少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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七月は予定がぎっしりありまして、ちまちまと書いていたのでおっせぇなりました。
あととんでもなく長くなったからのも理由ですが。

じゃ、どぞ〜。


三十話 『後日談』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(───⋯?ここは⋯?)

 

 

 

 ふと、目を開けた時⋯朧気な意識のままで周りの光景に疑問を抱いた。

 

 建物も公共物も何も無い、何処かの荒れ果てた草原⋯荒野のような所だった。不安を煽るかのような黒が掛かっている曇り空、小鳥の囀りもない草木の葉音。

 

 そんな不気味な空間が広がっていた。

 

 

 

(身体が動かない⋯なんだか視界も軽くぼやけてる⋯⋯夢、か?)

 

 

 

 まるで金縛りになりながら、映像を見ているかのような感覚だった。

 そこから察するに、自分が今見ているのは夢の中の出来事だろうと気付く。

 

 しかし、この妙な感じはなんだろうか。儚いような、虚しいような⋯この胸のざわめきは⋯どこか⋯見覚えが⋯⋯───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いたぞぉおおおおおおっ!!』

 

 

 

『奴は一人だぁああ!!数で押し込めぇえええええっ!!』

 

 

 

『絶対に殺せぇえええええええっ!!』

 

 

 

 

 

(───っ!?)

 

 

 

 

 

 すると目の前から突然、武器を掲げながら謎の群衆が自分に向かって攻めて来ていた。

 

 その時に身体に稲妻が落ちたような感覚に陥った。

 普通なら硬直して思考も止まる程の衝撃だったのだが⋯次の瞬間には、自分がその群衆のド真ん中へと突っ込んでいた。

 

 

 

『うぎぁああああああっ!?』

 

 

『ぐぁあああああああっ!?』

 

 

『ひ、怯むなぁあああああああっ!!』

 

 

 

 呆然とした意識とは裏腹に、夢の中の自分は身体が勝手に動いていた。

 

 自分の鋭い肉弾戦に為す術なく、群衆は悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。

 

 蹂躙、蹂躙、ただひたすらに蹂躙。

 武具を悉く破壊し多勢の一切合切を崩壊させている。その圧倒的な実力を前にしても尚⋯群衆は退くことはなかった。

 

 そうだ⋯間違いない⋯これは過去にあった″あの日″の一部の光景だと、彼は静かに悟った。

 

 

 

『───な⋯なぁ⋯⋯また⋯頼みがある』

 

 

 

 途端に目の前の光景が急転した。

 

 先程の群衆を倒しきった後だろうか、周りには気を失って倒れ伏せている戦士達が疎らに散っている。

 

 そして、目の前には瀕死となっている一人の戦士を、自分が彼の身体を支えながら話を伺っていた。

 彼は血反吐を吐きながら数回咳き込みつつも、懐から何かを取りだした。

 

 

 

『こ、これを⋯⋯もしだ⋯もし、家族に会えたら⋯⋯これを渡して⋯″約束を守れなくてごめん⋯愛してる″⋯って⋯⋯つ、伝えてくれないか⋯?』

 

 

 

 そう言いながら渡したのはロケットペンダントだった。

 彼の最期の頼み、藁にも縋る思いで大切な宝物を託される。夢の中の自分は迷うことなく、そのことに承諾して受け取った。

 

 

 

『⋯ありがとうな⋯⋯最期に会ったのが⋯お前⋯で⋯良か───』

 

 

 

 弱々しくありながらも、彼は安心したように小さな微笑みを残しながら⋯静かに目を閉じた。

 

 

 

(⋯⋯⋯そうだ⋯()()()()も果たさなきゃいけないんだ⋯)

 

 

 俺はまだ彼との約束もまだ果たせていなかった。忘れていたとか言う非道などしてないが、やはりそう簡単に彼の家族を見つけられる訳がなかった。

 ペンダントの中に飾られている一つの写真の情報だけでは、かなりの苦難を強いられていた為、ほぼ諦めかけていた。

 

 しかし、改めてその約束を果たさなければならないと⋯彼の無念を晴らしてあげないと、気の毒でしかない。

 

 するとまた、目の前の光景に変化が訪れた。

 

 

 

 

 

『⋯兄、ちゃん⋯⋯兄⋯ちゃん⋯⋯っ!!!』

 

 

 

 

 

(────っっ!!!)

 

 

 

 ソレを見た瞬間⋯全身の身の毛が弥立つ。

 

 

 

 

 

 何度も忘れたくても、決して忘れられないソレは⋯いつも心を簡単に砕いてくれる。

 

 

 

 

 

 オレは⋯⋯どうして⋯あの時⋯────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───⋯⋯っ⋯ん、ぅん⋯?」

 

 

 光の眩しさについ瞼が揺らぎ、その同時に意識が覚醒する。

 

 半目の状態で暫くぼーっと天井を眺めていたが、思考はゆっくりと働き始める。

 

 自分は今⋯ベットで寝ているのか、身体が柔らかく温かい布団に包まれていた。

 不思議と二度寝の誘惑は来ないのは⋯どうして寝ていたのか、どうしてこんな所にいるのか、何があったという疑問が巡っていて、徐々に意識が冴えてきていた。

 

 

(そうだ⋯⋯確か俺⋯あん時にぶっ倒れて⋯)

 

 

 そして思い出した。一つ思い出せばもう一つ思い出し、ゆっくりと鮮明にこれまでの出来事の全てが蘇ってきた。

 

 ヴィランの大襲撃、自我持ちヴィランの襲来、そして新たなヴィランの存在。

 過去に見ない大惨事を止める為に働き、そして全てが終わったと同時に⋯あの″変な煙″の所為で気を失ったのだと。

 

 それまでの過程は思い出せた。次に今の自分の状態だが⋯試しに指先から動かし、次第に手も腕も動かして問題ないと気付く。

 

 誰かが治療してくれたのか痛みは全くなかった。だが色々と身体中に違和感があるが、恐らく包帯をガッチガチに巻かれているのだろう。

 あれだけの重傷だし、無理もないことだろう。

 

 

(一応⋯もう動けそうだな。取り敢えず身体を起こ───)

 

 

 寝続けた代償もあって覚束無い動きになるが、取り敢えず上半身だけでも起こそうとした時、もう一つの違和感に気付く。

 脇腹近くの所に何かが乗っているような、それに人の気配もする。

 

 重く気怠さのある身体をどうにか動かして、上半身だけでも気張って起こす。

 そして、目線を少し下に向けると⋯。

 

 

「すぅ⋯⋯すぅ⋯⋯。」

 

 

「パ⋯ト、ラ⋯」

 

 

 そこにはパトラが机で寝るような体勢でベットの縁で眠っていた。

 

 まさか俺が起きるまでずっと介抱してくれていたのだろうか?と⋯そのことが頭に過ぎって彼女の寝顔を伺うと、その目元に薄らと隈が出来ていた。

 

 それを見た瞬間、彼女が献身的に自分の様子を見続けてくれたのだと理解出来た。

 それが嬉しくて、そして申し訳ない気持ちが溢れ⋯無意識に彼女の名を呟いた。

 

 

「ぅ⋯⋯うぅん⋯?」

 

 

 その時、聞こえたのか偶然目を覚ましたのか⋯眠りずらい体勢でもあるからか、少し気怠そうな顔付きになりながら目を擦ると⋯こちらを見た。

 

 

「ぁ⋯⋯ぁ⋯───」

 

 

「⋯あ〜⋯おはよう?」

 

 

 あまりの衝撃さなのか、口を金魚のように動かし言葉を上手く発せていない。

 そこまで驚愕されるとなんて声を掛けたらいいのか分からず、取り敢えず挨拶をぽつりと伝える。

 

 すると、少しづつ彼女の目元からは小さな涙が集まり、大きな粒となって零れ出す。

 

 

「〜〜〜〜っっ!!!」

 

 

「ぅおっと⋯!」

 

 

 飛び付いて来た彼女を咄嗟に胸で受け止めると、腕が背中にまでがっしりと固定され、決して離さないという意思を感じた。

 

 自分の胸の中で顔を埋め、ぐりぐりと擦り付けられる行為に擽ったいと思っていたが⋯よく見れば身体は震えていて、彼女の気持ちを考えると強い罪悪感に押し潰されそうになった。

 

 

「⋯ごめんな。相当⋯心配掛けちゃったな」

 

 

「もぅ⋯もぅ⋯⋯死んじゃったと思ったんだから⋯!!」

 

 

 慰めにもならない言葉を伝えながらも、少しでも安心させる為に彼女の頭を優しく撫でる。

 すると、嗚咽を零しながら更に抱き締める力を強め、糾弾される。

 

 それに何も言えず⋯ただパトラが落ち着きを取り戻すまで、ただ頭を優しく撫で続けるしか出来なかった。

 

 

 

 

 

⋯⋯⋯⋯⋯

 

 

 

 

 

⋯⋯⋯⋯

 

 

 

 

 

⋯⋯

 

 

 

 

 

「あの〜⋯そろそろ離れて貰っても⋯?」

 

 

「⋯やだ」

 

 

「え?」

 

 

「凄く心配掛けた罰として、暫くこのままでいさせなさい⋯!」

 

 

「あ、はい⋯」

 

 

 それからと言うものの、体感でも十分以上は経っているのは確実。それでもパトラは離れる気が全くないのか、一向に埋める顔を上げない。

 

 彼女も少し余裕を取り戻したのか、イヤイヤと駄々を捏ねるように理由を作って一層抱き締める力が強くなった気がする。

 そんな言い分にぐぅの音も出ないから、仕方なく続行。

 

 ただやはり、俺も男と言う生物なので⋯⋯女性にここまで密着されるのは初めてだから凄く緊張しているのだ。

 変に身体は動かせないし、何か柔らかいのが当たってるし、息が掛かって擽ったいし、鼓動を聞かれてると思うと妙に恥ずかしいし⋯。

 

 でも⋯⋯何だかんだ、凄く落ち着くのはなんでだろうか⋯?

 

 

「───ねぇ、約束して?」

 

 

「ん?」

 

 

 何だかもどかしい感じがして、うーむと心の中で唸っていると不意にパトラが顔を上げて、有無を言わさない語句で話し始めた。

 

 

「もう⋯りゅう君がこんなに傷付けられるのを見たくないの。あの時の貴方が血だらけにされた光景も、二度と忘れられなくなっちゃった⋯⋯本当に⋯本当に殺されると思って⋯凄く怖かった⋯」

 

「あの後も⋯りゅう君が一人で戦ってるのを見てるしかなくて⋯でも加勢しようにもパトラじゃ却って足手まといになるし⋯⋯貴方が強いのはみんな良く知ってる⋯でも!でも⋯」

 

 

 

 

 

「お願い⋯⋯もう⋯一人だけで無茶しないで⋯!」

 

 

 

 

 

 心の底からの懇願。震える声色と嗚咽が混ざったその言葉は、今の彼女の心境を強く表し、とても弱々しかった。

 その様子を見て俺は⋯自分がとても愚かな奴だと認識した。

 

 これで満足してた。街を守れたことが。人々を守れたことが。皆を守れたことが。

 

 どれだけ死にそうになろうとどうでもよかった。俺はただ守りたいものを守るだけ。居心地のいいこの街を、居場所をくれたこの学園を、心に温もりをくれる友達を⋯。

 

 満足してたつもりだった⋯⋯でも、一つだけ考慮していないものがあった。

 

 

 

その守る対象の中に()()()()を含んでいたか?

 

 

 

 パトラはそれを分かっていて伝えてくれたのだろう。信頼はしていても、心配するのも当然なこと。

 逆の立場で考えて、パトラが瀕死の状態でも戦おうとすれば⋯?勿論、問答無用で止める。

 

 ⋯馬鹿なものだな、何でこんな簡単なことに気付いてやれなかったんだろう。

 

 その気持ちを汲み取った瞬間、俺は彼女を抱き締めていた。

 

 

「っ⋯!!」

 

 

「俺が思っている以上に、心配と怖い思いをさせちゃったな。ごめん⋯ただ謝ることしか出来ないや。今回はあの状況でこんな結果になっちまったけどさ⋯俺はいつもパトラ達や他の人々が無事ならそれで良かったんだ。例え自分がどんな目に遭ってでも⋯」

 

 

「⋯⋯」

 

 

「でもそれじゃあパトラも⋯⋯いや、皆も納得しないよな」

 

 

身体少し離し、彼女の顔を見ながら続ける。

 

 

「⋯⋯でも、これからもこんな目に遭わないかは⋯分からない。どうせ俺のことだ⋯また無茶をしてしまいかもしれない」

 

 

「っ⋯⋯」

 

 

「けど⋯これだけは約束する。人々を守り、パトラ達も守り⋯そして俺自身の命も守ってみせる。俺も⋯まだ死ねない理由もあるしな」

 

 

 そして、約束を必ず守る意図を伝えるように、彼女の頭に手を添えながら強く抱き締める。

 

 

「心配掛けてごめんな。それと⋯ありがとう。パトラがそう言ってくれて⋯嬉しかった」

 

 

「っ⋯ぅう⋯!」

 

 

 再び涙を流してしまった彼女も強く抱き締め返す。

 ただ今は⋯彼が生きていると実感を得て、安心したこの気持ちの余韻に浸っていたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ⋯!そう言えば、ぼたん達は大丈夫なのか?」

 

 

「ぅん⋯?あぁ!それなら───」

 

 

「それならもう大丈夫よ」

 

 

 お互いに心が落ち着いてきた頃にあることを思い出した。それはぼたん達の安否の内容。

 

 ルラによって洗脳の影響を受けたあの四人は一体どうなってしまったのだろうかと、気になってパトラに聞いてみるが⋯そこへ割り込むように、癒月が扉から入って来た。

 

 

「癒月⋯」

 

 

「状態も良くなってきてたし、そろそろ意識が戻る頃合かと思ってね。ただまぁ⋯お熱いことねっ♪」

 

 

「⋯っ!!?あぅ⋯///」

 

 

 突然の介入と同時に茶々を入れられ、パトラは今自分の置かれている状況に言われてから気付き、爆発したように赤面すると咄嗟に俺から離れ、傍にあった丸椅子に縮こまってしまった。

 

 

「あら〜、アオハルね〜♪私のことは気にせず続けてていいのよ〜♪」

 

 

「はぁ⋯それで、ぼたん達は無事なのか?」

 

 

「えぇ、5期生のメンバーなら既に洗脳も解けて、今はもう元に戻って元気な状態よ⋯⋯まぁ、その内の二名はまだ身体的苦痛があったらしいけど。*1どうやら洗脳された時の記憶は抜けてるみたいで、フブキ様達と戦ってた事実は覚えてないみたい」

 

 

「それ⋯教えたのか?」

 

 

「⋯えぇ。皆もホントは黙っておきたかった気持ちはあったけど、隠蔽だとぼたん様達も納得いかないだろうし、事の顛末を素直に教えたわ。どういう反応かは想像通り⋯酷く落ち込んでいたわ」

 

 

「まぁ⋯そりゃそうだよな。洗脳で意識が無かったとは言え、仲間に⋯友達に手を掛けちまったんだ。へこまない方が無理がある」

 

 

 深く考えなくても理解出来ることだ。その時の意識はなく、知らない内に味方に攻撃して迷惑を掛けて、気付いた時には騒動は終息していた⋯となれば、足を引っ張ったどころじゃ済まないと自己嫌悪に至ってしまうだろう。

 

 しかし、癒月はそれだけじゃないと話を続けた。

 

 

「それもそうだけど、一番落ち込んだ理由は君に関係あるのよ?」

 

 

「俺⋯?」

 

 

「いえ⋯ちょっと言い方が悪かったわ。正確に言うと⋯自分達が洗脳された所為で、結果的に龍成様を重傷にさせたと思い込んじゃってね⋯」

 

 

「それは⋯」

 

 

「私達も必死に否定したよ⋯?全部悪いのはあいつ(ルラ)だって⋯それでも間接的に原因があるって聞かなくて⋯⋯でも、私達も人のこと言えないから、強く否定出来なかったの⋯」

 

 

「そうか⋯⋯なら、俺が言ってやらねぇとな」

 

 

 どうやらちゃんと説明は受けたようだが、あまりの罪悪感にパトラ達の言葉でも受け入れられなかったのか。

 余程、今回の件に鬱を感じているようなら⋯ぼたん達にとって当人である俺が直接伝えた方が早いだろう。

 

 

「その前に⋯先ずは自分の身体を心配しなさい?今は怪我も順調に回復しているけども⋯まだ意識が戻ったばかりで安静にしてないとよ。君が血塗れ状態で運ばれた時はお祭り騒ぎだったんだから」

 

 

「そうなのか⋯?」

 

 

「そりゃあもう凄かったよ?阿鼻叫喚⋯とまではいかなくても、泣いちゃった人も多かったし狼狽える人もかなりいて⋯思い返すと凄かったなぁ」

 

 

 そう言われて自分の身体をよく見れば、病衣を身に纏っていて袖などから包帯が顔を出している。足からも胸元からも、おまけに額の所にまで包帯が巻かれていた。

 こうなる前の、あの血濡れた状態をほぼ全員に見られたのだとすると⋯まぁ大騒ぎか。

 

 

「心が休む暇もなかったわ⋯今までこんな事件も起きたことはなかったし、更には死人まで出そうになって⋯本当に無事で良かったわ」

 

 

「っ⋯!」

 

 

「君は自分が思っている以上に、周りから慕わられてることに気付いた方がいいわ。私だって心配で堪らなかったからね⋯?」

 

 

「う、うす⋯」

 

 

「⋯⋯むぅ」

 

 

 癒月が触れる距離まで近付いてくると、彼女の手が俺の頬を優しく撫でるように包ませて、どこか愛おしそうに微笑みを見せながら心配の念を向けられる。

 

 そんな意図しない色気に目を合わせずらくなり、逃げるように目線を外しなら小さく返事を返すしか出来なかった。

 その傍で何故か剝れているパトラに疑問を抱きながら。

 

 妙に気まずくなり、話題を変える為にあることを思い出した。

 

 

「そう言えば⋯俺ってどれくらい寝てたんだ?」

 

 

「一週間ね」

 

 

「一週間」

 

 

 思わず鸚鵡返ししてしまう。流石に冗談を言える場合じゃないだろうし事実だろう。いや⋯⋯そんな経ってんの?嘘だろ?

 

 すると俺の身体が相槌を打つように腹の虫が鳴った。

 

 

「流石にお腹は空くよね。よし⋯!パトラが持ってくるから、何か食べたいもの言ってちょうだい!」

 

 

「保健室は飲食禁止よー。せめて食堂にしなさい。今なら売店もやってるだろうし、付き添いでいいから連れてってあげて?」

 

 

「あ、はい⋯りゅう君、立てる?」

 

 

「一週間も寝込んでると、身体の鈍り具合が凄いもんだな⋯」

 

 

 トントン拍子で話は進み、食堂に向かうことにしたが恐らく歩けるかも怪しいので、パトラにフォローさせてもらいながら移動することにした。

 

 取り敢えずベットから降りて、先ずは立てるかの確認する為に凝り固まった身体を伸ばす。

 すると結構な大きさの骨が鳴り響き、心做しかスッキリした。

 

 

「あ、こらこら。伸びをしちゃう気持ちも分かるけど、全身に傷だらけなんだからまた開いちゃうわよ」

 

 

「あ、すまん⋯つい」

 

 

「それと、食後でもいいから後でこより様の所に行くのよ。身体の隅々まで検査するには彼女のとこが適してるから。直ぐに結果も出るだろうし、私が連絡しておくから忘れずにね?」

 

 

 癒月からの忠告に承諾しながら、パトラの手を借りて一週間振りに起立する。

 すると妙なことに、足に力が入りずらい感覚だった⋯が、それだけで歩けなくはない。

 

 

「どう?大丈夫そう?」

 

 

「あぁ、歩けるには歩けるが⋯なんか覚束無いな。こりゃあちょっとだけリハビリが必要かな。まぁ歩いてればその内戻るだろ」

 

 

「じゃあ今は一緒に歩こ?私が支えになるから⋯はい、手繋いで行こ」

 

 

「お⋯おう」

 

 

 鈍った身体に少し困っていると、パトラが率先して手を握り出した。

 小さくも優しい手の温もりに変に驚いてしまうが、彼女はそんなことに気が付かないのか⋯気にしていないのか、そのまま俺のペースに合わせて移動する。

 

 

「じゃあね、ちょこちゃん!」

 

 

「世話になったな癒月。いつか礼は必ず返すから⋯」

 

 

 そう言って俺達は保健室を後にして、食堂に向かって行く。

 

 

「青春の一ページ⋯いいわね」

 

 

 そんな変な一言に気付くことなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてやって来た食堂。一週間の空いた分の食事をしようと向かったところ、他にも何人かが食堂を利用していた。

 

 そこにはアキロゼ・スバル・シオン・ルーナ・天音・風真の六人が談笑をしていたようで、俺とパトラの存在に気付いた瞬間、ひっくり返る勢いで驚かれた。

 まるで死人が生き返ったような反応だったな。

 

 それから、彼女達の話に混ざり今は食事をしていた。

 

 

「本当に大変だったんだなぁ龍成達の所は⋯良く生きてくれてたよ。特に龍成、散々な目に遭って⋯労いのお言葉じゃ足りんくらいに大変だったね。と言うか、寧ろあんな重傷だったのに良く一週間で起きれたな」

 

 

「まぁ⋯⋯な?」

 

 

「いや、″な?″って言われても理解出来んよ!なにその「俺だから普通やろ」みたいな顔は!復帰早々そんなボケしなくていいよ!?」

 

 

 そう言われても自覚などそこまでないに等しい。意識失って気付いたら一週間の時間が過ぎてたんだからな。

 俺の中では超絶ロングスリーパーの実体験ぐらいにしか思っていない。

 

 

「でも早く戻ったことに越したことはないんだからいいじゃん!こうして無事に会えたんだから。あっでも、今はゆっくり休んでね?」

 

 

「まぁ、その⋯元気そうで良かったよ。もう少し回復魔法させるのが遅かったら、後遺症が残ってたかもってちょこ先も言ってたし、シオンも久々に魔法使いまくって疲れちゃった」

 

 

「うんうん、僕もあんなにいっぱいヴィランと戦ったことないから、暫く戦いたくないんだけど⋯」

 

 

「過去に例を見ない大事件だったでごさる⋯既に復旧作業が成されているとは言え、失ったものも多いでござるよ」

 

 

「うん⋯本当に⋯そう、だね⋯」

 

 

 一人一人が彼の身のに安堵しつつも、あの大事件の重い現実に気が沈んでいた。

 色々と初めての出来事に学園だけじゃなく世間も大騒ぎのようで、一週間経った今でもまだ収まる気配はないようだ。

 

 それもそうだけど⋯と、パトラが何か言いたそうに言葉を詰まらせながら龍成を見る。

 いや⋯正確には彼の背中にくっ付いているルーナに目を向ける。

 

 出会ってから彼女はまるで磁石のように張り付いて離れない。

 無理に振りほどこうともしない⋯というより、気持ちを考慮すればそのままにしておくしか出来なかった。

 

 

「てかルーナ!何時まで龍成に蝉みてぇに引っ付いてんだよ!」

 

 

「いやなのらっ!今はルーナに近付くんじゃねぇのら!」

 

 

「それは龍成の台詞だろうが!怪我してんのに悪化させる気か!?」

 

 

「あー⋯俺は大丈夫だから気にすんなよ⋯⋯ちょっと肋骨が痛ぇけど⋯

 

 

「聞こえてるからな?今肋骨痛いって聞こえたからな?」

 

 

「そういや、俺が眠ってる間に何かあったりしたか?」

 

 

「露骨に話逸らしやがったなこいつぅ⋯」

 

 

 寧ろスバルが我慢出来なくなり、ルーナを引き剥がそうとするが、案の定それを拒絶してがっちりと背中から離れない。

 龍成は気にしないと口にするがその顔色は何処か悪い。

 

 それでも話題を変える彼にスバルはその頬を指をぐりぐりと突き刺しているが、当の本人は白を切って視線をあからさまに逸らしていた。

 スバルもこの際、ルーナを放置することにした。

 

 

「そりゃもう色々あったでござるよ。紫黒殿の瀕死に、マスコミの対応、新しいヴィランのことなど、様々なことがあったでござる」

 

 

「そうそう⋯特にマスコミとかもぅーストレスでさぁ〜⋯警察と話してる傍でずぅっと視界に映っててまじウザかった!」

 

 

「報道もヴィランの大襲撃に持ちきりだね。やれ世界の終わりだとか、やれ陰謀だとか⋯挙句の果てには一部のマスコミが私達にまで矛先を向けて来たよ」

 

 

 内容を一つずつ聞けば、先ず俺の状態への報告に学園中の人らがお葬式状態。

 あの桐生やときのですら優れない表情を引き摺っていたと。永先生にのどか先生に谷郷さんも酷く沈んでいたらしい。

 

 そんな状況でも生徒を交ぜた会議を開き、各チームの状況報告から様々な対策法の考案など色々と話し合っていたとのこと。

 そしてルラのことも、何があってあいつのような存在が生まれたのか不明なことが多いが、もしかすると長い間生存し続けたヴィランが力を蓄えて進化した姿しれない。

 

 そして、報道の方も未だに話題が収束しておらず、悪意のある報道とちゃんとした立証を報道しているので別れているらしい。

 アキロゼの言う通り、これを機に様々な憶測が立てられていた。

 

 その最中で煌星学園の行動が遅延してるだとか、戦力が十分じゃないだとか、やたら批判的な内容に谷郷さん自らがインタビューを真っ向から答弁して、生徒達を庇ってくれていたとのこと。

 

 

「そっか、谷郷さんが⋯」

 

 

「流石にそのマスコミ達の態度が悪過ぎて、ネットでも荒れに荒れまくちゃってるよ。″それ以上の被害を抑えてくれて有難いのに何様だ!″って」

 

 

「こっちもまぁまぁ大変だったけど、何よりやばかったのは龍成君でしょ。パトラさん達から話には聞いてたけど、その新しいヴィランって⋯やっぱり強かった?」

 

 

 あの人もやることはやってくれたんだなと、シオンの補足もあって少し安心出来た。

 そんな区切りの見えた所で、天音が新種のヴィランについて聞いてくる。

 

 俺はその質問にルラとの戦いの時を思い返しながら、頭の中で話を整理する。

 

 

「んー、なんと言うか⋯″運が良かった″って感じか」

 

 

「え?どう言うこと?あんなにボコボコにしたのに運が良かったって⋯」

 

 

「そいつは確かに力自体は強力なものだ。ただ⋯まだ人との戦いに慣れていない感覚だったし、詰めの甘さが露骨だったのが不幸中の幸いだったな。まぁ簡単に言えば、強い剣と強い能力を持って調子に乗った小さい子供だな」

 

「おまけに自尊心の高い奴だったけど⋯そんな奴でもパトラ達が相手にしてたら危なかった」

 

 

 実際、純粋な戦闘力だったら⋯恐らくすいせいと良い勝負するくらいだろう。いや⋯まだすいせいの方が強いかな。

 しかし、触れられたら即ゲームオーバーとなる厄介な洗脳の能力を考えれば、戦ったのが俺で良かった。

 

 

「けど結果的に俺とは経験の差でボロ負け。力だけ一丁前で技量は鼻で笑える素人モノ。結局、卑怯な手段でしか対抗出来なかったよ」

 

 

「その卑怯な手段の所為で⋯龍成君は⋯!」

 

 

 改めて聞いた天音は怒りを露わにして握り拳を作っていた。彼女だけじゃなく、パトラ達も優れない表情を浮かべていた。

 心做しか背中に引っ付いていたルーナの抱き締める力が強くなった気がする。

 

 確かに散々な目には遭ったが⋯───

 

 

 

「まぁそいつのプライドへし折ったけどな」

 

 

「実力で捩じ伏せたてたもんね」

 

 

「なんか余裕で想像出来る」

 

 

 

 俺の淡々とした言葉にパトラも便乗し、それにスバルが真顔で納得してアキロゼ達も賛同して頷いていた。

 

 それからは普通に雑談を続けながら食事を済まし、それなりの時間が経っていた。

 博衣の所で検査をしなければならないので長居は出来ない。

 

 

「りゅー先輩⋯もういっちゃうのら⋯?」

 

 

「あぁ、たらふく食って満足したし、これから博衣に用があってな」

 

 

「そうなんだ。ってことはもしかして検査?」

 

 

「起きたばっかでこんだけ食べたら、胃もたれしそうだけど⋯」

 

 

 背中から降りてもらい、あからさまに寂しそうに顔を俯かせているルーナに、あまり構ってやれなかったことに少し罪悪感を感じさせる。

 

 アキロゼの言葉に頷きながら、積み上げられた皿を見て呆れているのシオンを横目に立ち上がると、横にいたパトラも合わせて俺の身体を支えてくれる。

 

 

「それと⋯今回は色々と心配と迷惑を掛けた⋯ごめんな」

 

 

「んなぁ⋯」

 

 

 ちょっとしたお詫びにルーナの頭を優しく撫でてあげると、猫のように目を細めて顔を綻ばせてくれる。

 そんな俺の言葉を聞いた皆は、柔らかい雰囲気で気にしていないと否定してくれた。

 

 

「いいんだよ。君は色んな人を守る為に戦い続けて、黒幕を止めたんだから⋯私達は君が無事でいてくれたらそれでいいの。本当にお疲れ様、頑張ったね!」

 

 

「そうでござるよ、紫黒殿が気にすることじゃないでござる。風真達は他のヴィランで手一杯だったし、助太刀に行けなかったのに後悔していたでござる」

 

 

「僕達に対してそんなに気にしなくていいよ。結果的にみんな無事だったんだし⋯⋯あーでも、ねねちゃん達にも会ってあげて?相当落ち込んでるみたいだから⋯」

 

 

「あぁ、勿論そのつもりだ」

 

 

「あ〜、あの四人は特になぁ⋯ぼたんがあんなに凹んでるの初めて見たよ」

 

 

 どうやらぼたん達はスバル達から見てもかなり落ち込んでいる様子のようで、天音から直接会って欲しいと頼まれる。

 俺自身もそうするつもりだったので、強く承諾する。

 

 そして、博衣の所へ向かう為ここで別れる。パトラの手を借りながら、足元を注意しながら歩き始めたところで、シオンに声を掛けられる。

 

 

「⋯ねぇ、龍成⋯」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「───⋯ううん、ごめんやっぱ何でもない。取り敢えず大丈夫そうなら良かったってだけ!じゃあね!」

 

 

 振り返って彼女の表情を見た時、何処か気まずいような⋯そんな神妙な顔付きをしていたが、直ぐに何時ものシオンの雰囲気に戻った。

 

 悪戯娘の微笑みを浮かべてからスバル達の所へ戻って行き、何だったんだろうかとパトラと共に首を傾げたが、特に気にもせず次の所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こよりちゃーん!ちょこちゃんから話通ってるー?」

 

 

「まじで研究室だ⋯温泉や特訓施設にプライベートルームまであると、もう学園の域を超えてるだろ⋯」

 

 

 研究室があると聞いてはいたが、訪れるのは初めてだ。

 中を覗いてみれば、そこは本格的な研究施設のように顕微鏡やビーカー棚に試験管立てが並び、机には山になってる資料、隅には数々の精密機器が置かれていた。

 

 その壮大さに呆気に取られるが、それ以外にも学園のものとは思えない所があったりするので、通ってる場所が学園内だと時々忘れる。

 

 パトラはそんなことに気にせず足早に入って行き、俺も手を引かれながら付いて行く。

 

 

「あっ!やっと来たねー!おつかれパトラちゃん!そして龍成君⋯!やっと起きたんだね⋯!運ばれた時は心臓止まると思ったんだよ!どうしてくれるの!?」

 

 

「どうしてくれるって⋯⋯まぁ、ごめん」

 

 

 連絡は既に届いていたのか、待っていたと歓迎の笑顔を向ける⋯が、俺には会って早々怒られてしまった。

 

 とは言え、確かに俺に非があるので何も言い返さず、ムスッとした博衣に素直に謝罪する。

 

 

「はぁ⋯色々と話したいことはあるけど、ちょこ先輩から内容は聞いてるから早速始めよっか。ってことで上脱いでくれる?」

 

 

 そう言われて上半身だけの病衣を脱いで上裸になるが、そこで今の自分の状態がかなり酷いことに改めて知る。

 ほぼ全体を覆うほどに⋯まるでミイラに近いくらいに包帯が巻かれていた。

 

 一週間経った今じゃ何処まで治っているのか視認出来ないが、動く度に痛みが走ったり傷が開く様子は見受けられないから、確実に良くはなっているだろう。

 

 

「⋯⋯わぁお。治療してた時も思ってたけど、改めて見るとやっぱ凄いね⋯」

 

 

「⋯うん。間近で見ると⋯尚更ね⋯」

 

 

 二人の目線は彼の身体ではあるが、その視線の含まれる意味は別の方へ。

 

 普段から制服を着用していたので良い体格ぐらいにしか捉えていなかったが、今の上裸になったのを見て、その体格に見合った筋肉の付き方をしていてると分かる。

 所謂、″脱いだら凄い″と言われるやつだ。中々見られない生での彼の肉体に、二人はつい凝視してしまい無意識に喉を鳴らす。

 

 その様子に龍成は小さく息を吐きつつ本題に戻しながら、とある機械に目を向ける。

 

 

「そんな見てて楽しいもんじゃないだろ⋯んで、ここに入ればいいのか?」

 

 

「うん!この装置はね、特殊なスキャンで身体の異常を探す代物!ここに入ればどんな病気や怪我の詳しい情報にアレルギーや健康状態、更に細かい情報に血流状態や脳波まで検査が出来る!さぁ⋯!これで龍成君の隅から隅まで覗くよぉおおぅうへへへへ⋯!」

 

 

「怖っ」

 

 

「ま、まぁ⋯要は身体の全ての状態が分かるってことだよね」

 

 

 情緒とか一体どうなってるんだろうか、顔が変態のそれである。

 まぁそんなことよりもと、博衣の一連の説明を受けながら早速検査を受ける。

 

 丁度、人が一人収まるほどの筒状の機械に入ると扉が閉まり、博衣が何か操作しているであろうタイピング音が聞こえる。

 気長に待っていると、途端に足元から赤い光が照射されて、そのまま全身をなぞるように走査される。

 

 それから何度か往復するだけで、本当に直ぐに終わった。

 

 そして、博衣が結果データを纏めてくると言って席を空けるが、パトラと少し雑談している頃には既に結果資料が出来ていた。

 

 

「はい、これが検査結果だよ。それで話を聞くに、意識を失った時の決め手が⋯煙?のようなものが身体の中に入ったって聞いたけど⋯特に後遺症とか変な病気とか、身体に変な異常は見つからなかったから大丈夫だよ」

 

 

「⋯取り敢えずは一安心だな」

 

 

 博衣の言葉を聞きながら、数枚渡された結果表に目を向けて内容を確認する。

 特にこれと言って何かありそうなものは確かに無かった。全部が正常で身体の中は問題ないと理解する。

 

 

「その煙のことも気掛かりだけど⋯現状問題はなかったし、少しの間だけど休校するらしいから、体に違和感を感じたら直ぐに言ってね?あと、ちゃんと休むんだよ?隠れて激しい運動しないように!分かった?」

 

 

「流石にそんなことはしねぇよ⋯でも、散歩ぐらいはいいだろ?リハビリも兼ねて感覚を取り戻さねぇと」

 

 

「それくらいなら大丈夫だよ。あっ、結果資料は持ってく?」

 

 

「いや問題ないならいいや。そんじゃ、色々と不安は解消されたし戻るよ。ありがとな」

 

 

「じゃあね!こよりちゃん!また今度、面白いゲーム持ってくるから!」

 

 

「うん⋯また今度よろしくね。楽しみにしてるよ」

 

 

(⋯⋯?)

 

 

 龍成が立ち上がると同時にパトラも健気に彼の身体を支えようとする。

 さり気ない小さな約束に、こよりは言葉では楽しみと伝えてはいるが⋯龍成には何処か違和感を感じた気がした。

 

 でも、恐らく気の所為だろうと捉えて特に振り返ることなく、手を振っているこよりに手を挙げてから、パトラと共に研究室を出て行った。

 

 

 

 

 

「⋯⋯⋯行ったね⋯」

 

 

 足音も完全に聞こえなくなった時⋯こよりは一人そう呟いた。

 

 先の雰囲気とは真反対に、何処か緊迫としている表情を浮かべていた。

 そして、龍成を検査した時の結果資料を持って、机に置かれているとある資料と見比べ始めた。

 

 

 

「⋯まさか、ね⋯⋯そんな⋯そんな筈⋯ないよね?龍成君⋯!」

 

 

 

 こよりは知った。知ってしまった。誰もが信じられないような事実を。

 

 震えは止まらず、その事実を受け止めたくないのが言葉から伝わる。だがその気持ちとは裏腹に、目線はとある″物″を凝視していた。

 

 

 

 

 

 それは何時ぞやにクロヱと回収した、″煌々と黒紫色に輝く鉱石のような塊″だった⋯。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ〜思ったより何もなくて逆に不気味だなぁ。どうなってんだ俺の体」

 

 

「確かに色々と変だけど⋯それくらいりゅう君の身体が頑丈ってことじゃない?」

 

 

 考えれば考える程、自分の体が別な方向へ向かっているのではないかとちょっと思い始めている。

 あの煙が体の中に入ってから特に何も変わったことはないし、心做しか力が漲っている感じがしたのだが⋯ただの勘違いか?

 

 パトラに変なフォローされるが、今の所じゃまだ何も分からないので、このことは暫し見送りになるだろう。

 

 

 

「────あっ⋯ぇ⋯りゅ、龍成⋯⋯!?」

 

 

 

「あっ⋯」

 

 

「ポルカ⋯それに三人も⋯」

 

 

 すると廊下の途中にある曲がり角の所で、ポルカ・ねね・ラミィ・ぼたんの5期生とばったりと出会った。

 

 偶然にも揃って居合わせたので手間が省けるのだが、如何せんまだ心の準備が出来ていない状態だった。

 それは向こうも同じなのか⋯いや、彼が意識を戻っていたことに驚愕していた。

 

 四人は信じられないように目を見開いていたが、次第に視線はあちこちに向いて気まずそうにしだす。

 

 

「意識⋯⋯戻ったんだね⋯良かった⋯」

 

 

「うん⋯本当に良かったよ⋯」

 

 

「⋯⋯」

 

 

(皆、相当窶れてるな⋯)

 

 

 ぼたんとラミィは安堵した言葉と気持ちを伝えるが、表情は見るからに暗いまま。ねねに関しては既に顔を俯かせていて、如何にも優れてるとは到底言えない。

 ポルカも普段なら距離感のない言動をぱっぱと行うのだが、その余裕は一切ない様子だった。

 

 感知した気も酷く乱れていて、穏やかとは掛け離れている。

 そんな酷く気まずい空気に、パトラはなんと声を掛けたら良いのか分からなかったが⋯⋯龍成は違った。

 

 

 

「───ごめん」

 

 

 

『っ!?』

 

 

 彼は真っ先に頭を下げて謝罪した。そんな行動に全員が驚く。

 

 

「な、なんで⋯龍成が謝るんだよ⋯!」

 

 

「⋯そうだよ⋯だって、ラミィ達は⋯」

 

 

「俺が勝手に無茶をしただけで勝手に倒れただけだ。その原因の中にポルカ達は関係無い。全てはルラの⋯ヴィランの仕業なんだから、お前達が気に病む必要はないよ。相手が悪かったから仕方ないし、寧ろ俺は⋯ポルカ達が無事なだけで良かったよ」

 

 

 気恥しくなったのか、頭を軽く掻きながら微笑みが零れていた。

 気を遣っているのではなく、本心からの言葉。

 

 それを聞いたぼたんは、小さく身体を震わせていたが⋯急に龍成に掴み掛った。

 

 

「⋯⋯んでなんでなんでそんな簡単に許せるんだよ⋯っ!!

 

 

 悲鳴にも聞こえる彼女の顔は悲壮感に満ちていて、今にも涙を零しそうなのを堪えていた。

 まさかそんな感情を⋯そんな表情を晒すとは思っておらず、龍成は驚いたが直ぐに彼女の言動を受け入れた。

 

 

「謝るのはあたし達だろっ!?仕方ないとは言われても⋯!足を引っ張りまくって⋯どれだけ皆に迷惑を掛けたか⋯⋯挙句の果てには⋯人質にされて⋯龍成はこんな目に遭って⋯!」

 

 

「ラミィね⋯凄く後悔してた⋯⋯意識が戻ってたらあれだけ大騒ぎしてた事件が終わってて⋯混乱して⋯詳しいことを聞いて⋯⋯それで⋯ラミィが⋯っ!」

 

 

「だ、だから⋯!あの時パトもフブキちゃん達も言ったけどあれは───」

 

 

「ねねも⋯っ!⋯どうしようもなく自分が嫌になった⋯!意識の無い状態で後戻り出来ないようなことして⋯⋯もし⋯もしそれで誰か殺してたりしてたらと思うと⋯!」

 

 

「ポルカ達ね⋯あの後四人で少し話し合ってたの。状況が状況だからお咎めなしとはなったけど⋯⋯それで自分自身が許せるかとなったら、話は変わるよ⋯⋯実はこれから、ヤゴーに会いに行くとこなんだ」

 

 

「⋯⋯何かしようとしてたのか?」

 

 

 彼女達なりに思うことが沢山あったのだろう。

 他人から赦しを受けても、自分ではそれを認められない強い責任感と後悔が心に張り付いてて仕方ない様子だった。

 

 谷郷さんに会いに行くとポルカの言葉に俺はそう聞き返すが、心の中では次に出てくるであろう言葉が連想される。

 

 

「⋯率直に言うけど⋯───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポルカ達ね⋯⋯″退学″しようと思ってるの⋯」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アホか」

 

 

 

『え⋯?』

 

 

 間髪入れずそれを当然の如く否定する。

 

 四人は呆けながら一斉にこちらを見てくるが、逆に何故そんな反応を示すのか俺には理解出来ない。

 俺はそこまでの反省など求めてないし、皆もそこまでして欲しいなど思っていない。

 

 

「お前らは洗脳の影響を受けて、それで味方に攻撃したり⋯人質になったりで、迷惑を掛けた自分に強い負い目を感じてんだろ?それ自体は仕方ねぇよ、気持ちの問題な訳だし」

 

「でも勘違いしないで欲しい。さっきも言ったけど、俺がこんな目に遭ったのもぼたん達の所為だとか一切考えてない。全部こんなことにさせたヴィランが悪いんだから⋯きっと皆も俺と同じことを思ってるよ。なっ?パトラ」

 

 

「もっちろん!確かに気持ちは分かるよ。私も⋯すぐそこにいるのに助けにすら行けない弱い自分が凄く嫌になってた。あの時こうしていればって⋯でも結果的にみんな大丈夫だったし、そこまで責任を背負う必要はないよ」

 

 

 彼女も俺と似たような考えをしていたから、同感していることはっきりと伝えてくれると、ポルカ達の気持ちにも共感しながら言い聞かせていた。

 

 区切りを見出して、彼女の後に続けてこれでもかと説得する。

 

 

「それに、あの土壇場で新しい技まで思い付いたんだ。確かに酷い目には遭ったけども、色々と経験も積めて切っ掛けを作る機会にもなったし、悪いことばかりじゃなかった」

 

「まだ自分が許せないってんなら⋯俺が何度でも言ってやるよ。ぼたん、ポルカ、ラミィ、ねね⋯お前らは何も悪くない、なにも退学までして償わないでくれ。そこまでして自分を追い込んで欲しくない」

 

「俺はお前らのことを大切に思ってる⋯だから、お前らが大事にならなくて本当に良かったし、これからも一緒にいようぜ⋯⋯″友達″⋯なんだろ?」

 

 

 前に俺は自我持ちヴィランとの戦いで、一人で突っ走っていた時があった。

 一人で戦い、一人で責任を負い、一人で全てを終わらせようとしていた。

 でも、その間違った行動を⋯ここにいる五人が教えてくれた。

 

 彼女達は友を想っているからこそ、己が許せない。

 けど、俺達も友を想っているからこそ⋯引き留める。

 

 

「っっ⋯!!」

 

 

「おっと⋯!」

 

 

 説得が大いに効いてくれたのか、感極まったようにねねが感情を弾けさせながら飛び付いてきた。

 小さい子供のように胸元に顔を埋めてしまい、宥めて欲しそうに抱き着いて離れない。

 

 ラミィもポルカも嗚咽を零しながら顔を俯かせ、涙を何度も拭っていた。

 ぼたんも漸く心に余裕が帰ってきたからか、静かに涙を流して二人に寄り添う。

 

 そんな様子をパトラは安堵しながら微笑みを向け続け、俺はねねの頭を撫でながら宥める。

 

 

 

 

 

「おや、ここにいたのかい」

 

 

「あ⋯谷郷さん」

 

 

 後ろから別の人の声で振り返ると、谷郷さんが何時もの様子で歩み寄って来ていた。何故、彼がここにいるのかは直ぐに分かることだった。

 

 俺が起きたことが伝わり、探し求めていたらしい。それから詳しい話を聞いていたのだが纏めると⋯

 

 今後は更なるヴィランへの警戒と戦力の為に、国に脅迫じみた要求をしてほぼ全面的に協力するようにしたこと。

 心身共にしっかりと休めるよう学園を長期休暇にしたこと。そして、ヴィランと自我持ちの差別化を図る為に名称を付けることになった。

 

 一般には『ファントム・ヴィラン』と総称されていたが、自我持ちやルラのようなヴィランには⋯───

 

 

 『インテレック・ヴィラン』

 

 

後にそう名付けられ、これからはそう呼称するようになった。

 

 

「何はともあれ⋯君が無事で本当に良かった。私はね⋯後悔していたんだ。己の考えの甘さに⋯」

 

「君達を向かわせる直前まで迷っていた。君らは平和の為の貴重な戦力以前に、一人の生徒⋯未来ある子供達だと言うのに、命を投げ出すような大事に巻き込ませるのか⋯と。しかし、結局⋯私は君達を頼りにする他なかった」

 

 

 学園長として、一人の大人としてその時まで悩み、最後まで生徒達のことを考えていてくれていた。そんなことが彼の表情からでも容易に伝わる。

 

 ″こんな目に遭わせて本当に申し訳ない″と頭を下げて謝罪する姿に、龍成は少し困ったように笑う。

 

 

「俺達は守りたくて⋯人の為に戦いたかったから赴いたんです。確かに色々と難攻不落でしたけど、皆が頑張ってくれたからあれ以上の被害は抑えられた」

 

「谷郷さん、せめてそこは謝罪の言葉じゃなくて⋯御礼でいいんですよ。子供を想うあんたなら分かるでしょう、謝罪より御礼を言われる方が子供って喜ぶもんなんですよ?」

 

 

 全く責めるつもりはないと主張し、ここまで頑張ってくれたと思うなら謝罪よりも御礼を言って欲しいと温柔に伝えると、谷郷はそれに少し呆気に取られたが、直ぐに何時もの雰囲気に戻って龍成に礼を言った。

 

 

「それで、ヤゴーはねね達に何か用があったの?」

 

 

「ポルカ達を探してまで話したいことだった?」

 

 

「おぉそうだったそうだった。さっきの話も用ではあったんだが、本題はこれから話すよ」

 

 

 どうやらまだ別の話があったようで、これはまだ生徒の誰にも話していない内容だと前置きを入れてから改めて本題に移る。

 

 

「実は前々からえーさんとのどかさんと私で、とある計画を考えていてね。今回起きた大事件の解決に協力してくれた御礼とお詫びに丁度ピッタリだろうと思ったんだよ。君達は授業を受け、ヴィランに負けない為に日々特訓を怠らず、先にある不安や悩みもあるだろう」

 

「だが、それを忘れてリラックスも兼ねて⋯全員に招待したいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二泊三日の貸し切りリゾートホテルの旅行にね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、俺達の忘れられない夏イベントの始まりだった────

 

 

 

 

 

*1
白狐&犬「スゥー⋯。」(メソラシ)





これにて一章は終わりになります。後に思い付いた番外編などを投稿するつもりなのでよろしくです。

そんで区切りが下手過ぎな件。なんか⋯もっとこう短文にしたいけど、したらしたで内容薄くね?ってなりそう。逆に多すぎると情報多いってなるし⋯ほんと難しいな。

取り敢えず、難しかったり滅茶苦茶にならないよう頑張っていきます。

では〜。
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