少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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今回は色んな人が出てきますよー、全員って訳ではないですが大体は出てきます。今回でない人がいても必ず出しますので。

じゃ、どうぞ〜。


四話 『私立煌星学園』

 

 

 

 

 

「ふぁ〜…」

 

 

 日の光により特徴的な白銀の髪が更に際立たせ、最近の肩凝りの原因でもある自慢の双丘。それなりにスリムな体型を保っている…筈だと自重している。幼い感じを残した小顔に可愛な瞳。そしてより目を引くのが魔族特有の角と尻尾。

 その容姿端麗は誰もが注目するだろう。

 

 彼女は″周防 パトラ″。とある魔界で悪魔の女王と自分で名乗っている女の子である。朝からやってくる欠伸も、もう何度目だろうか。腑抜けた声を漏らしながら目頭に溜まった雫を軽く拭いて、視界を元に戻す。

 

 

「ん〜!今日もいい天気〜!」

 

 

 眩しいくらいに明るい青空。雲一つない快晴の暑さに手を軽く仰いで紛らわす。気持ちのいい朝に気分が良くなり、無意識にお気に入りの曲を鼻歌で奏でる。

 

 

「おっはよーパトラ!」

 

 

「あっ、シャル!おはよー!」

 

 

 すると後ろから紺色の長髪でパトラと似た雰囲気を持った女の子がやって来た。

 

 彼女は″島村 シャルロット″、パトラと同じく魔界出身で特徴的な悪魔の角と尻尾を持ち、ぱっちりとした山吹色の瞳。

 美人と幼さを兼ね備えた元気一杯と言う言葉が良く似合う女の子だ。

 

 

「ねぇねぇ、今日って編入生が来るみたいだよ」

 

 

「んぇ、そうなの?」

 

 

「この前に先生が言ってたでしょ?」

 

 

「忘れちゃってた」

 

 

 今日は編入生がやって来るという小さなイベントがあることをシャルロットから聞いたが、パトラは完全に忘れてたと何気ない笑顔を浮かべる。

 

 

「おはよ、二人とも。何の話してるの?」

 

 

 すると今度は大人な女性がやって来た。

 薄紫色の長髪に二本の角が側頭部から生やしおり、尻尾を揺らしながらおっとりとした紫色の瞳で二人を眺めていた。

 

 彼女は″西園寺 メアリ″、同じく魔界出身のお姉さん担当である。柔らかな微笑みを浮かべ続け、友人の会話に参加して行った。

 

 

「おっはよーメアリ!」

 

 

「ほら、今日って編入生が来るらしいじゃん。その話してたんだけど、パトラがその話聞いてなかったみたい」

 

 

「あら、そう言えばそうだったわね。一体どんな人なんだろうね?」

 

 

「噂によると男の人らしいよ〜…」

 

 

「あ、せきしー!おはよー!」

 

 

 一人、また一人と増えていき、今度は少し小柄でダウナーな女の子がやって来た。

 いち早くシャルロットが気付いて挨拶を交わす。まだ寝足りないのか瞼を擦りながら歩み寄って来る。

 

 彼女は″堰代 ミコ″。またまた同じく魔界出身で薄緑色のショートヘアに青色のつぶらな瞳。右目に眼帯を着けており、メアリと似た捻れた角を側頭部から生やして、尻尾は何処か力無く揺れていた。

 

 

「おあよ〜…う〜ん、眠い」

 

 

「男の人!?珍しいね、仲良くなれるかなぁ?」

 

 

 彼女達は四人でいつものメンバーのようだ。二列二人並びで会話をするのに慣れているくらい、この瞬間は日常茶飯事のようだ。

 会話の内容は変わらず編入生の話で、シャルロットが驚いた情報である男子生徒がやって来ると言うのは、この学園では珍しいとのこと。

 

 

「意外と少ないもんね、この学園の生徒の数もただでさえ少ないんだし。まぁでも、どんな人なんだろうね」

 

 

「僕は何だっていいけどね〜」

 

 

「優しそうな人がいいな〜…」

 

 

 メアリの言うことに三人も同意するように軽く頷く。煌星学園の校舎は、見た目の割に生徒は全くと言っていい程に少数であり、百どころか五十にも満たない。

 その上、女子生徒が多いというなんとも偏りが異常な所である。ミコは余り興味がないのか、また欠伸をしながらそう言う。

 

 パトラは一人、何かが変わりそうな予感がするという小さな思いを感じながらそう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 場所は変わって、ここは二学年の教室。既に何人かの生徒はやって来ており、仲がいい者同士で何気ない会話に花を咲かせていた。

 そんな和気藹々とした所に、また一人の生徒がやって来た。近くにいた生徒にも軽い挨拶を交わしながら自分の席へ着くと、その前にいた生徒にも挨拶をする。

 

 

「おっはよーミオ!」

 

 

「あ、おはよーフブキ。何か今日って編入生とか来るの?噂になってるみたいだけど」

 

 

 白き狐の獣人こと白上 フブキはある生徒と話す。

 一筋の赤毛が混じった黒髪の長髪で代赭色の柔和な瞳に母性を感じさせる雰囲気、そして頭にはフブキと違った黒い獣耳と尻尾を生やしている。

 彼女は″大神 ミオ″。狼の獣人の少女であり面倒見が良くて周りからはママとも呼ばれている。

 

 そんなミオは、今話題になっている編入生への来訪を話題にフブキと話をする。

 

 

「そうだよ。いやーお仲間さんが増えますねぇ〜」

 

 

「どんな人なんだろ…仲良く出来るといいね」

 

 

 フブキは能天気に編入生がどんな人だろう言う前に、新しく来る仲間ということに喜んでいた。その対照でミオは少し不安な思いを言葉にしていた。

 

 

「おはなきり〜、余っ!フブキにミオ、何の話をしてるんだ?」

 

 

「おはよー!まつりちゃんもま〜ぜて〜!」

 

 

「あやめちゃんにまつりちゃん、おはよ!」

 

 

 そこへ別の生徒がフブキとミオの所へやって来た。独特な挨拶をしたのは、白髪に朱色のメッシュの長髪にクリッとした赤色の瞳。そして頭部には二本の角が生えている。

 彼女は鬼族の″百鬼 あやめ″。見た目とは裏腹に強力な戦闘力を誇る。

 

 もう一人は″夏色 まつり″、茶髪のサイドテールに空色のパッチリとした瞳をしている。彼女はただの人間であり、元気が取り柄の少女だ。ただし、あまり品がよろしくないとのこと。

 

 途中参加して来た二人にミオが簡単に話と、その内容にあやめは何処か思い出したように言い出した。

 

 

「編入生が来るって言う話してたの。多分二人もその噂とか聞いてると思うけど」

 

 

「あー、そう言えばそんな噂聞いたことがある余。編入生…編入ってことは、つまり強い者が来ると余は推測するぞ!」

 

 

 この学園に編入する、それは即ち特別な力を持った強力な者が来ると言う意味にもなる。煌星学園には多くの強力者は存在しているのだが、途中で煌星学園に入ったと言う生徒の前例はなく今回が初めてであった。

 あやめが自信たっぷりにそう言うが、他三人はそうは思ってなさそうだ。

 

 フブキは顎に指を添えながら想像してみるも、ぱっとせずにただただ難しい表情を浮かべていた。そんなフブキを見てポーズも一緒に真似をするまつり。

 

 

「う〜ん…いまいち想像できないんだよね〜」

 

 

「どうだろうね、そこは実際に見てみないと分からないし…それより、何でそんなウキウキしてるの?まさか戦ってみたいとか思ってる?」

 

 

「え?そうだ余?」

 

 

「何時から戦闘民族になっちゃったのあやめちゃんは…」

 

 

 そこでミオがあやめに対して少し違った雰囲気を感じ取り、まさかと思って聞いてみれば当の本人は当然かのように肯定した。

 これにはミオは呆れ、フブキとまつりは二人して苦笑いしていた。あやめはなんのことか理解しておらず、キョトンと可愛らしく首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おはぺこー。今日もあっちぃぺこな〜」

 

 

 兎の獣人の少女こと兎田 ぺこらは、既に来ていたいつものメンバーに挨拶をして直ぐにぼやく。それに気付いたエルフの少女が彼女の言葉に反応してとある話題を持ち込む。

 

 

「おはよーぺこら。ねぇ、この間は本当に大丈夫だったの?」

 

 

「あ〜大丈夫大丈夫ぺこ。ペこーらの運が勝って何とかなったぺこ」

 

 

「確か、男の人が助けれくれたんだっけ?団長よりも凄い強いみたいなこと言ってた気がするけど」

 

 

「その人が処置してくれたけど、まだ怪我も完全には治りきってないんでしょ?」

 

 

 少し前に、とある少年に助けられたぺこらはヴィランからの攻撃に命永らえた。

 だが、逃げていた途中で足を挫いてしまっていて、まだそれが治りきってはおらず心配を掛けていた。少し場の空気が悪くなってきたことを感じたぺこらは、何とか大丈夫だとアピールしようとしたが。

 

 

「それよりも船長、その男の人が気になります。どんな感じだったのぺこら?」

 

 

「それよりもって!ぺこーらのこと心配してねぇぺこか!!マジで死にかけたって言うのに!!」

 

 

 赤髪のツインテールの少女が別の話題に食い付いてきた。

 自分の危機が次いでにと聞こえたぺこらは、咄嗟に怒りを露にしてその少女に問い詰める。そんな気迫のある兎の怒りに、赤髪の少女は少し慌てて何とか弁解しようとする。

 

 

「そ、それはちゃんと心配してましたよ!それでもやっぱ気になるじゃないですか!漫画しかなさそうなシチュを生体験した時のトキメキはあった筈です!いやあっただろ!!」

 

 

「命掛かってる時にそんなもん感じるわけねぇぺこ!!何言ってんだよ!!」

 

 

 弁解もクソもなかった。頭の中は少女漫画に犯されているのか、唐突に現れ始めた嫉妬心が赤髪の少女に徐々に火がついて、逆にぺこらを責めるようになっていた。

 そんな訳の分からない言い分にぺこらも更に激昂する。

 

 実際に死にかけたし、少しくらい慰めて欲しい気持ちがあったぺこらだが、彼女の性格上それを素直に伝えられることが出来ずに、こんな展開になることは度々ある。

 

 

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いてよ…」

 

 

「二人は本当に朝から元気なのです」

 

 

「でも確かにマリンの言ってることも気になるよねぇ〜。どんな人なんだろうね?」

 

 

 ギャーギャー騒ぐ二人に、エルフの少女が率先して慌てて止めに入って行く。小柄な緑髪の少女は見慣れたその光景に呆れ、銀髪の少女は先程のやり取りの言葉を思い返しながら窓の外に目を向けていた。

 

 こんな少し騒がしい日常が当たり前で、幸せなことなのだと心の内からそんな思いが不意に出て来て、何気なく微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ…この日が来てしまったか」

 

 

 目の前にの校門の向こう側にある校舎を眺めて、知らずの内に溜息が吐き出てくる。

 その少年、龍成は今を見つめて軽い憂鬱に気分が起きていなかった。谷郷から連絡先を交換してから、随時連絡すると言う話はしていた。

 

 だが、自分が思っていたよりも準備も手続きも早く済ませていたことに驚きだった。それから教材や制服が送られ、編入する指定日は近かったので慌てて啓次さんにシフトの調整をしてもらった。

 

 

「制服なんぞ初めて着たけど、こんな感じなんだな……変じゃないかな。」

 

 

 煌星学園の制服は、紺色を基調として何処か執事服に似たようなデザインをしていた。バイト先でも似た服を来ている為、そこまで抵抗感はないがちょっと堅苦しいので多少は着崩してはいる。

 変な感じじゃないか心配はするが、何時までも格好のことなど気にしていられない。

 

 

「またここに来るとはなぁ…啓次さんも相当、吃驚してたなぁ」

 

 

 あの煌星学園に入ることになったといきなり話してみれば、啓次さんも仰天するのも無理もなかった。次いでにヴィランの件も話せば昇天目前。

 別に隠していたつもりじゃなかったが、言うタイミングがなくて中々話し出しずらかったのだ。

 

 ただ…半分気絶しながらも珈琲を注ぎ続けている姿はシュールだったな、殆ど白目だったぞ。

 

 

「…ま、さっさと行くか。あの人からの連絡通りだと、先ずは教務室に向かうんだったか」

 

 

 前に偶然出会ったかなたに、校舎を案内してもらったお陰である程度の構造は覚えていた。谷郷さんからの通達だと、先ずは担当となる教師に顔を出すとのこと。その人達にも話は通してあるみたいだから直ぐに気付くと言っていた。

 そんな内容を思い出しながら向かい、教務室までの道程はそこまで遠くはないのですんなりと着いた。

 

 軽く息を吐いて気分を切り替える。変なとこで少し緊張している自分がいるが、この後の方がもっと緊張するだろうと思って一旦落ち着く。

 扉をノックすれば簡単な返事が返ってくる。入って中を確認して見ると、眼鏡の女性がこちらを見て察し気付いたのか、佇んでいる俺に近寄って来る。

 

 

「もしかして君が編入生かな?」

 

 

「はい、紫黒 龍成と言いますが…」

 

 

「話は学園長から聞いてるよ。私が君の担当教師になる″有仁 永(ゆうじん えい)″だよ、何でか周りには『友人 A』こと″えーちゃん″って渾名で言われてるから、もしだったら君もそれで呼んでくれて構わないよ」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

 いきなり担任の先生のことを渾名で読むのは中々ハードルが高いんじゃないか?逆にフレンドリーで接しやすいのは助かるのだが、流石にすっ飛ばして友達のように呼ぶのも気が引ける。

 でも、これは彼女なりの緊張の解し方なのだろう。何となくそんな気がする。

 

 

「さぁ…てと、長々と説明は出来ないから早速だけど、この学園の仕組みを粗方教えるよ。後は悪いんだけど他の生徒に教えて貰っていいかな。実は私にはやることがまだまだあってね…はは」

 

 

(め、目が死んでる…しかも体内の気も小さくて荒くなってる。大丈夫なのかこの人)

 

 

 教師という職はどれ程に大変なのかは理解しかねないが、今の彼女を見る限り余程の苦労人だと見て取れる。瞳は酷く濁ってよく見れば隈が隠し切れていないし、目の奥が死んでる…力無く乾いた微笑みが余計に哀愁を漂わせていた。

 

 

「あ、あの…無理はしないで下さいよ?それと、少し手を貸してください」

 

 

「どうかしたの?まぁ、はい」

 

 

 通常じゃこんなになるまで働いていたらぶっ倒れても可笑しくないし、どうしたらそこまでの忍耐力を身に付けられるんだ?チラッと机の上に見えたあの大量の空き缶に何か秘密があるのだろうか。

 

 それよりもと、永先生の片手を借りさせてもらうよう頼むと、彼女は少し怪訝そうにしたものの素直に手を差し出す。それに重ねるように自分の手を乗せて、川のせせらぎのように微力な気を少しずつ流し込める。

 

 

「っ!!暖かい…しかも嘘みたいに身体が軽くなったような…一体何をしたの?」

 

 

「ちょっとした御呪いみたいなものです。あからさまに窶れた顔をしてたので…流石に心配になりますよ」

 

 

 えーちゃんは不思議な感覚に少し戸惑いながらも、さっきまで重苦しかった体の調子が好調に変化したことに素直に驚いた。ずっと悩みの種だった肩凝りや目の疲労等が嘘のようになくなった。

 

 龍成は質問に少し濁しながら答え、オブラートに体を確りと休めるよう伝えも入れておく。完全に疲労を消したとか言うそんな都合のいい力じゃない。

 気は生命エネルギーを具現化させた代物、そして自身の体力に比例して反映されるものなので、弱れば弱る程エネルギーは小さくなる。

 あくまでも今の彼女に気を補充させて体力を補っている状態だ。

 

 

「ほぇ凄い…ありがとう、お陰で凄く楽になったよ。じゃあパパッと説明するけど、この学園は三年制でちゃんと五教科目を勉強しつつ、君達の本業であるヴィラン対抗策強化である戦闘科目。でもあくまでも君達は学生であり大人では…いや、種族によってはそんなの関係ないのかな?まぁいいや、取り敢えず無理は決してしないこと。命を第一にすること。困ったら誰かに頼ること。今はこのくらいかな、また詳しいことは追々か他の人に聞いてね」

 

 

「分かりました」

 

 

 簡易的にこの学園の説明を受け、本校の戦闘の基本中の基本である掟を聞く。ヴィランとの戦闘において一番大切なことは、先ず己の命を最優先すること。次に信頼する仲間を持つこと。そして人々を守れる力を成長させること。

 

 ヴィランとの戦闘は簡単な話ではないと言いたいのは理解はしているし自己犠牲で戦闘に貢献するのはその人のエゴだとも思ってはいるが、それは勇気ある者しか出来ない行動とも言える。考えれば考える程難しくなってくる。

 今はもう止めておこう、俺にはまだすべきことがある。

 

 

「それじゃあ、ここからは本題だよ。君を皆に紹介するけど、準備は出来てるかな?」

 

 

「すぅーっ……まぁはい」

 

 

 そう、これだ。一番の不安要素である自己紹介。はっきり言って俺は目立つのは好まないし、友達も出来る気はしない。コミュ障という訳じゃないが、周りからの印象がちょっと怖いのだ。

 何時も一人でいた俺だからどう接すればいいのか分からないから、上手くいけるかとても不安だ。

 

 

「そんな緊張しなくても…いやぁ、それは無理か」

 

 

「まぁ、頑張ります…」

 

 

 少し固くなっている俺に、永先生は苦笑いを浮かべながら緊張感を解すことなく無理かと言った。

 二人で教室に向かうまでこれと言った会話は特になく、この無言の時間が更に緊張感をじわじわと募らせていくことに思わずお腹を抑えてた。教室に着くまでが長く感じるが、近付くにつれて生徒達の雑談する集団の声が聞こえてくる。

 

 

「それじゃあ君は事前に連絡した通り二年生になるから、この学園の人数は少ないけど仲良くなれるようにね。まぁ皆いい子だからきっと大丈夫だよ」

 

 

「……だといいけどなぁ。

 

 

 大丈夫だと何度伝えられようが、やはり心に残る不安は簡単には消えてくれない。先生が教室へ入って行くと、さっきまで騒がしかった室内は忽然と静寂が訪れた。

 生徒達のちゃんとした教育が成されているのか、それとも生徒達自身の良さが出ているのか、どちらにしろ永先生が自信を持って言っていた良いクラスなのは本当なのだろう。

 

 

「はーい、じゃあ朝礼始めるよー」

 

 

 何故俺も続いて入って行かないのかと言うと、事前に教室前で待機するようにと伝えられていた為、少しの間だけ壁に凭れて落ち着いていた。

 

 その余りの静けさに、朝礼を始める先生の声に自然と耳が傾く。

 

 

「えー先ずはね、皆さんも何だかんだ噂で気になってたと思ういますが、今日からの初の男子生徒の編入生がここにやって来ます」

 

 

 ……ん?何か今、聞き捨てならぬ言葉が聞こえたような気がするんだが。あれ?聞き間違いかな…。

 

 

「では、入ってどうぞ〜」

 

 

 思考しようとしたが、先生に呼ばれてしまったことで直ぐに行動する。直前で変な不安が強くなってしまったが、もう後には引けない。

 

 覚悟を決めて目の前の扉に手を掛ける。そして開けて中の様子が目に入ると、俺は驚愕した。

 

 

「えっ…」

 

 

「ふぇ…?」

 

 

「あっ…!?」

 

 

 約三名のとある生徒が驚愕と困惑の混ぜた声を漏らす。その声の主達に龍成も見覚えのある人に気付きはしたものの、表情は崩さずにえーちゃんの横へと並んで立つ。

 そして生徒達を見た瞬間、彼はあることに気付いた。

 

 それもとても大きな問題に。

 

 

(……なんじゃこりゃ)

 

 

 なんと男子生徒が一人も見当たらないのだ。

 何処を見渡しても女子、女子、女子の赤一点ならぬ一色の園となっている。全生徒が彼に視線を釘付けにすることには当然な光景だが、逆に彼からしたら全生徒が女子生徒と言う異例な光景を見ている。

 

 男のおの字も無い、色とりどりな美少女が目の前に広がっていることに思考が止まる。

 

 

「はい、今日から彼が同じクラスの紫黒 龍成君です。じゃあ自己紹介いいかな?」

 

 

「……」

 

 

「…紫黒君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あ」

 

 

『(……あ?)』

 

 

 皆が見守る張り詰めた空気の中、溜めに溜めた開口一番が気の抜けた一文字の台詞。

 一部の生徒は何処ぞの鮫のフードを被ったある女の子を連想した。が、直ぐに彼も意識を立て直して改めて自己紹介を行う。

 

 

「紫黒 龍成です。種族は…ニ、ンゲンで趣味は読書とか音楽鑑賞が主になっています。えー…ちょっとまだこの学園に関して分からないことが多々あるので、色々教えて下さると助かります。よろしく…お願いします」

 

 

 少し緊張でちょっとした吃りと口の乾きで上手く伝えられたかは分からないが大丈夫だろう…大丈夫だろうと信じたい。未だに突き刺さる数多の視線に少しだけ萎縮する。

 

 女子しかいないクラスなんだ、やはり黒一点である男の俺がいると物珍しさで見るのも分かる。

 ここは女子校ではないはずだ、そんな話は聞いたこともないし偶々ここのクラスだけなのかもしれない⋯…いやそんな偶然あるか?

 

 

「では、紫黒君の席は窓側の一番奥の席ですね」

 

 

 小さく返事をしてから一番奥にある空き机に向かう。その際にまで様々な視線が自分に向いているのがまだ分かる。

 出来るだけ自分を自然になっているように保ち、なんとか椅子に座ることが出来た。漸く落ち着けるようになって一息着いてから正面を眺める。

 

 

「はい。という訳でね、彼について色々と気になるかもしれませんがその前に一つ報告があります。この間に、ヴィランの発生が二件ありました。ここ最近では、ヴィランの目撃情報なども多くなっています。君達はそれに対抗する術を持っていますが、決して自らの命を犠牲にすることなどは呉々もしないように。力を合わせていきましょう」

 

 

 朝礼はまだ終わってはおらず、ヴィランが発生した内容を話し始める。テレビのニュースでもヴィランの事件は最近よく見掛けることが多いし、庶民からの不安の声も止まらない。

 

 国もどうにか対策を練ってはいるらしいが、結局のところヴィランを対策に一番頼れるのは煌星学園(ここ)しかないのだろう。

 そうなると、その不安や責め立てる声はこっちに来るのも自然だ。

 

 

(ヴィラン…最近流行ってるのか。通りでよく出会う訳だ…思ったより大変かもしれないな、ここの学園は)

 

 

 そんなこんなで朝礼は終わりを迎え、授業の準備の為に永先生は一旦教室を出て行った。それと同時に場の空気は緩くなって、再び雑談している騒がしい空間へと変わっていった。

 俺も緊張感が解れて椅子の背に凭れ掛かって、落ち着きを取る為に息を吐く。

 

 すると何者かに右肩を小さく突かれて、それに釣られてふと横に視線を向けると俺の隣の席だろう黒髪の女の子が眩しい笑みを浮かべていた。

 

 

「今日からよろしく!自分は″大空 スバル″って言うっす!スバルのことは名前で呼んで欲しいな!君のことは何て呼べばいい?」

 

 

 彼女はボーイッシュな見た目と口調だが、持ち前の人当たりの良さと可愛さが見え隠れしているのに何処か惹かれる魅力を感じる。

 スバルからどう言う名で呼べいいかと聞かれるが、そんなことを聞かれたのは初めてな為少し困ったが当たり障りのないように伝える。

 

 

「あぁ…よろしく。そう言うのはお前の呼び易い方に任せるよ。苗字でも名前でもどっちでもいいかな」

 

 

「じゃあ普通に龍成でいいっすね?それにしても、かっこいい名前だよな!いいな″龍成″って!凄い男らしいじゃん!」

 

 

「あ、ありがとう」

 

 

 元気全開なのか話すトーンがやたら大きく聞こえて、押され気味になってしまう。名を褒められて悪い気はしないが、結構グイグイと寄ってくる彼女に少し引き笑いになる。

 そしてその後ろからは、見覚えのある一人の人物がやって来た。

 

 

「まさか、紫黒がここに転校するぺこなんてね。昨日の用事って言うのはこのことだったぺこか?」

 

 

「そう言う兎田もここのクラスとはな」

 

 

 うさ耳を生やした獣人であるぺこらは、何処か呆れたように会話に加わって来た。

 ぺこらだけではなくもう何人かを連れて来ながら、昨日出会ったばかりの彼女との会話に連れの人達は何処か困惑のした表情を浮かべていた。

 

 

「え、ぺこら…もしかしてぺこらが助けてくれたのって」

 

 

「ほうほう…これは、中々なイケ優男の気配をビンビン感じます!」

 

 

「しかもちょっと可愛い感じもあるよね〜。あ、いいかも…」

 

 

「ちょっとマリンもノエルも落ち着きなよ…」

 

 

 色とりどりな髪色をした四人の少女が龍成とぺこらの姿を凝視しながらそれぞれの反応を見せる。

 急な人数が集まって来たことに、龍成はちょっと動揺が顔に浮かび始めてしまう。それだけで終わることなく、次々と新しい者が彼の元へとやって来る。

 

 

「紫黒さん!一体どう言うことですか!白上はこんなこと聞いてませんよ!?」

 

 

「ちょ、ちょっとフブキも落ち着きなよ…!」

 

 

「え、なになに〜?フブキこの人のこと知ってんの?フブキも中々隅に置けないねぇ〜」

 

 

「じ〜…」

 

 

「ねぇあなた!やっぱりあの時の店員さんだよね?」

 

 

「え、パトラ。この人と会ったことあるの?」

 

 

「ちょっと待って待て待て」

 

 

 何か一気に頭髪の色とりどりが来た。しかも全員に美が付く少女だし、そんな迫られると息が詰まってしまう。

 何人かが何処か期待の込めた視線を混ぜているのに気付くが、駆け込み乗車の如く押し寄せて囲まれるこの光景には困惑しかない。

 

 しかし、俺が納得出来る説明しなければ彼女等はここを動きませんってそれとなく伝えてる気がする。どうにか、頭の中で説明する言葉を構築して整理する。

 

 

「えーっと…簡潔に纏めて説明すれば、兎田とは前に関わりはあったのは、さっき永先生が言ってたヴィランの件で襲われてたから助けて…白上とは、以前ヴィランとの件で関わりがあって…それでそっちの子とは、俺が通っているバイトで少し話したくらいだな」

 

 

「そうだったんだ」

 

 

「なるほどなぁ、じゃあ龍成がぺこらを助けたのって嘘じゃなかったんだな」

 

 

「何でペこーらが嘘付いてると思ったんだよ!!」

 

 

 哀れなる兎田。単純に弄られているだけなのか普段嘘をついていた弊害なのか、だが彼女の反応を見るに心外と思っているようだ。

 どうやら、俺が兎田をヴィランから助けたと言う話は既に出回っているようで、その話題は嘘か真かで定かではなかったらしい。哀れな兎田。

 

 

「あの、あなたがここにいるってことは何か″異能″とか持ってるの…?あ、私は周防 パトラって言うの!気軽にパトラって呼んでね!」

 

 

「なぁ…人間様?余も聞きたいことがあるのだが」

 

 

「あ〜…」

 

 

「なぁなぁ、流石に一気に迫り過ぎだろ。龍成もちょっと困ってるし、一旦皆で自己紹介でもしたらどう?」

 

 

 ここでスバルからの一つ提案を出してくれる。

 確かに、沢山いて誰がどんな人かも分からない。そんな中で質疑応答したって、無闇に自分の情報を答える程不用心ではない。

 

 

「はいはーい!じゃあ船長からいきますね?」

 

 

 一番手行きます!とカラオケのノリのように手を伸ばし、一人称が可笑しな赤髪の少女が初めに自己紹介をやる。

 異論はなかったのか誰一人として横槍をする者はいなかった。赤髪の少女が軽い咳払いを一つしてから、きゅるんと何処か甘い雰囲気に変わり、体をくねらせた。

 

 

「Ahoy!宝鐘海賊団船長の″宝鐘 マリン″ですぅー!ピチピチの十七歳で、気軽にマリンたんかマリリンって呼んでね♡出っ航〜♡」

 

 

「うわきっちぃぺこ…」

 

 

「はあぁ!?何がキチィんだよ!?私みたいな美少女がやって何処に問題があるのか言ってみろよおおおおおぉ!!!」

 

 

 赤髪のツインテールに朱色の瞳で片目に海賊らしい眼帯を装着していた。スタイルは女性の方では恐らく憧れを持たれる程の綺麗さがあり、面白さが滲み出ているお姉さん感がある。

 確かにあざと過ぎるとは思ったものの、兎田の吐いた毒にあんな急変になるとは情緒と本性が分からなくなる。

 てか、今船長って言ったか?もしかして啓次さんの厄介者の一人はこの人だったのか。

 

 二人のやり取りに、金髪のポニーテールの少女が困った表情で溜息を吐いていた。

 

 

「はぁ…騒がしくてごめんね?あたしはハーフエルフの″不知火 フレア″って言うの、よろしくね。それでこっちが…」

 

 

「こんまっする~!白銀騎士団長の″白銀 ノエル″です!よろしくね〜!団長のことはノエルって呼んでね?ねっ?」

 

 

「こんるし~、初めましてなのです。るしあはネクロマンサーの″潤羽 るしあ″って言うのです!気軽に接してって欲しいのです、よろしくなのです!」

 

 

 尖った耳が特徴のハーフエルフのフレア、少し褐色な肌色に金髪のポニーテールに柿色の瞳をして、兎田率いるこのメンバー達の纏め役に頼れる人姉御肌に感じた。

 次に白銀騎士長のノエル、銀髪のショートに緑色の丸い瞳で胸部が凄いことなっている。ほんわかとしつつ天然よりなものがある。

 そしてネクロマンサーのるしあ、彼女は小柄な体で浅緑色のショートで赭色の瞳をしている。可愛の雰囲気が醸し出されているが何処かのほほんとしたものも感じる。

 

 彼女達が終わったのを察知したのか、狼の獣人の少女が次にへと話を切り出す。

 

 

「じゃあ次はウチ達かな?ウチは大神 ミオって言うの、よろしくね。ゲーマー部の副部長をやってるから、ゲームとか好きなら入ってみてね」

 

 

「因みに部長は白上なので、入りたかったら私に言ってくださいね!」

 

 

「わっしょーい!煌星学園一の清楚でみんなのアイドル夏色 まつりで~す!ゲームとか歌とかが好きだよ!よろしくねっ!」

 

 

「余は鬼族の百鬼 あやめだ!よろしくな!それで龍成、お主からはとても強い気配を感じるぞ。是非とも余と一戦交えて欲しい余!」

 

 

「私は島村 シャルロットって言うの!シャルって呼んでほしかな。それでそれで!パトラとはどんな会話をしてたの?」

 

 

「……」

 

 

「いやだから!そんな一遍に問い掛けられても龍成が困惑するだけだから!!」

 

 

 次は自分、次は自分と再び駆け込み乗車の如く前へ前へと龍成の視界を取って自分をアピールする。

 なんとも言えなくなる龍成の代わりに、スバルが横から遮ることで更に騒がしくなって苦笑いが浮かぶ。わちゃわちゃとしたこの場所は、来たばかりの彼にはまだ馴染むには少し早いのかもしれない。

 それでも、彼女達の個性が独特なお陰で名前は簡単に覚えることは出来た。

 

 

(これは…波乱な生活になりそうだな)

 

 

 これからの生活に刺激的な日々が送れそうだと思うと、少しだけ楽しみにしている自分がいる。今までこうやって接される人がいるのは随分と久しぶりだった。

 この光景を見ていたら昔に見た記憶が重なって口角が小さく上がり、次の授業が始まるまで雑談をするのだった。

 

 

 

 

 




容姿の説明に段々と面倒になってるが見えてきてる。かと言って書き過ぎるのもあれだったので、できるだけ端的にしときます。えーちゃんの名前は勿論オリジナルです。紹介的にそのまんま使うと違和感を感じたのでね。自分で見返してもよく分からんのですが、読みずらくはないでしょうか。まだまだ不慣れですがよろしくお願いします。

では〜。
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