少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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ども、やっと二十話です。そろっと次の章に入る頃合いかなと思っております。
ちょっと今回はシリアスとなりますので、主人公君が荒れます。

じゃ、どうぞ〜。



二十話 『禁忌族の文献』

 

 

 

 

 

「……これでもないな」

 

 

 すいせいとの戦闘試験を終えて無事に合格に達した龍成は、特殊異能精鋭隊の特別枠として正式に任せられることになった。

 これから日常生活が更に忙しくなるが、後悔などはしていない。寧ろ熱意に溢れていた。

 

 そして、今はとある情報を得る為に一人図書室へと赴いていた。

 既に何十冊も読み漁っていたのか、机の上には本が乱雑に積み重なっている。

 

 何を求めてここまで本を読んでいるのか、彼の姿が見えないくらいの本の積み重ねを見るに数時間は経っているだろう。

 

 

(もう何冊も古い歴史本を漁っているが…こうも見つからないもんなのか?それとも、集めたやつが逆に古過ぎるのか?)

 

 

 目的の情報が見当たらないことが続いている所為か、彼が机に指を叩く仕草が少しばかり早くなっていて、小さくも苛立ちに眉間が険しくなっていた。

 それでも本を捲る手は止めずに一文一文を流しで見る。

 

 

「はぁ…これも違うな。これは…───っ!!」

 

 

 この本も違うと、途中で切り上げて別の所に本を重ねて置いた。読んだ本は左側へ、まだ読んでない本は右側へと別けており、自分の中で分かり易いようにしていた。

 

 そして、次のを読もうと本を手に取った際、他のよりも厚さが薄かった。

 適当に歴史物を持って来たので、変なのでも混ざったかと少し違和感を感じながらも表紙に目を向けた時、彼の瞳が大きく見開いた。

 

 

「こ、これだ…!」

 

 

 無意識に呟いたその声には、何処か震えているようにも思えたが彼自身はそんなことにも気付かないくらいに、緊張に固唾を呑んだ。

 

 その本の掠れたタイトルには…。

 

 

 『黒龍伝記』

 

 

 まぁまぁ古い書物なのか若干汚れがあった。

 暫しその表紙を見つめた後、まるで希少品を扱うように丁寧に本を捲り始める。

 

 先程とは打って変わり、焦燥感のあった彼の雰囲気は緊張感へ変わり冷や汗を一つかいていた。そして一文字も読み落とさないよう慎重に読み始める。

 

 

 

【 この世には様々な種族が存在する。人間・獣人・亜人・悪魔・天使・鬼・龍。大きく別れてこの七つの種族が今世を紡いでいる。しかし、嘗て過去に存在していた種族も幾つかある。

 その内の一つが『黒龍』。この種族は他の種族に比べて残忍で血気盛んな者ばかりである。自分勝手で自尊心も高く、他種族との交流も古くから拒んでいた。

 そんなある日、黒龍が他種族に攻撃を始めた。まだ文明が今よりも発達していない頃、弱肉強食が理なこの世界ではこう言った行動も少なくはない。しかし相手が相手、黒龍族と命の奪い合いの際には全ての種族が手を取りあったのだ。

 

 それは何故か。黒龍族が強力過ぎるからだ。彼らはこの世の全ての頂点に立つのにも相応しい強さを持ち合わせている。飛べば嵐が巻き起こり、咆哮すれば世界が震え、地は割れ空は闇へ、歩く先全てが血の海と化する。他を圧倒するその姿は、「厄災の権化」と称され瞬く間に″禁忌の種族″として知れ渡った。

 そして、壮絶で悽惨な血腥い争いの末…勝利を収めたのは人間達だった。

 不幸中の幸いなのか、黒龍族の人口は五十にも満たない極小数だった。対して人間側は数十万の戦力、その圧倒的な人数での勢力差により黒龍族を戦闘不能に陥らせ、彼らは徐々に大人しくなった。

 この出来事は後世に残す大きな歴史となった。】

 

 

 

(……こんなことがあったのか。ん…?これ、は…)

 

 

 これは何時かの出来事を簡単に纏めたものなのだろう。まぁまぁざっくりとだったが、これで黒龍族と言う存在がどんな感じだったのか知ることが出来た。

 

 そして、まだ内容は残っており次のページに捲った。

 書かれている内容に黙読し、彼の表情に何か()()が含まれているような険しい顔をしていた。

 

 

 

【 しかし、暫く年月が経った時にソレは起きた。

 再び黒龍との戦争が始まった。しかし、火蓋を切ったのは彼らではなく人間達だった。

 そして兵力を統率していたのは魔族の上位に値する″魔神族″。彼の者は黒龍族を強く危険視しており、この世に存在してはならないと世間に主張を貫いた。彼の意志に否定した者は一人もおらず、団結を築き、武器を手に取り、禁忌の黒龍族を殲滅する際に皆は口を揃えてこう言った。

 

 「我ら『魔正教義団』がこの世から真の平和を取り戻す。」と⋯。

 

 そして数多の死屍累々を築きながらも、魔正教義団は勝利に輝いた。黒龍族は完全にこの世から消え、人々に不安が消え去ったのだった。

 彼らの行動は大きく讃えられ、伝説と言われるようになった。】

 

 

 

「魔正教義団…」

 

 

 本をそっと閉じて、内容を咀嚼しつつ反芻するようにボソッと呟いた。

 嘗て存在していたその黒龍族は、魔正教義団によって完全に絶滅したと、この書には記されていた。

 

 龍成の瞳は暗く濁っていて、何を考えているのか分からない。その本から得た魔正教義団の存在に、何かを抱いているのとでも言うのだろうか。

 

 

「こんな所にいるとか珍しいな、紫黒」

 

 

「ぅおっ!?え、ラ…ラプラス!?吃驚した」

 

 

「なーに驚いてんだよ、失礼な奴だな!」

 

 

「いや、急に声掛けられたら誰だって驚くだろ…まぁ、ラプラスってここに来るイメージがないから余計驚いちまったのもあるけど」

 

 

「本当に失礼な奴だな!!吾輩達は勉強する為にここに来てるんだよ!」

 

 

 だがそこへ、突然と背後からラプラスが声を掛けられる。それに驚いた彼は、つい慌てて本を隠すように胸元に抱えた。

 

 龍成から見たら彼女のイメージは何処か我儘な雰囲気が強く、静かな図書室に来るとは思っていなかった。

 でも教材を持っている辺り彼女の言うことは本当なんだろう。ただ、両袖が長過ぎる所為なのか脇で挟んで持っていた。

 

 

「ラプー?図書室は静かにしないと駄目でしょ?」

 

 

「ラプちゃん何処〜?あ、いた〜」

 

 

「あれ、龍成君もいたんだ。おつみぉーん!」

 

 

「奇遇だね、りゅう君!ってか何その本の量!」

 

 

 更にそこへルイとおかゆ、ミオにパトラまでやって来た。何で彼女達までいるのだろうかと思ったが、ラプラスの発言を思い出して納得する。

 

 ラプラスの騒いだ声が響いたのか、ルイとおかゆが別々の本棚の陰から顔を出して此方に来ると、反対からミオとパトラが並んでやって来た。

 

 この図書室にはこの今五人しかいないので、ラプラスはルイに軽く咎められる程度終わり、他三人はそれに気にせず龍成の近くまで寄る。

 

 

「龍成君も勉強してたの?これ、歴史⋯?こんな読む?」

 

 

「こんなに本あると頭痛くなりそう」

 

 

「勉強熱心なんだね」

 

 

「あ〜…まぁそんな感じ」

 

 

「そうなんだ!今読んでるのってどんなの?丁度ね、パトも歴史の勉強しなくちゃだったからさー」

 

 

「今度テストがあるからね〜」

 

 

 山のような本の量を見て、若干引き気味な微笑を浮かべるミオとルイとパトラだったが、ルイの言葉に何処か落ち着かない返事しか出来なかった。

 おかゆのいうテストがあるからなのか、偶然にもパトラは歴史に関する勉学をしようとしていた。

 

 龍成の見ていた内容が気になるのか、パトラは横から覗き込むようにしてどんな本だったのか確かめようとする。

 

 

「あ、ちょ…」

 

 

「え?なんで隠すの?」

 

 

「何だ?まさかエロ本か?こんな所でどさぐさに紛れて読むとか貴様むっつりだな!」

 

 

「え〜?どんな内容なの〜?龍成君の性癖が暴露されるチャ〜ンス!」

 

 

 何を勘違いしたのか知らないが、ラプラスとおかゆに弄られていると言うのは分かった。

 悪い印象を持たれて変な癪を起こしたくないし、あまりこれについて話題に持ちたくなかったが、素直に見せることにした。

 

 

「はぁ…これだよ、これ」

 

 

「これって…『黒龍伝記』…?」

 

 

「何でこれを…?今更これについて知る必要ってあるか?」

 

 

「ぁ〜、ほら…ふと気になって、昔いた種族ってどんなのがいるのかなってさ」

 

 

 その本を見せると、全員はギョッとしたような嫌悪感のある表情に変わった。

 

 黒龍と言う文字を見た時の皆の目は、酷く冷めていた感じだった。ラプラスの言葉に四人も同感な気持ちだろう。

 

 黒龍伝記の通りなら、書かれている内容の出来事はきっと皆は周知の事実…いや、どちらかと言えば常識の方が正しいのか。

 この事実は大々的に公になっているのかもしれない。だからか、俺が今更この古本に触れてるのに違和感があるのだろう。

 

 咄嗟にそれらしいことを伝えたが、彼女達の顔色が優れることはなかった。

 

 

「黒龍って、あの滅茶苦茶ヤバい種族だろ。知らない奴なんかそうそういないし、ましてや世界でトップに立つほどの危険度だしな。」

 

 

「かなり凶暴で殺しも厭わない…それが過去で大問題になって戦争になったんだよね。ウチ達がまだ小さかった頃に」

 

 

「本当にヤバかったんだよね〜。今も生きてたらどうなってたんだろ」

 

 

 想像以上の危険な力に凶悪な性格が所以で、昔も今も変わらず黒龍族の印象は最悪な模様。

 そうだと言われるのも仕方ないだろう。何せ色んな種族に喧嘩を売ったのだし、自分達が滅び掛けたのだから、やられたままでいる訳にはいかない。

 

 

「でも良かったよね、本当に滅んでくれて」

 

 

「うん…本当にその通りだと思う…あんな種族なんて⋯。」

 

 

 ミオがそう強く安堵した様子で言い、隣にいたパトラも深く同意するようにゆっくりと頷いていた。

 けどその際に、彼女の雰囲気が何処か哀愁漂うのは気の所為だったのだろうか。表情は分からないが声のトーンがやけに低かった。

 

 

「……」

 

 

「もしまだ存続してたら、また繰り返し襲われることもあるかもしれなかったからね。友好関係も築かずに敵意しかなかったから厄災だとか言われてるくらいだったし、早めに切り捨てたのは妥当だろうね」

 

 

「ボクもそう思うな〜、もしまだ生きてたら怖くて真面に生きていけるかも分からないしね。不安要素を除けるって言うなら否定しないな〜」

 

 

「うん…大切な人達がそいつらに襲われるなんてされたら、ウチも悪い方に進んでたかも」

 

 

「そうだな。そいつらが生きてても良いことがなかった訳だし、即刻消されても文句はないだろう。まっ、仮に生きてたとしても吾輩の力で一網打尽だがなっ!がはは────」

 

 

 

 

 

────ダンッ!!

 

 

 

 

 

 それぞれがそれについて話していると…顔を俯かせていたままの龍成が、突然両手を机に叩き付けながら立ち上がった。

 

 その大きな音が静かな図書室に響き渡り、彼女達の会話を強引に遮った。

 

 

「りゅう、君…?」

 

 

「ど、どうしたの…?急に…」

 

 

「……」

 

 

「な、なんだよ急に黙り込んで…」

 

 

 パトラとミオが動揺しながらも急な奇行をして佇む彼に声を掛けるも、一言も喋らずに、ただ机に手を置いたまま項垂れているように黙り込んでいた。

 

 

「……お前らに……何が……」

 

 

「え…?ご、ごめんりゅう君…なんて言ったか聞き取れなかった…」

 

 

「……⋯いや、何でもない…驚かせてごめん」

 

 

 霧のように消える呟きが聞き取れなかったパトラが、困ったように彼の言葉を聞き返そうとしたが、龍成はそのまま自分を落ち着かせるように深呼吸を一度行なって、冷静を取り戻してから謝罪した。

 

 

「悪い…ちょっと外の空気吸ってくる。直ぐに戻るから、本はそのままにしといててくれ。後で俺が片付けておくから」

 

 

「え…あ、うん…」

 

 

 彼女達にそう伝えながら図書室から出て行く。去り際に引き攣った笑みを見せてから出て行く後ろ姿は、何処か逃げるように…何かから目を逸らしているような印象が強く心に残った。

 

 

「何なんだよあいつ…変な奴だな」

 

 

「私達…何か彼の気が触れるようなこと言ったのかな…?」

 

 

「う〜ん…何に対して怒っちゃったんだろ…?」

 

 

 緩急のあった一時にラプラスは小言を吐いて、ルイとおかゆは龍成の癪に障ってしまったことに不安気にしていた。

 ただその原因が何処にあるのか分からず、困りながら首を傾げていた。

 

 

「…分からないけど、取り敢えず今はウチ達も勉強しなくちゃ。龍成君のことも気になるけど後で戻って来るんだし、その時にもっかい話そ?」

 

 

「……」

 

 

 ミオが率先して混乱した空気を立て直し、自分達のやることを優先することにした。彼女の呼び掛けに皆も賛同し、それぞれ座って勉学に励み始めた。

 

 しかし、ただ一人だけ…パトラだけは気が進まず、未だに龍成が出て行った方を暫く見つめてから、乱雑に置かれた『黒龍伝記』の本を少し眺めていた。

 

 彼女の見つめるその瞳は、何処か…途方に暮れているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何やってんだ、俺は…」

 

 

 分かっている。分かっていた。分かり切っていた筈だったんだ。

 

 それでも彼女達の言葉が酷く不快に思ってしまうのは、俺の心の弱さが現れてしまったから。

 そのやり場の無い怒りを、全く関係の無い人達にぶつけてしまった自分が物凄く情けなく思ってしまう。

 

 

「あの本の書かれてることが正しければ…」

 

 

 もう一度だけ深呼吸をして冷静を保ちながら、誰もいない廊下を歩いて行く。実はこの日は休日であり、平日ではないのだ。

 だが、学園は変わらず校門は開ていて何時でも訪問することが出来る。

 

 だから今日は色々と情報や記録を知りたくて図書室に朝から籠っていたのだが、このザマだ。

 

 しかし、少なからずも得られるものはあった。

 

 

「魔正教義団…そいつらと何か大きな繋がりがある」

 

 

 中庭に出てベンチには座らずに、柱を背に寄り掛かって腕を組みながら小さく息を吐く。

 本によれば魔正教義団を統率しているのは、魔族よりも上の存在である魔神族。

 

 これは素朴な疑問なのだが…先の様々な歴史本から齧った程度しかないけど、魔神族と言うのは普通の魔族より…恐らく癒月やトワやパトラなどの魔族より更に強力な存在で、集団での行動はせず一匹狼と書いてあった。

 

 そうだとするなら、何故そいつが団体を作ってまで大きな行動したのか気になる。それに、怪しいと思う点が幾つか浮かんだ。

 

 

 一つ目は、真の平和は表面上で″別の目的″があること。

 

 二つ目、他種族も巻き込み″説得″させて戦争まで準備出来たこと。

 

 そして三つ目、統率しているのが自尊心の高い孤高の″魔神族″。

 

 

 だが、あくまでも憶測でしかないから確証なんぞどこにもないので、何とも言えない。

 不確定要素も多いし情報もまだ全然だ…でも、取り敢えずは小さくも何かを掴めたんだ。

 

 

「…そろそろ戻るか、長いこと放置する訳にもいかんし」

 

 

 

ビーッ!!ビーッ!!

 

 

 

 

「───っ!!ヴィランか…!」

 

 

 突如、けたたましい警告音が響き渡る。緊急出撃の合図だ。

 

 瞬時に理解して行動に出る。幸いにもこっから教務室には近いので、直ぐに駆け付けて向かった。

 

 

「これは少し不味いかな…」

 

 

「先生、俺が行きます」

 

 

「おぉ!紫黒君、来てたんだね」

 

 

 教務室に着くと、中では相変わらず永先生が仕事をしていた。

 この人いっつも仕事してる所しか見ないんだけど、本当に休んでるのだろうか。

 

 それはそうと内容の方だが、どうやら街中でヴィランの暴走が起きているとのこと。

 これは早急に鎮静化しに行かなければ不味い事態なので、さっさと校門を出たらすぐさま跳んで、屋根を経由して行きながら指定された目的の所に爆速で向かって行く。

 

 

「よし、着いた。ここら辺な筈なんだけど…」

 

 

 見上げる程の建ち並ぶ高層ビル、多くの人が経由する広大な国道、ヴィランが街で暴れているとなれば流石に近辺の市民は逃げている。

 事故も起きたのか、あちこちに煙が舞っていて人が付けられないような傷跡が点々とそこらにあった。

 

 

「お、おい!!そこの兄ちゃん!!あんたのその制服、煌星学園だろ!?」

 

 

「あぁ、ヴィランの件でここに来たのだが…奴はどこに?」

 

 

「あっちだ…!どてかいゴリラみてぇなバケモンが大暴れしてて…!」

 

 

「情報提供、感謝する。あんたも早く避難しな」

 

 

 そこへ避難途中だった中年の男が、俺を見るなり声を掛けてきた。

 ヴィランが何処にいるか詳しいことを聞くと、直ぐに近くの曲がり角の先にいるらしい。礼を簡潔に伝えてからその場所へ走って行く。

 

 そうして曲がり角の先を見ると、本当にゴリラのような…映画の広告で見たことのあるどてかいゴリラに似たヴィランがいた。

 奴はまだ気付いていないのか、此方に背を向けていた。そしていざ戦闘開始しようと、一歩踏み出した。

 

 

 

『でも良かったよね、本当に滅んでくれて』

 

 

『早めに切り捨てたのは妥当だろうね』

 

 

 

「…俺は……」

 

 

 その時、不意に図書室での会話が思い出されて足が止まる。ゆっくりと自分の掌を見つめながら過去の境遇を思い返す。

 

 俺のこの力は…本当に人の為になっているのか?人の為に力を使い続けられるのか?

 

 この行いを続ければ……()()()くれるのか?

 

 

 

『その力はお前のもんだ、お前が好きな時に使えばいい』

 

 

 

 また、不意に兄の声が頭に響いた。その拍子に色々な過去の光景が浮かび、不覚にも視界が滲んでしまった。

 しかし、それを堪えて拳を強く握り、口を噛み締める。

 

 

「もしも……もしも、あの時に兄ちゃんも生きていたなら……何か違っていたのかな」

 

 

「……?」

 

 

 そしてヴィランは背後にいた龍成の気配に気付いたのか、後ろを振り向いて対面になる。

 他の市民達は逃げて、今この周りには人っ子一人いない無人の空間。その中で一人佇む少年と、それを眺めるヴィラン。

 

 

「もしも……あの時、皆が生きていたら……あんな気持ちなんてならなかったのかな」

 

 

「……!!」

 

 

 その時、彼の漂う雰囲気が変わり始めた。

 ヴィランもその異様さに気づいたのか、紫黒色の炎のような体を揺らめかせて警戒心を強め始めた。

 

 

「もしも……いや…あんなことさえ起きなければ……俺達の運命はこんなことにならなかった」

 

 

「……!?」

 

 

 そして次の瞬間、空気の流れが一変した。

 

 炎が噴き出す荒々しい音と共に紫黒色のオーラが彼の身を包み、ヴィランに対してギロリと強く睨み付けた。

 その紺色の双眸は闇堕ちでもしたのか、深い紫色へと変色して瞳孔は縦に細長く変化していた。

 

 

「悪いな…ヴィラン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の俺は…虫の居所が悪い…!

 

 

 

 

 

 聳え立つ紫炎の中に怒気を孕む龍が一人、威風堂々と立ち向かう。

 そんなあまりの迫力にヴィランは足を一歩退くが、それ以上は踏み止まり、ヤケになったように巨大な腕を振るった。

 

 人一人など容易く潰せる程の大きな拳が迫る。

 だが、龍成はそれを()()で受け止めた。その際に発生した衝撃波にもビクともせず、澄ました顔でヴィランを見据える。

 

 

「はあぁっ!!」

 

 

「……!!?」

 

 

 刹那、ヴィランの胴に彼の足が深くめり込んだ。

 

 全く見えなかった。気が付けば懐に入り込まれて攻撃を許していた。

 ヴィランのその巨体は、見た目とは裏腹に勢い良く吹っ飛ばされて空中を泳ぐ。

 

 

「だあぁっ!!」

 

 

 だがこれだけでは終わらない。ヴィランに追い付くと顔面に向けて拳を殴り下ろして、地面に激突させる。

 力の漲りが溢れているのか、その拳から紫黒の炎の余韻が舞っていた。

 

 そしてトドメに、地面に全身をめり込ませたヴィランに向かって落ちて行く。

 落ちて、速度を乗せて、前宙を繰り返して勢いを更に乗せて、タイミングを見計らって、ヴィランに向けて両脚を伸ばす。

 

 

 

 ────ドコォッッ!!

 

 

 

 そのままヴィランは抵抗する間もなく顔面に追撃させられる。

 全体重を乗せた踏み付け蹴りは、ヴィランの頭部を空き缶を踏んだかのように潰れた。

 

 この時点でヴィランは息を引き取り、絶命した。

 僅か三度の攻撃のみで事態を終息させた彼は、何時ものようにこのまま学園に報告して戻って行くだろう。

 

 

 

 

 

「───っっらあぁ!!」

 

 

 しかし、彼は猛攻の歯止めが効かなくなっていた。

 

 ピクリとも動かないヴィランの凹んだ顔面に、拳を叩き付けた。

 表情も何時もの冷静な眼差しではなくなり、何処か憎しみに満ち溢れた鋭い怒気に歪めていた。

 

 その姿はまるで八つ当たりのような、堪えていた何かをぶち撒けるような、そんな凶猛になっていた。

 

 乱心した彼の攻撃は加減を知らず、何度も衝撃波が飛ぶ拳を振るった。

 

 何度も、何度も、何度も…───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───はぁ……はぁ……」

 

 

 それからどれだけの時間が経っていたのだろうか。気が付けばヴィランの姿は完全に消え去っていて、目の前には陥没した大穴が広がっていた。

 

 今は冷静さも取り戻し、少し疲弊したのか息を乱していた。

 やり場のなかった怒りは消え失せたが、その代わりに心が空っぽのような…変な虚しさがあった。

 

 暫くその場を佇んでから踵を返した時、建物の陰から物音がした。

 

 この静かな空間ではその物音がやけに大きく聞こえて、音のした方へ視線を向けると、何かがいた。それは瓦礫や動物でもない。

 

 人だ。それもよく見ると、若い女性のようだった。逃げ遅れてそこで隠れていたのだろうか。

 

 

「あ、ぁう…」

 

 

 こちらを見てやたら怯えている様子で、酷く震えているのが目に見えて分かる。

 流石に気付いた以上放っておく訳にもいかないので、身の安全の為に声を掛けに歩いて向かう。

 

 

「あの…大丈───」

 

 

「ひ、ひぃ…!!」

 

 

「あっ、おい…!」

 

 

 しかし、その女性は俺が近寄るや否や慌てて逃げ出した。

 

 その様子は正に化け物から必死に逃げているような勢いだった。

 差し伸べた手は虚しくも振り払われ、追い掛ける気力もなくなり、ただ逃げて行く女性を眺めるしかなかった。

 

 もしかすると、いや…確実にさっきの荒れた情景を見られていたのが原因だろうな…じゃなきゃ、俺を見てあんな怯え方しないだろう。

 

 

「あーくそっ!本当に何やってんだ…俺」

 

 

 無性にむしゃくしゃが収まらず、頭を少し乱暴に搔いてそのまま抑えるように手を添える。

 

 今日は俺らしくない振る舞いばかりだ。

 パトラ達には強く当たり、憂さ晴らしにヴィランをひたすら殴り続け、全てを破壊したい衝動に駆られていた。

 

 

「……戻るか」

 

 

 もう事は済んだんだ。後のことは丸投げにしよう、俺も色々とあって疲れているんだ。

 

 そう無理矢理決め付けて、来た道を引き返しながらスマホで永先生に終わった旨を連絡をしておく。

 図書室での片付けもしなくてはならないので学園に戻るのだが、パトラ達に迷惑を掛けた詫びとして、道中で飲み物を買って戻ることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね〜ね〜こんこよ〜…沙花叉眠いんだけど〜」

 

 

「文句言わないでよ〜クロたん…こっちまで眠くなるじゃん。と言うか、そもそも昼夜逆転してるのが悪いんじゃん!」

 

 

 とある山奥にて、こよりとクロヱの二人は獣道に足を運ばせていた。

 

 こよりは何か目的があって探索しているのか、手元にあるレーダー探知機を偶に見ながら誘導されるように進んで行く。

 

 クロヱはこんな状況に飽きたのか、欠伸をしながら気怠そうにこよりの後ろを着いて行く。

 両手をだらんとさせて、あからさまなやる気ありませんと身体で体現させていた。

 

 

「それはこんこよもでしょ〜…?毎日部屋に籠って研究ばっかりしてて、いつも何してんの?てかそれよりも、沙花叉達って今何の調査してるのか聞いてないんですけど…」

 

 

「ここ最近だとヴィランのことばっかだね。それで調査の詳しいことだけど、前に″ヴィランにしかないエネルギー″があるって、こよが言ったの覚えてる?」

 

 

「全然」

 

 

「だるっ!」

 

 

 クロヱは自分が何の調査をしているのか分かっておらず、こよりが端的に内容を伝えたが、冷たく否定された上に話を聞いていなかったことに呆れるしかなかった。

 

 状況を理解していないまま調査を進める訳にもいかないので、足は止めずに軽く説明する。

 

 

「はぁ…仕方ないから少し説明するとね?ヴィランには特殊な流動エネルギーを持っていて…そうだな〜、仮に名付けて『Vエナジー』って言うようにするけど…」

 

 

「何そのネーミングセンスの欠片も無いエナドリみたいなの」

 

 

「黙らっしゃい!…それで続けるけど、そのVエナジーに関して個人的にどうも気になっててさ。これがまた言葉にするのがちょっと難しいんだけど…どの種族にも該当する力じゃないんだよね」

 

 

「ん〜…?どゆこと?」

 

 

 いまいち理解出来なかったのか、クロヱは首を傾げて思考を働かせる。

 ヴィランの流れている力がどの種族にも当て嵌らない…先ずあれは、元は何かだったのだと言うのか。

 

 

「人間や獣人は霊力、又は魔力…鬼族は妖力、魔族は魔力、天使は神力ってそれぞれの種族に決まった特有エネルギーを持ってるじゃん?そのどれかに該当するものがVエナジーには無いの!つまり、Vエナジーは完全に未知のエネルギー。ヴィランは新たな生命体」

 

 

「言うなれば宇宙人…みたいな?」

 

 

「ん〜…まぁそう捉えた方が手っ取り早いかな。それで、本題はこっからなんだけどね。ヴィランってさ、数年前にある日突然現れた…でもその前に前兆のようなことがあったのって知ってる?」

 

 

「えーっと…確か流れ星みたいなのがめっちゃ堕ちてたんだっけ?もしかしてそれと何か関係あるの?」

 

 

 内容を一旦整えよう。

 

 ヴィランは数年前に突如としてこの世界に現れた未知の存在。生まれた原因は未だ解明されておらず、現在進行形で研究している。

 こよりもその内の一人であり、今もずっと研究に没頭し続けていた。

 

 ヴィランが巷に現れる前には、この日本全土に数多くの流れ星が降り注ぐ現象が起きていた。

 世間はそれを楽観視していて気に留めておらず、何年かに一度の現象にしか捉えていなかった。

 

 だがこよりには、その長い研究の末にその現象が気掛かりだった。ただそれが関係あるかはまだ分からない。

 

 

「確定ではないし憶測でしかないから、まだ何とも言えない…ただまぁ───」

 

 

 そこまで言うと、彼女の持っているレーダーに何か反応を示した。

 

 小刻み音を鳴らすレーダーと見比べて、そこの茂みを掻き分けながら目的の物に目を向ける。

 

 

「───これで、だいぶ進捗は進むと思うけどね」

 

 

 こよりが見つめる所には、一つの″鉱石のような塊″があった。

 

 それは不吉な前兆を催すかのように、全てが暗い紫色で煌々と輝いていて静電気が音を鳴らしながら纏っていた。

 

 

 

 

 





さてさて、如何かな。たまにはこんな曇った話もあっていいですよね。まぁ、脳内での物語の予定じゃその内もっと曇らせるつもりですけどね。
あまり難しい話はしないようにはしてるんですけど、もし何か矛盾してたりしたら申し訳ないです。
次をお楽しみに。

では〜。
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