もしも大筒木キンシキ・モモシキが柱間やマダラがいる時代に来たら、という妄想ifです。
『劇場版BORUTO』を参考にして書いているため、カーマとかそこら辺は考えないものとしますし、続きはありません。
なんでも許せる人向けです。

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OLD GENERATIONS

 大筒木キンシキとモモシキを名乗る者たちが里を襲撃して来たのは、マダラが里を抜けてからそう日は経っていないころだった。

 

「これもマダラの仕業なのか?!」

「いや、これは違いそうだ……扉間! このままでは里が壊れる! 俺が奴らをできるだけ引き離すからお前は里を頼む!」

「兄者! こやつらは一人でどうにかなる相手ではない!」

 

 柱間と扉間に加え、里の猛者たちが集まって敵を撃退しようとした。

 だが、モモシキが使う忍術を吸収する技が厄介で、思うようにいっていなかった。

 初めの手合わせですぐそれに気づいた扉間が周知したため体術のみで戦っていたが、吸収した強力な術を巧みに使いこなすモモシキに皆が苦戦した。

 

 純粋な強さで渡り合う柱間、飛雷神での移動を扱う扉間以外について行ける者がいない状態となった。

 しかも、扉間は敵の攻撃を避けることができるだけで、決定打に欠ける。

 そのため、敵う相手は実質柱間だけだった。

 

「やはり、膨大なチャクラだな……苗床で腐らせるには勿体ない」

 

 モモシキがニィッと笑った。

 奇しくも大筒木達の目的も柱間一人だった。

 空に浮かぶモモシキとキンシキを睨みながら柱間が尋ねた。

 

「お前たち、何が目的ぞ? そしてさっき使って見せた術……うちはマダラのものではないか? マダラに何をした?」

「マダラ? ああ、あの妙な瞳術遣いか……ククク……貴様ら苗床の真実を語ったら呆けて戦う気力も無くした……あいつの術もチャクラも我のもの。であれば、下等生物の貴様でも察せられるだろう?」

「お主……マダラをっ!!!」

 

 モモシキとキンシキがマダラを殺した。

 この事実に柱間だけでなく扉間、そして集まっていた里の者たちをも動揺させた。

 

「アイツら、あのうちはマダラを……!?」

「火影様しか太刀打ちできないマダラを……そんなに強いのか……!」

「やはりマダラの力を吸収しているのか……ますます厄介だな。兄者! なおさら一人では任せられん! このまま兄者の力も吸収されてしまっては里どころかこの世界の終わりだ!」

 

 扉間の言葉に大筒木の二人が大笑いした。

 

「ハーッハッハッハッハッハ! 苗床の下等生物が笑わせる! お前らはただチャクラを差し出せばいい。それが苗床の役目だ。どうやらカグヤは封じられているようだからな。我らが頂くとしよう!」

「貴様らはなんの話をしている? カグヤとは誰だ? 苗床とは何を指す?」

 

 扉間の尋ねにモモシキはさらに大笑い。

 

「ククク……何も知らぬ下等生物どもめ……いいだろう。どうせお前らは我に吸収される。その前に己の運命を教えてやろう。お前らが使うチャクラ、これはそもそも我らのものだ。この星の担当する大筒木カグヤが何を思ったのか、かなり分散してしまったようだが……もしかすると再び一つにする準備中だったのかもしれんな。だが、もう遅い。すべて我が喰らうことにする」

「……星、ということは貴様ら大筒木とやらは別の星から来たということか。そして俺らのいる星は大筒木カグヤのものだった。が、カグヤは何らかの理由で封じられ、その間に貴様らはチャクラをかすめ取りに来たのだな。……兄者、話の通じる相手ではない。奴らの言うことが本当なら、この星ごと奪い、壊す気だ」

「のようだな。いつの世も戦いよ。マダラですら敵わなかった相手……確かに俺一人では抑えきれん。扉間、術を吸収する方は俺がやる。お前はもう片方、いけるか?」

 

 扉間が返事する前に、キンシキの方が吹っ飛ばされた。

 

「なっ?! キンシキ!」

「クソッ?! 何者だ!」

 

 キンシキは死んではいないようで、飛ばされながら怒鳴った。

 そんな彼を追撃する巨大なチャクラの鎧、須佐能乎だ。

 柱間が喜色満面で叫んだ。

 

「マダラ!」

「そういうことだったのか……じゃあ、あの石碑も……俺が届いた先も……全部偽物だったということだな……!」

 

 須佐能乎でキンシキを殴りつけるマダラの片目は閉じていた。

 マダラの後ろから術を出そうとしたモモシキに柱間が殴りかかった。

 

「扉間! やはりお主は里を頼む! こやつらは俺とマダラに任せておけ!」

「ほぉ……貴様らの方から来るのか……ちょうど良い! どちらも向こうで喰らってやる!」

 

 モモシキが開いた異空間への闇に柱間もマダラも飛び込み、そして四人はいなくなった。

 異空間へ飛んだ先で、マダラはキンシキと、柱間はモモシキと戦っていた。

 キンシキはマダラへ攻撃しながらも不可解そうだ。

 

「なぜだ?! 貴様は確かにモモシキ様が殺したはずだ!」

「お前が見誤っただけだろう」

 

 キンシキの斧を巨大な鎌で受け止めたマダラは片目を閉じたまま笑った。

 そんな彼にキンシキは悔し気ではあったものの、すぐに気を取り直した。

 

「フン、いいだろう。お前には角を折られた恨みがある! 次は我が殺す!」

「さあ、どうかな」

 

 斬り結ぶ二人。

 キンシキは重たい攻撃を斧に乗せ、マダラはすべてを鎌でいなし、その動きは素早さを増していく。

 そしてとうとう、斧を振りかざしたキンシキの両腕がマダラの鎌によって一刀両断された。

 

「お前一人であればそう面倒な相手でもない……大筒木め……」

 

 マダラは憎々し気にキンシキを蹴り飛ばした。

 

「火遁・豪火滅却!」

 

 両腕を失い、術の吸収も出来ないキンシキにマダラの火炎が直撃した。

 

「ぐぁあああああ!」

 

 炎から這い出たキンシキの姿はボロボロとなり、ところどころが焼け落ちていた。

 

「まだ動けるか。だが、もう舞えん」

 

 マダラがとどめを刺そうとしたとき、

 

「モモシキ様! 今こそ私のチャクラも食らうとき! 我が親役がかつてしたように……躊躇われるな!」

「当然のことだ!」

 

 キンシキが柱間と戦っている最中のモモシキに呼びかけ、モモシキも応じた。

 モモシキは手を広げ、キンシキをたちまち吸収してしまった。

 

「むっ?! こやつ、仲間までも吸収するのか?!」

「柱間! いったん離れろ!」

「うぉおおおおおおおお!!!!!」

 

 キンシキを吸収したモモシキの雄たけびが一帯を揺らした。

 そんな彼に柱間とマダラが同時に殴りかかった。

 二人のパンチを両手で受け止めるモモシキに柱間、マダラがさらに蹴りも交えて攻撃を開始した。

 言葉なくとも息が揃う二人の連撃にモモシキは防戦一方となる。

 が、モモシキはどうにかマダラの閉じた目の死角から攻撃を与え、二人の連携を崩した。

 

「マダラ!」

 

 吹っ飛ぶマダラを気にする柱間にモモシキが強力な火遁を手の平から放った。

木遁で身を固める柱間を覆う火遁。

 

「フフフ……ハーッハッハッハ……グハぁ!」

「いつまでも俺の火遁を使いやがって……目障りだ」

 

 柱間を襲う火遁がそれよりも強力な風遁によって追い返され、モモシキに直撃した。

 あまりにも予想外なことにモモシキは反応しきれなかった。

 

「なぜ……? 我のような力を下等生物が持つ?」

「これはうちはの宝だ。前はテメーの長話に出す暇もなかったがな……」

 

 柱間の前に立ち、巨大なうちはを構えるマダラだが、すぐ振り向いて怒鳴った。

 

「おい柱間! テメーいつまで俺の後ろに立ってやがる! さっさとどけ!」

「ひ、ひどいんぞ! 勝手に前に立ったのはマダラの方だぞ!」

「戦ってる最中に落ち込むな! つーかその落ち込み癖、まだ治ってなかったのかよ!」

「お前こそ、後ろに立たれるのが苦手なところ、まだ克服できていなかったようだの……ということは今でも小便は止まるということか」

「あの大筒木より先にテメーをぶちのめすぞコラ!」

 

 ギャーギャー騒ぐ二人を前にモモシキは血管を浮き立たせた。

 

「調子に乗るなよ……下等生物共め……!」

 

 すぐさま柱間たちもモモシキに向き合った。

 が、マダラはちらりと柱間を横目に見た。

 

「おい、何をにやけている、柱間」

「お前こそ……マダラ、なんだか昔に……幼き頃に戻ったようだな」

「フン。そろそろ奴が来るぞ」

 

 マダラの言葉通り、二人へ一直線に殴り掛かるモモシキ。

 二人もそれに応じ、岩を砕き、地面を割り、と派手に地形を変えながら体術のみでモモシキの攻撃をいなした。

 岩の切れ目に投げ飛ばされたモモシキに追撃する柱間たちだったが、モモシキがすかさず鎖を作り出し、柱間を縛った。

 さらにマダラを岩の塊の中に閉じ込めるモモシキ。

 

「マダラ、借りるぞ!」

 

 柱間はマダラが岩に閉じ込められる前に手放した鎌を手にモモシキと切り結んだ。

 が、

 

「ぐっ!」

 

 モモシキに蹴り飛ばされ、空中へと投げ出された。

 そこへ集まる溶岩が火炎となり、またしても柱間を包んだ。

 もう一度、木遁で身を守ろうとする柱間だが、さっき火遁を吹き返してくれたマダラは岩の中。

 だんだんと高熱になる火炎に柱間の木遁さえ引き剥がされ、彼に火傷を負わせる。

 その時。

 

――口寄せの術!

――威装・須佐能乎!

 

「グォオオオオオ!」

 

 マダラが閉じ込められていた岩の中から須佐能乎を纏った巨大な九尾の妖狐が現れ、岩をすべて砕いた。

 すかさず、炎に包まれる柱間に幻術で従えた九尾を向かわせたマダラは、柱間の身体を支えた。

 ひどい火傷を負う柱間の姿にマダラが吠えた。

 

「うぉおおおおおお!!!!」

 

 片目だけの写輪眼に力が灯る。

 マダラに呼応するように、須佐能乎を纏った九尾がモモシキに殴り掛かった。

 それを迎え撃つのは巨大な火の鳥。

 さらに複数の木の枝で作られた犬が九尾に噛みついた。

 激情のまま暴れようとしたマダラを彼に支えられていた柱間の手が止めた。

 自前の再生能力により、彼の火傷はすべて治っている。

 

 ハッとしたマダラに柱間は頷き、笑顔を見せた。

 柱間の無事に冷静さを取り戻したマダラはモモシキに向き直り、自由な九尾の片手で火の鳥を殴り消した。

 その間に柱間は地面から無数の巨大な木の根を生み出し、九尾に噛みつく犬たちを全て引き剥がし、ちぎった。

 

 そんな彼らに岩石で出来たサルが襲い掛かるも、地面から突如生えた木の腕に顎を殴られ動きが止められ、さらに須佐能乎で出した剣で九尾に切られた。

 粉々に砕け散る岩石たちの中にモモシキの姿もあった。

 柱間が手に「座」の字を浮かびあがらせながら九尾を落ち着かせる間にマダラは飛び出し、鎌とうちはを持ってモモシキに肉薄した。

 

「ぐっ……!」

 

 吸収してきた術をマダラに放つも、全てうちは返しでいなすマダラ。

 返って来た術をもう一度吸収しようとするモモシキの隙に付け込み、ついに彼の腕を切った。

 

「ようやく貴様の本来の舞を見られそうだ……柱間ァ!」

「よし来た!」

 

――木遁・樹海降誕!

 

 今までの比にならない巨大な樹木がモモシキの身体をガッチリと拘束した。

 柱間の隣に降り立ったマダラがそこへ、

 

――火遁・豪火滅却!

 

 キンシキにぶつけた以上に強烈な火遁を放った。

 燃え盛る炎がモモシキを包む。

 柱間がマダラをちらと見た。

 

「そんなものか?」

「抜かせ!」

 

 勢いを増すマダラの炎。

 

「マダラ……やるぞ」

 

 柱間の木遁がさらにモモシキを包みマダラの火遁がさらに勢いを増し、包まれた中が最高温となり、ついにはすさまじい爆発が起きた。

 

「この俺が……下等生物なんかに…………!」

 

 爆発の中で身体のほとんどが燃え尽きたモモシキは最後の力を振り絞り、燃え滾るその身体のまま、一直線にマダラたちへ迫った。

 大技を連発したことで隙が出来ていたマダラたちの不意を突く攻撃だった。

 

「柱間!」

 

 命を懸けたモモシキの攻撃に反応できたのは写輪眼だけだった。

 ドサリ、と人が倒れる音がした。

 

「ハハハ……せめて一人…………は……」

 

 死力を尽くしたモモシキはそのまま燃え続け、そして灰となった。

 

「マダラ! どうして俺を庇った! 俺であればまだ回復もできたのに……!」

 

 モモシキを燃やし尽くした炎がマダラの身体にも移り、柱間が水遁で消すまでのわずかな時間で彼の身体も燃やし尽くした。

 

「さあな…………にしてもこの炎……モモシキだかの……最後っ屁って奴だな…………」

「マダラ! 今すぐに里へ帰るぞ! 今ならまだどうにか……」

「アイツらの力でここへ来たのにどうやって帰ると思ってんだよ…………」

「諦めるでない! 何か方法があるはずだ……! 何か!」

 

 焦る柱間をぼんやりと眺めるマダラは言った。

 

「柱間……俺の夢は届かない…………俺が見て来たものはすべて間違えていた……大筒木の奴らに騙されていた……」

「マダラ! お前は何を知っている? 俺は知らないんだ! あの連中の仲間がこれからも来るやもしれん! だが、どう対処すればいいのかも分からないんだ! お前がいてこそ、里を、この星を守れる!」

「フッ……テメーは火影だろ……どうにかしろ…………」

 

 しばしの沈黙の後、マダラは言った。

 

「柱間、俺の写輪眼をお前の目にはめ込め…………そうすれば……輪廻眼が開眼される……かもしれない……」

「輪廻眼?! あの伝承の? どういうことぞ?」

「そうすればこの異空間からも出られるだろう……相反する二つは作用しあい……森羅万象を得る……今となっちゃどこまで本当か分からないが……千手とうちはの力をかけあわせれば……輪廻眼に繋がるはずだ……」

「相反する二つ……千手とうちは…………であれば!」

 

 ひらめいた柱間は豪快に自分の肉を食いちぎり、マダラの火傷の中で特にひどい部分に埋め込んだ。

 

「おい! 俺も考えたけど……本当にするやつがあるかよ……」

「思いついていたならさっさと言わんか! 俺の細胞研究は兼ねてより扉間が進めていた。マダラならうまくいくかもしれん」

 

 ぐいぐいと肉片をマダラの傷口に押し付け融合を図る柱間。

 そして。

 

「……おい、本当に開眼しちまったじゃねーか」

「マダラ! よし! すぐに里へ帰るぞ!」

 

 両目の輪廻眼を開眼したマダラに柱間は大喜び。

 だが、マダラは死にかけながらも彼を睨みつけた。

 

「この俺に輪廻眼を与えたこと……後悔するぞ、柱間」

「今はそんなことは後! とにかく帰るぞ!」

「どうにもお前とは噛み合わんな……」

 

 大喜びの柱間に急かされ、マダラは仕方なく輪廻眼を使い、空間を移動した。

 そして二人は元いた場所に、里に戻った。

 

「兄者! 無事か!」

「扉間! 今すぐ回復の使えるものを呼べ!」

「回復を……? まさかマダラに使う気か?!」

「そうだ! マダラがいなかったらあの者たちも撃退できなかった! 俺とてここへは戻って来られなかった! マダラは言わば、この忍世界の救世主ぞ!」

 

 柱間の宣言に扉間と共に残っていた里の者たちがどよめいた。

 

「里を抜けたうちはマダラがそこまで……?」

「というか死んでいなかったのか?」

「まさか里を抜けたのも今回の襲撃に備えていたのか……?」

 

 どよめきの中、扉間はため息を吐き、飛雷神で別の場所に飛び、すぐに戻って来た。

 傍らには一人の忍がいた。

 

「里で一番回復に長けた者を連れて来た……兄者の次にな」

「お体に触りますよ」

 

 木の葉の忍がマダラに触れ、その火傷を治療していった。

 柱間細胞が埋め込まれたこともあり、マダラはたちまちに回復した。

 

「マダラ……貴様、まさか兄者の細胞に適合したのか?」

「言っておくが柱間に埋め込まれたんだ。俺はやってねーよ」

「はぁ……兄者、失敗すればマダラが木になるところだった。分かっているのか」

「マダラならどうにかなると思ったんだ! どうやらこの賭けには勝ったようだの! ガッハッハッハッハ!」

 

 大笑いする柱間に扉間は呆れ、里の者たちもポカンとした。

 そんな中、回復しきったマダラは一度目を閉じ、

 

「さて」

 

 万華鏡写輪眼を開眼させた。

 彼に注目していた里の者たち皆が幻術にかかり、バタバタと倒れていく。

 唯一、扉間だけが幻術から逃れ、柱間をなじった。

 

「兄者! だから言っただろう! 回復させた途端にこれだ!」

「……マダラ。里の者たちに何をする気だ?」

「しばしの夢を見させているだけだ。俺が支配する世界の夢をな……」

「お主がこれから実現させようとしている未来を見せているということか。……マダラ、そんなことせずともあの大筒木たち共に備えるため、俺らは手を取り合わねばならん。俺らだけじゃない、忍世界そのものがだ」

「来るかどうかも分からん連中の為にそこまでまとまると思うか? 柱間よ……俺らが倒した大筒木の二人とて、実際に見たのはここにいる一限りのみ……20人ほどの証言がどれほどの力を持つ?」

「俺が説明して回る! 必要なら頭を下げて助力を願う!」

 

 柱間の必死な声なんか聞かず、マダラは倒れた里の者たちの中心で問うた。

 

「さあ、柱間。今度は選択肢を与えん。里を、忍世界をお前のやり方で守りたいのであれば……扉間を殺せ」

「なっ?! また貴様はそんな訳の分からないことを……! ならばこの俺が……」

「扉間、よせ」

 

 マダラに立ち向かおうとした扉間を柱間は制した。

 扉間が戸惑う横で柱間はじっとマダラを見つめていた。

 

「マダラ…………俺の話を聞く気がないようだな……仕方あるまい」

「兄者?!」

 

 さらに戸惑い、呆然とする弟の横で柱間は重々しく言った。

 

「いつの世も戦いよ……だが、マダラ。俺らの戦いはこれで終いにしようぞ」

「ようやくお前と噛み合いそうだ……ここじゃ邪魔が入りそうだ。場所を移動しよう……お前なら分かってるだろうな」

 

 柱間に念押ししたマダラはその場を発った。

 残された柱間に扉間が迫った。

 

「兄者! どうするつもりだ?! この俺の首をマダラに持って行くつもりか?! それともマダラをこのまま逃がす気か?!」

「扉間、皆の幻術はそう簡単には解けぬだろうから里へ連れて帰れ。できるだけ里にまで被害が出ぬよう気を付けるが……マダラ相手ではどうなるから分からんからな」

「大筒木を名乗る連中の次はマダラか……アイツは何を考えている?」

「それを俺も知るために向かうのだ。互いの腸を見せ合う最後のチャンスだからな。扉間、里の者たちを頼むぞ」

「兄者!」

 

 マダラを追い、柱間もその場を発った。

柱間はマダラを追いながら考えた。

 

――マダラ、お前はいま、何を思う? 今度はお前の腸を見せてもらう番だ。

 

 移動した二人がたどり着いたのは岩だらけの場所だった。

 そこはかつて千手とうちはが争い、そしてマダラが地に背をついた場所だった。

 

「柱間……ここで俺はお前に敗れ、そしてうちはと千手の同盟が結ばれた」

「ああ。俺とお前の夢が叶った場所だ。忘れるわけがない」

「言っただろう。俺の夢は届かないと」

 

 皮肉気に笑うマダラに柱間が尋ねた。

 

「マダラ、俺はお前ほどに大筒木のことを知らない。そしてお前が何を思ってこの世を余興と見なしたのか……俺らはまだ互いの腸を見せ合えるはずだ」

「俺はお前の腸をすでに見た。そしてさっきお前に尋ねた言葉が俺の腸だ」

「いいや、あれはお前の本心ではない。お前だって自分で言っていて分かっているはずだ」

 

 向かい合うマダラと柱間。

 方や里を背負い、方や荒野を背負う二人はどちらも最高に冷静だった。

 

「柱間……俺は弟を失い、そして一族からの信用も失った……そして、闇の中で見出したこの世界の真実、見つけ出したこの世界を救う方法に全てを託した……つもりだった。結局は俺が見出だした救いは大筒木の策略でしかなかった。恐らく、この世界を支配するつもりだった大筒木カグヤのな」

「マダラ、なぜ一人ですべてを背負う。俺らは共に戦えるはずだ。さっきまで大筒木とやり合ったように」

「柱間、お前に見せたうちはの石碑を覚えているか? 今となってはあれのすべてが嘘なのか、真実があるのか……何も分かりやしねー……だが、お前の肉片を埋め込んだことで俺は輪廻眼を開眼した。つまり、石碑にも真実は紛れていたということだ」

「ならばどれが真実で、どれが偽りか……共に探ればいいではないか」

「そんな悠長なことを言っている時間はない。この星は、忍世界は備えなければならない。また訪れる絶望にな」

「……お前がこの世を支配することが備えになるとでも言うのか?」

 

 柱間の問いをマダラは肯定した。

 

「ああ、そうだ。木の葉の里だけではない。火の国以外にいるすべての忍がこの俺を恐れ、憎む。そして備えるのだ。この俺を殺すための術を……子を守るためにその術を子に教えていく。俺への憎しみを伝え続ける……そうすることでこの世の忍たちはみな力をつける」

「お前を憎まずとも、俺らは協力せねばならん。大筒木を討つために」

「二度も同じことを言わせるな、柱間。本当に大筒木は来るか? わざわざすべての忍の前に姿を現すか? 連中はこちらのことなんざ一切配慮しない。だが、俺はすべての忍に俺の存在を見せることが出来る。恐怖の対象が隣にあれば、誰もが備えるさ……」

「またすぐに大筒木が来たらどうする? 今の状態ではあれを対処できるのは俺らぐらいぞ」

「輪廻眼を手に入れた以上、俺一人でどうとでもなる。柱間、お前は分からないだろうがな……まだまだこの世界には力がある。九尾の狐なんざよりもさらに強力な力がな。大筒木を殺したいなら、俺が大筒木と同じ力を手に入れればいい」

「…………どうやらまだ隠していることがあるようだな」

 

 二人の間に風が吹いた。

 

「柱間、お前はさっき言ったな。俺ならばどうにかなると思った、と。俺にも確信に近い直感が一つある。きっとお前もあるはずだ。俺とお前に定められた運命が分かるはずだ」

「…………」

「真に強い忍同士というのは拳を交わすだけでお互いの考えが分かる。柱間、俺らは飽きるほどに拳を交わし続けた。あの時に感じていたものが何なのか……大筒木のことを知った今なら分かるはずだ」

「マダラ、お主は昔から信心深い男だったの。俺らが思う運命の通りに生きねばならぬとは決まってない」

「柱間、俺らがどう望もうとそうなるって決まっているもんだよ、運命ってのはな……このまま進めば俺とお前は道を違え、対立する。俺らはそう生まれついているんだよ」

「さっき俺らは己の世界の運命を変えたばかりではないか? 大筒木にチャクラを吸収されるだけだった運命を……」

 

 柱間の言葉を聞き、マダラはふっと笑った。

 

「弟を失い、一族を失い……俺はもう失うものはない。一人だ。俺がすべての憎しみを背負い、すべてを統括し、大筒木どもも全て殺す。俺以外の誰も、この星に課せられた運命を知ることも無い……己が大筒木共の苗床として生まれ、死ぬ運命にあったと知らずに済む。俺がすべての悪と決めつけ、憎むだけで皆の心が一つとなり、平穏を手に入れられる……それが俺の運命を変える手段であり、そして結局の俺の運命であり、天命だ」

 

 マダラの顔はかつてうちはの石碑の前で柱間と決別した時とそっくりだった。

 

「それがお前の出した答えか。皆が認めると思うのか?」

「お前らがどう思おうと関係ない。俺にはこの星の運命を変える力があり、なんならお前らの考えすらも導く力もある」

「俺にお前の幻術は効かないぞ、マダラ」

「だからこそお前を一番に殺すのさ。すでに輪廻眼は手に入れた。お前はもう用済みだ」

「……大筒木の最期の攻撃から俺を庇った時、あれがお前の本質だ。マダラ、俺はお前を信じている」

「……どうやらここで言い争っても終わりは見えないようだな。柱間、俺らには俺らの決着のつけ方がある。そうだろう?」

 

 輪廻眼を見せるマダラに柱間も仙人モードで迎えた。

 そして二人の最期の戦いが始まった。

 

 

 

 お互いに駆け寄る二人は術を使わず、組み合った。

 さっきまで大筒木に向けていた拳を互いにぶつけ、互いに助け合った身体を蹴る。

 大筒木の攻撃ですでにかなりの自動回復をしてきた柱間に、治療を受けたとはいえ死にかけたマダラ、どちらもボロボロの二人がただただ殴り合った。

 が、先にマダラが仕掛けた。

 

――輪墓・辺獄!

 

 マダラの輪廻眼が発動し、見えざる世界に四人のマダラが現れた。

 視認も感知もできないマダラが柱間に攻撃を与える。

 

「むっ?!」

 

 もろに攻撃を受けた柱間は一旦マダラから離れようとするも、見えざる世界のマダラはさらに攻撃を加えていった。

 

――影分身や透遁の術とはまた違うようだな……輪廻眼の能力か。

 

「木分身の術!」

 

 見えざるマダラの分身に対応するべく、柱間も木分身を4体出した。

 さらに、樹海降誕で地形を変えながらマダラに対応した。

 

「無駄だ……俺の目は木分身を見抜く」

 

 見えざる世界のマダラが再び柱間に迫り、必殺の一撃を加えた。

 が、メキメキと音を立て、その柱間は木となった。

 

「何?!」

「やはりな……お主、輪廻眼と写輪眼の能力は併用できないようだ」

 

 さらに別のマダラたちもみな柱間を攻撃するが、どれもが木に戻った。

 残った本体がマダラに向かって術を放った。

 

――木遁・花樹海降臨!

 

 巨大な花をつけた樹木が地面から沸き上がり、毒の花粉をばらまいた。

 が、

 

――火遁・豪火滅失!

 

 すべてを燃やし尽くすマダラの炎が花粉ごと辺りを燃やした。

 さらに、マダラは印を結んだ。

 

「天涯流星」

 

 二人の頭上に現れる無数の巨大な岩の塊たち。

 それが柱間に一直線に降り注いだ。

 

「仙法木遁・真数千手!」

 

 木でできた巨大な千手観音がその一本一本の手で岩を砕いて行った。

 柱間は印を結び、降り注ぐ岩の雨に集中した。

 そしてそれが途絶えた時。

 

「やはり貴様ならこの程度は対処するか。が、次はどうする」

 

――天碍震星

 

 先ほどまで降り注いだ岩の雨が雨粒に見えるほどに巨大な岩の塊、なんなら星の一つと言ってもおかしくないくらいの大きな岩が柱間に向かっていた。

 只者であればすべてを諦めるだろう。

 だが、柱間は怯みもせず、立ち向かった。

 

「はぁ!」

 

 千にも及ぶ仏像の手が落ちて来る岩を支え、そして砕いた。

 途端にバラバラと降り注ぐ岩たちが、先ほどとは比べ物にならないほどの規模の雨となり、辺りの地形をボコボコと変えて行った。

 柱間は仏像たちが千の腕で持っていた岩粒を、さらに迫る2個目の隕石にぶつけ、それすらも砕いた。

 止まない岩の雨の中、柱間は新たに印を結んだ。

 

――黒暗行の術!

 

 辺りを覆う暗い闇。

 それはマダラすらも飲み込んだ。

 だが、

 

「解!」

 

 輪廻眼を写輪眼に戻したマダラがその闇を打ち破り、

 

――火遁・龍焔業歌

 

 降り注ぐ岩に紛れながら柱間に複数の火炎弾を放った。

 当然構えていた柱間は、

 

――木遁・皆布袋の術!

 

 積もる岩の中から木の腕を生やし、火炎弾の一つ一つを握りしめながら、マダラも捕らえようとした。

 その一つ一つを避けて柱間に迫るマダラ。

 降り注ぐ岩がすべて落ちた時、マダラと柱間が再び拳を交わした。

 

 ガツ、ガツ、と拳がぶつかる鈍い音が辺りに響く。

 互いに息を切らしていたが、それでも止まりはしなかった。

 さらにはマダラの写輪眼に光が灯り、彼を包む大きなチャクラ体が現れた。

 

――完成体 須佐能乎!

 

 対抗するように柱間も人型の木を出した。

 

――木遁・木人の術!

 

 組み合う二つの巨大なチャクラ体が辺りの山を割け、砕いた。

 すでに二人が移動した場所、そこが里の端であり、一番被害の少ない場所だった。

 そのため、二人とも気にすることなく大技を出し続けた。

 が、ある場所への攻撃の時だけマダラの動きが鈍り、そして木人の攻撃をもろに受けてしまった。

 

 それが原因でマダラの須佐能乎も砕け、そして地へと落ちて行った。

 マダラを追うように、木人の術を維持しきれなかった柱間も落ちていく。

 二人とももう限界だった。

 

 大筒木との戦いに続き、大技に次ぐ大技。

 マダラは輪廻眼どころか写輪眼も出せず、柱間の自動回復機能は切れていた。

 

 殴り合う二人。

 響く滝の音。

 激しい二人の戦いは地形を変え、岩場だけの荒野に滝を生み出していた。

 

 水の上に浮かぶ岩を飛びながら戦う二人。

 だが先に地に膝をついたのは柱間だった。

 マダラは最後まで立っていた。

 

「やっとだ……柱間……やっと散ってくれるようだな…………」

 

 万感の思いで最後の一撃を加えようとしたマダラに柱間が腕を出した。

 

「木遁・木龍の術!」

 

 彼の腕から現れた木の龍がマダラに巻き付き、動きを完全に止めた。

 それだけではない。

 

「チャクラが……なぜだ……お前にはもうそれだけの力は残っていなかったはずだ……自動回復も……」

「この一撃の為に早めに切っておいた。マダラ、いくらお前でもチャクラが無くてはどうすることもできまい。……どうか、踏みとどまってくれ」

 

 立ち上がった柱間はマダラと同じ目線となり、そして頭を下げた。

 

「頼む。お前の無念、この世ヘの深い愛情、全て痛いほどに分かる。だが、お前の言う通りにさせるわけにはいかない! どうか、どうか俺に託してくれ! すべての忍が共に手を取り合う、俺の夢に!」

「……俺がこうなってしまった以上、夢の道を手にするのはお前のようだな……柱間…………お前が選ぶ未来に俺はいない。さあ、俺という過去を断ち切れ」

「ならん! 俺らは死にゆくだけの忍のガキだった。そしてその運命を変え、里を作った。子供が死ぬ運命を変えた! そして、大筒木とやらにチャクラを吸われるだけのこの星の運命を変えた! その全てにいたお前という過去を切り捨てるわけにはいかん!」

「だからお前は甘いんだ。もう一度……扉間を殺せと言わないと分からないのか?」

「マダラ。やはりお前は弟想いの優しい男だ」

 

 木龍に縛られたマダラがピクっと反応した。

 

「お前が一度攻撃をためらった方向、あそこはお前の弟……イズナの墓がある方向だな? イズナだけではない。お前の四人の弟たちが眠る場所も……向こうはかつて、うちは一族が暮らしていた場所だ。マダラ、弟たちへの想いを忘れないお前に過去を全て無にするようなことができるとは思えん。弟想いのお前が弟を殺せなんて本当は言えるわけがない」

 

 チャクラを吸い取られ続けるマダラの目が虚ろになった。

 そんな彼に柱間は優しく言った。

 

「拳を交わし合い、互いに分かったはずだ。かつてのお前は俺の兄で、俺はお前の弟だった。その二人がなぜ道を違え、争い続けるようになったのかは分からない。だが、俺らまでその道を歩まずとも良い。マダラ、俺らは共に運命を打ち破った同志であり、そして共に大筒木と戦った戦友だ」

「戦友…………」

 

 虚ろな瞳のマダラが呟いたとき、木龍の術が解けた。

 柱間のチャクラももう限界に達していた。

 木龍から解放され、チャクラもほぼ尽きているマダラはそれでも立った。

 そして柱間も。

 

 互いが互いによろよろと拳を突き出したが、どちらも拳の形すら定めることもできないくらいに握力は尽き、蝶が止まってもおかしくないくらいに遅いパンチだった。

 とうとう限界に達した二人はそのまま岩の上に倒れた。

 

「お前は……どうして…………そこまで俺を……お前はもう火影だ……俺がいなくともいくらでも…………」

「木ノ葉の同胞は俺の体の一部一部だ……里の者は俺を信じ、俺は皆を信じる……それが火影だ…………マダラ……お前も俺の一部だ……お前の痛みは……俺の痛みだ…………」

「信じる……か……」

 

 手が動かせないなら口で、とばかりに柱間は気力で意識を保ちながら語り掛けた。

 

「マダラ、俺らは諦めちゃいけない。どれだけ道が遠くとも、とにかく紡ぎ続ける……俺らができることは限られている。だからこそ後の者たちに託し続けようぞ」

「……どこまでも甘いことを…………お前にはできるだろうが……俺には無理だ……後ろに立たれるのが嫌いだからな」

「……そうだろうな」

 

 天を仰いで倒れるマダラと柱間。

 二人は指の一本も動けないくらいに消耗していた。

 だから、お互いの顔も見るために顔を動かすことも出来ず、二人ともよく晴れた空を見ながら語っていた。

 

「だが、隣なら違うだろう。現に今も俺はお前の隣にいる」

「…………」

「背に立たれるのが嫌なら……お前は皆を背負う俺に並んでいてくれれば良い…………火影はなにも一人じゃなくてもいい……」

 

 二人を照らす陽光はとても眩しく、マダラの目には染みるぐらいだった。

 柱間はただ天を見ながらとにかく喋った。

 

「そもそもだな、お前、俺の細胞を取り込んだ時点でただで済むとは思うな。この俺にかかればお前の中の俺の細胞に呼びかけてお前の身体を縛ることぐらい今から頑張ればできるかもしれん。もしもまだ納得がいかぬと言うのなら、俺の細胞だって黙ってはおらん」

「…………もういい」

「それにな、お前が俺に何も話す気が無いと言うのならこちらだってうちはの者たちに協力を仰いでお前が見た全ての足跡をたどり、お前の知った全てを探り当てるぞ。つまりだ、里中がお前の背中を追うということになる。どうだ? 後ろに立たれるお前にとっては背筋が凍るような思いだろう」

「柱間、もういい…………お前の腸はもう見えている」

「それだけでは足らん。俺はお前の腸を見せろと言っている」

「お前にももう見えている……お前の言った通りだ…………ったく、少しは察しろよ。どこまでも鈍い奴だな、テメーは。繊細さの欠片もねー」

 

 マダラの言葉を聞き、理解した柱間は……落ち込んだ。

 

「ひどいんぞ、そこまで言うことはないぞ」

「だーっ! またうぜー落ち込み癖出しやがって!」

「そもそも、マダラがうじうじと訳が分からないのだからハッキリ言ってくれないと察することもできないぞ」

「このっ……! 殴りてーのに殴れねー時にここぞとばかりにウザいこと言いやがって……!」

「腸、腸、俺は何度見せればいい? その割にマダラのは見えたと思えば違う違う、ばかり。理不尽ぞ……本当に、本当に俺らは腸を見せ合えたのだな? マダラぁ……!」

 

 柱間の目がうるうるとし、そして崩壊した。

 

「テメーは落ち込むのか泣くのかはっきりしろよコラ! ったく、どこまでもガキのまま変わらない奴だな……本当に…………」

 

 果たして涙を流していたのは柱間だけだったのか。

 柱間が前を見続けることしかできない以上、それを知るのはマダラだけだった。

 

「ううう……マダラ……これからも先は長い……だが、俺らならきっとやれるはずだ

……!」

「おい、柱間。テメー、さっきから鼻の音もうるせーんだよ。おい、鼻水こっちに飛ばすんじゃねーぞ。俺ぁ今避けらんねーんだからな。おい、絶対こっち向くんじゃねーぞ!」

「俺とてまったく動けん……が、鼻息でもしや行けるか?」

「試すんじゃねーよコラぁ! 汚ねーだろ!」

「き、汚いってひどいんぞ……生理現象ぞ……」

 

 忍の神と謳われた男と、うちは最強と謳われた男。

 二人は全く動けない状態でありながら、その表情は晴れやかだった。

 そんな二人に黒い影が忍び寄っていた。

 

「大筒木モモシキにキンシキ……知らない奴らが来たのには驚いたけれど、結果的にマダラは輪廻眼を開眼させた。これで母さんを呼び覚ます駒は揃った……あとはこのまま」

 

 そんな黒い影を捕まえる影がさらに忍び寄り、たちまち捕まえてしまった。

 

「なんだ、貴様は。これもマダラの術か? いや、それとも大筒木とやらの術か?」

「は、放せ!」

 

 黒ゼツの首を掴み上げた扉間は当然ゼツの言うことを聞くことも無く、尋ねた。

 

「貴様、兄者たちに忍び寄ろうとしていたな」

「なぜ俺に気づいた?!」

「感知だけなら俺は兄者より上だ。貴様の目的をさっさと答えろ」

「チッ!」

「待て! ……逃がしたか……が、今はそれよりも兄者たちだ。なんて有様だ」

 

 周囲に警戒しつつ、扉間はその変わり果てた周囲を眺めて呆れた。

 なんということでしょう。

 これまでは無骨な岩場だった場所に広がる湖、そしてそこに繋がる巨大な滝、砕け散った岩が積み重なってできた自然の崖と踏み越え石たち。

 その石たちの中心に扉間の兄とその戦友は寝そべっていた。

 

 気力を使い果たしたのだろう。

 二人ともそのままの姿で目をつむり、眠っていた。

 

「ったく、忍がここまで堂々と眠っていてどうする」

 

 扉間はその姿を見下ろした。

 天を仰ぐ姿勢で大の字に寝そべるマダラと柱間。

 二人の片手が重なっていた。

 手は、拳を握り損ねたのだろう。

 それぞれの二本の指が重なっていた。

 仲直りを申し出ているかのように。

 

 

 

 

 その後、対面する二人が互いに二本の指を重ねる印は『和解の印』と呼ばれ、マダラと柱間が争い、滝すらも作り出したそこは『始まりの滝』と呼ばれるようになった。

 そこにはマダラと柱間を模した二つの像が向かい合って建てられ、そして『和解の印』を結び交差する腕が滝の流れを緩やかにしていた。

 

 大筒木との交戦からそう日が経たないころ、柱間と扉間は秘密裏にマダラの見送りに出ていた。

 

「マダラ、本当に行くのか?」

「ああ。大筒木の痕跡を探りに行く。お前の弟が見たという黒い影や、それに尾獣どもを先に捕獲せねばならん。これは輪廻眼を持つ俺にしかできないことだ」

「マダラ、お前は一度里を出た身であり、表向きはこの扱いは変わっていない。今、木ノ葉以外にも里ができ始めている。里に所属しない忍がどのような扱いになるのか……注意しておけ」

「んなことわざわざ言われなくても分かってる。じゃあ、そろそろ行く」

 

 扉間の忠告をうるさそうに聞いたマダラは背を向けた。

 

「兄者」

 

 その背を見守る柱間に扉間が促した。

 

「おお! そうだった! マダラ!」

 

 すぐさま柱間は駆け出し、マダラの後ろに立った。

 

「だから俺の背後に立つんじゃねーぞコラぁ! テメー、わざとやって俺の旅立ちを邪魔してんだろ!」

「そ、そんな……俺はただ渡したいものがあっただけぞ……ひどいんぞ……」

「ったく、門出にまでその辛気臭い落ち込み顔を見せるんじゃねーよ。ほら、渡したいものをさっさと渡せ。チンタラしてっと里の奴らに見つかるぞ」

「うむ! 忘れ物だぞ」

 

 柱間が渡したそれは木ノ葉マークの入った額当てだった。

 

「……俺は里を抜けた忍扱いって話をしたばっかりだろうが」

「表向きはと言ったはずだ。貴様が木の葉に所属していることに変わりはない。隠し持っておけ」

「そうだぞ、マダラ! お前は木ノ葉の里のうちはマダラ! そして火影の俺に並び立つ戦友だ!」

「ったく、荷物を増やしやがって…………」

 

 額当てを受け取ったマダラは無造作に着物の隙間にねじ入れた。

 だが、その顔は明るかった。

 対する柱間の顔はやや暗い。

 

「マダラ、何かあったら俺を呼べ。すぐに駆け付ける」

「火影が里を離れてどうする。お前は里を守れ」

「俺の木分身も連れて行くか? そうすればいつでも連絡が取り合えるぞ」

「んな鬱陶しいもん連れて歩けるか!」

 

 マダラは柱間を一喝し、また背を向けた。

 

「また連絡はする。そうしないと里を裏切ったとそこの面倒なお前の弟に思われそうだからな」

「よく分かったな。定期連絡の方法は伝えた通りに行うように」

「マダラ! いつでも連絡していいからの! もし木分身が欲しくなったらいつでも寄越すぞ!」

「ぜってーいらねー!」

 

 いい加減付き合っていられないとばかりにマダラは駆けだした。

 

「兄者、あとはマダラを信じて待つとしよう」

「そうだな。俺はマダラに託した。俺もマダラに託された夢のために尽力しよう」

 

 こうしてマダラの姿が見えなくなるまで見送った千手兄弟は里の中へと戻った。

 一人になったマダラは川を見つけ、さっそく横道にそれた。

 

――お前はそれでいい、柱間。火影は里を守り、そして俺は火影を影から守る。これが俺なりの夢へ続く道だ。

 

 マダラは足元にあった石を拾い、川に向かって投げた。

 

――柱間、俺の感じた苦しみや絶望がお前に伝わったように、お前の希望と諦めない意志が俺にも伝わって来た。俺はその全てから逃げようとした。お前はいくらでも力で俺を制することはできたはずなのに……お前はひたすら頭を下げた。弟を思う俺の気持ちを信じ続けてくれ、そして並び立ち続けた。俺はそれに……救われた。

 

 投げた石は途中でぼちゃんと落ちた。

 マダラはまた新たに石を投げた。

 

――ちっぽけで、大きな運命に飲み込まれるしかなかった俺たちは抗い続け、そしてここまで来れた。お前が諦めなかったからだ……とは言っても、誰もがお前のようにはなれないだろう。だが。

 

 石はてんてんと川を横切るが、またしても途中で落ちた。

 それでもマダラはもう一度投げた。

 

――かつて俺たち忍は憎しみをただぶつけ合い、殺し合うだけだった。それをお前が変えた。

俺たち忍の在り方を…………なあ柱間……祈りにも似た思いを次へと繋げ、忍び耐える者たちへと……それがこれからの忍者なのかもしれないな。

 

 川の表面をてんてんと走る石がついに向こう岸へまで渡りきった。

 



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