少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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今回はあやめさんとの戦闘回になります。自分なりにいい感じにできたんじゃないかなとは思います。でもちょっと細かく描写し過ぎたかな?

じゃ、どうぞ〜。


六話 『圧倒』

 

 

 

 

 

「百鬼家次期当主にて、″百鬼流華焔(かえん)剣士″百鬼 あやめ…いざ、尋常に参る!!」

 

 

 剣士なりの礼儀を行い、あやめの何時もの穏やかな雰囲気とは打って変わる。強い気迫を纏いその目付きは敵を狩る鬼の瞳。

 一寸足りともの隙を見せ付けない。二本の刀を構える彼女の口からは、静かな深呼吸が聞こえる。

 

 刹那、その場から消えたと思わせる程の瞬発力で龍成に迫った。常人の肉眼では捉えられない程の高速移動に並々ならぬ筋力、普通の人間なら気付いた時には首が宙に飛んでいるだろう。

 

 彼女は龍成の目前まで移動して真正面から刀を振るう。

 

 

「ふっ!」

 

 

 と、思いきや彼の背後に現れた。

 

 残像を正面に置き、背後から攻撃すると言う高等技術だ。その一瞬な(かん)に、龍成はその場で静観するように一歩たりとも動いてなかった。

 ただただ佇む。ただただ感じる。

 

 しかし彼の肉眼は彼女の姿を捉えていない訳ではない。それに見る必要も無い。

 

 

 

 

 

 ───彼女の動きは手に取るように分かるからだ。

 

 

 

 

 

「百鬼流華焔剣術・弐ノ型 ──『緋柱(ひばしら)』!!」

 

 

 妖力を操ることで刀に炎を纏わせる。それは炎々と滾らせて、その熱は触れたものを焦土の如く塵にするだろう。

 その紅き焔刀を振るって彼の背に触れようとした。

 

 しかし、彼女の斬撃は地面を斬った。その衝撃は強力なもので地面には亀裂が走り、一本の炎の柱がそり立つ。

 

 目の前から消えた龍成の速度にあやめは驚かされる。現状全ての種族では上位の存在にあたる鬼族の動体視力を簡単に上回る程に、彼の移動速度は目を引かれるものがあった。

 だがらと言って慢心している訳でも見下している訳でない。あやめは既に、彼の強さはそこらの人達とは違うと勘付いていた。

 その考えは間違っていないということに、彼女の口角は自然と上がっていた。

 

 

(流石に鬼族なだけはあるな。速度、力量、精度、全てに於いて戦闘能力はトップを争える。それに二刀流と来たか、厄介と言えば厄介かもな)

 

 

 あやめと距離を取って思考を働かせる。彼女の動きや攻撃の重さ、戦闘能力を冷静に観察している。鬼族は単純な戦闘能力は高い上に、彼女の剣術と合わされば更に強力な戦闘力になるのも不思議ではない。

 だが彼の顔色に焦燥感は全く現れていない。あやめは彼が余裕そうな態度を見て、即座に距離を縮めて攻撃を続ける。

 

 

「せいっ!」

 

 

 それでも彼は腕を組んで躱すくらいに余裕を持っていた。一撃目、二撃目、三撃目と初めは少し手加減こそしていたものの、息も切らさずに余裕綽々に避け続ける彼に、流石に舐められるのも大概にして欲しいと思い始め、段々とムキになって速度を上げていく。

 

 しかし、どんなに刀を振るってもあやめは彼の移動速度に付いて行けなかった。彼女は一旦距離を置いて、再び刀を強く構える。

 

 

「百鬼流華焔剣術・陸ノ型──『憑依・鬼火纏』!」

 

 

 すると、あやめの身体から赤紫色のオーラ発生した。それだけでなく、人魂のような小さな青紫炎が一つずつ現れて、合計六つの鬼火が彼女の周りを旋回している。心做しか瞳も妖しく光り、妖力も大きく増している。

 身体強化の類だろうと龍成は察して警戒を怠らない。

 

 

「はっ!」

 

 

「っ!」

 

 

 先程よりもあやめの動きは一段と素早くなっているのが分かる。太刀筋も斬る重さも妖力も相俟っていることで、更に強力なものに成り上がる。

 

 振りかぶる斬撃を躱せば扇状に衝撃波が飛んで行き、風圧が発生し出すようになった。それだけでなく、彼女に纏っていた鬼火が龍成の顔を目掛けて飛んで行った。

 彼はそれに不意を突かれてしまうが、何とか裏拳で弾き返して防御する。

 

 

「余の鬼火は何処までも追い掛けて行く余!」

 

 

「なるほどなっ…!」

 

 

 彼女の周りを旋回していた全ての鬼火が彼を目掛けて、弾丸のように飛んで行く。小さい上にすばしっこい無数の鬼火に、流石に彼も全て避けることは難しいらしく、それでも腕や足を使って被弾を避けてはいた。

 

 だがそこに、あやめの斬撃も加わることになれば状況は厳しいものになってくる。鬼火もどれだけ弾き返しても、直ぐに軌道を変えて彼に追突しに飛んで来る上に、あやめはその隙を狙って直接攻撃しに来る。

 

 ならばと、龍成はあやめの斬撃をその場から跳躍して躱しながら移動する。その跳躍は彼女の頭上を超えて簡単に三メートルをも跳んで空中に身を投げ出した。

 何をするのかと全員が目を凝らして彼に集中すると、一つの鬼火が迫って来た。遅れて他の鬼火も後を追い掛けて、突進して行く。

 

 彼は一番早く来た鬼火を注視して、タイミングを合わせるように体勢を整える。被弾する距離まで鬼火が迫ると、身体を捻らせることで勢いを付けて蹴り返した。そして後追いしてきた鬼火に衝突させ、相殺することにより消滅した。

 それを繰り返すことで、あっという間に全ての鬼火は掻き消されていった。

 

 

「はぁっ!」

 

 

 続けてあやめも跳躍し、勢いに乗って攻め続けて行く。二本の刀を軽々と操り、素早く重い刃を何度も振るい続けるのだが、それでも龍成に冷静に対処されていく。

 

 あやめから見れば、彼の身の熟しには無駄が無かった。回避するにも、どれも軽やかに躱される。空中での身の熟しはとても困難とも言える動作なのだが、彼にはそういったものが見えない。

 

 自由落下に沿って落ちて行く彼を追い、着地した瞬間を狙って刀を振るう。

 

 

 

 

 

 見る、彼が足を着く瞬間を。

 

 

 

 

 

 見えた、彼が足を着いた瞬間を。

 

 

 

 

 

「百鬼流華焔剣術・弍ノ型──『緋柱』!!」

 

 

 刹那、闘技場に大きな炎の柱が空を貫くが如く聳り立つ。

 

 重い衝撃波に熱気が辺りを広がって行き渡り、思わず腕で顔を隠す程だった。

 ここまで激しい戦いを見て心が踊り出す者もいれば、あやめの戦闘能力に対して改めて尊敬する者、龍成の身に心配して不安な眼差しを向ける者もいた。

 煙が闘技場を立ち込めるも、暫くすれば段々と晴れて行く。

 

 

「…どうしたのだ?何時までも避けてばかりじゃ、お主の実力が分からない余。それとも余がもう少し本気を出した方が良いのか?」

 

 

 刀を振り下ろした時、手応えは感じなかった。無論、それは避けられたからである。でも心の何処かでは分かりきっていた流れだった。

 そして思ったことがあって、敢えて少し手加減していた。

 

 それは彼は何時まで経っても反撃する様子が全く見受けられないこと。さっきからあんな簡単に避けられるのなら、攻撃する隙は出来ていた筈だ。

 流石に変だと思い始め、刀を下ろして龍成に聞く。

 

 

「ただ観察してただけだから気にしなくていい。それよりあやめに一つ聞きたい。お前にとって力は何の為にある思っている?」

 

 

 自分の疑問は簡単に一蹴され、逆に質問されることに少し動揺するも、彼の真っ直ぐな瞳でそう言われて、あやめは何の意味で言っているのか分からなかったが、真剣な表情をする彼に丁寧に答える。

 

 

「…?余にとって力は、守るべきものを守る。それ以上でもそれ以外でもない余。力を持つものならば、力無き者の為に戦うもの。それが普通ではないか?」

 

 

「お前にとって力は″守る″為、そう言いたいんだな?…俺も最初はそう思っていた」

 

 

「最初は…?」

 

 

「いや、今でもそう思っているつもりだ。確かに俺は守る為にヴィランに力を使っている。けど…心のどこかでは、力は″強者の証明″そして″支配″するものだと思っている自分がいるんだ」

 

 

 龍成は顔を俯かせ、何処か昔の光景を思い返しながら語っているように見える。確かに今の自分の力は、誰かを救う為にも守る為にもあると信じている。

 

 しかし、例え全ての人がそうとは言えない。

 自分の力が強ければ他者を見下し傲慢になるのも不思議では無いし、己の欲求の為に悪意に呑まれて罪を犯したりする。結局はどの世界でも弱肉強食が全てなんだと思っていることがある。

 

 

「それ故に段々と分からなくなってきたんだ。力は守るべきものを守るだとか、そんな綺麗事を言って何なるんだろうって。本当に全てを守り切れることが出来るのか、そう問われたら…俺はきっと根拠の無い答えを言うだろうな」

 

 

「……じゃあ、龍成は何で戦ってるんだ?」

 

 

 そんな思いをしておきながらも何故戦えるのか。

 確かに彼の力の考え方に対して間違いとは言いきれないし、誰かの為に戦うのは簡単そうに見えて意外と難しい。

 

 その思考になるのは、彼に壮絶な過去があったからなのか。どんな経験をすればあんな″光を灯さない瞳″になるのか。あやめは彼の普通じゃない雰囲気に少したじろぐも、表に出さずに率直に聞く。

 

 

「…約束したからだな。遠い過去のことだけど、俺はそれに囚われている自覚はある。でも、この約束は……俺はどうしても果たさないといけない⋯俺にしか出来ない」

 

 

 過去の約束。聞けば大それたものじゃなさそうだが、それは彼にとって人生に関わる程とても大きく影響させたのだろう。

 その顔色からは強い悲しみと憎しみが含まれている気がした。一体何があったのか、何が彼をここまで強くさせたのか。

 

 あやめはそこが気になったが今ではないと、彼がいつか話すその時を待とうと決めた。少しの沈黙に彼は小さく咳払いをして話を戻す。

 

 

「話が逸れたが、結局のところ俺が何が言いたいのかというと、力は人に対して無闇に使うものじゃないと伝えたかった。それに、楽しんで力を人に向けないで欲しいと…今のお前、相当楽しそうだぞ」

 

 

「それはこれが試合だからだ余。龍成の過去に何があったのかは知らないが、余は私利私欲で力を使っている訳じゃない余。ちゃんと使い分けているし、ヴィランとの戦いに愉快に感じた時などない余。お主は少し気にし過ぎだ余」

 

 

「…やっぱりそうかな。」

 

 

 まだ不安と言った表情が見て分かる。彼の中では力は人に向けるモノじゃないとそう言いたい。

 確かにそれはそうだ。けど、彼の心の奥では″守るにも力を使うのも違う″という思いがあった。

 

 詰まる所、話し合いで解決するのが一番の平和的解決だと言いたかったのかもしれない。今こう言ったヴィランと対抗出来る者達が、遊び感覚になっている対人戦の試合に力を使わなきゃならないのが、彼には納得がいかなかったのだろう。

 

 

「うん、龍成はきっと心優しい者なのだ!だから力の使い方や矛先に葛藤が生まれるのも可笑しくはない余。さぁ、余に怪我させるとか気にせずに戦おう余!」

 

 

 怪我もして痛みはあれども、死ぬ心配は皆無と保証出来る。これは試合で人対人の勝負。

 しかし、龍成はヴィランにしか攻撃しないようにしている。それは誰か()を傷付けるのに気が引いているから。だが彼女は、彼との戦いを求めている。

 

 それにこんな状況下だ。もうやるべきことは一つしかない。

 

 

「…分かった。こっからは、俺も″少し″力を出そうか。そして暴力的になる、本当にそれでもいいんだな?」

 

 

「っ!!」

 

 

 瞬間、この闘技場一帯の空気が重苦しくなった。見ている全員が目を見開き、動揺を隠せず気が張りだす。ブワッと彼の身体から熱気による蜃気楼が発生して、覚悟を決めた瞳をあやめに向けている。

 

 幻覚か、或いは守護霊なのか分からない彼の背後にいる″ナニカ″が圧力に混ざって問うてくる。

 

 

 

 

 

────『こいつがその気になれば、軽い怪我じゃ済まないぜ

 

 

 

 

 

(何だ?龍成の背後にいるアレは…?それに空気が変わった…余でも緊張を握るこの圧力、並の者じゃ表せない唯ならぬ雰囲気がある…本当に…彼は人間様なのか?けど、先手は譲らせない余っ!!)

 

 

 ゆっくり観察している暇はないと、状況を見て直ぐに行動に移す。彼の圧力につい足が竦んでしまい掛けていたが刀を構え、落ち着いて呼吸を整える。

 

 

「百鬼流華焔剣術・参ノ型 ──『陽炎(かげろう)』!!」

 

 

「……」

 

 

 するとあやめが増えた。一人から三人、三人から五人、五人から七人とどんどん人数が増えて、あっという間に計十五人のあやめに囲まれてしまう。じりじりと距離を詰めて行き、何時どこから攻めるのか分からなくなる。

 しかし、龍成はそれに動揺を全く見せずに目線だけを動かして構える。

 

 

(流石にこの技は、初見では見破れない筈だ余!!)

 

 

 そして一気に全員が飛び掛る。もう逃げ場などなくなり、避けることすらも難しいこの状況。

 それを彼は見て、感じて、動く。どれだけ難解な技が来ようとも打破する術は必ずある。それがゴリ押しが何だろうが、彼に出来ないものはない。

 

 あやめが飛び掛った瞬間、彼の姿が消えた。それも音も無く恰も初めからそこにいなかったかのようなくらい自然な流れで消えたのだ。

 あやめは自分の肉眼どころか感覚でさえ追いつかない程の速度に驚愕していると、一人の残像が消えた。

 

 

「っ!?なっ…」

 

 

 また一人消え、更に一人消える。

 あまりにも速すぎる行動に、あやめは動揺が隠せずにいた。これでも結構厄介な技だと自負しているし、他の人に使ってみようものなら、その人には凄く嫌な顔をされるのは間違いない代物だ。

 

 だがこの技は見掛けによらず、かなり神経も体力も消費させられるので少し気難しい。使い方によっては確かに強力になるが、その分疲労も大きい。

 だからこそ、今の彼には使わなければならないと出し惜しみ無しで行った訳だが。

 

 気付けば既に五人も減らされている。まだ本体に気付いていないのか、それとも敢えて分身に攻撃しているのかは知らないが、どちらにしろこんな速く攻略され始めてるとなると、彼女も動かねばならない。

 どうにか彼の姿を捉えようと残りの二十の目を使って血眼になって探す。

 

 すると本体のあやめの背後から声が聞こえた。

 

 

「分身と残像を掛けた技か、流石だな」

 

 

「くっ!やぁっ!!」

 

 

 咄嗟に斬り回すがそれも当たることはなかった。気付けば彼は再び背後に回り込み、分身のあやめを三人も消し飛ばしていた。

 早くも残り七人となってしまい、額に冷や汗が滲み始めてしまう。何とか気を持って牽制しようとしたが、突風が闘技場に発生して視界が真面に利かなくなる。

 

 

「直感で攻撃するのは余り良くないぞ。冷静さが欠けた時、自分の首を絞める傾向になる」

 

 

「っ!?うわぁ!!」

 

 

 竜巻と思わせるような風圧に吹き飛ばされそうになるが、腕で顔を隠しながら両足をしっかりと地に着けてどうにか堪える。

 但し、この状態じゃ分身の集中が出来ずにいた為、風圧と共に掻き消されてしまった。

 

 真面じゃないこの圧力の原因は目の前の彼にあたる。龍成から力の漲り、分散、収束していくのが感じて取れる。

 

「それともう一つ、自信を持ち過ぎるのも余り良くない。確かにあやめは鬼族だし、純粋な戦闘も強いし更に強くなれる。けどな、世の中はもっと凄い奴がいるんだ」

 

 

 すると龍成の身体から全身を包む炎が吹き出して纏った。

 

 激しい熱風が吹き荒れて、身体の水分を奪っていく。その炎はよく見る紅いものではなく深淵に燃えゆく地獄の業火と言うべきか、闇に輝く紫黒色の炎だった。

 

 

「″上には上がいる″…と言う考えを、持っていた方がいい」

 

 

「な、なんて力…なんでそんな…」

 

 

 なんという圧力、なんという熱さ、なんという強さ。

 

 彼の力の凄烈さは目を見開かせるものがとても多い。あやめはどうにかこの場から打開策の為に思考を働かせるも、圧力により手も足も出せない所か何も思い付かない。力の差がとても開き過ぎている。

 

 故に何も出来ない。その隙に彼は構えを取り、気を練って全身を滾らせる。

 

 

紫心龍拳(ししんりゅうけん)奥義・伍ノ気 ──『紫龍(しりゅう)』!」

 

 

「────なっ…!」

 

 

 すると爆発でも起きたかのようにその場から跳んで行く。炎が舞い、伸びて形を作り、龍に成った。

 まるで全てを喰らい燃やすように、龍の咆哮が聞こえる気がする。その迫力は全員が目を引くもの。

 あやめは目の前まで来た紫黒色の龍の顔に思考が止まると同時に理解した。

 

 駄目だ、避けれない、無理だ…。

 

 

 

 

 

───死ぬ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……⋯⋯どうして余に攻撃しなかったの?」

 

 

 何時まで経っても衝撃はやって来なかった。可笑しいと思い閉じた瞼を開いて見れば、炎の龍は跡形もなく消えていて、そこに居るのは無防備に佇む龍成だけだった。

 その時点であやめは察した。故意で止めたのだと。

 

 だが止める理由が分からず、動揺が残ったまま不思議に思って聞いてみる。すると、彼は何を言っているだというような溜息をされる。

 

 

「はぁ…女性相手に攻撃出来る訳ないだろ。ましてや、別嬪さんを余計に怪我させるとか考えられないよ」

 

 

「ぇ…べ、別嬪…?余のこと…!?あ、あぅ⋯」

 

 

 不意にそう言われてしまい、顔に仄かに熱が集まってくるのが分かる。

 これは先程の攻撃の熱さのせいだと言えば誤魔化せそうだが、彼の様子を見るにその必要はなさそうだった。

 

 

「でも、これで大体は俺の実力は分かっただろ?」

 

 

「お、お主は…本当に人間様なのか?初戦で余と対等どころか、圧倒的だったぞ。自慢ではないが、余は特殊精鋭隊にも所属しているし、確かに強さには自信はあった余。それなのに、龍成は本気は疎か″半分″も出していない程に余裕だった」

 

 

 パトラからあやめの実力は多少は聞いていた。何でも彼女はこの学園の勢力の中でも上位に入っている者だと、確かにそれは試合を通して実感したし、彼女の実力は相当なものだと頷ける部分は多い。

 しかし、彼はそれを優に超えていた。

 

 どれに特化してる訳じゃない、全てに於いて圧倒的強さを持っている。彼女は鬼、彼は人間。普通ならば逆の立場の筈なのに、実戦を終えた後の彼の存在はやたら大きくて強くて優しく、そしてどこか″恐ろしく″感じた。

 

 だから聞いた。聞いてしまった。

 

 

「……本当に…お主は人間様なのか?」

 

 

「ニンゲンさ。言ったろ?世の中にもっと凄い奴は幾らでもいる。実際、俺より強い人を俺は知っている」

 

 

 無意識に口にしてしまったとは言え、人間なのかと心底疑心に思ってしまったからこそ、自分が失礼な発言をしたのにハッとして申し訳なさそうに直ぐに取り消そうとしたが、彼は直ぐに否定して苦笑いを浮かべながら訂正する。

 まるで言われ慣れているかのような、少し困った程度でそれ以上は言わず、代わりに彼より強い存在がいると伝えれば、あやめは直ぐにその話題に食い付く。

 

 

「え、更に強い者がいるの?余、その人に会ってみたい余!」

 

 

「…残念だけど、その人は凄く遠い所にいるから会うのは厳しいかな」

 

 

 あやめの素直な反応にでふっと小さく鼻で笑った後、彼は空を眺めながら寂しさを紛らわすように微笑みを浮かべながらそう言った。

 会えないと聞いてあやめはしゅんとなって気落ちしてしまうが、彼にリベンジ宣言をしてやる気を直ぐに取り戻した。

 

 

「そっか〜、残念。でもでも、余は龍成とまた戦いたいぞ!今回は完膚無きに負けてしまったが、次は負けない余!もっと強くなって驚かせてやるんだからなっ!」

 

 

「だから俺は人に力を向けるのは……まぁ、目的を持つのはいいことか。ヴィランのことも忘れんなよ。真の目的はそれだからな」

 

 

「勿論、分かっている余!あっ…忘れてた!生徒会に向かわなきゃだった!?じゃ、じゃあ余は行くから!おつなきりー!」

 

 

「忙しいと言うか、能天気と言うか…」

 

 

 忘れていたことを思い出し、あやめは器用に二本の刀を背に納刀して慌てて走り去って行った。そんな彼女の猪突猛進さには少し頭を悩まされる。本当に分かっているのか、さっきまでとても激しい戦闘をした試合後のテンションとは中々思えない。

 流石は鬼族のフィジカルと言うべきか、疲れを見せることはなかった。

 

 かく言う彼も疲れ知らずもいいところだろう。お互いに汗を一滴も流すことなく、正に強者同士の戦闘と言えよう。

 今回の試合は龍成の勝利という形で幕を閉じた。ほぼ全生徒が集まったこの出来事は、誰にも忘れられない光景で頭の中に深く残ることだろう。あやめが闘技場から出て行ったのを皮切りに、続々と観客の生徒達もここから去って行く。

 

 

「はぁ……俺ってなんだかんだ不器用だよな」

 

 

 帰って行く生徒達の顔を見ることは出来なかった。と言うより見ようとは思えなかった。来ると約束したパトラとシャルのことすら、目線を向けることもない。

 それは何故か、彼は自分の力を危惧している自覚があるからこそ、どんな風に思われているのかが怖くなっているから。出来るだけ最大限に手加減はしたけどそれでもだ。

 

 結局はそれを承知の上で行ったこと、今更どう思われて悔やんだって仕方ないと、そう捉えて片付ける。

 いきなり明日から学園に通うのが憂鬱な気持ちになり、彼は溜息を吐きながら闘技場を去って行った。

 

 

 

 

 




果たしてあやめさんが見えた彼の背後にいたのは何なのでしょうね。
次回からは色々な人達との絡みを入れたいと思っています。お楽しみに。

では〜。
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