また、サザエさん時空ばりに生徒会メンバーが固定され続けているわけではない場合、生徒会がどんな感じになっているかなど含めて少々。
ルドルフがシリウスより1つ年上というのは、単純に史実の馬齢を参照した独自設定です。
今回は新たに同期ウマ娘のエピソード紹介などはありません。原作でもやらかしたルドルフの奇行はあります。ご了承ください。
「四角四面な皇帝サマは面白みが無いんだよ。息の抜き方も知らないから、ああして無様に潰れかかるんだ」
ルドルフより1つ年下の幼馴染、シリウスシンボリ。同じ『シンボリ』の一門であり、ルドルフのアメリカ遠征に先立って欧州に旅立っていた彼女は、ルドルフ引退後のこのタイミングでも未だに長期の遠征計画を立てて欧州を歴戦している。
日本ダービーでの勝利含めて、日本での戦績は6戦4勝(2着1回、失格1回)。同期にて皐月賞、菊花賞を取ったミホシンザンとの直接対戦の経験はない。シリウスシンボリが脚部不安で皐月賞を回避し、ミホシンザンが皐月賞後の骨折で日本ダービーを断念しているからだ。
仮にシリウスシンボリが遠征を選ばずに日本でのレースを続けていた場合、同世代のミホシンザンとの勝負がどうなったか。更に言えば、1つ上の世代のシンボリルドルフと勝負する機会が得られていたらどうなったか。この辺りはファンの間でも度々議論になるテーマである。
ミホシンザンはまだしも、そのミホシンザンに完勝している7冠ウマ娘のシンボリルドルフ相手では厳しいという評価が多いが―――それでも、『もしかしたら』と思わされる風格があるのがシリウスシンボリだ。
しかしそのシリウス、長期遠征といっても一度行ったら帰ってこれないというわけではなく、ルドルフがアメリカ遠征で負傷して引退を決意したという報を受け、欧州からの一時帰国中。今は主が不在の生徒会室にふらりと立ち寄ったら遭遇したルドルフの同期3名と雑談中である。
ニシノライデン、スズパレード、スズマッハ。世代上位の実力者3名は皇帝過労事件以前からルドルフに対して物怖じや遠慮が無かった数少ない同世代であり、シリウスシンボリもルドルフのレース情報を追っていればよく名前を目にした相手だ。なんならライデンは朝日チャレンジカップの話をルドルフ当人から聞いているし、スズパレードは生徒会の庶務でもあるので、遠征絡みで面識はあった。
シンボリルドルフに対してこそ対抗心剥き出しの態度を取るシリウスであるが、礼儀知らずというわけではない。むしろシンボリという名族の一員であるシリウスシンボリは必要であれば礼法に基づいた受け答えややり取りが出来るし、そこに居合わせた3名の先輩に対してはルドルフ絡みで感謝はあれど、対抗心や敵愾心がある相手ではない。戦績や実力という意味でも、一定の尊敬ができる相手だ。
故に同期トリオが療養中のルドルフから頼まれていたという書類整理の礼を、幼馴染の代わりに述べたシリウス。突っかかる相手のルドルフが居ない事もあり、相対的におとなしい対応で先輩方との歓談開始。
生徒会が彼女に行っている遠征への支援に対する礼儀として持ってきた欧州土産の菓子を場に出して、なんのことない近況報告やら、共通の友人といえる“皇帝”の話題やらという雑談の流れで出てきたのが先の言葉である。
確かにシリウスは常々からルドルフのことを『面白みがない』と公言していたが―――
「……あんな面白い奴、そうはいねぇですよ? つーかあのレベルに複数人居られたら困ります」
「クリスマスツリーが増殖していたでしょうね」
「……はぁ?」
彼女からすればシンボリルドルフは面白みがないくらいに完璧な相手だ。なんでも出来るからこそ出来ない者の視座が分からず上から目線の庇護思想に偏りがちで、だからこそシリウスシンボリは対抗心と尊敬と反発心を合わせた感情を彼女に対して抱いている。
そんなシリウスからすれば、スズ姉妹のぼやきは何の話をしているのか理解出来ない内容だった。
「僕は入学以前のルドルフを知らないけど。シンボリ本家では腹話術やったり、クリスマスパーティーで地獄を作ったりしないのかな?」
「……それは先輩方が何か罰ゲームでもさせた結果じゃあないのか? あの皇帝サマが腹話術ねぇ……さぞ渋面で下手な一発芸でもしていたんだろうな」
ライデンの疑問に対して喉を鳴らすようにして笑い、揶揄するような口調で言い放つ
それを見ながら、残りの3名は顔を見合わせた。
「……長期遠征に行っているから、オモシロ系の奇行をしている姿を見ることが少ないのかな?」
「それにしたって化けの皮を剥がせば単なるおもしれー奴ですよ? 幼馴染が化けの皮の下を知らんってぇこと、ありえます?」
「……あー、有り得るかもしれません。確かシリウスさん、ルドルフさんより1歳下でしたよね? 社交ダンスとかはルドルフさんが教えてたと、去年のトレセン学園主催のダンスパーティーの準備中に自慢してたのを聞いたことがあります」
納得いかない様子のニシノライデンとスズマッハ、そしてその横で頬に手をやって小首を傾げたスズパレード。一拍遅れてポニーテールが傾いて揺れる。
そのスズパレードの発言を聞いたシリウスは渋面を作って『ハッ』と自嘲げな笑いを浮かべた。
「あいにく、生まれの早い遅いは選べなかったんでな。遺憾ながらその通りだが……あいつまさか、私が格下だとでも吹聴してるんじゃないだろうな?」
「というより、姉な気分なんだと思います。私は
「えっ? パレード
「私の場合はおやつを切り分けたら大きい方をあげたりとか、そういうレベルですけど。逆に姉だから大きい方を貰っていくという人も居ますので、どういう態度が出てくるかは個人差だと思いますけどね」
更に嫌そうに渋面を作るシリウスを横目で見つつ、スズパレードは距離が近いと見えるようになってくる皇帝の奇行を脳内で列挙しながら、それがシリウスに知られていない理由を言葉に纏める。
クラシック級の半ばで海外に遠征を開始したシリウスはここ1年ほどは大半を欧州で過ごしており、肩の力が抜けてからのルドルフとあまり絡んでいないということもあるだろうが、それだけでは不自然なのである。
「ルドルフさん側がどれだけ意識的にやってるかは分かりませんけど……たぶんシリウスさんの前では他のウマ娘の前以上に、立場と責任ある“皇帝”としての振る舞いをしているのでは?」
「……仮にそれが事実だとして、私がそれをどう思うかを考えないのか、あいつは」
「考えてないと思いますよ。ルドルフさんぶっちゃけコミュ障の類ですし」
「えっ」
幼馴染に対するこれまで聞いたことがないような評価を耳にして、シリウスシンボリの耳と尻尾が大きく跳ねた。
今や日本で知らない者は居ないほどの名ウマ娘にして、既に指導者としての風格と視座を持つ才女に対して、出てきた評価は『コミュ障』である。
しかし驚きも束の間。シリウスシンボリの耳が絞られ*1、先程までの友好的な態度と違い、睨め付けるような視線がスズパレードを捉える。
彼女からシンボリルドルフへの反発は、悪意から来るものではない。むしろ彼女こそがシンボリルドルフという幼馴染を最も評価しているからこそ、ルドルフに対して敵意ではない悪意を向けることは、シリウスシンボリにとって最大の地雷だ。
「……先輩がたはルドルフと仲が良いと思っていたんだがな」
「たぶん仲が良いから見たくないものまで見えるんだと思うけどね、僕」
しかし不機嫌を隠そうともせず威嚇めいた笑みを浮かべるシリウスに対して、ニシノライデンは遠い目をしてぼやくのみ。怒りと威嚇に対するものがこの反応とあっては、流石にシリウスも気勢の当て所を失って鼻白む。
ルドルフ不在の場所でのこの評価は陰口の類かと思って威嚇してみれば、返ってきた反応は疲れ切った溜息とぼやきである。しかしルドルフに対する『コミュ障』という評価は、皇帝の幼馴染にして妹分からすれば根も葉もない悪口にしか聞こえない。
困惑する
「ルドルフに対して敵対的だとか勘違いされたままなのも癪だし、あの皇帝様に対する軽い意趣返しとして、シリウスになんか証拠見せていいと思う?」
「アタシは賛成ですよ。クリスマスパーティー前の生徒会会議で議事録代わりに会議風景録画したやつ、ちょうどそのタブレットに入ってやがります」
「じゃあそれで良いか」
耳をクルクルと動かす*2シリウスの前で、彼女からすれば良く分からない以心伝心のやり取りがライデンとマッハの間で交わされる。
ニシノライデンの操作でタブレットに表示されたのは、先の会話どおりに議事録兼ねて録画されていた会議風景。生徒会が主導で開催したクリスマスパーティーのものだ。
そのまま冒頭の映像が少し流れた辺りで、ライデンが困ったように首を傾げた。
「ねえ、マッハ。音量調整どうするんだっけ?」
「ああ、ちょっと貸しやがってください。……しっかし、この映像はシニアの時のだからまだマシなんですけど、クラシック期のルドルフは23日開催の有馬に出るためのトレーニング積みながら25日開催のクリパの準備も主導してたんで、正直あの時期の皇帝様はバカじゃねぇですかね……」*3
「……それについては、否定する要素は無いな」
タブレットをライデンから受け取りつつ、ぶつくさと文句を言うスズマッハ。露骨にルドルフを『バカ』と表現しているが、理由が理由だけにシリウスもこちらには反発しない。なんならシリウスも、その時期のルドルフのハードスケジュールっぷりはバカの所業だったと思っている。
ジャパンカップでカツラギエースによって初の敗北を刻まれ、有馬記念でのリベンジに向けての猛特訓をしながら、この時期はまだルドルフのワンマン体制に近かった生徒会をぶん回していたのだ。むしろ、よく宝塚前後まで不調が表面化しなかったものである。
ルドルフに対する根拠のない(と、シリウスから見える)悪意には露骨に不機嫌になる彼女であるが、理由があっての諫言であれば止めるつもりはない。逆にその内容ならばもっと言ってやってくれというのが、ルドルフの1つ年下の幼馴染からの正直な感想だろう。
「私はその前後で流石に不味いなと思って、選挙が必要なく会長が任命可能な生徒会役員である庶務に立候補したのですが……。ルドルフさんは基本的に他人に頼ろうとしなかったので、仕事を回すということをしなかったんですよね。こっちから聞きに行かなければという」
「……ったく、あいつは本当に……」
現生徒会庶務であるスズパレードによる証言もまた、シリウスから『悪意ある言葉』とは取られなかった。苛立たしげに舌打ちするシリウスも納得するしかない、単なる事実である。
シンボリルドルフという少女は何でもこなせるが、他人に頼ることや部下を育成するという事はドが付く程の下手くそだった。彼女ほどの極端な例は少ないだろうが、高水準な能力と勤勉な性質を持ち合わせた人間・ウマ娘ならば陥りがちな悪癖だ。
こういうタイプは責任・裁量の規模が小さければ非常に上手く物事を回すのだが、それが大きくなると途端に大コケする傾向がある。部下としては有能であるが、自分が上司になった途端に人使いの下手さで破綻する社会人などは、その典型だろう。
スケールが非常に大きく、能力の基準値もまたずば抜けているが、ルドルフもそれと相似・近似する傾向がある人種であった。
「これはシニアの時の映像なので、私は有馬記念に出走していなかった事もあって、クリスマスパーティーは私が取り仕切ってました。ただ、ルドルフさんは有馬もあるのに『何か仕事はないか?』と落ち着かなそうだったので、生徒会役員用の衣装の発注だけ頼んだんですよね」
「いや『仕事はないか』じゃないだろ、有馬に集中しろよ。……で、衣装の発注?」
「生徒会役員があんまりキッチリした服装で、それこそスーツとかドレスとかだと雰囲気が固くなるじゃないですか。教職員やURAが絡まない生徒会主催の気楽なものですから、率先して雰囲気を崩していこうということで。ルドルフさんには労力の必要ない仕事だけ渡して大人しくして貰おうと」
対するスズパレードは病弱ということもあり、他人を頼るのが割と上手い。生徒会庶務としてクリスマスパーティーの準備を任された彼女がまず行ったのは、生徒達に向けての協力者募集であった。
その上で必要な人員を選抜し、必要な仕事を振り分けて、『何か仕事がないか? 困っているだろう? 大変だろう? さぁ手伝おう!』という感じでウロチョロしていたルナちゃんに必要労力が少ないお手伝いをお願いして、そのトレーナーに『レースに集中する約束だったのにバカが仕事探しに来た』と通報して―――。
経費や経過の報告書を確認した後になって、ルドルフがパレードに対して教えを請う程度には、効率的に人を使って準備したクリスマスパーティーだった。
「ルドルフが手間をかけたが……パレード先輩、上手くやったな」
「いえ、最悪の失敗でした。動画を見れば分かるかと」
「あ、会話が一段落するまで待ってましたけど、もう動画再生して良いんですかね。ンじゃ、やりますよー」
しかしスズパレード自身が言っているように、失敗が皆無だったというわけではない。その最たるものがシンボリルドルフに頼んだ仕事である。
その結果がまさに、タブレット上で動画として再生されていた。
『色々と候補はあったが、親しみやすさを重視してこれにした。どうだ?』
「え……? る、ルドルフ……?」
『色合いからしても私の勝負服に近いものがある。そしてサンタのような定番衣装は主役、つまりパーティーを楽しむ他のウマ娘たちのもの。私は脇役の衣装を希望していたが、まさかこれほどのものが見つかるとは思わなかったよ』
再生された動画の中で、シンボリルドルフは誇らしげにその衣装を身に纏っていた。その姿を見たシリウスの口から、狼狽した声が漏れる。
―――まるで皇帝の勝負服のような、緑を主体としつつ赤をワンポイントに入れた色合い。
―――まるで勝負服につけられた勲章のように、随所に散りばめられた色鮮やかな飾り。
動画の中で人生語るツラでシンボリルドルフが身に纏っているそれは―――クリスマスツリー型のキグルミだった。*4真ん中あたりで顔だけ出ているが、もはやルドルフの原型が顔しか無い。*5
「僕はあの形態をシンボリクリスマスと名付けた」
「何故私はルドルフさんのセンスに任せて、何も監査せずに選ばせてしまったのでしょうか……」
「生徒会最大のピンチでしたね。原因、会長やってるルドルフですけど」
絶対皇帝。ウマ娘のあるべき規範。日本ウマ娘史にその名を刻む、7冠ウマ娘。
シリウスシンボリの1つ年上の幼馴染が、ウッキウキかつ自信満々という様子を隠そうともせず、動画の中で胸を―――いや、幹を張っていたのだった。
徐々にお気に入り数や評価数、感想数が上がるとやっぱりテンション上がりますね。
励みになっています。ありがとうございます。