には唯一この人だけが信じられるんだ。だから、いつか必ず話す。

 

 俺が何者なのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、白上さんが言っていた通りなら…その彼がヴィランを討伐したと報告があったと」

 

 

 とある一室にて、一人の男がスマホを耳に当てて電話をしていた。真剣な面影で窓の外の虚空を眺めている。

 

 

「なるほど…彼を尾行して何か情報を掴めたかい?在籍は?」

 

 

 少しだけ怪しい台詞を言っているが、決して悪い意味で聞いている訳じゃない。そう言ってから束の間⋯。

 

 

「ふむ、そうか…なら都合がいい」

 

 

 その横顔は嬉々とした笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、彼をこの学園に招待しよう」

 

 

 そして、視線だけを下に移す。その先には、紫黒 龍成の写真が机の上に置かれていた。

 

 

 

 

 




出てきましたハニストさんのメンバーのお二人。
口調は恐らくこんな感じだったと思う。あっ、因みに知識は浅い方であるので、「この人の口調変だな」とか「この人の性格が変だな」と思う部分があるかもしれませんが、できるだけブレないようにします。


推しはパトラさんです。
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