箸休めにでもご笑覧くださいませ♪
大遅刻ですが、バレンタイン短編を奉納致します!
LASぅ?バカめ、奴は甘さに耐えきれず弾け飛んだわ!
どうぞご笑覧くださいませ♪
──あり得たかもしれない世界線。
「・・・・・・父さん」
「ああ、時は来た」
「ありがとう。僕のワガママに付き合ってくれて」
「問題ない。私にとっても重要な事だ」
「・・・はは。なんか、父さんをこんなに頼もしく思ったのは初めてだよ」
「私もだ。お前とこうして心を通わせられるとは、思いもしなかった」
「さあ、はじめよう・・・」
「ああ・・・」
『ミライの本命チョコ奪還作戦を・・・!』
▼△▼△▼△▼△
「ちょっと!バカなんじゃないのぉ!?」
黒髪のロング、すこしウェーブがかかった髪をカチューシャで抑えて、第3新東京市第壱中学校の制服に身を包んだ少女は逃げていた。
誰から?
それはもちろん、銃火器を乱射してくる黒服たちから、である。
「ここって住宅街よ!?なんでサブマシンガンなんて乱射してるのよ!?」
『安心しろ。訓練用のゴム弾だ。当たっても死ぬほど痛いだけで済む』
「全然安心できないわ!つーか、あんたら誰の差し金よッ!」
『それを口にする程、我々はバカではない。だが、我々は『あの方々』の想いに賛同した者達、とだけ言っておこう。碇ミライ!』
「それを聞いて大体わかりましたぁ!パパとジィジじゃない!ふざっけんな、こんにゃろめぇ!!」
黒服たちの銃撃から逃げ回っていた少女、碇ミライは、隠れていた遮蔽物から一気に飛び出した。ゴム弾を乱射する黒服たちに動揺が走る。
「やめろ!間違っても当てるんじゃない!」
「いや、しかし・・・!!」
「ゴトーさん、タカハシさん、イソダさん、ヤシマさん!ごめんね!!」
ミライは黒服たちの名前を一人一人丁寧に呼び、謝罪と共に彼らの首に延髄斬りを叩き込んだ。
「・・・ふっ、いい蹴り、だ」
「強く、なったな、ミライちゃん・・・」
「もう、あの頃の泣き虫な君はいないんだな・・・」
「ふふふ、少し寂しいよ・・・」
蹴りを叩き込まれた四人全員が、なぜか良い笑顔でその場に崩れ落ちる。その幸せそうな口元に、ミライは一口チョコを的確に投げ込んでいった。
「はい、メリーバレンタイン!これで勘弁して!!」
『バカものぉッ!!標的から義理チョコとはいえバレンタインチョコをもらうやつがあるか!我々の使命を忘れたのかッ!?』
「スミノさんもメリーバレンタイン!!」
『ぐああ!!』
一口チョコを散弾銃のように投げつけられた黒服の最後の一人が、あまりの衝撃に耐えきれず吹っ飛ばされる。
「ああ!一人だけそんなもらって隊長ずるくないっすかぁ!?」
『ば、バカもの・・・!これは名誉の負傷だ!断じて嬉しくなどないわ!』
「めっちゃニヤケ面で言われても説得力ないっすよ!!」
「みなさん悪いんだけどチョコあげたんだから大人しく寝てて!!」
ミライは倒れた黒服たちに一人ひとり丁寧にトドメを刺していく。
ミライの背中から、怒りの炎がメラメラと立ち上がった。
「あんのクソ親父ども、毎年毎年しつこいってぇの!!どうせどっかで見てんでしょ!?今からソコに行くから覚悟しなさいッ!」
第3新東京市の各地に設置されたNERVの監視カメラ。その一つに向かって、ミライは堂々と宣戦を布告した。
◇
「目標!第一防衛ラインを突破!」
「本部内のエレベーターの電源を遮断!・・・・・・!?バカな!階段で来るつもりか!?」
「目標!速度をさらに上げて接近中!ダメです!速すぎて映像に捉えられません!」
「第一種戦闘配置を維持!第二、第三防衛隊を応援に向かわせてください!」
NERV第二発令所は、まるで使徒を迎撃するかのごとき騒ぎであった。かつての葛城ミサトのようにミドルデッキで額に汗をかきながら指示を飛ばすのは碇シンジ。
ミライの実の父親だった。
「防衛隊、合流完了!・・・・・・え!?」
「どうしたんですか!?」
「通信途絶!バカな・・・速すぎるッ!」
「クソォッ!」
シンジは拳をコンソールに叩きつけた。
「ミライ、どこまでパパを苦しめれば気が済むんだ・・・。まだお前には本命チョコなんて早すぎる。なぜそれがわからないんだ!!」
「碇シンジ特務作戦課長」
「父さ・・・碇司令」
「わかっているな?失敗は許されない。15年前から我々が危惧していた事がとうとう起きたのだ。ミライが14歳の誕生日を迎え、中学2年生という思春期真っ只中に突入した今、ミライの本命チョコの奪還は我々の悲願だ」
「ええ・・・わかっています・・・!」
シンジがギリリと奥歯を噛み締める。
(ミライが昨日の深夜にコソコソと作っていた手作りチョコ。絶対に相手がいるはずなんだ・・・!)
そんな相手の顔など見たくもないし知りたくもない。しかし自分の手の届かぬところで、最愛の娘が何処の馬の骨ともわからぬ輩に奪われる可能性だけはなんとしてでも阻止したい。
追い詰められたシンジは苦渋の決断を下した。
「・・・本命相手の調査、捜索に回していた班を合流させます。よろしいですね?」
「構わん。使える手は全て使いたまえ」
「ありがとうございます!」
シンジはゲンドウに向けて最敬礼をした後、オペレーター陣に矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。その背中に頼もしさを覚えたゲンドウは、組んだ手で口元を隠しながらニヤリと笑った。
この作戦に参加しているNERV職員は有志である。生まれたときからミライを知っているが故に、ゲンドウとシンジの志に同調し「我々のミライちゃんを奪いたければNERV全てを薙ぎ倒していけ!」との気概で臨んでいる者達だ。
こういった嫌がらせを、ミライは物心ついたときから毎年受けていた。幼稚園入園と同時に同じ組の男子との関係を徹底的にマークされ、プライベートもクソもあったものではない扱いを受けてきた。
結果として、ミライは齢14という年齢に達して尚、初恋というものを経験した事がない。
実の父親と祖父に恨みを持つのも当然といえる。
しかしこの親バカどもに、そんな恨みつらみなど通用するわけがない。通用してないからこそ、今こうしてミライの本命チョコ奪還作戦などというバカ騒ぎに本気で取り組んでいるのだから。
よって、ミライは一つの結論に至る。
バカにつける薬はない。
ならば拳でもって黙らせるのみ!!
母アスカの遺伝子と英才教育の賜物。ミライの格闘技術はもはやNERVにおいて並び立つ者がいないほどの域へと達していた。
「目標補足!」
「映像、メインモニターに回します!」
メインモニターに大きく表示されるミライの姿。階段の物陰に隠れてはいるが、その表情からは親に対する憎しみにも似た感情をありありと読みとることができる。
その表情に苦々しいものを抱きつつも、シンジはミライの姿に違和感を覚えた。
「なんでこんなところでコソコソしているんだ?」
14年間毎日欠かさずに見続けた顔、そして娘の性格から、ミライがこんな所で留まるはずがないと確信を持つシンジ。彼女の戦闘力を考えれば、尚更あり得ない行動であった。
(何を考えている・・・・・・、いや、待っている?)
そこまで考えが行き着いたシンジの顔が凍りついた。
「しまった!デコイだ!!今朝の寝癖の位置が3ミリ違う!!」
シンジの指摘に発令所がざわっとどよめく。
その瞬間───、
「気付くのが遅いわよ!バカ親父ぃ!!」
メインデッキ、碇ゲンドウのいる場所からボオン!という爆発音が聞こえた。
「ぐあっ!!」
「しまった!父さん!!」
「メリィィイイイ!バレンタインッ!!」
シンジが上階に目を向けた瞬間、煙幕から躍り出てきたミライがメインデッキから飛び降りると同時、手にした鞄に「これでもか!」と詰め込んだ一口チョコを雨霰と銃弾のようにばら撒いた。
もちろん、憎しみを込めて、全力で。
「くっ!」
ミライの行動をいち早く察知したシンジが一瞬でコンソールの下に身を隠す。しかし、その他のオペレーター達は間に合わず、その顔面に一口チョコをめり込ませて次々と倒れていった。
一口チョコの雨がおさまればそこには、NERV職員の屍の山が築かれていた。
シンジの隠れているコンソールに、カツ、カツと足音が近付いてくる。
(ここまでか・・・)
シンジは悔しさに顔を歪めながら、コンソールの下から這いずり出てくる。その眼前に、鬼の形相で愛娘が仁王立ちしていた。
「驚いたよ・・・まさかデコイを使ってくるなんてね」
「でしょうね。昨日、夜鍋して作ったかいがあったわ」
「なんだ。何かやってると思ったら、アレを作ってただけ、か・・・。ふふ。僕も耄碌したなぁ」
「言い残すことはそれだけ?パパ。覚悟はいいのね?」
「ああ。もう、いい。十分だよ」
満足げな笑みを湛えて、シンジは諦めたように両手を上げた。
ミライが右腕を振り上げる。
シンジは覚悟を決めて、ゆっくりと目を瞑った。
「・・・・・・・・・・・・んんんん??」
シンジの口の中に広がる甘み。
まさしくそれは、チョコレート。しかも、生チョコトリュフであった。
「ハッピーバレンタイン・・・」
シンジが目を開ける。目の前には、顔を赤らめて自分の口の中にチョコを押し込んだ愛娘の姿があった。シンジの頬を涙が伝う。
「もういい加減、こんなバカ騒ぎやめてよ。普通にパパとジィジにチョコ作ってるだけなのに、こんなの毎回付き合ってられないよ」
「ミライ・・・ッ!!」
シンジの目から涙がとめどなく溢れてくる。感動のあまり、思わず口元に手を当てて、シンジは言った。
「このチョコ・・・ちょっと塩っぽいかな・・・」
こんなに嬉しい事があるだろうか。娘が危難を乗り越えて、自分の元下にチョコを必死に届けにきてくれる。親としてこれ以上の喜びはないと断言できる。
これだから、やめられないのだ。
「・・・なに浸ってんの?言っとくけどあたし、めっちゃ怒ってるんだからね?」
「え?」
シンジの疑問に答えるように、ミライが親指をくいっと上に向けた。
「ゲンドウさん?毎年毎年ほんとに大人げがありませんわ。今年はどんなお仕置きがよろしくて?ちょうどここに新薬のサンプルを持ってきましたの。いかがかしら?」
「ま、待てリツコ君・・・。話せばわかアッー!」
上階からゲンドウの断末魔が聞こえる。
「バカシンジ・・・」
ゆらりと、背後に殺気。その殺気の主を、シンジはよぉく知っている。振り返ろうとした頭をガシッと鷲掴みにされ、振り向くことも許されない。
「あんた、バカぁ?実の娘にゴム弾バカスカ撃ち込んでおいて、それでチョコをもらってハイおしまい?そんなわけないでしょ常識的に考えて・・・」
とても静かな、最愛の妻の顔がぬうっとシンジの肩に乗る。
「『今年も』よ。シンジ。逃げられると思わない事ね・・・」
獲物を捕らえた肉食獣が、シンジの肩で牙を剥いていた。
「み、ミライ・・・」
「ミ〜ライっ!ママはパパとちょ〜〜〜っとお話があるから、今日はNERVに泊まるわね♪たまには一人の時間を楽しみなさい!」
「はぁい!ママ、ありがとう!!」
「た、助け・・・」
「逃すかボケナス」
首根っこを掴まれたシンジが引き摺られながら発令所を後にする。残されたのは仕事をやり終えて満足げなミライと、倒れたNERV職員たちの哀れな姿だけだった。
「ふぅ〜〜〜〜!!今年もバレンタイン、終〜了〜っと!」
大きく伸びをして、ミライは家路に着く。今年こそ、自分の父親と祖父が諦めてくれるように願いながら。
「あーあ。あたしの初恋っていつになるんだろう・・・」
チョコレートのように甘い理想の初恋相手に出会う事を夢見つつ、思春期特有の甘酸っぱい悩みを添えて。
▼△▼△▼△▼△
その夜。
ミライは久しぶりに夜更かしをして、友達と電話で語り明かし、しっかりとシャワーを浴びて、ぐっすりと眠った。終わってみれば自分だけの自由な時間が待っている。これが無ければ、毎年のバカ騒ぎになんて付き合ってられない。ミライはバレンタインの日にこういった時間を作ってくれるアスカが大好きだった。
「今夜はいい夢見られそう♪」
そう呟いて、ミライは夢の世界へと旅立っていった。
◇
ところで───。
「も、もう許して・・・アスカぁ・・・」
「なぁに切なげな声出してんのよ。いい?コレは罰なのよ?あんたは黙ってアタシの罰を受け入れていればいいの。わかった?」
「そんな・・・こんな、の・・・生殺しだよ・・・」
「そんなこと言いながら毎年懲りずにやってんじゃない。本当はあんたも期待してんでしょ?あたしの『お仕置き』を、さ♪」
NERVの一室で、両手を縛られて身動きの取れないシンジはチョコを体の至る所に塗りたくられ、アスカの舌で一晩中舐め取られ続けるという『お仕置き』を食らっていた。
夫と義理の父の奇行を静観し、娘が暴れまくった後に颯爽と現れ、娘に一人の時間というご褒美を与えて好感度を稼ぎつつ、シンジとの二人きりの時間を手に入れて朝まで思うがままに弄ぶ。
策士アスカの見事な一人勝ちであった。
終劇
最後まで読んで頂き、ありがとございました!
あまり見なかったので碇ミライちゃんの話にしてみました!
ミライちゃんの見た目は女装したシンジ君をイメージしてます!