皆の者よ、こんな話がお望みなのだろう?
出来栄えは人によるかもしれないけど、楽しんで頂ければ幸いです。
じゃ、どぞ〜。
『好感度観測眼鏡』【前編】
「────何だこれ…」
それはある日のことだった。
学園から帰ってみれば、玄関前に謎の箱が置かれていた。それもクリスマス仕様のようにリボンで丁寧に結ばれている仕上がり具合。
クリスマスにはまだ早ぇーよ。
と⋯そんなことを思いながら、ふとリボンと箱に挟まって添えられてあった小さな紙を見つけると、何かが書いてあった。
「好感度、観測⋯眼鏡?」
何だそれは。この一言だけが脳内に埋め尽くされる。マジで何だそれは。
「新手の詐欺商品か?いや、そもそも配達なんて頼んだ覚えないし⋯ぇ怖っ」
通販サイトを利用することはあるが、最近は扱っていない。そもそもこの商品を見つけたとしても買うことなどない。
この時点ででゾッとする話が出来上がっている。もしかして配達先を間違えたのではないか?
しかし、段ボールじゃないし領収書などは貼り付けられていない。その事に頭を悩ませた結果、確認の為に一旦持って行くことにした。
「取り敢えず⋯開けてみるか⋯」
いつの間にこんな物を⋯誰かが悪戯で置いていったのだろうか。返品しようにも何処に返品すればいいんだか⋯捨てるしかないか、面倒だな。
そう心の中でぼやきながら箱を開けてみる。そこには何の変哲もない青黒いフレームの眼鏡があるだけだった。
「見た目は至って普通だな⋯レンズも入ってる訳でないし、ただの伊達眼鏡じゃんか」
手に取ってあちこち見ては、試しに掛けてみたものの、レンズは一切入ってなかった。
「はぁ…馬鹿馬鹿しい。大体これでどうやって分かるってんだ⋯⋯ん?」
ただの伊達眼鏡と全く変わってないことに、呆れた溜息が出てくる。
第一、どうやって好感度を測って数値にするのか、仕組みが想像できない。そもそも仮に出来たとしてもそれが本当とは思えない。
処分するかと思った時、箱の中に二枚の用紙が入っていたことに気付いた。
何だろうと思い、それを拾い上げる。
【好感度によるパラメータ一覧】
《0》無関心
《1~20》顔見知り程度
《20~40》興味を持っている
《40~60》友達と思っている
《60~80》親友かそれ以上に親しい
《80︎~100》愛情、又は恋愛感情を抱いている
一つは、見る限り好感度による結果表のまとめだった。そしてもう一つが⋯。
“おバカさんなお猿さんでも理解する使い方!”
その一『メガネを掛ける!』
その二『対象の人を数秒間見つめる!』
以上!ウキャアァァァ!!!(猿の声真似)
「⋯⋯」(怒)
とても簡易な説明書であったが、最後の余計なものに不意にピキッと来た。
何が猿の声真似だ、舐めるのも大概にせい。
「いやいや、こんなハイテクな物なんて流石に見掛けだけだろ。これで他人の好感度が分かるって⋯無理があるだろ、いくら何でも」
でも実際、ロボ子とかに頼めば出来なくもないと思うが、仮に作れたとしても無断で俺の家に置いておく筈がない。
「はぁ〜あ⋯くだらんくだらん、こんなのに一々気に掛けてられるかよ。捨てよ⋯」
⋯⋯⋯⋯⋯
────────────────────────
「結局、好奇心には勝てなかった」
次の日の朝、誰もいない教室にて一人頭を悩ませていた。何故そんなことになっているかは言わずとも分かるだろう。
今、俺の机には例の眼鏡が置いてある。こんな早く学園に来たのも、気になってしまって起きてしまったのだ。
結局この眼鏡は捨てることなく持ってきてしまっていた。昨日はあれだけ興味を逸らそうとしたのにこのザマである。
好奇心は猫をも殺すとも言うが、やっぱり今の内に捨てるべきか…?
けども正直な話、気になってしまっている自分がいる。でも、余り触れてはいけないような気もするが…⋯⋯。
もうこの際だ、調べるだけ調べてみよう。
「取り敢えず掛けてみるか」
やばいなって思ったら速攻破壊すればいいし。誰から見てみようかな。
確かあの説明書通りなら、対象の人を数秒間見つめる必要があるんだったか。
…掛けてみたが、変ではないだろうか。今の内にトイレのとこの鏡で見てみるかな。
「おや、紫黒君。おはようございます」
「あ、おはようございます。永先生」
そんな時、社畜の鑑の″有仁 永″ことえーちゃんがやって来た。彼女は少し驚いた表情をしたが、直ぐに元に戻った。
「今日は珍しく早いね?⋯って、どうしたのその眼鏡?」
「えっ⋯ぁ」
しまった。俺としたことが理由とか何も考えていなかった。やべどうしよう…。
「えぇと、ちょっと最近になって視力が落ちてきた感じだったので⋯それで」
「あぁなるほど。それにしても、眼鏡を掛けた君も中々似合ってるね」
「はは⋯どうも」
割と適当に言ったけどそんな簡単に信じる?まぁ、信じたんなら都合がいい。
ピピピッ⋯
有仁 永(えーちゃん)
好感度《29》
(んぇ⋯?)
すると突然、計測のような音が聞こえたと思えば、左のレンズにえーちゃんの頭上から好感度数値が浮かび上がった。
それはまるでどっかで見たスカウターのようである。
「どうかしたの?」
「えっ?ぁいや、なんでもないです!じゃあ俺、教室に戻ってますね」
呆けているとえーちゃんが首を傾げて顔色を伺ってきた。咄嗟になんでもないことを伝え、慌てて戻ろうとする。
「そう。あ、じゃあついでに⋯これだけ教卓の上に置いてて貰っていいかな」
「わ、分かりました〜…」
渡された束の用紙を快く受け継ぎ、逃げるようにその場から立ち去る。
(これか?これなのか?)
一度冷静になり、改めて眼鏡の性能について確認する。あの説明書通り、特定の人を暫く見続けていると結果が現れる。
後ろを振り返ってえーちゃんを見続けていると、先程と同じ結果が現れる。
「これ、マジなやつだ⋯」
困惑で埋め尽くされた故に、ボソッと出てきたこの言葉は虚空へと消えていった。
色々と頭の中で整理をしつつ教室へと戻って来た彼は、自分の机で時間が来るまでのんびりと眼鏡について考えていた。
しかし、そこで思考を邪魔するかのように教室の扉が開かれる。
「あれ?龍成じゃんか!おはよー!って眼鏡掛けてんじゃん!どうしたん!?」
「おう、おはようスバル⋯まぁちょっとな」
元気が取り柄の″大空 スバル″がやって来た。彼の姿を見るなり彼女らしいリアクションを見せる。
「目でも悪くなったの?」
「あー⋯うーん⋯少し悪くなったような気がしてな」
適当な返事をしながらも、視線はスバルを捉え続ける。
ピピピッ…
(きた…!)
大空 スバル
好感度《58》
(お、これは…)
確かあの好感度表では⋯友人として見られているんだったかな。
「うん?どうしたの、何か安心したような顔して」
「っ!あっ、や⋯何でもないよ」
意外に高い数値に何処か安心感を覚え、つい緊張感が緩んでしまった。
「にゃっはろー!みこが参上したにぇー!」
「おっはよー!まつりちゃんも来たぜー!」
「スバルちゃんと龍成君。おはよー!」
そこにPON製造機″さくら みこ″と、清楚(嘘)″夏色 まつり″に、可愛ヴァンパイア″夜空 メル″の三人がやって来た。中々見ない組み合わせである。
「おはよっす!みこちが早く来るのって珍しいな!」
「みこは神社の巫女やってんだから、自然と早起きするもんだにぇ!」
「いやーまつりも早起きしたから、来ちゃった!」
「あれー?龍成君が眼鏡してるー!」
軽い雑談をし始めた時、メルが龍成の異変に気付いたことで、みこもまつりも続いて見にやってくる。
「ほんとだ!珍しい!」
「目でも悪くなっちまったかー?」
「それさっきスバルも聞いた」
「雰囲気変わって格好良いね!」
「あ、ありがとう」
怒涛の押し寄せに少ししどろもどろになってしまうものの、眼鏡は彼女達を捉えている。
ピピピッ…
さくら みこ
好感度《75》
夏色 まつり
好感度《59》
夜空 メル
好感度《55》
(三人はこんな感じなのか。今の所みこが一番高いな⋯少し嬉しい反面、こんなのを覗いてて悪い気が⋯)
それに、どうやら一人づつではなく複数でも同時計測できるらしい。
だがここで、内緒で人の好感度を覗くのは人としてどうかと思い始めてきた。そんなことを皆は露知らず、なんの疑いもなくいつも通りに過ごしていた。
「おはよーきーつね!白上の参上です!」
「おはみぉーん!うちうち、うちだよ! 」
「おはなきりー!余〜だよっ!」
ここで幽世組である白狐の獣人″白上 フブキ″と、狼の獣人″大神 ミオ″と、鬼可愛っ子″百鬼 あやめ″の登場である。
「あれっ!?龍成君が眼鏡掛けてる!!」
「あー!ほんとだー!え、今までコンタクトだったの?」
「眼鏡掛けるくらい目が悪くなったの?余が良い視力回復とか教えようか?」
フブキは酷く驚いた表情をし、ミオも珍しいものを見付けたような反応を見せ、あやめはどちらかというと心配の傾向であった。
「ちょっと気分を変えてみようかなと。それに別にそこまで酷いって訳じゃないから大丈夫だ」
やたらフブキの反応が意外にも大きいことに違和感を覚えるが、取り敢えず計測してみる。
ピピピッ…
白上 フブキ
好感度《65》
大神 ミオ
好感度《67》
百鬼 あやめ
好感度《60》
(おっと⋯?みこに続いてこの三人も意外と高かったんだ⋯勝手に見て申し訳ないが、ちょっとほっとした)
何だかんだ悪いと思いつつも結局見てしまう。そんなことをしていると、急にフブキが目の前まで勢いのある詰め寄り方をして来た。
「ほぉほぉ⋯⋯これは、中々に⋯おぉうふっ⋯!」
「きゅ、急にどうした?」
瞳をキラキラとさせ鼻息を荒くさせながら、まじまじとこちらを見て悶えたフブキに引き気味になる。
ピピピッ⋯
白上 フブキ
好感度《65》→《70》
(何で増えた⋯!?)
一瞬で好感度が上昇。これには彼も困惑ものである。
「も〜フブキったら、龍成君がびっくりしてるでしょ?ごめんね、フブキってば眼鏡フェチな部分があるから」
ミオからそう言われ納得する。いや、にしてもあからさま過ぎだろ。
「ねぇ龍成。よかったら、余がちょこ先生に言って良い目薬とか持ってこようか?」
「いや、だから大丈夫だって⋯」
「だって眼鏡かけたら戦い辛くなるじゃん!」
「心配する着眼点がそこかよ」
鬼のお嬢は何処までも戦闘狂である。
────────────────────────
小休憩時間になった時、一人で静かに考えていたかった俺は教室から離れて、中庭にあるベンチで考察していた。
「どうやら、この眼鏡は本当に本物みたいだな。けど、一体これが何で俺の家に⋯」
根本的な問題は未だ未解決。そもそもなんの前振りもなく、恰もそこにあったかのように自然に置かれていたのだ。
そのせいで原因の欠片の一つも拾えない。
「やっほ〜龍成君、もぐもぐ〜」
「ゆびゆび〜!こぉねもいるでなー」
「っ!お、おう。おかゆにころね」
するとそこへ突然、猫の獣人″猫又 おかゆ″と犬の獣人″戌神 ころね″の犬猫コンビがやって来た。
急な訪問に俺は慌てて咄嗟に眼鏡を懐に隠す。
「あれ〜?フブキちゃん達から聞いてたんだけど、眼鏡してなくない?ボク気になってころさんと探してたんだけどな〜」
「たかが眼鏡掛け始めたくらいでそんな… 」
「えー、でも龍成君格好良いじゃん。イケメンがイメチェンしたら誰だって気なるでな?」
「そう言うもんか⋯?」
余り自分の顔に意識を持ったことはない。が、彼女らがそう言ってるのなら多少は安心していいのだろう。
「ねぇねぇ、眼鏡掛けてみてよ!フブキちゃん達は朝見てたみたいだけど、こぉねとおがゆはまだ見てないんだよ?」
「そうだよ〜?さぁ、ボク達にも見せるんだ〜!」
「まぁ⋯別にいいか」
見られるのが嫌という訳でもないし、おかゆに言われた通り掛けて見せる。
「⋯これで何か満足できたか?」
「「おぉ〜!」」
眼鏡を素直に掛けて彼女達に顔を向ける。二人は感嘆な反応をしてくれる。
そのついでに、二人を凝視すれば⋯。
ピピピッ…
戌神 ころね
好感度《64》
猫又 おかゆ
好感度《66》
自然な流れで二人の好感度を測るという。これは果たして人としてのモラルをはみ出しているだろうか。
多分ダメだと思います。
(この二人も割と高い方なんだな。いやまぁ、何か懐かれてる感はあったけど⋯ある意味、納得出来るかな⋯?)
思い返してみれば、なんだか獣人系にはやたら好感的な態度をちらほらと見掛ける気がする。
「龍成君って元々クールな感じはしてたけど、眼鏡かけたら博識な人の感じが増えたね」
「ねぇねぇ、こぉねもちょっと掛けてみていーい?」
「絶対ダメ」
もしかすると誰か聞いてくると思っていたが⋯これは絶対貸せない、貸さない、知られてはいけない。なんとしてでも守らなければ。
「えぇー!何でぇー!?眼鏡掛けるだけじゃん!こぉねも掛けておがゆをメロメロにさせたいー!」
「⋯⋯ころねに貸したら眼鏡壊しそうだから」
「こぉねのこと何だと思ってんの??」
咄嗟の理由とは言え、ぶっちゃけ三割くらい本音である。
「あー、ころさんってそういう節とかあるもんね」
「おがゆー!?」
そして見事におかゆにも裏切られるころねであった。
────────────────────────
それから二人と暫く雑談をしていたが俺はあることを思い出し、急ぎ気味で三年生の教室へやって来た。
「どうもー、ときのはいるか?」
「あ、龍成君。どうしたの?」
「あー!龍成君が眼鏡掛けてるー!」
「わーほんとだー!似合ってるね!」
「おぉ、凄い新鮮味が増すね」
用があるのは絶対領域″ときの そら″だけなんだが、大体彼女の周りにはサイコパスアイドル″星街 すいせい″に高性能(多分)な″ロボ子″、電脳少女の″
「取り敢えずこれ、対ヴィラン用のトラップの発注書。ぺこら達が罠の在庫が少なくなってきたって言ってたよ」
やって来た内容はこれのことである。精鋭隊の長に申請を直接渡しに行くという、少し面倒なことをぺこら達の代わりにやって来たのだ。
「もうそんなに使ってたんだ⋯うん分かった、これなら大丈夫だと思う」
「いやー大変だね、偉い生徒の人達は。こういうの任されるのって結構怠そう」
「仕方ないよね。殆どが使い捨てだから結構補充してないと、困るのは僕達も同じだし」
「費用もかかっちゃうし、色々と難しいね⋯それで気になってるんだけど、龍成君って目悪くなっちゃったの?」
アズキが皮切りに問い掛け、それに続いて三人も彼の方へ視線を向ける。
「あー⋯まぁちょっと気分を変えてみようかなと。けどやっぱり違和感があるから、裸眼のままでもいいかもな」
半分嘘で半分事実である。立て続けに嘘を付くのは多少居た堪れないが、もう違和感があって外したい気持ちもある。
けど⋯けどやっぱり気になってしまう自分がいる!
(皆には本当に申し訳ないが、気になって仕方がない)
ピピピッ…
星街 すいせい
好感度《55》
ロボ子
好感度《49》
ときの そら
好感度《52》
アズキ
好感度《50》
(おっ⋯悪くない感じなんだな。寧ろ良い方向で安心した)
さっきのおかころやフブキ辺りよりかは低いが、友人として認められていると思うと素直に嬉しい気持ちがある。
そんな安心感もあって無駄に彼女達を見続けてたからか、不思議に思ったすいせいが首を傾げる。
「ん?どうしたの?じっとこっち見て。
「いや⋯なんでもないよ。じゃあそう言う事だから、後は頼んだ」
「うん、分かった!」
「またねー」
さて、彼女らの好感度を知ったし⋯次は誰かな。
────────────────────────
「⋯ん?あそこにいるのは⋯」
教室に戻ろうかとしたが、喉が渇いたので近くの自販機に寄った時にとある三人の少女を見つけた。
「ねぇあくあ、そろそろちゃんと自炊とか練習した方がいいんじゃないの?」
「えぇー、でも練習したところであてぃし色々やらかすし⋯」
「だからと言って何時までもコンビニ弁当だと栄養が偏るよ?料理の腕だったら、このはあちゃまに〜?任せなさい!」
「「いや、いい」」
「なんでよぉ!!てかシオンちゃんまで否定すんなっ!!」
メイドらしくないメイドの″湊 あくあ″と魔女っ子の″紫咲 シオン″、そしてはっちゃけ気味の″赤井 はあと″の三人組だ。どうやら昼食中らしい。
(楽しそうだな⋯⋯おっ?)
ピピピッ…
湊 あくあ
好感度《53》
紫咲 シオン
好感度《58》
赤井 はあと
好感度《89》
(これって距離の制限とかは…余り無さそうなんだな。不本意ながらもこの眼鏡の細かい機能を知っていくのか…と言うか、はあとの好感度高っ)
視認出来る距離なら、ある程度離れても測れるらしい。そしてなんでだか、はあとの好感度が高いことに少し驚くが、あのあからさまな接し方をするし、納得せざるを得ない。
「でもあくあ、メイド業しながら此処に通うって大変じゃない?ご主人様の世話とかしながら⋯ってあくあには無理か。やっぱ大丈夫だね」
「はぁ!?あ、あてぃしだって出来ることはあるし!と言うかご主人様とかまだ見つけてないから!」
「じゃあ、はあちゃまにする?」
「えー⋯」
「あからさまに嫌な顔すんなよ!!」
あくあは何時もメイドの服をしているから何となく分かってはいたが⋯メイド業も大変そうだな。
そんな他人事のように考えながら自販機にあるいちごミルクを買う。
「あっ、だったらさ?龍成とかはどう?」
「えぇ!?」
(⋯ん?)
さっさと戻ろうとした時にシオンからそんな言葉が聞こえ、ふと足を止めてしまう。
「あー、確かにダーリンだったら不安要素も無いわね!優しいし、ミスっても早々怒る人じゃないから安心ね!でも渡さないわよ!!」
「な、なんでそこで先輩が出てくるの!絶対無理無理!」
「えーでも、龍成がご主人様とかだったら満更でもないでしょー?」
「まぁ⋯それは知ってる人だし」
「だったら試しにお願いしてみたらー?意外と押しに弱そうだし、頼み込んでみたら案外上手くいくかもよ?」
(聞こえてるんだよなぁ⋯)
盗み聞きをしたい訳じゃなかったが、ついつい気になって聞き耳を立ててしまう。いちごミルクを飲みながら。
「うぅ〜⋯でも、確かにあてぃしもそろそろメイドとして成長しないといけないし⋯本当にお願いしてみようかな⋯?」
「やっちゃいなよ〜」
「じゃあついでにこの私もお願いしてみようかしら。きっと喜ぶわよね!」
「「それはない」」
「なんでよおおおおおぉ!!」
(⋯⋯聞かなかったことにしよう)
わちゃわちゃと騒ぐ彼女らから姿を見せずに静かに去って行き、聞かなかったことにする。
────────────────────────
「あら?龍成様」
「あれ、本当だ。おーい!」
「ん?おぉ、どうした?」
いちごミルク(三本目)を飲みかながら廊下をぼーっと歩いていると、先に通り過ぎて行った後ろの保健室から出てきたのは、色気全開悪魔の″癒月 ちょこ″と浮遊するツインテの″アキ・ローゼンタール″だった。
呼び止められたので一旦止まり、二人の方へ体を向ける。
「君を見掛けたから声を掛けただけなんだけどね」
「なんだそれ」
「やっぱり眼鏡掛けてるのね。私達のクラスでも噂にもなってたけど⋯⋯ふ〜ん?ふふっ」
「⋯どうした?」
「ちょこ先生が言わずとも私は分かるけどね。えっへへ」
二人は言わずもがなという雰囲気を乗せた微笑みをこちらに向けてばかりで、少し困った感じに頬を指で搔く。
「うーん?正直、言ってくれないと分からないんだが?それと⋯⋯そんなにじっと見られると、落ち着かない⋯」
「ふふふっ⋯龍成君が照れるってまた珍しいな〜。頭撫でてあげるね〜」
「あっ、狡いですわよアキ様。私もさせて下さい」
「え、ちょっ⋯」
すると、二人していきなり頭を撫でてきたのだった。
やめて欲しいのと乱暴に拒否できないという二つの気持ちがぶつかり、変に抵抗が出来ない。
(俺が変に抵抗出来ないのを分かってて……むぅ)
「い、いつまでそうやってるんだ。男の俺をそんな撫でても楽しくないだろうに⋯」
普通にやめて欲しいと言えばいいのに、何故かこの時だけ素直に言えない自分の不甲斐なさに自嘲する。
「頭を撫でるのに性別なんて関係ないのよ、やりたいからやってるだけなのよ?あ、それが嫌なら⋯」
そう言うと、ちょこは何か閃いた顔をすれば次に悪戯っ子のように笑みを浮かべ、そして顔を近付けて来る。
彼女の口元が近付いて行くのは、彼の耳元。
「抱きしめてあげよっか?」
「あー、それいいね〜!」
「い、いや!流石にそれは駄目だろ!」
軽々しくそんな行為は駄目だと言うが、彼女達はお構いなしにやってきそうな雰囲気である。
ピピピッ…
アキ・ローゼンタール
好感度《62》
癒月 ちょこ
好感度《66》
(こんな時に測ったって…!)
なんと空気の読めねぇ眼鏡だろうか。この時ばかりはこの眼鏡を壊したくなった。
なんて思っている内に、二人は逃がさないと言わんばかりにじりじりと詰め寄って来る。
「ふっふふ〜♪ほら〜大人しくしなさ〜い?」
「逃げても無駄だからね〜?さぁ、こっちにおいで〜!」
(あぁ⋯⋯やっぱりこの二人は少し苦手だ⋯)
その後、揉みくちゃにされたと錯覚するくらいに玩具にされた彼は、あの二人とは少し距離を置こうと決心するのだった。
───────────────────────
「はぁ⋯酷い目にあった⋯」
「ね〜フレア〜!団長の牛丼取らないでよ〜!」
何やら騒がしい声が聞こえ、その方に顔を向けると奇抜な色物集団がいた。
「ノエルったら何時までも牛丼ばっかでしょ?私のご飯分けてあげるから、たまには他のも食べないと栄養が偏るでしょ」
「じゃあ次からは野菜たっぷり牛丼にします!」
「一旦牛丼から離れなよ!」
「ノエルって本当に牛丼しか食べないぺこね」
「しかも変に太らないし、その栄養は全部そのおっぺぇに行ってんのか?何かずりーぞ!船長にも分けろー!!」
「マリンも充分あるでしょ⋯」
「よっ、ぺこら達」
折角だしと声を掛けてみると、いち早く反応したのは海賊がトレードマークの″宝鐘 マリン″だった。こちらを見ると何処か嬉しそうな反応を見せる。
「ん?おぉ!龍成君じゃないですか!Ahoy!もう怪我とかは大丈夫そうですね、元気そうでなによりです!」
「あぁ、やっと完全復活したよ」
「あっ⋯本当に眼鏡掛けてるぺこね!ぺこーら達、見てなかったぺこだけど⋯案外似合ってるぺこね」
「あー!龍成君、聞いてよ〜!フレアが団長の牛丼没収したんですよ〜!龍成君も何とか言って〜!」
「いや、俺に言われても⋯でもたまには肉ばかりじゃなくて他のも摂取したらどうだ?毎回見かける度に肉しか食ってなくないか?」
「フレアと同じこと言ってくるー!!」(泣)
変わらずやたら牛丼への愛が強い″白銀 ノエル″に、このメンバーの恐らく一番常識人であろう″兎田 ぺこら″、そして面倒見のいい″不知火 フレア″である。
「ほぅほぅ⋯これはこれは中々のイメチェンですね。眼鏡を掛けたら知能外見レベルが爆上がりです。はっきり言って、船長にもぶっ刺さります!!」
何が刺さると言うのだろうか。何かの隠語か?
「何言ってるんだがマリンは⋯でも、確かに龍成君の眼鏡姿って初めて見るけど違和感がないね。似合ってるよ?」
「あぁ、ありがとう」
(まぁ眼鏡掛けるのはこれが最初で最後だけどな)
さてさて世間話も一旦ここまでにして、気になる好感度はどうだろうかな。
ピピピッ…
不知火 フレア
好感度《57》
白銀 ノエル
好感度《60》
兎田 ぺこら
好感度《70》
宝鐘 マリン
好感度《69》
(なるほど、こんな感じなんだな。あれ?そういや⋯)
やはりと言うか、獣人のぺこらはもしかすると高いかもと思っていたが確かに高かった。
俺は何処か獣人に対する何かがあるのだろうか。マリンも何故か高い方だけど、特別何かやってないけどなぁ?
けどそんな思いも束の間、ここである人物がいないことに気付く。
「なぁ、るしあは一緒じゃないのか?」
「あー、るしあはねぇ。先生のお手伝い頼まれてたらしいくて、多分もう直ぐしたら来ると思うけど⋯」
小柄でネクロマンサー″潤羽 るしあ″、彼女もよくこのメンバーと共に行動している所を見掛けるが、フレアが言うにはどうやら今はお手伝い中らしい。
「ごめーん!遅くなったのですー!」
「噂をすれば来たぺこだね」
と、思ったらすぐに来た。
「おつかれー!気にしないでいいよー」
「あっ、龍成君もいたのですね!こんるしなのです!」
「よっ、少し邪魔してたぜ」
「龍成君が眼鏡掛けてるのって珍しいね!凄く似合ってるですよ!でも⋯君が目を悪くするって何したのですか?⋯!!まさか⋯大怪我の弊害で⋯」
「あ〜⋯そうじゃないよ⋯ちょっとここ最近、目を使い過ぎたから少しぼやけてる感じがあってな〜、試しで今使ってるんだ」
この時ばかりは、自分が調子に乗ったことに心底後悔した。
いや、こんな光景を見ることなんてないと思っていた。
変に不安になってしまった彼女を宥めながら、眼鏡のレンズの枠内に収め続ける。
(よし⋯早速だが測らせてもらうぜ)
もう後ろめたさも薄っぺらくなり、慣れてきてしまっていた。
しかし⋯知らない方が幸せと言うのを激しく実感した。
ピピピッ…
潤羽 るしあ
好感度《164》
(……?)
好感度《164》
好感度《164》
(⋯⋯???)
───え?⋯⋯ゑ⋯?
「龍成君?どうしたのです?るしあの顔に何か付いているのです?⋯⋯そ、そんなに見つめられると⋯ちょっと恥ずかしいのです」
「おうおう、うちのるしあに何色目使ってじゃーい?るしあは船長のものだぞー!」
「あ⋯⋯いゃ、うん⋯ごめん」
待て待て待て待て⋯⋯一体どういうことだ?あれ、確か好感度の計測結果って100が上限じゃなかったか?何で限界突破してんの、もうイカれたのか⋯ってか眼鏡熱っつ!?なんで!?キャパ超えで熱暴走したのか!?
「⋯?どうしたぺこか?何か急に顔色悪くなってるぺこよ?」
ぺこらにそう言われ、自分でも顔から血の気が引いている感覚が分かる。
何故か本能的にここから直ぐ立ち去った方がいいと警告が頭の中で響く。
「すまん、ちょっとお腹壊したかもしんないわ…じゃあ俺は、ここで⋯」
「う、うん。気を付けてね?」
「無理しちゃ駄目ですよ〜?」
急な調子の悪さに五人から心配の眼差しが後ろからでも伝わるが、今はそんなことを気にしてる場合ではなかった。
彼女達から自分の姿が見えなくなった傍から眼鏡を外す。
(やばいやばいやばい⋯故障か?いや、バグか?どちらにしろ普通じゃない⋯)
バグならバグであって欲しいし、故障でもなんでもいい。兎に角あの数値は確実に異常だ。
(もし…もしあれが、るしあの本当の好感度だとしたら……俺って、もしかしてやばい?)
たまに聞いたことがある⋯行き過ぎた愛情は、時に深淵よりもドス黒いモノに成り代わると。
それは愛する人の命を奪ってまで本人を手に入れようとするのが当然かのように⋯。
そんな恐ろしいことから逃げるように、その場からさっさと離れて行った。
(えっへへへ⋯♡龍成君に見つめられちゃった!しかもあの眼鏡姿、すっごい格好良かったのです!普段の龍成君も格好良いけど、今日は一段と違う龍成君の一面を見れたし、最高の日なのです!それに、見つめてたってことはやっぱりるしあに気があるのかな?るしあはちょっと身体は小さいけど、これでも龍成君の為なら何だってできるのです!料理だって洗濯だって掃除だって、夜の御奉仕だって⋯えへ、えへへ⋯♡)
(はぁ〜あ⋯今直ぐにでも君をこの手で抱き締めたいのです⋯いっぱい匂いを嗅ぎたいのです⋯るしあの印をいっぱい付けたいのです⋯)
(早く⋯るしあのモノにナラナイカナァ⋯)
因みに時系列的には一章の後の出来事だと思ってくだされ。
勿論、こう言った話は全員登場させるつもりなので、後編をお楽しみに。
では〜。