後始末屋の特異点   作:緋寺

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襟帆の理由

 この戦いの真相を、何も知らない整備士達に語る神通。その中で、響によって拘束された整備士が出洲シンパであると語られるとどうしても疑問を持ってしまう。

 その疑いを晴らすため、工廠にやってきたのが、この鎮守府のトップ、襟帆提督と、今は護衛を仰せつかっている夕張。

 

「私が彼女達に伝えたからです」

 

 出洲シンパ達にとっては、これは堂々とした裏切り行為。しかし、襟帆提督が脅されてその選択をしたようには見えない。自らの意志でこの道を選択して、今この時に出洲を後ろから刺すために行動を起こしたとしか思えない。

 うーうーと呻いているが、襟帆提督はそれを一瞥するだけで、視線は神通の方に向いていた。

 

「説明をしてくれていたのですね。しかし、どうしても理解は難しいこと。私も裏側を知るからこそ、貴女達の言葉が理解出来るだけ」

「そうですよね。うん、そうでしょう。それについては何も言い返せません。信じてもらうしかないとしか言いようがありませんから」

 

 今ここで全てを証明することが出来ないのは、神通だけでなく襟帆提督もわかっている。だが、班長達には嘘など無しにただ伝えることしか出来ない。

 

「提督さんよ、こりゃあどういうことだい。アンタがコイツらを潜入するように手引きしたってのか」

 

 班長が襟帆提督に詰め寄ろうとするのを見て、すぐさま夕張が間に入ろうとする。しかし、襟帆提督がそれを制した。班長の行動は不当でも何もなく、当然のモノであると理解しているから。

 

 潜入に関しては手引きまではしていない。来たら迎え入れるつもりだったが、まさか透明になって入り込むだなんて思っていなかった。

 だが、襟帆提督は素直に頷いた。受け入れるつもりということは、手引きしたも同然。その上、鎮守府の情報をうみどりに流していたまであるのだ。

 

「ええ、その通りです。私は、元よりこの鎮守府の敗北を望んで、この戦いに挑んでいます」

「……どういうことだ。アンタの口から説明してもらえるか」

「そのために、ここに来ました。私の発言が虚言のように思えるかもしれませんが」

「そりゃあ……アンタ次第だろうさ。俺達にはちんぷんかんぷん、さっぱりわからない。理解出来るように説明を頼む。横槍は入れない」

 

 話の腰を折らないと約束し、班長は他の整備士達にもいいなと同意させる。班長だけではない、整備士達は全員が訳のわからない状態だ。そんな状況でこの危険な現場に提督自身が出張ってきたのならば、()()()()()()()()()()()()という証明。

 それでも横槍を入れようとする現代アート達だが、響が首根っこを掴むと、とてもいい笑顔で1箇所に集めた。黙っていろという囁き付きで。これ以上のことをいくらでも出来るんだぞと、1人にはそっと鼻眼鏡をかけている辺り、ひたすら尊厳を破壊することに特化しているようである。

 

「まず、私はある男の言いなりとなって、この鎮守府を運営していました。神通から聞きましたか。出洲という男です」

「今名前くらいは聞いたな。何処の何奴かは知らないが」

「出洲は、第二次深海戦争の際に、純粋な艦娘の命を利用して、今の艦娘のシステムを作り上げた者です。唆したのは、阿手という女ですが、そちらは今は考えなくてもいいでしょう。その男が今、世界の裏側で歪んだ平和のために研究を続けているのです」

 

 まださっぱりわからない説明に、整備士達は首を傾げる一方。この鎮守府で働いている妖精さんのように、そう簡単にはわからない。とはいえ、まだ今のは出洲のちょっとした説明に過ぎない。本題はここから。

 

「出洲は自分の意志にそぐわない平和を、ことごとく排除し続けてきた。人類が皆高次の存在となれば争いがなくなる。その上で、自らで管理し、争いという争いを奪い取り、自由も、文化も無くなれば、この世界は平和になる。本気でそう思っているのです」

「……極端すぎるだろ」

「はい、その通りです。ですが、出洲は()()()()()()なのです。そして、それが出来るくらいに強大な力を持ってしまっている。死者を蘇らせることを、簡単にやってしまうくらいには」

 

 襟帆提督は少しだけ目を伏せ、だがすぐにそれに対抗するための意志を見せる。

 

「彼の望む平和を、共に望む者達も数多くいます。ですが、表立って行動したら、()()邪魔をされて始末されてしまう。そのため、どうしても隠れ蓑が欲しかった。深海戦争が始まった今は尚更です。彼は今、深海棲艦の姿をしていますから、理解者がいなければ、すぐにでも研究の邪魔をされてしまうでしょう。……軍内にも息がかかった者はいます。それらのように」

 

 固められた現代アート達(それら)にまた目を向ける。響が遊びで頭に花を置いたりしているのを見て、緊張感がないなと苦笑しつつ、ああいうのが他にもいるのだと語る。

 他の鎮守府に忍び込むことは難しいが、ここは出洲の本拠地と最も近い場所。置いておかない理由がない。他の鎮守府の動向は、軍内にいる者達や、他の一般人に紛れた者達を使えばいいだけ。

 

「またっつったが……一度邪魔をされてるってことかい」

「はい、第二次深海戦争の際に、純粋な艦娘達に報復され、命を奪われています。しかし、その技術によって蘇り、そして……そこから頭のネジが外れてしまった。歪んだ平和を望むようになったのは、それからです。力を得てしまったことで、それにより拍車がかかってしまった」

 

 これは神通達からしても初めての情報。出洲は元々おかしかったと考えていたが、死んで蘇ったことで、よりおかしくなった。襟帆提督はそう話した。

 ここにいるカテゴリーKも、明らかにおかしな部分がある。ブロックワードのことはさておき、高次であることを誇りと思い、無意識にでも普通の存在を見下しているような思考回路になっている。それは、出洲にも同じことが言えるということだ。

 

 とはいえ、阿手が唆したといえど、艦娘の命を使った研究というのをやっている時点で何処かおかしいというのは間違いないのだが。

 

「この鎮守府は、第二次深海戦争の末期から出洲の意志に賛同していた者達が秘密裏に作り上げた隠れ蓑です。その研究成果である蘇生した者の艦娘……うみどりの言い方に倣い、カテゴリーKと呼びましょうか。彼女達を運用しながら、彼の邪魔をさせないようにするために。全てを知る者であり、彼の意志を理解した者に管理させることで、彼は自分のやりたいように研究を続けてきた。しかし、あまり知る者のみで固めた場合、ボロが出る可能性がある。そのため、私と、それら、そして、一部の者を除いて、何も知らずに運用することとなった。その結果、今の特異点が生まれるまでは、隠し通してこれたのです」

 

 その要因は全て私にあると自嘲気味に語る。これまでは完全に出洲一派として行動してきたのだから、ここまで誰にもバレなかったのは自分の責任でもあると。

 

 だが、今になって、出洲に対抗出来る特異点が誕生したことによって、この好機を利用することとなった。特異点側が出洲に即座にやられるようなことが無かったこと、うみどり全体が対抗出来る程の組織だったことが大きくこの戦いを好転させてくれた。

 阿手の暴走もその中に入るだろう。自分が一番になれないことを焦ったか、やたらと特異点にちょっかいをかけ続け、出洲の与り知らぬところで特異点を成長させてくれたことも大きい。

 そしてトドメ。出洲自身が特異点が厄介であると、自ら宣戦布告に近いことをやってくれた。全ての流れが特異点へと向かっていった。

 

 それは、僅かながら襟帆提督達の願いの賜物でもある。優しい願いを叶える特異点。この世界を魔の手から救ってほしい、自分達には出来ないけれど、誰か。そんな苦しい願いを、願いの実は拾い上げていたのだ。

 故に、流れは深雪が生まれた時点で、少しずつ少しずつ、出洲に不利になるように動いていた。力の差は埋められずとも、チャンスを与えるために。

 

「提督さんよ、流石に気になることがあるんだが、聞いていいかい」

 

 ここまで聞いて、班長は許可を取って口を挟む。襟帆提督は静かに頷いた。

 

「アンタが裏で牛耳られてて、従わざるを得なくなって、俺らに隠しながら出洲って奴の思い通りに動いてたのはわかった。そんなに強いなら、命の危険ってのもあるんだと思う。でもそりゃあ、今だって同じだろう。こうして助けは来てくれたっつっても、そいつはお構い無しに全部ぶっ壊すことが出来るくらいの力を持ってんじゃないのかい」

「……そうですね。彼の力は、一言で言えば異常です。これまでに特異点を有した鎮守府を複数、彼自身が破壊している。部隊を引き連れていったのではなく、彼のみで、です。その鎮守府が歴戦と言えるモノでは無かったとはいえ、そこまで出来る力を持たれているならば、我々でも対抗は不可能でしょう。しかも、艦娘の中に出洲に従う者もいる。もし叛逆を企てようものなら、何も知らぬ貴方達も始末されていた。それはよろしくない」

「気遣ってくれてるのはありがたい。でもな、最初からここが無ければ、こんなことにはならなかったんだろ。なんでアンタは従ってたんだ。怖くて従うのは仕方ない。でも、最初は知らないだろう。この鎮守府が出来た時には、もう出洲とかいうやつと顔見知りだったってことだよな。そうじゃなきゃ、ここまで信用された鎮守府は作れないはずだ」

 

 勘が鋭い班長からの言葉に、襟帆提督はその通りですと頷く。特異点側は既に知っていること、温品という名前も持ち出されている辺りで、第二次深海戦争の時点から、襟帆提督と出洲には浅からぬ因縁があるのではないかと。

 

「……そうですね、それを話さなければ、私が未だ裏切り者である可能性が否定出来ない。何故このような鎮守府を立ち上げる基盤に据えられたのか。出洲からある程度の信頼を勝ち取れているのか。そして、今こうして後ろから刺すことに躊躇がないのか」

 

 襟帆提督は、意を決したような光を目に宿した。ここには調査隊もいる。後始末屋の者もいる。ならば、ここで話してしまえばいいと。

 

「私が彼に従っているようにしてまで寝首を掻こうとしている理由……それは、父が彼の同業者だったから。私は彼の研究が許せない。私怨と言われても仕方ありませんが、どうしても彼を止めたかった」

「それじゃあわかりにくいな。私怨とはいえ、いろんな奴を巻き込んでまでやることじゃあない」

「そうですね、ええ、そうですとも。それは本当に申し訳ありません。でも、それだけのことをしたかったんです。何故なら……」

 

 拳を握り締め、初めて感情的な表情を見せる。

 

 

 

 

「私の父は、彼に殺されたようなモノなんですから」

 

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