少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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えーちゃんさん、七年間本当にお疲れ様でした。

さて、今回で決着になります。バリバリの戦闘民族感がありますが頭空っぽにして楽しんでって下さい。

じゃ、どぞ〜。


二十九話 『穿つは光輝の刃』

 

 

 

 

 

「舐めるのも大概にしやがれ⋯!!ただ服を脱いだだけで、貴様に何か変わったとでも言うのか!?」

 

 

「何も分かってねぇのか⋯?だったらここで一つ賢くなれるな。見ての通り、あの制服は重り代わりだ。日頃から着ていることで、常に身体に負荷を与えて鍛えられる」

 

 

「それがどうした⋯?」

 

 

 まるで侮辱行為の一端かと思ったルラは、ただの重りを取っただけの行動に何も変化が見受けられないことに、強い苛立ちを⋯将又は強がりを見せる。

 

 説明に耳は傾けるものの、どんな効果があるのか分かっていない様子だった。そんな理解の低さに呆れたのか、彼は一つ溜息を吐いてから続けた。

 

 

「はぁ⋯説明してもおめぇには分からねぇようだし⋯⋯来な、直接教えてやるよ」

 

 

「⋯⋯調子に乗るなっ!!」

 

 

 後ろ頭を掻いた後に、軽く手を差し出して指をクイッと二度曲げる。

 まるで面倒くさい者を相手するような振る舞いに、ルラは小刻みに身体を震わせながら顳顬(こめかみ)に青筋を浮かび上げた。

 

 そして不意を突くように瞬発力をフルスロットルに発揮させて、一秒にも満たずに彼の目の前に現れて全力で斬り付けた。

 怒りの籠ったその一撃は、激しく突風を起こす。

 

 

「っ!?な、なに⋯!?」

 

 

 しかし、斬った先はただの虚空。

 

 今の今までは彼は佇んでいた筈だった。刃が触れる直前まで移動している仕草も全く見受けられなかった。

 

 消えた、と言うのが正しいだろう。それも音も無く残像すらも無く、パッと目の前でいなくなったのだ。

 

 

「おいおい、一体どこ狙ってんだ?俺はここだぜ」

 

 

「っっ⋯!!おのれぇ⋯っ!!」

 

 

 余裕な口調をする龍成の声が背後から聞こえた。直ぐに振り返って龍成の姿を視界に入れると、彼は何してんだと言わんばかりに腕を組んで、小さい笑みを向けていた。

 

 彼の一挙一動にすら癪に障るようになり、ルラはますます苛立ちが頭の中を一杯に塗り潰すようになっていた。

 

 苦虫を噛み潰したようになりながら、再び剣先を向けて直接斬りかかった。

 

 

「どうした?調子でも悪いのか?」

 

 

「この⋯っ!ちょこまかと⋯!!」

 

 

 しかし、さっきと何一つ変わらない流れで、同じように煽られながら躱される。

 どれだけ速く迫っても、どれだけ力任せに素早く斬っても、当たる直前まではそこにいるのに⋯恰も初めから存在しなかったように目の前から消える。

 

 苛立ち、不快、不愉快、憎悪。次第に龍成に向ける感情は大きな怨恨になっていた。

 

 だが、ルラはまだ気付いていない。既にこの時から力の差は更に大きく広がっていることに。

 龍成の見た目になんら変化はないが、あの拷問にも等しいあの重りの制服を脱いだ今⋯抑制されていた圧倒的なスピードとパワーで、これから翻弄されることに⋯───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれほれ、もっとスピードを上げて来いよ。そんなんじゃ俺に追い付けねぇぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動きが単純だって何度言えば分かる。学習能力とかねぇのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅い遅い。今の隙間で三回⋯いや五回は攻撃を喰らってるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目線で狙いがバレバレだ。あと太刀筋も蹴りも殴りも雑過ぎる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やる気あんのかおめぇ?」

 

 

「黙れぇえええええええっ!!」

 

 

 

 

 

 何一つ変わらない展開、躱される度に駄目出しを言われ続けていたルラは、トドメの一言で堪忍袋の緒が切れまくる。

 煽りが一切含まれていない純粋な一言が故に、却って怒りの火に油を注いでいた。

 

 浮かべた青筋は顳顬にだけに収まらず、額や頬にまで現れるようになっていた。対して龍成は変わらず腕組みのまま佇み、呆れているように半目で睨んでいる。

 

 ルラは怒りは収まらないが、肩で息をするようになっていて、直ぐには次の行動に行けなくなっていた。

 

 

「ただ攻撃を当てようだとか、なんの捻りもなく馬鹿正直にしかやってねぇだろ。そんな面白味もない攻撃ばっかで通用するとでも思ってんのか?」

 

 

「生意気な⋯!少しだけ戦えるからと言ってこのオレに侮辱を⋯!貴様の戯言など知ったことか⋯!そう言う貴様はどうなんだ!?さっきから尻尾を巻いて逃げてばっかだろう⋯!!」

 

 

 その間、龍成も反撃に移ることなく淡々と攻め方について苦言を伝えた。

 しかし、プライドの高いルラは一切聞く耳を持たず、ただただ溢れ出る憤りに吠えるだけ。

 

 だがそこで、ルラの突然の言い分に彼の眉が一瞬跳ねた。

 

 

「ふーん⋯?ならお望み通り、俺が手本を見せてやるよ」

 

 

 ただし、後悔するなよ?と言うようなフレーズが言われずとも聞こえた気がした。

 ゆっくりと腕組みを解いて、ルーラの全体を一通り眺めると⋯───

 

 

「───うごっ!?」

 

 

 転瞬、腹部への強烈な衝撃が貫いた。

 

 いつ移動した云々よりも、動く仕草も見受けられない程に彼のスピードは常軌を逸していた。

 

 ルラは突然やって来た苦痛により、頭の中が真っ白になって混乱していたが、彼は構わず攻撃を続ける。

 

 

「どんどんいくぞっ!」

 

 

 めり込ませた拳を引いて、透かさず膝蹴りを顎にぶつけてからそのまま蹴り上げると、流れるように後ろ回し蹴りで上空に飛ばした。

 

 すぐさま追い掛けるようにその場から跳んで、一度前宙をしてからルラに向けて脚を突き出す。

 

 

「紫蓮牙・『豪弩脚』!」

 

 

「がっふぁ⋯!?」

 

 

 槍と化したその鋭い脚は紫黒の焔と合わさり、驚異的な威力を誇る。

 

 それがルラの胸部に突き刺さると、衝撃波と共に鈍い音が響いていった。肺の空気を無理矢理吐き出され、暫し呼吸が真面に機能しなくなってしまう。

 だがそんな苦痛の姿を晒しても、彼の猛攻は止まらない。

 

 

「───『絢爛』!!」

 

 

「ごぉあああああああっ!?」

 

 

 そして、蹴り飛ばさずにそこで留まらせておき、素早く体勢を立て直すと利き手の右手を強く握り締める。

 発火したように紫黒の炎が拳を包み、そのまま残火を振り撒きながら大きく殴り下ろす。

 

 バキィッと痛々しい打音が鮮明に響き渡ると同時に、ルラに炎が纏わり付いて勢い良く急降下して地面に激突する。

 

 その同時に、紫の閃光が一瞬だけ合図を出すように現れた直後⋯───

 

 

 

 

 

 ───ッッドゴォオオオオオン!!

 

 

 

 

 

 天地を揺るがす程の爆発が街に轟いた。

 

 空に登り続ける黒煙、ちりちりと残り火の熱が辺りを漂う。それなりの熱さに普通の人間は先ずそこに近付きはしないだろう。

 

 だが、そんなことに構わず爆心地にいる者に向かって近付いて行く。

 

 

「どうだ?実際に身に受けた感想は?」

 

 

「こ、こんな⋯程度⋯!!」

 

 

 爆発した際に出来たクレーターの中心には、ボロボロとなっているルラが肩を抑えながら息を乱していた。

 

 それでも平常心を保つ為か強がりを崩さず、龍成に鋭い一瞥を投げた後に身体に力を込める仕草をすると、みるみる傷が塞がり始めて綺麗さっぱりと元の状態に戻った。

 

 今更そんな利便性のある行為を見ても、動じることなく見届けていた⋯が、心の中ではやっぱ少しだけ狡いと思っていたそうな。

 

 

「おめぇもそろそろ本当の実力を出したらどうだ?俺と似た存在って言うなら、同じように気を⋯エネルギーを扱えるんだろう?」

 

 

「そこまで言うなら乗ってやろう⋯!」

 

 

 場所が場所なだけあって見下しながらそう言ってきた彼に対して、ルラは今にも飛び掛りそうな程に形相を歪めていたが、直ぐに鼻で笑い始めて身体を浮かし、龍成より高い位置に対峙する。

 

 いつの間にか手放していた蛇腹剣を手元に呼び戻す。

 すると、蛇腹剣を横に倒してから刃区から穂先まで、ゆっくりと何かを込めるように手で撫で始める。

 

 

 

 ────バチィッッ!!

 

 

 

 そうすると、発火したように稲妻のような紫色の閃光が刀身に纏わりだした。

 

 

「ただ後悔するなよ?オレはまだそこまで慣れていなくてなぁ⋯加減は出来んぞ?」

 

 

「⋯!へぇ、大したもんだな」

 

 

「オレがこの剣を持っている理由を教えてやろう⋯!オレは貴様のようにエネルギーを扱えはしないが、″物や人に移す″ことくらいは出来る⋯洗脳の力もその応用だ!」

 

 

 丁寧に説明を交えながらルラの本領を見た龍成は、軽く目を見開きながら素直にその力を認めていた。蛇腹剣に纏っているその力の質量には、なかなか驚かされるものだった。

 

 

(これは⋯あん時の自我持ちより強ぇな)

 

 

 あの時の⋯ルラに葬られた奴よりも力は格段にあった。

 

 確かにあいつよりかは力は強いものだが、それでも彼はそれを見ても懸念することは何もなかった。

 

 ルラはそんな彼の心情を知ることもない。そるよりもと、余程自信があるのか口角を上げたまま蛇腹剣を大きく横に振るう。

 

 

 

迅絶(じんぜつ)・『死目螺(しめらぎ)』⋯!!」

 

 

 

 纏っていた閃光が放たれると真っ直ぐと波状に飛んで行ったが、途中でそれは形が変わりだして、波状からフェンスのような網模様の斬撃へと変化した。

 

 文字通り細切れにしようという意思が汲み取れる。斬撃の形が変化したことに、龍成は驚きはしたが⋯直ぐに表情は怪しい笑みに変わった。

 

 

「威力は出でも、そんな疎らに纏わせただけじゃあ⋯今の俺には意味ねぇぞ?

 

 

 

 

 

 ───ガッキンッッ!!

 

 

 

 

 

「っっ!?ば、馬鹿なっ!?」

 

 

 ルラの渾身の一撃は、一筋の閃光によって打ち破られた。

 

 それを掻き消したのは彼の手刀から伸びている光輝な剣。下から斬り上げたのだろうか、その剣は高々に掲げられていた。

 

 そう呆気なく技を斬られたルラはあからさまに酷く狼狽えていたが、そんな状態に目もくれずに気の剣を消失させてから、彼はふむふむと技の感触に意識を向けていた。

 

 

「確かに喰らえば一溜りもないし、切れ味も申し分ない。ただ⋯エネルギーの溜め方や放ち方が乱雑だ。ただ溜める⋯ただ放つ⋯簡単のようにも感じるが、意外とそこが肝だったりするんだよ」

 

「採点付けるなら⋯三十五点って所だな」

 

 

 ″勿論、百点中な″と付け加えてから改めてルラに視線を向けると、奴は俯きながら小刻みに震え続け、ギリギリと歯軋りをしながら鋭くも何処か醜い形相を晒す。

 

 

「ば、馬鹿にするのも⋯───いい加減にしやがれっ!!!

 

 

「だったらもっと本気でやって来いよ」

 

 

 立場は完全に入れ替わっていた。ルラを翻弄する彼の動きには、余裕が何時までも続いているようだった。

 まるで自暴自棄のような動きをするルラに対して、龍成は最早取るに足らない相手に成り代わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、凄い⋯こぉねびっくりだよ!あいつ手も足も出てないよ!!」

 

 

「やっちまえ龍成君!船長達のイラつかせた分の報復をあいつにぶつけちゃって下さい!!」

 

 

「流石はるしあの王子様なのです!これ以上のないくらいに輝いてるのです!」

 

 

「何言っちょるのるしあ⋯⋯でも、そうかもね。今の団長達にとっては⋯龍成君って希望みたいなものだよね」

 

 

「りゅう君⋯無理はしないで欲しいな。怪我が悪化しそうで怖いよ⋯」

 

 

 二人の戦闘の光景を傍観していた彼女達は、龍成の一方的な攻防に驚きの連続で何人かは興奮状態にあった。

 

 しかし、それでも彼の状態には気が気でない者もいた。シャルのその一言には強い心配の念が込められており、その所為か鼓動が速くなっているのもあり、胸元に手を添えて不安な眼差しを向けていた。

 

 

「ウチ⋯龍成君のこと知らな過ぎたかも⋯」

 

 

「ミオの気持ちはみんな同じだと思うよ!白上だって⋯彼があんなにも凄い人だなんて知らなかった⋯!」

 

 

「僕達とは次元が違い過ぎるね⋯でも、どうしてここまで強くなれたのか⋯本当に不思議⋯」

 

 

「今まで一体どんな生活して来たら⋯私達と何が違うんだろう⋯」

 

 

 あまりにも異次元過ぎる彼の戦闘力。実力を知っているつもりではあったが、まさかこんなにも差があったとは思いもせず、おかゆとフレアの言い分にただ頷くしかなかった。

 

 

「あの子って本当に凄い子だよね⋯前までは何処で何をしていたかは知らないけど、ここまで強力な力を得て⋯あの子には別の目標があるように見えるわ」

 

 

「⋯そう考えるのも変じゃないかもぺこ。なんて言うか、見ている先が違うというか⋯」

 

 

「考えるのは後にしよう、今は目の前に集中しなきゃ。龍成が何時まであの調子でいられるか分からないし、いざとなったらボク達が行かないと」

 

 

「⋯りゅう君。君は⋯───一体何者なの⋯?

 

 

 安心⋯と言う感情はあれど、疑問と不思議という感情も多々あった。

 ひっくり返るくらいの力を目の当たりにすれば、その度に彼の境遇について疑問視するのも不思議ではないだろう。

 

 ミコの言葉で意識を切り替えるが、それでもパトラだけはその疑問が変に心をざわつかせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ⋯うぅ⋯!!くそっ⋯!くそっ⋯!!」

 

 

 それからというものの、攻撃しては避けられ⋯攻撃しては反撃されてを繰り返している内に、ルラには目立った外傷が幾つも作られていた。

 

 対して龍成は無傷⋯ではないが、それ以上ダメージを受けることはなく、平然とした態度を何時までも保っていた。

 

 自分の置かれた状況があまりにも悪化していることに、漸く気付いたルラはただ強く悪態をつくだけ。

 

 何故こうなった?何故こうも差が生まれている?何故、機転が利かない?何故、どうして⋯こんな⋯こんな⋯───

 

 

「こんな筈じゃなかった⋯ってか?」

 

 

「っ⋯!」

 

 

 今のルラの心情を察しているかのように口を開いた龍成に、強い憎しみを持って睨み付ける。

 だが、悔しくも間違っていないことから何も言い返せずにいた。

 

 その無言を肯定と捉えた龍成は、小さく鼻を鳴らしてから言葉を続ける。

 

 

「何度も掘り返させるなよ。言ったよな?″おめぇにもう勝ち目はない″って⋯まだ分からないなら丁寧に教えてやろうか?」

 

 

「⋯⋯黙れ⋯」

 

 

「その洗脳の力はもう機能しないし、させやしない。洗脳したぼたん達は気絶しているし、他のヴィラン共も俺達の仲間によって倒されてる筈だ。見た感じ⋯あれが最後の軍勢だろ?つまり、俺達の敵はルラ⋯おめぇ一人だけだ」

 

 

「⋯⋯黙れ⋯っ!」

 

 

「俺はこんな状態でもお前より何歩も先の強さにいるし、その気になれば今直ぐにでも倒せるぜ?もし、万が一に俺が負けたとしても⋯その時はお前もただじゃ済まされてないだろうし、満身創痍だろう。果たして⋯そんな状態で、数々の修羅場を越えて来た残りの数十人を相手に出来るか?」

 

 

「⋯黙れ⋯⋯黙れ⋯っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ⋯?″どんな気分だ?優勢から一気に劣勢になった気分は″⋯?」

 

 

 

 

 

「黙れぇえええええええっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図星を指されることが多かったのか、仕舞いには龍成に言っていた台詞をそのまま返されたルラは、怒髪天を衝いて咆哮を上げ、溢れんばかりにエネルギーを蛇腹剣に込め、慎重さも微塵もなく豪快に且つ乱暴に振るいまくる。

 

 

迅絶・『細裟雨(ささぐれ)』っ!!

 

 

 鞭のように撓らせながら、まるでガトリングのように細かな閃光のエネルギー波を無尽蔵に放った。

 正しくそれはエネルギー弾の豪雨、広範囲に加え威力も相当だと見た。

 

 だが、当たらなければどうということはない。

 

 

「ふんっ⋯」

 

 

 どこかつまらなさそうに鼻を鳴らし、迫り来るエネルギー弾を少し観察してから動く。

 脚に力を込めて地を蹴れば、空気が破裂したような爆音を轟かせたと同時に姿を消した。

 

 その光景から誰もが避けに徹したと思うだろうが、彼はその()を行った。

 

 寧ろルラに向かって迫って行く。体勢を素早く切り替えながらエネルギー弾の雨の中を跳んで掻い潜り、隙間から隙間へと移動して一気に詰め寄る。

 

 

「はぁあっ!!」

 

 

「がふぁっ!?」

 

 

 勢いを乗せて握り締めた拳を、奴の顔面にぶつけた。

 それを真面に受けたルラは大きく吹き飛び、倒れそうになったがどうにかして体勢を持ち堪えた。

 

 だが、気付けば龍成が目の前にいたという出来事に加え、己の技が通用しない事態に焦燥感を覚え、そこから更に苛立ちが冷静さを奪い取ってしまう。

 

 

「キィッ⋯!迅絶・『呀空裂波(がくうれっぱ)』っ!!

 

 

 依然として、刀身を撓らせながら今度は左右交互に斬り上げると、疎らに地面から幾つもの淡い光が灯りだす。

 すると、そこから極太の光柱が天を貫く勢いで飛び出してきた。

 

少しでも触れさえすれば、骨すらも残されない高密度のエネルギーが込められているそれは、まるで火山の噴火を連想させる。

 それが何本も絶えず出現し続けている所に、向かいたくはないだろう。

 

 だが、彼は違う。

 

 

「でやぁっ!!」

 

 

「げぁっ!?」

 

 

 その光柱の間を素早く通り抜けることに難なく突破し、そのまま猪突猛進の如く膝蹴りを腹部にめり込ませた。

 続けて数発の拳をぶつけ、重たい一発を込めて殴り上げる。

 

 空中に投げ出されたルラは、今や回復する意識も忘れてしまい、ただ龍成を返り討ちにしてやりたい気持ちで一杯だった。

 

 その強い意思が身体に呼応し、再び体勢を無理矢理にでも直して、少しでも戦況を変えようと蛇腹剣を⋯───

 

 

「ぐぅう⋯!迅ぜ───」

 

 

「遅せぇっ!!」

 

 

「───っぐがぁあああああああああぁ!?」

 

 

 しかし、その時には遅かった。気付けば横にいた龍成に回転蹴りを喰らっていた。

 身を三回転させて勢いを乗せたその蹴りは、ルラの腕の骨を砕くには容易いことだった。

 

 勢い良く蹴り落とされたことで、地面を抉りながら吹っ飛んで行き、数メートル先でやっと止まった。

 

 身体中に響き渡る激痛が、些細な動きも拒む。打撲に切り傷に粉砕骨折などがルラの行動力を奪い、その場に倒れたまま動けずにいた。

 

 そして前方から⋯瓦礫の山となっている頂上から足音がすると、直ぐに彼の顔が現れてルーラを見下しながら口を開く。

 

 

「技に関しては中々悪くない。ただ、やはりさっきも言った通り⋯エネルギーの溜め方と放ち方に乱れが感じる。幾らお前自身のエネルギーが強かろうと、扱い切れなきゃ宝の持ち腐れだな」

 

 

「ぐ⋯が⋯ぁっ!よ⋯余計なお世話だ⋯っ!!」

 

 

「まぁそう言うなよ。もう一つお手本にいいモノを見せてやるよ」

 

 

 少しずつ、少しずつ身体を動かして漸く立ち上がったルラは、ここで回復をして傷を癒そうとしたが⋯完全にまでは治らなかった。

 

 対価として体力を使うのか、目立った外傷は変わらず骨折だけ治したようだ。

 

 助言も受け取らず、苦い表情を浮かべながらも威嚇のように牙を剥き出す。

 それに宥めるように口調を少しだけ和らげているが、彼どこか怪しい含み笑いを浮かべていた。

 

 

「気のコントロールを巧みに使い熟せれば、こんな面白ぇ芸当も出来るんだぜ?」

 

 

 そう言いながら、胸の前に何かを包み込むように両手を翳すと、稲妻を纏う紫色の小さな気弾が生まれる。

 軈てそれは手に収まらなくなる程に大きくなり、そのまま頭上に運ぶ。

 

 するとその気弾は一つから二つに分裂し、彼の周りをX字に旋回しだした。

 

 それだけでは終わらず、挙げた両手をそのまま流れるように交差させてから払うと、彼の利き手である右手の手刀から、黄金に輝く気の剣が抜刀される。

 

 準備を終えたと言う意味を伝えるように、彼は更に笑みを怪しくさせていた。

 

 その姿は正しく、窮地を乗り越えた歴戦の騎士と呼べるだろう───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおお!なにあれかっこいいっ!!」

 

 

「凄い⋯あんなことまで出来るんだ⋯!!」

 

 

「何あの光るヤツ!?何あの剣みたいなヤツ!?」

 

 

 初めて見せる彼の技巧に、彼女達は興奮の熱に気分が盛り上がっていた。

 

 あれからルラの実力を悉く打ち破っていた時からそうだったが、これから見せるであろう彼の戦法に、ころねとフレアとシャルは更に高揚していた。

 

 

「このまま行けば勝てるんじゃ⋯!!」

 

 

「うん!絶対行けるよっ!!」

 

 

「龍成君!頑張って下さい!!もう少しですよっ!!」

 

 

「りゅう君⋯!頑張れっ!!」

 

 

 状況は圧倒的に彼の方に軍配が上がっている。ルラに優勢を一向に譲らない、それどころか更に差を離しているその光景に、ミオとノエルも彼が勝利を手にするのも遠くはないと思い始めていた。

 

 フブキもパトラも、ここが正念場だということに更に気を引き締めて、彼の勇姿を見届ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだそれは⋯!」

 

 

「さぁ⋯お喋りもこれまでだ⋯今からおめぇを跡形もなく消し炭にしてやる!

 

 

「───っ!!?」

 

 

 ルラの疑問に問答無用で攻撃をする。彼の雰囲気から″これで終わらせる″というのが伝わり、即座に対応すべく構えた。

 

 気の剣の刃先をルラに向けると、龍成の身体の周りを旋回していた二つの気弾が、螺旋を描きながら標的に向かって飛んでいく。

 

 突然の飛び道具が向かって来たことにルラは目を見開き、舌打ちをしながらも身体を浮かせて逃げに徹した。

 

 

「そいつは何処までも追いかけて行くぞ!逃げられるもんなら逃げてみな!」

 

 

 その言葉を背に受けながらも構わず距離を取って行き、途中で瓦礫の隙間を通り抜けたり、急カーブや直角移動を交えて逃げ切ろうとしていたが、どれも通用せず執念に追い掛けてきていた。

 

 

「小賢しい⋯!!」

 

 

 結果、距離は適度に離れているだけで変わらずにいた。

 あまりの執拗さに顔を歪めて、忌々しく追い掛けてくる気弾に目を向ける。

 

 どうにかしようと思考を働かせていたその時だった。

 

 

「俺のことも忘れんなよっ!」

 

 

「っ!?ぐぁあああああっ!?」

 

 

 いつの間にか目の前に迫っていた龍成に気の剣で斬り付けられた。

 ザシュッと肉を斬る音が鮮明に鳴り、ルラの胸元から血飛沫を撒き散らす。

 

 迂闊だった。だが何故、彼がここにいるのか理解が追い付かなかった。

 あれだけ飛んで移動したのにも関わらず、まるで移動先を読んでいたかのように一寸の間違いなしに居た。

 

 分からない、理解出来ない、何故⋯と、ルラの思考は彼の行動と斬撃により正常に働かず、大きな隙を晒した。

 

 

「さっきのお返しだぁっ!!」

 

 

 ぼたんとラミィが人質にされたあの時、好き放題に痛め付けられたことに根を持っていたのか、容赦なく気の剣で斬りまくる。

 

 更には追い掛けてた二つの気弾がやって来て、ルーラに体当たりのように交互に連続でぶつかり続ける。

 気の剣の多大な威力に加え、四方八方からの気弾の追撃に何も動けない。

 

 

「うごっ⋯!?ぎっ⋯ぅおっ⋯!?」

 

 

 気弾による打撃。気の剣による斬撃。

 その二つの絶え間ない衝撃で確実に″殺しに来ている″ということだけは理解出来る。

 

 燃え続けている命の灯火を扇で消そうとするように、長久に、執拗に、執念に、回復する間も与えないようダメージを持続的に与え続ける。

 

 

「はっ!!」

 

 

「───がぁああああっ!!?」

 

 

 気の剣を振り払って大きく吹っ飛ばすと、気弾はまた螺旋を描きながら追い掛ける。そして着弾すると爆発を起こして、空中に黒煙を広げた。

 

 身体を機敏に動かして上手く黒煙に近付くと、迷いなく自分ごと気の剣で兜割りのように斬り下ろす。

 すると、ルラと共に落ちて来てそのまま地面に叩き付ける。

 

 その際に弾んだ瞬間を狙い、気の剣を気弾に変化させて両手に抱えるように持って、次第に収まり切れないくらいに膨大化した時⋯───

 

 

 

「くらいやがれぇええっ!!」

 

 

 

 ────ッッポゥ!!

 

 

 

 ルラに向けて押し出すように全力で放った。

 

 

 

「ぐぅおおああああああああっ!!?」

 

 

 

 為す術なく閃光に呑まれていったルラは、身体が焼かれる感覚に苦痛の叫びを挙げているしかない。

 その巨大な閃光は彼方へと飛んでいき、次第に煙を巻き上げながら消失した。

 

 

「⋯⋯ふぅ⋯」

 

 

 間髪入れずにトドメを刺した龍成は一度落ち着きを取り戻し、一呼吸する。

 突き出した両手を軽く払うと、手に残っていた気が火の粉のように消えてった。

 

 気の剣を維持する感覚を掴めるようになり、そこから気弾と言うアイデアも思い付き、即興で考えた技術だったが良い感じだと一人頷いていた。

 

 

「ん⋯?」

 

 

 ⋯ふと、未だに舞っている煙の奥から何かが見え、何だと疑問に思い始めた時、タイミング良く突風が煙を運んで行って、目の前の光景が明らかになった。

 

 

 

 

 

「ぐ⋯ぎっ⋯ぎぎ⋯っ⋯!!」

 

 

 

 

 

「へぇ⋯こいつは驚いたな。完全に仕留めたつもりだったんだが⋯⋯耐えたのか」

 

 

 公言通りにしたつもりだったが、なんと耐え切っていた。

 とは言えかなりの満身創痍な状態であり、全身には切傷に裂傷に打撲と火傷、服装はかなりボロボロにされ、最早目も当てられない程に痛々しい姿だった。

 

 言葉も発するのも苦しい程なのか、か細い嗚咽が微かに聞こえる。

 それでも尚、立ち続けていられるのはプライドか、それとも別の何かか。どちらにせよ龍成からすれば、″しぶとい野郎″程度にしか思っていない。

 

 

「こ、の⋯オレ⋯が⋯!!たか、が⋯人間、の⋯餓鬼⋯に⋯!!」

 

 

「そのニンゲンの餓鬼におめぇは負けたんだよ。自惚れておきながら、自分が世界の中心だと豪語しておきながらこのザマか⋯⋯まぁ、惨めなおめぇにはお似合いの最期だろ」

 

 

「この⋯⋯こ、の⋯オレが⋯!こ⋯の、オレ⋯が⋯!!」

 

 

「⋯⋯?」

 

 

 しかし⋯ルラの様子はどこか可笑しい。彼の言葉に耳も傾けていないのか、やたら同じことを何度も呟いている。

 それだけじゃない。妙なことに、ルラからふつふつと気が上昇していっていることに気付く。と言っても僅かに小さいが、不審に感じたのはそこではない。

 

 その()()がどうにも⋯何か異様なものが混ざっているような───

 

 

 

 

 

「人間なんぞにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」

 

 

 

 

 

 ────ゴォウッッ!!

 

 

 

 

 

『────っ!!?』

 

 

 

 すると突然、ルラの身体全体から大きな紫黒色のオーラが噴き出した。

 

 龍成に完膚無きまでにズタボロにされたのが相当悔しかったのか、怒りが限界突破したのか⋯若しくはその両方がトリガーとなり、その力は花火のように爆発して辺りを震撼させた。

 

 そのことにその場にいる全員は驚愕し、ルラから発する力の圧力による暴風に身を固めていた。

 

 

「これは⋯あまりの怒りで無意識に気が高まってやがる⋯!」

 

 

 満身創痍の身でも尚、これ程までの力を引き出したことに、龍成も少し不味いと思い始めていた。

 

 火事場の馬鹿力と言うのだろうか、その昂る感情に呼応するようにルラは更に気を上昇させていた。

 

 

 

「このオレがぁっ!!たかが下等生物のゴミにぃ!!負ける筈がないんだぁあああああああああっ!!!」

 

 

 

「⋯どこまでも驕ってんな」

 

 

 

「もう全てどうでもいいっ!!貴様だけは…貴様だけは必ず殺してやるっ!!!」

 

 

 

 しかし、彼は直ぐに冷静になって状況を観察する。

 

 どうやら蛇腹剣はさっきの閃光の受けた時に消失した様子。

 力は増しているが、気の扱いには慣れてはいないと奴は言っていた。そして怒りの感情任せに暴走している。

 

 

「⋯⋯───」

 

 

 

 だったら、何も心配はいらない。

 

 

 

「───はぁあああああああああっ!!!」

 

 

 

 両拳を腰に構え、自分が出せるありったけの気を解放させる。もうこの際、奴の呼応があろうが関係ない。

 

 この一撃で決着をつける。これで全てを終わらせる。

 

 ルラは拳に全てのオーラを集約させて、暗黒に⋯それでいてどこか神秘を携えた黑き閃光を掴む。その手に掴んいるのは、正しく妖星。

 

 対して龍成は姿勢を低くしながら半身を後ろに置いて、侍で言う抜刀術の構えを取る。オーラは燃えるように揺れていても、意識は水鏡のように静寂。

 

 

 

 

 

「死に晒せぇえええええええええっっ!!!」

 

 

 

「紫心龍拳奥義・()ノ気───」

 

 

 

 

 

 荒ぶる自尊心の塊と、予測不可能の武人は⋯勝利を掴む為に動き出す。

 

 

 

 

 

「───『閃羅龍刀(せんらりゅうとう)』っ!!」

 

 

 

 

 

 そして⋯遂にその時を迎えた。

 

 急接近した二人がぶつかり合う瞬間⋯強大な光が空間に弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が…っ… ぁ、あ゛ぁ゛…!?」

 

 

 

「───終わりだ⋯ルラ⋯」

 

 

 

 大滝のように冷や汗を流し、目を見開いて思考停止し、殴る直前で動きが止まっているルラ。

 

 そして反対には⋯龍成が振り返ることなく気の剣を抜刀していた。

 

 

 

「…っ…ぢ…ぐ、しょ…ぅ…!!」

 

 

 

 静まり返った最中、ルラが振り絞った声で心底悔やんだ次の瞬間⋯───

 

 

 

 

 

 ────ッズザザザザザザ、ザンッッ!!

 

 

 

 

 

「ち゛く゛し゛ょ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛…お゛、お゛お゛…ぉ゛…───

 

 

 

 

 

 縦横無尽から無数の斬撃がルーラを高速で切り刻み、最後に現れた一際大きな斬撃を境に⋯ルラの身体は煤のように崩れ、恨めしく最期の嘆きと共に消え去っていった。

 

 

「───⋯⋯」

 

 

 暫しの沈黙、気の剣を消失させながら半身だけ振り向かせる。ルラの存在は何処にも居ない。

 気を探っても完全に消えたと理解する。

 

 漸く終わったんだと⋯肩に加わっていた力が抜けて、大きく息を吐く。

 

 

「ふぅ⋯終わっ───」

 

 

「「りゅうくぅううううん!!」」

『龍成君っ!!』

「紫黒っ!!」

 

 

「───だっふぁっ!?」

 

 

 いつの間にか傍まで来ていたパトラとシャルとるしあ、更にはフブキとミオとおかゆまでが飛び付いて来た。

 六人分の衝撃とボロボロな身体では、流石に支え切れずにぶっ倒されてしまう。

 

 メアリとミコと3期生も駆け寄って、倒れた龍成に近付いて心配と喜悦の混ざった眼差しを向ける。

 

 

「もう⋯もう⋯っ!!ほんっっとうに心配したんだからぁ⋯!!バカッ⋯!!」

 

 

「どれだけ心配掛けるつもりだったの⋯っ!!」

 

 

「白上も⋯本当に死んじゃうかと思ったんだからねっ⋯!!」

 

 

「無事で良かったぁ⋯!!ウチ、何も出来なくて怖かったんだよ⋯!!」

 

 

「僕だって心配で胸が張り裂けそうだったよ⋯!!」

 

 

 身体にジンジンと痛みが走るが、抱き着いて来た彼女達の浮かべた涙を見て、自分の痛みより彼女達の心境に申し訳なくなってしまう。

 

 

「ははっ⋯随分と心配掛けちゃったな」

 

 

「ほんとに⋯結果的に良かったけど!そんな大怪我で二度と無茶すんなぺこ⋯!!怖かったんだから⋯」

 

 

「私達⋯君が機転を利かせたお陰で反撃出来たけど⋯こんなにさせてごめんね⋯」

 

 

「もうこぉね達を心配させないでよ⋯!?したらしばきあげパンチングでな!!」

 

 

「るしあ⋯もし龍成君があそこで殺されてたと思ったら⋯!」

 

 

「団長も心配で心配で堪らなかったんだよ⋯!」

 

 

 一人一人が恐怖と不安に心が苛まれ、全員は彼を思って言葉を投げ掛ける。説教したい気持ちも分かっているが、それよりもと⋯彼の状態を優先しようとする者もいた。

 

 

「龍成⋯早く怪我を治さないと…」

 

 

「そうですね⋯!怪我を一刻も早く治療しないと⋯!」

 

 

「いや⋯ミコ、マリン⋯それなら大丈夫だ。今は気で出血を抑えてるから───」

 

 

「何言ってるの!そんな大怪我を放って置く方が可笑しいわよ!パトラもシャルも⋯フブキちゃん達も!安心してる場合じゃないよ!」

 

 

 応急処置をしようとしたところ、それを問題ないと口にするが、当然のようにメアリがそれを良しとしない。

 

 自力で抑えていようが、アドレナリンが作用していようが、そんなのは関係ない。重体なのには変わりない状態な為、強引にでも回復魔法を浴びせようと彼女達を動かす。

 

 そんな時⋯フレアが何かに気付いた。

 

 

「⋯ねぇ待って⋯あれ、なに⋯?」

 

 

『⋯⋯?』

 

 

 どこか声が震えている彼女に視線を向けると、上空の方を見詰めていて嫌な汗を流している。

 その表情から何か良くないことだと誰もが察し、フレアと同じ方へ顔を向けた。

 

 

「な、なにあれ⋯」

 

 

「ただの煙⋯じゃないよね⋯?」

 

 

 そこには煙が浮遊していた。ミコの言う通り、普通の煙と違うのは一目瞭然。

 煙と言えば白か黒か灰色が一般的だろうが、目の前にあるのは″紫色″だった。

 

 その上、星雲のように神秘や煌々しさを纏っていて、何故か風に運ばれもせずに同じ所に滞空していて、より不気味さが際立つ。

 

 あれは一体何なのか、何か起こるのか。予測が出来ないことに全員は再び警戒しだし、目を離さずに何時でも動けるように、龍成を守るようにしながら構えていた。

 

 

「っ!みんな下がれっ!!」

 

 

 しかし、より危機感を察知した龍成が一歩早く動いて、逆に彼女達を後ろにやろうと自らが出てしまった。

 

 すると⋯同タイミングで煙が突発的に動いた。

 

 向かったのは一番近くにいた龍成へ。気弾で消し飛ばそうと手を構えようとしたが、想定外に煙の方が速かった。

 仕方ないと腕をクロスして受け止める体勢を取ることにした。

 

 だが⋯煙は龍成に纏わり付いたと思えば、身体の中に入り込むように吸収されていった。

 途端に彼は苦しそうに呼吸を乱し、心臓部分を強く抑えながら膝を着いた。

 

 

「りゅう君っ!?」

 

 

「ぐっ⋯ぅあ⋯!?」

 

 

「ちょっと!!大丈夫なのっ!?」

 

 

 その光景に全員が再び顔を歪めて、彼の状態に気掛かりになる。

 パトラが素早く駆け寄って彼の身体を支え、メアリが必死に声を掛けるが、彼にはその声が届いている様子は小さい。

 

 

(なん、だ⋯これ⋯!?呼吸が苦しい⋯でも⋯何だこの感覚⋯!なにか⋯何かが()()()()()ような感覚は⋯)

 

「っ⋯ぁ⋯。」

 

 

 確かに苦しい、だが不思議なことに身体への異常はその二つだけ。

 

 ″何かが戻った″⋯確信は小さいが、それだけは間違っている気はしなかった。

 

 たが、それはそれとして⋯真面に呼吸が出来なくなり、今の今まで堪えていた痛みがどっと強く感じるようになってしまっていた。

 

 

「りゅう君⋯!?りゅう君っ!しっかりして⋯!!」

 

 

「しっかりして下さいっ!!」

 

 

「さっきの煙で⋯!ウチが運ぶから早く学園に⋯───」

 

 

 心臓が鼓動すると同時に身体中の痛みが強く走る。腕も、脚も、腹も、脇も、肩も、頭も⋯全てが痛い。

 耳も遠くなってしまい、彼女達の叫びに近い掛け声すらも真面に聞き取れない。

 

 

(やべ⋯いよいよ、意識が⋯身体に⋯力も入らなく、なってきた⋯⋯ぁっ、これやば───)

 

 

 彼はふっと意識が飛んでしまい、とうとう気を失った。

 

 

 

 街を巻き込んだ大戦は彼等の勝利に収まった。

 

 

 

 大きな不安を残して⋯───

 

 

 

 

 





ベ 〇 ッ ト ス ペ シ ャ ル

わかる人には伝わるでしょう。今回はちょっとその最強さんの戦い方を参考にしました。それと久々に長いこと書いたから疲れた。

それでは、次回で一章は終わりになります。

では〜。
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