“皇帝”と愉快な同期たち   作:カミカゼバロン

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 最終章に向けた本題―――に入る前に一旦区切って投稿。大変遅くなりましたが、話はあんまり進んでいません。

 史実とデビュー年度を同期させる場合、ルドルフの引退(シニア2年目)が起きたこの時期は、メジロラモーヌが猛威を振るっている時期です。
 そんな感じでデビュー年度を史実に合わせた結果、関係性の変化があります。ご了承ください。

 他にはマックイーンの兄であるメジロデュレンが菊花賞を取るなど、この世代は実はメジロ黄金世代(マックイーン、ライアン、パーマー)に匹敵するくらいにメジロ豊作世代だったりします。

 ラモーヌさんはイベントやサポカで受けた印象であり、独自の解釈である可能性がかなりあります。
 現状、受けている印象からは「修験僧ばりのレース求道者思考」+「言葉選びや立ち振舞が意味深」というアンバランスさがある感じを受けており、そういう風に書いております。


トウカイローマン 1

 札幌市の市街地に細長い公園―――大通公園において、戦いは三つ巴の様相を呈していた。

 

 地面に叩き落されたじゃがバターを狙い、数羽のカラスが大柄な身体を活かして他の勢力を威嚇する。しかしそれに3倍する数のハトが集まりだしてきて、カラスの警戒を抜けてじゃがバターの破片を啄もうと、数の暴力で介入を試みる。

 

「あなた達、それ私の……あぁああぁ、食べ歩きからしか接種できない栄養素があるというのに、まだ一口も食べてないのだわ! 農家の人に申し訳が立たないのだわ!」

 

 最後の勢力であるトウカイローマンは、なんとかその争いに介入しようとしたところで残り2勢力から翼をバサバサする威嚇を受け、『ぴっ!?』と悲鳴をあげて耳と尾を逆立てながら、ルドルフのところまで逃げ帰ってきた。三つ巴終了である。

 

 その脱落した第三勢力(トウカイローマン)であるが、腰まで伸びた艶やかな黒鹿毛は、姪であるトウカイテイオーとは似ていない。あちらは母譲りの鹿毛であり、色合いとしては茶色系だ。

 ローマンの髪は黒に近い色合いだけに『和風』という雰囲気を醸し出しており、先端近くでリボンで結ったストレートヘア。白いブラウス、デニムのロングスカートという出で立ちは、黙っていれば旧家の御令嬢の休日姿だろう。

 なお、現在の彼女は黙っていないので残念なウマ娘でしかない。立てば芍薬座れば牡丹、口を開けば残念美人である。公的な場での言動を取り繕う能力だけは高いのは、トウカイ家の教育の成果なのだろうか。

 

「ルドルフ、皇帝の力を見せてやるのだわ!!」

「……どうしろと?」

「こちらは平均4冠のウマ娘なのだわ。あいつら私達の凄さが分かってないから、あんな狼藉をしてくるのだわ!」

「その平均の取り方は、私が随分と不利じゃないか? ゴリッと減ったな私の冠。三冠がまるごと消えたのだけど」

 

 ジト目で歯に衣着せぬ辛辣な言葉を吐くシンボリルドルフ。珍しい光景である。

 マルゼンスキーやミスターシービーなどの自身と対等に近いと認める一部の相手以外に対しては、『守護らねば』といわんばかりに庇護欲丸出しとなるのが彼女の対ウマ娘における基本スタンスだ。

 何かしらの重い話や真面目な話、或いはレース絡みの話であれば厳しい意見を言うこともあるが、日常のやり取りでこの手の辛辣な物言いを他のウマ娘に向けるルドルフは中々見られない。なんならシービーやマルゼンといった、ルドルフ自身が対等に近いと認めた相手に対しても見せない対応だ。

 

 この辺りはやはり、力量云々以前に同期ならではの連帯感や距離感の近さがあるのだろう。クラシック三冠路線を走ったスズ姉妹やライデン相手にも、時々似たような対応が出る。

 パレードはあまりこの手の対応を受けるような分かりやすい悪癖は無いのだが、ファン感謝祭の模擬レースでパレードとのマッチレース状態になり外ラチぎりぎりまで吹っ飛んでいった斜行女王(ニシノライデン)や、同じく感謝祭の借り物レースにて『おじさん』というお題でルドルフのトレーナーを拉致したマッハなどが似たような辛辣な対応を受けている。後者はルドルフのトレーナー(20代半ば)がガチで凹んだ。

 逆にルドルフ側もダジャレやらシンボリクリスマスやらの奇行で同じような辛辣な態度を向けられているため、彼女たちの関係性は一方通行ではなく、互いに容赦がないトムとジェリーめいた間柄といえる。

 

 ローマンの場合はクラシック三冠路線のウマ娘と違い、ルドルフとのレース上の接点は少ない。しかしトウカイテイオーという子ウマ娘からの憧憬の視線を巡り、この両者はある種のライバル関係にあるといえた。

 正確に言えばライバルと定義するには少々一方的にルドルフが勝っているのだが、ローマンが対抗心を見せてくるとついつい釣られて対抗してしまうルドルフである。勝負になる相手が少ないから表面化し辛いだけで、実は結構な負けず嫌いだ。

 そうしてトウカイテイオーの憧憬を巡ってのやり取り・勝負を幾度もやりあった結果(ルドルフ圧勝)、トウカイローマンとシンボリルドルフという両者は走る路線が違う割には距離感が近いやり取りをする間柄となっている。

 

「それに、もし彼らが私達のことを知っていても、今のこの姿では分からないだろう。変装しているのに偉ぶるようでは、『へん(・・)っ! そう(・・)かよ!』などと呆れ返られるだろうさ」

「………」

「変装しているのに偉ぶるようでは、『へん(・・)っ! そう(・・)かよ!』などと―――」

「リピートしなくてもいいのだわ! しかもやたら自信たっぷりのドヤ顔で!!」

 

 七冠ウマ娘(シンボリルドルフ)が『この素晴らしいジョークを聞き逃しては可哀想だ』と心底からの善意でリピートした言葉のように、平均4冠ウマ娘の2名は多少の変装をした上で散策している。

 ローマンがそうであるように、ルドルフの方も制服姿ではなく私服姿。勝負服と色合いが近い緑の五分袖トップスに、クリーム色のスラックス。私服のときにはブルーライトカット・UVカットの伊達眼鏡をかけることが多いルドルフであるが、今つけているのはサングラスだ。

 更にいつもは縛ることがない髪を首後ろで纏めてしまえば、案外と印象は変わるようで。人の多い観光地でありながら、今のところ彼女をシンボリルドルフだと認識して写真やサインなどを求めてくるようなファンからの接触はない。

 

 一方でローマンの方に視線を向ける人々は多いのだが、これは彼女がオークスウマ娘であるトウカイローマンだと周囲の人が気付いたわけではなく、カラスに襲撃されて食料を強奪された被害者に向ける好奇と同情の視線が大半である。

 スマホで写真か動画を撮っている様子の人も居るが、被写体はローマンやルドルフではなく、じゃがバターを巡って争っているハトとカラスだ。動物の写真・動画はいつの時代も人気である。

 

「おや、聞き逃したら勿体ないと思ったのだが。フッ、しかしトゥインクルシリーズを引退してからは、ジョークの研究が進んでね。トウカイテイオーにも披露したら、彼女は今よりもっと私に憧れてくれるんじゃないかな」

「……そのー……やってくれた方が私の有利にはなると思うのだけれども、テイオーちゃんの夢を雑に破壊するのは止めて欲しいのだわ……」

「いや、しかし」

「ほ、ほら。走る方のルドルフに憧れて無敗の三冠ウマ娘を目指すって気炎を上げているのに、ジョークの方に憧れて噺家とか目指されても困るのだわ!!」

「……なるほど、一理ある。披露するのは彼女が明確にレースの道を志し、トレセン学園に入学した後からでも遅くはないか」

 

 皇帝ジョークはテイオー本人ではなく、後にテイオーの同期となるウマ娘に大好評となる。それもまた、大分先の話なのだが。*1

 ともあれ『テイオーちゃんの夢を壊すわけには』と何故かローマンが必死になって捻り出した詭弁に誤魔化されたルドルフが納得し、いずれ披露する時を心待ちにしながらも当面はテイオーの前での皇帝ジョークを引っ込める事を決めた。後回しになっただけともいう。

 

「……トウカイテイオーが入学か。2,3年後かな?」

「再来年なのだわ。そしてデビューして、私の後を継いでティアラ路線を走ってくれるのは早くて4,5年後というところかしら」

「いやいや、彼女は私に憧れてクラシック三冠路線をだな」

「今に見てなさい、きっとテイオーちゃんはティアラ路線の美しさに気付くのだわ!」

「ふふふ、どうかな? ―――だが、そうか。早くて4,5年後。その頃には勢力図はどうなっているかな」

「勢力図っていうと……」

「テイオーの前にどんなウマ娘が立ち塞がるか。早くて4,5年後となれば、今走っているウマ娘はほぼ引退しているだろう」

 

 言いながらルドルフは周囲を見回し、空いているベンチを手で示す。座らないかという意思表示に対し、ローマンはもはやすっかりハトとカラスの胃に消えたじゃがバターの容器を名残惜しげに見てから溜息を吐く。

 

「少し待つのだわ」

 

 もはや鳥類の興味を引く要素を失った紙容器に歩み寄ったローマンは、ひょいと摘むようにして容器を持ち上げた。そのまま手近なゴミ箱に歩いていき、ゴミはゴミ箱への標語を有言実行してから、ハンカチで手を拭きつつルドルフの元へと戻ってくる。

 

「お待たせ」

「構わないよ。むしろ私が不見識だったな。叩き落された容器のことは頭から抜けていた」

「自分で出したゴミは、ちゃんとゴミ箱へ。当然のマナーなのだわ。当然の事は当然にやらないと」

 

 一口も食べていなかったじゃがバターを想って小さく溜息を吐くローマンであるが、ルドルフの感心は本物だ。小さな行動や所作から、育ちの良さと本人の気質の美点が自然と出てくるのがトウカイローマンというウマ娘である。

 騒がしく残念な部分もあるのだが、彼女を目標としていたトウカイテイオーは見る目があるなと皇帝は内心で頷いた。その見る目がある子ウマ娘が今は自分に憧れてくれているので、尚更ルドルフの機嫌は良い。

 

「それで、勢力図って話だけど……。今年のメジロ家は凄いのだわ。ラモーヌは貴方も知っているでしょう?」

「彼女を知らないトレセン学園関係者は居ないだろうね」

「そうじゃなくて、貴方……雑誌の取材に呼び出されてなかった?」

「私に対しても態度を変えず、電話1本で呼び出してくる相手は彼女くらいだよ」

「あれは色々と無頓着なだけだと思うのだわ。世が世なら修験僧の系統よ」

 

 そしてベンチに移動し腰掛けた両者の話題に上がったのは、この時期には既に桜花賞、オークスを制してティアラ2冠を獲っているメジロラモーヌ。*2

 大人びた雰囲気のメジロの女傑は、妖艶とした雰囲気と泰然とした振る舞い・言い回しから性質を誤解されがちだが、言っていることとやっていることを要素分解していくと、レースに関する事しか言っていない事が多い。どこぞの最速の機能美ばりの先頭民族のような風情すらある。

 

 ルドルフが電話一本で呼び出されたという案件もその系統である。雑誌の特集で多種多様なジュエリーと共にラモーヌの写真を撮ってそれを表紙に飾ろうとしていた時の事だ。*3

 唐突にルドルフを呼び出して、両者による模擬レースを撮るように言い出したのは完全なるラモーヌのアドリブ、もしくは独断である。それを可能とするだけの行動力と、それが許されるだけの実績、そして威厳ともいうべき空気を持っているのが彼女なのだが―――

 

「ルドルフが呼び出された案件は私も聞いたのだけれど……。本人の話を聞くに、なんかアレ……取材をもっと良くしようと善意で本人なりに考えた結果っていうか……」

「ラモーヌから聞いたのか?」

「私はオークスウマ娘。ティアラ路線においてはダービーウマ娘に相当する立場なのだわ。同じティアラ路線という事で、直接的にラモーヌの先輩。一緒の取材とか受ける事もあるから接点も多いし、会えばそれなりに話すのだわ」

 

 後輩であるメジロの女傑を思い出しながら、トウカイローマンは言葉を選ぶ。

 女帝というより修験僧。泰然というより天然。妖艶というより浮世離れ。それが彼女から見たメジロラモーヌというウマ娘の印象だ。そしてそれは世間一般から見たラモーヌの印象とはかなり違うが、自身の考えがそう外れたものではないとローマンは確信している。

 

「彼女は取材陣に言っていたのだわ。『必要なジュエリーは蹄鉄と競争相手。あとはターフがあればこの通り』。そしてその発言は大きく取り上げられた」

「ああ。事実、彼女の走りは周囲を魅了するに足るものだった。勿論、当時の彼女はまだジュニア級で、私はシニア1年目の絶好調期。順当にレースそのものは制させて貰ったけどね」*4

「はいはい、貴方も大概に負けず嫌いなのだわ。……で、底を見せない妖艶な女傑の言葉として取り上げられてるけど。アレね、当人に聞いたらほんとに言葉のままだったのだわ」

「言葉のまま……?」

「ラモーヌのイメージに合うようなお高いジュエリー持ってきて、それを警備する警備員やらも付けて、物々しい取材だったのを見て思う所があったらしいのだけれども」

 

 ローマン、頭痛をこらえるようにこめかみを揉み解しながら語って曰く、

 

「『あんな大仰な事をしないで、ターフでいい感じの競争相手と走ってる私を撮れば良いのでは?』と考えて、実行した。以上」

「……は?」

「だから本当に『必要なのは宝石ではなく蹄鉄と競争相手で、ターフで走った方が良い絵が撮れる』と考えて、それをそのまま口に出しただけなの。あの子、言葉選びや言い回し含めて浮世離れしてるのよ……」

 

 がっくり肩を落としたローマンの言葉に対し、ルドルフが見せた反応は焦りだった。

 

「そんな……ッ! じゃあ、どういうことなんだ!?」

 

 ローマンの肩を掴まんばかりの勢いのルドルフに目を白黒させるローマンであるが、ルドルフは必死である。

 ただしその必死さの根源・理由といった部分は、同期クラシック路線の三人娘が聞いたら頭を抱えるか腹を抱えて笑うか、あるいはいっそ聞かなかった事にする系統のものだ。

 

「電話一本で呼び出されて、さぞラモーヌは私のことを親しみやすい先輩だと考えてくれていると思ったのに! 競争相手になる相手なら、誰でも良かった感じの奴か!? ……い、いや。そこで数ある候補の中から私を呼び出してくれたのだから、これは親しい先輩認定……?」

「貴方……後輩から親しみを持たれたいという思いを拗らせて、変なことになりつつあるのだわ……」

 

 怒るでもなく、心底からの哀れみを込めた視線を皇帝に向ける樫の女王(ローマン)である。更にいうなれば、姪は憧れる相手を誤っていないかどうか心配になるやつだ。

 

「そもそも別に後輩に拘らなければ、同期で気兼ねなく話してくれる相手は去年辺りから増えたでしょ。私もそうだし、ライデン、パレード、マッハとかもそうなのだわ。いえ、その3人は元からかしら」

「それは確かに嬉しいことだ。だが、私は出来ればより多くのウマ娘から気軽に声を掛けられるような親しみやすい生徒会長でありたい」

「だからといって後輩に電話で呼び出されて喜ぶのはどうかと思うのだわ……。『私を電話一本で呼び出すのはラモーヌくらい』って語る時、心底嬉しそうだったし……」

「私をパンツ一丁で呼び出してくるのはマッハくらいなのだけど、あれは嬉しくないからなぁ……」

「とりあえず全部聞いてからツッコミ入れるけど、それどういう用件でどういうシチュエーションなの?」

「パレードが脚部不安で入院していた時に、溜めに溜めた洗濯物を纏めてランドリーに叩き込んだら外に着ていくものが無くなって、英語の提出課題を代わりに持っていって欲しいと言われたよ」

 

 どうせ碌なイベントではあるまいと、同期きっての雑なウマ娘と皇帝のやりとりを予想したローマンの想定通り。

 割りと碌でもない―――ただし意外なくらいに普通の学生らしいといえば学生らしいイベントを思い出し、困ったような苦笑を浮かべるシンボリルドルフだった。

*1
公式でナイスネイチャは数少ない皇帝ジョークの肯定者。皇帝の、肯定者。

*2
史実におけるルドルフの引退年に、ラモーヌは牝馬三冠を獲得している。つまりこの時期、三冠目はまだ。

*3
ラモーヌサポカイベント。

*4
アプリ時空ではなく史実に合わせたデビュー年度差だとこうなるの図。




 ちなみに史実においてはメジロラモーヌ、トウカイローマン双方ともにルドルフとの間に産駒が居ます。スイープとキタサン、セイウンスカイとニシノフラワーのような史実夫婦な関係ですね。

 それと、総合評価がぼちぼち1000に届きます。1つの区切りというか目標でありましたが、皆様のおかげです。ありがとうございます。
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