少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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また新しくホロメンの方達が出てきます。
それにしても、小説を書くってやり甲斐はありますけど難しいですね。
色々と設定やら物語やら展開やら…。見切り発車で始めたけど、いい感じにします。

じゃ、どうぞ〜。


三話 『推奨』

 

 

 

 

 

 人が活発に働いている時間帯でも、龍成はのんびりと本を読み込んでいた。

 健気にも見えるが、こう見えても暇を持て余している。ボケーッとしながら並べられている文字をひたすら読んでは想像を浮かべて楽しんでいるくらい。

 

 

「…?」

 

 

 そんな時、傍に置いておいたスマホが震え出した。手に取って画面を覗いて見れば、一昨日にヴィラン事件の時に連絡を交換した白上 フブキだった。

 

 

「白上?」

 

 

 何で彼女から電話が来たんだろうと不思議に思い、取り敢えず通話ボタンをタップして耳に添える。

 

 

「もしもし?」

 

 

《あ、もしもし!白上です!おはようございます紫黒さん!》

 

 

 電話の向こう側からは、透き通った元気な声がよく聞こえる。初対面の時から変わらぬ元気さに、こちらもつい笑みが出てくる。挨拶を返すついでに本題に入る。

 

 

「おはよ、どうしたの?」

 

 

《ほら、この間にヴィランを倒したじゃないですか。その件の御礼で、学園長からお話があるんですが今日は時間ありますか?》

 

 

(そう言えばそんなこと言ってたな)

 

 

 うっかりと忘れてはいけない事を忘れていた。確かにそう言った話をしていたのを思い出し、都合良く今日にその件が回ってきたようだ。

 

 

「あぁ、今日は特に予定は無いから大丈夫だけど…学園長?」

 

 

 時間は空いているし問題ないと伝える次いでに、学園長と言っていたことに疑問を持って彼女に聞き返す。

 直ぐにその返事は返ってきて、彼女の声色にも少し困った雰囲気を醸し出していた。

 

 

《はい、白上も詳しいことは分かりませんが、学園長から直接お話がしたいと言っていたので》

 

 

「分かった。取り敢えず、何時頃に向かえばいい?」

 

 

《えっと…あ、午後の一時に来て欲しいって言っていました!場所は分かりますか?分からなかったら白上が迎えに行きますよ!》

 

 

「いや、学園なら調べれば場所なんて出てくるし大丈夫だ。気持ちだけありがとうな」

 

 

 彼女からのありがたい気遣いだが、それをやんわりと断りを入れる。少し罪悪感が生まれるが、彼女は全く気にした様子はなく、変わらずの元気な音色を全面に出していた。

 

 

《いえいえ!それじゃあこれで失礼します!》

 

 

 またな。と、そう一言だけ添えて通話を切り、改めて状況を頭の中で整理する。その指定された時間まではまだまだ時間はある訳で、どうしようと思ったがあることを思い付いた。

 ここ最近に行っていなかった、一つの個人的な習慣だったこと。

 

 

「午後一時、ね。それまでは少し…久しぶりに″特訓″でもするか」

 

 

 俺のこの力は初めから扱えていた訳じゃない。何度も失敗と練習を繰り返して、漸く形になったのだ。

 本当に長かったものだ、人目を考えて長距離移動に力の加減。悩みの種は比較的少なかったものの、それだけでもかなり悩まされていた。

 だが、続けていった結果は十分に自己満足出来る所までこれた。

 

 特訓すると決まれば早速、動き易い身軽な服装に着替えて玄関を出て行き、少しだけ辺りに通行人がいないかを確認する為に意識を集中する。時間が時間な為、近くには人気は無さそうだ。

 

 

「よし……ほっ!」

 

 

 そう分かれば、気休めなく行動が出来る。これから向かう所は、人目の付かない山奥に行く為には長距離を移動することになる。

 種族によってはひとっ飛び出来るのだが、生憎俺は走って行く。時間は掛かるけど、これもまた鍛錬になるのだから前向きにやっていかなければ。

 

 その場から人間には不可能な程の跳躍をして、屋根へと跳び移る。そして走り出して、家から家へとパルクールのように跳び移りながら山を目指して行く。

 何してるんだと思うが、移動に手っ取り早いのがこれぐらいしかない。モラルに欠けるが、時間は有限。

 

 ランニングも兼ねて走り続けること数十分、鬱蒼とした緑が生い茂る森に着いた。此処には熊や猪などもいるが、噂によれば遭遇する危険性は稀にしかないらしい。

 

 

「この辺なら…流石に誰もいないよな」

 

 

 森に入って更に進んで行くと、川の流れる音が聞こえてきた。草木を掻き分けていくと開けた所に着いた。距離も人気から大分離れているし、ここなら多少は暴れても問題は無いだろう。

 

 落ち着ける場所を見付けて、早速始めることにする。

 両足を肩幅程度に広げて瞼を閉じ精神集中を行うことで、心を落ち着かせる。余計な考えは切り捨て、更なる高みを求める。

 

 

 

『誰かを守る為に強くなれ───』

 

 

 

 しかし、再び不意に兄の言葉が頭の中で反響した。その言葉で過去のこともフラッシュバックしてしまい、一気に不安が募った。

 

 

「……俺に、出来るかな?」

 

 

 嘗ての自分は結局役には立てられなく、過程はどうであれ結果は最悪以上の出来事となってしまった。そんな不甲斐ない自分に酷く嫌悪感が押し込まれる。

 

 

(いや…弱気になるな。もうやっていくしか道は残っていないんだ。兄ちゃんの為にも、皆の為にも…!)

 

 

 だが、もう自分にしか出来ない。″あの真実″を世界に伝え、″あの組織″を、いつの日か自分の手で終結させる使命がある。

 何時までも殻に篭ってばかりじゃ何も変わらない、俺が報われさせなきゃならない。

 

 自分自身に鼓舞することで、気合いを入れ直す。そしてまた、頭の中で兄の言葉が響いた。

 

 

 

『お前は俺達の、最後の希望なんだ』

 

 

 

「っ!はあああぁっ!!」

 

 

 それが引き金となり、龍成は掛け声と共に身体から蒸気が発生した後に、紫色に光り輝くオーラのようなそれが、炎が噴き出したように現れた。突風が巻き起こり、草木が激しく揺らされる。

 それだけではない、地は揺れ大気は震えた。まるでそれは自然が彼に対して怯えているようなものだった。そんな不思議な行動をした龍成は、そのまま特訓へと励みだすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぅ〜…本当に吃驚したぺこよ。何だったんだぺこか、さっきの揺れは…」

 

 

 木々の覆われた獣道から、とある少女がぼやきながら歩いていた。

 森の中では目立つ白色を基調とした服装に黒いタイツ。氷のような水色と白を混ざり合わせたツインテールの髪型だが、何故か人参がぶっ刺さっている。頭部には兎と同じ耳を生やし、腰部にはその尻尾があった。

 彼女は見る限り兎の獣人である。

 

 

(それにしても、今日はやけに動物達の姿が見えないぺこね)

 

「まっ、別にどうでもいいけどぺこ。さっさと茸をわんさか取ってって帰るぺこか。あの四人も待っている事だしぺこね」

 

 

 背中に担いでいる竹籠を背負い直して、木の根元を軽く視線を向けながらゆったりと歩いて行く。彼女はこの森で茸狩りをしていたようだ。

 

 

「う〜ん…意外と見つからないぺこね〜。この辺にありそうだったぺこになぁ。なら…こっちぺこ!」

 

 

 茸は菌類な為、湿気の多い所を好んで沢や水の流れがある場所に生えている。切り株や倒木などを転々と探し続ける。例え見付けたとしても毒茸も自生しているので、確りと見極めなければ食した時に命を落とす危険がある。その意識も忘れずに探索する。

 

 しかし、それから探すこと数十分が経った頃、収穫は坊主も同然。今の季節なら色んな種類の茸が自生しても可笑しくない筈だが、一向に見付かることはなかった。

 流石にここまで見つからないとなると気落ちしてしまい、溜息が出る。

 

 

「はぁ…何処にもないぺこね。仕方ないぺこ、この調子なら諦めて帰るぺこ」

 

 

 流石にここまで見からないとなると断念せざるを得ない。少しばかり悔しい気持ちはあったが、またリベンジしようと考えて帰宅することにした。

 

 日差しを目指して歩みを始めようとした時、ある物音を兎耳が捉えた。自身の背後から茂みが揺らぐ音、風で靡かれたとは違う音に違和感を感じた兎少女は視線を後ろに向ける。

 

 

「うん?何ぺこか?」

 

 

 振り返ったその瞬間、視界いっぱいに()()()で埋め尽くされていた。

 熊のような、ライオンのような鋭い視線。剥き出された八重歯、口元からは涎を垂らし、如何にも空腹を表現しているものだった。

 

 その光景はまるで、ホラーゲームでもあるジャンプスケアの用途と似たものだった。

 

 

「……」

 

 

 蛇に睨まれた蛙。正にその言葉が合う状況だろう。兎少女は石像のように固まっていたが、本能が全力で危険信号を送っていた。

 状況を理解したその刹那、極限まで瞬発力を発揮してその場から脱兎の如く逃げ出した。

 

 

 

「ぎぃああああああああっ!!?」

 

 

 

 華麗とはとても程遠い悲鳴を上げながら、全速力で獣道を駆け抜ける。その間でも脳は情報を受け取り続け、兎少女の後を追い掛けてくる化け物、ファントム・ヴィランに対して激昂する。

 

 

「冗談じゃねーぺこ!!何でこんな所にヴィランが湧いてるペコか!?そんなの聞いてねぇぺこよ!?ふざけんじゃねぇ!!」

 

 

 ヴィランは兎少女がどれだけ喚こうがそんなものどうでもよく、ただ目の前の存在を餌にしか思っていなかった。紫黒の炎のような体を揺らし、恐ろしい形相で追いかけ回す。決して逃さないという雰囲気が本能で伝わる。

 

 一歩一歩が大きく、太い足が地面を陥没させていく。それだけでも地が揺らいで唸り声が微かに聞こえる。

 不安要素は多々あるが、兎に角今は距離を置く為に自身も攻撃をしなければならない。

 

 

「くっそぉ…!野ウサギ軍団!!突撃いいいいいいぃ!!」

 

 

 少女は走るのを一旦止めてヴィランへと振り返り、自身に宿っている魔力を操作することで様々な技を創ることが出来る。

 そこで彼女は召喚魔法を発動させ、背後から魔法陣が現れる。

 

 野ウサギ軍団と呼ばれたそれは、月見兎団子のような丸い体型に特有の兎耳には何故か人参が添えてあった。その召喚された数はなんと五十も超えていた。

 野ウサギ軍団は意気揚々と跳ね上がってみせる。少女の掛け声で一斉にヴィランに向かって、烏合の衆のように飛び掛る。

 

 しかし、彼女の中でも予想は大体出来ていた。

 野ウサギは対した戦闘能力は持ち合わせていない為、幾ら数で攻めたとて図体のでかいヴィランでは数秒しか持たなかった。

邪魔された怒りに吼え、野ウサギ軍団はぶっ飛ばされてしまう。

 

 

「そりゃそうぺこっ!!ぺこーらは基本的にサポートぺこなんだから攻撃力なんてクソぺこ!!うあああああ!!こんな事になるんだったらノエルとか連れて来ればよかったぺこ!!」

 

 

 

「誰か助けてぺこぉおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 こんな事態は想定してる筈もなく、誰か仲間を誘えば良かったと今更ながら後悔に心底悶える。

 だがそんな事も言っていられない、このままの状況ではかなり不味いことになる。

 

 

(けど…!このまま町まで逃げたら、確実に被害が出るぺこ!ぺこーらが戦っても勝てないのは当然ぺこだから、だったら逃げ切るしかないぺこねっ!)

 

 

 頭の中で状況の機転を考え、纏まったら直ぐに行動に移す。自分と相手の力量を見比べ、逃げが恥だとかそんな屁理屈などどうでも良い。今は自分の命を優先すること。

 

 

瞬足強化(ブースト)っ!!」

 

 

 身体強化魔法。それは魔力で負担を軽減することで、足の筋力を上げるという単純且つ基本的なサポート魔法の一つ。それで走る速度を倍に上げて更に距離を置く。

 

 

(ついでに!罠も仕掛けるぺこっ!)

 

 

 それだけでなく、持てる術を使い切る勢いで次々と簡易罠などを仕掛ける。ポケットから取り出したのは何色かの石のような物、それを軽く握り締めた後に等間隔に軽く放投げると魔法陣が浮かび上がったが、それは直ぐに消え去る。

 

 少女が使用したのは、罠式魔法石と言うヴィランに対して向ける罠であり、魔力を込めれば魔石が反応して発動する。

 その石を中心に直径五メートル以内に入れは、魔法陣が浮かび罠が作動する仕組みとなっている。

 赤色の魔石は地雷の役割で、青色の魔石は喰らえば数分間の衰弱効果があり、黄色の魔石は麻痺といった三種類の魔石が存在する。

 

 多くは持っていのだったが補給するのも一苦労な為、頻繁に使用出来るという訳ではなく、ある程度スタックを残しておきたいところであった。

 

 

「これなら少しは時間稼ぎが出来るペコ。今の内に連絡を…っ!?」

 

 

 これで一先ずは時間稼ぎの確保は出来たと思い、さっさと学園に報告しなければとスマホを取り出した所で、更なる悲劇を目の当たりにした。

 

 

「う、嘘ぺこ…こんなことってあるぺこか…?」

 

 

 少女が偶々視線を向けた先には、先程とは違う形のヴィランが存在していた。しかもヴィランは少女の存在に気付いている様子だった。

 

 少女の顔には血の気が引いて青くなっていくのが分かる。落とし掛けたスマホを握り直して、目の前のヴィランに疑いながら足を一歩一歩静かに後退する。

 

 

「ただでさえ一体でも無理ぺこなのに…二体とか……有り得ないぺこ…」

 

 

 不幸が不幸を呼び、最悪な事態に少女は恐ろしさ故に涙目になってしまう。

 これは唯の悪い夢だと思いたいと心の中でぼやいていたところ、猪に似たヴィランがこっちに迫って来た。認識が遅れてしまったが、咄嗟に横に飛び込んで躱した。

 

 

「うわあぁっ!?あっぶねぇえっ!?」

 

 

 ヴィランが突進した先にあった大木を軽々と粉砕し、激しい吐息を漏らしながら再び体を少女に向ける。

 しかしその隙となったことにより、多少の距離を離すことは成功していた。

 

 

「はぁっ…!はぁっ…!」

 

 

(やばいぺこ…!本格的にやばいぺこ!このままじゃあ先にぺこらの体力が負けるぺこ…!どうにかして…もう逃げながら連絡するしかないぺこ!)

 

 

「っ……うわっ!?」

 

 

 しかし、スマホに意識を向けていたことと疲労が溜まってきたことで足元が疎かになってしまい、木の根に足を引っ掛けて転んでしまった。

 

 

「痛っ…!」

 

 

 足首を挫いてしまい苦痛に顔を歪ませる。こんな時にまで運の悪さが出てくると、自分の異能である運の良さが今出てこないことに苛立ちが芽生える。

 

 

(さ、最悪ぺこ…!何でこういう時に何時ものぺこらの十八番の『幸運』が発動しないぺこか!?やっぱ宛にならねぇぺこか!?)

 

 

 彼女の心境など知る筈もなく、ヴィランは獲物に絶望を自覚させるようにゆっくりと歩み寄せて来る。

 

 

「うっ…い、いやぁ…!」

 

 

 足が真面に動かせずにいる所為もあり、ヴィランの気迫に押されてしまい立ち上がることもままならない。

 そしてヴィランは大口を開き、飢えた胃袋を満たす為に喰らおうと目前まで跳んで来た。

 

 

(あ、終わったぺこ…皆、ごめんぺこ…)

 

 

 その瞬間、彼女は死を悟った。

 

 もう逃げられない、逃げようとしても今からだと確実に喰われて死ぬのがオチだ。待っている仲間もいるのに、ここで自分は呆気なく死を向かい入れるしかなくなってしまった。

 心の中で仲間に謝罪をして、恐怖で目を背ける。直ぐ傍まで来たヴィランの大口が彼女を喰らう───

 

 

 

 

 

 と、思われた。

 

 

 

 

 

「……あれ…?」

 

 

「大丈夫か?兎さんよ」

 

 

 不思議と衝撃が何時までも来ないことに目を開けてみれば、そこにはヴィランの姿はなく一人の少年が立っていた。

 そんな可笑しな光景に呆気を取られながらもヴィランを探してみると、何時の間にか向こう側へと吹っ飛ばされていた。

 

 

「ぺ、ぺこ…」

 

 

「じゃあ早く逃げな…って、怪我してるのか?」

 

 

 その少年、特訓をしに来てた龍成はヴィランの気配と妙な悲鳴を聞き付け、直ぐに駆け付けたところ、兎の少女が喰われる寸前を目撃し、瞬発力を生かしてヴィランの胴に蹴りを入れていたのだ。

 

 

……!

 

 

 ヴィランは体勢を元に戻してから、自分に攻撃した張本人を、生命を感じさせない白目で強く睨み付ける。

 そんな激怒しているヴィランを横目に、彼は小さく溜息をつく。

 

 

「はぁ…こうもまた早くヴィランと会うとか、運が悪いもんだな。ふっ!」

 

 

……!?

 

 

 再び突進してきたヴィランを視界に入れることなく、スムーズな後ろ蹴りを顔面に打ち込んだ。痛々しい音と衝撃音が鳴り響いて、森の奥へと吹っ飛んで行った。

 

 

「え゛っ…!?」

 

 

「耐えたか、少し強めにしといたんだけどな」

 

 

「あ、あれで少しって…基準どうなってるぺこか…」

 

 

 少女は龍成の蹴りを見て圧倒される。更にはあれで少しの威力と言われれば、空いた口が塞がらなくなる。

 しかし、こうも強い人がいるとなると安心感も圧倒的だった。次第に少女は興奮しだし龍成の後ろ姿を見続ける。

 

 

「でも…す、凄げぇぺこ!」

 

 

「時間は掛けてる暇はないし、次で終わらせる」

 

 

 そう小さく呟いた後に、体を屈めて姿勢を低くしたと思えば風を切る音が聞こえた。気付けば目の前にいた筈の龍成の姿は居らず、既にヴィランの方面へ移動していた。

 

 

「ふっ!!」

 

 

……!?

 

 

 刹那、花火でも打ち上げたかのような大音が響き渡る。

 ヴィランの胴に力強く拳をめり込ませた瞬間、ヴィランの体から衝撃波が貫通し、大きな風穴が出来上がっていた。

 反撃する間もなくその巨体は倒れ伏せ、微風と共に霧散して消えていった。

 

 言葉通りに時短で事を済ませた彼の行動と圧倒的な力に、少女の心中では微かに関わっちゃ不味いんじゃないかと覚え始めていた。

 

 

「あっという間に終わちまったぺこ…あんた何者ぺこか」

 

 

「通りすがりの…あぁ〜、まぁ格闘家みたいなもんだ。それより足の怪我、大丈夫か?」

 

 

 何か濁された気がするが、足の怪我を指摘されて思い出した。多少は痛みはするが動けない程でもない。

 彼から差し伸ばされた手を取り、何とか悪化しないように立ち上がる。

 

 

「このくらいなら何とか問題ないぺこ。それよりも助かったぁ…ありがとうぺこ」

 

 

「礼はいいよ、取り敢えず無事ならそれでいい。それと、ヴィランはあれだけなのか?」

 

 

 正に危機一髪の所を救われて感謝の言葉を述べるが、龍成は気にしないことを伝え、それよりもと他のヴィランの存在がないかと聞かれ、少女は手短に伝えようとした時だった。

 

 

「それが…っ!!後ろぺこっ!!」

 

 

「ん?」

 

 

 視線を龍成に向けた瞬間に気付いた。彼の背後からさっき少女を追い掛けていたヴィランの顔が見えた。

 慌てて咄嗟に伝えたものの、ヴィランの方が素早く動いてしまい、龍成に向かって牙を剥き出して突進してきた。

 

 少女の警告は虚しくも砕かされ、強い衝撃波が発生して吹き飛ばされる。

 

 

「うっ…いっつぅ……あっ!不味いぺこ!!」

 

 

 何とか受け身を取って最小限に和らげたつもりだったが、思った以上に足の怪我に影響が出てしまっていた。

 だがそれ以上に龍成の方が確実に不味い、真面に喰らってしまっていた。

 幾ら強い彼であってもあんな威力のある攻撃を喰らえば普通じゃ済まない。焦りが募り、慌てて彼に顔を向けると…。

 

 

 

 

 

「なんだ、もう一体いたのか」

 

 

 

 

 

「──── ゑ゛っ…?」

 

 

 最早、ヴィランよりも龍成に対して戦慄すら覚え始めた。

 

 仲間にも似たような者は何人かはいるのだが、ヴィランの不意打ち攻撃を正面から受けて怪我一つないことなど先ず無いのだ。

 その筈なのに、彼は呆気からんとヴィランの攻撃を背中で受け止めていた。

 

 

「ふんっ!」

 

 

……!?

 

 

 俊敏な動きで裏拳を繰り出し、ヴィランの顔面へとお返しする。重量級の巨体をもってしても、いとも簡単に軽々と木々を巻き込みながら吹っ飛ばされて行った。

 

 

(ノエルの上位互換…いや、もうそれ以上ぺこ⋯)

 

 

「直ぐに終わらせる」

 

 

 構えを取りながら右手に何かのエネルギーが集約しだしていく。脇を引き締めながら右拳を固め、左手はヴィランの方へ掌を向けて標準を合わせる。

 徐々に拳の隙間から淡い紫色の光が漏れ出し、凄まじいエネルギー密度を感じる。

 

 

(な、何ぺこか…あの異様な力は…!?魔力も霊力でもないぺこ!普通の人間なら、そのどっちかしか使えない筈ぺこ…それなのに、あいつは一体何なのぺこ…!?何の力を使ってるぺこ…!?)

 

 

紫蓮牙(しれんが)・『絢爛(けんらん)』っ!!」

 

 

 力を宿したその拳を打ち出した瞬間、激しく燃える音と共に鮮やかな紫炎が直線上に吹き出される。

 真っ直ぐとヴィランへ飛んで行き、紫炎に丸呑みにされた。拳を広げて掌に変えて向けると、紫炎は膨張し爆発した。

 

 

 

「ぺこぉおおおおおおおおおおぉっ!?」

 

 

 

 その威力は並々ならぬものであり、ヴィランは簡単に消し飛んだが、背後にいた少女も爆破の衝撃波に巻き込まれて再び吹っ飛ばされてしまった。

 その叫び声を聞いて、龍成もしまったと表情を変えた。

 

 

「む、無茶苦茶…ぺこ」

 

 

「あ!?悪いっ!ちょっと力入れ過ぎちまった。大丈夫か?」

 

 

 慌てて駆け寄るも、彼女に怪我が増えてる様子は見受けられないことに胸を撫で下ろす。

 

 

「も、問題ないぺこ…取り敢えず、ヴィランはあれで最後な筈ぺこ。べこらもあいつを見たから間違いないぺこ」

 

 

「そっか、ならもう大丈夫かな。っと、俺は紫黒 龍成だ。ヴィラン二体に遭遇するとかとんだ災難だな」

 

 

「″兎田 ぺこら″ぺこ。ぺこーらは弱いから一体でも真面に相手できないぺこだから、本当に助かったぺこよ」

 

 

 兎の少女こと、兎田 ぺこらは改めて感謝の言葉を伝えて、服装に付いた土などを払い落とす。そんな龍成は、彼女が何故こんな山奥に一人でいたのかを気にした。

 

 

「にしても兎田、どうしてここに?」

 

 

「ここの山に色んな茸があると聞いて茸狩りしに来たぺこ。そうしたらヴィランに出会したんだぺこ…そう言う紫黒は何でここにいるペこ?」

 

 

「俺は特訓しに人気の無い場所を求めて此処に来た訳だけど、その帰りだな。そしたら兎田の悲鳴らしい声が聞こえたんだ」

 

 

「あぁ〜、そう言えば格闘家って言ってたぺこな…って!こんな事してる場合じゃないぺこ!」

 

 

 突如、ぺこらはある事を思い出して慌ててスマホを取り出した。そんな彼女の様子に、龍成は首を傾げる。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

「ヴィランの報告ぺこ!ぺこーらはこう見えても煌星学園の生徒の一人!面倒臭いけどヴィランを討伐したら、休日だろうと学園に報告書を提出しなきゃいけないんだぺこ。」

 

 

「なるほど…一手間掛かるのか。って、兎田も煌星学園なのか?」

 

 

 煌星学園。それを聞いた時、フブキのこともあって少し驚いていた。そんな彼の放った言葉にぺこらも違和感を感じて聞き返す。

 

 

「ん?″も″ってことはどういう意味ぺこ?紫黒も煌星学園の生徒ぺこか?でも…生徒はそんなにいないから、紫黒みたいなのがいたら直ぐに分かりそうだけどぺこ」

 

 

「あぁいや、俺は通ってないよ。ただ…実はこの後にその学園に用事があってな」

 

 

 隠す必要もない話なので、その後の用事を簡単に伝えれば納得した様子を見せ、一つの提案を出した。

 

 

「そうだったぺこか。なら折角だぺこ、次いでにこのペこーらが学園を案内してやるぺこ!」

 

 

「それはありがたいけど気持ちだけにしとくよ。長いこといる訳じゃあるまいし」

 

 

 偶然なことにも互いに学園に向かう理由があり、ぺこらは一つの御礼として学園案内をすると言ったが、龍成は必要ないとやんわりと断る。

 しかし、それに納得のいかなかった彼女は首を左右に振る。

 

 

「でも流石に何か返さないとペこーらが落ち着かないぺこ!借りっぱなしは嫌ぺこだから、今日が駄目でも機会があったら返したいぺこ、だからせめて連絡先は交換するぺこ」

 

 

「いいのか?そんな軽く教えても」

 

 

「あんたはぺこーらを純粋に助けてくれたぺこ、だから特別ぺこよ?普段は他の男にはこんなことしないぺこ!それに、紫黒はそんなことする奴じゃないって思ってるぺこ」

 

 

「…ありがとな」

 

 

「…?いいぺこよ、ほら」

 

 

 少しの時間だが、ぺこらは龍成に対して良い印象を持った。助けられたから当然なのだが、見返りを求めないその姿勢もあり、純粋な善良の持ち主なのだと見た結果である。

 

 そんな彼女の言い分に、彼は少し間を置いて謝意をした。ぺこらはそれに少し不思議に思いながらも連絡先を交換しようと促進させる。

 

 

「それじゃ、今日はありがとぺこ。それじゃぺこーらは学園に向かうぺこね……いっつつ…」

 

 

「おい、足⋯」

 

 

 連絡先の交換を済ませて別れようとしたが、ヴィランから逃げた時の足の怪我が響いた。痛みに表情を歪ます彼女に、龍成も少し心配の声を掛ける。

 

 

「こ、これくらい大丈夫ぺこよ…いぃっ!?」

 

 

「無茶すんなよ…」

 

 

 平気と言い張る彼女だが、明らかに無理がある強がりだった。その様子に龍成は少し迷ったが、放置するのも良くないと思い行動に出る。

 

 

(う〜ん…あまり自分の力の手の内を明かしくはないが、仕方ない)

 

「兎田、ちょっとそこに腰かけて怪我した足を見せてくれ」

 

 

「え、急にどうしたぺこか…まぁ、はい。何か治せる手段でもあるぺこか?」

 

 

「完全に治せる訳じゃないが、一時的な医療処置だ。戻ったらちゃんとした物で処置しろよ」

 

 

 怪我した足の部分を見せてもらうと、どうやら捻挫していたらしく少し腫れていたのが分かった。

 短く眺めた後、自身の掌にエネルギーを軽く溜め込んだ。ヴィランに向けていたよりも酷く弱いが、何処か柔らかく優しいものを感じられる。

 

 そして、それを彼女の腫れた部分にそっと添えるように触れると、完全に痛みが引きはしなかったが、先程よりも和らいだのは明らかだった。

 不思議な力を持つ彼に、ぺこらは聞かざるを得ずに咄嗟に質問する。

 

 

「紫黒って、本当に何者ぺこ…さっきのヴィランに使ってた力は何なのぺこか?人間にしかない霊力か魔力も感じなかったぺこ」

 

 

 彼女の言うように、この世界の者達は様々な力を宿している。

 

 人間になら霊力、人によっては魔力を宿す。魔族は決まって魔力。獣人族も亜人族も人によっては霊力、又は妖力を。鬼族も決まって妖力。天使族は特別な力の持ち主で、神力を持っている。そんな彼はそのどれにも該当しない。

 

 

「俺の使っている力は生命エネルギー…所謂、″気″って言うものを主に扱っている。霊力も魔力も無いから違和感はあるだろうな…よし、これで少しは真面に歩けるだろう」

 

 

 流動的で運動して作用を起こす物質のこと、それを一般的に″気″と呼称している。

 生きとし生けるもの全てに持っているモノ。それを操ることで様々な手段に用いることが出来る。

 

 そんな器用さと凄さを持つ彼に、ぺこらは素直に尊敬していた。

 

 

「な、なんか凄いぺこな。うん…真面に動けるぺこ。ありがとうぺこ、また貸しが出来たぺこね」

 

 

「気にすんなって、貸し借りなんざ要らないよ。じゃ、そろそろ時間もあるし帰らねぇとな。んじゃ、またな」

 

 

 応急処置を終わらせ、さっきよりも大分マシになった足を見て、また貸しが出来たと少し微笑みながら言えば、彼も決まって要らないと否定する。

 そして、龍成は一足先に家路に向かって行くと、ぺこらも気を取り直して学園に連絡しながら向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、一度自宅へと戻ってからシャワーを浴びてから、フブキの言われた指定時間の数十分前に煌星学園に到着していた。

 

 

「ここが、煌星学園なのか……いやでかいな」

 

 

 校門に入ってから圧巻に感じた。前々から校舎自体が大き過ぎるとは知っていたのだが、初めて来たこともあって関心よりも驚きが勝っていた。

 校門から生徒玄関までの距離もそれなりにあって、周りを見渡しながら向かう。

 

 

(にしても、このまま入ってもいいのだろうか…それか、白上に連絡…いや彼女がここにいるとも限らないし。ここは兎田に連絡するか?いやでも…)

 

 

 そして途中で気付いて足を止めていた。来たのはいいものの、関係者でもない自分が無許可で入って来るのは些か不味いことなのではないかと。

 

 

「あの…ここに何か御用ですか?」

 

 

「ん?」

 

 

 そんな迷いを抱えている時、透き通るような女性の声が聞こえてその方へ振り返る。

 

 そこには銀色のショートヘアに薄紫のつぶらな瞳をした可愛らしい少女がいるのだが、一目見て人間ではないのは分かる。

 背から生えている天使族特有のふわふわの両翼、そしてチャームポイントであろう天使の輪っ…か……?

 

 

「……手裏剣?」

 

 

「いや天使の輪ですから!」

 

 

 今時の天使族の天使の輪っかは随分と独特なモデルに変わっているものだ。そう思いながら天使の輪っかのような手裏剣を見続けていると⋯。

 

 

「って、そうじゃなくて…この学園に御用があるなら、案内しますよ?」

 

 

 そう言われ、彼女をよく見てみれば腕に生徒会の腕章が付けられていた。だが此方としてとても都合が良い。

 一人でこんなだだっ広い所を徘徊すれば、即迷子になる未来が簡単に見える。

 

 

「助かる。ここの学園長と話があってな、勝手に入っていいのか迷ってた所なんだ」

 

 

「あぁ〜!フブキ先輩が言っていた人って貴方だったんですね!あ、僕は″天音 かなた″って言います。貴方は?」

 

 

 天使族の少女こと天音 かなたは、思い出したような表情を見せた後、微笑みを浮かべながら話を続ける。

 それに対して龍成も、不慣れな微笑みを返しながら気さくさを込めて話す。

 

 

「俺は紫黒 龍成。よろしくな、別に敬語は要らないし、気軽に接してくれ」

 

 

 それから、かなたに着いて行きながら他愛のない世間話をしつつ校内を歩いて行く。

 その途中で、こことは無関係者である龍成が、どうして学園長と話をすることになったのかという素朴な疑問が、無意識の内に言葉に出していた。

 

 

「紫黒君は、ここの生徒じゃないよね?何で学園長と話を?」

 

 

「話をするとちょっと長くなるけど…」

 

 

 特に隠す必要も無いと思った龍成は、ここに来る理由を淡々と話し出した。外出したらヴィランに出会して討伐したこと、山奥でまたヴィラン二匹と出会って討伐したこと。

 短期間でこんなにもヴィランに遭遇することにぼやきを混ぜながら、結果的に人を助けていることをフブキを通して学園長に伝わったのだろうという話をした。

 

 

「へぇ〜!それは凄いことだよ!」

 

 

「そうか?俺としては…普通と言うか、当たり前って言うか」

 

 

「どういうこと?」

 

 

「今の時代、ヴィランの脅威に陥ってるだろ?力を持つ者が、人を脅かすそのものを倒すのは当然だと思ってな。俺は見返りも求めてる訳でもない。放ってもおけないし、対抗手段を持ってる自分がやらなきゃって思うんだ」

 

 

 現状、世間はヴィランに怯えている。それもそうだ、切っ掛けも分からず突如として現れて本能のままに襲っているのだから。

 力を持っているならそれをどう活用するかは言われずとも検討ついているものの、未だに多くの謎に包まれているヴィラン。

 その脅威から完全に無くすのには未確定要素が多いし、何時までこんな日々が続くかも分からない。

 

 俺とて一人のヒトであり、限度だって存在する。何も出来ずにいたことだってあった。自分が酷く惨めで情けなくて悔しかった時だってあった。

 自分の存在意義に疑い、人生に迷走して…それでも、この気持ちだけは固まって残っていた。自分に守れる力を持っているのなら自分の手の届く範囲で助けると。

 

 

「立派だね君は。僕は…同じことを胸張って言えないや。でも、確かに君の言う通り、僕達はそれを″生業″として見過てきたかもしれない。それを踏まえて一人の戦士っていうのには少し烏滸がましいかもね」

 

「本当の戦士って言うのは、君みたいな人だと僕は思う」

 

 

 どうして生業と言ったのかいうと、それはヴィランを討伐した者には、国から資金が供給される決まりとなっている。

 人の為でもそうでなくとも平和の貢献したことには変わりない為、そこで私生活を潤す人も少なくはない。

 別にそれ自体が悪いことだとは思ってはいない。現実的に考えれば、命を張っているのにも関わらず相応の対価も貰わずに済むというのに納得する人は稀に程度しかいないだろう。

 

 かなたの言っている言葉からは、尊敬の念を薄らと感じ取れていた。まだ会って数分しか話していないが、彼女からの言葉の中には嘘偽りのない気持ちがあるのはなんとなく分かる。

 確かにそう思われているのは素直に嬉しい、けど素直に喜べない自分がいる。

 

 

「…俺は言われる程に、そんな立派な奴なんかじゃないよ

 

 

 ボソッと呟いたその言葉は直ぐに虚空へと消え去り、聞き取れなかったかなたは首を傾げるだけだったが、気付けば目的の場所へと到着していた。

 

 

「…?あ、ここを曲がったら学園長室だよ」

 

 

「ありがとな、わざわざ自分のやる事があったろうに」

 

 

 恐らく生徒会のやることでここにやって来たのだろう。それなのに態々案内に対応してくれた彼女に感謝を伝える。ここまで来れば彼女のやるべきことは済み、ここでお別れとなる。

 

 

「ううん、もう終わった後だから大丈夫だよ。じゃあ、またね」

 

 

 声には出さずとも、軽く手を挙げて別れの挨拶の意図を伝えて別れる。それから、一回り大きい扉に顔を向けて一呼吸着く。

 

 

「さて、と…」

 

 

 扉の向こう側に人の気配を感じる。学園長が居ることを確認して軽くノックを三回すれば、少し間を置いた後に静かな一言が返ってきた。

 

 

「どうぞ」

 

 

「失礼します」

 

 

 最低限のマナーは弁えている。失礼のない態度を自分なりに気を付け、一礼をして入る。

 そして、どんな人物なのかとよく観察してみる。その学園長は男性で柔和な雰囲気を強く醸し出して、常に微笑みを浮かべ続けているのが逆に不気味さを覚える。

 

 

「来てくれたね。今日は急に呼び出して申し訳ない。出来れば早めに″聞いて″おきたかったんだ。 」

 

 

「はぁ…?大丈夫ですが」

 

 

 彼は自分に何が聞きたいのかをやけに強調された気がした。何処か探るような、何かを見抜くような瞳をして独特な気質を備わっている。

 変な感じがする所為で、早速も小さな疑心が生まれていた。

 

 

「先ずは自己紹介といこう。僕は″谷郷″と言う者で、この煌星学園の学園長兼″特殊異能精鋭隊″の指揮者でもあります。どうぞ宜しく。君のことは知っているから自己紹介は大丈夫だよ」

 

 

 俺が続けて名を教えようとしたが、必要無いと言われそっと口を閉じる。まだ何か言いたそうにしていたのを感じ取り、そのまま話の続きをさせるよう促しを目線で伝える。

 学園長もそれを察して、話を続ける前に龍成に目の前にソファに座るよう手で指す。それに従って座るのを確認してから口を開いた。

 

 

「では早速本題に入るけども、白上さんから聞いた事件…そして兎田さんからも聞いたよ。一度ならず二度までもヴィランの討伐活動を行い、民間人や兎田さんを救ってくれた。その事に深く感謝しているよ、本当にありがとう」

 

 

「いえ、俺は自分のやりたいことをやったまでですよ…気にしないでください」

 

 

 会話のキャッチボールは成立しているが、二人の間には何処か感情が落ち着き過ぎている。

 一見、普通に話しているのだが当てずっぽうで会話している訳じゃない。谷郷は見切るように、龍成は下手に情報を提供しないように警戒していた。

 

 

「やはり君は…うん、僕の見込みに間違いはなかったな」

 

 

「…?」

 

 

 しかし、そんな警戒心を持って対話しようとしても無駄に終わることになる。

 谷郷の確信めいたその台詞に、なんのことか理解が出来ず首を傾げながらも更に警戒心を強くしていた。

 

 それから、彼の口からは信じられない言葉が出てくる。

 

 

「本当に申し訳ないのを承知でいたのだが、君の素性をこちらで調べさせてもらったよ」

 

 

「っ…!!」

 

 

 その言葉を聞いた時、俺の身の毛がよだつ。一瞬とも言える速度でソファから立ち上がって、彼から距離を置いて構えた。

 少し睨みを効かせたが、彼はそんなことにも動揺の雰囲気を微塵にも感じられなかった。その恐ろしい冷静さが逆に不安を際立たせる。

 

 

「そう警戒しないで欲しい…と言うのも無理があるか。けど約束する。君のことは一切口外しないと。けど、僕はそれを踏まえて君のその強さを…いや、それだけじゃない。君の人柄を求めている」

 

 

「あんたは…俺のことをどこまで知っている?」

 

 

 丁寧な口調など気にしている場合じゃなかった。内容によってはこの人に手を加えるのも避けられないことになるが、極力そういうのは避けたいが仕方ない。

 嘘をついたら容赦はしないと鋭くした瞳で伝え、多少の殺気を含ませる。

 

 

「君が()()()()()ではない⋯と言えば伝わるかな?」

 

 

(……分からない。この人は一体、俺の何処までを知っているのか。もし…″あのこと″を知られていたのなら…けど、口外しないって言ってるし…かと言ってもそれを守るのか分からない。と言うか何でさっきからそんな回りくどいんだよ、正直に言ってうざい!)

 

 

 気を感知しても全く揺らぎがなく、動揺も焦燥も感じられない。本当に冷静沈着が似合う男だ。顔にも出さないその姿勢だからこそ、駆け引きが難しくなる。

 だから俺は、もう率直に伝えることにした。

 

 

「……悪いが、俺のことをいくら買おうが、あんたをちょっと信用するには難しいかもな」

 

 

「…ふむ、そうなってしまっても仕方がないよ。なら契約を結ばないか?」

 

 

「契約…?」

 

 

 本当に何を言っているんだこいつは…会話の中の要点が全く掴めない。俺の何を求めているのか全く分からない。

 強さ?人柄?本当にそれを求めているのか?

 

 

「君の強さはよく理解できて…いや、もしかしたらそれ以上かもしれない力。そして君の純粋で優柔な人格、熟された技術力」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────君を…我が学園への編入をお願いします。」

 

 

「────はい?」

 

 

 何を言っているのか理解出来なかった。だが次第にその言葉の意味を理解していくと、困惑が隠しきれなくなって呆然と佇む。

 そんな俺の様子を放っておいて学園長は説明を続けていく。

 

 

「君が学園に入るなら、君への支援を強く援助しよう。入りたくなければそれはそれで構わない。君のことも決して口外しないと約束する。入るか入らないかは君の意志を尊重するよ」

 

 

「……」

 

 

 現状、普通なら信用の出来ない言葉を淡々と並べられているが、俺はそれを気で見破ることが出来る。

 嘘は気に影響して色や揺らぎで区別が可能なのだが、今の彼は嘘の感情はないようだった。つまり、学園長は本音で語っている。

 

 

「俺へのメリットは?」

 

 

 かと言って簡単に承諾するつもりもない。今更になって、俺がここに通っていても意味があるのかどうかも分からないし、正直言って学園に通う必要性は感じられない。

 

 

「ヴィランを討伐活動をした者には資金が支給される。それだけでなく、この学園には様々な鍛錬可能な施設がある。そうだな、言い出せば本当に色々とある…兎に角、君の求めているものがあるかもしれない」

 

 

 最後の台詞を聞いて少し迷いが生まれた。それは俺が求めているもの。

 別に何もない…と言えば嘘になる。と言っても俺が求めているそのものが普通とは違う。簡単に手に入るものではないし、もしかしたら無理なものかもしれない。

 

 

(だとしても…)

 

 

 

 

 

『皆がお前みたいな奴だったら、また違った未来があったかもしれねぇかもな』

 

 

 

 

 

 その時にまた、兄ちゃんとの会話の記憶が蘇る。

 今の自分の生活は、自堕落気味な状態であまりよろしくないと自覚している。善し悪しがどうとかどうでもいいかもしれないが、自分の中ではここに入れば何か変わるかもしれない。

 

 そして、″あの日″のことに近付ける時が来るかもしれない。正直に確率で言えばゼロにも等しい。けど、それでも何か行動しなきゃ変わらない。

 

 藁にも縋る思いで″あの組織″を探してみよう。

 

 

「…分かった、この学園に入ろう」

 

 

「おぉ!そうか、入ってくれるんだね。では、君の手続きはこちらで任せてくれ。他の連絡は随時伝えるから、連絡先を教えて欲しい」

 

 

 溜息を軽く吐いてソファへ戻り、学園長の顔を見て一言でそう伝える。

 彼はそれを聞くや否や、嬉しそうに元々柔和だった表情を更に柔らかくしてスマホを取り出してきた。

 

 学園長本人との連絡先の交換とは中々ないことだろうけど、そんな簡単に渡せるものなのだろうか。

 

 

「それと、ヴィラン討伐の件は全て君に報酬が送られる。これからは色々と準備が大変になるが、そんなに気を張らなくてもいい」

 

 

「一つ聞きたい…」

 

 

 気を張らなくてもいいと言われても、そんな気持ちの切り替えが直ぐに出来るなら苦労はしない。報酬の件や準備等は別にいいとして、俺にとって重要なことが一つあった。

 

 

「どうやって俺を調べた?」

 

 

 それはシンプルな質問。俺の素性をどんな手段で調べたのか、この人が一人で出来るとは到底思っていないので確実に何者かが関与している。

 

 見張られていれば気を感知するから嫌でも気付くし、返り討ちにだって出来る。

 だが妙なことに、俺はそれすら気付くことはなく見られ続けていたという訳だ。となると…俺の中で一つの種族が思い浮かんだ。

 

 

「機人族の優秀な生徒が一人いてね、彼女に君に偵察するよう頼んだのだよ。あぁ、流石に私生活まではしていないよ」

 

 

(通りで…微妙な気配はあったが気を感じられなかった訳だ)

 

 

 やっぱりそうだったか。機人族は機械生命体、即ちロボットと言われている種族だ。

 私生活までは覗かれていないにしろ、一番偵察に向いているとなれば機人族が妥当だろうな。

 膨大な電力で動いている為、バッテリーが切れるまで眠る必要もないし、力も全力を出し続けられるし分析や索敵にデータ収集には持ってこいの種族だ。

 

 

「では、話はこれで終わりだよ。学園について気になったことがあったら生徒に聞いてくれ。今日はありがとう、また後日に会おう」

 

 

 それから、龍成と谷郷は連絡先の交換を済まして話を切り上げる。学園から出て行き帰路についている間、誰とも会うことなく帰っていた。

 だが、そのこともあって一人で色々と静かに考えるのに丁度よかった。

 

 学園と言えば何がある?勉強、運動、部活、大きく別けてこの三つが代表的なものだろう。そして多くの生徒達が通っている。

 俺はその中でやって行けるのだろうか、俺の求めている所へ近付いて行けるのだろうか。

 

 

「…忙しい毎日になりそうだな」

 

 

 そんなのは、俺次第だ。俺にしか出来ない場所だ。

 

 ″奴ら″が存在している限り、同じ境遇にあっている者もいるかもしれない。少しでも何かヒントがあれば、俺が必ず突き止めて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────奴らを潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…啓次さんにも話さないと」

 

 

 

 




やっべぇ書き過ぎた。
長過ぎてどこかで区切ろうにも中途半端になりそうだったのでこのままにしますが、もっと読みやすいように注意します。にしても、よくここまで書けたもんだな…。目が痛い。これからは少し投稿が遅くなるかもしれないので、よろしくお願いします。

では〜。
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