さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
敵艦より高エネルギー反応、という報告を受けた頃には、もう全てが遅かった。
通常空間に折り畳まれた状態で存在している余剰次元。それを炉内へと取り込み展開する事で無限に近いエネルギーを得る波動エンジン。そのエネルギーを用いて放つ波動砲の輝きは、ゲルンも確かに覚えがある。
回避も何も、総てが遅きに失した。如何に全長1240mのアポカリクス級『ラグナロン』でも、惑星を吹き飛ばす波動砲に対する防護は想定していない。余波を喰らっても危険であろう。
射線上のラスコー級やククルカン級、前期カラクルム級を巻き込んでなおも直進したそれは艦隊の眼前で一際強い光を放つなり、ビッグバンさながらに膨れ上がった。
いや、膨張したのではない―――拡散したのだ。
波動砲へのエネルギー供給の段階で、薬室内でそれぞれ『右旋波』と『左旋波』の2種類をぶつけた状態で発射する事で可能となる波動砲の拡散。キイに率いられたヒュウガ級たちによる統制波動砲射撃は、それだけでプロキオン方面艦隊を撃滅するに十分足るものだった。
―――どうしてこうなった。
眼前まで迫った死の気配。その中でゲルンはふと、己の失策はどの段階で始まっていたのかを考え始める。
しかしその答えは出なかった。爆発的な勢いで拡散した波動砲のエネルギー弾が土砂降りの如く降り注ぎ、その弾雨がアポカリクス級『ラグナロン』をも捕え始めたからだった。
降り注ぐ巨大なエネルギー弾が甲板を豆腐さながらにぶち抜いていく。陽電子ビーム砲にも対艦ミサイルにも耐え抜く分厚い装甲も、対ビームコーティングも何も意味を成さない。圧倒的な力の前に屈服するかのように蒸発し、消滅し、閃光を発して燃えていくばかりだ。
艦首から艦尾に至るまでをぶち抜かれ、青白い爆炎に包まれるラグナロン。
周囲の護衛艦も同様の末路を辿っていた。回避するべくスラスターを吹かしていたカラクルム級が艦橋の根元をぶち抜かれ、船体を真っ二つにして沈んでいく。ククルカン級は2つに引き裂かれ、ナスカ級は真正面から船体をちくわの如く貫通されて爆ぜ、余波を浴びたラスコー級は全体の装甲を引き剥がされて無残な姿で炎上、錐揉み回転し墜落していく。
どこからどう見ても、敗北としか言いようがなかった―――それ以外に例えようがなかった。
「バルゼー司令……我々は…………負けた……」
戦わずして敗北する屈辱を胸に抱いた次の瞬間、エネルギー波の余波を受けた艦橋が吹き飛んだ。
船体後方、機関部からキリンの首さながらに伸びた艦橋が崩落を始める。ゲルン提督や艦橋要員たちの肉体を塵すら残さず消滅させた波動砲の閃光が消え失せ始めた頃には、もうどこにもプロキオン方面軍の姿はなかった。
「敵艦隊の撃滅に成功!」
わぁっ、とキイの艦橋内が歓声に包まれた。
無理もない話である。あれだけの戦力差を見せつけられ、絶望に打ちひしがれていた中での完全勝利なのだ。数に劣ってこそいるが、それでもこちらには波動砲がある。物量など簡単にひっくり返してしまえる虎の子の一撃が自分たちにはあるのだ―――その強みを改めて再認識させるかのような、確かな勝利だった。
これで脅威であった機動艦隊は完全排除された。
あとは機動艦隊を転進させて敵の主力に向かわせれば、攪乱のためヒペリオンに展開している速河艦隊、山南司令率いる主力の山南艦隊、そして西村艦長率いる機動艦隊で3方向から包囲し殲滅できるであろう。
今この瞬間、戦局は地球軍優位に傾いていた。
この戦い、勝てる。
誰もがそんな希望を抱き、西村艦長の次の命令を待っていた。
「―――艦長、前方に異常な重力振」
次元センサーを監視していた観測員が、勝利の歓喜に水を差すような報告を上げたのはそれからすぐの事だった。
重力振……物体がワープアウトしてきたり、あるいは次元潜航艦が亜空間から通常空間へと浮上した際に生じる、いわば「空間に生じる波紋」だ。その揺らぎを観測する事で、宇宙戦艦のワープアウトや次元潜航艦の潜航、浮上を探知するのである。
こんな時にいったい何が、よもや敵の増援ではあるまいか……そう予測した西村艦長だったが、しかし続く観測員からの悲鳴じみた報告が、更なる絶望を叩きつけてきた。
「この反応……戦艦規模ではありません。
「なに?」
ゴゴゴ、と艦が揺れた。
地震さながらの地響きに、思わず身構える。
当たり前だがキイは宇宙戦艦だ。地震など起こるはずもない。
まるで見えざる巨人がキイの船体を前後から掴んで、激しく揺さぶり続けているかのような振動だった。
それはきっと、”宇宙の絶叫”なのだろう。
本来あるべきではない場所に、常軌を逸した質量がいきなり転送されてくる―――物理法則を鼻で笑うかのような冒涜的な現象に、宇宙そのものが悲鳴を上げているようにも思えた。
唐突に、幾何学模様を思わせる光のリングが幾重にも前方に出現した。それは旧い時代、ヨーロッパの魔術師たちが悪魔の召喚を試みた際に描いたという魔法陣を思わせるものだ。
直後、目の前が真っ白になった。
艦橋の窓から差し込んでくる白い光。ビッグバンでも生じたのかと思ったが、違う。
目の前に現れたのだ。
魔の巨大彗星―――白色彗星が。
「は、白色彗星……ワープアウト」
気の抜けたような声で、観測員が報告した。
白色彗星がワープする―――その報告は、テレザートからの帰路についているであろうヤマトからの報告にもあった事だ。紛れもなくあれはガトランティスの”天体兵器”であり、単なる彗星などではない。
それは、文明を滅ぼす死の方舟。
「転舵反転、全艦急速離脱!」
ゴゴン、とキイが振動した。
「重力傾斜、急激に増大!」
「バカな」
彗星の発する重力の規模などたかが知れている。波動エンジンを搭載した宇宙戦艦の推力であれば、苦も無く離脱できる程度だ。
しかし、この白色彗星の重力はどうか。
キイも、ヒュウガ級も―――推力だけでは振り切れないほど強烈な重力傾斜を受け、凄まじい勢いで白色彗星へと引き寄せられているではないか。
撃沈した敵艦の残骸があっという間に吸い込まれ、純白のガス帯に接触した途端に塵も残さず消滅してしまう。
やがてそれと入れ違いになるように、白色彗星から無数のガスが触手さながらに伸び、キイや他のヒュウガ級へと向かって襲い掛かってきた。
スラスターを吹かし、艦を回頭させながらも何とか回避を試みるキイ。しかし船体を掠めたガスにより波動防壁はあっという間にダウンしてしまい、そればかりかガスが接触した第3補助エンジンが根元からごっそりと抉られるという大ダメージを負ってしまう。
左舷上部の補助エンジンを失い、爆発に船体を揺るがすキイ。
その隣ではガスを回避し損ねたヒュウガ級空母『タイホウ』が甲板をごっそり抉られ爆散。轟沈し、そのまま彗星へと吸い込まれていった。
ショックカノンで弾幕を張り、迫りくるガスを吹き飛ばすホウショウ。しかし変化球の如く急に進路を変えて突っ込んできたガスをもろに受けてしまい、船体を真っ二つに叩き折られて沈んでいった。
「緊急ワープだ!」
「しかし重力傾斜の影響で転送座標が!」
「構わん、どこでもいい! ショウカクとズイカクをワープで離脱させろ!」
「艦長、本艦は!?」
「我先にと逃げ出す大将がいるかッ! ギリギリまで踏み止まる!」
隠匿式のパルスレーザー群を全て展開、速射魚雷やショックカノンも全弾発射して、迫りくるガス帯を次々に振り払うキイ。
実験艦とはいえヤマト級の端くれだ。かつてイスカンダルへの航海を成功させた宇宙戦艦ヤマトの魂は、この末妹にもしっかりと受け継がれている。
ガスが掠め補助エンジンをやられながらも、ズイカクが先んじてワープで離脱。ショウカクも離脱に入ろうとするが、キイの撃ち漏らしたガスが機関部をごっそりと抉り取り爆発。残骸と化した艦首が、彗星の重力に引かれ吸い込まれていく。
残るはキイ1隻のみだ。
「くっ……離脱する」
結局、助かった空母はズイカク1隻のみだ。
予想外の事態とはいえ、こんな状態で山南司令にどう報告すればよいのやら、と己の不甲斐なさを嘆きながら、西村艦長は最後の反撃を命じる。
「コスモスパロー全弾発射! 然る後に反転、緊急ワープ!」
アンドロメダ級と同じ形状の艦橋の後方にある煙突部―――多目的艦対空ミサイルシステムに装填された対空ミサイル『コスモスパロー』が一斉に発射された。
これでガス帯を一気に吹き飛ばし、次のガスが来る前に反転してワープしようという算段だ。
しかし、勝利の女神は最後になってキイに微笑まなかった。
ショックカノンを突破したガスの1つが、よりにもよって発射された直後のコスモスパローを直撃したのだ。
その爆発が後続のミサイルに誘爆し、誘爆が誘爆を呼ぶ形で煙突ミサイルが大破。それだけなら良かったものの、爆発が艦橋の後方から勢いよく押し寄せてきたのだからたまったものではない。被害は第一艦橋の内部にも波及し、爆風が西村艦長を始めとする艦橋要員を呑み込んだ。
ここまでか―――身体中に破片が突き刺さり、顔の右半分を焼け爛れさせながら西村艦長は無念を滲ませる。
だが、これで敵艦隊の一角は刈り取った。作戦は予定通りに進行中なのだ―――ここでキイが斃れたところで、山南司令の作戦計画に狂いはない。
願わくば、再び青い地球をこの目で……。
さらば地球よ―――そっと目を閉じた直後、押し寄せるガスがキイを呑み込んだ。
「そうか……ご苦労だった」
申し訳なさそうな顔をしながら敬礼をするズイカクの艦長に答礼しつつ労う山南司令は、メインパネルからズイカクの艦長の姿が消えるまで何とか立ち続けた。
気を抜けば膝から崩れ落ちてしまいそうだった―――あの西村艦長が死んだなどと、到底受け入れられる事ではない。
「また1人、逝ってしまったか」
静かに艦長席に腰を下ろし、そう言葉を漏らす。
副長にすら聞こえないほど小さな声で、静かに語り掛けた。
「寂しいものだ……なあ、アンドロメダよ……」
内惑星戦争、ガミラス戦役―――数多の戦争を潜り抜けてきたベテランの艦隊司令がまた一人、この世を去った。
あの時、機動艦隊を他の艦隊司令に任せていればこうはならなかったのではあるまいか―――そこまで考えが至り、静かに首を横に振る。
これは戦争だ。代わりに誰かを行かせたところで、いつかは命を落とすものなのだ。そのお鉢が今回は西村艦長に周ってきた……それだけの事なのである。
しっかりしろ山南修、と自分に言い聞かせ、私情を押し殺す。
肩の荷が重いのであれば挫けてしまってもいい―――人間とは脆いものだ。いつまでも気丈に振舞う事など出来やしない。どれだけ心を冷たく凍てつかせたところで、結局のところ人間は機械にはなれないのだから。
しかしそれは、艦長や艦隊司令には絶対に許されない。
心を殺し、常に全軍のために指揮を執り続けなければならない―――背負っている物の重さが違うのだ。
それが艦隊司令の責任である。
「敵艦隊、現在土星沖60万宇宙キロ。戦艦を中心とした打撃艦隊と、超巨大空母を中核とした後衛艦隊の模様です」
「アンドロメダ、メインパネルに最大望遠で投影」
《了解》
アンドロメダのAIが応答するなり、メインパネルにおびただしい数の敵艦隊の姿が映し出される。
思わず息を呑んだ。
1隻でも脅威となるカラクルム級やメダルーサ級が無数に艦列を組み、先頭を進むメダルーサ級(おそらく旗艦だろう)に率いられて堂々と前進してくるのである。それはまるで古き時代、戦士長に率いられた勇猛果敢な戦士たちの行軍を思わせた。
その後方には全長1200m超えの巨体を持つ超巨大空母が1隻、その周囲にも無数のカラクルム級が展開しているのが分かる。おそらくは真っ向からの砲戦を行う打撃艦隊を支援するための艦隊なのだろう。予備戦力の抽出や航空支援といったサポートを行うための編成のように思える。
画面右下でAIが敵艦の総数の計測を開始する―――メダルーサ級37隻、カラクルム級383隻、ラスコー級228隻、ククルカン級536隻。
前衛の打撃艦隊だけでその数なのだ。ほぼ同規模の艦隊を擁する後衛艦隊も含めると、その総数は確実に2000に届くであろう。
圧倒的戦力差に息を呑むが、しかし山南司令が注目したのは艦隊旗艦となるメダルーサ級だ。
装甲表面の汚れや擦り減り具合を見れば数多の戦いを経験してきた歴戦の艦であるという事が分かる。他のメダルーサ級と比較すると艦橋や船体の形状も簡素極まりなく、どことなく丸みを帯びている。初期ロットの艦なのだろうか。
それよりも、目を奪われたのはその船体下部にマウントされている筒状の巨大な物体だ。
船体に搭載しているというよりは、
「新城艦隊と直江艦隊はあれに全滅させられたのか」
副長が言った。
敵には未知の兵器がある―――おそらくは火焔直撃砲の発展型なのだろう。
いずれにせよ、あの打撃艦隊と後衛艦隊を分断しない事には始まらない。
荒れ狂う獣を放つのは、今だ。
「―――”ヒペリオン艦隊”、出撃せよ」
ヤマト2とさらばの土星沖海戦を両方やるという狂気の沙汰(メダルーサもアポカリクス級もいるので)