少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

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どうも、お久です。続きになります。後半に続くと伝えましたが、なんか中編になりました。
そして遅くなったのは仕事のせいです。疲れのせいです。税金のせいです。

じゃ、どうぞ〜。


『ちびっ子ハプニング』【中編】

 

 

 

 

 

「この⋯!これならどうだ!」

 

 

「その動きは甘いぜ」

 

 

「なっ!?くっそー!!今のどうやって防ぐんだよ!!」

 

 

「小さくなってもセンスは相変わらずなんだね」

 

 

「負けた時の敗北感は凄まじいけどね⋯」

 

 

 身体が小さくなる事件が起きてから三日間の時が過ぎた。

 少しずつではあるが、この身体の不便さにも慣れてきて違和感が無くなり始めていた。

 そして現在、スバルを含めたゲーマーズ部の五人が訪問して来たので、恒例のゲームで時間を費やしていたところだった。

 

 ルイが言っていた通り、この一週間は誰かしら訪問して来ると伝えられて少し疑心暗鬼だったが、律儀にも本当に何人かやって来てくれていた。

 率先してお世話したいとの声が多々あったらしい。何故だろう。

 

 

「それにしても、龍成君もその体に慣れてきた?」

 

 

「ある程度には慣れてきたけど、未だに距離感がバグっちまう⋯」

 

 

「大変そうだけど何気に三日も過ぎてるし、もう少しで戻れると思うと前より気が楽でしょ〜?」

 

 

「高い所に手が届かないこととか結構不便だけどな。」

 

 

「その為の白上達がいるんです!」

 

 

 それは⋯正直助かってはいる。ただ今のフブキは善意で動いてると言うより、どことなく欲望で接してる感があるんだけど⋯気の所為なのかな。

 

 まぁそれはいいとして、おかゆの言う通り気付けば三日も経っている。このまま何事もなく早く元に戻りたいものだ。

 そう思っていると、不意に空腹を知らせる音が俺のお腹から鳴った。

 

 

「もうそんな時間なんだ。よし!夕ご飯は何食べたい?今日はウチが作ってあげるよ」

 

 

「唐揚げ!」

 

「カレー!」

 

「お茶漬けで〜」

 

「ここはしゃぶしゃぶでな!」

 

 

「ウチは龍成君に聞いてるので、皆のリクエストは受け付けません」

 

 

「「「「ママァ〜⋯!!」」」」

 

 

「ママって言うな!!」

 

 

 各々が食べたい物をリクエストするが、ミオはそれを無慈悲にも一蹴する。あのやり取りを見るに、母性が強いが故に良く言われてるんだろう。

 

 確かにミオと接していると、同級生⋯よりも母親みたいなイメージは徐々に根付いていった感はある。そもそも彼女自身の性格が世話好きの傾向にあるんだろうな。

 率先して料理を作ってくれるし、まとめ上手な部分もあり、駄目な所はしっかりと言及し、気遣いも出来て⋯お母さんやん。

 

 にしても夕飯か⋯客人なのに作ってもらうのは申し訳ないが、今のこの体だととても作業しずらいので助かるな。

 

 

「じゃあ⋯オムライスでもいい?食材は足りてる筈だから遠慮なく使っていいよ」

 

 

「おっけー!任せてね。ちょっと時間掛かるかもだけどキッチン借りるね」

 

 

 そう言うとミオはキッチンに立ち、慣れた手つきでスムーズに料理をし始めてた。

 その間、俺達はどうしているかなんて話は出てこない。いつも通りゲームするだろうな⋯と俺は思っていた。

 

 

「さて⋯まだまだ勝負はこれからですよ!」

 

 

「次はなんのゲームする?」

 

 

「まだやれるの?スバルちょっと疲れた〜」

 

 

「俺も一旦見てる側にいるよ」

 

 

「じゃあボクと龍成君は休んでるね〜。ほら、お膝においで〜」

 

 

「おわっ⋯」

 

 

 休憩しようとソファで観戦することにしたのだが、その時におかゆの自然な流れで彼女の膝に乗せられる。そんなことする雰囲気は無かったから油断した。

 

 逃がさないように絶妙な力加減で腹部に腕を回されてホールド状態な上に、豊満な胸が後頭部に押し当てられる。

 あまりの衝撃さに思考が停止していると、その行為を許さないとフブキ達が黙っていなかった。

 

 

「あー!ずるいおかゆん!それは白上がやるべきことだー!」

 

 

「おがゆ!それはこぉねがやるから引っ込んでな!」

 

 

「ちゃっかりお姉ちゃん面して堪能しようとしてんな!させねぇぞ!!」

 

 

「早い者勝ちだもんね〜」

 

 

「勘弁してくれ⋯んぐっ!?」

 

 

 助けてくれると思っていたが、んなもん関係ねぇと裏切られる。おかゆ自身はなんか楽しそうにしているし、三人はその役目の奪い合いに発展し、ミオは料理に夢中になっている。

 

 すると、何を思ったのかおかゆは、俺の顔を己の柔らかな胸に無理やり埋めさせられた。

 かなりの密着度の所為で息がしずらいのに、大福のような柔らかい温もりと良い香りが鼻腔を擽る。そんな苦悶と温もりが混じり合っている。

 

 

「ほ〜ら、ボクのおっぱいだよ〜柔らかいでしょ〜?」

 

 

「おぉーい!!それは一線を越えてるぞおかゆん!!」

 

 

「こるぁあああああ!!ちびっ子には刺激が強すぎんぞエロ猫がぁ!!」

 

 

「うぅ〜!おがゆのポジションと龍成君のポジション⋯どっちにすべきか⋯!」

 

 

「むぐぐ⋯!」

 

 

「あっ⋯んっ⋯!もう〜、そんなに動いたら擽ったいよ〜?そんなにお姉ちゃんのおっぱいに埋もれたかったのかな〜?」

 

 

(誰か追い出してくれこの痴女を⋯⋯)

 

 

 なんでこんなことに恥じらいが一切ないんだよ。羞恥心はどうなってんだ羞恥心は。

 無駄に包容力がある所為で、落ち着く感情と焦燥の感情が渦巻いて変な感じになる。

 

 その後、どうにかしておかゆから離れると、いつの間にかスバルが持っていた手錠によって捕らえられていた。

 

 

「あ〜あ⋯そんなに恥ずかしがらなくたっていいのに〜。でもどうだった?ボクのおっぱいの感触は?」

 

 

「これ以上調子に乗ったら本当に追い出すぞ⋯」

 

 

「不同意わいせつ罪として逮捕しゅば!!」

 

 

「次は白上の番です!さぁ龍成君!こっちにどーんと来い!!」

 

 

「行かねぇよ」

 

 

「こぉねの尻尾モフる?」

 

 

「⋯⋯」

 

 

「ちょっと迷ってんじゃんねぇか」

 

 

 ころねがもふもふの尻尾を見せてくる。一目見て分かる手入れされたそのもふもふ具合につい迷ってしまい、スバルにも指摘される。

 あんまりにも凝視してた所為か、ころねはどこか煽るように尻尾をふりふりと揺らして、モフりたい欲求を刺激される。

 

 

「いいんだよ触っても?なんなら顔擦り付けたっていいでな。あ、でも優しくしてね?」

 

 

「⋯⋯いいの?」

 

 

「なっ!?それだったら白上の尻尾だってもふもふのもふですよ!尻尾の手入れはかなり拘ってるから、もふもふ具合は引けを取らんぞ!さぁ!白上の所に来るのだー!」

 

 

「必死過ぎだろフブキ」

 

 

 そばでフブキが必死になっているのを他所に、俺の手は彼女の尻尾に吸い込まれるように誘われる。

 

 ────もふっ⋯もふもふ

 

 それはまるで、新品の毛布のように肌触りが良くて温かかった。そんな尻尾の毛の感触に一瞬にして虜になり、何度も何度も優しく摩ってはモフる。

 

 

「うぃっはは⋯!擽っだい!」

 

 

「でも凄いサラサラで触り心地が良い⋯」

 

 

「ふふん!こぉねの尻尾は格別だかんな!遠慮なく顔埋めたってええでな?ほれ」

 

 

「わぷっ⋯」

 

 

 誇らしげに鼻を鳴らすころねに目線を移すことなく、依然として尻尾に夢中な俺。

 すると、尻尾を器用に動かして俺の手から離したと思えば、そのまま顔に尻尾がぶつかってきた。

 

 ほふっ、と羽毛が触れる感触と執拗くない香水の匂いに、無意識にすりすりと顔を押し付けていた。

 

 

「もふもふ⋯⋯うへ」

 

 

「尻尾⋯と言うより、もふもふが好きなんやね。そんなに抱きしめちゃって、なんか猫みたいに見えてきたよ⋯⋯むっちゃ夢中になってるし。ふふ⋯可愛い奴でな」

 

 

「そろそろ白上も甘やかしたいんだけど〜⋯まだ〜?」

 

 

「しょうがないな〜フブちゃん。交代でな」

 

 

「おしきた!ふっふふ⋯この白上の極上のもふもふ尻尾で骨抜きにしてしんぜよう!」

 

 

「ちょっとスバルも触らして欲しいかも⋯」

 

 

「むぅ〜⋯ボクにも尻尾がそのくらいあったら、きっと独占できてただろうな〜」

 

 

「さぁ!ここにおいで!最強の癒しを味あわせてやりますよ!」

 

 

「⋯⋯じゃあ、そこまで言うなら⋯」

 

 

 フブキは胡座をかいて両手を広げてスタンバッて、如何にも自分の足元に座れと態度で示している。

 普通なら彼は、こんなことなど秒で拒否するだろうが⋯。

 

 

「どうです?白上の尻尾も、抱かれ心地も良いでしょ?」

 

 

「⋯⋯落ち着くけど⋯落ち着かない⋯」

 

 

 言われるがままに従い、椅子に座るかのように自然と吸い込まれてた。

 

 フブキの足元に座った龍成は尻尾を抱きしめてもふもふし、そしてフブキはその後ろから彼を抱きしめている形で座っている。

 

 前にもふもふ、後ろにぱふぱふ状態である。

 

 尻尾と人肌の温もりを同時に味わって確かにホッとする気持ちはあるのだが、相手が女性というのもあって恥ずかしい気持ちもある。

 

 

「緊張してます?むっふふ〜♪とっても可愛いですね〜♪このままで良いくらいだし、そのまま白上の弟になりません?」

 

 

「なに言ってんだ」

 

 

「違うよ!こぉねの弟になるんだよ!」

 

 

「だから何言ってんだ」

 

 

「忘れそうになるけどスバル達と同い年なんだよな」

 

 

「フブちゃ〜ん、そろそろボクにも抱っこさせてよ〜」

 

 

「おかゆんはさっき充分過ぎるくらいやったでしょ!ダメです!」

 

 

 そんな甘い雰囲気の中で緊張気味になりながらもふもふを堪能した後、なんだかんだ龍成は満足したのか、暫くフブキの足元に留まり続けていた。

 その無意識下による行動なのかは分からないが、どちらにしろフブキにとっては嬉しいことなのか、笑みを隠し切れず艶々になって常に口角がぶち上がっていた。

 

 そんなこんなしている内にミオが料理を作り終えて、全員で食卓を囲って食べ始めていた。

 

 

「うんまっ⋯!」

 

 

「おいひぃ〜」

 

 

「さっすがミオちゃんでな」

 

 

「やっぱミオの作る料理は美味しいですね〜」

 

 

「そろそろスバルも自炊する力とか付けた方がいいかな⋯」

 

 

「口に合ったなら良かった」

 

 

 ミオの作ったオムライスは、俺のバイト先でも出せる程に美味しかった。自分も料理を提供する身、もっと腕を上げないといけない危機感と向上心を改めて感じさせられた。

 

 にしても本当に美味いな。手が止まらん。

 

 

「あ、龍成君の口元にソース付いてるよ〜」

 

 

「え?」

 

 

 すると、おかゆから突然そう言われて掬ってた手を止める。

 食べることに夢中になり過ぎて口元にソースが付いていたことすら気付かなかった。なんという子供過ぎる失態だ。

 

 

「ほんとだ。ちょっと待ってて⋯⋯はい、お口拭きましょうねー」

 

 

「やってることがまんまお母さんでな」

 

 

「姉弟と言われてもしっくりくるね」

 

 

 子供あやすような口調でミオが自分の口元を拭いてくる姿は、ころねの言う通り母親も同然の行動と雰囲気だった。

 小っ恥ずかしい姿を晒してしまったが、お礼を言わないと⋯。

 

 

「ありがとう、お母さん⋯⋯───あっ」

 

 

「ぅん゛っ⋯!!?」

 

 

「こぉ、れは⋯中々の破壊力⋯ですね」

 

 

「ミオちゃんの母性本能が爆発しちゃいそう」

 

 

「爆発どころじゃ済まないだろこれ」

 

 

「そうだ⋯ウチはこの子のママだった⋯!」

 

 

「存在しない記憶が捏造されてるでな」

 

 

 やらかした⋯⋯やべ、普通にめっちゃ恥ずかしい⋯あんまりにも母親感が強かったからかつい口走っちまった。

 向こうはなんか盛り上がってるけど、こっちはそれどころじゃない。

 

 

「んっふふ〜、可愛いね〜龍成君。ボクもママになるのは得意なんだよ?どう〜?何でもしてくれる母性と包容力溢れる猫のママとか滅多にいないよ〜?」

 

 

「くそっ、やはり揶揄って来るかこの猫!ってかさり気なく体を弄ってくんな!」

 

 

 頬を上気させながら猫撫で声で耳元にそう囁いて、小さいが呼吸が少し荒くなっている気がする。その上で小さくなった彼の身体を撫でるように摩ってくる。

 

 そんな状況を傍から見れば、事案の一歩手前だと誰もが思うだろう。

 

 

「ウチの子に手を出すんじゃない!!」

 

 

「いや、この子は白上の弟になるんじゃい!!」

 

 

「お前ら不審者として父ちゃんに連絡してもいいんだぞ?」

 

 

「「「ごめんなさい」」」

 

 

 この時のスバルがどれだけ頼りになる存在だったか。

 父親が警察署長という大きい存在がいて、スバル自身もその感性を育てられたからか、その脅しとも言える台詞に三人は静かになった。

 

 

「⋯⋯早く元に戻りたい」

 

 

「⋯大変だぁね」

 

 

 心の底から漏れた本音が、溜息と共に口から溢れる。

 そんな哀愁漂う姿を見たころねはその大変さを多少は理解出来たのか、柔らかい労りの声を掛けながら彼の頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから特に問題⋯は無かったが、猫と狐が少々厄介だったなという先日。

 皆がお世話をしてくれるのは夕飯を一緒にする所までで、それ以上のことまでは流石にしない。

 何人かの馬鹿が着替えや風呂やトイレの世話までやろうとしていたが、丁重にお断りした後に出禁した。

 

 小さくなっただけでも大変だというのに、それに暴走を引き起こす者を沈静化させるのもかなり苦労だった。

 

 

「それもこれも全部こよりの所為なんだけどな⋯」

 

 

 全く⋯本当にどうしてくれたんだあの研究バカは。結果的に色んな人に迷惑を掛けるし⋯⋯いや、少数は喜んでたか?

 なんだかんだ皆気にしてない様子ではあったけども、他人の責任で自分の身のお世話をされるのって⋯なんだか申し訳ないんだよな。

 

 でも色々と本当に助かってるからありがたいにはありがたいから⋯⋯複雑な気持ちになってる。

 

 

「でもまぁ、あと二日か。このまま何も無く終わればいいが⋯」

 

 

 今は何をしているのかと言うと、普通に買い物である。飲み物のストックが切れてきたので、最寄りのスーパーに向かっているところだ。

 

 

 

「⋯⋯じゃねぇか⋯」

 

「⋯⋯俺⋯ったら、楽し⋯⋯れるよ⋯」

 

「てか⋯⋯に?そ⋯服⋯」

 

 

 

「⋯ん?」

 

 

 通り過ぎた裏路地の奥から微かに聞こえた話し声。途切れ途切れから聞こえる内容から察するに、良くない雰囲気だと言うのは分かった。

 通り越した裏路地の入口に戻り、その方へ眺める。

 

 

(前に桐生から聞いたことある⋯カツアゲってやつか?)

 

 

 気付いたからには流石に見過ごすような真似はできない。意識を切り替えて、昼間にも関わらず光を遮る暗い路地へと足を向けて行く。

 

 光の差しかかる場所から離れるにつれて、自分の足音が反響して良く聞こえてくる。同時に話し声の発生地も近くなり、人の姿も見えてきた。

 

 

(如何にもな男が三人⋯女の子が一人か。てかなんだあの子の服、どんなファッション?)

 

 

 常に夜も遊んでそうな男三人組に背の低い女の子が囲まれていた。なんだか特徴的な服装に違和感を感じたが、厄介事に巻き込まれて困っているのは分かる。

 

 

「あぅ〜⋯困、リ⋯マす⋯」

 

 

「なんか片言じゃね?この子」

 

 

「まさかの海外の子か?しかもこんなに可愛いってかなり大当たりじゃねぇか!」

 

 

「でも日本語で伝わるか?俺ら英語力皆無だぞ」

 

 

「な〜に、伝わんなくても関係ねぇよ。″コレ″を使えばイチコロよ!見た感じ分かってなさそうだし、とっとと連れて行こうぜ」

 

 

 女の子からは見えていないが、横から見ていた俺にははっきりと目に捉えた。

 

 注射器だ。恐らく速攻で意識を奪う為の睡眠薬だろう。刺されればその時点で終わりだ。

 幼気な少女一人に対して三人で囲い、剰えその子の人生を狂わそうとしているのを見て黙っている筈がない。

 

 

「───おい」

 

 

 気付いたら、無意識に募っていた怒りが口に出る。その瞬間からもう止まらなくなる。

 

 

「あ?⋯んだよガキじゃねぇか。失せろ、お前が来ていいとこじゃねぇぞ」

 

 

「パパとママはこっちには来てないよ〜?迷子ならお巡りさんに聞こうね〜?ッハハ!」

 

 

「その子に何をする気だ?」

 

 

「おぉ〜?まさかのヒーローごっこか?おいおい勇敢だねぇ〜!でもなぁ〜⋯───」

 

 

「ッ!dangerous(危ない)…!」

 

 

 目に見えてふんぞり返り、鼻を鳴らしながら大股で歩み寄って来る一人の不良。

 ここは裏路地。人目からはとても見えずらい所だ。だから何をされても気付かれることは少ないだろうし、そもそもここを通り道にする人などいない方だろう。

 

 女の子が急に流暢な英語で呼び掛けて飛び出そうとするが、既に不良の拳が目前まで飛んで来ていた。

 

 

「身の程知らずってもんを学べやぁっ!!」

 

 

 

 ────ピッ…

 

 

 

 その雑多に振るった拳を指一本で受け止める。

 

 

「だったらお前らは常識を学び直してこい」

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

 確かに俺の見た目は小さくなり非力に見えそうだが、強さは″そのまま″だ。薬の影響で力も弱くなったと思っていたが、どうやらそんなことはなかった。これも不幸中の幸いだな。

 

 

「んな⋯!指だけで⋯!?いやんな訳⋯!!」

 

 

「小指でもいけるぜ?」

 

 

「っ!!舐めんなクソガキッ!!!」

 

 

 人差し指で止めれば見慣れた驚きの顔。そして、試しに煽ってみれば当然のように乗ってくれる。そうすれば更にムキになって本気で殴ってくる。

 その傲慢なプライドをへし折る為の一つの過程として、本当に小指のみで本気の殴打を受け止めてみせる。

 普通ならこんな小枝みたいな脆い指に止められることなど有り得ないことだが、その不可能を実現した。

 

 

「冗談だろ⋯!?遊びならやめろよ⋯?」

 

 

「遊んでねぇよ!!このガキが異常なんだよ!!なんなんだよこいつ!?」

 

 

「チッ!どけ!俺がやる!!」

 

 

「面倒だから三人で来いよ。そっちの方が手っ取り早い」

 

 

「「「舐めんなぁっ!!!」」」

 

 

(仲良いなこいつら⋯)

 

 

 感性が似ているからか、全員して軽い挑発に乗って来る様子に一瞬そう思った。それはそうと都合が良い。一人一人よりこの方が手っ取り早く終わるからな。

 

 不良共の勢いに任せたパンチは素人同然のもので、更に怒りによって視野が狭くなってる。俺はただ受け流したり、身の丈以上の跳躍で回避したり、スタイリッシュな動きで軽く翻弄してみる。

 

 

「この⋯ !!ちょこまかとうぜぇ!!いい加減ぶん殴られろやぁ!!」

 

 

「お望みなら受けてやるよ」

 

 

 そう申して来たので動きを止め、その場で仁王立ちで待ち構えて見せる。そんな様子に不良は一瞬呆けるが、それも挑発と捉えて直ぐに顔を歪ると、助走をつけて体重を乗せた本気のパンチを繰り出して来る。

 

 それを真正面から受け止める。

 

 

 ────ゴンッ⋯!

 

 

「いぃぃ⋯⋯⋯っっっってぇ!!?」

 

 

 すると、不良が殴った拳を抑えながら悶えだした。

 

 

「どうだ?岩みてぇに硬いだろ?俺」

 

 

「What do you mean(どういうこと)⋯?」

 

 

 確かに不良の拳は俺の額に当たった。しかし、殴った当人が酷く痛がるという矛盾な展開。

 どういうことかと言えば単純なこと。俺の身体が頑丈なだけである。ただその頑丈さは世間一般からすれば異常な程にはな。鍛え過ぎた影響もあるが、気を利用してるってのもある。

 まぁこんな奴らに気を利用する必要すらないけどな。

 

 

「はぁ!?なにやってんだよ!くそ⋯どけ!!」

 

 

 もう一人の不良が悶絶するのを見て理解が追い付いていない。余計に苛立ちを隠せず、焦って俺の顔に蹴りを放ってくるが⋯───

 

 

 

 ────ガンッ⋯!

 

 

 

「効かないねぇ。お前らの威力なんざ何も感じねぇよ」

 

 

「⋯⋯⋯は⋯?」

 

 

「⋯⋯嘘だろ⋯!?」

 

 

「⋯な、なんなんだよこいつ⋯!?」

 

 

「For real(マジ)⋯?」

 

 

 その蹴りは確かに手応えはあった。

 しかし、彼はその場から不自然な程に微動だにしない。普通なら吹っ飛ぶ筈が、一歩どころか一ミリも動いていないのだ。

 不気味に思い始めるくらいにピンピンしている彼に対して、不良達は疎か少女までも理解出来ていない。

 

 

「確かに見た目はこんなんだけどな、俺って結構強いんだぜ」

 

 

「⋯んなっ!?⋯ただのガキじゃねぇのか⋯!」

 

 

「この世界には本当に色んな種族が存在するんだ。俺みたいなのがいたって変じゃねぇだろ?」

 

 

「まさか⋯!?てめぇ人間族じゃねぇのか⋯!!」

 

 

「いや普通に人間だよ?」

 

 

「「「人間かよっ!!」」」

 

 

 もしやと思わせておきながらそんなことなかったとに激昂する。だったら攻撃をもろに受けてなんともないのは可笑しいだろと、尚更理解に苦しむ。

 

 

「今の世の中は色々と大変だからな。強くならなきゃいけない、弱い自分でいたくなかったから俺は強くなった。誰にも負けないくらいにな⋯⋯⋯さて、今度はこっちから行くぞ。ちょっと痛いからな?」

 

 

 彼は話を終わらせて臨戦態勢に入ると、一瞬にして不良達に向かって肉薄する。だが殴るようなことはせず、デコピンを不良達の頭にそれぞれ一発ずつお見舞いさせる。

 

 その威力は意識を奪う程で、お仕置きレベルを遥かに超えている。

 

 一般人である不良達はその場で伸びて目を回していた。ここに放置していても、いずれ意識が回復するから問題はないだろう。

 

 

「よしっと⋯⋯怪我はないか?」

 

 

「⋯⋯⋯」

 

 

「⋯?なぁ、大丈夫か?」

 

 

「⋯a⋯⋯ありが、とウ」

 

 

 片付いたと軽く溜息を吐いてから、唖然としている少女に体を向ける。

 ただ、その少女は海外住みで慣れていないのか、聞き取れはするが片言であった。

 

 

「礼はいいさ。ただ、こんな薄暗い通りは気を付けろよ?もし道に迷ってたなら案内するけど⋯あとすまん、俺って英語が分からないんだ⋯」

 

 

「日本語、でモ⋯多少なら、大丈夫。ココで、知り合い、のコト⋯待ってた、だケ⋯だから」

 

 

 生憎と英語の教養はなかったので挨拶程度の言葉しか理解が出来ていない。だが、そんな心配は杞憂に終わり、彼女はもにゃもにゃとした口調で話してくれる。

 

 しかし、こんな薄暗い所で人を待つのは少し違和感だったが、別に怪しいような雰囲気は何も感じなかったので、その言葉を信じることにした。

 

 

「⋯そっか。んじゃあ俺もこれから用事があるから、そこで寝てる奴らは暫く起きないが、早めに離れろよ?じゃあな」

 

 

「Thank you, Bye bye.」

 

 

 事情を深く聞く気はないし、ここでさよならとする。手を振って見送る彼女に軽く手を挙げて返しながら、去り際に改めて容姿を一瞥する。

 一見普通に見える子だが、どうやら鮫っぽい獣人だった。青の混ざった銀のような白髪にサファイヤの丸い双眸で小柄な体型ではあったが、恐らく彼女は強い。

 

 にしたって海外にも獣人とかいるんだな。まぁ、それはいいとしてさっさと買い出しに行かねぇと⋯今日は何人来るんかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Phew(ふぅ) … that kid was amazing.(凄ったなぁあの子)」

 

 

 龍成と別れた少女は、凄いものに出会ったなと感嘆していた。

 厄介事に巻き込まれた際には、戦っても良かったのだが生憎と人に暴力を振るいたくはなかったので、正直なところ困っていたのだった。

 

 尾ビレのある尻尾を揺らしながら龍成に対して色々と考えていると、不意に背後の何も無い空間から黒い渦が生まれる。

 その深淵の渦からは一人の女性が現れた。

 

 

「Sorry Gura, I'm late.(ごめんぐら、遅くなったわ)」

 

 

「Ah, Kari(あ、カリ)! Listen to me(ちょっと聞いてよ)!」

 

 

「what happened(どうしたのよ)?」

 

 

 ″カリ″と呼ばれたその女性は、鮫の少女″ぐら″に遅れてきたことを謝罪する。しかし、それをどうでもいいとでも言うように、興奮していたぐらは遮る勢いでカリに話す。

 

 

「Just now(さっきね、), I got into a fight with some bad guys(悪い奴らに絡まれちゃったんだけど)⋯───」

 

 

「What(なにぃ)!? Did something happen to you(なにかされたの)!? Where are you bastards(どこだクソ野郎共が)!!

I'm going to reap your rotten souls(その腐った魂を刈り取ってやる)!!」

 

 

「No, it's okay(ううん、大丈夫。). They didn't do anything to me(別に何もされなかったから) ⋯ scythe(だから鎌) ⋯ wait, (ちょ、)Swinging around too much(振り回し過ぎだわ)!

It's okay(大丈夫だって)!Hey(ほら)!Look around you(周り見て)!」

 

 

「⋯He's fallen(倒れてる) ⋯ Gura did it(ぐらがやったの)?」

 

 

「The boy just helped me(さっき男の子が助けてくれたの).」

 

 

「Not Gura(ぐらじゃなくて) ⋯ but a boy(男の子が)?」

 

 

「Yes(そう)!Even though he's smaller than me(私より小さいのに), he was super strong(めちゃんこ強かったの)!

He took punches and kicks from the delinquents(不良共のパンチもキックも受けたのに), but he didn't even have a scratch(傷一つ付いてなかった)!」

 

「And that’s it(しかもね)!

I couldn't see where it was going to fall at all(倒すところは全っ然見えなかったの)!

It was a moment(一瞬だった)!」

 

 

「It's hard to believe at first, but (俄には信じ難いけど)⋯ it seems like it's true that it's so exciting(そこまで興奮するってことは本当みたいね)⋯

That's right(ってそうだわ、). If we don't hurry, we'll be late.(早くしないと遅れるわよ)」

 

 

「Oops, (おっと、)that's right.(そうだった。) I'll talk to you later(また後で話すね)!」

 

 

 内容を聞いたカリはいまいち信じられなかったが、こんなに興奮している彼女を見て誠なんだろうと、取り敢えず納得することにした。

 それよりもと、時間がそこまで迫ってきていることをぐらに伝えると、彼女も興奮を抑えて移動し始める。

 

 どこか楽しそうに鼻歌をしながら歩むぐら。それを不思議そうに眺めながら付いて行くカリ。

 二人は倒れている不良達を無視して、路地裏から人の混む方へと消えて行った。

 

 

 

 

 

(If I see you again,(また会えたら) I want to thank you(お礼したいな)!)

 

 

 

 

 

 この邂逅は果たして、何を齎すのかは誰にも分からない。

 

 

 

 

 





さーて、EN勢がここで登場という⋯やっちゃいましたね。ここでいつか出さないといけないフラグが立ってしまいました。
英文は勿論グーグル翻訳からです。

では〜。
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