完全に趣味なので、不定期で投稿になります。そしてストーリーも完全オリジナルになります。
それでは、長い長い彼の物語が始まります。
それではどうぞ〜。
一話 『再び動き出す歯車』
古の時代の風景とは、あくまで現代の考察にしかならない。幾ら証拠があろうと、実際とは異なることも有り得なくない。様々な者は目の前の真実に囚われることは多々ある。
この世界は、ありとあらゆる種族が存在する。
人格と感情を持って己の意思で自立する『人間族』
犬や猫などの動物が人の姿をする『獣人族』
魔の世界から訪問する『悪魔族』
天界から降り立つ『天使族』
幽世から現れる戦闘能力が高い『鬼族』
高性能で意志と心を持つ『機人族』
圧倒的な強さと誇りを持つ『竜族』
そして、禁忌の存在とされている『黒龍族』
嘗てこの世界では、種族間での差別問題などで戦争は絶え間なく続いていた。何方が上の存在かを示す為に血で血を争い、時には手を取り合って戦う。戦争を望む者、戦争を拒む者がぶつかり合っていた。
人間は軍事力を使い、人間に対して好感的な獣人と手を取り合い、様々な種族と渡り合っていた。
そして何時しか、このままでは世界を混乱に陥り、破滅へと招く事態に気付いた者達が戦争を止めに立ち向かう。
そして長きに渡り、死屍累々を築いて戦争は終幕を迎えた。これからは差別問題を解消していく為に、各種族で同盟を結んだ。
しかし、問題はこれからだった。
その同盟を拒んだのが、禁忌の黒龍族。彼らは酷く好戦的で残忍な性格を持ち、力は支配するものだと信条に生きていた。
その力量は全く持って異質。竜族をも遥かに上回る程の圧倒的な強者。神をも超え、この世の全ての頂点に立つ絶対的存在。
この世は弱肉強食で殺すか殺されるか、情など必要無い。正に無慈悲無感情無感動と考え、力こそが全てと言う考えだった。
その事から黒龍族は関わってはいけないと認識され、隔離されるようになった。
だが、それでも意味は無かった。黒龍族は自分達に力で逆らえないことを逆手に取り、好きなように暴れていた。食料が尽きれば奪い、気に入らない者がいれば殺し、恐怖でものを言わせていた。
このままではいけないと世界は抵抗した。再び戦争が始まる。また、あの悪夢が再来するのだと誰しもが絶望の感情を打ち震わせた。
だがこれ以上、黒龍族に好きにはさせない為にも、多くの犠牲者を出しながら、圧倒的な人数の差で黒龍族を見事に制した。
これに懲りた黒龍族は、これ以上関与しない条件を渋々と呑むことにした。それから黒龍族は、性格は変わらずとも大人しくなり、自分達なりに生きていくことにした。
長い時間を掛けて、漸く世界は平穏な日々を迎えられるようになった。この事態は後々大きな歴史として、人々には″黒龍族は危険な存在″として継がれていった。
月日は流れ…。
ある日、禁忌の黒龍族はこの世界から突如として消え去った。
そして、世界は新たな生命に出会うのだった。
───────────────────────
とある荒野に、一人の少年が歩いている。
そこは草木の緑は一切なく、砂漠のように荒れた潤いが何もない乾いた地が地平線まで続いている。しかし、辺りは戦後のように滅茶苦茶な地形であった。
幾つもの陥没と隆起している地面、何時からあったのか分からない朽ち果てている何体もの人骨がそこら中にバラけていた。そんな屍の地に目を配ることもなく、ただあるものを一点に見詰めて足を運んでいた。
「……ここに来るのも、もう何度目かな」
十を越えてからもう止めた。何度ここに来ようとも、何かが変わる訳でもない。来る意味も特に何も無い筈なのに、気付けば此処へと足が向かっていた。
彼の目線の先には、一つの墓石があった。
「……」
何時からだっただろうか。自分の人生がこんな風に変わっていたのは。何か、自分の中の大切な全てを失ってから、この虚無感がいつも蟠りのように残り続けるのが、今や普通とも言える。
小さい頃、自分は果たしてどんな人生を想像していただろうか。
色んな人と関わり、出来る限り悔いの無い明るい人生を送りたかったか。自分の夢を叶える為に、努力を惜しまない人生にしたかったか。好きなことを沢山して、思い出が沢山の人生にしたかったか。
全ての人は、自分の人生を良いものにしたいと思うだろう。それでも上手くいかないのが、思い通りの日々にならないのが人生でもある。勿論俺もその内の一人でもあるとはっきりと言える。
しかし…。
「────少なくとも、今みたいな人生は考えてなかった」
彼の瞳には、何処か遠く…儚いものを見ていた。
───────────────────────
『───…お前は強い。それは俺が保証する。誰がなんと言おうと強い。優しさを持ち合わせ、穏やかな心と努力して培ったその力を持ったお前は、きっと誰よりも強くなれる』
『───…お前は俺達の″希望″なんだ。絶対に死なせる訳にはいかねぇ、後は…兄ちゃんに任せろ』
「────っ…?」
窓の隙間から指す太陽の光が瞼を焦がす。その鬱陶しい明るさに目が覚める。暫くぼーっとした後に上半身をゆったりと起こす。眠気はあるものの、気持ちのいい寝起き…とまでは言えなかった。
(今の…夢…か?)
顔を掌で覆って頭を悩ませる。ぼやけていたがとても見覚えのある人の姿、聞き覚えのある人の声…あれは忘れもしない、かつての兄だった。
今更またあの光景を見せられるなんて、何かしら自分の生活に変化でも起こる予兆でも言うのだろうか。
「……ん?」
自分の顔に触れてから初めて気付いた。いつの間にか頬に違和感があって、触れてみればそれは涙が伝っていた。
「…はは、いつまで引き摺ってるんだろうな。兄ちゃんが見てたら、なんて言われるんだろう」
未練がましい自分についつい自嘲気味に笑いが出てしまった。こんな情けない姿をする自分に嫌気がさすものの、何時までもこのままではいけないと深呼吸を一つしてから、ベットから降りて洗面台へと向かう。
起きるには少しばかり早いが、二度寝する気分にもなれず、何かをして気を紛らわそうと決めた。歯を磨くことから始め、冷たい水で顔を濡らし、目が冴える。
くっきりとなった視界で鏡を見れば自分の姿が鮮明に映る。
穏やかだが何処か虚無感を残した蒼色を帯びた黒い瞳、襟足まで伸びた特徴的な黒髪に、前髪の一部にはチャームポイントのように白髪が混ざっている。顔の形はまだ幼さを残していると他人からはよく言われていた。
実感はないが、これでもいい年になった筈なんだけどな。それに、相変わらず今日も顔付きは虚無感が色付いている。
(さてと…今日は少し出掛けて来ようか)
今日の頭の中での予定は、新刊の漫画本を買いに行くことと雑貨店で何か物色でもしようかと考えていた。普段の彼の生活はグータラ生活と似たような生活になっている。
家族はおらず一人暮らしをして数年は経っている。学業も入ってもいない、だがとある場所で通い詰めで働いてはいる。社会人かと言われれば少し違う、そんな普通とは少し掛け離れた生活を彼はしていた。
今日はバイトは休みな為、ゆっくり休むなら羽目を外そうと、気分を変えて出掛けることにした。
慣れた手付きで素早く珈琲を作り、トーストにツナマヨを載せてからオーブンで焦げ目が付くまで焼く。珈琲を啜りながら暫く待って出来上がれば、香ばしい匂いで空腹が更に刺激される。
一口食べれば止まらない美味が口の中に広がり、あっという間に朝食を終えてしまった。
着替えもさっさと済まして寝癖も直し、戸締りをしっかりと確認するのも忘れずに、誰にもいないこの家を後にする。出掛ける為の言葉を向ける人もいないので、彼は少し寂しくぽつりと呟いた。
「…行くか」
外は自分の心の内とは裏腹に、とても良い天気であった。晴れやかな青空、心地良いそよ風、正に散歩日和で出掛けなければ勿体ない程だった。
少しばかり日差しが暑いが、熱中症の心配はなさそうだ。
自宅を含む住宅街を抜けて、人が蔓延る中心市街地へとやって来た。休みの日の為か、やはり人の数は平日よりも偉く群がっている。そんな気分が悪くなりそうな景色に、彼の顔色は少し気だるさが滲み出ていた。
(人混みは苦手だ…いや誰もがそう思うか)
自分の思ったことに突っ込みを入れ、漸く少し人数が少なくなってくる所へとやって来た。
けど少し、日差しと人混みの暑さも混ざって少し汗をかいてしまった。手の甲で汗を拭いながら、傍にあった自販機で冷たい飲み物を買っておく。
「ふぃ、やっぱりいちごミルクだなぁ」
近くのベンチで一休みをしながら、紙パックのいちごミルクを飲みつつぼーっとしながら青空に目を向けてから、人通りをチラッと横目で見やる。
(…まさに平和って感じだな)
この世界には、様々な種族が存在している。人間だけがいる世界ではなく、動物が人型になったように耳や尻尾、種族によっては角や翼などが生えている人もいる。
存在している種族で、獣人族に魔族や天族に鬼人族や、果てには機械人などがいる。そんな亜人が蔓延る世界がここでは普通である。
種族間の問題は無かったと言えば嘘になる。色々と差別問題など立場問題や、それなりに難しい問題が昔から発生していたものの、今は落ち着きを取って、異種族同士でも友好関係を何とか築けている。
もっと分かりやすく言えば、今は種族間での戦争が起こる心配は今はない。
どちらかと言えば、今の世間が問題視しているものがもっと別にある。それは『ファントムヴィラン』と言う謎の存在で、″幻の敵″とも呼ばれている。
どういう訳か、そいつらは見境なく知性も意思も持たずにただ人々を襲う。怨みや憎悪と言った負の塊のように紫黒色の炎が様々な形で体を作り、それがパッと見で実体があるのか分からなく幻のように見える為か、そう言われてきた。
突如としてこの世に現れた摩訶不思議で、凶悪で厄介なことこの上ない。
今さっき平和と思っていたがそれは現状を見て素直にそう思っただけで、完璧な平和とは思っていない。
けど、いつの日かそんな世界が来るといいな。
「さて、そろそろ行くか」
小休憩も済んだことだし、飲み干した紙パックをゴミ箱へと捨ててから、再び足を動かし始めて本屋へと向かう。
その時だった。
「────っ!爆発…っ?」
いつだって事が起きるのは突然。それは何時何処でも同じ概念。
後方からけたたましい爆発音、周りにいた人達も混乱し、爆発とは反対方向へと逃げて行く。
さっきまで平和だった空間は、悲鳴と怒号と阿鼻叫喚な最悪な空間と一瞬にして変わり果てた。
「……」
そんな中でも、彼は平然とその場に立ち尽くしていた。冷静さを失わずに爆発が起きていた所であろう、黒煙が上がっている所を真剣に見つめていた。逃げる人々はそんな彼に気にやることもなく避けて行く。
そして、彼もまた止めた足を動かし…爆発が起きた場所へと走り出した。その顔には何の迷いも備わっていない、ただ当然のようにそこへ行く。
(平和だと思ったらコレだよ…)
内心では呆れでいっぱいだった。折角の休日の時間を、事件に持っていかれると思うと無意識に溜息が出てくる。
そして、未だに爆発する音を頼りに向かえば、開けた場所へと辿り着いた。そこには異質な存在が一つ。
「まっ…そうだろうな」
彼の目線の先には、ファントムヴィランが一体。原因は何となく想像は出来ていた。
炎のような大きな体を揺らし、獲物を求めているのか辺りに視線を向けていた。何故こんな所にいるのかは考えてる暇はなさそうで、奴は何かを見つけたのかある一点を見つめていた。
「お…おかぁさん…!」
「うっ…に、逃げなさい…!」
そこには親子がまだいた。逃げ遅れたとは違い、どうやら母親が足に重傷を負ったのか動けずにいた。母親の傍には小さい男の子が一人、息子は母の姿を見て涙で顔を濡らす。掠れた声で母を呼びながら、必死に彼女の服を掴みながら引っ張っていた。
しかし、息子の行動が無理だと分かったのか、母親は痛みを堪えながら逃げるように伝えるが、子供はそれに首を強く左右に振って否定する。何度も言い掛けても、否定するの繰り返し。
このままでは二人して襲われてしまう。ヴィランはその親子の方へ体を向かわせていた。
「私はいいからっ!早く逃げなさいっ!!」
「嫌だぁっ!絶対お母さんを助けるっ!」
「っ…どうして最後まで言うことを聞かないのっ!!最後くらいお母さんの言うことを聞いてよっ!!」
「っ…!!」
二人のやり取りにヴィランは気にすることなく、ただ見下すように白い目を向けていた。
その短い間の後、ヴィランの顔にジグザグ上の線が浮かび上がると、ガパッと無かった口があんぐりと開いた。その口奥から淡い光が漏れだし始め、徐々にそれが大きくなっている。
そして、大口から白炎の弾が撃ち出された。
花火のように発射したそれは、無慈悲に親子を撃ち殺さんと言わんばかりに飛んで行く。
それに気付いた母親が、今も離れない我が息子を抱き締め、すぐそこまで来ている白炎弾を自分の体で覆い守ろうとしていた。
人間は何時だって脅威の存在には勝てない事が多い。ましてやこんな訳の分からない化け物に殺されるなど、理不尽極まりない。確実な死が迫っている。
無理だ、諦めよう。でも死にたくない。そう思うのが人の性であり当然なことであろう。しかし人間は、弱い生き物なのだ。
二人の親子がいた所はヴィランが撃った白炎弾が直撃し、花火のように爆発を起こす。
空間がが揺らぎ衝撃波が広がった。黒煙が空に向かって伸びていき、暫くの静寂が訪れる。
ここまで見れば、あの親子は確実にあの世へ行ってしまっただろうと誰もが思うし、あれを止めるなんて人間業じゃあ無理なことだろう。
普通の人間なら、と言う話だが。
「……!」
ヴィランには表情は無いものの、驚愕の雰囲気が伝わる。黒煙が晴れれば二つの無惨な死体があると思っていた。
しかし、そこにいたのは…。
「……ふぅ」
「…えっ?」
親子の盾になっていたように、数メートル先で一人の少年が立っていた。
母親が唖然と声を漏らしていたが、彼はヴィランに向けて片腕を伸ばした状態で静止している。その格好から、あの白炎弾を片手で受け止めたと言うのだろうか。
「随分な攻撃だが、もう止めろよ」
「……!!」
「あぁそうかい…じゃあ悪く思うなよ」
彼は話し掛けてみたが、ヴィランはそれを拒むように再び大口を開いた。まぁ当然かと言うように溜息を吐いた後に、目元を鋭くさせた。
その後に、ヴィランは同じ攻撃を仕掛けようとしていた。
「ふっ!」
「……!?」
しかし、その隙に少年は間合いを詰めて攻めて行った。
その移動の速度は常人を軽く超え、一瞬とも言えるその速度でヴィランの顎を蹴り上げ、がら空きとなった胴に回し蹴りを打ち込んだ。
ヴィランは軽々と吹っ飛んで行き、崩れた建物の瓦礫に激突する。
少年の身体能力は、明らかに普通とは掛け離れている。その光景に親子は揃えて開いた口が塞がらず、唖然としながら彼を見ていた。
「……!!!」
「来な」
瓦礫から抜け出したヴィランは荒々しく威嚇して、炎のような体が更に炎炎とざわついている。負の塊に更に怒りによる負荷が乗り、それによってヴィランも強くなっていく。
しかし、少年はそれを見ても平然と見据え、挑発をするように人差し指の動きでヴィランに伝える。
それを皮切りにヴィランも怒りが頂点に達したのか、猪の如く勢いよく突っ込む。爆速と捉える程に激しく、足が着く度に地面が揺れる。激突すれば五体満足では済まないだろう、それでも少年はその線路から外れない。
「はっ!」
「……!?」
掌をヴィランに向けたその時、声を発したと共にヴィランが体が宙を浮いた。どう言う原理で吹っ飛ばしたのか、ヴィランにもそれを見ている親子でも解らない。
しかし、突進から怯んだその瞬間を逃さない彼は即座に懐へと潜り込む。
「ふんっ…でぁ!」
「……!?」
拳をめり込ませ、次に脚を下から上へと蹴る。図体の大きいヴィランは見た目とは裏腹に上空へと吹っ飛んで行く。
たが、それだけでは終わらずに彼もその場から跳躍する。ヴィランよりも上空へ跳び、体勢を捻らせて逆さになると、そのまま蹴り下ろすサマーソルトを繰り出した。
ヴィランはそのまま真っ直ぐ地面へと強く激突し、苦しそうに藻掻く。
ヴィランの白い目には何かが映っている、何かが迫って来ている。
それは言わずもがな、彼だ。
「終わりだ」
ヴィランに向けて落下している少年の右手には、何かを宿しながら構えていた。指の隙間から見える小さく光る紫のような黒いナニカ。ヴィランとの距離が近付くにつれて、少年は瞳を鋭くなっていく。
「はっ!!」
「……!!?」
ズドンッと大きく重い音が響き渡る。激しい衝撃波が生まれ、突風が巻き起こり、大きな砂埃が辺りの空間を覆い被さる。
今日一番に大きい轟だろう、砂埃が晴れるには少しばかり時間が掛かっていた。
ゆっくりと砂埃から歩いて出てくる少年、その後ろには大きく傷跡を残した陥没地面。その中心には原型を留めていないヴィランが倒れていた。
ヴィランは苦しそうにモゾモゾと暫く動いていたが、徐々に動きが鈍くなっていき、最後には力無く動かなくなった。
紫黒の体は蜃気楼のように揺らめきながらパラパラと煤のように消えていった。
「ふぅ…」
事が収まったことに一息つく。少年は少し辺りを見渡してから、あの親子の方へと体を向けて歩き出す。未だに唖然とする二人に、少年は少し気まずそうにしながらも声を掛ける。
「あの、大丈夫でしたか?」
「…あっ、は、はい!助けて頂いてありがとうございます!お陰で息子も無事で済みました」
「兄ちゃん、ありがとうっ!」
母親は目頭に光るものを溜めていた、男の子はそれを堪えきれずに一筋の雫が頬に伝っていた。
それでも、とても良い笑顔を浮かべてながら見上げてくれる。二人の礼の言葉に、彼は表情が柔らかくなる。
その後は救急車を呼んで来るまでに、怪我をした母親の介護をしていた。それから、暫くしてやって来た救急車に男の子も乗せて、親子共々運ばれて行った。
(何とかなったが、ちょいと時間が取られちまったな)
たが、人助けしたことに後悔などはしていない。寧ろ救えて良かったと思えている。時間は有限とは言うが、これを無駄だと誰かは言うのだろうか?
『誰かを守る為に戦え、───』
「っ!また…」
まただ、またあの時の光景が…夢といいどうして今日は″あの時の記憶″が不意に思い出されるのだろうか。
変に胸騒ぎを覚え、胸の内が少しばかり蟠りがあって気持ち悪い。それに一瞬とはいえ頭に痛みが走り、苦い顔をして咄嗟に頭を抑えた。
不本意だが、今日は諦めて家でゆっくりとしていよう。本なら何時でも買えることだし、次の休みの日にでもまた出掛けることにしよう。
そうと決まり、少年は踵を返して自宅へと戻ることにした。
「────ちょっといいですか?」
「…?」
透き通るような声で誰かが彼の足を止めた。咄嗟に振り返って見れば、一人の獣人の少女がいた。
まるで絵本から飛び出てきたように彼女は白銀の狐姫のような華麗であった。一見、狐の獣人…と思ったのだが……。
「……猫?」
「狐じゃい!」
どうやら前者で合っていたようだ。雪のような白髪に白い毛並みを備わせている獣耳、腰部辺りには先端に黒毛がある白い狐の尻尾が生えていた。
凄く、もふもふしている。ちょっと触りたいかも⋯っと、そうではなく。
「何か用か?」
「あの、実はここら辺でヴィランが発生したと聞いて駆けつけて来たんですが…あ、こんこんきーつね!私は″白上 フブキ″と言います!白上は煌星学園の生徒なんですよ!」
「煌星学園…様々なヴィランに対抗する為の特攻隊を創るあの学園か」
彼女のその独特な挨拶も気になったが『煌星学園』の方に意識を向けた。彼女の通っている学園は三年制で、普通とは掛け離れた科目が存在する。
そして⋯ファントムヴィランの唯一の対抗策と言われている生徒達の集いだ。
「そうなんですよ。それで…ヴィランの目撃情報とかありませんか?」
「あぁ〜ヴィランなら…その…」
どうする、人助けとはいえ無関係な俺が倒してしまった。もし、これが御法度なものだったら俺はどんな処罰を受けてしまうのだろうか。
彼はあからさまに目線が泳いでおり、口篭っているが伺える。
「…?どうしたんですか?」
「……さっき⋯俺が倒した」
「…ふぁ?」
彼は流石に隠すのはまずいと思っていたが、かと言って真実を伝えても自分が変に思われるのが少し怖かったからか。フブキと言う少女から顔を背けながら、聞こえるか聞こえない程度にぼそりと呟いたのだが、獣人である彼女にはどうやら普通に聞こえるようだ。
「それって…ほ、本当ですか?」
「あぁまぁ…あれが証拠、と言うか最後にヴィランがいた場所」
はっきりとしない挙動になってしまっているが、少年は先に止めを刺した所である陥没している地面の方に指を差した。フブキもそれに釣られて彼と同じ所に視線を移す。
広く平らな交通道路のある所に一際目立つ陥没地面、それを目にしたフブキの顔色は真剣な眼差しで、その場所に歩んで行く。
「……」
彼女の様子からはその光景を見ても驚愕した雰囲気は伝わらない。
やはりヴィランとの戦闘経験はあるのか、こういった光景には慣れているのだろう。真偽を確かめている感じはある。
嘘は言ってはいないのだが、あの陥没はヴィランがやったと言う可能性もあるし、今の俺の立場ははっきりと言って彼女からしたらヤバいやつかもしれない。
色々な不安が渦巻いていているが、今は彼女のことを待とうと腕を組んで、未だに無言のまま調べている彼女を見守っていた。
「確かに…微力ながらヴィランの気配がまだ残っていますね」
「そこまで気付くのか、凄いな」
「それは勿論ですよ!なんたって白上は煌星学園でもそれなりに凄い人ですからね!」
取り敢えず嘘つき呼ばわりされる心配はなくなったと安堵した。
フブキが自慢気に軽く胸を張っていたことに、少年は少し腑抜けに似た表情を浮かべてから、苦笑いを零した。
「っとと、そうではなく…ヴィランの気配が貴方の言った所が最後に、全く気配を感じられませんでした。本当に、貴方が倒してくれたんですね」
「…あぁ、うん⋯えと…ごめん」
「え?なんで謝るんですか?」
後ろめたさが隠し切れずについ謝ったのだが、フブキは彼の言っていることに首を傾げた。何のことを言っているのか分かっていないようだった。
「ん?いや、部外者の俺が倒してしまったのって…もしかしたら駄目なんじゃないかなって思ったんだけど。違うのか?」
「えぇ!?そ、そんな事ないですよ!寧ろ御礼が言いたいですよ!」
どうやらその心配は無駄に終わったらしい。彼女の慌てて否定する姿を見て、彼は更に安堵して胸を撫で下ろす。
「そうなのか?良かったぁ、もしかしたら違反で何か罰せられるかと思ってたんだけど…」
「いやいやいや!ヴィランを倒すことに法律違反とかそんなの無いですよ!?どんな心配してるんですか!?」
普通に考えてもみれば、確かに心配する着眼点が色々と可笑しい。災害になる敵から助けて自分が罰を受けるとかどんな鬼畜であろうか。
フブキは彼の言葉に強く否定してから、落ち着く為に一旦咳払いをして、言葉を続ける。
「兎に角…今回は、貴方のお陰で最小限に被害は抑えられました。この旨は、また後に学園側から謝礼が来ますが御礼を言わせて下さい!ありがとうございました!」
本題はここからとでも言うように、改めて言葉を並べていくフブキに彼もまた彼女の話に耳を傾ける。お礼を言われてはいたが、当の本人はそれをすんなりと否定をした。
「いや、礼を言われる程じゃないよ。咄嗟だったし、別に見返りを求めてる訳じゃないから、白上が倒したとでも伝えておいてくれ」
「そんなこと出来ませんよ!それに貴方は立派なことをしたんですよ?例えそれが自己満足だとしても、貴方の行動で多くの命が助けられたんですよ!」
「…!」
彼女の言葉で、彼はあの時に助けた親子の顔が脳裏に映り出した。それだけでなく、確かに彼が動かなかったら、仮に他の誰かが行動してくれると言う他人任せにして動かなかったら、彼女が来る前には多くの犠牲者が出ていたのかもしれない。
「そっか…助けるのってやっぱり悪くないな」
「…?」
何かを意味を含んでいるような呟きに、フブキはまた首を傾けるだけだった。少年は彼女のその姿に目に入った時、ハッとして顔を左右に軽く振る。
「いや、なんでもない。んで…俺はもう行っていいかな?」
「あっ!待って下さい!連絡先を教えて貰ってもいいですか?」
「連絡先?あぁ…でもなんで?」
「それはもちろん!貴方のお礼の為ですよ!このことはちゃんと学園に伝えて、貴方の勇気ある行動を無駄にしない為です!」
ポケットからスマホを取り出してフブキとの連絡先を交換し合う。その意図が分からなかったが、彼女の言うことに理解と同時に少しこそばゆい気持ちになる。
「それにしても、私の通ってる学園の生徒じゃなくてもヴィランを倒せるってことは強いんですね。貴方は学生…のようにも見えますけど、普段から何かしてるんですか?」
「あー…なんて言うかまぁ、俺にも色々あってちょっとキツいと言うか、わりとギリギリな生活をしていると言うか…どう伝えたらいいんだろう」
はっきりと言えば、今の生活を続けるのは正直まずいと思っている。学業には行ったことがないけどバイトはやっている、けどその資金だけで食い繋いで行くのは難しいだろう。
そんな貧困気味な生活に、苦笑いが途絶えない。
訳ありな生活だと察してくれたのか、白上も少し気まずそうに苦笑いを浮かべていた。
しかし、そこで丁度よく連絡先の交換も終えたことで、次の話題が出てくる。
「これでよしっと!それじゃあ白上はそろそろ戻って報告しに行きますね!もしかしたらまた会うかも知れませんので、その時はまた宜しくお願いしますね!えっと…そう言えば、お名前聞いてませんでしたね」
そう言われて彼は気づいた。自分の名を教えてはいなかったと、うっかり忘れていた。彼は少し申し訳なさを覚えながら、少年はフブキに伝える。
「自己紹介が遅れて悪い。俺は…″
彼の名は紫黒 龍成。何処にでもいるような平凡を装った少年、人間であるが普通とは掛け離れた戦闘能力を持っている。
彼は何者で、どう言う存在なのか。フブキとの出会いが引き金か、それとも何かの変化は既に起きているのか。
彼の中のある錆び付いた運命の歯車は、ゆっくりと滑らかに戻していくように動き始めている。
変じゃなかっただろうか…怖いな…。
というか書き終えて気付けば一万文字も超えてたのか。これって凄い方なのかな?どうでもいい?すいません。
てな感じで、入りが肝心な第一話目はいかがだったでしょうかね。満足できなかったらもっと精進しますので許して下さい。設定の後書きでも書いた通り、投稿前には誤字脱字が無いよう確認はしていますが、もし見つけたりミス等あればご報告をよろしくお願いします。
それでは〜。