少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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遅くなって申し訳御座いませぬ。
ここ最近、書き溜めして調節やらスランプしていたので時間が掛かりました。
ちょっとここから急展開になりますかな。

じゃ、どぞ〜。


二十一話 『脅威の激発』

 

 

 

 

 

「───チィッ!こんなにいやがんのか!」

 

 

「「「……!!」」」

 

 

 現在、この街はヴィランによる混沌に包まれていた。

 

 事態は急を要する。あちこちで事故・火災・爆発・崩壊が巻き起こり、人々は阿鼻叫喚に呑み込まれている。

 サイレンが鳴り、避難放送が止まらない。これは過去の歴史の殆どを覆るに値する程の異常事態。

 

 今、前代未聞の()()()()()()()()()()()()()()最悪の事態に見舞われていた。

 

 

「だらぁっ!」

 

 

「……!?」

 

「「……!!」」

 

 

「くっ…!」

 

 

 ヴィランを見つけては倒し、探して回っていた。そして今度は三体のヴィランを発見し、行く道を塞いだ。

 

 その内の一体に助走をつけて右脚を胴体にめり込ませてから、左脚で蹴り上げる。そして追撃をしようとした所で二体のヴィランが肉壁となって邪魔をする。

 

 瞬時に体勢と呼吸を変えて、全身に気を張り巡らせる。

 

 

「紫心龍拳奥義・参ノ気──『龍烈演武』!!」

 

 

「「「……!?」」」

 

 

 紫に輝く龍の幻影を宿しながら、神速の如くヴィランに一瞬で風穴をつくる。

 遅れて突風が発生し、その後にヴィランは塵になって消滅していった。

 

 一時の騒動は去ったが、まだ安心している場合じゃない。他にもまだわらわらとそこら中に暴れていて、俺以外にも煌星学園の生徒全員でこの街を走り回ってる。

 

 

「はぁ…はぁ…ったく、これで何体目だ…」

 

(異常だ…異常が過ぎる。いくらなんでもこんな大量のヴィランが一斉にして湧くのは可笑しい…)

 

 

 だが可笑しなことに一向に収まる気配がしない。俺がヴィランを倒した数は既に二桁を迎えている。何度も技を利用している所為で、流石に疲弊も止まらなくなってきた。

 

 だが、足は止めていられない。ヴィランの気配がまだ近くで感じ、そこに向かって走り出す。

 

 

「紫蓮牙・『豪弩脚』!!」

 

 

 そして見つけては即座に対処する。走りながら利き足である右脚に気を集中させて、一直線にヴィランに跳び込む。

 その様は弾丸の如く跳んで、ヴィランの胴体を自分の身体ごと貫通して行った。

 

 

「一体全体どうなってんだ…!でも、考えたって仕方ねぇ…よな。色々と疑問だらけだが、今はこの事態を終わらせねぇとっ!」

 

 

 そして、ヴィランが消失していく様子を確認することなく、勢いを乗せたまま次に向かう。

 

 考えても理解し難いこの状況。ともかく、今やるべきことはこの事態を終わらせることを優先しなければならない。

 民間人の命を最優先、ヴィランの対処をしながら行うにしても限度はあるが、最大限に動いて最小限に被害を減らさなければならない。

 

 

 

 

 

 何故こんなことが起きてしまったのか、それは少し前のこと⋯───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、何時ものように学園に来ていた龍成は、フブキとまつりところねとミオの五人で会話に花を広げていた。

 彼女達の場合の話題となると、殆どがゲームのことだったりする。その時も少し世間話を交えながら楽しい一時を過ごしていた。

 

 しかし、そんな時にフブキからある話を持ち込まれた。

 

 

「龍成君、最近パトラちゃんと何かあったんですか?それにミオとも…何か君がそわそわしてるって言うか…」

 

 

「そう言えば、おがゆと話す時にも何か落ち着いてなかったでな?」

 

 

「え、なになに?もしかして恋バナ系?」

 

 

 フブキところねから不意にそう言われて、少しビクッと反応してしまった。

 内容から察するに休みの日の図書室での出来事だ。まつりは何のことか分かっていない為、少し茶化すようにじりじりと詰めてくる。

 

 だが、そこでミオが咄嗟に割って入った。

 

 

「あー、そうじゃないんだ。実はちょっとウチ達が龍成君に迷惑を掛けちゃってね」

 

 

「えっ、そうなの?」

 

 

「違う、逆だ。俺がこの間…その、ミオ達に強く当たってしまったんだ」

 

 

 ミオが俺の様子に気を遣ってくれたのか、なんと自分が悪い言い出した。だがそういう訳にもいかないので、直ぐに否定して真実を伝える。

 

 ヴィランを倒したあの後、ちゃんと謝罪は済ませてお詫びに飲み物を差し上げたのだ。

 その際に皆は気にしてないと言ってくれたが、正直…俺が落ち着かなかった。

 

 余談だが、皆はお茶を貰って嬉しそうにしていたけど、ラプラスにはりんごジュースに不満だったのか「子供扱いするな!」と怒られた。

 

 

「ん…?どういうこと?」

 

 

「ちょっと調べ物があってな、図書室で…そこで偶々会って、それで…少しいざこざがあってだな…兎に角、ミオやパトラ達に非はない。俺が一方的に悪かっただけだ」

 

 

 俺とミオの言い分に責任の押し付け合いならぬ奪い合いが生じている為、まつりは困った表情を浮かべながら首を傾げていた。

 それに簡潔に述べると、理解を得る。

 

 結果的に関係性はギクシャクせずに無事ではあったが…それ以降、単純に俺が彼女達と話す時、真面に目を合わせられなくなっていたのだ。

 

 

「あー…成程ね。要は気まずいって訳ね」

 

 

「でも、おがゆとか気にしてなさそうだったよ?寧ろ龍成君のこと心配してたよ」

 

 

「ウチも別に気にしてないから大丈夫だよ。パトラちゃんも、見てると気にしてる様子はなかったし。あの二人も気にしてない筈だよ」

 

 

 ころねとミオの二人がフォローを入れてくれる。彼女達が言うから嘘なんてないし、実際にパトラ達もそうなのだろう。

 

 ただ、俺自身がまだ自分を許していない。

 

 

「けど…───」

 

 

「はいはい、じゃあこの話題は終わりにしよ?暗い話ばっかじゃ面白くないし、別のこと話そ?」

 

 

「と言っても何話すー?最近何か面白いこととかあったりしないー?」

 

 

「あ、そうだ。ミオちゃんの占いのやつ!あれ龍成君にもやってみたらどう?」

 

 

「おっ!いいね〜それ!という訳でミオ、後はよろしく!」

 

 

 フブキは俺がまだ否定的な雰囲気を感じ取ったのか、軽く手を叩きながら強引に話を切り上げた。

 これ以上この話をしたら埒が明かないし、ネガティブな雰囲気になるのも不本意だろう。

 

 みんなその意図が同じだったようで、フブキの話に合わせて話題を変えることになった。

 

 

「もう⋯ウチに丸投げみたいに言って」

 

 

「占いって、どんなことをするんだ?」

 

 

「ウチ、実はタロット占いが得意でね。たまに占ってあげてるの、まぁあくまでも占いだから必ずその通りになる訳じゃないから⋯」

 

 

 どうやらミオは占いを趣味でやっているとのこと。

 タロット占いは、俺はあまり理解していないし名前しか聞いたことがない為、難しい内容のイメージが強くある。

 

 

「でも実際、ほんとにミオの占いは当たってるから!殆どの人が効果あるみたいだよ!」

 

 

「へぇ⋯」

 

 

 あくまでも占いだから真に受けるつもりはないが、フブキが言うには実際にその通りになった前例があるらしい。

 

 不思議なもんだなと、そう思いながらミオの占いを準備する様子をぼーっと眺める。

 タロット占い…何枚かのカードから一枚抜き出して、そのカードの名称と絵柄と位置で色々と意味が込められているらしい。

 

 準備は滞りなく終えて、早速始める。と言っても俺は全く分からないので、ミオの説明を聞きながら進めて行き、そして一枚のカードを取った。

 

 

「「っ!」」

 

 

「それは⋯」

 

 

 そしてカードを裏返して見た時、まつりところねはギョッとした表情で目を見開いて固まり、フブキも少し焦燥のある怪訝な表情でカードに目を向けていた。

 

 かくいう俺も三人と似た感情を持っていた。タロット占いの分からない俺でも、このカードが芳しくないのは分かる。

 

 

「『DEATH()』のカード⋯これって、ヤバいんじゃ⋯?」

 

 

 そのカードの中には、重そうな黒い鎧を着ているのは骸骨の姿をした死神。

 赤く光る目を持った馬に跨って戦場を進み、その足元には人が倒れている。カードの名前からも、描かれている風景からも恐ろしい印象があり⋯まるで死を宣告されたような不穏なものだった。

 

 顔には出さないが、内心では俺も少し焦っていた。色々な不安が渦巻く心中だったが、ミオはそれに対して心配要らないと首を左右に振った。

 

 

「ううん、確かにそれだけだと悪い意味にしか見えないけど大丈夫、そういう直接的な意味でもないんだよ」

 

 

「そうなの?」

 

 

「うん。今、龍成君が引いたそのカードは正位置だから、となるとキーワードは″切り替え″。全てのモノは必ず終わる。その運命を受け入れたモノだけが新しい世界へと踏み込む…こう言った解説があるの」

 

「一つが終わり一つが始まる段階であることを表していて、強制的な終了や別れなど辛いこともあるけれど、それを受け入れることで新しい何かが始まったりする。正位置のDEATHカードにはそう捉えられるの」

 

 

「へぇ〜!悪い意味だけじゃないんだね!」

 

 

 正位置だったお陰でもあるのか、想像していたものよりも物騒な内容ではなかった。

 そのことに少し安心して落ち着きも取り戻し、胸を撫で下ろす。

 

 

「それを理解してもらった上で改めて説明すると⋯今後、龍成君に何か″大きな変化″が訪れるかもしれない。そんな感じかな」

 

 

「大きな⋯変化⋯」

 

 

 ミオにそう言われると不意に心臓が小さく跳ね上がった。

 

 その時に色々と考えてしまう。過去のことや、あの団体のこと⋯そしてこれからの自分のこと。

 終わりは全てに必ず訪れる事象であり、免れることは確実に出来ない。

 

 この占いの意味が良い方向か悪い方向かは分からない。さっきのミオの説明を聞くに、″強制的な終わりと別れ″が現れる。

 俺に関わっているものに何かしらが終結し、俺の歩む人生の道筋に変化が訪れる。

 

 一体、どうなるんだろうか⋯。

 

 

「あくまでも占いだからね?絶対にそうだって訳じゃないし、ウチは預言者でも未来が視えるわけでもないんだから、そうなんだなぁ〜って思えばいいよ。とまぁ取り敢えず、ウチの占いはこんな感じ!」

 

 

 気にし過ぎて静まった龍成を見たミオは軽く注意を伝えたが、彼は頷くだけだった。

 そして予鈴が鳴り響き、休憩時間の終わりを伝えられると、まつりところねの二人があからさまに肩を落とした。

 

 

「あっ、予鈴だ。はぁ〜⋯もう休み時間終わっちゃったのか〜」

 

 

「この後、訓練大変なんよな〜」

 

 

「そろそろ白上も、何か新しい技でも考えようかな〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリッ!!ジリリリリッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───っ!?』

 

 

 そんな時だった。

 

 緊急出撃とは異なった警鐘、火災報知器と似た不快感のある音が鳴り出した。

 何時もとは違う出来事にクラス中の全員は驚愕に染まり、身体を硬直させた。

 

 そして次に放送用の鐘が鳴ると、スピーカーから永先生が慌ただしく声を震わせていた。

 

 

 

《き、緊急事態!緊急事態!生徒の皆さんは今直ぐに校門前に集合して下さい!繰り返します⋯───》

 

 

 

「どういうこと⋯?」

 

 

「兎に角、向かいましょう!」

 

 

 訓練だとするなら事前に説明は受ける筈だし、とても冗談で済むような事態じゃないのは分かる。

 突然のことで誰もが頭が追い付けていないが、咄嗟に行動して言われた通りの場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「集まったは良いがどうしたもんか。それに谷郷さんまでいる⋯一大事な感じか?」

 

 

「そうかもね⋯今までこんな、生徒全員がこうやって集まるのは初めてだし」

 

 

「何だかあまり⋯いや、凄く良くない雰囲気がしますね」

 

 

 校門前の開けた所へ出ると、もう殆どの生徒達が一箇所に集まっていた。

 その他に永先生とのどか先生、それに谷郷さんまでもが横に並んで神妙な表情で佇んでいた。

 

 一同、少しざわめいていたが雰囲気を察して静まり返り、彼の言葉を待った。

 

 

「皆さん、突然の招集に応じて下さりありがとうございます。前置きもしてる暇もないので、早速本題に移させてもらいます」

 

 

(谷郷さんの気がやけに慌ただしく揺れてる⋯あんなの初めてだな。冷静沈着そのものみたいな人が、表には出さずとも内心かなり慌てている⋯一体何が起きたってんだ?)

 

 

 永先生ものどか先生もそうだが、あの谷郷さんすらも顔色が優れていない様子だった。彼の気を視覚化して見ると、激しく動揺しているのが分かった。

 あの柔和で微笑みを普段崩さないあの人があからさまに苦い顔をしているだけで、こちらも少し不安になる。

 

 そして、谷郷さんは何処か気まずそうにしながらも続けて報告する。

 

 

「先程⋯政府からの緊急戦力要請に加え、この学園の屋上に設けているヴィラン探知機レーダーから、数多のヴィランの反応がありました。その数は⋯───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───()()()を超えています⋯」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────は⋯?」

 

 

 その瞬間、全ての時が止まったかのような感覚に陥った。

 

 今⋯彼は何と言った?ヴィランの数が五十を超えている?数え間違いではないのだろうか?

 

 そうなった原因が不明な上に信憑性があまりにも欠けている為、納得よりも疑心暗鬼が先に来るのも不思議ではない。

 ヴィランの被害報告もまだ聞いていないし、どういう状況なのか。

 

 

「ちょ⋯ちょっと待ってよ!五十って⋯何かの間違いじゃ⋯!!」

 

 

「そんな一気に大量に湧いてくるって可笑し過ぎやしねぇか⋯?」

 

 

「どういうことなのっ!?」

 

 

 そこでねねの掛けた一言を皮切りに続いて、ココとトワも皆の気持ちを表すように谷郷さんに反論しだす。

 他の生徒全員もざわざわと不安で溢れて、落ち着きがなくなり始めていた。

 

 だが谷郷さんは、口調を強めて再び注目を集めさせた。

 

 

「皆さんが信じられないと言う気持ちは重々承知しています。ですが、詳細は後ほどに願います。今は一刻を争います、多くの人の命がヴィランによって脅かされているのは事実。被害を拡大しないように、何時ものグループで速やかに現地に向かって頂きます」

 

「紫黒君は⋯⋯君の実力は十分理解していますので、単独行動でも構いませんし自分の出来る限りでいいので、無理せず皆さんのフォローを頼めますか?」

 

 

「勿論」

 

 

 谷郷さんの説明に全員は黙って脳内に詰め込む。確かに色々と気になる部分は多くあるが、それよりも⋯人命の危機がそこまで来ているのなら、対処出来るのは自分達しかいないし、早急に意識を切り替える。

 

 現場ではヴィランが異常な数がいる為、特殊異能精鋭隊でのグループで別れて対処し、俺は谷郷さんに実力を買われて一人行動でのサポートを頼まれる。

 

 そして直ぐに準備をして現場に向かうのだが、場所はこの地域の少し離れた街中らしい。

 今から向かうにしても走っても飛んでも時間が掛かる距離なので、そこは魔法に長けているシオンの出番だと言う。

 

 間隔を縮めて一箇所に集まってシオンが転移魔法の準備をしている時に、ときのが声を掛けた。

 

 

「今回、いきなりの生徒全員での大規模な戦いになるけど⋯皆、決して無謀な行動は慎んで行くこと。市民の命の優先も大事だけど、戦える私達が大怪我などで行動出来なくなったら被害が増えると思って。これから大変になるけど、皆無事に生きて終わらせようね」

 

「シオンちゃん、テレポートの準備はいい?」

 

 

「いつでも!じゃあ行くよ!」

 

 

 ときのの鼓舞により皆は頷いて返し、シオンは杖を掲げると足元に広範囲の魔法陣が展開される。

 淡い光から徐々に素早く光が伸びていき、視界が眩い光で目を瞑った。

 

 そして光が晴れると、その場にいた全員は完全に消えており、ヴィランが蔓延る街に向かったのだった。

 それを見届けたえーちゃんとのどかは不安げな顔色は変わらず、谷郷は空を見上げていた。

 

 

「⋯⋯頼みますよ、皆さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞼から光が収まるのを感じ取り、目を開けてみると景色が変わっていた。どうやら移動が出来たのだろう。

 

 

「ここか⋯っ!」

 

 

「え⋯なに、これ⋯」

 

 

「酷い⋯もうこんなになってるの⋯?」

 

 

 しかし、おかゆとパトラの反応に誰もが同じ気持ちになった。

 

 真っ先にその目にしたのは⋯″街の崩壊″。

 

 状況確認の為に周りを見回そうとする以前に、目を開けた傍から悲惨な光景が視界に広がった。

 サイレンが鳴り響き、悲鳴と怒号が飛び交い、爆発と倒壊と火災があちこちに起きて阿鼻叫喚の嵐だ。

 

 

「⋯取り敢えず、シェルターに避難誘導しつつヴィランを探そう。各グループ、行動開始!」

 

 

『はい!』

 

 

 だが何時までも放心していられず、ときのの声掛けに意識を切り替えさせる。ヴィラン用シェルターが存在している為、その場所に避難誘導させながらヴィランを片付けて行くしかない。

 

 早速、各グループで行動に移してその場から離れて行き、俺は少し精神統一してから向かうつもりなので、佇みながら深呼吸を繰り返しているとパトラが神妙な表情で近付いて来た。

 

 

「りゅう君⋯一人でほんとに大丈夫⋯?」

 

 

「⋯あぁ、大丈夫だ。俺は皆の様子を見掛けながら回るつもりだ」

 

 

「そっか、気を付けてね」

 

 

「あぁ⋯そっちもな」

 

 

 そう言うと彼女は何処か心残りのように、ちらちらと此方を伺いながらも頷いてから黙ってシャル達と去って行った。

 

 俺は⋯またパトラと顔を合わせずに素っ気なく会話を終わらせてしまった。

 

 ミオやころね達にあれほど大丈夫と言われたのに、自分でもそれを理解したつもりだったのに⋯彼女の心配する気持ちを蔑ろにしてしまったように感じて自分に嫌気がさしてしまう。

 

 俺はなんて情けない奴なんだろうか。

 

 

「⋯行くか」

 

 

 結局、精神統一をしても心に蟠りが残ってしまい、意味を成さない状態で戦場に赴くことになった。

 

 ヴィランの数は五十体以上、それが街の中で暴れてるのは完全に異常事態。出来るだけ素早く対処しに向かおうと、少し離れた所にヴィランの気配を感じ取った。

 

 

(どのくらいの範囲でヴィランが徘徊してるのか分からないが、とにかくヴィランの気配が一番近いとこに向かうか)

 

 

「……!!」

 

 

「っと⋯!危ねぇ、いきなり来たか。しかもこいつ、気配を消してやがったか⋯!」

 

 

 走り出してまだ少しの所で、間一髪で気づいて咄嗟にバク転で後ろに下がった。

 気配のあった場所に行き着く前に、別のヴィランが上から降って来たのだ。無駄に巧妙な戦略に少し苛つき、眉間に皺が寄る。

 

 ヴィランの図体を確認して見る。そいつはまるでゲームなどで出てくるゴーレムに似たような姿をしていた。俺の身長の倍くらいはあるな⋯。

 

 

(ゆっくりはしてられねぇ⋯一発で終わらせる!)

 

「紫蓮牙・『絢爛』!」

 

 

「……!?」

 

 

 一発で終わらせなければならない気持ちで挑み、拳を強く握って気を集中させる。

 足を踏み込んで一気に距離を縮めると、ヴィランも咄嗟に大木のような腕を伸ばして来た。

 

 それを左半身を反らしてから、そのまま一回転して勢いを付けながら下からアッパーで顔面を殴り上げる。

 拳がめり込んで真上に吹っ飛ぶと、少ししてから爆散した。

 

 よしっ、と心の中で納得しながら目指そうとした所へ再び走り出して行った。

 

 

「「「……!!」」」

 

 

「うぉ⋯まじかよ」

 

 

 そしてヴィランの気配が強くなったのを感じ取り、警戒しながらその場所に滑り込んで見ると、さっきと同じゴーレムに似た姿をしている三体のヴィランが共に行動していた。

 こいつらに集団意識があるとは思えなかったので普通に驚いた。

 

 その三体は俺を見るなり警戒意識を強めて、炎のような幻体を揺らしていた。

 すぐさま攻撃に移り、真ん中にいたヴィランに一瞬で移動して殴り下ろし、地面にめり込ませる。

 

 右側にいたヴィランが腕を伸ばしてきたが、それを屈んで躱しながら足払いをする。

 バランスを崩した隙に腕を掴んで、力を込めて持ち上げると地面にめり込んでいたヴィランに重ねるように叩き付けた。

 

 そして最後のヴィランは、こちらに向かって猛ダッシュして体当たりをしようとしていた。

 それを構えながら、動きを見据える。

 

 

「紫蓮牙・『大翔』!」

 

 

「……!?」

 

 

逆に攻めに行き、懐へ全力を尽くす一撃を胴にめり込ませる。その衝撃でヴィランは急停止して動きを止めた。

 透かさず力強く蹴り上げて空中に飛ばし、後を追うように地を蹴って跳んで行く。

 

 そして、その進行方向に先回りすると両手を合わせて握り締め、スレッジハンマーをして叩き落とした。

 ヴィランが落ちて行った先には先程の二体が重なっている所だった。

 

 結果、三体のヴィランが一箇所に重なって地面にめり込んでいるのが出来上がった。

 自分の思い描いた状況に持ち込めてほっとしながらも、終わらせる為にヴィラン達に向かって急落下しながら、足を突き出した。

 

 

「紫蓮牙・『豪弩脚』!!」

 

 

 空から堕ちて来るは紫黒に燃える槍。

 その炎槍は勢いを増してヴィランを穿つ。彼は三体のヴィランに突っ込むと大爆発を起こし黒煙が上って行く。

 暫くして煙が晴れると、そこには大きく蜘蛛の巣状に陥没して、その中心に彼が佇んでいた。

 

 その表情は優れいるとは言えず、眉間に寄せた皺は戻っていない。何処か焦燥感に駆られていて、一滴の冷や汗が顔の輪郭をなぞって落ちる。

 

 

「⋯⋯ヴィランの気配が⋯多過ぎる」

 

 

 少し開いた口を閉じることすらも忘れて、肌から感じるヴィランの不穏な気配の数々が絶え間なく存在している。

 正確な数までは把握出来はしないが、予測してもこの区画外にヴィランは漏れてはいないと思う。

 

 だがそれも時間の問題。いつヤツらがこの街から別の所に移動しても変じゃない、それだけは避けなければ⋯。

 

 そう思うと、余計に焦る気持ちが芽生えてしまい。気付けばその場から走り出してヴィランの気配を感じる所へ向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちもか⋯!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───しかし、街を徘徊するヴィランは⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここにも⋯!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────壊れた蛇口のように⋯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何処にでもいやがるじゃねぇか⋯!どうなってんだ⋯!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────留まりなく次々と現れ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は後に⋯この悲惨な状況が更に地獄絵図になることなど、この時は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ⋯どこまでオレを楽しめられるかな…?」

 

 

 

 

 

 そして、その街を見下ろす一つの悪意が今⋯ゆっくりと動き始めていた。

 

 

 

 

 





相変わらず長いと思うけど、これでも文字数は一万も行ってないんだぜ。
さぁこっからは長い話になります。頑張るぞ。

細かい設定とかちょいちょい忘れてるかもしれないけど、気を付けつつ書いていきます。

では〜。
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