さてさて、今回は戦闘の前置き話のようなものになっております。
じゃ、どうぞ〜。
あれから慣れない授業に参加して何とか内容に食らいついて行ったが、結果を言えば散々なものだった。今まで訳あって学業に向かい合えなかったとは言え、そのツケはとても大きいものだった。
それに一からではなく途中から始めたのだ、新しい路線に踏み入ってみればいきなり学業と言う分厚い壁が目の前を遮って来たのだ。
そんな思いもしなかった障害に龍成は頭を抱えて悩んでいた。
そして疲労を感じる原因はそれだけではなく、初めての男子生徒と言う名目があって質問攻めにあっていたのだ。更には聞くに、この学園には女子生徒しかいなかったらしい。
初めはまさか女子校なのではと思ったが、どうやら偶々とのこと。
そんな偶然あってたまるか。
そんなこんなで漸く昼の休憩時間がやってきたことに安堵する。全力で学業に追い付こうとしたが為に頭の使い過ぎて、何時まで経っても頭痛が収まらない。
昼飯時くらいは落ち着いていたいのにそんな様子はなさそうと察すると、溜息が出てくる。
「はぁ…学園って、結構疲れるんだな」
「いやまぁ、それは編入生だからだと思うよ。それに人間で戦闘経験もあるってなれば、皆も余計に気になって食いつくからなぁ……てか大丈夫?」
「取り敢えずはな。それにしても…ここって本当になんでもあるのな。あむっ…」
龍成がいる場所は食堂にてスバルとぺこらとフレア、ノエルと共に昼ご飯を食していた。
弁当を持ち合わせていなかった彼は、昼ご飯をどう済ませれば分からずスバルに聞いてみた所、こう言う場所があると知った。
この食堂では凄腕の料理人がいるので味は勿論、幅広い料理の種類が存在している。飲み物もあるしデザートもある。それも全て無料と言うのが魅力的な理由だろう。
この学園の凄いところはそれだけじゃなく、温泉や特訓施設に研究室にプライベートルームと言う生徒のシェアハウス的な施設まであるらしい。
要はこの学園で生活を過ごせるとのこと。凄い。
「人々を助けながら学園生活って言うのは厳しいからね。それなりの待遇を得させないと生徒がただ大変な思いをするだけだって、学園長が言ってたし。はむっ…」
「そうぺこ!ペこーら達は命張って戦ってるんだぺこだから、それぐらいはないとやってられないぺこ」
確かに、フレアとぺこらの言うその意見も一理ある。簡単にヴィラン討伐すればいいだけの話とは言え、死と隣り合わせの生存競争の行為だ。
弱いヴィランが存在しようとも、未知の化け物なのは変わりないこと。油断して殺されたなんてことがあれば笑い話にもならない。
そして、そこでノエルが何か思い出したように龍成に一つ聞いた。
「そう言えば、龍成君は異能とか持ってるの?」
「パトラにも聞かれたが…持ってないけど、そもそも異能って何なんだ?」
「異能を持ってないであれって、本当にヤバい奴ぺこ…」
ちょくちょく小耳に挟んではいたが、異能と言うものに不思議に思っていた。そんなものは持ち合わせている訳はなく、分からず首を傾げば何故か兎田が俺を見て引き気味になっていた。
「異能って言うのは…まぁゲームで言うなら特殊能力と同じだね。あたしは『強弓術』って言う、主に弓の技術を最大限に引き出す能力で⋯ぺこらは『幸運』の異能を持ってて、ノエルは『鉄壁』って言う防御に優れた異能。マリンは『千里眼』で色々と情報とか弱点を見抜く異能。るしあは異能はないけれど、ネクロマンサーとして死靈術を熟してサポートしているよ」
「皆持ってる訳じゃないのか?」
「いんや、全員が全員持ってるって訳じゃないよ。スバルも異能とか持ってないんよ。けれど戦う術はちゃんと持ってるっすよ!」
「スバルも普通の人なら、どんなのなんだ?」
「スバルは″トランスパワードアーマー″。略して『TPA』って呼ぶんだけど、それを使って戦ってるよ!流石にスバルは生身じゃ戦えないから、技術で攻めるしかないんよね」
「凄いな…スバルは」
異能とは、その者の固有能力で特別な力を宿すこと。発能原因する理由は解明はされていないとのことで、突如としてその人の潜在能力が開花されて形になるらしい。
しかし、今言ったスバルのような異能を持たない人もいれば、るしあのように別の種族能力を持った者もいる。
そんな中でスバルは異能も持たず別方向で戦いに行く姿勢に、龍成は心から尊敬した。
そう褒められたスバルは少し照れそうにしていたものの、自分の手を見て困ったように語る。
「いやぁ別にそこまで凄いって訳じゃないっすよ。幾ら戦力を蓄えたって、やっぱり戦うってなるとちょっと怖いし…緊張で手が震えるよ」
「そういうものぺこよ、誰だって戦いには簡単に慣れるものじゃないぺこ」
「まぁ…一部例外はいるけどね」
思い方は人それぞれだとは分かっている。消極的な者もいれば好戦的な者もいる事実は否定はしない。
フレアの言った一部例外と言う言葉の中に、俺も思い当たる人物が容易に想像出来ていた。なんなら現状の悩みの種の一つとも言い切れる。
「あ、いたいた!おーい龍成ー!余と戦ってくれ余ー!お主は強い者だと余は確信している!だから戦ってくれ!!」
「噂をすればやって来たなぁ」
「…はぁ」
そう、百鬼 あやめの異様なまでの対戦相手の招待をしてくることに困っていたのだ。それはもう執拗いくらいに誘って来る。休み時間に一足先に俺の元へ来れば開口一番は決まってそればかりだった。
流石の俺でも彼女への印象はちょっと好ましくないし、うんざりしている。
「こらーあやめちゃん、あんまり困らせちゃ駄目だよ?」
「私達も混ざってもいいですかー?」
「幽世組も来たね、いいよいいよ。丁度彼のことについて話してた所だから」
来たのはあやめだけでなく、フブキとミオも着いて来ていた。一人興奮しているあやめに対してミオは注意を施し、フブキ達も龍成達の輪の中に参加する。
そしてあやめは龍成の正面へと座ったと思えば前のめりになって来る。
「なぁなぁ龍成!余と一戦交えてくれないか?きっといい戦いの経験が出来るぞ!お願い!余と一回だけでいいから!」
「飯くらいゆっくりさせてくれ。それに…俺とお前が戦って何になる?経験がどうこう言っているが、対人戦なんてお互いに怪我をするだけだ。悪いが俺はその話には乗れない」
ヴィランは人なんかじゃない、それは誰が見ても明々白々な事実。それなのに人と人で力をぶつけ合う試合には、如何せん納得が出来ない。
そもそもな話、この学園に通う者達の大きな力はあくまで″ヴィラン討伐″の為にある筈なんだ。それなのに力を人に向けるのは違くないかと、俺は思っている。
「むぅー!何でだ余ー、この経験があるからこそ更なる高みを目指せるんだ余!決して無駄ではない!」
「力を使う矛先はヴィランだけでいい。俺は極力⋯人に力を向けたくないんだ。」
俺は自分の持つ力の危険性を充分に理解しているから、幾ら力加減をしたって軽い怪我で済むとは思っていない。
先ず大前提として、俺は誰かに対して力を向けたくはないのだ。対人戦をしたってそれが何になる?まさか行事で試合でもさせていると言うのか?だったらこの学園は、はっきりと馬鹿だと声を大にして言ってやろう。
「…どうして、そこまで頑なに否定するのだ?」
「いや、ペこーらも今思い出したけど…そう言えば紫黒の力はマジでやばかったぺこ。正直言うと、あやめちゃんでも……いや、やっぱ分かんねーわ」
「でもでも、確かに私も龍成君の実力が気になりますね」
「ぶっちゃけるとスバルも気になるっす!」
「あたしもちょっと気になるかな」
皆して気になると言う理由が一致する。この学園でヴィランの事件を一人で解決すること自体がそもそも少なかったと言うのもあると、スバルからは聞いていた。
それで気になると言われれば仕方はないと思うけど、だからと言って見世物にはしたくない。
「ウチも気になるけど…龍成君が嫌って言ってるんだから、強要はしない方がいいよね」
「うぅー…余もそれなりに自信があるんだけどなぁ。ヴィランなんて何度も斬り捨てて来たから、龍成とは″良い勝負″が出来ると思ったんだけどなー」
あやめは楽しみにしていた物を没収された子供のように凹み始め、寂しそうにそう言葉を発していた。
それを聞き逃さなかった龍成は、暫し考えてみる。
確かにあやめの気は素晴らしいくらいに甚大なもので、そこらより強いのは戦わずとも把握している。
一から十で例えるなら、六か七くらいの強い前線のタイプだ。フブキとミオも中々強い方であやめと良い勝負するだろう。
逆に考えて、ここで俺が戦って示してやるのも一つの手かもしれない。やってみる価値はあるし、それが俺にとっていい方向に向かうか悪い方向に向かうか、それは彼女等次第にもなる。
「……そこまで言うなら
「え、いいの?でもさっきあんなに…」
「気が変わった。ただし今回だけだ、今日の放課後に予定空けとけよ。どうせここに闘技場みたいな所とかあるんだろ?」
ミオが心配そうな表情でこちらに目を向ける。ミオだけでなく他何名かも同じように、彼の変わりように注目する。そんな状況になっても気にすることもなく、食事終わりに食器を重ねている。
「う、うん。あるけど…本当に無理しなくていいよ?」
「大丈夫。本当に嫌だったら執拗いくらい否定するから。あやめ、それでいいよな?」
「いい余っ!漸くやる気になってくれたな!楽しみにしてるぞ!」
闘技場のような施設はやはり存在していらしく、その確認さえすれば後は充分。あやめも龍成との戦闘が可能だと知れば、小さい子供のように喜んで楽しみにしていた。
そんな彼女の純粋な笑みを見ていて、龍成はそれに対して不敵な笑みを浮かべる。
「楽しみ…ね」
先に戻ってる、と一言だけ伝えて食器を片付けて教室に戻って行った彼に、彼女達は何も言えなくなってしまっていた。その理由は言わずもがな彼の雰囲気がごろっと変わりだしたこと。
それはまるで、柔らかな物から冷たくて鋭利な棘が滲み出してきたようなものだった。
「何か…雰囲気違ってたね」
「…そうだね、何か昔にあったのかな?」
「だとしても無理に聞く訳にはいかないもんね。」
フレアとフブキとミオがそう会話して、何とか次の話題へと繰り出して一旦彼のことはそっとしておこうと、言わずとも皆は察して昼食の会話を楽しむことにした。
あやめは見るからに嬉しそうになっており、それを見て癒されながらご飯を食べて至福に入り浸っている者が所々いた。
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『本当に甘いな、お前は』
(分かってる…だから俺は、その時は優しさを捨てて力の真の意味を叩き込める。昔にあんたがしてくれたように、な)
教室に一人先に戻った龍成は、自分の席で腕を組んで目を瞑っていた。過去のことを思い出しており、昔に教えられていたものを次は自分がするようにすると心の内で決意する。
考えれば対策のしようはある、例えば″攻撃を当てる必要がない″こと。簡単に言えば力の差を見せ付けることだ。
「ねぇねぇ」
(あやめのあの言動だと自信はありそうだし、何より鬼族だからか戦いを楽しみにしている)
そこに一人の悪魔の少女の、周防 パトラが声を掛けて来た。
たが考え込んでいる龍成はそれに気付いている様子はなく、まるでパトラを無視をしているような構図が出来てしまっていた。
「むぅ、ねぇってば!」
(まっ、どちらにしろ俺が″負けることなんてない″けどな)
しかし、パトラは今の龍成の様子を察していたらしく、如何にも不満ですとムッとした表情を浮かべて先程より声量を上げてみる。
それでも不思議と彼の耳には届くことはなく、一人で腕を組んで机を眺め続けていた。
「むぅ〜…ていっ!」
「にゅっ…!?」
こうなったらと最終手段に実行し、両手で彼の顔を挟み込んで無理矢理自分と視線を合わせて、そこで初めて龍成はパトラの存在に気付いた。
ジト目をしていた彼女の顔を見て、何かしてしまったのだろうかと思ったのだが、もしかしたらさっきからいたのかと察した。
「もうっ!さっきから呼んでたんだよ?」
「ご、
何とか謝罪の意を示して声を出すのだが、挟まれている所為で上手く伝えられているのか分からないが、途端に彼女は微笑みを浮かべて優しく語り掛けて来るが、それでも挟む手は止めない。
「凄く険しい顔してたけど、何か悩みごと?それだったら、この私がお話し相手になるわ!」
「
「思ったよりもちもちしてるのね、貴方のほっぺ」
「んぬぅ…」
「ふっふふ♪可愛い顔ね」
あまり気にしたことのない頬の柔らかさをパトラに堪能され、なんとも言えなくなってしまう。別にされて嫌悪感はないのだが、なんかこう…抵抗が出来ない。
そんなことで、結局パトラにされるがままに頬で遊ばされてるのだった。妖艶のような、それでいて母性のある優しい微笑みが妙に心臓の鼓動を早める。
「ちょっとちょっとパトラ、困ってるでしょ?止めてあげなよ」
「えっへへ、ごめんねりゅう君。ついつい触りたくなっちゃって。それより、何かあったの?」
そこへシャルが何も言えずにいた俺を見て、パトラに止めるよう声を掛けてくれて、それを聞いたパトラは軽く謝りながら素直に手を退けてくれた。
何か悩み事だと思った彼女は、相談相手になろうと親しみになって聞いてくる。シャルもそのやり取りに興味を持ったのか、近くまで寄って来てパトラの横に並ぶ。龍成もこのことは隠す必要はないと考え、素直に真実を告げることにした。
「んーとまぁ、今日の放課後にあやめと戦うことになった」
「「……え?」」
「ん?」
瞬間、あからさまに二人の顔色が変わった。聞かなくてもそれは分かる、それは決して良くない意味が込められている。
すると、途端に二人は慌てふためき始めた。
「え、え、え?龍成君、あやめちゃんと決闘するの…?」
「悪いことは言わないから、それは止めておいた方がいいとパトは思うな…!あやめちゃん、この学園の中でも上位に入る強さだし…だから、その…人間のりゅう君には…無理があると思うの」
「うん…私も流石に心配になるよ…」
人間と鬼、その二つの種族の力の差は歴然。パトラの言いたいことはよく分かるし、伝えずらい旨でもあるかもしれない。彼女達なりの優しさが言葉と態度に込められている。
「ふ〜ん、まぁ負ける気はしないし大丈夫だろ」
けど彼は自分の中の自信は揺らぐことはなかった。負ける気は絶対にないと断言していて、余裕の態度を崩さない彼に対して、命知らずもいい所だとシャルロットは思って更に慌てて否定する。
「いやいやいや!だってあやめちゃんは鬼族なんだよ!?力に差があり過ぎなのは分かってるでしょ!?」
「だとしても、それが俺が止める理由になるのか?それに、俺が提案したんだから尚更止める訳ないだろ。結局はやってみなきゃ分からない」
確かにそうだ。自分から約束を伝えておいてやっぱ止めますと言って、ドタキャンにもなれば信頼も無くなるし笑い話にもならない。
何を言われても勝負を止める気のない彼の言葉に二人は口を塞ぐが、そこでパトラが疑問の眼差しを向けながら核心の質問を聞く。
「何で…そんなに自信があるの?」
龍成はそれの返答に悩んだのか暫しの沈黙が三人を包み込む。前にぺこらにも伝えていたことだが、あまり自分の力を明かしたくはない。
たが何も答えずにいると変に思われるのも嫌だったので、最善の返答を返す。
「……見世物じゃないが、そんなに気になるなら実際に見た方が早いな」
「…わかった。今日の放課後だよね?私見に行くね!」
「でもパトラ、今日はハニストのシフト入ってなかった?」
「あ…そうだった、今日あるんだった…で、でも時間はあるし、意外と間に合うかも。うん、大丈夫」
「そんなこと言っといて〜、前に遅刻しかけたばっかでしょ?」
「パトラも何かバイトしてるのか?」
あやめとの試合の観戦するとパトラと約束したのだが、どうやら彼女はバイトに通っている上にシフトが入っていたらしい。シャルロットに少し煽り立てられ、ぐうの音も出せなくなり苦笑いが浮かぶ。
しかしそこで、ふと龍成はパトラが務めているバイト先に興味を持ち始める。
「うん。私達ね、『ハニーストラップ』って言う夕方から夜までやってる魔族が運営してる喫茶店で働いてるの!」
「そうなのか、″私達″ってことは…もしかしてシャルもそうなのか?」
「おっ、正解!まぁでも、何となく話の流れで分かっちゃうか。そっ、私もハニストの一員。他にも二人いるから、機会があったら紹介するね!」
「そーだ!前にりゅう君の所でサービスしてくれたから、今度はパトがいっぱいサービスするから良かったら来てね!」
「そうだな、暇があったら行ってみたいな」
「約束だよ!あっそうだ、連絡先交換しよ?」
龍成は何処か新しい所にも行ってみたかった思いもあったので、パトラとシャルロットの務める喫茶店に行くと約束を交わす。前に龍成のいたバイト先で色々とサービスをしてもらったパトラは、そのお返しも兼ねてそれ以上のサービスをしてあげようと考えた。
連絡先も交換するのだが、龍成は始めパトラのだけだと思っていたのだが、どうやらシャルロットも次いでに交換したいと申し出がきたので承諾しておく。
「よーし!これで何時でも予定が作れるね!」
「ハニストに来た時はよろしくね、龍成君」
「あぁ。…それでパトラ、俺のその呼び名は一体…?」
これで楽に連絡が取れ合うようになり、予定が作り易くなって困ることは少なくなったのだが、話の途中で龍成は一つ気付いたことがあった。
それはパトラが彼への呼び方に疑問を抱いたこと。いつの間にか渾名のような名で呼ばれて、少しこそばゆい気持ちになる。
「うん?あぁー、ちょっと馴れ馴れしかったかな…?りゅう君って呼ばれるの、嫌だったかな?」
そう言うと彼女は何処か申し訳なさそうにするも、ナチュラルな上目遣いをされて龍成は咄嗟に首を左右に振って否定し、嫌な感じがある訳ではないと微笑みながら伝える。
「ううん、別にそのままで大丈夫。単純にそんな呼ばれ方は初めてだっただけだからさ。なんと言うか…まぁそう呼ばれても嫌じゃないし、寧ろ…ちょっと親しみを感じてていいなって。」
「じゃあさ…シャルも君のこと、りゅう君って呼んでいいかな?」
「あぁ、全然いいよ」
そこでシャルロットも仲を深めたいと思い、パトラと同じように彼のことを渾名で呼ぼうと、顔色を伺いながら聞くのだが、それに対して龍成は快く承諾をして頷く。
「えへへ〜、ありがとう!」
「あ、そろそろ授業始まっちゃうね。じゃあ放課後にまた!試合頑張ってね!」
午後の授業が始まる予鈴が鳴り、他の生徒達も自分の席へと戻って行く。シャルロットは何処かルンルン気分で戻って行き、パトラは龍成に笑顔を向けながら手を振って戻って行った。
龍成はそんな彼女の元気な姿と小さな応援に、優しい性格の持ち主だなと思いつつ、心が何処か暖まるのを感じていた。
そして授業が始まる前まで、何故か数多の視線が突き刺さっていたのに少し気味が悪かった。
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今日の全ての授業が終わりを迎えるまで何とか意識を持ち堪え、頭を使い過ぎた影響で多少の頭痛に溜息が出てくる。
この後はあやめとの試合が控えているが、この程度なら影響はない。
「紫黒君。百鬼さんと戦うのって本当なの?」
「あぁ、はい」
トイレで用を済まして戻ってる途中、そこへ永が真偽を確かめに龍成の元へやって来た。まさか彼女からやって来るとは思えず、龍成は少し目を開いて意外な人が来たと思いつつも素直に返答する。
すると彼女はあっさりと認めた彼の顔色を伺うように、少し眉を下げながら見詰める。
「…こんなこと言うのもアレだけど、無理と分かってるなら…無茶はしないでね?」
本当に人を心配する目を向けられた。
「大丈夫ですよ、俺はそう簡単に負ける気はないので…ニンゲンの意地ってもんを、見せますよ」
人間と鬼の戦闘となれば、どちらが勝つかなんて考えるまでもない天秤だろう。だからこそ人間である彼の身を強く心配している。
たが龍成には、不安な様子も緊張に震えている様子も見受けられない。真っ直ぐと自分の眼差しを、心配している彼女へ向け続ける。
それに対してえーちゃんは、未だに納得のいかない雰囲気が漂うものの、軽く頷いてから口を開く。
「君が決めたことだから引き止めたりはしないけど。そうだね、私から言えることは…頑張って」
「ありがとうございます…それより、何処でその情報を?」
そこが気になった。その情報源は一体何処から聞いたのか。
言いふらした記憶はない、その上で誰かに聞こえるように昼休みの時にパトラとシャルロットに話した訳でもない。もしかしたら彼女達が話したのだろうか?そんな考えが頭を過ったのだが…。
「え?あやめさんが嬉しそうに皆に自慢してたよ?」
「……」
噂を垂れ流した根源は彼女だった。だからなのだろう、やたら見られている気がしたのは。注目されるのは好きではない性分なので、勘弁して欲しかった。
原因が分かると何も言えなくなってしまい、堪らず溜息が漏れる。
「ま、まぁあやめさんも久しぶりの対決で興奮してるからね。大目に見てあげて…」
そんな彼の様子を見て察したえーちゃんは、苦笑いをしながら彼女をフォローする。なってしまったのは仕方がないと自分に言い聞かせ、龍成はあやめに対してあることが気になった。
「今まであやめは、色んな人と戦ったこととかあるんですか?」
「そうだなぁ、強い人達で絞るなら何人かはいるね。同じクラスの白銀聖騎士団の白銀 ノエルさんとか、機人族の″ロボ子″さんや天才魔法使いの″紫咲 シオン″さんとか、竜族の″桐生 ココ″さんとかかな。他にもいるけど、私的にはこの辺の人達が印象深いかな」
「竜族もいるのか…」
「色んな種族がやって来てるからね、ここの学園は」
(それだと、あいつが自分の力に自信を持つのも無理ないか)
一体どれだけの種族がいるのだろうか、もしかしたらほぼ全てが揃っているのかもしれない。その中で強い者達と勝負して勝った経験があるなら、あやめの強さにも自信に繋がるのも頷ける。
だが、あの時の様子を思い返すと自信がある過ぎるように龍成には見えていた。
「じゃあ私もやる事があるから、頑張って″人間″の意地を見せてあげて。」
えーちゃんは真実を知りに来ただけな為、やることがあると龍成に応援の言葉を投げてからそのまま去って行った。
続いて龍成も教室から出て、あやめとの試合にどう対応しようかと思考を働かせながら、ある所へ向かおうと廊下を歩いていると聞き覚えのある声が耳に入った。
「あれっ…紫黒君!?」
「ん?天音か、おっす」
「いやおっすじゃないよ!?何でここにいるの!?」
谷郷との話をしに初めて学園にやって来た際に、案内で世話になった天音 かなたがそこにいた。
彼女は酷く驚愕した表情を龍成に向けるも、彼は素っ気なく挨拶をしてみるも、そうじゃないという感情が大きく溢れる。
「天音ちゃ〜、どうしたのらぁ〜?」
「何してるのー?…あれ、この人って」
そこに、かなたの後ろから新たに見る顔の生徒が二人やって来た。恐らく友人の人で一緒に帰る予定だったのか、かなたの反応に数々の疑問が出ている。
取り敢えずと、龍成はかなたに事情を説明すると納得した様子を見せた。
「そうだったんだ。じゃあこの間、ここに来てたのって編入する為に手続きしに来てたんだね」
「あー…うん、まぁ結果的に言えば」
ちょっと違うのだが結果的にはそうだったし、訂正して混乱させるのも面倒だったので肯定しておく。
そして、後ろの彼女達が誰なのかを見ていると、小さな王冠を被った桃色の髪の少女が痺れを切らしたのか、緩い雰囲気で食い掛かって来た。
「むぅ〜、ルーナ達除け者なのら〜。話に混ぜさせろ〜!」
「あ、ごめん。びっくりしてたから忘れてた。紫黒君、紹介するね?」
そこでかなたは二人の存在を忘れていたのに気付いて、龍成の横に並ぶと二人にアイコンタクトで続きを委ねる。
そこで先に桃色髪の少女が、緩々と何処か眠そうな雰囲気を醸し出しながら自己紹介を始める。
「んなああああああぁ…初めましてなのら、ルーナは″姫森 ルーナ″って言うのなら。よろしくなのら〜」
「こんにちドドドー!″角巻 わため″です!羊の獣人です、よろしくお願いしまーす!」
ルーナは桃色の長髪で薄紫と薄黄緑のオッドアイの双眸をしていた。彼女は幼さが大きくありながらも何処かのお姫様のような風貌があった。
わための容姿は羊の特徴的な捻れた角を生やし、淡黄色の長髪に青紫の丸い瞳で何処かふわふわとした雰囲気が溢れていた。
可愛な雰囲気が大きな二人には、妹気質が強く感じられる。
「紫黒 龍成だ、よろしくな。三人は俺の教室じゃあ見かけなかったけど、学年違ったのか?」
三人の顔を見渡しながら思った、自分の教室ではルーナとわためは疎かかなたさえ見なかった。
そうなると必然的に先輩か後輩のどちらかになるのだが、かなたは少しまずいと言ったような顔色が浮かび上がってくる。
「えー…てことは、紫黒…さんは先輩?」
「あー良い良い。今更改められても変な感じだし、普段通りにして欲しい」
どうやら三人が後輩にあたるようだ。
しかし今更になって上下関係を築かされるのは何処か嫌な気持ちになる為、速攻で否定して友達感覚で接して欲しいことを伝える。出会ったのは良いが、自分にはやらなきゃいけないこともあるし時間も迫っているのでここいらでお暇させてもらう。
「そんじゃ、俺は行かなきゃならない所があるから、これでな」
「あ、僕達もこれから向かう所があったので。ルーナ、あやめ先輩が闘技場に向かったのって本当?」
「…ん?」
すると、聞き捨てならないことを聞いた。自分が今向かっているのはあやめと同じ所だ。
そこで俺はミスをしていたことに気付いた。
「そうなのら、確かにルーナは見たのらよ。わためぇも見たのらよね?」
「うん!何か凄いワクワクしてたって言うか、目が輝いてた」
「全くもう!今日は生徒会の会議があるって言うのに、何で闘技場に行ってるんだよ!連れ戻して来なきゃ!」
あやめのやつ生徒会に所属してる上で会議サボったのかよ。いや…でも、あやめに誘われといて否定した癖に、結局のところ誘ったのは俺の方だ。
天音には二つの意味で申し訳なくなるが、取り敢えず移動しようとした天音に待ったを掛ける。
「ちょっと待ってくれ、闘技場って言ったか?」
「え、うん…言ったけど」
「…案内してもらっていい?」
そう、俺は闘技場の場所を把握していない。唐突な案内して欲しいと言った俺に、天音はぽかんと可愛いらしい顔をしてて意味が分かっていない。
それもそうだ、まさかの原因が今目の前にいる奴だとは思うまい。何だか本当に申し訳なく思い、取り敢えず闘技場への案内させてもらっている途中で事情を説明した。
それでありがたいことに、天音は俺に対しては仕方ないと優しく対応してくれた。
しかし、あやめにはそんな意思はなく、何か笑みじゃない笑みで片手をゴキゴキと重い音を鳴らしながら、「どんなお仕置しようか…」と呟いていた。
何あれ怖い。着いて来ていた姫森も角巻の二人も、彼女の憤怒の圧力には俺の後ろに隠れるほど怯えていた。
そんなこんなで闘技場に着くと、そこはとても広い空間だった。
外側は円状に広がりつつ階段状で、全体から真ん中にあるステージを見られるような構造で作られおり、中心には直径十五メートルの正四角形の大理石のタイルで造られたステージがある。
そして、そこには…。
「おお、やっと来たか龍成!待っていた余!」
「色々と言いたいことがあるんだが、先ずこの状況どういうこと?」
周りから声援が聞こえる。声援が四方八方から聞こえるのだ。辺りを見渡してみれば、大勢の人達が観戦をしに来ていたのが分かる。
各学年の人達だろうかまぁまぁな数だ。きっとこれも彼女が自慢した所為でこんなにも集まったのだろう。
あ、パトラもシャルもちゃんと居た。ん?よく見れば何か谷郷さんもいね?
「見ての通りだ余?余が何人かこのことを話したら、いつの間にか沢山見に来る人が来たんだ。でもここじゃあ、そう言うのは珍しくないんだ余」
恐らく初めは数人程度だったのかもしれない。けどその話を聞いた人が更に別の人に話したことで、余計に広まったのだろう。噂が噂を呼んだのと同じものだ。
本当に余計なことを…これだともうほとんど、ここにいる人達に俺の力を見せびらかすものと一緒だ。
自然と溜息が出て来て、そこであることを思い出す。
「それともう一つ、お前って生徒会に入ってたりするか?」
「うん、入ってる余?それがどうかしたのか?」
あっさり認めたので龍成が無言で闘技場近くの入口場所に指を差しすと、あやめは咄嗟にそれに釣られて指を差された方へ視線を向ける。
そこには、激昂して声を荒らげるかなたと、その後ろに苦笑いしているわために何処か眠そうに欠伸をしているルーナがいた。
「あやめ先輩!どういう事ですかぁ!!今日は生徒会の会議があるって前にメアリ先輩が言ってたじゃないですか!!」
「あれ、そうだっけ?やっべ…余、なんも聞いとらんかった」
それでいいのか学園を担う生徒会員が。見た感じ、これが初犯というようにはあまり見えない。天音の反応を見るにこれは放っておくのはやっぱりまずいんじゃないかと思い、あやめに一度止めることを提案してみる。
「一旦中止するか?」
「いやいや、ここまで人が集まっておいてやっぱり止めるってなると、駄目じゃないか?生徒会の方は気にしなくていい余。後が怖いけど」
「…まぁ、あやめがそう言うなら」
そう言われると何も言い返せなくなる。確かにここまで来てドタキャンをして寒くなるくらいなら、最後まで行った方が妥当だろう。
あやめがそう言っているし、天音には本当に余計なことをして迷惑を掛けてしまった。
彼女の方へ視線を向けると、それに気が付いたのか頭にはてなマークを浮かべて此方を見ていたので、軽く手を挙げながら軽く頭を下げて謝罪しておく。
「それじゃあ早速始めるとしよう!ルールは、双方どちらかが気絶か敗北を認めることだ!時間は無制限、武器の使用もありだ!じゃないと余が戦えない!」
「そうか」
背に添えてある2本の刀を抜いて見せる。白銀に輝く刀身、それには強い何かが宿っているものが見えた。恐らくあれが妖力と言うやつだろう。
漸く戦いが始まる雰囲気を察したのか、周りの観客も自然と静止して見守る。
一定の距離を取って、暫しの睨み合い。
「では、百鬼家次期当主にて、″百鬼流
今ここに、二刀流剣士の鬼娘と不思議な力を宿す少年の戦いの幕が開き始める。
もう少し話をさっさと進ませた方がいいかと思っているけど、なんだかんだ書いてしまう。いや、細かに書きすぎかな。
取り敢えず、次回はあやめさんとの戦闘回になります。変な描写にならないよう頑張ります。
では〜。