ウイニングポスト10は久々にコーエー仕事したって感じの素晴らしい出来栄えだと思います。競走馬の能力エディットが無くなったのだけが残念。
クリスマスの話から続いて、シリウス関係です。彼女についても色々描きたかったので、ルドルフの同期の話ではないですが結構尺を取っちゃってます。
しかし割りとポエミーな言い回しをする子なので、再現性が難しいですね。シリウスっぽくなってなかったらごめんなさい。
彼女の立ち位置、史実での業績その他諸々に対する独自解釈が入っています。ご了承ください。
クリスマスからおよそ半年後の生徒会室にて、動画が停止したタブレットを眺めている4人のウマ娘の間に流れているのは沈黙だ。ただし、各々の表情や態度は一律ではない。
動画の最終フレームにて静止した画面が映しているのは、『これがアタシだ』と言わんばかりの堂々たる様子で仁王立ちするスズマッハ。ただし、スポーツブラとスパッツというあられもない姿である。
ライデンは彼女のほうが恥ずかしい様子で、朱が差した顔を片手で覆うようにしながら天を仰いでいる。スズマッハは何度も首を傾げているが、このとき彼女が考えているのは『そういやこの下着どこ行ったっけ』である。
その横でスズパレードとシリウスシンボリが、どちらともなく居住まいを正して、互いに深々と頭を下げた。
「
「いえ、
身内の恥によるクロスカウンターに対して、双方のガチ謝罪である。
オラオラ系王子様タイプなどと一部ウマ娘からは呼ばれている一方で、意外と気遣い上手で細やかな部分や世話好きな部分もあるのがシリウスシンボリだ*1。枠組みや型に嵌められる事を嫌っているアウトロー気質であるが、それは礼節の無い無法者というわけではなく、必要な時にすら頭を下げることが出来ないような人種ではない。こういう時に下げる頭は持っている。
とはいえボス気質のシリウスにとって、こういう態度は本来であれば自身を慕ってくれる後輩などの為に出てくるものである。好意と反発が複雑に入り混じった対象であるルドルフ絡みで出すことは稀有というか、シリウスにとって人生初だった。
互いにほぼ同時に頭を上げてから、頭の代わりに肩を落としたシリウスが深々とため息を吐く。それを見る対面のスズパレードの目は生暖かい。
「アイツ、ああいう行動を取ることがあったんだな……」
「本人なりに『お堅い皇帝』という自分の人物像に思うところがあるようで、親しみやすくなるために無駄な努力を重ねています」
「……無駄っていうのは酷くないか?」
「シニア1年目以降、肩の力を抜くことを覚えてからは先程のようなイベントが隔月くらいのペースで起きます。新入生の子に話しかける際に怖がられないように、人形使ったやたら完璧な腹話術を披露したり」*2
「ああ、うん。無駄だな。正確に言えば、努力の方向を間違ってるな」
再度
ルドルフの幼馴染にして同族でもあり、日本ウマ娘の海外挑戦という大目標についてはルドルフの引退まで共有・共闘してすらいたシリウスシンボリ。ルドルフの同期として彼女に挑み、三冠を阻むライバルにこそなれなかったが、だからこそ彼女を自分たちの総大将として認めており、その歩みの一助になりたいスズパレード。
両者ともに『立場や視座は違えども皇帝と共に歩む同志である』という相互理解が成立したが故に、互いに先程よりも肩の力が抜けた雰囲気である。とはいえその切っ掛けがシンボリクリスマスと色気皆無の生着替えとなれば、肩の力どころか全身の力が抜けるような脱力感もあるのだが。
「ルドルフさんはこういうお茶目な部分も最近割と、というかやたらと、もう要らないってくらいに見せるようにもなってきましたって話です。別に私もライデンさんもマッハちゃんも、ルドルフさんを嫌っているとか悪意があるわけじゃないんですよ。誤解させたなら申し訳なかったですけど」
「いや、これは誤解した私が悪かった。パレード先輩、ライデン先輩、すまなかったな」
「良いよ良いよ。僕らてっきり、シリウスもルドルフのこういう面を知っているとばかり思って言っちゃってたからね。そういう意味ではこっちも悪かったし」
「そう言って貰えると助かる。今後もあの皇帝サマが奇行に走ろうものなら、上手く止めてやってくれ。苦労をかけるがな」
シリウスがライデンの方にも向き直り、頭を下げる。しかしライデンは苦笑しながら軽く手を振って言葉を返し、シリウスの方も受け容れて顔を上げた。
三人娘がルドルフに対して陰口を叩いていたという誤解はこれにて解消され、シリウスと彼女たちの間には逆にある種の連帯感のようなものが芽生えて話は終わり―――
「え、アタシに対しては何かねぇんですかシリウス? へーい、こっちに視線をカムヒアー?」
「マッハちゃん、何か謝ってもらえる立場だと思ってるんですか? 頭が高いですよ」
「あの時の議事録にこんな光景混ざってるの忘れてた僕らも悪かったけど、主犯というか戦犯は君だよね」
「堂々と脱ぎ散らかして仁王立ちしている光景を見せられると、マッハ先輩に対してだけは頭を下げるのが癪だな……」
「頭下げたくねぇなら、良いモン見たって事で礼を言ってくれやがっても良いですよ。ヘイカモン」
「どこから来るんだよ、その図太さは。もう少し恥じらいを持てよ。というか、良いからタブレットのその画面を消せ。私たちはいつまでアンタの下着姿を見てなきゃいけないんだ」
―――終わりにならなかった。
ルドルフとは別方向でのやらかしを動画内で見せていたスズ妹が後輩に対して要らん要求をし、
そのタブレットを受け取ったスズマッハは自身の下着姿をまじまじと見て、首を傾げて小さく呟いた。
「パレード
「尻尾穴の周りが裂けたので、捨てていいかって聞いたじゃないですか。そしたら頷いてましたよ、マッハちゃん」
「あー、言われてみればそうだったような気も。いやー、疑問が1つ解けてスッキリです」
「こっちはガッカリだよ」
ライデンからジト目を向けられたスズマッハが軽く肩を竦め、タブレットの電源を切って所定の場所に戻しに行く。
ある意味ではルドルフの理想と言えるかもしれないが、近所の公園で小学生のポケモン大会に飛び入り参加してボロ負けして捨て台詞を吐いて去っていく系の親しみやすさは、皇帝が求めている理想像とはやっぱり何か致命的な部分が違うかもしれない。
なお、小学生のちびっこレース大会に飛び入り参加して、大勝ちしてボロ泣きして喜ぶ系のウマ娘は最近アメリカで発見・保護された。
「……しかし親しみやすさ、ねぇ。まさかあの皇帝サマが、そういう部分を気にしていたとはな」
「あら? シリウスさんが常々指摘していた事じゃないですか。そういうの、ルドルフさんは意外と真面目に捉えてますよ」
「……それは悪かったな」
パレードの言葉に対し、シリウスが少々バツが悪そうに目をそらしながら言葉を返す。
実際にシンボリルドルフの『親しみやすくなりたい』という願望と志向は、本人が持つ意外と人恋しい気質由来のものが半分、幼馴染であるシリウスから言われた事を真正直に受け止めすぎていること由来のものが半分というところだろう。
それを察したシリウス側としては、あまり強く反発できない話題であった。その話題を振ったのがシリウスの方だったので、墓穴を掘ったともいえるだろう。
それもあってか、シリウスは別の話題を探すことにする。あまり他人に場の主導権を取られているというのが好きではない気質なのだ。そういう点は、仕切りたがりのシンボリルドルフとも共通点があるかもしれない。*3
とはいえ都合よく繋がる話題はすぐには浮かばず。数秒ほど考えて浮かんだのは、最近ルドルフの後を追いかけ回している子ウマ娘のことであった。
「皇帝サマ本人は親しみにくいと悩んでるようだが、最近変なガキがルドルフの追っかけをやっているらしいな? 珍しい絡まれ方でルドルフ本人は嬉しいらしいが、カイチョーカイチョーってうるさい奴。『ファンの子と撮った動画』とか自慢げに送ってきてたぞ」
「「「………」」」
「おい、今度はなんだ。その顔を見合わせての沈黙は。何かあるのか、また変なネタが」
未だトレセン学園に入学するような年齢ではないヤンチャな子ウマ娘―――トウカイテイオーの話をルドルフから聞いたことを思い出し、揶揄混じりに口に出すシリウスシンボリ。
しかしそれに対する先輩3人の反応は、『えっ、それ触れるの?』と言わんばかりの表情で三者三様で顔を見合わせている。否、見合わせているというよりは、説明を押し付けあっているというべきか。先程のシンボリクリスマス事件もあったので、シリウス側も露骨に警戒を態度に出す。
尻尾でべしべしと叩き合いながら『お前が話せ』という無言の圧を互いにかけ合っていた3人であるが、程なくして諦めたようにライデンが口を開く。
「……トウカイテイオーちゃんね。レース見てルドルフのファンになったって子で、そのうちトレセン学園に入学するんだーって。社会科見学で来た時も、叔母を放置してずっとルドルフにひっついてたんだよ」
「トウカイ……って、あの旧家か。全くそれっぽく見えないが、本家だとしたらとんでもない
ウマ娘の中には名門・名家といえる存在が幾つかある。
国内路線を重視して天皇賞制覇を大目標として掲げるメジロと、ルドルフやシリウスがそうであるように国外進出路線を重視するシンボリなどが代表例だろう。それら2つは真逆の方針から特徴的で分かりやすい2大名門だ。双方ともに日本最大手の一角でもある。
これらの名門は血族の繋がりである場合もあるし、志向や目標が同じウマ娘同士が集まったものである場合もある。逆によく見る名前だから名門一族なのかと思ったら、たまたま多くのウマ娘が同じような名前なだけの無関係者ですという場合もある。最後の例はヒトでいうところの鈴木さんや佐藤さんのようなものだろう。
ややこしいものとしては、名門の家名と同じ単語がたまたま名前に入っているウマ娘というパターンもある。そして稀にそういうウマ娘がトゥインクルシリーズで活躍したりすると、名前が似ているだけで無関係の名門本家にお祝いが届くという珍事も実際にあったらしい。*4*5
ヒト息子でいうならトヨタさんという人が何かすごい事を成し遂げたお祝いが、『トヨタさんだからここの人だろ』と無関係の自動車メーカー本社宛に送られたような感覚であろうか。花とかお菓子とかの生モノであれば凄く扱いに困るやつだろう。後の笠松の怪物のような輩であれば、菓子類ならば食ってから困る可能性も高い。
そして『トウカイ』という家名は、メジロやシンボリほどではないが結構な名門である。なんなら『血筋の由緒正しさ』という評価軸で見れば、その2つより上に位置する家だ。旧家―――つまり1750年の官位定条々が制定された当時に存続していた公家のどれかから直系で繋がっている家柄なのだ。*6*7
「だが、名門だからって社会見学に家族同伴は特別扱いしすぎだな。なんなんだ、叔母同伴って。しかもルドルフにべったりで放置された叔母が可哀想じゃないか?」
「特別扱いじゃないんだよね。テイオーちゃんのお母さんとその妹がかなり歳が離れてるから、叔母とテイオーちゃんのほうが歳が近いやつで……叔母、トレセン学園の在学生だから居たってだけの話だし」
「それはそれで結局姪っ子に見てもらえない叔母が可哀想だろ。……ん? トウカイ……在学生……先輩方のその反応だと、その叔母とやらと知り合いか」
シリウスシンボリが何かに思い至ったように呟きながら口元に手をやり、考えを纏め始める。トウカイの名を持つウマ娘は多いが、レースにおいてはメジロやシンボリほどにはGⅠを勝つウマ娘を輩出できていない家だ。*8
しかし最近、それこそルドルフと同世代でGⅠを勝ったトウカイのウマ娘が居たはずである。オークスを勝った樫の女王。長い黒鹿毛をたなびかせ、和服ベースの勝負服に身を包んだ大和撫子。その名は―――
「―――トウカイローマン。……まさかトウカイテイオーって子ウマ娘、トウカイローマンの姪か? 先輩方の世代での、樫の女王の」
「そうですよ。テイオー絡むとローマンが面倒くさい事になりやがるんですよねぇ……」
「『テイオーちゃんは私と同じティアラ路線を走るのぉぉぉ!! テイオーちゃんを
「皇帝サマ相手にそんなこと言うやつ居るか? 大袈裟に言っているだろ」
「いえ、結構似てますよ。ライデンさんのそのモノマネ」
「嘘だろ……」
テイオーが絡まなければ凛とした淑女なのだが、長く艶やかな黒髪を緩く纏めた綺麗系の美女が駄々っ子のようにジタジタしている光景は、中々見れるものではないし別に見たいものでもない。
―――旧家令嬢、トウカイローマン。
後の顕彰ウマ娘であるトウカイテイオーの叔母であり、ルドルフ世代におけるオークスウマ娘であり―――ちょうどこの日、トレセン学園に不在であるルドルフと共に、ある仕事をするためにローカル開催のレース場を訪れているウマ娘の名前であった。
トウカイローマンについての話はしていますが、どうも次回くらいまでシリウス主体の話です。
余談ですが、ウイニングポストにおいてはこの小説登場メンバーの中だと、スズマッハが吐くほどキツイです。
▼オマケですらない、ハマってるゲームの話
見なくても何の問題も発生しない、ウイニングポスト10における登場ウマ娘の能力設定とそれに対する雑感。
・シンボリルドルフ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=295913&uid=31321
・マリキータ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=295914&uid=31321