少年は嘗ての故郷を望む   作:黒いラドン

8 / 38


久しぶり過ぎな気がします。
中々自分の趣味に手が付けられないほど忙しい日々です。色々とありましたが続けますよ。

じゃ、どうぞ〜。


『ちびっ子ハプニング』【後編(上)】

 

 

 

 

 

 

「────漸くだ⋯⋯⋯漸く明日でこの生活ともおさらばだ⋯⋯」

 

 

 小さくなって今日で七日目。こよりの開発した身体が縮む薬の効果は今日で期限切れとなる。

 小さくなってから色々と⋯それはそれは濃い時間を過ごしたものだ。まさか同じ生徒にお世話になるとは思わなかった。それもこの日まで毎日。

 

 しかし、それも今日で終わりを迎える。彼はこの時を待ち望んでいたと同時に、果てしない祈りを捧げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼む⋯⋯このまま何もなく″普通″に終わってくれ⋯」

 

 

「これ以上に無いくらい懇願するじゃん」

 

 

 机で座りながら祈り続けている龍成に、スバルが苦笑しながら気遣っていた。

 

 

「一回小さくなってみろ。普段の生活が乱れに乱れまくって暴れたくなるぞ」

 

 

「でも皆に甘やかされて満更でもなかったでしょ?」

 

 

「⋯はっ倒すぞ」

 

 

「否定しないのな、可愛いじゃ〜ん」

 

 

 ニヤニヤしながら頭を撫でてくるスバルの手を優しく払い除けながら、むっすーっと不貞腐れるように机に肘をついて手に顔を乗せる。

 

 すると、スバルの傍にいたノエルが残念そうにしながら口を開く。

 

 

「あ〜あ⋯明日でこのキューティーなショタが戻っちゃうのやだな〜⋯もっと拝んで可愛がりたかったのにー!」

 

 

「なんでそんな残念がるんだよ⋯」

 

 

「だってだってぇー!こんなに母性をくすぐるどころか全開にする勢いで可愛いんだもん!はぁ〜⋯⋯もういっそ⋯このまま団長色に染めてやろうかな⋯

 

 

 

「おめぇの出番だぞ!スバル!!」

 

 

 

「逮捕しゅばぁああああ!!」

 

 

 

 とっても危ない雰囲気を感じ取ったので、スバルに任せるとしよう。彼女も同じだったのか、聞くや否やどっからか手錠を取り出してノエルに飛び掛る。

 

 

「うぁあああああ〜!!離せぇえええ〜!!このショタは団長のモノになるんだ〜!!」

 

 

「くっそノエル⋯!暴れ過ぎだろ!!ちょ⋯危なっ!?メイス振り回すな!!」

 

 

「まずい!ショタ成分の摂取不足による禁断症状だワ!!」

 

 

「スバル相手でも我を失う程に⋯今の龍成君は毒⋯!!」

 

 

「マジでなんなんだよこれ」

 

 

 本当になんだよこれ。

 マリンとフレアも流れに乗って茶化して現れるが、俺はもう理解を拒む。

 

 

「紫黒も大変ぺこね。事ある事に厄介に巻き込まれるイメージが定着してきたぺこ」

 

 

「そう言われれば、紫黒が来てから色々と起きたよね。もしかして貧乏神でも取り憑かれてんの?」

 

 

「それか不幸体質ってやつかも?」

 

 

「大丈夫なのです。龍成君に変な(悪霊)なんて憑いてないのですよ。もし取り憑かれてたとしても、るしあが後世にも行かせずにこの世から直ぐに消すから」

 

 

「ねぇねぇ、写真撮ってもいい?」

 

 

「はぁ⋯⋯もぅ⋯ヤダ⋯」

 

 

「シナシナになっちゃった!!」

 

 

 べこらを始めにトワ・メル・るしあ・ボルカがそれぞれ口にする。

 好き勝手なことを言われるし、一人はなんか危なげなこと口走ってるし、ポルカに関しては意味分からん。

 

 正直な気持ち、そっとしておいて欲しいのだけど⋯皆優しいから気遣ってくれているんだよなぁ⋯。

 

 

「でも確かに⋯ここずっと風真達も紫黒殿のお世話と言って、毎日人が自分の家に来るのは、気が気でないのも仕方ないかもでござる」

 

 

「よしよ〜し、ウチが慰めてあげるから、ママのお胸においで〜!」

 

 

「ミオしゃ、なんか人変わった?」

 

 

「昨日くらいから龍成君に甘くなってない?」

 

 

 無気力状態になっていたら、ナチュラルにミオが抱き締めて来ると、顔を優しく胸に押し付けられる。今は抵抗する気も起きないのでされるがままになる。

 枕のような感触と洗剤の香りに人の温もりにより、荒んだ心が浄化される。ふわふわしてて自然と肩の力が抜けてくぅー⋯。

 

 前に間違ってミオをお母さん呼びして以来、彼女の中で何かが起きたのか、余計に世話を焼くようになった気がする。

 

 

「まずいですね⋯お母さんポジは完全にミオの独壇場になってる⋯⋯だがしかーし!まだ幸いにもお姉ちゃんポジが生き残っている!」

 

 

「おっと⋯?それは聴き捨てならない案件ですねフブちゃん!」

 

 

「犯罪の間違いだろ」

 

 

「いやいやいや!一番合ってるのはこのラミィに決まってるわ!」

 

 

「姉ポジだったらあたしも似合うと思うけどなぁ?ガンマンなお姉ちゃんはどうよ?」

 

 

「ここにいる皆なろうと思えばなれるけどにぇ」

 

 

「みこみこはお姉ちゃんより赤ちゃんでしょ」

 

 

「あんだとぅ!?みこでもなれるわ!ころにぇ!」

 

 

「それだったら余だってなれるもん!余がお姉ちゃんになったら常に戦い相手になれるぞ!」

 

 

「いーや!絶対にこのメルがお姉ちゃんに似合ってるよ!サキュバスお姉ちゃんなんて羨ましいでしょ!」

 

 

「ダメ〜!どうせエッッロいことしようとしてんでしょ!っぱ清楚であるまつりしか当てはまらんよ!!」

 

 

「清楚は無いよね〜?」

 

「下ネタ製造機でしょ」

 

「寧ろ一番姉にしちゃいけないタイプ」

 

「クソビッチが」

 

 

「はぁあ〜!?別に常にそんなんじゃねぇし!でもエロいこと考えるのは全人類共通だろ!三大欲求の一つだぞ!?ってか誰だ!!最後の悪口言ったやつ!!」

 

 

 なんとも騒がしいことだろうか。まるで俺の意思なんぞ関係無いと言わんばかりに、自分が姉だと錯覚しようする不審者がいっぱいだぁ。

 

 

「お姉ちゃんになりたい人が沢山いますねぇ⋯だったら仕方ありませんね」

 

 

「こうなったら⋯やることは決まってんね」

 

 

(あぁ⋯なんかめんどくせぇ予感⋯⋯)

 

 

 やむを得ない、と瞼を静かに閉じるフブキに続いてマリンもその後の展開を察したのか、覚悟を決めたように目を細め⋯────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よろしい、ならば戦争だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────お姉ちゃんポジ争奪戦⋯ふぁい!!!

 

 

 

 

 

「そもそもな話⋯お姉ちゃんとは甘やかすだけで務まるものではない!時に厳しく、心を鬼にしないといけない時がある!その覚悟が無ければ姉を名乗るなど言語道断!白上はその覚悟がある!!」

 

 

「えー?いちいち気にしなくていいと思うけどなぁ余は。兎に角ゆる〜くいつもの感じでいても楽しくやっていけそうだ余」

 

 

「でも義理の弟って甘やかされるのが王道じゃない?アニメとか漫画でもそーじゃん!恋人みたいにふざけ合うのも楽しそうじゃん!メルは厳しくするの無理かもぉ」

 

 

「おいおいおい〜分かっちゃいないねぇ〜。弟は姉には逆らえなくなるもんよ、ここはひとつアタシが教えてやるよ」

 

 

「そんな危ないお姉ちゃん誰が良いんだよ!やっぱりここは船長が甘〜く優し〜く色気たっぷりのお世話をして、マリンお姉ちゃん無しじゃ生きられない中毒生活にしてやるんだワ!」

 

 

「マリンの場合は執拗くてその内飽きられそうぺこ。こういうのは関わり過ぎないのが肝心ぺこ!」

 

 

「ラミィも悪くないと思うわよ?夏で暑い時には魔法で解決できるから冷房の節約になるし、もし寒かったら一緒に添い寝してあげる!そうじゃなくてもハグしたかったら何時でもいいし、あと晩酌し放題よ!」

 

 

「みこの弟になるにぇ!そしたら何時も一緒にゲーム出来るし、エロゲーだって貸してやるにぇ!その代わり神社暮らしで色々と手伝って貰うけど、その対価はちゃんと払うよ!さいきょーの御守りが付いてくるにぇ!」

 

 

「パ、パトラだってお姉ちゃん属性は高いわよ!お姉ちゃんじゃなくてもママにだってなれるわ!癒しに関してはこのあーしに右に出る者はいない⋯はず!」

 

 

「それならシャルもいいと思うけどなー?寂しい時は一緒にいても良いし、何時だって甘えに来ても良いんだよー?」

 

 

 ギャーギャーと騒ぎながら姉ポジを譲ろうとしないこの会話。俺にはもう止められないし、間に入る隙も無さそうだ。

 というよりか俺に姉ちゃんがいる前提で話してんのかな。

 

 

「ウチは高みの見物とさせて貰おうかね。お姉ちゃんの肩書きの為に醜く争う様を精々楽しませろよ?」

 

 

「畜ミオ隠す気ないじゃん」

 

 

「これが母は強し⋯か⋯!」

 

 

「こんなお母さん嫌だわ」

 

 

 当然のように母親のポジションを独占したミオは、愉悦になって口角を吊り上げていた。あの笑みは傍から見れば悪い方だろう。

 勝ち確だからって優越感でふんぞり返りながら人を見下す母親ってのは、ちょっと拝みたくはないな。

 

 

「つーかさ、龍成的には誰だとお姉ちゃんが理想なん?ポルカとか?」

 

 

「取り敢えず、そこで真っ先に自分を推す奴はダメだってある人が言ってた。そいつは自分の悪さを自慢するタイプのクソ野郎なんだと」

 

 

「とんでもねぇ偏見じゃん!!」

 

 

「因みにそれって誰が言ってたの?」

 

 

「俺の兄ちゃん」

 

 

 

『お兄ちゃん!?』

 

 

 

 俺に兄弟がいることを何気なく教えると、その場にいた全員が目をひんむいて驚愕する。

 そんなに驚かれることなんだろうか?

 

 

「お、お兄さんいたんだ⋯どっちかと言うと一人っ子のイメージがあったんだけど⋯」

 

 

「でも甘やかしてあげたい感があるのも納得⋯!」

 

 

「それは今見た目があれだからでしょ」

 

 

「ね!ね!龍成君のお兄さんってどんな人なの!?」

 

 

 三者三様に反応が違って見飽きない。そんなに兄弟がいることに意外だったのか。まぁ身内の話とか普段からしたことないからな。

 

 すると、兄ちゃんがどんな人なのか気になったのか、マリンが目を光らせながら食い気味に聞いてくる。あぁなんか企んでる顔だ。

 

 

「⋯⋯基本的に面倒くさがり屋で素っ気ないけど⋯でも、呆れるくらいに戦いが大好きで、仲間を大切にしてて、自分自身に強い誇りを持っている。誰にも⋯俺でも叶わないくらい強くて、なんだかんだ皆に尊敬されてた。そんな人さ」

 

 

「なんか⋯りゅう君とは真反対な感じだね。凄い意外」

 

 

「それもそうだけど、りゅう君より強いってのも驚きなんだけど!やっぱりお兄ちゃんだからかな?」

 

 

「兄弟だから似てる訳じゃないんだ⋯ってことは、お兄さんは龍成君がグレた感じ?不良になった龍成君って思えばいいのかな」

 

 

「あー⋯⋯うん、まぁ⋯フレアの言う通りだと思ってくれ」

 

 

「なんか想像しづらいね〜」

 

 

「龍成に兄ちゃんかぁ。しかも兄弟揃って桁違いに強いって、どう生きてきたらそうなるんだよ⋯」

 

 

 スバルの言うことに誰もが同じ気持ちだろう。この学園に通う者は必ずヴィランと対峙して戦う運命に向かう。そして一般人は逆に、戦わずして逃げるのが普通。

 前まで後者であった筈の彼は、ある日突然この学園にやって来た。そして短い期間で様々なヴィランを討伐して見せた。それも圧倒的な力で。

 

 

「⋯ねぇ⋯りゅう君ってさ───」

 

 

 彼の強さに不自然さを抱くのも無理もないだろう。そんな中、パトラがあることを聞こうとした時、教室の扉が激しく開かれた。

 

 

「皆さん!!大変です!!街中にヴィランが現れました!!」

 

 

俺らの担任であるえーちゃん先生こと永先生が酷く慌てた様子で入室して来ると同時にヴィランが現れたことを話す。

 再び街に出没したと聞き、その場の全員は前のように顔を険しくさせた。

 

 

「え、ヴィラン!?また街中ぺこ!?」

 

 

「久々に出たと思ったらまた人気のある所か⋯」

 

 

「まさか⋯また大量に出たの⋯?」

 

 

 賑やかな雰囲気から一変して、胃をキュッと握り締められたように苦々しくなる。そんな中、厭悪感に顔を顰めるぼたんが聞くと、彼女はそれに首を振った。

 

 

「いえ、幸いにも一体のみらしいですが⋯その個体、かなりの凶暴性を持っているようでして⋯」

 

 

「よし、俺が行きます」

 

 

 

『駄目っ!!!』

 

 

 

「おぁ!?びっくりした⋯なんでだよ」

 

 

 一体ならそこまで慌てる必要はないし、さっさと終わらせて行こうと思って教室から出ようとすると、永先生を除いた全員がゴールキーパーばりに扉前へ回り込んだ。

 

 

「小さくなってるのに戦わせると思ってたの?そんなのウチが許しません!!」

 

 

「いくらさいきょーな龍成君でも、今回ばかりは許容は出来ないにぇ!」

 

 

「世間の目もあるし、もし龍成君が戦ってる所を見られたら後々面倒なことになるのは間違いないね。癪だけどみこちの言う通りだよ、癪だけど」

 

 

「おぉい!!何で二回も言うんだよふーたん!喧嘩売ってんのかぁ!?」

 

 

 フレアの言い分に少し考えてみる。

 

 確かに、今の俺が戦ってる所を一般人が見掛けてしまえば、普段から貢献してるこの煌星学園に批判の声が寄せられる可能性も無きにしも非ず。

 当然、いつも俺は誤解されないように渡された制服姿で戦ってる。ここの学園って女性しかいないのも特徴だしな。

 

 けど今の俺は、小柄な子供姿でその相応の服装をしている。十人中十人がそこらの小学生だと気付かないと思う。

 

 そんな態で戦って、仮にも一般人に見られたら?確かに面倒なことになりそうだ。

 だったらこの事態を直ぐに終わらせる為には⋯───

 

 

「⋯⋯よし分かった」

 

 

「うんうん!素直に聞き入れてくれてママは嬉しいよー♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレねぇようにぶっ倒しに行く!!」

 

 

 

『そうゆうことじゃない!!』

 

 

 

 

 

 

 

「なんでもいいので早くして下さい」(怒)

 

 

 

 

 

 結局、ミオとノエルとトワとラミィの四人をメインに、俺は最悪を想定して連れ添いとして向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、来たはいいが⋯こりゃあまた酷い有り様だな」

 

 

「えーちゃんは一体って言ってたけど⋯それでこんな酷い状況って⋯」

 

 

「余程の凶暴性を持ってるって言ってたけど⋯まさかここまでとはねぇ」

 

 

「折角復興してきたってのにまたこんな風にしやがって!そんで⋯例のヴィランがあいつね」

 

 

 現場に到着して周囲を見渡すと、それはそれはまた悲惨な光景だった。所々の建物は崩壊、道は抉れて車は何個も破壊され、公共物も使い物にならない。ルラの時ほどじゃなくとも、確かに一体で起こしたとは思えない暴れ具合だ。

 

 

「……」

 

 

 その原因の元であるヴィランは、半壊した街並みを感情の無い視線で辺りを眺めている。まるで、つまらないとでも言いたそうな面影があった。

 

 その体格は大きく、目測でも三メートルは優に超えており、特徴とも捉えられる四本の巨腕が落ち着きなく手を開閉させていた。鬼のような面貌をしたその白い目からは、何を求めているのか⋯。

 

 

「なんか⋯めっちゃカイ〇キーみたいなヴィランだね⋯」

 

 

「ふーむ、強さ的にはルラの⋯インテレック・ヴィランの三個下ってとこだな」

 

 

「トワ達からすればちょっと分かりずらい例え⋯」

 

 

「でも龍成君〜?当然のように来てるけど今回は戦っちゃ駄目だからね?」

 

 

「まだ言うかよ⋯別に周りに人はいないし、問題はねぇだろ?」

 

 

「そうかもしれないけど、今回はウチ達に任せて欲しいな。龍成君に何時までも頼ってばかりじゃ、ウチ達も成長できないから」

 

 

 ここら一帯の人達の気配を探っても既に逃げているのか何も感じない。警察や自衛隊もやってくる可能性はあるだろうが、今のところそんな感じはしなかった。

 

 しかし、ミオの話を聞いて納得する。折角の実戦経験をここで無駄にさせて、俺ばかり戦ってても仕方がない。

 

 

「まぁ、そう言うことなら俺は待ってるよ。確かに俺ばかり倒してても意味は無いもんな。もしヤバそうだったら手伝うよ」

 

 

「おっけー!でも倒してしまっても良いんだろう?」

 

 

「そりゃ勿論」

 

 

 ということで早速、俺は後方で見学するとして皆の戦いっぷりを観察させてもらおう。

 前衛はノエルがタンク役として挑み、ミオとトワは隙を見て牽制し、ラミィが後方でサポートとなっている。

 

 妥当な役割りに頷いてると、ノエルがヴィランに向かって野次を飛ばしだした。

 

 

「やい!そこのカイ〇キーヴィラン!お前の相手は団長達やぞ!」

 

 

「「「なんで不意打ちしないん!?」」」

 

 

 

「……?」

 

 

 

 まじかノエル。不意を突くことも出来たのに、お前さん真っ向勝負仕掛けるとか⋯⋯いや、「鉄壁」の異能があるノエルだからこそ、自分の頑丈さで盾となり注意を引き受けるのか。

 

 いや、それはそれとして奇襲した方が良かったんじゃね?

 

 

「さぁ来いぃ!!」

 

 

 

「……!!」

 

 

 

 火蓋を切る瞬間を作ったノエルに、ヴィランはその望み通りに彼女に向かって肉薄する。丸太よりも太い巨大な拳を四つ作り、その内の一つを振るった。

 

 だがヴィランは侮っていた。目の前の少女がただの無謀な人間ではないことに気付くのは、次に理解する。

 

 

 

「────そいっっ!!!」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 ノエルは自身の相棒とも言える武器であるメイスで、ヴィランの拳をさも野球選手のように軽々と弾き返したのだ。

 これにはヴィランも目をひん剥く。己より小さくか弱き者だと思っていた敵が、突然大きく感じていた。

 

 

「マジ?あれ跳ね返せんのノエル?」

 

 

「前よりも頑丈になってる気がする⋯」

 

 

「でも今がチャンス!凍らせるよ!」

 

 

 三人もノエルのパワーに肝を抜かされる。しかし、直ぐにラミィが意識を切り替えて、続いて氷結攻撃をヴィランに与える。

 ミオとトワも構えてノエルの後を追ってヴィランに肉薄して行った。

 

 

(あの事件が起きて以来、みんな特訓にのめり込んでたお陰で一人ひとりの戦力が格段に上がってるな。にしたってノエルのあの頑丈さは相変わらずすげぇな)

 

 

 その攻め込み具合は前よりも勢いが増しているように見える。ルラが起こしたあの大事件から、この四人に限らずに皆が皆、より特訓に勤しんだことで著しい成長に思わず口角が上がる。

 

 

「はあぁ!!」

 

 

「てやぁあ!!」

 

 

 ヴィランがノエルに注視している隙に、ミオとトワが並んで攻撃する。

 ミオが焔を纏わせた拳を顔面にお見舞し、トワは鎌を巧みに振って体に切り刻んだ。

 

 しかし、ヴィランもやられてばかりとはいかなかった。ミオたちの攻撃が頻繁に襲ってくるが、次第にそれは()()()()()()()

 動きに磨きが掛かってきて、その巨体でも動きに追い付き始めていた。そして、彼女達のコンビネーションの隙を見破り、目睫までやって来たミオを薙ぎ払う。

 

 

「うぁ⋯!」

 

 

「ミオちゃん!⋯この野郎!!」

 

 

「トワワ待って!凍結が間に合わってない!!」

 

 

「っ⋯団長が受け持つよ!!」

 

 吹っ飛ばされたミオは地面を転がって行きそのまま倒れる。それに目を鋭くさせたトワが堪らずヴィランに迫るが、ラミィの氷結がまだ届いていない。

 そこで透かさずノエルが前に出て、ヴィランの攻撃を代わりにガードする。

 

 

「陣形が崩れたか⋯さて、どうするかな?」

 

 

 危ない展開になって来たがそれでもまだ手は出さない。戦況が変わって不利になり掛けてる今、どうやって対処するのか見てみたい。

 

 

「うーん⋯⋯いや、ちょっと手伝うか」

 

 

 と思ったが、徐々に押され始めて不利に変わりつつあるので、少し加勢することにした。ミオも起き上がったことだし、一撃だけで済みそうだな。

 

 

「ふっ!やぁあ!!⋯ったくもぅー!四本の腕とかズルい奴めぇー!!」

 

 

「不味いよ!!ラミィの凍結にも慣れてきちゃってる!!」

 

 

「トワの『影喰い』も簡単に突破されちまうし⋯!凶暴にも程があんだろ!!」

 

 

 

 

 

 ────ザシュッッ!!

 

 

 

 

 

「……!!?」

 

 

 

「「「龍成君!!」」」

「紫黒!!」

 

 

「言ったろ?ヤバそうだったら手伝うってよ。つっても俺がやるのはチャンスのきっかけだ。後はお前らで頑張れよ」

 

 

 ヴィランが彼女を四本の腕で叩き潰そうとした所を、気の剣で背筋から生えてる二本だけ切り落とした。

 

 それだけでも彼女らにとっては十分好機だろう。

 

 

「ラミィちゃん!!」

 

 

「任せて!とっておきのを喰らわせる!雪凍氷零苑・『終雪』!!」

 

 

 復活したミオの掛け声でラミィが即行動に移す。ヴィランの足元に氷色の魔法陣を展開させ、周りの温度を一気に冷やす程の特大氷塊で動きを封じる。

 

 

「よーし!!行くよミオしゃ!!トワちゃん!!」

 

 

「「うん!!」」

 

 

 気合いを入れ直したノエルが率先して肉薄し、後に続いたミオとトワも追撃を行う。二つの強力な打撃と一つの斬撃がヴィランの身体中に駆け巡る。

 ヴィランもどうにか抜け出そうにも、氷結は前よりも簡単には抜け出せない。為す術がなく、動かなくなるまで三人のタコ殴りが続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし!いっちょあがり!!」

 

 

「なんとか倒せて良かったぁ⋯」

 

 

「思っとよりもタフだったねコイツ」

 

 

「⋯⋯うーん?」

 

 

 気の抜けた掛け合いをする彼女達のすぐ側にはボロボロに倒れ伏せたヴィラン。身体中には凹み跡や斬り跡など、人間だったら目も当てられないであろうものだった。

 そんな最中、ミオはピクリとも動かないヴィランに何か引っかかるのか、暫し見つめていたその時だった。

 

 

 

「……!!!」

 

 

 

『────っ!!?』

 

 

 倒したはずのヴィランが唐突に立ち上がって襲いかかった。

 

 しかし、その伸ばした腕は彼女達に届くことはない。

 

 直前でヴィランの頭部から光の棒のようなものが生えてきた。いや、貫かれたと言い換えよう。その事態の正体は考えることもなく直ぐに理解する。

 その同時にヴィランの身体は崩れるように灰になり、風に吹かれて消え去ると、そこにいた龍成が少し咎めるような口調で話した。

 

 

「動かないと思って油断は禁物だ。ヴィランが死ぬ時は灰になって消える。それを忘れないようにな」

 

 

「あはは〜⋯ごめん」

 

 

 気まずそうに苦笑を浮かべながら謝るノエルに、他三人もやってしまったと言うような表情をしていた。

 

 まぁ何はともあれ、これで一件落着だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーす、来たぞー」

 

 

「あれ、龍成じゃん。なんか用か?」

 

 

 ヴィラン討伐後、午後の授業を終えて放課後になった頃。

 俺はとある理由があってラプラスが統率している秘密結社『holoX』のアジトへとやって来た。

 

 毎回思うけど、なんで学園の空き部屋をアジトにしてんだろ。ここなんの許可も下りてないって聞いたけどな。放置され過ぎじゃね?

 まぁそんなことはいいとして⋯。

 

 

「さっきこよりから話したいことがあるって連絡が来たんだよ。んで、誘った本人は何処にいるか分かるか?」

 

 

「こよりは普段から研究室に篭ってるから、基本ここには居ないぞ」

 

 

 ソファで寛ぎながらお菓子を間食してるラプラスを横目に、そうかと一言だけ伝えてアジトを出て行き、研究室に向かった。

 つーか仮にも組織の長があんなぐ〜たら晒してるとかやる気あるんか。

 

 それも兎も角、こよりは研究室に普段から入り浸っているらしい。こっからそこまで遠くはないので直ぐに辿り着いた。

 扉をノックして返事が来たのを確認してから入る。

 

 

「来たねー!ヴィラン討伐お疲れ様!」

 

 

「俺は殆ど眺めてたけどな。そんで、呼ばれた理由は?」

 

 

「えー⋯っとねぇ⋯⋯その〜⋯先に謝るね。ごめんね?」

 

 

「なんかあったのか?」

 

 

 要件を伝えられる前に謝罪を頂いたことに首を傾げる。こよりには確かに色々と迷惑を掛けられたが、それも今更のことだ。

 どうせこの体も今日で終わり、明日からやっと普通に戻れるんだし。

 

 しかし、その切り出し方はとても不安になる。

 

 

「それがね⋯龍成君が縮んでから一週間くらいで戻るって言ったんだけど⋯⋯」

 

 

「⋯⋯まさか⋯戻らない、のか⋯?」

 

 

「あぁごめん!不安にさせちゃったけどそうじゃないの!その、本来なら明日の朝には戻ってると思うんだけど⋯⋯実はね?一週間じゃなかったみたい⋯なんです⋯」

 

 

「つまり⋯まだこの状態が続く、と⋯?」

 

 

 とても伝えづらそうに話すこよりは徐々に目が合わなくなり、視線があちこち忙しく移っている。

 そして、伝えてきたその衝撃的な言葉に俺も穏やかじゃ済まなくなる。

 

 い、いや⋯期限が伸びたにしても多分二日とか三日とか⋯。

 

 

「分量的にそこまで薬は入れてなかった筈なんだけど⋯さっきその解毒薬を調べている内に、こよが想像してたよりも効果は強かったみたいで⋯⋯その〜⋯───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一週間くらい我慢できる?」

 

 

「今すぐここで暴れてもいい?」

 

 

 

 

 

 これ以上の無いくらいに破壊衝動が抑えられそうになかった。

 

 

 

 

 





終わると思ったかい?まだ続くよ。
さすがに次で終わりにしますけどね。

では〜。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。