少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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前回に言った通り不知火建設の皆さんが出てきます。ついでにあの二人も…それで今回は長くなっていますが、前回のは決して手抜きではないので…話のネタがあまり思いつかなかったんです。

じゃ、どうぞ〜。


九話 『不知火建設』

 

 

 

 

 

「おはよぉす。」

 

 

「おはよー、何か眠そうだね。」

 

 

朝の教室に龍成は眠たそうに瞼を擦りながらやって来た。欠伸を混ぜながら伸びをして自分の席に着くと、隣の席のスバルが真っ先に返してくれる。彼は真面目なのは既に承知のことなのでこうやって眠そうにしているのが珍しく感じていた。

 

 

「ちょっと寝不足でね。ゲーマーズで遊んでから、あれからゲームに色々と調べてたりしてたら寝るの遅くなった。」

 

 

「おっ!いい感じにゲームにハマってるっすね。なら今度、スバルが面白いゲーム紹介するっすよ!」

 

 

「…そうだな、時間があったらお願いしようかな。楽しみにしてる。けどあまり、ゲームすることはないかな。」

 

 

確かにゲームは実際にやって楽しかったし、興味は湧いていた。ただ俺には長いことゲームをする時間はあまりない気がしている。何故かと言えば、俺には目的があってこの学園にやって来ている訳だし、ヴィランのことも考えればあまり悠長なことは出来ないな。

 

 

「なんでぇ?いいじゃんかよぉゲーム。みこ達まだまだ若いんだから今の内に楽しまなきゃ損だにぇ!」

 

 

「あ、みこち。」

 

 

「ゲームは若者にとって宝にぇ!…とは言っても、みこ達もそんなのほほんと過ごせる訳じゃないけどにぇ。全く…ヴィランっていう奴は本当に迷惑だにぇ。なぁ、龍成君よ。」

 

 

すると突如、みこが二人の会話に途中参加してきた。彼女はゲームに対して熱く語ってはいたが、急に落ち着き始めて龍成に同感を持たせるように聞いてくる。

 

 

「そ、そうだな…さくらはどうやって戦ってたりするんだ?」

 

 

「みこは戦えない方にぇ、皆に加護を掛けるくらいしか出来ないし、余り期待するんじゃないよ。」

 

 

みこは一体どんな風にして戦っているのか気になって想像してみるが、接戦で貢献している感じはしなかった。本人も精々バフ効果を与えるくらいしか出来ないと言い、期待しないで欲しいとはっきりと伝えられる彼女に苦笑いする。

 

 

「誇らしげに言うなよ…でも実際はみこちのバフってすげー強いんだよ。基本的にはアレだけど、流石は神社の巫女ってなだけはあるよなー。」

 

 

「おいそれどういう意味だにぇ。」

 

 

スバルの失言を聞き逃さなかったみこは、彼女にジト目を向けるが呆気からんとして受け流していた。すると、みこは何かを思い出して龍成に再び話し掛ける。

 

 

「あ、そうだ。龍成君よ、昨日の話したこと覚えてるかにぇ?不知建に入部するって言ってたこと。」

 

 

「なんか話変わってね?俺は体験入部ってだけで、何も入るなんて一言も言ってないぞ。」

 

 

彼女の中では既に入る予定だと勘違いしていたらしく、龍成は速攻で訂正させると困惑した様子を見せる。

 

 

「あ、あれ?そうだったっけ?まぁいいや。とにかく今日は出来れば来てもらいたいにぇ!今日は不知建の部員が揃うから、なんかするよ。」

 

 

「なんかって何だよ。もうちょい詳しくてもいいんじゃないの?」

 

 

「みこが知るわけねーだろ。」

 

 

「お前ら仲悪いの?」

 

 

スバルとみこのやり取りには、何処か遠慮がないと言うか仲が悪いような言葉のキャッチボールをしているが、本人達はこれがいつものことらしい。取り敢えず、みこから誘われた不知建とやらには訪問すると伝えて、朝礼が始まるまで雑談をしていた。

 

あっという間に時間は過ぎて昼頃になり、今日は食堂ではなく自作の弁当を持って来ていた。暫くは誰かと昼ご飯を過ごしていたが、偶には一人で考え事をしながら時間を過ごしたいと思い、屋上へとやって来ていた。

 

 

(ゲームも確かに楽しかったけど、俺にはもっと重要なことがある……とは言え、今の状況も場所も不明な点が多過ぎるし、何処から手を出せばいいか分からないな…。)

 

 

重要なことと言うのは、龍成が探し求めている″ある組織″を示す。何故ここまで執着しているのか、それは彼が啓次に拾われる迄″ある日に襲われたこと″に深く関係しているから。

 

 

「そもそもな話、その″組織″の名も分からないのにどうやって調べる…。」

 

 

とは言え、その組織から消え掛けていた命と共に必死に逃げて来た彼は、ひたすら追い付かれないよう瀕死の状態で長い距離を、何度も日を跨ぐまで休まず移動を続けていた。

 

そして奇跡的に今の今まで無事…とまではいかなかったが、何とか生き永らえる結果になった。何か特徴を覚えているとすれば、様々な種族が協同していたくらいだ。

 

 

「……ぁ…。」

 

 

「ん?」

 

 

そんな時、屋上扉が開かれた音が聞こえてふと視線を向けると、薄紫で所々に水色の混じったツインテールの少女と目が合った。

 

 

「…ぁ、ぇと……スゥー……コニチワ…。」

 

 

「こんにちは。」

 

 

その少女は視線をあちこちに移しながら、聞き取れるか聞き取れないかの小さな声で挨拶をする。龍成も咄嗟に返すのだが、それ以降の会話は特になく、少女は少し離れた所で座って弁当を食べ始めた。

 

 

「……。」

 

 

(気まずい…。)

 

 

お互いに話すことがないからなのだが、こうも沈黙が居心地が悪く感じるのは何故なのだろうか。何かこちらからアクションを起こした方がいいのか、別に気にしなくていいのかと変に考えていると…。

 

 

「……ぁ、あの…。」

 

 

「ん?どうかしたか?」

 

 

ヒッ…ぇ、ぇとぉ…。」

 

 

(え、今怯えられた?)

 

 

少女から話し掛けられる。小さくも頑張って声を張っているように感じるが、反射的に返事をすると何故か怯えられるような反応が一瞬見えた。

 

 

「…あー、ゆっくりで話していいよ。言いたいことがあるなら聞くよ。どうしたの?」

 

 

彼女にとって怖がられる要素が何処かしらあったのだろうと思い、一度咳払いをしてから出来るだけトーンを上げつつ目付きも表情も和らげて優しく語り掛ける。

 

 

「そ…その、編入生さん…ですか?」

 

 

「そうだけど、俺のこと知ってるのか。」

 

 

「い、今…″噂″になってるので…。」

 

 

パッと見た時から彼女は同じクラスの者ではなく、恐らく後輩に中る子なのだろうと察していた。その噂とやらは龍成は何も知らないので聞いてみることにする。

 

 

「因みにどんな噂なのか聞いてもいい?」

 

 

「え、えと…その、凄く強くて…容姿が良い…みたいな。」

 

 

(あやめ経由か…。)

 

 

前者の方を聞いて分かった。それ以前に噂と聞いて何となく分かってはいた。あやめとの試合で、ほぼ全員の生徒達が観戦しに来ていたことがあったと。思えばそんな噂が立つのも無理もないことかと納得する。

 

この学園で珍しい男子生徒で通ったばかりの人間が鬼族に戦って勝ったとなれば、前例もないらしいし起こりうるものだろう。

 

 

「そっか。それで、その…君はここでご飯を食べに?」

 

 

「は、はい…。」

 

 

「友達とかは?」

 

 

「えっと…も、もうすぐで来ます。」

 

 

話してみた限り、彼女は人とのコミュニケーションを取るのが苦手のようだ。あまり聞きすぎるのも悪いし自分の時間も欲しいだろうと思って、この場から去ろうと立ち上がる‪。

 

 

「そうか、んじゃ俺は戻るかな。……一応、自己紹介しとくわ。俺は二年生の紫黒 龍成、よろしくな。」

 

 

「ぁ、ははい!…えと、一年の″湊 あくあ″です。…よ、よろしくお願いします。」

 

 

「あぁ、じゃあまたな。」

 

 

湊 あくあは薄紫を主色に水色の混じったツインテールに紫のつぶらな双眸で人間で小柄な子だ。人見知りがあることで、何処か小動物のような癒し系と感じ取れる。何故メイド服なのかは聞かないでおく‪‪。龍成は自己紹介だけ済まして、さっさと戻ろうとすると目の前で扉が開かれた。

 

 

「ごめーんあくあー。ちょっと遅れ…あっ。」

 

 

「おっと。」

 

 

先程言っていたあくあの友達だろうか。似たような小柄な少女と、危うくぶつかりそうになったが何とか踏み止まる。その少女は目をぱちくりとさせると、龍成の姿をまじまじと見始めた。

 

 

「んー?あー、もしかして噂の編入生?…改めて近くで見るとなんか普通だね。」

 

 

「ちょっ、ちょっとシオン!?先輩だよ!?」

 

 

初対面相手に中々のパンチの効かせた言葉を送り込まれる。少し小生意気な発言にも龍成は動じず、代わりにあくあが焦って引き止めるものの、彼が手を軽く挙げて気にしないことを示す。

 

 

「いいよ、気にしてないし。それで湊の友達か?」

 

 

「そうだよ。あ、どうせなら名前教えとこうか、あくあのこと知ってるみたいだし。どうも~こんしお〜、″紫咲 シオン″で〜す。よろしくね。」

 

 

紫咲 シオンと言った彼女は、銀髪のパッツンロングヘアに橙色と黄緑色のカラフルな瞳をしていて、あくあとにた小柄でキリッとした面貌がデフォルトなのか、生意気な小娘と言う雰囲気が漂う。魔法使いのような格好をしているが、どうもそうとは思えない程の露出が多く見える。

 

 

「紫黒 龍成だ、よろしくな。俺はもう戻るから、またな。」

 

 

「えー、もう戻るの?もう少し話したっていいじゃーん。それとも、やっぱりこんな美少女二人相手に緊張してるー?してるよねー?無理もないかー!」

 

 

「もー!シオーン!だから失礼だってばぁー!」

 

 

どう言う意味で言っているのかいまいち分かりかねないが、構って欲しそうにも見えるが、彼女の無邪気さのある笑顔にはどこか裏があるようにも見える。だが、会って早々別れると言うのも味気ないかとも思える。

 

 

「俺は食べ終わったからだけで戻るだけだったし、話したいなら付き合うぞ。」

 

 

「おっ、いいね。そう来なくちゃ。」

 

 

「え…。」

 

 

シオンはニッと口角を上げるが、あくあは逆に口角を下げていた。

 

 

「もうこの際だ、敬語とか無しにしよう。その方が気楽だろ?俺は気にしてないから。」

 

 

「ぇ…で、でも。」

 

 

「紫黒がそう言ってんだからいいんじゃない?だったらもういっそ名前呼びしちゃう?シオンはさんせー。二人は?」

 

 

遠慮がないと言うかお調子者と言うか、シオンは簡単に龍成の言い分に賛成し、あくあはやはり距離感が慣れていないせいで何も言えなくなる。そして更には名前呼びになることになっていた。

 

 

「んー、まぁいいか。」

 

 

「えぇ!?ちょ、ちょっと…それ、は…。」

 

 

「はーい賛成二人の多数決でけってーい!いいよね?あくあ。」

 

 

「少しはあてぃしの話を聞いてよー!」

 

 

あくあの話にも聞く耳持たずノリと勢いで進んでしまい、反論する間もなく決まってしまった。龍成はそんな遠慮になっているあくあに気を使って無理強いはしないことを伝える。

 

 

「まぁ無理は言わないし、自分のペースでいいよあくあ。俺は取り分け不快に感じる訳じゃないから。」

 

 

「ぅ…は、はいぃ…。」

 

 

「じゃあ早速聞きたいんだけど、龍成って何者?」

 

 

「え…?」

 

 

場の空気が少し変わった。シオンは龍成に目をむけているが、その瞳は嘘や冗談が通じないのを感じる。本人もふざけてはおらず、あくあも彼女の急な変わりように唖然としていた。

 

 

「何者も何も、俺は普通の人間だけども?俺に変な所でもあったか?」

 

 

「こう見えてもシオンは天才って呼ばれてる程の魔法使いだから。あんたのその()()にはより敏感に気付けるわよ。普通とは少し程遠い力の波動を感じるし、それなのに魔力も霊力も微塵にも無い。はっきり言って可笑しいのよ。」

 

 

そう言われて思い出した。あやめと戦う前に担任教師の永から聞いていた。彼女は魔法使いの天才と称されていて、様々な魔術や魔法を難解なものまで扱うことが出来ると。だからか、人の力量の見方を人一倍理解出来ている。

 

 

「…言いたいことは何となく分かった。けど俺はそれが普通なんだよ。本来なら湊とか普通の者なら魔力か霊力が宿ってる。例外では妖力とかもいるらしいな。でも…これは誰しもが持っているもの、これは″気″と言う生命エネルギーを力に変えることができる。」

 

 

龍成が戦闘に用いる時に使っている力、それは気と呼ばれた生命エネルギーを実際に掌に現せて見せる。それは小さな太陽のように光の塊で、近寄れば暖かい熱気を感じれる。厳密に言えばこれは実体化させたもので、気は身体の中を循環しているものなのだ。

 

 

「ほわぁ綺麗…。」

 

 

「…へぇ〜、なるほどね。」

 

 

「これを主に扱って戦闘に用いている。まぁ、一概に強さの秘訣がそれだけって訳じゃないがな。取り敢えず分かったか?」

 

 

気の弾を消失させながら聞いてみると二人は頷く。それを見てシオンは興味が湧いたのか、自分達にもそれが可能なのか気になりだした。

 

 

「ふんふん、話を聞くにそれってシオン達にも出来ることっぽい感じ?」

 

 

「鍛錬を重ね続ければ出来なくもない。」

 

 

「あの、因みにどんな鍛錬を…?」

 

 

「そうだな、俺が何時もやってるメニューだと……中々ぶっ飛んでるかもな。まぁ一般的な感じなやつをハードにしたと思ってくれ。」

 

 

自分の今まで熟して来たトレーニングメニューは、普通とは掛け離れた苦行だと言える。詳しく伝えると主に自分の気が遠くなりそうなので、大雑把に伝えておく。

 

 

「じゃあさ!龍成は″そら先輩″にも勝てるんじゃない?」

 

 

「そら…?」

 

 

シオンの口から聞いた事のない人の名前が出てくる。知る人のない名前に首を傾げて鸚鵡返しすると、シオンは簡単に教えてくれる。

 

 

「この学園の生徒会長兼精鋭隊の長でもある人だよ。そら先輩だけじゃなくても、他の強い人とかと余裕で戦えそうだけどね。」

 

 

「俺は対人戦は、ちょっともう遠慮したいんだよなぁ…。苦手なんだよ。」

 

 

「え?どうして?そんなに強いのに。」

 

 

「疲れちゃうから、ですか?それか…気を遣っちゃうから…とか。」

 

 

「後者で合ってる。元々、人に対して力を向けたくないんだ。相手の苦しむ表情を見たりすると…無意識に加減したり、どうしても負い目を感じちゃって…。」

 

 

「なら何で此処に来たの?」

 

 

「それは…誰かの為に戦いたいから。俺個人としてはヴィランを倒すのが本当の目的じゃない。俺も、深い事情があって…此処になら何かヒントがあるんじゃないかと思って。」

 

 

「それは、また何で…?」

 

 

あくあも聞きずらそうにしていたが、代わりにシオンが純粋な疑問で聞いてくる。しかし、龍成は二人からの視線から背けていた。

 

 

「……悪いが、こればかりは答えられない。」

 

 

「そっ…まぁ分かったわ。色々と話してくれてどうも。お礼にあくあの面白い話してあげる。」

 

 

「えぇ!?やめてよシオン!」

 

 

「いや、別にしなくてもいいよ…。」

 

 

あくあとシオンの関係性は弄る人と弄られる人なのだろうかと、龍成は二人のやり取りに苦笑いを浮かべるしかなかった。今回、二人の顔合わせはこの辺でお暇させてもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は飛んで放課後へ、龍成はみこと訪問することを約束した不知火建設部に関して考えていた。教材の片付けををしている際にフブキから声を掛けられて振り向くと、眩しい笑顔をしながら近寄って来ていた。

 

 

「龍成くーん!」

 

 

「うん?どうした。」

 

 

「今日もゲーマーズに来ますか?今ならお菓子もジュースも付いてきますよ!」

 

 

「むっ…ごめん、今日はさくらが行く部活に向かう約束してたんだ。また時間があったらお願いするよ。」

 

 

前回訪れた時はゲームをぶっ通しでやり続けていたので、そう言った間食はしていなかった。お菓子のワードを聞いて龍成は眉を一瞬上げたのだが、先約がいるので心残りを感じるが断る。

 

 

「あらら〜、それはしょうがないですね。じゃあまた明日ですね!」

 

 

「あぁ、またな。」

 

 

フブキは残念そうに耳と尻尾を垂れさせるが、すぐに元に戻して去って行く。そこへみこが入れ替わるように龍成の所へやって来る。

 

 

「にゃっはろ〜、準備はいいかにぇ?早速、不知建にいっちょ行くにぇ!」

 

 

「あぁ。」

 

 

少し前に歩くみこを横目に見てみると、楽しみにしていたのかやたらテンションが高くルンルン気分でいた。彼女に着いて行きながら不知火建設について聞いてみることにする。

 

 

「それにしてもその不知建ってのは、何を主に活動してるんだ?」

 

 

「不知建はね〜、まぁお手伝い屋さんみたいなものだにぇ。困ってる人がいたら無償で手伝ってあげることくらいかにぇ。」

 

 

「ほー、何でも屋みたいなもんか。……?」

 

 

何でも屋というのなら、部活名にある不知火″建設″と言うのは果たして一体どういうことなのか。何か別の意味があってそう名乗っているのかは分からないが、少し気になったがみこは続けて話をする。

 

 

「そうそう、基本的な活動目的はそれくらいだにぇ。後は時々、資料整理とかやってるにぇ。それ以外にやる事がなかったら皆で遊んでるにぇ!」

 

 

(どっちかと言うと後者が本題な気がする。)

 

 

殆どゲーマーズのやっていることと変わりはなさそうな気がしてきた。それにみこのご機嫌さを見るに、何か遊ぶ予定が入っているんだろうと思った。

 

 

「さぁ着いたにぇ。ここがみこ達が活動する場所、覚えておくんだよ。多分、もう皆いると思うにぇ。」

 

 

色々と思うところはあったが、気付けば部室の前まで来ていた。木製プレートで可愛らしく不知火建設と書かれていた。その扉の向こうには数人の気配があり、恐らく自分達が最後で来るのを待っていたのだろう。そそくさと扉を開けて中へ入って行くみこに、そのまま着いて行く。

 

 

「あ、おかえりみこちー。」

 

 

「遂に来たなイケメン編入生!さっ、どうぞどうぞ。そこに腰掛けてね。」

 

 

「こんまっするー!いらっしゃい龍成君、今日はよろしくね!」

 

 

「お疲れー、わざわざみこちの我儘に付き合ってくれてありがとうね?」

 

 

そこにはノエルとフレアがの二人と、初めて見る顔の少女が二人いた。水色髪の少女がみこの帰りに声を掛け、獣耳を生やし風車のような装飾をした少女が龍成に空いている椅子を譲る。そのことに軽く礼を伝えながら、フレアの言葉に端的に返す。

 

 

「約束したからな。」

 

 

「初めましてだね、君。」

 

 

そして流れるように水色髪の少女が龍成の前に立ち上がって話し掛ける。すると突然ポージングをしたと思えば、続けて口を開いた。

 

 

「それじゃあ……彗星のごとく現れたスターの原石!煌星学園三年生″星街 すいせい″でーす!すいちゃんは~?」

 

 

「…え〜っと。……み、魅力的?」

 

 

いきなり何かを聞いてきたかと思えば、彼女の何かを伝え返さなければならなそうなことを言ってきた。それを瞬時に察した龍成は、色々と頭の中から言葉を探した。だが長引かせるのも駄目だと、取り敢えずパッとこれだと思ったことを伝える。

 

 

「ん〜!残念っ!!」

 

 

どうやら違ったようだ。少し悔しい。

 

 

「そりゃあ初見にはちょっと難しいでしょ。」

 

 

「でもすいちゃんのこと知らない人って珍しいにぇ。人気アイドルなのに。」

 

 

星街 すいせいは水色のサイドテールで深い青色の瞳をしている。凛とした面貌で美しくも可愛さが取り柄の少女だ。どうやらアイドルをやっているようで、今のはアイドル式の挨拶らしい。

 

 

「珍しいけど、いても不思議じゃないからね。でも、ノリに乗ってくれてありがとうね?因みに答えは『今日も可愛いー!』だから、次もよろしくね?」

 

 

答えは間違ったが、返してくれて嬉しかったのか輝かしい笑顔を向けてくれる彼女に、こちらも自然と笑顔が移っていた。そして続けて、先程に椅子を渡してくれた少女が前に出る。

 

 

「じゃあ次はポルカだね。どうも〜、ポルカおるか?おるよ〜!煌星学園二年生″尾丸 ポルカ″で〜す!よろしくぅ!因みに狐じゃなくてフェネックね。」

 

 

尾丸 ポルカは金髪のセミロングの片三つ編みで深紫のラメが入っているような双眸をしていた。狐ではなくフェネックの耳と尻尾があり、親近感の湧くような砕けた調子で接してくれる。二人の自己紹介も終わったことで、龍成もそれについて行く。

 

 

「え〜…どうもこんたつ〜。二年の紫黒 龍成です。今日はお世話になります。」

 

 

「ぶふっ!何その挨拶!」

 

 

そう簡単に伝えるとノエルが吹き出して笑っていた。

 

 

「思えば一人一人独特な挨拶してたから、流行ってんのかなって。ちょっと真似てみた。」

 

 

「中々面白いね君〜!」

 

 

そう、ゲーマーズ部の四人もマリン達も、今交わした二人も独特な挨拶法で自己紹介をしていた。流行りなのか分からないが、乗るべき流れだろうと思ってやってみたが笑われた。しかし、そんな彼のノリの良さにすいせいはどうやら気に入ったようだった。

 

 

「じゃあ先ずは、不知火建設について色々と説明するね?」

 

 

そして本題へ。みこからもある程度は聞いたが、ちゃんとした説明を聞く。内容は困り事を解決させる部活のようで、相談事や落し物探しに時々生徒会からの手伝いの依頼などが来るらしい。それを無償で行うのだが、特に何もなければ自由に過ごす感じである。

 

因みに部活名のことを聞いてみれば、善行を建設の如く沢山積み重ねて平和を造ると言うの意味らしく、不知火は単純に部長がフレアだから彼女の苗字を使っているらしい。当の本人は恥ずかしがっていた。

 

 

「と、こんな感じかな。」

 

 

「なるほど。さくらからもざっくりと聞いていたが、基本活動は何でも屋で合ってそうだな。」

 

 

そう言うとすいせいがみこの頭を撫でながら、小さい子供を褒めるように言葉を送っていた。しかし、本人は馬鹿にされていると分かっており、すいせいの手を払い除けて牙を向ける。

 

 

「みこち、ちゃんと説明出来たんだね。偉いねぇ〜!」

 

 

「馬鹿にすんなぁ!!みこだってそれくらい出来るにぇ!」

 

 

「真面に日本語話せないのに。」

 

 

「でゃまれ!!」

 

 

ポルカの追加攻撃にも素早く反応して威嚇する。彼女達のやり取りを横目に、龍成はフレアに今日の活動のことを聞く。

 

 

「ところで、今日は何をするんだ?」

 

 

「それが…事前に皆には知らせたけど、実は珍しく今日の依頼はなくってね。何かごめんね、折角来てもらったのに…。」

 

 

「それで皆で何処かに遊び行くかって話をしてた所なんよ。」

 

 

どうやら今日に限って何もなかったらしい。フレアは申し訳なさそうに謝るが、気にしないと首を振る。無いものは仕方ないし、今回は親睦を深めることだと捉えておく。

 

 

「因みに今決めてたのは、ボウリングとカラオケとゲーセンと牛丼屋!」

 

 

「最後のはノエルが行きたいだけでしょ。」

 

 

「んえぇ〜!いいじゃんいいじゃん牛丼〜!」

 

 

「はいはい、何時までも喋ってるのもアレだし時間まで行きたい所に全部行ってそのまま帰ろう。」

 

 

「早速行くにぇー!」

 

 

ここに行きたいと色々と意見が飛び交うが、いっそ全部回ろうとフレアの言うことに皆が賛同して決まった。龍成は何処かに行きたいものもないので、彼女達に着いて行くだけだった。彼女達が普段どれだけ仲がいいのかは、さっきの場を見て理解した。

 

 

「じゃあ先ずはゲーセン行ってみよー!」

 

 

『おぉー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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先ず初めにやって来たのは、最寄り駅の近くにあるゲームセンター。様々な機種が存在しており、子供から大人までが幅広く楽しめる娯楽施設になっている。龍成は普段はここには来ないし初めての訪問なので、ゲームセンターの膨大な騒音につい耳を塞いでしまっている。

 

 

「さ、騒がしい所なんだなゲーセンって。」

 

 

「え、来たことなかったの?」

 

 

「あまりこういう所には一人で来ないから、どうにも慣れないな。あと何より音が煩い…。」

 

 

「そこは慣れるしかないにぇ。」

 

 

みこの言う通りである。少し頭に響いて残る感じに嫌悪感があるが、仕方がなく耳を塞ぐのを止める。でもやっぱり無意識に耳を塞いでしまう。それを見たみこが龍成の腕を掴んで無理矢理引き離そうとするが、必死に首を振る彼に溜息を吐く。

 

 

「取り敢えず、何かやってみようよ!」

 

 

「よーし!遊ぶぞー!」

 

 

二人のやり取りに気にすることなくノエルとすいせいは突っ走って行き、ポルカも歩きながらも後に続いて、フレアは走って行った二人に注意をしながら着いて行った。その間に龍成は、みこに耳栓効果のあるバフを掛けてもらうことで同行するようになった。

 

 

「ゲーセンの定番と言えば先ずはこれだよね〜!」

 

 

「クレーンゲームか。」

 

 

先に行ったノエルに着いて行くと、見たことのある機種を見掛けて足を止める。それぞれのクレーンゲームに色々な賞品が入っており、それをどう取るか考えながら操作に技術も必要なものだ。因みにみことすいせいは二人で別の所に行っている。

 

 

「龍成君やってみる?」

 

 

「折角だしな、やってみようか。」

 

 

ここに来ること自体がないので、来たからにはやらない訳にはいかない。何かいい賞品がないか色々と探ってみると、知っている賞品を見つけて足を止める。彼が真っ直ぐに向ける視線に、フレアが気になって聞いてみる。

 

 

「カービィ欲しいの?」

 

 

「まぁ…うん。一番知ってるキャラだし、でかいしもふもふしてそうだし。」

 

 

取り敢えず一番良さそうな賞品だとは思ったので、やってみることにする。硬貨を入れて実際に説明に沿って丁寧に操作してみる。簡単に上から掴んでいく感じで、距離を目視で確認して何とか出来たのだが、意外にもそう楽には上手くいかなかった。

 

 

「おっ、意外にいけないものなんだな…ならやり方を変えるか。」

 

 

「龍成君って結構勘が鋭いね。そうそう、そのまま掴まえても取れるには取れるけど、アームの強さも確率で変わるらしいから、安定ムーブするならちょっとずつ掴んで位置をずらすか掴み方を変えるかだね。」

 

 

「一発で取れれば一番いいんだけどね〜。」

 

 

ポルカとノエルも黙って見守る中、フレアの助言もあったことで何度か失敗したものの、上手いこと数を重ねたことで賞品を取ることが出来た。カービィのぬいぐるみの触り心地の良さに目を開き、もふもふと揉みしだいていた。

 

 

「よーし、何とか取れた。おぉ…結構でかくて柔らかい。」

 

 

「何か…エッチだね。」

 

 

「ポルカも思ったけどそこは言わない!」

 

 

「何の話だ?」

 

 

「君は気にしなくていいよ。」

 

 

ノエルの意味不明な発言に、何かポルカが強く突っ込んでいた。それがなんのことなのか分からず龍成は気になったが、フレアが真顔でそう言っていたので気にしないでおくことにした。

 

 

 

 

 

「お次はこれだにぇ!みこ達なら何時もやってるプリクラにぇ!」

 

 

「ただの写真撮影ならスマホでもいいんじゃ?」

 

 

みこに連れられて来た目の前にある機種に疑問が出る。どうやら写真が撮れる物のようだが、態々お金を払ってまでして写真を撮るのならば自前のスマホで済みそうな話だと龍成は思っているのだが、それをみこが指を振って不敵に笑う。

 

 

「にぇっへっへ…甘い、甘いにぇ龍成君。こいつはただの写真撮影じゃないんだにぇ。」

 

 

(笑い方の癖…。)

 

 

「写真に文字とかスタンプとか色々デコレーション出来る機能があるんだよ!」

 

 

「んねぇえええええええ!!すいちゃん!それみこが言いたがった!!」

 

 

「ごめんごめーん。」

 

 

みこの代わりにすいせいが特徴的部分を横から話したことで、楽しみを取られた子供のように駄々をこね始めた。喚くみことそれを見て笑っているすいせいを他所に、ノエルが先頭に入って行く。

 

 

「まぁまぁそんなことより撮ってみようよ。」

 

 

「ほれほれ、龍成君も入りな。」

 

 

「いや、全員で入るにはキツキツなんじゃ…。」

 

 

大きさを見るに精々四、五人が限度ではないだろうか。そんなの気にするなと、ポルカに背中を押されながら無理矢理プリクラの中へ入れられる。

 

 

「大丈夫だいじょーぶ。中は意外と広いから。」

 

 

「いや…やっぱりキツくね?」

 

 

並んでみるが結局人数の多さでどうにも画面には収まりきらない感じだった。自分はいいので彼女達で撮ってもらおうとしたが、ノエルが彼の体を掴んで引き戻したと思えば真ん中に寄せられた。

 

 

「こうしてくっ付けば問題ないでしょ?」

 

 

(そう言う問題じゃなく…女性の園の真ん中に男一人いるのはどうかと…それに、色々と当たってしまっている…指摘した方がいいのか?)

 

 

「それじゃあ、じゃんじゃん撮るにぇー!!」

 

 

それだけじゃなく、何とか収まるようにとくっ付かれることになったのだ。流石に写真どころじゃないように思えたのだが、思考しても分からなくなる。もう変に動くのは止めようと、その場で地蔵になることにした。そんな彼の心中に気にも留めなかった彼女達はそのまま続けるのだった。

 

撮った写真は、棒立ちになった龍成を中心に映えるようにポーズをしていた五人の少女のシュールな感じになっていた。

 

 

 

 

 

「さてお次は…カラオケ〜!」

 

 

『イエーイィ!!』

 

 

「イ、イエーイ…!」

 

 

すいせいがマイクを持ちながら場を盛り上げるように腕を上げると、それに合わせてフレア達も乗りだす。それを見て龍成もノリが悪いと思われたくはなかったのだが、遠慮気味で軽く腕を上げる。すいせいもやはりアイドルなのでこういったステージを盛り上げるのには慣れているのだろう。

 

 

「じゃあ一番手、星街すいせい歌いまーす!」

 

 

彼女がカラオケに来るのを一番に楽しみにしていたのか、早速歌い始める。アイドルのすいせいは先ず自分の持ち曲を披露してくれた。その歌声は素晴らしいの一言だった。強弱もはっきりして感情が篭っている。真剣且つ楽しそうに歌うその姿は、正に歌姫と言う言葉が似合う。

 

 

「おぉ…。」

 

 

「どう?すいちゃんの歌は。」

 

 

「アイドルって言ってたもんな。やっぱり凄く良い歌声だな、何か…培って来たものを感じる。流石アイドルって思う。」

 

 

横に座っているフレアから歌う姿に感想を聞かれるが、もう褒める言葉しかない。この時点でアイドルになる以前から歌っているイメージが定着したが、本当に歌が好きなんだとわかった。

 

 

「と言うか、アイドルしながらヴィランと戦うって結構大変だろうに…。本当に凄いな。」

 

 

「そうだよね、私もそう思う。ヴィランから守って安心感だけじゃなくて、皆に笑顔を与え続けてるのって…凄い大変なのに、嫌な顔一つせず向かい合ってる。本当に尊敬するよ私は。」

 

 

アイドルになれる夢は叶えられた。だがこの学園生活とヴィランとの戦闘にアイドル活動、とても自分の時間を作るのは難しそうだし休む暇がなさそうだ。それでもフレアからの話では、彼女は本気で向き合っている。

 

 

「安心感に笑顔……か。」

 

 

「どうかした?」

 

 

アイドルは人に勇気と笑顔を届けると聞いたことがある。それに加えてヴィランに脅かされている人々を助けている。アイドルとしての彼女は人々に心を、戦いに赴く彼女は人々の身と安全を救っている。そんなことが出来るのは本当に凄いと尊敬する。

 

 

「いや、なんでもない。」

 

 

俺も彼女のように求めているものに辿り着けるのだろうかと、そんなことを考えていた。フレアの言葉に返しながら歌っているすいせいに視線を戻す。踊りまではしていないが、ただ立って歌う姿でも威厳があり眩しい。そして気が付けば彼女の歌も終わっていた。

 

 

「ふぃ〜、歌った歌った〜!じゃあ次は…龍成君!歌ってみて!」

 

 

「え、俺?」

 

 

マイクを差し出して突然の名指し。すいせいからの指名で龍成は驚いて自分に指を指す。歌姫の次に歌ったこともない者がやるのは厳しくないだろうかと、彼は困って周りを見てみるも。

 

 

「ポルカ達の歌はお互い聞き慣れてるからね〜。折角の新人がいるんだから、初めましての人である君が歌うのだよ。ほらほら、歌え歌えー!」

 

 

「そーだー!龍成君の歌聞いてみたいにぇ!」

 

 

「わぁー!団長楽しみー!」

 

 

誰も助け舟を出す人はいなかった。フレアも苦笑いでこちらを見ているが止める様子はない。もう今更逃げ道を探すのは無駄だと察し、渋々とすいせいからマイクを受け取る。

 

 

「音楽はよく聞いている方だけど、歌は期待される程じゃないぞ…?それにあまり自信が…。」

 

 

「いいからいいから、歌に上手い下手とかどうでもいいんだよ。何よりも楽しむのが大事なの!」

 

 

歌姫の彼女からそう言われると何も言い返せない。確かに彼女の言う通りだろう。楽しまなければ損…ここで思いっきり心を解放するのが大事なのだろう。

 

 

「じゃあ…僭越ながら。」

 

 

俺が選んだ曲はよく聞いているもの。初めて聞いた時から、この曲に心から惹かれた。大部分は静かで少し寂しい雰囲気のある曲だ。静かに深呼吸して息を整え、歌詞の入りのタイミングを合わせる。ゆっくりだがはっきりと、息を伸ばし自分なりにメロディを奏でさせる。そして重要なサビにはいる時、深く呼吸を吸って構える。

 

 

「す、凄っ…。」

 

 

「わぁ…!」

 

 

「上手…。」

 

 

初めは人に見守れながら歌うのは緊張していたが、歌うに連れて段々とそっちに集中する。そして何より、こうやって思いっきり歌えるのに開放感があって何処か気持ちがいい。彼女達はそれぞれ彼の歌に凄絶さを感じていた。本人は集中して歌っていて気付いていないが、彼の歌と姿は彼女達に魅了されるものがあった。

 

彼の歌は終わりを迎え、一息ついてマイクを置く。すると真っ先にすいせいが前のめりになって龍成に迫りだした。

 

 

「すっごい上手じゃん!自信ないって言ってるけど元々センスがあるんだよ!高音も低音もちゃんと確りしてるし、息継ぎだって殆ど完璧じゃん!」

 

 

「お、おぉ…。」

 

 

すいせいにはとても好評だったらしく、瞳をキラキラと輝かせながら龍成を見続けている。そんな迫り具合にしどろもどろになっていると、みこが溜息を吐いていた。

 

 

「あぁ、始まったにぇ。」

 

 

「ねぇねぇー私と一緒にアイドルやってみない!?」

 

 

「はは…嬉しい誘いだけど、断っとくよ。」

 

 

「えぇ〜なんで〜?」

 

 

「まぁまぁ、確かに凄く上手だったけどそこまでにして、今は楽しもうよ。」

 

 

現アイドルにそこまで褒められれば嬉しくない訳がない。誘われる程なのかはいいとして、そこまで好評なら歌った甲斐があるものだ。

 

 

「団長も燃えてきましたー!」

 

 

「じゃあノエルの次はポルカね〜。」

 

 

「みこも歌うー!すいちゃんデュエットするにぇー!」

 

 

「龍成君とデュエットするから無理ー。」

 

 

「なんでだよぉ!!」

 

 

一人一人に火種がつき始め、誰が一番高い点数が取れるかの勝負が始まった。歌勝負も初めてだった龍成は、こんな日も悪くないと今は全てを忘れて歌に没頭するのだった。

 

 

 

 

 

「いや〜遊んだし歌ったね〜。」

 

 

あれから沢山歌ってはフードを食べて飲み物も飲んで、とても楽しかった一時を過ごせていた。気付けば夕方になっていて今は帰路についているが、不思議と心は晴れやかな気持ちだった。

 

 

「龍成君の良い所も沢山見れたしね〜。」

 

 

「また皆で遊びに行きたいにぇー!龍成君もどうだった?」

 

 

「勿論、楽しかったさ。また誘われたら喜んで付き合うよ。」

 

 

部活動とは掛け離れてしまってはいるが、こういう日まあるのも悪くないしまた遊びたい気持ちもあった。誘ってくれたみこにも、それに付き合ってくれた彼女達にも心の中で感謝していた。

 

 

「…ごめん、ちょっとトイレ行ってきていい?」

 

 

「あぁ全然、行ってきなよ!彼処の信号近くで待ってるね。」

 

 

変な所で尿意がやって来てしまった。フレアに一言伝えてから近くの御手洗に向かう。その間に彼女達は信号機付近で待っててもらうことにした。用をさっさと済ませて少し離れた所から声を掛ける。

 

 

「お待たせー、行こうか。」

 

 

龍成が戻って来たことに気付いたみこが、一番に歩き出して青信号を渡っていた時だった。

 

 

「…ん?」

 

 

直線道路の離れた所からやたらスピードが出ている車を見掛ける。どう見ても止まる気配がないし、このまま行けばみこと接触して事故を起こす可能性は大きい。

 

 

「あ、待って…!!みこちっ!!!」

 

 

「え…?」

 

 

「っ!!」

 

 

すいせいが車の異変に察知して、即座にみこに声を掛けるが体が動かない。動いても庇うにも間に合わない。フレアもノエルもポルカも気付いたが、その時にはもう手前まで迫っていた。

 

だが龍成だけは力を使って瞬発力を生かし、みこを抱きかかえて通り過ごそうとしたがそれでも間に合わない。片腕でみこを抱き寄せて片腕で車を正面から受け止める。その光景にすいせいが叫ぶ。

 

 

「龍成君っ!!」

 

 

衝撃はそれなりにあったが強化した身体機能で無傷、とまではいかなかったが腕が痺れる程度だ。そんなことはどうでもいいと、兎に角みこの安否を確認する。

 

 

「…ふぅ。何とか間に合ったな。大丈夫か、みこ?」

 

 

「にぇ…にえぇ…。」

 

 

見る限り怪我は無さそうだが、完全に怯えてしまっている。体は震えて目頭には涙が浮かんでいた。どうやら今の衝撃的な事態に強いショックで放心状態になっている。

 

 

「二人共っ!大丈夫っ!!?」

 

 

「怪我はないっ!?」

 

 

四人も遅れて駆け寄り、フレアとポルカが慌てて声を掛けながら容態を確認する。これは完全なる人身事故で、事態もそれなりに大きかったので、野次馬達も何だと興味本位で集まり始める。

 

 

「あ、あぅ…。」

 

 

「一先ず怪我はなさそうだが、ちょっとショックが強かったな。落ち着かせてあげよう。」

 

 

龍成は簡潔に纏めて伝え、少し人気の落ち着いた所へ移そうとみこを抱き上げる。そんな様子を見たすいせいは彼の平然さに違和感を覚える。

 

 

「みこちもそうだけど、龍成君は…?何ともないの?真面に受け止めてたけど…。」

 

 

「あぁ全然全然、ピンピンしてるよ。」

 

 

彼は片腕で車を受け止めたことに対して、何も無いのはどうも可笑しな話だ。しかし彼は何ともないように体は動き、みこを介抱してあげていた。

 

それからと言うものの、警察と救急車が来て更に事態は大袈裟にされていたが、取り敢えずその場は警察に任せるとして、龍成達はやるべき事だけやって帰っていた。みこと龍成には無傷だったものの、念の為に病院に通うことを勧められていた。

 

 

「ごめんね龍成君、助かったにぇ。本当にありがとう。皆もごめんね…。」

 

 

「みこちは悪くないよ!でももう本っ当に吃驚したよね!なんでちゃんと前見て運転しないんだよ!馬鹿じゃないの!」

 

 

「しかもスマホ弄りながら運転してたらしい、流石に有り得ないわ。」

 

 

今回の事故は完全に相手の過失によるものだったらしく、不当な理由に皆が腹を立てていた。流石に事情を知った時も龍成は頭にきていた。

 

 

「団長も話を聞いたら、メイスで殴りたくなっちゃったもん!」

 

 

「当の本人は反省してたみたいだけど、龍成君が庇ってなかったらみこちがどうなってたか…最悪のパターンもあるんだから本当に気を付けて欲しいよね。」

 

 

「まぁ結果的に怪我はなかったんだし、この話はもう止そう。…みこ、まだ離れるのは無理そうか?」

 

 

「…ごめん、もうちょっとだけ。」

 

 

まだショックが抜け切れていないのか、龍成の腕にくっ付きながら顔を振るっていた。もしもあの時…と最悪な事態を考えてしまっているのか、まだ少し顔色はよくない。

 

 

「あれ…と言うかみこのこと…名前で。」

 

 

しかし、みこはふと彼から名前呼びにされているのに気付いた。

 

 

「あーすまん…あの時に咄嗟だったから無意識だった。」

 

 

「ううん、そのままでいいにぇ。」

 

 

「だったら私達のことも名前でいいよ!」

 

 

「そうだね〜、これからも友達として過ごして行くんだし!」

 

 

みこだけじゃなく、他三人もそれに便乗していく。特に否定する要素もないし、龍成もそれに頷いて微笑んで見せる。

 

 

「分かった、次呼ぶ時はそうするよ。」

 

 

「それじゃ、そろそろ帰らなきゃだね。みこち、もう落ち着いた?」

 

 

「うん、もう大丈夫。ありがと…龍成君。」

 

 

「気にすんなよ、じゃあな。」

 

 

すいせいとみこは途中の別れ道で解散することになった。みこは何とか落ち着けていつもの調子を戻し、すいせいと手を繋ぎながら帰って行った。

 

 

 

 

 

「いや〜それにしても本当に危なかったけど、無事で良かったねみこち。」

 

 

「うん、龍成君がいなかったらみこ死んでたかもしんなかった。本当に感謝しかないし…それに…。」

 

 

途中で何かを言おうとしてるが、中々話さないみこに気になって顔を覗いてみる。

 

 

「うん?どうかした?」

 

 

「い、いや!なんでもない!」

 

 

「え〜?本当に〜?…ねぇねぇ、龍成君の抱かれ心地ってどうだった?」

 

 

「な、何言ってんだよ!そんなの!そんな、の…。」

 

 

今思い出してみれば、咄嗟に彼は抱き締めて身を呈して守ってくれていた。車に轢かれそうになった恐怖は、彼の温もりのお陰で早く対処出来ていた。

 

 

「安心した?」

 

 

「…うん……暖かくて、何でか凄く落ち着けれたにぇ。寧ろあのままだったら寝そうになったにぇ。」

 

 

「お、脈あり?」

 

 

すいせいの問に素直に答えると、調子に乗ったのか茶化したことを言うと、みこは顔を赤らめてすいせいに噛み付く。

 

 

「う、うっさい!みこがそんな、即落ちするキャラだと思ってんのかぁ!?みこをなめんなよぉ!!」

 

 

「顔真っ赤だよ?」

 

 

「んがああああああああぁ!!」

 

 

そんなやり取りでも二人の手は離れることはなかった。みこは今回、龍成に助けられた身として感謝は勿論だが、どうやら別の感情まで小さくも芽生え始めていたのだった。

 

 

 

 

 




如何でしたかな?自分ではいい感じにキャラを引き出せたんじゃないでしょうか。そして書いて気付いたらみこさんがヒロイン枠っぽくなってた。後悔はしてない。次は未だに出ていないメンバーを一気に出します。

では〜。

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