少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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ども。めっっっっちゃ今更ですが、お気に入り登録してくださった方々へ、本当にありがとうございます。気付いたらもう少しで三桁を迎えそうになってました。びっくりです。

趣味で暇潰しで見切り発車で書き始めた作品ですが、満足して楽しんで頂けるように頑張っていきます。

終わりまでどのくらい掛かるかは分からんけど。

じゃ、どぞ〜。


二十四話 『裏に潜む支配者』

 

 

 

 

 

「な、なんなのこいつ⋯船長、今までこんなの見たことありませんよっ!?」

 

 

「あたし聞いたことある⋯!自我持ちって⋯前にぼたんちゃんが言ってた⋯!?」

 

 

「こいつはそう簡単に通用しない⋯!!強さが普段より桁違いだっ!!くそっ⋯まさかこんな時に⋯!」

 

 

「とんでもねぇ奴じゃんかぺこ⋯!!」

 

 

 突如として始まったヴィランの大量発生。それを一人一人が力を振り絞って限界を迎えそうになりながらも、事態は収束を収めた。

 

 ⋯その筈だった。

 

 安心したのは束の間、暫くしない内に神出鬼没のように再び各場所にて姿を現した。

 

 そして今、龍成達の前にも奴らはまた対面することになったのだが⋯一つ、大きく異なる存在があった。

 

 

 

「ギギ…オマ、エ…ツヨ、ソウダ…ナ…!」

 

 

 

 ───自我を持ったヴィラン

 

 本来なら喋ることなど出来ない筈なのだが、突然変異として知性を得て生まれた。

 

 片言の口調でありながらも、今までのヴィランとは思えない風貌に悍ましい情調。

 紫黒色の炎のような体は変わらず、猫背で鉤爪のような鋭い腕と脚に瞳孔の無い白目、その姿はまるで二足歩行型の獣だ。

 

 

「ま、マジで喋ったぺこ⋯」

 

 

「こいつ⋯またりゅう君を狙って⋯!」

 

 

「またって⋯!前の奴にも狙われてたんですかっ!?」

 

 

「この感じ⋯流石に団長でも真正面から戦うのは厳しいかも⋯」

 

 

「こぉねも対面して分かった⋯アレは無理だね」

 

 

 そんな自我持ちヴィランは何処か嬉々としているように目を細めながら、龍成から視線を外さなかった。

 逸早くそれに反応したパトラに続いて、フブキが驚いていたことに頷いて返す。

 

 前に遭遇した自我持ちヴィラン、その時は5期生の他にパトラも同行していたので、彼女は当時と状況が重なって見えていてとても不安になっていた。

 

 龍成もこのタイミングで現れた自我持ちヴィランに、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら口を噛み締めていた。

 

 

「っ⋯⋯俺がこいつの相手をするから、皆は周りの奴らを頼んでいいか⋯?」

 

 

「な、なんで⋯また一人で戦うの!?前に言ってたじゃん!パトラ達を頼るって⋯」

 

 

「頼るさ。だからパトラ達は先に周りの奴らを片付けてほしい。それが終わったら手を貸してくれ。それまでに俺が何とか耐えるから⋯!」

 

 

 必死になって引き留めようとするパトラに、俺はしっかりと顔を見せながら諭す。

 

 確かにあの時に約束したことは忘れていない。でも今は、奴以外に何十体ものヴィランが後ろにいる。

 

 仮に皆で戦うにしても、奴の狙いは俺にしかないだろうし、皆と同じ所で戦っては余計な被害が生まれる可能性だって高い。

 だから最小限の為には、パトラ達が取り巻き共を倒してもらい、俺は奴を引き付けて時間を稼ぐ。

 

 勿論、倒すつもりでだけど。

 

 

「⋯分かりました。どちらにしろあのヴィランは龍成君にしか眼中に無さそうですし、白上達は傍らにいる奴らを手早く済ませましょう⋯!」

 

 

「ほ、本当に大丈夫なのですか⋯?幾ら何でも一人は⋯」

 

 

「ボクも一人で戦わせるのはどうかと思うな⋯確かに戦力としてはずば抜けてるけど、厳しかったって聞いたし。でも、やっぱりそれが妥当なのかな⋯?」

 

 

「この中で一番強いのは彼だし、一度経験もしてる⋯⋯暫くお願い!龍成君!こっちはウチらで何とかする!」

 

 

 彼が自我持ちヴィランの囮になる作戦に全員が賛成する訳じゃない。

 しかし、今のこの状況下ではそれしか選択肢がなかった。納得いかない者もそれを理解したのか、渋々と黙ることにした。

 

 ミオの頼り甲斐のある強い言葉に、龍成は頷いてから自我持ちヴィランにへと視線を向ける。

 

 今か今かと心待ちにしているように小刻みに震えていて、何時でも飛び出して来そうに構えていた。

 

 それを見据えていた瞳を一層鋭くさせ、彼も直ぐに行動が出来るよう構える。

 

 

「お前の相手は俺だ⋯⋯───来いよ⋯!」

 

 

「ギギッ…!コ、ワス…コワ、ス…!」

 

 

 そして気を解放して纏い、準備は出来たと伝えるかのように挑発をする。

 

 

 

 

 

「コワス…!!」

 

 

 

 

 

「───ふっ!っらあぁ!!」

 

 

 小動物に肉食動物が飛び付くように跳んで来た自我持ちヴィランの動きを見極め、タイミングを計る。

 

 鉤爪のような片腕を突き出して来た所を、サマーソルトで躱しながら顎を蹴り上げて、回避と攻撃を同時に行う。

 それに反応出来なかった自我持ちヴィランは強制的に顔が空へ向いた。

 

 手を地面に着けると、透かさず足払いをして体勢を崩した所に、流れるように回し蹴りで追撃を加え、この場から離れさすようにかなり遠くへ吹っ飛ばした。

 

 そのまま後を追いように、彼も地面を蹴ってその場から跳んで行った。

 

 

「りゅう君⋯。」

 

 

「パトラ!心配なのも分かるけど、りゅう君を信じて私達に出来ることをやろう!りゅう君だってパトラの気持ちを分かってる筈だよ。一人で無茶はしないようにしても、あのヴィランだと正面から相手出来るのはりゅう君だけ⋯」

 

「私だって勿論凄く心配だよ。でも、りゅう君の為にも今はこっちに優先しよっ?」

 

 

「⋯⋯うん。そうだね、被害の最小限に抑えるのにはある意味りゅう君が要みたいなものだもんね。よし⋯私達はここに集中しよう⋯!!」

 

 

「じゃ⋯龍成の体力が尽きない内に、さっさとこんな奴らなんてボク達で倒しちゃおうか。」

 

 

「そうね、こっちも余裕はそんなに無いし⋯お互いにフォローしながら全力で行くわよ!!」

 

 

 一連の流れを見届けたパトラは未だに消えない不安に、ぽつりと彼の名を口から零す。

 

 そんな様子を見掛けていたシャルは、彼の行動を無駄にさせない為にも直ぐにパトラを説得させ、これから自分達がすることに専念させる。

 

 パトラ達も群がっているヴィラン達に目を向け、メアリの言葉を最後にそれぞれが構える。

 

 また増えてくる不安はあるものの、自分達が今出来ることやるしか道はない。

 誰もその思いは口にせず、迫り来る脅威に立ち向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍成に蹴り飛ばされたヴィランは、街中の空中を泳いでいた。

 

 その最中で、彼の攻撃の強さに驚いていた。一蹴りされただけでこの威力に、闘争心が余計に燃えるこの刺激。

 やはり自分の向けた目に間違いはなかったと、心做しか嬉しそうに目を細めた。

 

 ヴィランは一度後転して体勢を直すと、両腕の鉤爪を地面に突き刺して勢いを殺す。地面が何本の線状に抉られながらも漸く止まった。

 

 その直後に彼が正面に降り立った。

 

 

「まさか⋯また自我持ちと戦うことになるとはな」

 

 

「ギギギッ……タノ、シ…モウカ…!!」

 

 

「楽しんでられるかよっ⋯!!」

 

 

 こっちは心底気怠いと思っているのをつゆ知らずに、ヴィランはこれから戦えることに傍から見ても分かる程に喜んでいた。

 

 人の気も知らずに、と心の中で愚痴るものの⋯ヴィランには他人のことを考える思考なんてある訳がないので、ただただ憂鬱だった。

 

 

「グラァ…!!」

 

 

「っ!⋯っぶね!」

 

 

 油断はせずに構え直した所で、ヴィランが先手を貰った。

 軽く地面を蹴っただけで手の届くとこまで詰められ、下から振り上げて斬り付けられる。

 

 それをギリギリだったが後ろへ跳んで距離を取った。鋼鉄をも豆腐みたく簡単に切り裂くその鉤爪は、流石に喰らいたくはない。

 

 

「ズァアアァ…!!」

 

 

 どう攻めようかと頭の中で考えていると、ヴィランは両腕の鉤爪を地面に突き刺して、ちゃぶ台返しのように地面を広く捲り返した。

 壁とも思えるような巨大な瓦礫がこちらに倒れてくる。

 

 ったく、地味に面倒なことを⋯!

 

 

「紫蓮牙・『絢爛』⋯!!」

 

 

 拳に紫炎を纏わせてから、瓦礫に向けて突き出して爆散させる。その際に砂埃が煙幕のように目の前に広がり、視界が塞がれる。

 

 だが、直ぐにその煙幕の中からヴィランが突き抜けて鉤爪を振るって来た。

 でも、このまま猛進して来ることを警戒していた為、驚くことなく対処する。

 

 

(上、下⋯左、下、右⋯上⋯)

 

 

 動き方に特徴は無く、取り敢えず当てようとしているだけで工夫さも微塵もなかった。

 ただ我武者羅に、戦闘知識が無知な者が取る動きみたいだ。単純が過ぎていて、どの方向から来るのか読める。

 

 けど油断は出来ない。前の自我持ちみたいに成長していく可能性だって十分ある。そうなると大分面倒なことになるし、やはり決着は早めにつけとこう。

 

 隙だらけな懐に、膝蹴りを一つ入れてからそのまま蹴り上げる。透かさず拳と脚の打撃を打ち込み続け、ヴィランに何か特性がないか探る。

 

 一先ず、前の自我持ちからの経験で回復能力がないか知る為に、一旦距離を離す為に力強く蹴り飛ばす。

 

 

「…ギギッ…マダ、ダ…!」

 

 

 しかし、奴は効いてないと言わんばかりに不敵に目を細めた。

 

 そして左右にあった車にそれぞれ鉤爪を刺すと、それを持ち上げて投げ付けて来た。

 

 

「似たような手口は通用しねぇぞ!!紫蓮牙・『大翔』!!」

 

 

 さっきのちゃぶ台返しした地面とは違って避け易い。飛んで来る二台の車を難なく避けて、一瞬の速度で詰めて拳を腹部にめり込ませた。

 

 

「ッ!?…グ、ガアァ…!!」

 

 

「うぉっ⋯!?」

 

 

 苦しそうな声を漏らしていたが、その痛みを無視して両鉤爪を振るった。

 左右からの斬撃に一瞬怯んでしまうものの、髪の毛先を少し斬られただけで何とか喰らわずに引き下がった。

 

 

「紫蓮牙の技じゃ、そう簡単に通用しそうにねぇか⋯」

 

 

 様子を見ていた感じ、こいつには前の自我持ちみたいに特別な特性とかは持っていないと思う。

 ただ、力や頑丈さは相変わらずの厄介さを備えている。

 

 

「ウオオオオォ…!!」

 

 

「───っ!?あれはやべぇ⋯!!」

 

 

 ヴィランは力を漲らせ始めて、鉤爪に黒い稲妻が発生して迸る。

 その次に妖しく黒光りに輝きだして、高密度のエネルギーが込められているのが分かる。

 地肌でも理解出来るあの攻撃は⋯今の俺じゃ防ぎようがないから避けるしか術がない。

 

 そう思った途端、奴が大きく腕を振りかぶった。

 

 咄嗟に気を掌に込めて地面に投げ捨てるように着弾させる。ただの砂埃を飛ばして煙幕代わりにすることで、俺の居場所を晦ます。

 そしてその場から力任せに真上に高く跳ぶ。

 

 その直後に、獣の爪痕のような巨大な斬撃が超スピードで俺がいた所を通過して行き、背後にあった建物を文字通り三枚おろしにされた。

 

 

「っ⋯くそっ⋯!とんでもねぇ奴だな⋯」

 

 

 その光景を見て、もしもあれを喰らっていたらと思うと冷や汗が止まらなかった。

 

 

「ギギギッ…!オ、マエ…ヤル…ナ…!」

 

 

「⋯⋯一つ聞きたい」

 

 

「……ナン…ダ…?」

 

 

 今の状況からこんな切り出し方は有り得ないが、この自我持ちヴィランは前の奴とは一つ違う所があった。

 微妙なラインではあるが、こいつはまだ対話が出来るくらいには理性がありそうと見た。

 

 その予測は当たっており、奴は動きをピタリと止めて、先程と違って落ち着くようになり、少し間を開いてから俺の質問に聞く耳を持った。

 

 

「お前らは、一体何処から生まれた⋯?」

 

 

「ギギッ…ワカ、ラ…ナイ……キ、ヅ…イタ、ラ…コノ…セ、カイ…ニ、イタ…」

 

 

 誰もが気になるであろう、ヴィランと言う存在が何処で生まれたのか。これで奴らの原因に近付ければ良かったのだが⋯。

 

 「気付いたらこの世界にいた」か⋯やはり自分達でも知らなかったようだな。仕方ない⋯。

 

 

「ならもう一つ⋯なんで人を襲う?」

 

 

「…オレ、ハ…ツヨイ…ヤツ、ト…タ、タカ…イ…タイ、ダケ…ダ…!ホカ、ハ…シラン…!」

 

 

 特別も何もないとち狂った理由に大して驚きはしない。前例があるからな。

 

 それに元々、普通のヴィラン共にも知性も理性の欠片も無く、本能のままに動いている訳だし、災害を起こす存在なのが当たり前か。

 逆に真っ当な理由がある筈がないよな、こいつらには。

 

 この質問も得られるものはないと捉えて最後に移る。

 

 

「⋯⋯悪いがあと一つだけ⋯───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前らの裏で()()してる奴はいるか⋯?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 沈黙。

 ビデオの一時停止とでも言うのか、音も動きも全てが止まったような感覚がした。奴が何も言い返さない時点で、俺の中ではほぼ確信に変わっていた。

 

 これが俺にとって一番聞きたかったこと。

 

 改めてこの事態の内容を思い返せば変なことが多過ぎる。ヴィラン多発の事件じゃ、せいぜい数体までが従来だった。

 

 それが今回いきなり五十体以上?確実に何か裏があるだろ。

 

 そもそもヴィランには集団で行動する意識はない。そして殲滅し終えたと思えばまた大量発生が起きて、おまけに自我持ちヴィランまでやって来た。

 

 起きる筈のない出来事が立て続けに起こっているのに、何も感じない訳がない。

 

 すると、黙っていたヴィランは何時も以上に目を細めて⋯何処か咎めるような雰囲気を醸し出していた。

 

 

「……ギギッ…ダト、シタ…ラ…ド、ウ…スル…?」

 

 

「⋯そのことについて詳しく話せたり───」

 

 

 

────ザンッ!!

 

 

 

「っっぶねぇな⋯!!」

 

 

 話してる最中に不意を突かれるが紙一重で躱した。

 瞬間移動でもしたかのような速度で鉤爪を突き刺して来たことに、頬を掠めるだけで済んだ。

 

 出来た切り傷から血が流れるのを拭って、ヴィランに鋭く目を向ける。

 

 

「…ドウ、デモ…イイ…ダ、ロ……オレ、ハ…ツヨ、イ…ヤツ…ト、タタカ…イタ、イ……ソレ…ダケ、ダ…!」

 

 

(何か知っているみたいだが、話したくないようには見えない。単純にこいつは⋯本当に戦いを楽しむこと以外がどうでもいいと思ってる。もう少しで核心辺りは聞き出せそうだったんだけどな⋯質問し過ぎたか)

 

(だが⋯裏でヴィランを操作してるナニカがいるのは⋯否定しなかった)

 

 

 奴は戦いの続きを早くしたかったのか、攻撃してきたことで対話は強制的に終わった。

 

 実際のところ、もう少し聞きたいことがあったのだが⋯もう話も碌に出来そうにないな。ちょっと焦らし過ぎてしまったか?

 

 しかし、結果的に今回の原因を解明する大きな一歩が踏み出せた。

 喜ばしいがその反面、大きな不安が心中をめぐり巡っていて無意識に溜息が出てきてしまう。

 

 

「はぁ⋯今日はとんでもない厄日になりそうだな⋯!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの小僧⋯やはり只者じゃないな。変哲もない肉弾戦にしては、やけに力の質がオレ達と()()()()⋯」

 

 

 未だに静観しているこの男は、自我持ちヴィランと接戦している龍成に注目していた。

 

 彼の戦い方にはそれ程の疑問は抱きはしなかった。

 何処で鍛えたかはさて置き、その実力は確かな努力が身に纏っている。場数もかなり踏んでいると見た。

 

 だがそこではないと、男が問題視するのは彼の持つ″力の中身″だった。

 

 男の言葉にどんな意味が込められているのかは、当人しか知らない。

 

 

「⋯まっ、別にどうでもいいか。戦ったとしてもオレが勝てることには変わりはない。それに取って置きも揃っていることだ⋯そろそろこっちも遊びの仲間に入れてもらうとするか」

 

「クッハハ⋯⋯あぁ〜⋯楽しみだな?一体どんな反応をしてくれるのか、想像するだけでも笑いが込み上げてくるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ⋯?()ども」

 

 

「「「「⋯⋯」」」」

 

 

 男は楽しみを隠し切れない子供のように口元を三日月のように歪ませて、自身の背後にいる四つの人影に問う。

 

 しかし答えは返ってこずに、男の掛けた言葉は虚空に消えていくだけだった。

 それでも、それに気にすることなく⋯ただ男の嘲笑が不気味に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁっ!!」

 

 

「ズアァ…!!」

 

 

 さっきまで話し合っていた時の緩い空気は重い緊張感へ変わり、龍成とヴィランは同時に飛び出して激しい攻防へと発展する。

 

 相手の攻撃を躱して攻めて、受け流されて攻撃され、カウンターを試してみれば体を後ろ跳んで大きく距離を取られる。

 

 しかし、両足が地面から離れたその瞬間を見逃さない。

 

 

「さっさとカタをつけさせてもらうぜ⋯!紫心龍拳奥義・弍ノ気──『月輪』!!」

 

 

「グッ…ォオ…ォ!?」

 

 

 刹那の速さで懐に入り込み、そのまま真上に蹴り上げてから縦横無尽の超連打の打撃を与え続ける。

 気で身体の機能を無理矢理にでも強化させて、人間が限界まで出せる可能な速度を何倍にも引き出させる。

 

 第三者の視点から見れば、彼の動きは肉眼では捉えられない程の速度で動いているのだ。

 一つ一つの打撃の音は爆発しており、ヴィランは対抗することもなくその流れを身に受ける。

 

 そして、一層力を込めて顔面に蹴りを入れた。

 

 

「…ギギッ…キ、カン…!」

 

 

「チッ⋯!」

 

 

 しかし、ヴィランはまだまだ好調と言わんばかりに不気味に嗤い、鉤爪を突き出してきた。

 

 通常なら空中で躱すのは難しいことなのだが、彼は宙返りのような感じで上半身を大きく逸らすことで避ける。

 そして、そのままヴィランの腕を掴んで、地面に向けて真下に投げ飛ばす。

 

 

「紫蓮牙・『空波』!!」

 

 

「グウゥ…!ヌン…ッ!!」

 

 

 追撃として拳圧をヴィランに喰らわせようと飛ばしたところ、ヴィランは何か力を張らせていた。

 

 次の瞬間、奴の背中からグチャグチャと嫌な音が鳴ると同時に翼が生えだした。

 それを駆使して、拳圧と地面の間から抜け出して空中に停滞する。

 

 

「おおぃ⋯飛べんのずりぃな」

 

 

「ギギッ…ベン、リ…ダロ…?」

 

 

 龍成はそのまま地面に着地して、浮遊しだしたヴィランにジト目で苦情を訴えるが、奴は何処か見下したように嘲笑う。

 

 そんな会話もそれまで。

 次はヴィランから先に動き出して、急降下に滑空しながら鉤爪を斬り付けて来る。その動きは正に獲物を狩る鷹の業。

 

 空中で様々な動きが出来るとなれば、こちらから攻めるのは難しいだろう。だが、手段がない訳じゃない。

 

 

「⋯⋯来いよ」

 

 

「グゥラッ…!!」

 

 

 安い挑発に敢えて乗ったヴィランは翼を利用して不規則に飛びながら、棒立ちで佇んでいる龍成に襲いに行った。

 

 しかし、彼の双眸は常にヴィランの動きを捉えていて、動揺する様子はない。

 

 ただ待つ。避けた方がいい所でも彼は待つ。

 

 

 

 そして、ヴィランの鉤爪が彼の顔に触れた⋯───

 

 

 

「ッ!?…キ、エ…タ…?」

 

 

と思えば、龍成の姿が霞のように消えていった。

 

まるで幻だったかのように、その場には虚空があるだけで彼は何処にもいない。そんな事態に肝を抜かれたヴィランは、一瞬だけ思考が止まった。

 

 

「紫蓮牙・『豪弩脚』!!」

 

 

「ヴッ…グ、ゥオ…!?」

 

 

 しかし、その瞬間が命取りとなった。

 

 いつの間にか背後に迫って来ていた龍成に気付かずに、後ろから途轍もない衝撃に目を見開いた。

 ヴィランは吹っ飛ばされるも、何とか体勢を元に戻して再び上昇する。

 

 

「紫心龍拳奥義・壱ノ気──『紫纏爆』⋯!!」

 

 

「ヌグ…ゥ…!?」

 

 

「砕け散れ⋯っ!」

 

 

 だが、龍成はそれを許さずに両手をヴィランに向けて翳して、気を集中的に操って拘束させる。

 

 そうして紫のオーラに包まれながら、空中で静止するヴィランに容赦なく爆破させた。

 その際に起きた激しい爆圧により、周囲に亀裂が走って瓦礫が吹き飛んだ。

 

 彼の技である「紫纏爆」による拘束技は強めれば強める程、威力の強度は増すのだが⋯その分の消費もとても大きい。

 

 ヴィランがいた所は黒煙に覆われていて、目視じゃどうなっているのかは分からないが普通じゃ済まない筈だと思いつつ、彼は肩で息をしながら黒煙が晴れるのを待った。

 

 

 

 

 

 ────ザシュッ!!

 

 

 

 

 

「───うぁっ!!?」

 

 

 刹那、何かが斬り付けられた音と同時に鮮血が宙に舞った。

 

 少し反応が遅れて、左肩に感じる違和感が徐々に激痛へと変わっていき、顔を顰めながらそこを抑える。

 深く入ったのかどくどくと血は流れ、左腕から手に滴って地に落ちる。

 

 

「キカ…ン…キ、カン…!!」

 

 

「クソったれがっ⋯!!」

 

 

 言わずもがな、その原因であるヴィランは全く効いていないと嗤っていた。

 

 奴は確かに龍成の技を受けたが、その黒煙が晴れる前に視界に映らないのを利用して静かに力を溜めていたのだった。

 後は気配を頼りに斬撃を飛ばした所、不運にも当たってしまった。

 

 

「ガアアァ…!!」

 

 

「っ⋯!!うぐぁ⋯っ!?」

 

 

 相手が不利だと分かればヴィランに余裕が生まれ、構わず攻撃を仕掛ける。

 対して龍成は、左腕が上手く使えないハンデを持たされ、片腕で対抗するしかなかった。

 

 だが手数がヴィランに分がある為、攻防は必然と劣勢になってしまい、建物に向けて蹴り付けられて瓦礫に巻き込まれる。

 

 

(ちっ⋯くしょう⋯!「紫纏爆」でも致命傷まで届かないのかよ⋯!?今のでいよいよ体力がなくなってきやがった⋯はぁ、()()()なら全然動けてたってのに⋯!斬撃だって簡単に弾けてたし⋯脆くなったもんだなぁ⋯)

 

 

 何時かの自分と比べて色々と衰えたと心の中で愚痴を零す。

 

 それに、即死技に近いあの技を真面に受けても平然としているとか、どれだけ頑丈な身体なんだ。

 

 瓦礫を退かしながら立ち上がろうとするが、打撲で体の節々と斬られた左肩に強い痛みを感じて、上手いこと動かせずにいた。

 

 そんな所をヴィランは、歩み寄って覗き込むように顔を近付いてきた。

 

 

「ギギッ…ド、ウシ…タ…?オワ…リ、カ…?」

 

 

「ちょっと考え事してただけ⋯──だっっ!!

 

 

「ングッ…!?

 

 

 あくまでも余裕さを見せ付けるが為に、無理矢理にでも力を出して唐突に反撃に出た。

 

 歯を食いしばって頭突きを打ちかませば、鈍い音と共にクリーンヒットした。

 予想だにしなかったヴィランは大きく怯んでしまい、隙を許してしまう。

 

 咄嗟に背後に移動してから抱き締めるように拘束すると、そのまま天高く跳び上がった。

 そうしてある程度の高さまで行くと、自分ごと半回転して頭から真っ逆さまに落ちて行く。

 

 彼が今やろうとしているのは「パイルドライバー」またの名を「脳天杭打ち」とも言うプロレス技である。

 やり方は少し違えど、激突する寸でヴィランだけ地面にぶつけるつもりなのだろう。

 

 

「お前のその厄介な腕さえ封じれば⋯!どうってことねぇからな!!」

 

 

「ソ、レハ…ドウ…ダ、カ…!」

 

 

 だが、気味の悪いことにヴィランの頭が梟みたく回転して龍成に顔を向けた。それだけでなく口元にギザ状の線が生まれると、それが獣の口のように大きく開いた。

 

 その中からバチバチと稲妻を放ちながら、黒光りのエネルギーの塊が集約しているのが見て取れる。

 

 

「───っ!?くそがっ⋯!!」

 

 

 ゼロ距離であれを喰らえばただじゃ済まない。ミイラ取りがミイラになる前に、直ぐに拘束させていた両腕を離して腹部に蹴りを入れる。

 

 空中で弾くように離れると、ヴィランはお構いなしに溜めていたエネルギーを放った。

 黒い閃光が一直線に向かって来るのを、身体を捻らせて逸らし、そのまま地面に着地する。

 

 

「ぁ〜⋯っつぅ⋯」

 

 

 必死になっていると痛みを忘れていたが、こうして一旦落ち着いてしまうと、深い傷を負った痛みがまた響いてしまう。

 今は気を利用して無理矢理にでも止血はしているものの、痛みまでは和らぐことはない。

 

 それに対して奴はまだまだ好調の様子。戦ってみた感じでは、前の奴よりも遥かに耐久力と攻撃力を兼ね備えている。

 その代わり特性や能力等と言ったものはない。

 

 パトラ達がいつ来るのか分からない今、このまま耐え凌ぐにしてもジリ貧になっていくのは目に見えている。

 

 

「ギギッ…オ…マ、エ……キ、ニ⋯イッタ…!」

 

 

「⋯あぁ?いきなりなんだよ」

 

 

 何か打開策がないか思考していると、唐突にヴィランが機嫌良さそうにそう言ってきた。

 

 いきなり変なことを言い出した奴に、龍成は思わず冷めた態度が出てしまっていた。

 

 

「オレ、ハ…タタ、カ…イヲ…タ、ノシ…ミ、タイ……ダ、カラ…」

 

 

 

 

 

「コロ…サ、ナイ…」

 

 

「はぁ⋯?」

 

 

 ヴィランの言い分に首を傾げる。本当にただ純粋に⋯″戦い″そのものを楽しみたいだけなのだろうか?

 

 しかし、幾ら殺さない宣言をしようが、これまでの過程を思い返してもその言葉に信用出来る要素など⋯無論、一つもない。

 

 訳分かんねぇことを言っているヴィランに、忌まわしそうに呆れた表情を向けていると、背後から慌ただしく多くの足音が聞こえてきた。

 

 

「りゅう君!!」

 

 

「大丈夫ですか?白上達の所は終わってのでもう大丈夫ですよ!」

 

 

「てかあいつ⋯翼まで生えてるとかどうなってんの!?気味が悪いんだワッ!」

 

 

「団長じゃあ空中戦は難しいよ⋯!それよりも龍成君、その怪我⋯っ!」

 

 

「こんぐらい大丈夫だ⋯!」

 

 

 パトラ達がやって来た。皆して服装が煤まみれになっていたが、誰一人として大きな怪我は負ってないようで一先ず安心した。

 

 あの大群のヴィラン達がもう片付いたのか。思っていたよりも早く合流してきた彼女達に、不思議と安心感があった。

 

 さて、後はこの自我持ちヴィランのみなのだが⋯。

 

 

「ギギッ…オ、レハ…ジュ…ウ、ブン…タノ、シ…ンダ…ダカ、ラ…カエ…ル…」

 

 

「はぁ!?か、帰るって⋯どう言う意味ぺこ!?」

 

 

「ここまで暴れといて逃がす訳ないじゃん。図に乗んなよ」

 

 

「龍成君にこんなに怪我をさせて⋯⋯ユルサナイ⋯!」

 

 

 ぺこらの反応に皆も同じ気持ちになる。

 楽しんだから帰る?この街を惨劇にさせた奴らが今更何言っているんだと、ころねとるしあは憤怒してヴィランを睨み付ける。

 

 

「…サス、ガ…ニ……ニン、ズ、ウ…サ、ガ…アル、ト…ムズ、カ…シイ……ジャア…ナ…!」

 

 

「逃がすか⋯っ!!」

 

 

 少しずつ上昇して行き、この場から離れようとするヴィラン。

 

 逃がすまいと足に力を入れて、地面を踏み込んだ時⋯。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい…何を勝手なことしてんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィランの体に何かが貫いた。

 

 

「ギッ…!?」

 

 

『────っ!!?』

 

 

 予想だにしない第三者の介入に、ヴィランも含めた全員が困惑する。

 

 一体何が起きたと、ヴィランの姿をよく見れば⋯剣の先端のような鋭い鉄の刃が鱗のように連なっているものが体を貫いていた。

 

 咎めるその声はとても冷淡で刺々しく、不愉快極まりないと捉えられるような雰囲気で、果てしない悪意に満ち溢れているのが直ぐに理解した。

 

 

「ガ…ァ……オ…オマ、エ…!」

 

 

「貴様は他の小物と違って出来が良いと思っていたんだが⋯⋯どうやら見当違いだったようだな。オレが命令したことを忘れたのか?」

 

「戦いを楽しむと言う欲望を叶えてやるついでに⋯この街の全ての生命体を殺せと言った筈だろ。それを承諾した上で何だこの有り様は⋯?誰一人として殺していない⋯」

 

「試しに貴様を使ってやってみたが⋯興醒めだ」

 

 

 その割り込んで来た男は、龍成達には眼中に無いのか構わずヴィランに淡々と言葉を並べていた。

 

 しかし、その言葉には到底聞き逃せない内容が詰まっていて、誰もが「ちょっと待て」と声にしようと時だった。

 

 

「このオレの命令が聞けないのなら⋯───」

 

 

「ッ!?…マ…マ、テ…ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────もう用済みだ。死ね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷酷且つドスの効いた声を吐き捨てると、そのまま鉄の刃を軽く振るった。

 

 次の瞬間には、ヒュンッと風を切る小さな音が鳴ると、瞬く間にヴィランの全身がサイコロのように細かく切り刻まれていた。

 

 そしてボロボロと崩れて塵となり、そのまま風に運ばれて消えていった。

 

 

「なっ⋯!?」

 

 

「あ、あのヴィランが⋯一瞬で⋯」

 

 

「い、一体⋯何が、どう言う⋯こと⋯?」

 

 

 呆然と言葉を漏らすパトラとミオに、他の者も思考が理解を追い付かずに混乱している。俺だってそうだ。

 

 苦戦していた筈のあのヴィランを、不意打ちとは言え一瞬で亡き者に変えたんだ。

 しかも何だ今の?まるで剣と鞭が融合したような武器を扱い慣れてる。

 

 それよりも、この気配⋯体の芯から感じるドロドロとした悍ましい気配⋯。

 

 信じたくはないが、これが確かな事実なのは分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全な自我を持ったファントム・ヴィラン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その男から放たれる雰囲気は、誰もが足を竦ませる程の様々な負の感情が浮き出る。

 

 そして、全員の頭の中でその男の第一に感じた印象は奇しくも一致した。

 

 ″ドス黒い悪意の塊″、と⋯。

 

 

「⋯⋯お前⋯何者だ⋯?」

 

 

「────クッ⋯ハハ⋯」

 

 

 静まり返る空気を壊すように、誰もが気になることを龍成が率先して問い質す。

 

 しかし、男は返答することもなくただ不敵に⋯不気味に⋯見下すように龍成達を嘲笑うように嗤っていた。

 

 

 

 

 





こっから中盤⋯って感じですかね。

今後の予定では三十話を迎える前に「第二章」に入ろうかと思ってます。それと、一章が終えたタイミングで番外編とか書こうかなとも思ってます。

では〜。
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