少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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区切りを気にしてたら普段一万文字なのに、その半分で済んじゃった。
でも読者様の感覚的にはこの長さが丁度いいんではないかなと。

じゃ、どぞ〜。


二十七話 『窮地の末に』

 

 

 

 

 

 ポルカとねねの相手をしていたフブキ達は、二人一組に別れてコンビネーションで牽制し、どうにかして二人を無力化することに成功した。

 

 残りの二人は3期生のマリン達と、ハニスト組のパトラ達が対応していたが、ぼたんとラミィの戦闘能力が強力で手こずっていた。

 

 そんな最中、彼女達の周辺近くでルラと、それを追い詰めていた龍成が戻る形でやって来た。

 

 誰が見ても彼の方に軍配が上がっていて、その状況下では圧倒的に龍成達の方が優勢だった⋯───

 

 

「どこまで性根が腐ってるの⋯!!」

 

 

「お前だけは⋯絶対許さないっ!!」

 

 

「マジでぶっ殺す⋯!!」

 

 

 先程までは⋯。

 

 ルーラの非道な手段を起こしたことにより、ぼたんとラミィを人質に取られてしまい、その場にいる全員の足は不用意に動かせずにいた。

 幸いにも気絶していたポルカとねねには、洗脳の効果は消えていたようだ。

 

 だが、それでも戦況を覆すには十分なことだった。

 

 メアリとミオところねが、それぞれ怒りを顕にした言動をルーラに威嚇する。しかし、そんな言葉だけの脅迫にルーラは鼻で嗤うだけだった。

 

 

「ふんっ⋯出来るものならやってみるがいい。だがその代わり⋯その場から一歩でも動いてみろ。その時には貴様らにとって望まない犠牲者が生まれるぞ?」

 

「その覚悟があるなら遠慮なく来てみろよ。まぁ⋯尤も、他者の命を見捨てる覚悟があるならなぁ?」

 

 

 下手に動けないと分かっていながら、口角を上げながら不快な気持ちを抉って扇動し続ける。

 下衆な行為に誰もが口を噛み締め、爪が食い込むほど握り拳を作り、襲い掛かりたい衝動を必死に抑える。

 

 

「なんて⋯信じられないことを⋯!」

 

 

「何がしてぇんだ⋯⋯ルラッ!!」

 

 

 パトラの恨めしく放つ小言に続いて、龍成も非難するように強い語句を放ち、その悪しき者の名を叫ぶ。

 彼のその双眸には果てしない怒りを抱え、牙を剥き出した猛獣のような恐ろしい形相を晒していた。

 

 それでも尚、ルラは笑みを崩さない。

 

 

「理由⋯?そんなの簡単だ⋯───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様を徹底的に甚振る為だぁあああ!!」

 

 

 

 

 

「───っ⋯!チィッ⋯!」

 

 

 そう叫びながら、全力で蛇腹剣を龍成に向けて振るった。

 

 突然の攻撃に少し驚くも咄嗟に構えて、さっきと同じようにカウンターで返り討ちにしてやろうと考える。

 しかし、それだとぼたんとラミィを危険に陥れることになる。

 

 奴は気分次第で殺すつもりだ。もし、ここで返り討ちにして余計に激昂でもすれば、二人を殺しかねない。

 

 となれば、今の選択肢には″回避″の一択しか⋯───

 

 

 

 

 

「避けたり防いだりすれば二人は殺すっ!!」

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

 

「くっ⋯!!」

 

 

 だが、ルラはその思考を把握していて、突然の追加条件で逃げ道を確実に塞いだ。

 二人の命は文字通り、ルラの手中によって弄ばれている。その気になれば何時でも指を鳴らすだけで、二人は意図せず自ら死の世界に行ってしまう。

 

 それだけは絶対に避けなければならない。

 

 蛇を模倣させる伸びた刀身は、もう目の前まで迫っている。その刃は人の体など豆腐と同等に容易く切り刻めるだろう。

 

 二人の命と自分の命、何方を選ぶだなんて⋯彼にはそんな考えなどなかった。

 

 

 

 

 

 ───ズバァッ⋯!!

 

 

 

 

 

「うっ⋯ぐぅ⋯っっ!!」

 

 

「りゅう君っ!!」

 

 

 その場から一歩も動かず、甘んじてその刃を身に受けた。

 

 斬られた傍から痛々しい程に血が噴き出し、その部分がやたら熱く感じる。その直後に強烈な痛みが全身に響いて、後ろに数歩よろめいた。

 

 そんな衝撃的な光景に誰もが目を見開いて表情を歪ませた。

 彼の身を案じて、足を踏み入れようとしたが⋯介入など出来ないと理性が抑え込んでしまう。

 

 

「クッハハハハハ!!そう簡単に倒れるなよ?オレが貴様に受けた屈辱はこんなもんじゃねぇぞっ!!」

 

 

「はぁ⋯っはぁ⋯⋯くそっ⋯!」

 

 

 その必死さに滑稽を覚えたのか、ご機嫌になりだしたルラは大きく口を歪めて嗤った。

 対して龍成は反撃も回避も防御も出来ず⋯ただのサンドバッグになるしかないことに、悪態を吐くしかなかった。

 

 だが、実は直前で気を身体全体を覆うようにして防御面に集中させ、岩よりも鋼鉄よりも更に硬く、そして耐久面にも振っていた。

 だが、それでも無傷では済まされない。

 

 斬られた箇所を微かに震わせた手で押さえる。胸に作られた一筋の傷跡、感覚的には深くまではいっていない筈だ。

 それでも安心などなく、ピンチなのには変わりない。

 

 

「さぁ⋯!何処まで耐えられるかぁ!?」

 

 

「あぐっ⋯!うぁ゛⋯⋯があ゙っ⋯!!」

 

 

 続けて蛇腹剣を何度も何度も振るう。その度に龍成の身体から血が舞い、苦痛に堪えた声を漏らす。

 腕、脚、胴、背中、頭⋯縦横無尽に傷を増やして楽しんでいた。

 

 まるで的当てゲームでもしているかのように⋯。

 

 これだ、この光景が見たかったんだ。唯一の希望を慕う者達の前で、その希望を打ち砕く絶望を見せしめるこの場面が⋯ルラには酷く心地良かった。

 

 

 

 

 

「どうしよう⋯!!どうしたらっ!!このままだと⋯龍成君がっ!!」

 

 

「急がないと⋯!何か⋯何か方法は⋯っ!」

 

 

「駄目⋯駄目⋯!何も思い付かない⋯!!」

 

 

「あんのクズ野郎っ⋯!!!」

 

 

 ミオとおかゆは冷静さを欠いて酷く取り乱していた。片手で頭を覆い、冷や汗が止まらない。

 

 このままでは間違いなく彼は死に至る。しかし、無闇に助けに行けば人質にされたぼたんとラミィも殺されるだろう。

 

 フブキも露骨に焦っていて何か打開方法を考えるが、誰も犠牲者を出さないという案が全く思い付かない。

 ころねも腸が煮えくり返る思いでルーラを殺さんと鋭く睨み付け、音圧のある唸り声を発していた。冷静に考えるよりも、先に身体が抑え切れなくなりそうだった。

 

 

 

 

 

「がはっ⋯⋯ぁっ⋯ぅ⋯っ!?ぐぅぅ⋯!!」

 

 

 蛇腹剣の先端を脇腹を突き刺され、その強烈な痛覚に目を見開く。

 それは直ぐに抜かれると血が噴き出し、口からか蚊の鳴くような声を出していた。

 

 咄嗟に呼吸を整えて傷口に気を集中させて無理矢理にでも止血させるが、無慈悲にもその傍から更に傷は増えていく⋯。

 

 

「ほうほう⋯よく耐えている方だな?だが、無駄な足掻きとは分からずに耐え続けるとは⋯見物だなぁっ!!」

 

 

「うごぉっ⋯!?」

 

 

 止まらない。斬り付けること止める様子は全くない。歯止めが利かなくなったように。積み木を崩す破壊行為を楽しむ小さな子供のように。

 

 もう勝負はついたと言っても過言ではないのに、諦めずその耐えている姿が滑稽に思い、ルラの目元は細めて狂気的に、口元は悪魔のように更に吊り上がる⋯。

 

 

 

 

 

「あんの野郎⋯!本当にきったねぇ奴ぺこ!!くそっ!!」

 

 

「〜〜〜っ!!ユルサナイユルサナイッ!!!

 

 

「駄目っ!!るしあ⋯!気持ちは分かるけど⋯!!くぅ⋯」

 

 

「もう我慢出来ないっ⋯!!私⋯!!」

 

 

「ノエル駄目っ!!そしたらぼたんさんもラミィちゃんも⋯!!」

 

 

「でもっ⋯!でもぅ⋯!!」

 

 

 ぺこらは堪えきれない怒りを体現するように、その場で地団駄をして大きく悪態を吐く。

 

 自制心を完全に失ったるしあは鬼気迫る勢いで包丁を持ち出し、魔力を極限まで引き上げながらルラに向かおうとした所を、フレアが必死に後ろから抱き留めていた。

 

 ノエルもこれ以上留まることに限界を感じて、メイスを強く握り締めて走り出したが、マリンの怒号に脚を止める。

 それに振り向いて抑え切れない悔しさに目頭に涙を浮かべていた。

 

 マリンも気持ちは同じだった。何も出来ずにただ突っ立っていることしか出来ないことに唇を噛み締め、情けない己の弱さに悔やむしかなかった。

 

 

 

 

 

「やめて⋯!やめて⋯⋯っ!!」

 

 

「どうしようっ⋯!バレずに魔法なんて無理だよ⋯っ!!」

 

 

「⋯っ!ボクが一か八かやってやる⋯!!」

 

 

「駄目よミコ⋯!!気付かれる前に攻撃が届くかも分からないし⋯止めるなら即死並みの威力じゃないと⋯!でも、その威力に時間が掛かるでしょ!?その間に殺されたら⋯!それに⋯あいつも私達の動きに注意してる⋯!」

 

 

「じゃあ⋯どうしたら龍成を助けるの⋯!!」

 

 

「っ⋯⋯」

 

 

 パトラとシャルも酷く取り乱していて、このままだと取り返しのつかない結果を想像して動悸が荒くなり、藁にも縋る思いでどうにかしてでも龍成を助けたい気持ちでいっぱいだった。

 

 ミコがこのままじゃ何も変わらないと、思い切ってルーラを攻撃して止めようとハイリスクな賭けに出ようとした。

 だが、メアリはそれを一人で勝手に行うのを許す筈はなく、責め立てるようにして魔法陣を展開させようとしたのを止めるが、彼女の言い返しに何も言えなくなる。

 

 彼女達の間でも、ぼたんとラミィの二人の命か⋯今も拷問されている龍成の命か⋯と、無意識に天秤が掛けられていた。

 だが、結論としてはどっちも助けなきゃいけないと頭では理解している。

 

 

 

 

 

「そらそらぁ!!もっと血を撒き散らせぇっ!!惨めな姿を晒せぇっ!!」

 

 

「がぁっ⋯!!うぐぁっ!!?」

 

 

 今や完全にルラの思う壺となってしまい、奴はこの上ない極上の気分に浸っていた。惨劇を豪快に嗤い、無抵抗者の虐げを愉しむ。

 

 最早、狂気の沙汰⋯罪人の拷問を楽しむ悪行な執行人のように、ひたすら蛇腹剣を龍成に振るい続ける。

 

 どんどん彼の身体は切傷や刺傷だらけになり、真っ赤に染まりつつあった。

 身体に纏っていた気のバリアはいつの間にか剥がれ落ちてしまい、生身の状態で受け始めてしまった。

 

 攻撃を受け続けた弊害と血を流し過ぎた影響で、とうとう目眩が起こり始めて身体に力が入りずらくなってしまっていた。

 

 

(やべぇ⋯!幸い急所は外れているが⋯これ以上受け続けると⋯!まずい⋯力が抜けて⋯意識も⋯───いや駄目だ堪えろ⋯!俺が死ぬ気で守らなきゃ⋯!()()するんだっ⋯!!くそっ⋯でも⋯)

 

「ちっ⋯くしょう⋯力が入りずれぇ⋯───」

 

 

 

 

 

「膝を着いても殺す!!」

 

 

 

 

 

「───っっ!!」

 

 

 その言葉にグッと脚に力を無理矢理込めて堪える。

 立っていられるのが難しくなって崩れ掛けた所、ルラは態とらしく指を鳴らす構え見せびらかしながら、嫌らしい脅し文句を放った。

 

 もう奴にとっては遊びのようになっている。人質という最高で最悪な後ろ楯がいるだけで、こうもあっさりと危機的状況に覆される現実に、全員は悔しさと怒りに虫唾が走っていた。

 

 

「クッハハハ⋯!どんな気分だ?優勢だったのが一気に劣勢になった気分はっ!?悲しいかぁ?悔しいかぁ!?」

 

 

「ッゴフォ⋯!」

 

 

『龍成君っ!!』

「紫黒っ!!」

「「りゅう君っ!!」」

 

 

 もう彼の状態は死に至る危険性が高い。身体中に作られた無数の大小の切傷と刺傷、煌星学園を象徴させる制服は赤色に染まり掛けていた。

 頭から垂れていた血は顔のほぼ半分を覆い、遂には吐血し出した。

 

 赤黒い色が夥しい程に彼の周辺に飛び散っている。重傷の影響で真面に立つことも儘ならず、上半身は俯かせるような姿勢になり、両腕もだらりとさせていた。

 

 

「さぁて⋯お遊びはここまでだ。そろそろこの公開処刑もフィナーレへと行こうか⋯!せめて派手に⋯その生意気な口が付いた頭を撥ね飛ばしてから、その体を細切れにしてやろう⋯!!」

 

 

「くっ⋯ぅう⋯!」

 

 

 終盤の頃合い⋯そろそろ限界が来たと見定めたルラは、今までない狂喜な表情を浮かべる。

 人の皮を被ったソレは、悪魔でも死神でもない。それ以上の邪悪な存在。

 蛇腹剣を振るって、鞭のように撓った刀身を地面に一度叩き付ける。

 

 今からその行灯の命を絶ち切る準備は整ったと、そう知らせるように⋯。

 

 その様子を理解した全員は心から震え上がってしまう。

 まずい。本当に殺される。急がないと。助けないと。でもどうすれば?

 

 

 

 

 

 龍成を助けたい、でもぼたんとラミィは⋯?

 

 

 

 

 

 ぼたんとラミィを助けたい、でも間に合うのか⋯?

 

 

 

 

 

 

 

 駄目だ、どうにかしたくても何も出来ない。成せる未来が見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしようもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最高の絶望をその目に焼き付けるがいい⋯!!」

 

 

「駄目っ⋯!やだ⋯やだっ⋯!!りゅう君っ⋯!!」

 

 

「ぐ⋯ぅ⋯───」

 

 

 遂にその時が来た。

 

 蛇腹剣を抜刀を連想させるように大きく構え、地面を蹴って一直線に迫る。

 

 龍成は覚束無い視界を頼りに、ルラが攻めてくるのを見ているだけ。

 

 これから起こるであろう光景に目を背ける者、口を手で覆う者、悲鳴を上げる者。誰も足が動かせなかった。

 

 しかし、パトラだけが堪えきれない気持ちが限界に達し、浮かべた涙を零しながら無意識に駆け出した。

 

 何も手段はない、それでも黙っていたくはなかった。見殺しになんかしたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、現実は非情だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わりだぁあああああああああああああああああああああああっっ!!!」

 

 

 

 

 

「だめぇええええええええっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、死を誘う刃は振り抜かれ⋯───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ズシャァッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の目の前で鮮血が空に迸った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





書いてて何度も思う。やっぱギャグよりシリアスの方がなんとなく書く手がサクサク進む気がする。

では〜。
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