どうも、待っていた方がいたら大変お待たせ致しました。日々忙して中々手が出せずにいましたが、地道に書き続けて何とか十一話完成です。今回も長いで、どうぞよろしく。
じゃ、どうぞ〜。
「……何だろう、この嫌な予感…」
「どうしたの?」
煌星学園の校舎を繋ぐ廊下にて、茶色のロングストレートヘアに横跳ねの髪が特徴の少女が歩みを止めて窓の向こうの空に目を向けた。
その表情には良いものとは言えず、不安のような感情がふと芽生えていた。そんな彼女の変わった様子に心配になり、身体に所々機械のようなものがある少女が声を掛ける。
「うーん…こう、何か胸の奥が一瞬凄く締め付けられた気がしたの」
彼女自身もいまいち確定してる訳じゃないのか、頭を捻らせながら感じたことを素直に口にする。
恐らく胸騒ぎと何ら変わらないものだろう、だがどうも変な感じだと、頭では解らなくとも身体は何かを感じ取ったのだろうか。
「え?大丈夫なのそれ?ちょこ先生に診てもらった方がいいんじゃない?」
「ううん!大丈夫、ごめんね心配させちゃって」
しかし、その症状は病気の可能性もゼロではない。そう思った隣の少女は医療に長けている人に診てもらうよう勧めるが、それに笑顔を浮かばせて心配はないと伝え否定する。
少し腑に落ちないが、彼女自身が本当に大丈夫そうにも見えたのでこれ以上は何も言わず、ふとある話題を思い出した。
「そう言えば、さっきまた緊急出撃があったよね。最近ちょっと多くてやだよね〜」
「そうだね…向かって行った子達がちょっと心配になるけど、きっと大丈夫だよね」
「そうそう、それで例の編入生の人が行ったらしいよ!」
その話は少し前に起きた事態、緊急出撃の件だった。
ここ最近ではやたらヴィランの発生率は徐々に向上気味で、様々な生徒達がヴィラン討伐に赴いている。
そこで先の緊急出撃では、現在も煌星学園内で話題になっている彼が向かったとの情報が流れていた。
「編入生……あやめちゃんを圧倒したあの強い子かぁ」
知っている。この学園でも初めての編入生で、鬼族で強さもトップにも近い百鬼 あやめとの戦闘試合でも完膚無きまで圧倒したと証明した男。
事実、あの試合はこの目で確りと見ていたから分かる。
「うーん…」
それでも、不思議にこの胸の内にあるもやもやは未だに晴れる気がしなかった。
蟠りが変に残る状態に少し嫌な気持ちになってしまうが、その内気にしなくなるだろうと決め付けることにした。
────────────────────
龍成がヴィランと拳を交わしていなくなってから暫く経っていた。
その間、彼女は彼に言われていた言葉に思考を巡らせていた。学園に戻ってあのヴィランのことを迅速に伝える。
確かにそれも大事なことだろう、しかし彼女達はそれよりも大切なことを胸に抱えていた。
「りゅう君…」
「ねね達も一緒に手助けしに行こうよ!」
彼は今あの脅威とサシで戦っている。
龍成の実力なら不安要素は少ないだろうが、それでも相手は今まで見たことのない意志を宿した未知のヴィラン。
そして何よりも、何もしない自分達が嫌で仕方なかった。ねねの言うことには誰もが本心では賛同している、しかし…。
「そうしたいけど、変に手を貸しても足手まといになるかもしれない。アタシ達は大人しく待ってた方がいいんじゃないかな…」
「くそっ⋯!何も出来ないのかよ…」
ぼたんの言い分に誰も口出しが出来なくなる。ポルカは何もしてやれずに、ただ下を眺めることしか出来ない自分に愚痴が零れていた。
どうにかしたい、けどあの一瞬の攻防しか見えなかった戦況の中に入れば確実に彼の邪魔になってしまう。
「あのヴィランのことを学園に報告しに行けって、そうは言われても…」
「いや…私達も手伝おう!」
ラミィが独り言のように呟いていた時、パトラは一人決心をして龍成が消えて行った方角へと顔を向けた。
覚悟の決めたその顔に迷いはなく、皆に率先して彼に手を貸すことの意を伝える。
「だから龍成は…!」
「───私に考えがあるの!」
だがポルカはそれだけで納得することはなく、彼が指示した内容を無視しようとしたことに待ったを掛けようとしたが、言葉を遮って強くその言葉を放つ。
彼女達はそんなパトラの強気な姿勢に、つい呆気に取られる。
「…聞かせてくれる?」
それから静まった空気の中、ぼたんが彼女の考えについて聞いてみることにした。真剣な眼差しを向けて、少しでも可能性があるのならという顔をしていた。
パトラは他の三人の反応を見てみるとねねは意気込んでおり、ポルカは渋々と、ラミィは不安そうに。それでも何も言わず彼女の言葉を待っていた。
それを確認したパトラは頷いて、淡々と自分が思い付いた一つの作戦を全員に話し出した。
────────────────────
意志を持ったヴィランと交戦していた龍成は、勢いに乗りながら攻撃を仕掛けてくるヴィランから避けつつ観察していた。
木々を盾にしてヴィランの視界から外れようとしても、持ち前の速度で木々を薙ぎ倒しながら追い付いて来ていた。
(動きも速度も、やっぱり普段のと比べ物にならねぇ…!)
「グオォォ…!」
木から木へと移りながら移動しながら観察していたが、そろそろ彼女達と距離は大分開いただろうし、ここら辺なら多少暴れても大丈夫だろう。
木から降りてヴィランを見据えると、重低音な唸り声を発しながら上から襲い掛かって来る。
「紫蓮牙・『
即座に両拳を腰辺りに置いて構えると、淡い紫色の光が包まれる。それを素早くヴィランに向けて素早く拳を振ると、衝撃音が二回鳴り響くだけで何もしていないように見える。
しかしこれは、彼の両拳には気が纏っていて、距離が開いてても殴打をすると纏った気が飛び道具となる。
簡単に言うと″殴って飛ばす衝撃波″だ。
この技は視認しずらい技だと自負しており、それ故に飛んで行った二発の衝撃波はヴィランに気付かれることなく喰らうだろうと揺るがない自信でそう思っていた。
「…ッ!」
(見破られた…!?)
しかし、直前でヴィランに気付かれて跳ぶ軌道を無理矢理にでも変えて躱した。
想定外にも簡単に攻略されてしまった。それも初見で。
これには彼も驚きで目を見開かせている。その同時に、このヴィランのフィジカルは中々に厄介なものだと理解した。
そして奴は木を足場にして龍成に突っ込んで行くが、彼も難なく跳んで躱すことで距離を取る。
「飛び道具はあまり意味はなさそうだな…」
戦闘する上で飛び道具は必須な戦術なのだが、効かないとなれば戦力は大きく減少すると言われても過言ではない。
ならばと、構える体勢を少し変えて力強く地面を踏み込む。
刹那、龍成の姿はヴィランの直ぐ傍まで迫ると、拳を下から殴り上げるようにヴィランの腹部にめり込ませた。
「紫蓮牙・『
「グオォォ…!?」
これは守を捨てて攻に特化させた技。
相手の懐に超スピードで攻め込んで殴打をするもの、至ってシンプルだかある程度の相手には戦況の機転にもなる。
ヴィランは苦痛に似た唸り声と共に上へと体をくの字にしてぶっ飛ばされる。
それだけでは留まらず、その場から跳ぶと利き手の右拳に気を溜め込みながらヴィランを追い抜いて行った。
「紫蓮牙・『
振り返って、力を込めた拳をヴィランに殴り落とす。
淡く光る紫はヴィランに纏い、そのまま上から下へと直線に風を切りながら落ちて行った。
その直後、纏わせた光が爆発を起こす。地面は抉れ、森がざわめき、太い黒煙が青空に向かって漂って行く。
その近くに降りた龍成は警戒心を解かずそこを見据えていた。
放ったあの力強い攻撃は相当効いているとは思っているが、俊敏且つ剛力な上に厄介な即時治癒を持ってるヴィランだ。
そして段々と煙が晴れてくると、その先の光景が鮮明に見えてくる。
「マジか、タフかよ…」
手応えはあったものの、心の奥では何となくこんな結果になるのは分かっていた。願うことならばさっさと終わって欲しかったと思っていたが、どうも甘くはないようだ。
溜息混じりにぼやきながらも再び構えを取る。
「…マダ、マ…ダ……!タタ、カエ…タ、タカエ…!!」
「戦闘狂じゃねぇか…」
ヴィランのあまりの戦闘欲に龍成は少し引き気味になっていた。
そんな奴を見て、ふと昔に見た光景に似たようなものがあったなと、とある記憶が蘇ったのだがそれを振り払って戦いに集中する。
「ウオオオオォォ…!!」
「チッ…!厄介だな…」
先程の攻撃で闘争心でも刺激されたのか、先程よりも動きの速度がより上がっているように見える。
獣のように跳んで殴り掛かって来るのを注視して躱していたが、次の攻撃までの間が短くなっているのが分かる。
ヴィランの攻撃を躱しながら移動し、草原を通り越した先にある川瀬にまで来ていた。
川で足が濡れることも気にせず、殴打を紙一重で躱して懐に入り込もうとしても、バックステップで距離を取られる。
だが、その両足が地面から離れた瞬間を彼は狙っていた。
「紫心龍拳奥義・弍ノ気──『
距離を置くヴィランに向けて体を屈めながら低く跳んで行く。そのあまりの速さに水が割れ、水飛沫が大きく宙に舞う。
ヴィラの懐まで寄ってムーンサルトで蹴り上げると、真面に喰らったヴィランはそのまま上へ吹っ飛び、彼も地を蹴って追い掛ける。
そして追い付くと肘鉄でそれ以上の上昇を止める。
その後、左右上下からの縦横無尽の超高速打撃を連続でお見舞する。殴り、蹴り、四方八方から留まりを知らないその連続攻撃に、ヴィランは手も足も出ない状況だった。
そしてトドメに真上から回転で勢いを乗せた回し蹴りを放った。苦痛の声すら上げる暇なく川瀬に叩き付けられ、大きく水飛沫と白煙を巻き起こす。
技の反動で少し息が乱れ、ゆっくりと深呼吸をしつつヴィランがいるであろう先を見据えていた。
どうにか倒し方を見つけなければ、このままだとジリ貧にも等しい結果が見えてくる。
たが方法がないと言えばそうでもない。やってみる価値はあると、そう考えていると…。
───ボコッ!!
「っ!?うわっ…!」
地面からヴィランの腕のような何かが突き破って来て、彼の体に巻き付いてきた。
予想だにしない方向からの攻撃に、龍成は反応しきれずに持ち上げられてしまい、そのまま木々のある方面に振り回される。
「がっ!?」
それは一体何処まで伸びて行くのか、振りほどこうとする前に大木に激突され、肺の中の空気が吐き出される。
それだけでは止まらず、何度も何度も木々を突き破って投げ飛ばされた。
「…マダ…!モット、ダ…!オ、レト…タ…タカ、イ…ツヅケロ…!!」
ヴィランはゴムのように伸ばした腕を元に戻し、更に戦いへの向上心が盛り上がってくる。
その衝動があまり抑え切れていない所為か、何処か息が荒く見える。
その頃、龍成は倒木と混ざって倒れていた。
「あ〜、いつつ…久々に怪我したな。やってくれるじゃんか」
激突して行った衝動で服は少しボロボロになってしまっているが、ムクリと上半身を起こしながら軽口を吐ける程にまだ余裕は備わっていた。
あれだけの衝撃を受けても尚、かすり傷程度でも済むのも可笑しな話だが。
「お陰で気合いが入ってきたぜ。───はっ!」
頬に出来たかすり傷を拭い、体内に巡る気を全体に解放すると、突風が発生して周りの空気は妙な重苦しさに変わり始めていく。
それから彼は、その場から飛び出してヴィランに向かって一直線に殴り掛かった。その殴打は常識の範囲を超えていて、花火のような音に衝撃波がヴィランの体を貫通した。
「…!!…ツ、ヨイ……デ…モ、オレ、モ…ツヨ、イ…!」
先程とは違った彼の強さに、ヴィランも気付いて更に闘争心が燃えることになった。
奴はその場から跳ぶと、なんと空中で止まってみせた。
「…ハ、カイ…スル…!」
どういう原理で、何でそんなことが出来るのかは考えてる暇はなかった。
ヴィランは両手を覆うように手を翳すと、その手の中から黒い閃光が生まれ始め、徐々に掌で収まらなくなるくらいに膨大になっていた。
「隙だらけだ!」
ヴィランが放とうとしているその黒閃光弾には、最初にパトラ達に向けてたものと一緒のようだが、肌身で感じるからに威力は桁違いのは確実。
だが、その留まっている間は格好の的でもある。
「っ!?くっ…!」
足蹴りで黒閃光弾を空に蹴り飛ばして、重い一撃を与えようと距離を詰めた瞬間、ヴィランの顔に無かった筈の口がジグザグ状に開いた。
そして、そこから黒い閃光が龍成を呑み込んだ。寸の所で身を固めたがそれでも威力は強力で、あっという間にまた森林に吹っ飛ばされてしまった。
「思った以上に反応速度が速い…ちまちまやってても直ぐに回復するしなぁ…」
ヴィランは攻撃を受けた彼は、吹っ飛ばされた所の木陰で一度落ち着くことにした。
龍成も龍成で異常にも疲労を見せておらず、攻撃を受けても未だ好調な雰囲気はある。
自分自身の体力等も全く心配はない、だが問題なのはあのヴィラン。いくら攻撃が通用するにしても、一番の厄介な所は″即効性の治癒能力″がある所だ。
(だったら一撃で仕留めるくらいに力を溜めて…くそっ…だとしても時間を稼ぐ暇もねぇ…)
倒せない訳ではないのだが、一つの方法として最大威力の技を出せば即時治癒も間に合わず、確実に倒せる可能性は高いと思っている。
だがその為には時間を掛けなければならないが、あのヴィランがそれを許すはずもない。
「にしても、あんな強いヴィランが何でこんなとこに…」
「…グウゥ…ド、コ…イッタ…?」
木陰から顔だけを出してヴィランの気配のする方へ覗いてみると、奴は見失ったらしいのか辺りを見渡しているのが見える。
今考えてみれば、あんな全く新しいタイプのヴィランは生まれて初めての経験だった。
(戦ってみた感じ、全力を出せば普通に勝てる…けど、場所が場所だから強い攻撃をしたら山が吹き飛びかねない。だったら…!)
彼の攻撃には炎の属性を持っている。その上で更に強力な物理攻撃、衝撃波と共にその人知を超えた力は容易に山など丸々消し炭にだって出来る。
だがそんなことなど出来る訳がない。どれだけ被害を抑えつつヴィランを討伐するか。
(脚に集中的に気を流し続けて…!)
一つの手段を思い付いてからは直ぐに行動する。気を脚に普段より多く循環させていくと、淡い紫の閃光が灯り、紫炎となったオーラが脚に纒り付いた。
それを確認すると、納得いたように頷いてからヴィランに向かって跳んで行く。
「…!ミ、ツ…ケタ…!」
向かって来る彼に気付いたヴィランは直ぐに大きく身体を燃やした。
見切れる速度らしく、ヴィランは腕を掲げると途端に巨大化させて容赦なく殴り掛かる。
それを見据えた龍成は大して驚くいた様子はなく、速度も落とすことなかった。
「紫蓮牙・『
「グッ…!?グオォッ…!?」
その巨大化した腕を紙一重で避けた龍成は、力強くヴィランの腹部に放たれた弩の矢の如く前蹴りで蹴り飛ばす。
そしてヴィランは何とか堪えはしたものの、また直後に衝撃波が連続して腹部を貫いて体が吹っ飛ばされる。
(一気に方を付ける!!)
度肝を抜かれて隙が大きくなった所を畳み掛ける。ここで自分が持てる最大威力の技を放つことにした龍成は、解放する気の純度を高くして練り上げる。
「紫心龍拳奥────」
「グ…ゥガアアアアアアアアアアッ!!」
「っ…!?」
しかし、ヴィランは雄叫びと共に大きく体を広げることで吹っ飛んだ勢いをを無理矢理掻き消すと、巨大化させた剛腕を龍成に殴り付けた。勢いよく吹っ飛ばされ、地面を抉っていく。
悲鳴を上げることすら出来ないその威力は、流石の彼でも顔を強ばらせていた。想像以上のタフネスに、厄介なのは即時治癒だけじゃなかった。
(こいつ……まさか、戦いながら成長してんのか…!?)
普段のヴィランには無かった成長の概念。それも急速な成長速度を感じさせる。
ただでさえ強力な存在なのに成長すれば更に手に負えなくなる可能性が出てきた。
「出し惜しみしてる場合じゃねぇな…!」
彼でさえ止められなくなる程の成長をすれば堪ったもんじゃない。何としてでも倒さないと後々途轍もない脅威にも成り得る。
流石にこれ以上は手は抜いていられず、被害拡大の覚悟で戦うしかない。
大きな図体の割りにそぐわない速度で走って来るヴィランに、龍成も力を入れて走り出す。
「───グウゥ…!?」
「なんだ…?」
そして手の届く範囲まで迫った瞬間、横から飛んで来た何かがヴィランの頭部に激突した。
呻き声を上げながら咄嗟に足を止めたヴィランに、彼も足を止めてこの状況に介入してきた第三者の方へと目を向ける。
「手助けに来たよ!りゅう君!」
「一人だけで突っ込んでアタシ達に逃げろだなんて、舐められたもんだねぇ?」
「もうちょっとねね達を頼ってよね!」
暫く前に逃げるよう伝えていた筈の彼女達がそこにいた。
ヴィランに攻撃をしたのはぼたんだろうか、彼女の持っているスナイパーの銃口から硝煙が出ていた。
「お前ら…」
「…ジャマ…スル、ナ…!」
「っ!ふっ!!」
「えぇ⋯蹴りであんな吹っ飛ぶの…?」
言いたいことがあったが、その前に彼女達に攻撃を仕掛けようとしたヴィランに回し蹴りをして奥の方へ吹っ飛ばして距離を離した。
かなり奥の方へ行ったので会話のする余裕は出来る。それを見たポルカは驚愕しているが少し引いていた。
「俺は言っただろ、逃げて学園にあのヴィランのことを説明しろって。なんで来た」
彼女達が自分の為に戻って来ても、そこに喜びの感情などは何もない。
説得をする暇はなくとも、あのヴィランと戦わせるのは無理があると思っていたし、何より軽い怪我じゃ済まないのは身をもって知ったから尚更だった。
「龍成君こそ!なんで一人で解決しようとするの!ラミィ達は確かに君よりも強くないけど、それでも一緒に戦っちゃいけない理由でもあるの!?」
「ラミィの言う通りだよ。最初は龍成の言うことに素直に従おうとしたさ。でも、何も出来ない自分が嫌だったし、ちゃんと術を持って戻って来たんだよ!カッコつけるならポルカ達も誘えよ!″友達″なんだから!!」
そこでラミィは大きく声に出して彼の行動に怒りだし、それに続いてポルカもラミィの言葉に頷いて自分の気持ちを明白にさせる。
────友達。
その言葉を聞いて龍成は何も言えなくなる。まだあって短い筈なのにこうも友人として認めてくれている。
その気持ちはポルカだけではなく、皆がそれに賛同して強く頷いていた。
「俺は…お前らには怪我を負って欲しくないから言ってた。でも…余計なお世話だったみたいだな」
龍成も本心で話す。あのヴィランの攻撃力は殺傷能力が高すぎる故、仮に共に戦っても庇いきれない時が無きにしも非ず。
その最悪のパターンは誰かが犠牲になってしまうこと。それが嫌で下手に戦って欲しくなかった。
「りゅう君…貴方は何時も一人で戦ってきたから、貴方一人でも大丈夫なのかもしれない。実際に貴方が強いのはみんな知ってる。でもね、それでも心配する人達だっているの…もっと頼って欲しい人だっている」
小さく俯く彼にパトラが優しく語り掛けてくる。自分の行動を理解してくれている上で諭してくる。彼女の言い分には何も言い返せないし、返す言葉もない。
確かに普通より力は強いのは自負しているし、使い方には十分に注意しているつもりだし戦闘知識もそれなりにあるから、一人でも対処は出来ていた。
ただ、今の自分に足りないもがあった。
「だから…みんなで協力しよ?」
それは共に戦ってくれる仲間の意志をちゃんと聞くこと。友達の言葉を聞くこと。
今まで無かったそれらを無意識に無視してしまっていた。パトラの言う通り、ずっと一人で戦い続けていたから協調性を持ったことがなかったのだ。
悪気がないとはいえ、一人で勝手な行動をしてしまったことに悔やんでいると、そっと自分の手に彼女が優しく両手で握ってくれた。
「ごめん…一人で突っ走って」
仲間を頼らなかった自分に反省して謝罪をすると、周りの空気が緩くなった気がした。視線を元に戻して彼女達の表情を見てみると、微笑んでくれていた。
「はいはい、辛気臭いのはここまで。さっさとしないとヴィランが来るよ」
「何か考えがあるんだったか?」
静まった空間をぼたんが率先して声を掛ける。緩んだ空気は徐々に張り詰め始め、戦いは続いてるという意識を持ち直す。
ポルカが言っていた術とやらが気になった龍成はそのことを聞いてみると、パトラが代わって反応する。
「うん。それで、パトが考えた作戦なんだけど───」
────────────────────
「…ググ……ドコ…ダ…」
龍成によって蹴り飛ばされたヴィランは、巨大化した腕を元に戻して奥の森林で彷徨っていた。
今も尚、彼を求め続けて探していた。龍成から放たれていた強い気配はどこにも感じられず、ただそこら中を歩いていた。
静かな微風と小鳥の囀り、木々の揺らぐ音があるだけで他は何もない。
歩いて探すのがいよいよ面倒と感じ始めたヴィランは、いっそ辺りを吹き飛ばそうかとその場で足を止める。
「雪華氷晶・『氷柱』!」
「奇襲から失礼!『
「…グゥ…!?」
突如、ヴィランの体が足元から凍り付き始めて下半身が氷結に呑み込まれた。
ラミィが凍らせたことで動きを制限させた所で、ポルカが笑みを浮かべさせながら琥珀色の手玉を投げ付けて被弾させる。
氷結は砕け、黒煙が発生してヴィランの姿が見えなくなってしまうが…。
「はぁああああああっ!!」
そこへ、ねねがハンマーを構えながら勇敢に突っ込んで行く。
見えずもその先にヴィランがいるのは分かっているので、ハンマーを手放さぬよう強く握りしめる。
「鬼殺し…じゃなくて、ヴィラン殺し火炎ねねハンマー!!」
走りながら回転を掛けてハンマーを振り回すと、何故かハンマーに炎が纏い始めた。
その勢いは常人を超えていて、突風が巻き起こる程の回転力に加えてより炎が増したことで、舞っていた黒煙は一瞬にして掻き消してヴィランの姿がはっきりと視界に映る。
そのまま叩き付けようとしたが、寸の所で躱されてしまった。
「こらぁあああ!避けるなぁああああ!!」
避けられて怒り出したねねは、声を荒らげながら怯んだヴィランを追い掛けて行った。
距離は空いてしまっていたことで、これ以上走って追うのは危険も伴い無理だと思ったねねは、そのハンマーをヴィランに向けてぶん投げた。
「ていっ!!」
「…グッ…ゥ…!?…ジャ…マ…ス、ル…ナ…!!」
反応しきれなかったヴィランは喰らって怯むが、直ぐに体勢を立て直してねねに反撃しようと先程の龍成との戦闘で用いた腕を巨大化させて、ねねに襲い掛かる。
「
「狙い撃つ…!」
だがそれを許さないパトラとぼたんは、左右で弾幕の挟み撃ちにする。
ぼたんは銃器をフルオート射撃であるマシンガンで左から射撃し、その反対でパトラは自身の目の前に魔法陣を展開させて、そこから赤紫に燃える炎の弾を連射させていた。
ヴィランはねねに襲い掛けた足を止めて、その場で巨大化させた腕を利用して身を固めてやり過ごそうとしていた。弾幕は簡単に弾かれてしまうがそれでも構わず撃ち続けるのには理由がある。
「…!…ミ、ツケ…タ…ツヨ、イ…ケ…ハイ…!」
「勘付かれた…!!」
「追い掛けよう!!」
その時、ヴィランは感じた。この闘争心を打ち震わせる感覚は彼と戦っていた時と同じもの。肌がピリつく重い圧力と鋭利な気迫、そして本能から伝わる危機感。
素早く弾幕から抜け出して強い気配のする方向へ向かっていくのを見て、ぼたんが後を追い掛けて口を噛み締める。
(くそっ…どの武器も大して効いてない!なら、そろそろ″アレ″を使うかな!)
生半可な威力じゃ通用しないなら、とっておきの秘密兵器を使うしかないと考え、ヴィランを追い掛けながら背中に背負ってある大きな鞄からとある武器を取り出した。
『作戦はこう。先ず、あのヴィランって直ぐに怪我が治るじゃない?だから回復が追い付かない位の強い攻撃をすればいいんじゃないかなってパトは思ったの』
『俺もさっきそれを考えてやってみようと思ったんだが、あいつは中々に勘が鋭いぞ。どうやら強い力には敏感のようだし、何よりも戦いの中で成長もしていく…正直難しい所だ…』
『その間は私達が全力で時間を稼ぐから、誰よりも攻撃力の高いりゅう君が一撃で倒せるくらいに力を溜めてて欲しいの!』
『え!?でも…』
『私達はりゅう君を信じてる。だから…りゅう君も私達のことを信じて!!』
(頼むぞ…皆!)
パトラが考案した作戦の要である彼は、離れた所で彼女達が全力で時間稼ぎをしているのを頼りに力を溜め込み続けることにその場で佇んで集中していた。
しかし、そこでヴィランが彼に向かって高速移動している姿が見えた。だが心配は要らない、何故なら…。
「行かせない!雪華氷晶・『氷雨』!」
「サーカスの正念場はこれからだよ!『
ヴィランが行く道を阻むように掌サイズの氷塊の雨が降り注ぐ。直前でそれを躱すが、何処からともなく現れたナイフがヴィランを覆うように囲うと、一斉に動き出して刺しに行く。
それでも軽々と腕を振るうと簡単に弾かれてしまった。
「そこっ!!」
「…グッ…ゥウ…!?……ツ…ヨ、イ…」
「甘く見ないでよねっ!!」
だが、その隙をねねが突いた。ポルカの攻撃に気を取られている間に迫ってハンマーを全力でヴィランの胴に打ち込んだ。
その衝撃で体は打ち上げられたことで無防備になった所を、ラミィが叫んだ。
「ししろん!!」
───ズダンッッ!!!
「…ナ、ニ……!?」
咄嗟に耳を塞がせる程の劈く爆音と共に、青白い一閃の弾丸がヴィランの右半身を吹き飛ばした。
見ずとも大きな損傷を受けたのに思考が停止してしまい、ただ唖然と虚空を眺めていた。
「あー反動キッツ…でも、良いのが入ったんじゃない?」
援護射撃で大ダメージを与えたぼたんは肩を回しながら、自分の持つ銃に視線を落として口角を上げていた。
彼女が持つそれは特別製のレールガン。火薬を使用しない代わりに電力を用いて、威力も弾速も飛距離も超絶なもので比類なき最大火力の逸品と言える。
但し、そう何度も連射出来るものではなく、大量の電力を使用する為に過熱してしまい半日のクールダウンが必要になる。
一日に一度しか使用出来ないので慎重に扱わなければならない正に一発勝負の兵器。
「
そこへパトラが深手を負ったヴィランに向けて掌を翳す。
するとヴィランの周りに魔法陣が出現して、その中心から魔力で創られた赤紫の鎖が雁字搦めにヴィランの身動きを封じさせる。それを見てポルカがラミィに合図を送る。
「今だっ!!」
「
それに頷いたラミィは自身に宿る異能を最大に発揮させる。
煌めく青白い光がラミィを包むと、その足元に雪の結晶が大きく展開されると蜃気楼のような揺らぎが現れ、途端に周辺の空気が真冬の気温と思うくらいに凍えるのを肌で感じる。
小さく息を吐くと、白い息が漂う。その次の瞬間には途轍もない冷気がヴィランの周りを凍結させた。
それだけでなく、一瞬とも言える速度で巨大な氷塊でヴィランを氷結晶の中に閉じ込める。
「りゅう君っ!!」
ヴィランの即時治癒をさせる間も与えずに、パトラの魔拘束とラミィの氷の幽閉で完全に身動きを失ったのを確認すると、パトラは即座に龍成に声を掛けた。
「あぁ…!お陰で充分溜まった…ありがとな。後は任せろっ!」
準備は整った。
パトラの呼び掛けに龍成は小さく微笑み、溜めに溜め込んだ気を解放させる。
その瞬間、彼を中心に嵐でも起きたかのような気の突風が彼女達を酷く驚愕させる。
「うわっ…!?」
「わぁっ!?」
「な、何だよあの馬鹿げた力…すっご…」
「あれが……りゅう君の…」
重苦しい圧力、大きく揺れる大気、それはまるで世界が彼に怯えていると錯覚する程に力の格差が身に染みる。
パトラはそんな強大な力を人間の彼が所持しているのに疑問も抱くが、今はあの炎々と滾る紫の気のオーラと威風堂々と佇む彼を目にすると、とても強い安心感と共に何故か鼓動が速くなるのに違和感を抱いていた。
龍成は意識を集中させて気のオーラを心の臓にへと集約させる。その胸に煌々と眩い光が現れると、姿勢を低くしてその場からヴィランに向かって跳んで行く。
気から光へ、光から紫炎へと変わっていく。燃え尽くすような荒い炎の音と共に龍成の身体は紫炎に包み込まれる。
「紫心龍拳奥義・伍ノ気──『
「…グ…!?…ゥ…オ…オォ……───」
紫炎は意識を持っているかのように形を変え、荒々しく紫に燃える一匹の龍に成る。幻聴なのか分からない咆哮が何故か聞こえる。
紫龍は大きく口を開き、低空飛行からヴィランに向かって喰らいに飛躍しに行く。
周辺の木々は熱気に焦げ、紫龍の通った軌道は衝撃で抉れ、氷結は瞬く間に溶けてヴィランを巻き込んで喰らいながら遥か上空へと上昇して行く。
肉眼で僅かに見えるくらいまで飛んで行くと、計り知れない大爆発を起こし青空は一瞬にして光に覆われる。
そして次第に空に色が戻り、先程まで激しく重かった空気は嘘のように清々として静寂が訪れていた。
直ぐ近くに降りて来た龍成は深く息を吐いてから、彼女達に向けて微笑みとサムズアップをする。
終わったと、言わずとも彼から伝わる雰囲気にぼたん以外がその場でへたり込む。
「はぁ…はぁ……お、終わった…」
「あ゛ぁ゛〜…疲れたぁ〜…」
「みんなお疲れ〜。いや〜倒せてよかったな」
「ねねも〜…もうハンマー持つの疲れたぁ〜!」
「何とか作戦通りになって良かったぁ〜…」
なんとか異常事態の難を逃れた。強ばった体は自然と力が抜けて肩の荷が下りる。
そこへ龍成は何処か気まずそうに視線を落としながら、パトラ達の方に歩み寄って来る。
「その…ありがとうな。色々と助かったよ」
「ううん、大丈夫だよ。りゅう君もりゅう君なりに私達を危険から遠ざけようとしてくれたもんね。その気持ちだけは嬉しいよ、でももうお友達で仲間なんだから…これからも一緒に戦っていこうね!」
「っ!…あぁ…!」
まだ負い目を感じていたのか、彼の言葉にパトラが咄嗟に反応して返す。
怒ってなどはいないし、あの行動は彼なり配慮もあって最悪の可能性を避けようとしてくれたのも分かる。
ただもう、今後は仲間であり友達がいるのを忘れてはいけない。
共に戦う。そのことを優しさを包み込んだ微笑みで伝えてくれるパトラに、今まで一人で行動していた龍成には、その言葉に何処か救われた感覚になり、彼女に釣られて頬が自然と上がっていた。
こうして、前代未聞のヴィランの襲撃は全員の活躍により被害は最小限に抑えられた。
これは一つの歴史的な転換の中に刻み込まれ、今後もヴィランの討伐活動には危機感がより強まることになった。
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「ふむ、そうかい」
煌星学園のとある一室で一人の男が誰かと通話をしていた。事態が収束したその後、龍成達が片付けたヴィランの件は学園長である谷郷の下へ既に通達していた。
「今回は彼がいたお陰もあり、被害は最小限に抑えられたと言っても過言ではないだろうね。やはり、私の目に狂いはなかったようだ」
顔は見なくても嬉しそうな色調だけで喜んでいる表情が安易に目に浮かぶ。
あの時から彼には驚かされてばかりだった。変わらずヴィランの被害はあるものの、それでも彼が来てからは事態は確実に良い方向へ向かって行っている。
「彼はこの時代の…いや、この世界の新たな革命を起こす希望だ。私達ももっと彼にも、彼女達の為にも頑張らないとだね……しかし、ヴィランに自我が宿る、か…」
それを聞いた時は顔を顰めた。過去にも少し似たような報告があったが、挙動がそれっぽいだけで言葉を発するのは今回が初めてだ。
それでなく急激な成長能力に加え即時治癒という、恐ろしい能力の組み合わせ。
「謎は深まるばかりか…参ったものだね」
本当に今回は彼が偶然にも向かってくれたことで幸が呼んだ。
龍成以外だけじゃ不満だったという訳ではない、確かに彼女達の実力もどれも素晴らしい技量を持っている。
ただ、今回に関して相手が悪過ぎた。龍成がいなければ今頃どうなっていたのか、考えるのも恐ろしい。
「おっと…そうだそうだ。ところで、私が考えた″アレ″の準備はどうかな?」
兎も角、終わり良ければ全てよし。
そしてとあることを思い出した谷郷は電話先にいるえーちゃんに一つの確認を取る。
進捗の状況を丁寧に伝えてくれる彼女に谷郷は相槌をしながら頷き、ニコッと穏やかな微笑みが浮かぶ。
「そうかい、なら間に合いそうだね。なに…彼女達には何時も頑張ってもらっているからね。偶にはこう言う機会を与えてやらないと。何時どこで命を散らすのか分からない死と隣り合わせの戦場に行って貰っているんだ。それが続けば多大なストレスで悪循環が生まれてしまうから、それを一秒でも忘れて楽しんでほしいのさ……うん、ではよろしくお願いします。」
谷郷はえーちゃんに引き続きをお願いし通話を切る。
一息ついた彼は、背後にある窓辺の向こう側を澄んだ瞳で暫く眺めた後、自分のやるべきことの続きを再開した。
次回は四期生辺りと絡ませようかと考えております。
また暫くは遅くなってしまうかもしれませんが、気長に待ってて下さい。
では〜。